アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス
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久しぶりの投稿。月末は忙しくパソコンを開く暇もありませんでした。

小説を書くのはやっぱりパソコンが一番楽ですねぇ。


休憩

眼下で我の〈神器《熾焔弓》〉を見て号泣する青年。それは胸を締め付けられるような光景ではあったが、それと同時に深く安堵もできていた。

 

〈整合騎士〉には過去など存在せず、〈人界〉を守護することだけを責務としてきた我にとって、彼ほど哀しみを抱いてくれる人物とは、相見えることなどなかった。

 

自分を責める様子は、背を丸めて鳴き声を押し殺している幼子にも見える。実際の年齢とは違う想像に我ながら苦笑を漏らすしかなかった。

 

泣くな若人よ。我が本当の意味で天に召されようとしている今この時に、そうやって涙を流し嗚咽を漏らすほど思いを抱いてくれているということを、知れただけで十分である。

 

〈整合騎士〉の中で騎士長閣下を除き、親密な関係を取ることなどなかった我にとって、お前はかけがえのないものだった。

 

剣の腕は文句なしで〈神聖術〉は残念ではあるが、まったく教え甲斐のある後輩騎士であった。そして我が子のように愛おしくもあった。

 

我に子供がいたのであればお前のような人間に育っていてほしいものだ。といっても我の召喚時期を考えると我より先に召されているか。

 

名を残せていなくとも、誰かのために何か1つできていたのであればしかりはせん。

 

『あなた』

 

ふむ、どうやら本格的な迎えが来たようだ。これで永遠の別れとはなるが、お前は忘れることはしないだろう。血の繋がりがなくとも「父」と呼んでくれたのだからな。

 

ではそろそろ行くとしよう。これは少しばかりの選別だ。《熾焔弓》はなくなりはせぬが、次の所有者である者が現れるまで預けておくことにしよう。願わくばお前とアリスの子供に持たせて欲しいものだ。

 

『あなた』

 

ああ、今行くよ。別れの言葉にしては長すぎたかもしれぬ。だがお前なら文句を言わずに受け止めてくれるだろう。この世界をそして民を頼んだぞカイト(・・・)

 

夢に見ていた我を揺する細い腕と、優しい声音の持ち主にようやく会うことができる。長い長い時を待たせてしまった。

 

きっと怒られるんだろうな。

 

あの日のように。

 

初めて2人で街を歩こうと誘った頃のように。

 

『ただいまアイリ』

『お帰りなさい貴方いえ、デュソルバート』

 

この瞬間を以て〈整合騎士〉デュソルバート・シンセシス・セブンとかつての妻であるアイリは、〈アンダーワールド〉から完全に消滅した。

 

 

 

 

 

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「こ、これがアリスが作ったものだとぉ!」

 

目の前に置かれた色とりどりのパイやらケーキを見てキリトが思わず叫んだ。

 

「驚きすぎだよキリト」

「しかしなぁ、ここまで手が込んでいると勿体ないと思ってしまうんだが」

「じゃあキリトの分も僕がもらうからね」

「それは駄目だぞ!」

 

字面を見るだけでも幼いと思うが、その光景を眼にすれば年相応という言葉からかけ離れた様子であるのを理解してもらえるだろう。

 

「じゃあいっただきまぁす!」

「〈アヴィ・アドミナ〉唱えないと」

「俺たちは反逆者だぜ?そんなの唱える必要はないのさ。ガブッと、うんまぁ!何だこれは!何だこれはぁ!」

「気持ちはわからなくはないよ。じゃあ僕も…」

「ユージオ?」

 

口に入れてから動かなくなり涙を流し始めたユージオを心配したのだろうか。

 

心配そうに(・・・・・)覗き込むアリスを視界に入れて、ユージオはかぶりを振った。

 

「ご、ごめん。懐かしくて堪えきれなかったんだ。この食感にこの味…ずっと待ってたんだもう一度食べられる日を」

「大袈裟とは言えないわね。あんなことがあったらそう思っても仕方ないもの」

「6年間僕は一度たりとも忘れることはなかったんだ。2人を護れていたらこうやって苦労することはなかったのにって」

「ユージオ…」

「暗い話はやめにして食べようぜ!食材は有限、時間は無限だ!」

 

そう言ってアリスお手製のパイやらケーキやらを胃に流し込んでくキリトを見て、アリスとユージオはこっそりと笑みを交換し合っていた。

 

ここは〈セントラル・カセドラル〉80階別名《雲上庭園》。かつてアリスとカイトが互いに剣の腕を競い合い、〈神聖術〉を高めあった場所でもある。2人にとってかけがえない時間であり、唯一心安らぐ環境が揃った場所でもあった。

 

楽しそうにしている3人の中で1人だけ、その空気に乗れていない人物がいた。カイトはアリスのパイを口に運びながらも、あまり会話に入らず黙々と食しているだけだった。

 

「美味しくなかった?カイト」

「え?いやいやいつも通り美味しいぞ。手は止まっていないだろ?」

「その割には会話にも入ってこないじゃないか。もしかして引きずってんのか?」

 

キリトははっきりと「何が」とは言わなかったが、カイトには理解できていたし、2人も言わんとすることがわかっていた。

 

それ以外に自身が落ち込むことがないというのもあったし、2人はずっと気にしていたからだ。

 

「まあ気にするなって言っても無理だろうけど、今はアリスの手料理を楽しもうぜ。じゃないとせっかくの料理が勿体ないぞ」

「…ああ、そうだな。こうしてアリスの手料理を口にできる機会はそうないし、こうやって4人で食べれる機会なんてないもんな」

 

いつも通りの笑みを浮かべたカイトに、3人は安堵し各々の速度で食事を再開した。

 

「あの籠にこれだけの料理が入っているとは。高級料亭に並べてもいいんじゃないか?」

「ほとんど目分量で作ってるから日替わりになっちゃうかな。それに店に出すのは嬉しいけど、私は気ままに作りたいから遠慮させてもらうわ」

「ちぇ~店に並んだらまとめ買いしようと思ったのになぁ」

 

キリトのぼやきにカイトの眼に嫌な光が宿った。ユージオはそれを長年の付き合いから気付き、ホットなお茶を飲み始め現実逃避を開始した。

 

「はぁ、意地汚いなぁ気が向いたら作ってあげるわよ」

「じゃあキリトにだけは金を払わせたら良いのさ。そうしたら店で買うのと同じ事になる」

「ええ!?それやめてくれよ。俺だけ払わないと無理だなんてそりゃないぜ」

 

カイトの冗談にキリトがのっかることで空気は和んでいく。もしかしたらキリトの反応は素だったのかもしれないが、どちらにせよ場は和んだだろうから詮索はしないでおこう。

 

芝生の上に座り込んで食事する4人は本当にそっくりだ。他の人の分まで胃に入れようとしているキリトを止めようとするカイト。取られた分を取り返そうとするユージオ。キリトの食べかけを横取りするカイトに叱るユージオ。それを見て涙が出るほど笑っているアリス。

 

本当に昔の4人(・・)に戻ったような何の変哲もない平和な光景だ。カイトとアリスが《禁忌目録》に抵触せずにあのまま過ごし、キリトが降り立っていたら、きっとこんな普段は眼にしない光景があったのかもしれない。

 

いやきっとそうだったはずだ。

 

誰にも干渉されずに笑顔を浮かべ、笑い声が飛び交うようなそんな当たり前の日常が描かれていた。《禁忌目録》があっても〈公理教会〉がここまで厳格でなければ、見えていたはずの未来がねじ曲げられることはなかった。

 

アドミニストレータが己の欲望に素直でなければ。

 

〈人界の民〉のように穏やかな心を持っていれば。だがこれはifであってrealではないのだ。本当の意味でのrealはこれだ。〈人界〉を己の掌の上に置き永劫の平和を求める。

 

だがその完全包囲網は崩壊を始めている。始めているというよりは「崩壊を終えて創成を始めている」というのが正しいだろう。今この瞬間にも〈現実世界〉では一進一退の攻防が行われているのだから。

 

カイトが知っていてもキリトは知らないしアリスもましてやユージオが知ることはない。アリスにカイトは教えてもユージオには絶対に教えたくはないだろう。

 

アリスを巻き込んでもユージオを巻き込みたくないから。アリスもユージオもカイトについて行くと言うだろうがカイトは許可しない。

 

アリスにさえ許可したくないのにユージオに許可できるわけがない。何故ならアリスは誰より大切な人で自分が護りたい人だから。普通であれば大切な人は危険を回避させて生き延びさせたいと思うだろう。

 

だがカイトは側にいてほしいから突き放さない。

 

突き放せば自分が自分でいられなくなるから。自分は弱く誰かの力を借りなければ生きることはできないから。失うかもしれないとわかっていながらカイトはアリスに自身の背を預け敵に立ち向かう。

 

それが例えかつての友人や家族であっても。何よりアリスがユージオが大切だから。

 

 

 

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長時間にわたって精神を酷使させたせいで俺たち4人の精神HPは限界に達していた。それもそうだろう何しろデュソルバートさんとファナティオさんの二代騎士と戦ったのだから。

 

デュソルバートさんとの戦闘では、俺とキリトが身を挺して業火を幾度も防ぎアリスは〈武装完全支配術〉を使用してまで立ち向かった。

 

ユージオに至っては自身がもっとも忌み嫌う〈他人の天命を減少させる〉という行いをした。3人ほどではなくともユージオにとっては相当な消耗だろう。

 

次は副騎士長のファナティオさんが立ちはだかりアリスが予想だにしない方法で戦闘を開始した。超高速近接戦闘で互いに〈天命〉を削り合い、アリスが禁句を口にしたことで《記憶解放》を使われてしまった。

 

その事に対して俺はアリスに非があるとは思っていない。思いを寄せる相手が端から見れば美人と親密にしている様子は嫉妬しないわけにも行かないだろうから。

 

俺だってアリスがそんな風に誰かと近い距離で話していたら自分だって嫉妬する。それでは済まずに斬り掛かっていたかもしれない。

 

だから文句を言わずに背を巨木の幹に預けて、こうしてアリスに膝枕をしてやっている。〈武装完全支配術〉を使用したことで、アリスの〈神器《金木犀の剣》〉は〈天命〉を大きく減少させていた。

 

〈武装完全支配術〉ならあと何度かは発動できる。だがアリスの《金木犀の剣》がそこまで大きく減らしていたのは、本来〈神器〉が持つ特性とは正反対のものを相手にしたからだ。

 

デュソルバートさんの〈神器《熾焔弓》〉の元は「炎」。

 

非存在的情報物質を敵にするのは苦手なのだ。「炎」の存在源は熱であるため、《金木犀の剣》は高い優先度を持ち物理的存在である物を相手にすることを得意とする。それ故に無理強いをさせたことで〈天命〉が大きく減少してしまっていた。

 

だからこうして顕現させて日の光を浴びさせている。鞘に入れているだけでも〈天命〉は回復するが、特性を考慮するだけでも回復速度が大きく増加する。

 

《金木犀の剣》は元々〈セントラル・カセドラル〉が存在する前から自生していた世界最古の樹木。属性は《永劫普及》。決して朽ちることなくその場にあり続ける究極の存在。

 

「んっ。あっ、カイトこしょばいよ」

「ごめんごめん起こしちゃったな」

 

絹のように肌触りの良い黄金の髪を優しく撫でながら物思いにふけっていたが、髪を触ることに集中しすぎてアリスを起こしてしまったようだ。

 

「ううん大丈夫。夢見てた」

「どんな夢?」

「4人でずっと暮らしてる夢なの。カイトが1日の〈天職〉を終えてから向かう場所は《ギガスシダー》がある場所。着いたらキリトとユージオがこしょばしあっててそれに巻き込まれていくの。そこにちょうど私が到着して怒るっていう普段と何も変わらない日常」

「アリスそれは…」

 

続きを口にしなくともアリスはわかるだろう。その夢はキリトがいた頃(・・・・・・・)の記憶だから覚えているはずがない。ユージオにはなかったのだからアリスにあるはずがない。

 

「うんわかってるそれは夢であって現実じゃないもの。…でもあれは現実にあったわ。6年前にキリトがこの世界にいて一緒に暮らして生きてくことを誓い合ったんだって」

「あるのか?あの記憶が」

「ユージオにはないから不思議だと思っているんでしょ?私の予想だけどキリトがこの世界にいたことはリセットされたからみんなの中にはないんだと私は思うの」

存在したけど存在しなかった(・・・・・・・・・・・・・)ことにされているのか」

 

アリスの予想は確かに理に適っている。そうでないと俺たちにあってユージオにないのは可笑しいからだ。俺にその記憶があるのは、〈転生者〉というのもあるだろうし《第一特典 自己保存》のおかげだろう。それを踏まえるとアリスにその記憶があるのは俺と同じで《特典》のおかげだ。

 

キリトに記憶がありながらないのは〈STR〉をでる時に記憶をブロックされるからだ。それは秘密保持の側面もありながら、キリトの命の保護というのが主な理由だろう。

 

〈フラクトライト〉の寿命は約150年とされているが実質は±10年だろうから。現代医学なら100歳を余裕で生きられるからその安全マージンというわけだ。

 

「だからといってこのことをキリトに話すつもりはないから安心して?言うべきことはカイトが言わなくちゃキリトは納得しない。キリトはそういう人間でしょ?」

「そうだなキリトは人懐っこくて悪ガキだけど我が儘だもんな」

 

俺の頬に添えられている柔らかな手を自分の手で包み込む。この暖かさと安らぎを無償に惜しみなく注いでくれるアリスを失っちゃ駄目だ。護らないとこの与えられた命を捨ててでも全ての魔の手から護るんだ。

 

「なあアリス、俺って浮気者だよな」

「どういうこと?」

アリス・ツーベルク(・・・・・・・・・)を好きでいながらもアリス・シンセシス・サーティワン(・・・・・・・・・・・・・・・・)も好きだからさ」

 

正直ややこしい言い方だが事実である以上そうやって言い分けるしか方法はない。

 

「…呆れた。私は私であって彼女は彼女なのよ?アリスという人間に2人が宿っていても好きならそれでいいの」

「怒らないのか?」

「怒ったところででしょ?アリス・ツーベルク()はカイトが好きだしアリス・シンセシス・サーティワン(もう1人の私)もカイトが好き。独占したいと思わなくはないけどそれで誰かが傷つくぐらいなら諦めた方がマシだわ」

 

どうやればここまで心を広く持てるのだろう。生前の俺が二重人格で俺を好きでいてくれる女性がもう1人の俺も好きだったら悔しい。俺だけを好きでいろと言いたくなる。だがアリスはそう言わずに受け入れてくれている。自分と他人が違うといっても限度ってもんがある。

 

共感できることがなければ意見の一致は起こらない。対立が起き続けて決めるべき事柄も決まらずじまいだ。だがこうして受け入れてくれる人間がいるからこそ物事が上手く回っているのかもしれない。

 

「優しいなアリスは」

「優しさにもいろいろな種類があるのよ。カイトのように誰かを護ろうとする優しさ、誰かを傷つけられて怒る優しさとかね。迷いとか苦しみを自分自身で解決しようとせずに相談してくれるそんなところが私は好きなの」

「適わないな本当に」

 

アリスの穏やかで華やかな笑顔で俺は救われた気がした。

 

丘の下から優しく見守っているキリトとユージオの2人にカイトたちは気付いていなかった。




ほのぼの系を書くといったのに全然ほのぼのじゃねぇ。むしろシリアスになってんじゃね?


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