キリトを無理矢理起こしたあと、3人は〈果ての山脈〉へと足を向けていた。
「ねえカイト。さっきの剣が冷気を発していたなら、その周りの水が他の所より冷たいのは当たり前だよね?」
「凍りつくほどじゃないけどかなり冷たかった。でもその場所の上流と下流は、いつもと同じような温度だったからユージオの言う通りだろうな」
カイトとユージオだけが話しているのは、アリスが先頭をキリトが最後尾で歩いているからだ。キリトは気持ちよく寝ていたところを、理不尽な起こし方をされたことで恨んでいるのか。カイトに恨めしそうな視線を先程から向けている。
キリトの視線を無視して歩いていると、ポッカリと空いた穴が目に飛び込んできた。奥は暗くて数メートルしか目で確かめることができない。どれだけ奥まで続いているのかはわからないが、3人とも短いとは思ってはいないだろう。
「なんだか怖いね」
「別世界に行くような感じがする」
「間違ってないんじゃないかな。〈果ての山脈〉を挟んだ先は、《ダークテリトリー》なんだからさ。早く氷を見つけないと夕方までに帰れないよ」
そう言ってさっき摘んでおいた草穂を、カイトがアリスに渡す。それを不思議そうに見ているユージオとキリトの前で、アリスが何かを呟く。
「〈システムコール・ルミナスエレメント。アドフィア〉」
術式を唱え終えると草穂の先にほのかな光が発生した。
「「おお〜」」
「じゃあ行こうか」
アリスから光を受け取り、3人の前に立って洞窟内へと入っていく。後ろにはアリス・ユージオ・キリトの順番で並び、光に照らされた壁や天井や足元を見ながら歩く。特にこれといった特徴はなく、岩を自然が長い年月をかけて削ってできたと思われる様子しか見当たらない。
クシュン!
ユージオがくしゃみをしたことで全員の足が止まった。
「ねえ、寒くない?」
「そういや前々からそう思ってたんだよ」
二の腕をさすりながらキリトが呟く。
「「じゃあ言え(なさい)よ」」
「そこまで言わなくてもいいだろ!」
アリスとカイトの言葉に心外だとばかりにキリトが憤慨するが、2人は知ったことかとばかりにその言葉を無視した。
「寒いってことは、そろそろ氷があるってことじゃないの?」
「誰かさんが入り口の近くにあるって言わなかったっけ?」
「記憶にございません」
「「「…」」」
キリトの無責任な返事に対しては少しばかり苛立った3人だったが、狭い空間ではちょっとした音でも大きく反響してしまう。もしかしたら何かに気づかれるかもしれない。周囲を警戒していたからこそ、声を大きくして怒らなかったのだろう。
「それはおいといて。寒くなったから氷も近くにあるんじゃいかな。ほら」
「「「え?」」」
カイトが足を除けると、そこには薄い氷が割れているのが見えた。つまり氷ができるぐらいには気温が下がっており、奥に進むにつれて寒くなっているということだ。
4人は目を合わせて一直線に奥へと走り始める。一番最初に誰が氷を見つけられるのかを競うかのように、見えてきた光へと足を早めた。その光を抜け、目に飛び込んできたのは巨大な空間だった。直径は20m、高さは30mはあるだろうか。本当に大きな空間だ。
「うわぁ、ここは一体なんだろう」
「これは一体何かしら。氷じゃないみたいだけど」
アリスが触れているのは巨大な六角柱の塊だった。触れると程よい温度で、冷たくもなく熱くもない不思議な感触だった。
「硬いけど硬すぎなくて柔らかくはないけど柔らかい。…水晶かな?」
「ええ!?水晶って〈央都〉でも年に5個売られるかどうかの希少品のあれかい!?それがこんなにたくさん…」
4人の周囲には、11歳の少年少女の身長を容易く越える同じような六角柱の水晶がところせましと陳列し、これでもかとばかりに存在感を発している。
「これを持って帰ったら、村のみんなが2年間何もせずに過ごせるよ」
「いや、やめとこう。どう考えてもこれを持って帰ったら、みんなが正気を失う気がする」
「どういうこと?」
「〈央都〉にさえ滅多に売られない水晶が、〈果ての山脈〉の中にこれだけあるって知ったら商人がたくさん来る。そうすれば村は大混乱だよ」
「でも村が活気に溢れるならいいんじゃないの?」
アリスの問いにカイトはかぶりを振る。
「アリスの言う通り村は活気に溢れるだろうけど、取り尽くしたあとはどうなる?なくなったらみんな〈央都〉に戻って結局は今のような生活に戻ってしまう。むしろ今より酷くなるかもしれない。贅沢を知った者が堕ちると、まともに生きていけないと俺は思う」
「だからカイトは誰にも言わず、俺たちだけで秘密にしようって言ってるんだ。ここは潔く諦めて氷を集めようぜ」
目的を忘れていた3人は、苦笑して本来の目的に戻ることにした。水晶から回れ右して奥に進んだ4人はその目を疑う。目の前には氷に埋れた竜の骨が散乱していたからだ。
「な、んだよこれ…。竜が死んでる?」
「病気でなの?」
「いや、違うな。これは誰かに殺されたあとだよ」
カイトが近くに落ちていた骨を拾い上げ、3人に証拠を見せる。それを見た3人の表情は暗くなった。あまりにも傷だらけで痛ましいことに目を背けたくなったのだ。
「…これは刀傷だ。俺の剣で斬ればこっちがやられるな。相当な〈優先度〉のある剣でやられたんだと思うよ」
竜の骨は世界でも最高峰の〈優先度〉があるため、簡単に傷つけることはできない。そもそも竜の存在自体が伝説なのだから、こうして目の前にあること自体が異常だ。これが何を意味するのか。一体竜に何があったというのか。それを知ることは永劫叶わないだろう。知る人がいるのかどうかさえ疑わしいうえに、いたとしても今は既に死んでいる可能性があるからだ。
「竜を殺すなんて。…一体誰が何のために?」
「わからないことをいちいち考えていても仕方ないよ。氷を集めてさっさと帰ろう。暗いからどれくらい時間が経ったのかわからない」
ユージオを慰めてからちょうどいい大きさに割れている氷を、ユージオが持っている篭に手分けしていれていく。わずか10分で8割ほど満たされた篭の中身は、宝石のように煌めいている。飾っておきたいのは山々だが、氷であるためいつかは溶けてなくなってしまう。残念極まりないから悲しくなるが、翌日の食事の楽しみになるのだから気にしないようにしよう。
「これぐらいにして帰ろうか。遅くなったら怒られるかもしれない」
「そうね。でも入口はどっち?」
アリスの言葉を聞いて3人が笑顔を曇らせる。氷を拾っていた場所は巨大な空間のほぼ中心であるため、左右にあるどっちが入ってきた方向なのかわからない。
「水が流れ出している方だったよ」
「残念ながら両方に流れているな」
「困ったな…」
3人して考え込んでしまい無駄に時間が過ぎ去っていく。時間がわかる〈神聖術〉があればいいのだが、残念ながらそれは存在しない。あったとしても3人では使いこなせなかっただろう。
「取り敢えず片方ずつ見ていこう。片方がダメならもう一方が出口だ」
「じゃあ、まずはこっちね」
アリスが指を指した方向に歩を進め、出口かどうかを確認しに行く。
「壁ってこんなに黒かった?」
ユージオの疑問に3人は不思議そうに首を捻る。壁の凹凸は確認していたが、色までは意識して見ていなかったからか根拠が見つからない。まさか道に迷うとは3人とも予想していなかったから、そこまで気にしていなかったのだ。
「俺は覚えてない。キリトは?」
「ユージオやカイトが気付かないことに俺が気付くわけがない」
「…アリスは?」
自信満々に答えるキリトを無視してアリスに問いかける。キリトからは「無視するなぁ!」という叫びが聞こえたが、聞こえないふりをして左から右に流した。
「暗くて怖かったからそこまで気にしてなかったわ。ごめんなさい」
「落ち込まなくていいんだよ。初めてのところだし、人って暗いところに入ったら怖くなるのは当たり前だよ」
俯いたアリスの頭を優しく撫でて歩を進める。嬉しそうに頬を紅く染めるアリスは、その後ろをスキップするように軽い足取りでついていく。どのくらい進んだだろうか。かなり足を動かしたはずだが出口が見えてこない。
「こんなに歩いたっけ?」
「もうちょっと短かったような気がするけどなぁ」
「もしかしたら不安になってそう思ってるだけかもしれないよ?」
「出たらわかるでしょう」
歩いている間に風の音が聞こえ始め、出口が近いことに安堵する。光が大きくなると自然と動かす足に力がこもる。ほとんど走るような速度で足を動かしていると出口の全体が見えてきた。だが外の光がほのかに赤い。洞窟に入ったのが昼頃。中で氷を探したのはせいぜい1時間程度だと思っていたが、予想外に長時間籠っていたのかもしれない。
ソルスが傾き始めているとなると、夕方までに村へ着くことは不可能だろう。そうなればシスター・アザリヤやアリスの父である村長に、こっぴどく叱られるのが眼に見える。
「待って!洞窟内にいたとしてもここまで赤いのは可笑しいわ!」
アリスが後ろから危険を叫ぶが、ユージオは足を止めるより早めて外へ出ようとする。危険な思いはもうこりごりとばかりに足を動かす。洞窟からあと数メルで外に出ようとするところでユージオは足を止めた。
「どうした?ユージオ」
「キリト、あれ…」
「え?嘘、だろ…ここはまさか」
カイトが指差した先を見てキリトが目を見開く。
一面真っ赤な空。鈍く煌めく紅黒い大地。まるで血を辺り構わずぶちまけたように、全体が赤い世界が広がっている《ダークテリトリー》。お伽噺でもよく聞く〈人界〉の果てにある危険な土地だ。人間ではない異形の生物が数多存在し、今か今かと人を拐おうとする世界。そんなふうに教え込まれた場所が目の前に広がっている。
「ルーリッドって本当に〈人界〉の端にあったんだ…」
「戻ろう。ここは危険すぎる」
「待って。空に何かがいる」
カイトが促すがキリトはそれに従わない。言葉通りにキリトが見上げる先を見ると、豆粒のように小さな白い点と黒い点が、位置を高速で変えながら舞っている。小さく見えるのははるか上空を飛んでいるからであり、視認できる場所まで降下すれば人より大きいことだろう。
突如、爆発音が響いて黒い影が2つ落下してくる。落下しながら煙のようなものをあげているのは、炎のようなものを浴びたからだろうか。
落下する何かに巨大な矢が突き刺さった。
「ひっ!」
その様子にユージオが小さく悲鳴をあげる。地面に落下した黒い甲冑を着た何かは、おびただしい量の血液を吹き出している。
今すぐに治療しなければ、〈天命〉がなくなって死ぬだろう。助けるためには近寄らなければならない。だがそれは不可能だ。何故なら、《ダークテリトリー》侵入という〈禁忌目録〉で禁じられている掟を破ることになるからだ。
破れば〈整合騎士〉に捕縛され、尋問の後処罰を下されることになる。
「アリス?」
アリスが不自然な動作で歩きだした。感情が抜けきったかのような表情で、足を《ダークテリトリー》へと近付けていく。
「ダメだアリス!」
カイトがアリスを引き留めようと腕を掴むが、逆にカイトが引っ張られていく。
「アリス!正気に戻るんだ!越えちゃダメだ!アリス!」
カイトの声かけも虚しくアリスはどんどん歩を進める。アリスが足を動かす先では、黒色の騎士らしき人物が右手をこちらに向けて助けを請うている。その右手がアリスの歩みを進めさせているのだろうか。
「アリス!キリト・ユージオ、手伝ってくれ!」
「お、おう!」
「わかった!」
3人で止めるがそれでも止まらない。アリスの透き通るような蒼い眼は光を失い、何も写っているようには見えない。
「アリスぅ!」
「あ…」
カイトの懸命の呼び掛けでアリスが正気に戻ったが、足を滑らせたキリトとユージオが、カイトの手を離してしまった。
「アリス・カイト、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫…だ…」
「カイト?」
返事が小さくなったことに疑問を抱いたユージオは、何が起こったのか視線を向け蒼白になった。アリスとカイトの左手と右手が、僅かに《ダークテリトリー》の地面に
「アリス・カイト!」
「私は…」
「俺は…」
「だ、大丈夫だよ!入りたくて入ったんじゃないんだ!事故だから大丈夫さ!」
ユージオが禁忌を侵し、震えている2人に安心するよう声をかける。だがそれは気休めにもならない単なる言葉でしかなかった。
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どうやって洞窟を抜け、〈ルーリッド〉に戻ったのか4人とも覚えていない。反対側の出口を抜け、夕日に変わりつつあるソルスが照らす白い光の安堵さだけは、しっかりと覚えている。
目の前で起きた惨劇を忘れようとした。何度何度も。だが脳裏にこびりついたかのように離れない1つの映像は今でも鮮明に覚えている。瞼を閉じても赤い空・赤黒い砂・黒い甲冑を着た騎士が鮮明に浮かぶする。そして大量に流れ出る赤い血も。
トラウマになるのではないかと思うほど記憶に結びついて離れない。小鳥のさえずり・川のせせらぎ・森の香りを感じても、心は軽くならなかった。むしろそれが、あの悲劇が現実であったことをフラッシュバックさせる。
「アリス、これ」
「…ありがとう」
ユージオが渡した籠を暗い表情で受け取ったアリスは、それ以上に言葉を発さず帰路へ着いた。
「カイト、アリスが落ち込む理由は俺たちだってわかってる。明日の昼食を楽しみにしてるって伝えてくれるかな?」
「もちろんだ。俺も楽しみにしてるから、明日また《ギガスシダー》で会おう」
カイトはキリトに返事を返して、アリスを追いかけるように駆けて行った。それを見るキリトの眼は悲しげだ。
「ねえ、キリト。明日本当に〈整合騎士〉は来るのかな?」
「…来るだろうな《禁忌目録》に背いたんだから。でも俺は認めない。あれは事故だ。それ以外のなんでもない」
「僕は来てほしくないよ。幼馴染を失うなんて絶対に嫌だ」
「俺だってそうだよ。だから来たとしても全力で守る」
言い切ったキリトの眼には、先ほどとは違った覚悟に満ちた光が浮かんでいた。
アリスに追いついたカイトはどう声をかけたらいいか迷っていた。慰めるべきなのか。明るく振舞って何もなかったかのようにするべきなのか。だが両方とも間違っていると思っている。禁忌を侵したことに変わりはないのだから。故意であろうと事故であろうと。
「…ねえ、カイト。このままどこかに逃げよう?」
「逃げるってどこに?」
「〈公理教会〉から。お父様から。お母様から。セルカから。村のみんなから。何よりキリトとユージオから。これ以上迷惑をかけられない。ううん、かけたくないの。カイトにもかけてしまってる私が言えたことじゃないけど。捕まったら絶対に元の生活には戻れない」
「俺は逃げないよ自分の罪は自分で償う。それが俺だからね」
アリスを抱きしめているというのに、当たり前のことしか口にできない自分が腹立たしい。逃げたとしても、おそらく〈整合騎士〉は地の果てまで追いかけて来るだろう。
罪人は〈公理教会〉の名において粛清せねば、300年間の永劫が失われる。さらには罪人を裁くことができなかったことに対する反感を、全員から買うことになるかもしれない。
〈人工フラクトライト〉である彼らが、〈公理教会〉に対して反旗を翻すはずはない。体裁だけは保つ必要があるため、〈公理教会〉は事を大きくしたくないだろう。だから迅速且つ慎重に事態を収束させる必要がある。ならばどこにいたとしても、アドミニストレーターが見つけ出してしまうだろう。
「大丈夫、アリスは俺が守る。キリトもユージオも村のみんなを誰1人傷つけやしない。ジンクだって嫌いだけど、死んでほしいほど憎んでいるわけじゃない」
「うん。ありがとう」
「キリトとユージオが明日の昼食を楽しみにしてる。氷は地下室に保存してほしい」
「わかった。明日はとびっきり美味しいの作って来るから楽しみにしててね」
「もちろんだ」
別れ際にアリスがキスをしてきたので喜んで受けておいた。
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翌日、キリトとユージオはいつも通りに《天職》をしていた。梢の隙間から溢れる日差しが陰ったことに違和感を感じて、何気なく空を見上げる。
「飛竜!?」
「まさか〈整合騎士〉が!?」
キリトとユージオは顔を見合わせて走り出した。《ギガスシダー》を切るために握っていた〈竜骨の斧〉を掴んだまま…。
広場に降り立った飛竜を見て2人は恐怖を覚えた。
竜とは違う飛竜。
飼い慣らされたとはいえ、本能的に恐怖を覚えさせる佇まいと存在感。果てしないとばかりに圧力を放って来る。昨日見つけた〈青薔薇の剣〉とはまた別の圧倒的な存在感を。
「我はノーランガルス北域を統括する〈公理教会整合騎士〉デュソルバート・シンセシス・セブンである。アリス・ツーベルク及びカイト・イエンタルスを、《禁忌目録》禁止条項抵触により捕縛及び尋問の後に処罰する。ルーリッドの長よ、咎人をこの縄を以て此処へ」
およそ人の声ではないように思える深く轟くような声が響いた。仮面をしているからなのかもしれないが、それでも異質な響きがあった。デュソルバートが伸ばした手には、2つの拘束具が握られている。アリスに結ぶものとカイトに結ぶものだ。
村人からは悲嘆に暮れるより、怒りの反応をする人物が多い。村から犯罪者を2人も出してしまったことに憤りを感じているのだ。開拓してから300年間。1人たりとも出さなかったはずなのに、1日で2人も出してしまったことに落胆していた。
「騎士殿、2人は一体どのような禁忌を犯したのですか?」
「《ダークテリトリー》への進入である」
集った村人からどよめきが漏れる。村でもっとも犯してはならないと言われた禁忌を犯したのだから。村人の反応は意外と薄いと言ってもいいだろう。
「騎士殿!2人は罪を犯したくて犯したのではありません!《ダークテリトリー》の騎士に術をかけられたんです!だから慈悲を。ご慈悲を願います!」
「意図的だろうとそうでなかろうと進入し、《禁忌目録》に抵触したことには変わらず」
キリトがいくら懇願しても、デュソルバートは受け入れる様子はない。
「なら俺たちだって同罪だ!俺たちも連れて行け!」
「ならん。ルーリッドの長よ、処遇を実行せよ」
集団の中央にいたアリスとカイトは、住民によって騎士の前に引きずり出された。2人にガスフトが慣れぬ手つきで拘束具を巻いていく。その表情は娘と婚約者を縛ることへの悲しみと、《禁忌目録》に背いたことに対する怒りを混ぜたものが溢れていた。
「ユージオ、俺が斧で切りかかるからその間に2人を連れて逃げてくれ」
「でも、そんなことをしたらキリトが…」
「命より〈禁忌目録〉の方が大事なのか?俺は行くぞ。うわあぁぁぁぁぁ!」
キリトが斧を振りかぶってデュソルバートへ接近する。
デュソルバートは子供の何も考えず、突っ込んでくることに嘆きを感じたのか少しだけ振り返る。デュソルバートの眼が怪しく光ったかと思うと、キリトが吹き飛ばされた。何が起こったのかわからず、キリトが眼を見開いているとデュソルバートが告げる。
「その子供を黙らせろ」
その言葉を聞いた大人たちがキリトを地面に押さえ込む。
「頼むユージオ!行ってくれ!2人を助けてくれ!」
「う、あ、う…」
キリトに頼まれ足を動かそうとするが根を張ったかのように足が動かない。まるでそこに根を生やし根付いてしまったかのように。
「ユージオ、何をやってるんだ!?2人を助けてくれ!それかこいつらを退けてくれ!ユージオぉぉ!」
キリトの懇願も虚しく、デュソルバートはアリスとカイトにつけた拘束具の先を飛竜の首にしっかりとつないだ。そのまま飛竜の背に上り、離陸準備をする。もはやキリトとユージオには成す術がない。ただ「やめろ!」と叫ぶ以外にできることはない。
飛竜が羽ばたき、2人の足が地面から離れて行く。
「アリスぅぅぅ!」
「カイトぉぉぉ!」
キリトとユージオは、離れていく大切な幼馴染の名前を呼ぶことしかできなかった。
長い長い夢から覚めたような感覚の中、眼を開けた俺はポツリと名前を呟く。
「アリス・カイト…?」
俺の頬には二筋の光の川が流れていた。
今回は早く書けました。