アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス

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頑張って即日投稿!せめてセントラル・カセドラル決戦編だけは終わらせたいので頑張ります


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なんとも口にし難い光景に眉を顰める。人間的扱いを受けていない様子は、不快以外の何ものでもなかった。何故このような状況になっているのか理解ができない。騎士長ならそう思うのが普通であり、すぐさま飲み込める訳では無いはずだ。300年の永きに渡って〈人界〉を守護し、〈公理協会〉に忠誠を誓ってきた最古参の〈整合騎士〉には受け入れられないこと。

 

そうであるに違いない。

 

「一体、こいつらは何者だ?不気味な式句をつらつらと発してやがるな。一層、呪詛と言ってもいいんじゃねぇか?」

「その表現はあながち間違いではないでしょうね。ここにいる彼等は、《禁忌目録違反者》を見つけ出す式句を唱えていますから」

「...《禁忌目録違反者》だと?」

「はい、それが彼等《元老院》の〈天職〉です」

「「「っ!」」

 

予想だにしない真実を告げられたキリト・ユージオ・ベルクーリは、鋭く呼気を吐き出した。

 

《元老院》の役割としては、〈神聖術〉の解析や新術の開発などが主だ。表向き(・・・)という注釈付きで。だが本来の役割は、〈人界〉全土を監視し、違反者を発見するという掃除屋である。騎士長でさえ知らないのは、知る機会もなければ疑いを抱くことがなかったからだ。

 

〈アンダーワールド人〉は、そもそも〈公理協会〉や《禁忌目録》に疑いを抱いたり不満に思ったりはしない。〈公理協会〉と《禁忌目録》が正しい。どのようなことがあっても、神が善で罪人が悪という心理を当たり前だと思っている。仕方がないと割り切れなくはない。それは〈人工フラクトライト〉に刻み込まれた枷や、檻として存在しているからだ。だがそれが全てではなく、矯正することも可能だということが判明している。

 

その例がユージオと騎士長だ。ユージオは〈外来人〉であるキリトによって、〈人界〉の在り方に疑問を抱くようになった。《禁忌目録》を知らないが故に。また自身が暮らしていた〈現実世界〉での常識がある故に、ユージオを変わらせた。

 

人として当たり前のことをしただけだと言うのに、罰せられるような世界があっていいのかと。疑問という形にはならないまでも、ユージオの中では渦巻いていた感情。キリトが現れるまでずっと燻っていた火種が、火となり炎となり今のユージオを生み出した。

 

《禁忌目録》は絶対の法であり、何者にも侵されない絶対の存在。それに不信感を抱いた者は、容赦なく連行されて道具と化した。

 

「〈人界〉全土から違反者を血眼になって探す。それが今の《元老院》という存在。キリトとユージオはこれを眼にしてるぞ」

「え?ああ、あれか…。ライオスらの部屋に浮かんだ白い人の顔をした」

「その通り。あれは違反者を見つけたことを確認する行動だ。胸くそ悪いことにな」

 

2回(・・)眼にしているなどと言えない。言えば、キリトは疑いを持ちユージオを不安で揺らすことになる。この状況で精神的に疲労させることは、望ましいことではない。

 

「それにしてもこいつらは一体誰だ?」

「おそらくは〈人界〉のあちこちから集められた特殊な能力を持つ人々でしょう」

「カイト、特殊な能力とは?」

「戦闘能力はないけど〈神聖術〉に秀でた者。他に考えられるのは《シンセサイズの秘儀》の失敗者だろうな」

 

その言葉に4人が眉を顰める。騎士長がどう感じているかわからないが、おそらくは黒いものが胸中に渦巻いていることだろう。

 

「…解せんな。どのような理由があろうと人外扱いする行為は断じて許せん。それが元老長の独断だろうと最高司祭猊下の直々の命令だろうとな」

「同感です」

「それにしても小僧は何故黙っていた?今の今まで」

「聞かれたくありませんでしたから。それにいつ何処に元老長がいるかわかりませんでしたし、言いたくとも騎士長がサボって何処かに行くから、話したくても話せなかったんです」

「うっし、行くぞぉ」

 

自分の立場が危うくなったのを誤魔化すように、先を急ぐベルクーリに全員が苦笑を浮かべた。〈天命凍結〉を受けているとはいえ、〈整合騎士〉になったのが中年から初老の頃。大の大人がそそくさと先へと行く姿は、緊張と顔を顰めてしまう光景で披露していた精神を、少なからず癒やす効果を持っていた。

 

深呼吸をして互いにうなずき合い、少しばかり先に入ったベルクーリを追い掛ける。姿が見えなくなって少しした頃。

 

「ホワッハッハハァァァァ!?」

 

意味不明な高音質な絶叫が耳に入ってきた。聞き覚えのある不快な声音にカイトとアリスは三度顔を顰め、キリトとユージオはどのような人物が待っているのか想像できていなかった。狭い通路を抜け見渡すと、下品としか言い様がないほどの金で彩られた部家が露わになる。

 

上を見上げれば豪邸にしか置かれていないであろう、シャンデリアと思しき照明が眩しく部屋を照らしている。眩しいのはシャンデリアだけではない。金色のタンスや机、椅子やら。それはまだ金持ちなどであれば納得できる類いのものだ。

 

だがベッドの上に置かれた奇抜な色のぬいぐるみやら、上半身がデビルで下半身が人間の人形、さらには生き物なのかと疑問に思えるような、不気味な怪物が床に所狭しと並んでいる。果てには積み木やウマのような乗り物など。子供が遊ぶような玩具が数多く鎮座していた。

 

そんな異世界かと思うなような部屋の中央で、この部屋の主と騎士長ベルクーリが対峙していた。いや、この言い方は誤解を招くものだ。正確に言えば、ベルクーリが部屋の主である元老長チュデルキンの胸元を、左手で掴んで宙へ持ち上げている。

 

そして右手には〈神器《時穿剣》〉が握られ、切っ先はその人物へと向けられていた。剣先は微動だにせず、妙な行動をすればすぐさま肉体を貫く。それを予感させるほどの緊張感が漂っている。

 

「教えてくれねぇかな元老長よぉ。アレは何だ?」

 

カイトとアリスが聞いたことのないような、凄む声音でベルクーリはその人物に問いかける。キリトとユージオはその声の恐ろしさから、教師に怒られたかのようにピンッと背筋を伸ばした。

 

「…アレとは何のことですかね、ホヒッホヒッ」

「とぼけんじゃねぇよ。わかってんだろ?俺が何のことを聞いているかをよ。早く自分の口から言った方が良いぜ?今の俺は我慢が効かなくてな」

「脅しですかネ?その程度でアタシを思い通りに扱えると思ってるンですかね?ホヒヒヒヒヒ」

 

ベルクーリのドスの利いた声音に、怯えることなく余裕の表情でベルクーリを見据えるチェデルキン。その振る舞いは尊敬に値するが、カイトやアリスそしてベルクーリの神経を逆撫でていることに変わりなかった。

 

「ほぉう?俺の脅しに屈しないのは褒めてやるが、それは自殺行為だぜ?お前が応えないなら最高司祭様に直接聞きに行ってやるさ」

「ホッヒィィィィ!?それは困りますよゥ!今は猊下に近づくのは禁止なんですからねェ!」

「何故禁止なのか教えてくれないか?元老長」

「知りませンよゥ!誰も近づけるなというのが命令ですからァ。アタシにも教えてくれないンですよゥ!猊下を一番崇拝しているアタシにも教えられないことなンでしょうよゥ!きっとどんな輩にも理解できない完全無欠な〈神聖術〉なンですよゥ!」

 

手足が異様に短いからか。空中でジタバタする様子は、滑稽極まりないものだった。〈公理教会〉の最重要人物にして最高位の神聖術士の今の光景に、笑いが込み上げてくるのを抑えながらカイトはベルクーリの背後から顔を覗かせた。そして耳にした言葉を繰り返す。

 

「『誰も近づけないようにしろ』ね。案外あんたも信頼されてないんだな元老長さん」

「ホワッハッハァァァァ!?何で此処に一号以外に三十号がいるンですよゥ!?」

 

どうやらチェデルキンはカイトがいることに気付いていなかったらしい。となるとキリトやユージオがいることにさえ気付いていないのだろう。その反応がカイトを更に優越の海へと浸していく。

 

「俺は三十号じゃねぇよ俺の名前はカイトだ。それにいるのは俺だけじゃない」

 

そう言うと3人がカイトの横に並ぶ。

 

「何を言って…ホヒッヒッヒィィィ!?三十一号に小僧共ですとォ!?どうして斬らないンですよォ!?反逆者であるこいつらをさっさと処断しなさいィ!」

「却下させてもらう。俺には2人を斬る理由もなければ処断する義務もない。俺が処断する相手は2人じゃなくてあんただよ元老長。…いや、チェデルキン」

 

腰帯に携えていた〈神器《翡翠鬼》〉を鞘から抜き出し、剣先を宙に浮かんでいるチェデルキンに向ける。思いもしなかった現状に脳の処理が追いつかないのか。チェデルキンは意味のある言葉を発さず、時々「そ、そんな…」やら「アタシが…ホヒィ」という単語しか口にしない。

 

「…ええ、教えて差し上げますよアレについてねェ。アレは猊下が行った実験のゴミを再利用したンですよォ。生ける屍と成り果て、廃棄せざる終えなくなったそいつらを使うことで人員削減!アタシ以外に考えつかない至高の作品ンン!」

「この外道が!」

「ホヒーホッホ、いくらでも言いなさいィ。どうせお前らもいつかああなるンですからねェ。ホッ、ホッ」

 

アリスの罵倒にも動じず愉快そうに笑う態度は、此処にいる全員を苛つかせるには十分すぎるほどの質だった。だからキリトとユージオ・アリス・ベルクーリが握る指に力が籠もったのも可笑しな事ではない。だがカイトだけが唯一怒りの感情を表していなかった。

 

いや、表情に出してないだけで胸中では4人以上に怒りを抱いていた。怒りの業火とでも形容できそうなものが、渦巻き身体の隅々まで行き渡る。主の感情の変化に合わせて《翡翠鬼》が強く拍動する。

 

「今、聞き捨てならないことを言ったな『いつかはアレになる』と。つまり〈整合騎士〉でアレになった人がいる(・・・・・・・・・・・・)ということだな?」

「「「なっ!」」」

「ちっ、胸くそ悪いぜ」

「ホヒッ、案外と耳ざといですねェ。その通りですよゥ?アンデルス・シンセシス・ナインからムーリン・シンセシス・フィフティーンはアレのどれかですよゥ」

 

信じられない事実に全員が驚愕する。驚愕がもっとも大きいのは〈整合騎士〉であるベルクーリ・カイト・アリスだろう。ベルクーリはその驚きのあまり、一瞬の隙を突いて手から離れたチェデルキンを捕まえなかった。チェデルキンは酸素をむさぼるように呼吸を繰り返す。

 

「…その人たちと出会わないと思っていたのは間違いではなかったのですね」

「…俺はてっきり〈果ての山脈〉に行ってると思ってたんだがな」

「俺がいない間になんという卑劣な真似をっ!」

 

自分の知らないところで、あのような存在に変わり果てていたという事実にカイトは爆発しそうになっていた。人の命を弄び、あまつさえそれを道具としか見ない言動に我慢ならなかった。

 

「許さん!…っ騎士長」

 

飛び掛かろうとした瞬間、ベルクーリがカイトを手でその通り道を塞いだ。カイトが視線を向けるとベルクーリは振り返らず、壁際まで下がっていたチェデルキンに近寄っていく。

 

「ヒィィィ!」

 

あまりにゆったりとした歩み寄りにチェデルキンは悲鳴を上げる。抜刀して駆け寄られるよりも、ゆっくりと時間をかけてにじり寄られると精神的な負担は大きくなる。ベルクーリは意図して行っているわけではなく、怒り故に歩みがゆっくりとなっていた。

 

「随分と前からてめぇのことは気に食わなかったが、今度という今度は許さねぇぞ。よくも部下共を道具に代えやがって。俺たちは駒じゃねえ!れっきとした人間だ!」

「ホヒッヒィィィィ!?なっ、オボハッハハァァァァァ!」

 

ベルクーリが上段に《時穿剣》を構え、振り下ろそうとした瞬間彼の横を一陣の風が吹き抜けた。見れば、1本の剣が死の色を思わせるライトエフェクトを纏い、チェデルキンの腹部を刺し貫いていた。刀身の半ばまで貫通した剣を引き抜くと、流れる動作で血の海へと転がる。ベルクーリの上段の構えの恐怖により、視界が狭まっていたチェデルキンは為す術がなかった。

 

「〈アインクラッド流単発重攻撃技《ヴォーパルストライク》〉...」

「…おいおい」

「うっ!」

「っ!」

「まさか…」

 

それぞれの反応を無視して刀身にこびりついた血痕を、一振り二振りすることで払い落とす。チンっという剣を鞘に収めた音で、ベルクーリが処断した人物に問いかけた。

 

「何故殺した?俺がお前を止めた理由がわからなくはないだろうが」

「…こいつに生きる価値はない。そう思ったのは俺だけではないはずです」

 

カイトが感情をなくしたかのような無表情でベルクーリの問いかけに応える。その感情のない声音と表情にアリスは両手を胸の前で握り、キリトとユージオは知らない人物を見るかのような視線を向けている。

 

「何故俺に殺らせなかった?」

「貴方の手を汚させるような相手ではない。汚すのは俺だけで十分だ」

 

それだけを告げると、カイトは部屋の奥にある小さな通路へと入っていく。その背中を真っ先に追いかけたのはアリスだった。カイトとアリスが見えなくなってから、ベルクーリは不満そうにそして申し訳なさそうに呟く。

 

「お前こそ汚しちゃ駄目だろうが。お前は俺たちの《切り札(・・・)》なんだからよ」

 

ベルクーリの呟きはキリトとユージオには聞こえなかったが、かぶりを振って2人を追いかける様子に、キリトとユージオは不安感を抱いた。それでもその不安を棚上げして3人を追うのだった。




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