アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス

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期間が空いてすみません⤵︎ ︎。本当に予定がなくて、書く時間があったとしても疲労の蓄積でモチベーションが上がらず。

テンポとしてはこのような感じになりますので、よろしくお願いします。


逆心

先へ先へと進んでいくカイトの背中を追う。その背中からは、あまりにも痛々しいほどの苦悩が立ち上っているように見えます。先程の戦闘といい、此処に戻ってきてからのカイトは無理をしすぎている気がします。そこまで無理をしてどうするのでしょうか。

 

私たち(・・・)は納得が出来ないのです。いくら〈整合騎士〉であると言っても、食事をしなければ〈天命〉が減少しますし、休憩を取らなれければ気を失ってしまうこともあります。《雲上庭園》で少なからず休息を取ったとはいえ、これまでの戦闘を思い返せば、雀の涙程度しか効果はないように思えます。

 

キリトやユージオがいてくれるとしても、カイトは安心することは出来ないでしょう。むしろいることが逆に、カイトを追い詰めているのではないかと思ったりします。でも決して2人を責めるつもりはありません。いてくれるからこそ戦闘に支障はありませんし、楽しませてくれるので気分転換させてくれます。

 

カイトの背中から漂っているのは、2人を巻き込んでしまったことへの罪悪感なのでしょうか。私はそんなカイトを責めたりはしません。たとえカイトがそのことで打ちのめされそうでも、奮い立たせてみせます。カイトが私を拒絶しようと果たすべき事柄を終えるまでは、手足がもげて五体満足でいられなくなっても。〈天命〉が消え去るまで支え続けます。

 

「アリス?」

 

愛しの彼の背に抱きつくと、当然のことに驚いて不思議そうに問いかけてきました。

 

「すみません、どうしても今こうしなければならない気がしたんです。今の状態で最高司祭様の部屋に行けば、貴方はきっと自我を失い、何の策も立てずに突撃するかもしれないと」

「...否定はしないよ。たぶんアリスの言う通りこのままあの部屋に入っていれば、何も考えずに相棒だけで斬りかかっていた。でもそうしなきゃ俺は彼らに顔向けできない。何も知らず2年間を学院でのらりくらりと暮らしている間に、知った人たちがおぞましい計画に利用されていただなんて。知っていれば防げたかもしれないのに」

 

体に回された腕に微かな振動が伝わってきます。そして顔を填めた背中も微かに上下しているのを感じます。〈公理協会〉に連行された6年前から、1度たりとも涙を見せたことの無いカイトが泣いている?

 

いえ、カイトが涙を見せるはずがありません。それは決してカイトが薄情者であったり、他人の不幸を悲しく感じることがないという訳ではありません。むしろ他人よりその手の感情は濃いことでしょう。誰よりも人を愛し、人が幸せに生きる世界を望むカイトは、自分ではなく関わりがあった人物が、あのようなことになっていることを知れば、正気でいられないはずです。

 

でもそれを元老長チェデルキンを処分することで、どうにか抑えたカイトが、今このタイミングで泣くはずがないのです。

 

「どうしてそこまで自分を蔑むのですか?貴方に救われた人々が数多くいるというのに。〈整合騎士〉も然り、私や修剣学院で助けられた傍付きも。悲観的にならなくてもいいのでは?」

「確かに俺は少なからず誰かを救ってきただろうさ。偶然でも当然だとしても同じようにね。でもそれだけじゃ俺の罪は償えない。自分の〈天命〉全てを捧げたとしても消えない罪が俺にはある」

 

罪とはなんなのでしょう。此処に連行される前のことを、私はもう1人の私(・・・・・)から口でしか話を聞いていない。彼女の言うことを否定したり、疑うつもりはさらさらない。そんな話を作る必要も無いことだから。自分を見下すような言葉であっても、冗談であっても口にしてはなりません。《禁忌目録》に縛られているということを含めての理由ではないです。

 

「それほどまで言うということは、それなりの罪があるのですか?」

「キリトとユージオを巻き込んでしまったことさ。〈人界〉いや、〈アンダーワールド〉を救うためにはアドミニストレータを倒さないと無理だ。倒すためにはキリトとユージオの手助けが必須だった。2人に接触するために、俺はノーランガルス帝立修剣学院に入学した」

 

勿論それだけが理由ではない。アドミニストレータの命令を遂行するのがサブの任務として行い、メインとして2人と仲を深めることをしてきた。2人を弄ぶつもりは毛頭なかったし、「原作」で仲睦まじい様子に自分が入ることができたら、どれほど幸せなのだろうと思ったりもしていた。

 

実際、関わることができてからの毎日が夢のようだった。上級貴族のいびりを含めても、充実した1年半だったのは言うまでもない。変人として扱われていたベンサム・アンドラ先輩との稽古も思い出深い。〈整合騎士〉である俺よりも剣の腕が上だったことには驚いたな。

 

いや、まあ俺の剣技が高くないことが敗因の大半を占めているが。だってユラユラと揺られながら攻撃を避けられて、的確な攻撃を繰り出してくる相手に勝てるわけないじゃないか。ギャップと言うのかな?普段は変人的行動をしていても、やるときにはしっかりとそのTPOに相応しい雰囲気に変わる。

 

それが俺・キリト・ユージオと言う辺境出身の3人には眩しく見えた。

 

「…2人に接触しなければ良かったと思っているのですか?」

「最近じゃそれがずっと脳裏を駆け巡ってるよ。あの日、心躍らせて入学しなかったら出会わずに2人を傷つけることもなかったからさ」

 

パァンっ!

 

何かをはたいたような甲高い音が、99階の広いとも狭いとも言えない空間に響いた。俺は自分の右頬がじわじわと熱を放ち、ひりひりとした痛みが広がっていくのを感じて、無意識のうちに左頬へ手を運んでいた。視線を上げると、蒼穹の瞳に涙を浮かべた(アリス)が俺を見つめていた。

 

「そんなこと言わないでよ!2人がそんなことで怒るとでも思ってるの!?カイトの知ってるユージオが、キリトが聞いたら怒るに決まってる…。私、悲しいよ。カイトは2人のことを親友だと思ってなかったの?2人はカイトと出逢えたことが偶然ではなくて必然だって理解してる。カイトと出会わなかったら世界に立ち向かおうとは思わなかったよ」

「…でもそれは俺が2人と関係を持ったからだ。自分だけで成し遂げておくべきだった。そうすれば今まで出会ってきた人達を巻き込まなくて済んだのに…」

「それが間違いだって言ってるの!どうしてカイトは全部を1人だけで終わらせようとするの!?他人を頼っても誰も怒らないのにどうして?!1人じゃできないことを終わらせようとして、終わらせれなかったら誰が継ぐの!?お願いだから1人でなんでも抱え込もうとしないで…そんなことを続けてたらきっといつかカイトが壊れちゃう」

「それでも俺は行かないと。…怒らずに聞いてほしい。これからアドミニストレータを倒しに行くけど、此処で待っててくれないか?」

 

無駄だとわかっていてもそう口にしてしまう。ユージオやキリトを失ってしまうのは耐えられない。でもそれ以上にアリスが消えてしまうのは生きてる意味がない。きっと俺は自ら自身の命を絶ち、アリスの元へと向かうだろう。アリスが俺が生きることを望んでいたとしても俺は追い掛ける。俺の言葉を聞いたアリスの動きが止まった。裏切られたと思っているのだろう。涙を浮かべる瞳が大きく開かれ動きを止めた。

 

「…どうしてそんなこと今言うの?」

「何が起こるかわからないんだ。〈原作通り〉に事が運ぶなんて都合が良すぎる。〈神界の間〉で何が起こるかわからない。怖いんだ…アリスにもしものことがあったらって思うと…」

「…そんな危険な場所に1人で行って、私には此処に残ってろと言うの?」

 

俺の顔を覗き込むように近寄ってくるアリスの瞳には、激情の炎が立ち上りどれほどの怒りを抱いているのかがよくわかった。

 

「もしそれでカイトが帰ってこなかったら、私は自殺するよ。カイトがいなくなった世界なんて私には考えられないもん。生きてる意味がないし、ただ待ってた自分が許せない。…逃げるなら1人じゃなくて2人で逃げようよ。誰もいない〈世界の果て〉にでもいいから。…でもね、〈人界〉で当たり前のように生活している人達のために、私たちは戦わないといけない。これからを担う幼い子供たちや、たくさんの歴史を積み重ねてきた〈世界〉を護るために」

「…ごめん。俺、弱気になってる。本心ではアドミニストレータを倒せなくても、何処かで4人で静かに暮らしたいと思ってるんだ。〈世界〉を救えなくてもいいからずっといつまでも…」

「…そうだよね。そうだったらどれだけ幸せなことか。…でもそれじゃ私たちのこれまでの時間は何だったのかわからなくなっちゃう。この19年間を無駄にしないためにも、前を向いて行こう?カイトならできるよ」

 

先程とは違い、慈愛に満ちた優しい微笑みで背中を支えてくれるアリスの存在。これがどれだけ俺の心の拠り所になっているのか自分でもわからない。ただ言えるのは、アリスの心の強さが誰よりも何よりも代えがたいものだということ。

 

「アリス、俺は必ず果たしてみせる。それでも2人を連れて行けない」

「…本当のことを言うとね、私も2人を連れていきたくないの。本当なら関わる必要もないんだから、ここで縁を切っても仕方ないと思う」

「ああ、これからは〈整合騎士〉としての任務だ。〈システムコール。ジェネレート・ルミナス・エレメント〉…」

 

俺は自身の信念を貫くために動き出した。

 

 

 

少しして騎士長と2人が追いついてきた。何もない空間を見渡している2人には敢えて声をかけずにいて、騎士長に視線で思いを伝える。少しばかり視線を送り続けると、理解してくれたようで頷いてくれた。

 

「ここが99階なのか。何もないな」

「最上階の手前だから何かあると思ってたけど、何もなくて逆に驚いてるよ」

 

感想を口にする2人に悪いと思いながら〈神聖術〉を組み上げる。

 

「次が最終ボスか。やってやるぜ〈世界〉を救うために!」

「〈システムコール。ジェネレート・アンブラ・エレメント〉」

「なんでカイトは〈暗素〉を構築してるんだい?」

 

ユージオが問いかけてくるのを背後に感じながら俺は解放した。

 

「〈バースト・メレメント〉!」

「なっ!?」

「何で!?」

 

自身に纏わり付いてくる黒い靄を祓おうと、両腕を振り回すキリトとユージオ。だがどれだけ手を振り回しても身体から離れようとしない。まるで意思を持った生き物のように的確に視界を奪ってくる。

 

「ど、どうして!」

「…ごめん、ユージオ・キリト。俺はやっぱり2人を巻き込めない。自分勝手な奴を最後まで信じてくれてありがとう」

 

そう言いながら天井から、降りてきていた円盤に3人の騎士が乗り込む。キリトとユージオも乗り込もうと脚を動かすが、〈暗素〉で視界を妨げられては、的確な方向に進むことも距離を測ることもできない。円盤が上昇していく僅かな振動音が耳に届く。

 

「「〈システムコール。ジェネレート・ルミナス・エレメント。バースト〉!」」

 

2人が同時に相反する〈神聖術〉を唱え霧散させた頃には、跳躍力では届かない高度まで円盤が上昇していた。3人とも背を向けて、毅然とした姿勢で立っているのが2人の胸を穿つ。

 

「カイトぉぉぉ!」

「アリスぅぅぅ!」

 

大切な友人と幼馴染の名前を喉をからして叫ぶ。また失ってしまうのか。二度と会えなくなるのだろうか。何度それを悔いたことだろう。あの喪失感がどれだけ自身の心を蝕み、周囲のみんなに影響を与えただろうか。

 

「な、なんで…」

 

消えゆく幼馴染の顔が振り返って口だけを動かした。

 

「さよなら」




結局、原作通りの進行になってしまうんだよなぁ。アリシゼーション再開までの5ヶ月。ハーメルンでスタンバってます(白目)

セントラル・カセドラル決戦編以降の章にての質問

  • そのまま続編を書く
  • if編と称して2人がそのままいた話を書く

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