アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス

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なんとか今月中に投稿...。疲労とモチベーションの影響で書けません...。

書きたいんですよ?もちろん。書きたくても睡眠不足で指が動かない。できたとしても短時間しかないからそこまで書けない。

今日の行き帰りでどうにか完成までこぎつけたって感じです。

愚痴ってすみませんww。そろそろこの章もクライマックスですね。頑張って書きますのでよろしくお願いします!


相対

どうして?僕じゃ足でまといにでもなるのかい?

 

僕の剣技じゃ君には勝てないのはわかってる。自分の限界が見えるというより、君が僕には至れない次元にいる気がするから。

 

〈整合騎士〉だっていう理由だけじゃないだろ?確かに〈整合騎士〉になった君は、7年前と比べ物にならないほど成長してる。遊びで剣をぶつけあった時だってそうだった。どんなに僕が全力で挑んでも、君は余裕の動きで攻撃を躱していた。そして隙をついては僕を上回った。

 

そのことについて恨み言を言うつもりは無いよ。そんなことを言えるほど、僕は偉くもないし強くもない。剣の才能がない自分が悪いんだから。そして君はそれに対して、文句を口にすることは1度もなかった。どれほど僕が惨めな負け方をしても、改善点を諭すように教えてくれた。

 

負け続ければ投げ出したくなるだろうけど、そんなことを思うことなくむしろそれを楽しみにしている自分がいた。普通ならそんなことは思わないよね。もしかしたら僕は周囲の人とは感じ方が違うのかもしれない。僕が可笑しくて周りが普通なのか僕には判断できないよ。

 

でもこれだけは言える気がするんだ。僕が諦めることなく君たちに挑むことが出来たのは、不思議な魅力を秘めているからなんだって。知り合いを。そして素性の知れない会ったこともない人を引き寄せてしまう何かを持ってる。だから僕を置いていかないでよ。ここまで来て置いていかれるのは、耐え難いぐらいに辛いよ。カイト、君はどうしてそこまで僕を踏み込ませないんだい?

 

僕が大切だから?失いたくないから?じゃあ何でアリスは連れていくの?教えてよカイト。隠し事を親友にするなんて卑怯だよ。

 

見なよ。キリトはずっと君の名前を叫び続けてる。聞こえないと分かっていながら、君を連れ戻そうと足掻いてる。痛いんだ。心がじゃなくて魂がさ。キリトの叫びが心からではなく、魂からの叫びだってことは悲鳴に似た声音から分かるんだ。

 

だからまた君の隣を歩かせてよ。今まで見れなかったはずの新しい景色を僕にも見せてよ。

 

「「カイトぉぉぉぉぉ!」」

 

2人の魂の叫びが99階の空間に木霊した。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「「「...」」」

 

99階から100階である〈神界の間〉に至る上昇通路を進む間、3人は言葉を交わそうとしない。会話がないためか。はたまたこの上に待つ最終最悪の敵が、もうそこまで近づいているからなのか。

 

不穏な空気だけが狭い空間に漂う中、アリスはカイトの左手を握っていた。2人を拒絶するような行動してしまったことで、自分への腹立たしさが許容量をオーバーしたカイトを慰めるように。だがカイトの手を握るアリスの手も震えていた。アリスも似たような心情であり、上に行けば行くほど空気が重くなっているのを実感しているから。

 

目に見えなくとも、そこにいるだけで感じるほどの重圧。強者だと、簡単には倒せない敵だとわかっていても冷や汗が浮かびそうになる。いや、あの存在(・・・・)を知らずとも一度相対すれば、大抵の人間が恐怖するだろう。恐れ。畏れ。魂の根源にまで影響を及ぼしかねないその視線。

 

銀色の透明な視線で何者も見通す視線。人を見ているようで見ていない。真に見ているのは魂そのもの。どのような物がそれ(・・)には詰まっているのか。その凶悪な探究心こそが、最高司祭アドミニストレータの存在意義そのものなのかもしれない。

 

「よかったのか?」

「...何がですか?」

 

我慢しきれなくなったようでベルクーリが沈黙を破った。普段の彼ならその強靭的な鋼の意思で、己の我慢を抑え込むはずだ。なのに彼は今回は素直に己の感情を口にした。それだけ彼も2人のことを気にしているのだろう。

 

「あいつらを裏切ったこと(・・・・・・)以外にねぇだろ」

「叔父様っ!」

「いいんだアリス、その言い方が適切だしね。それにオブラートに包まれて言われるよりは直球の方がありがたいよ」

 

アリスを宥めながらカイトは、なんとも形容し難い表情と眼をベルクーリに向ける。その視線にベルクーリは居心地が悪いのだろうか。少しばかり視線を外しながら続きを話す。

 

「本心を言えば、あいつらを連れていくべきだったと思うんだ。最高司祭様と戦うなら、戦力は多いことに越したことはねぇからな。だがお前は2人を拒絶(・・)した。一体どういうつもりだ?」

「簡単なことです。2人をこのまま連れて行けば、2人は命を賭けて最高司祭と戦うでしょう」

「良いことじゃねぇか。2人の命で数万の命が救われるんだからよ」

「2人の命を無駄にする必要はありません!」

 

大声で言い返すカイトの声音は固く冷たい。それでいて他人の命を尊いと感じさせるもの。ベルクーリはカイトをただ静かに見つめる。まるで言いたいことを吐き出せとでも言うように。

 

「何故2人が命を失わなければならないのです!?...2人こそこの先の未来を担う存在なんです。そんな必要とされる人が死ぬ必要はない...」

 

カイトから零された本音。それは2人に死んで欲しくないという思いだけではない。これから先に起こるであろう人災(・・)を生き抜いてもらうために。力をつけてもらうために今は共に行動しない。したくても〈世界〉のために耐える。己の感情より優先するべき事柄だから。

 

だがカイトを見るベルクーリの瞳には蔑む光がなかった。むしろ暖かく見守っているような、そんな不思議な光がこぼれているように見える。

 

「...犠牲のない進歩なんてものはない。文明は数多の犠牲の上に成り立ち、前へと進んでいくもんさ」

 

それぐらいカイトにだってわかっている。でも親友がその犠牲になる必要は無い。させたくない。それを堪えるカイトにベルクーリは言葉を続ける。

 

「まったくお前ってやつは。相も変わらず他人の命を優先して、自分の命を勘定に入れない馬鹿だな」

 

ベルクーリの口調は穏やかで優しさに溢れていた。柔和な微笑みは、恐怖にひきつっていた2人の心を少しずつではあったが溶かしていった。昇降盤の狭い空間内にて行われる、少し異常な光景。2人の歳若い騎士を1人の初老の騎士が、幼子をあやすようなそんな様子。

 

異常や異様などというよりは、不思議なと言った方がいいかもしれない。ベルクーリの普段見せない新たな一面が、そんな風に和やかな雰囲気にさせていた。

 

「覚えてるか?お前の愛竜〈夢縁〉の母竜が歳で病気になった時のことを。オレは『安楽死させてやったほうがそいつのためだ』って言ったのにお前ってやつはな。『今を生きている生き物を殺す必要はない。竜だろうと。人間だろうと。植物だろうと。この世に生を受けた存在だ。それでも殺るというのなら自分を先に殺せ』って言いやがったんだ」

 

嬉しそうに微笑む騎士長が楽しそうだ。そんなことを言っていたのか。今改めて聞かされると、羞恥心で顔から火が出そうだ。でもそういえばそう言っていたかもしれない。今の俺が言えたことではないけど、それなりに命の大切さを考えていたんだろう。あの時は助けるのに必死で自然と口から出たんだと思う。

 

俺の愛竜〈夢縁〉の母竜は元々体が弱く、1年のうち巣で横たわっている日数の方が多いくらいだった。〈整合騎士〉に任ぜられて(・・・・・・・・・・・)から、暇さえあれば容態を見に行くぐらい世話をしていたっけ。

 

最初のうちは威嚇されて近寄れなかったが、何十回と繰り返すうちに受け入れてくれるようになった。行けばキュルキュルと鳴き声を上げて甘えてくれたし、産まれたばかりの〈夢縁〉を触らせてさえくれた。巣の手入れをすれば背中に鼻を擦りつけたり、頭や肩を甘噛みしてくれたり。「いつからそんなかまちょになったんだよ」というぐらいの変貌ぶりだった。

 

〈夢縁〉がそれなりに歩けるようになってからは、巣の周りを駆けたり昼寝したりと。動けない母竜の親代わりをしていた。

 

それがいけなかったのかな。

 

その日は朝からジメジメした雨が降っていた。

 

俺が〈夢縁〉の所へ行くのは珍しいことじゃない。母竜が好きな果物を両腕一杯に抱えて向かった。いつもの体勢で眠る母竜がいる。眠ったように動かない姿を見て、最初は深い眠りなんだろうなとあんまり気にしていなかった。だが何故か眼が離せなかった。

 

魂とその器が合わさった重量感がない。中身がなく外側だけがある籠のような感じといえばいいかな。だからしばらくしたらわかったんだ。

 

母竜はもういないって。

 

そう自覚したら母竜の身体が光の粒子になって空へ昇って行ったんだ。目の前から母親が消えたことに戸惑った〈夢縁〉が、俺に頬擦りしてくる。全ての光が舞い上がると空が晴れたんだ。朝からの雨が嘘のような、春の訪れを感じさせる暖かい光が零れる。その光はいつものような唯輝いているだけのソルスじゃない。

 

優しく包み込んでくれるような温かさをもたらす光だった。まるで俺と〈夢縁〉を見守っていると言ってるかのようで、〈夢縁〉を抱きしめながら泣いた。その雨が何かを理解したのかな。〈夢縁〉も身体を震わせて泣くのを必死に堪えていた。〈夢縁〉の弱さを見たのはそれが最後で、それ以来は前向きにストイックになっていった。

 

〈夢縁〉の存在がどれほど心の支えになったことか。感謝してもしきれないのが素直な気持ちだ。甘えん坊なのは、あの頃から変わらないが。

 

「お恥ずかしい話です。黒歴史なので記憶から削除しといて下さい」

「そいつはぁちと難しいぜ。なんせオレは覚えるのは苦手だし、忘れるのも得意じゃねぇからな。あんま期待しねぇ方が身のためだ」

「胸を張って言うことなんでしょうか?叔父様」

「...嬢ちゃんや、そんな眼でオレを見ないでくれ。惨めな気持ちになっちまう」

 

どうやらベルクーリも、アリスの絶対零度の視線には耐えられないらしい。耐えられる人物はいないだろうというのがカイトの本音である。キリトでさえ頬を引き攣らせるほどの威力であるから、当然といえば当然なのだろう。本人の意識がそれにどれほど割かれているのかわからないが。

 

そうこうしているうちに、昇降盤の動きが緩やかになる。上を見れば、天蓋の煌めきが眩しい。それに耳をすませば高らかに唄う声音が微かに聞こえてくる。その声音は攻撃系統の猛々しい響きではない。日常的に使用されるものであるのは、なんとなくではあるものの聞き取れた。

 

相手が気づいていないうちに攻撃を加えるべきだろうか?だが今立っている場所から、巨大な円形のベッドまでは、15mほどの距離が空いている。〈アインクラッド流〉を使うとしても、これほどの距離を一瞬で詰めきれる〈ソードスキル〉はほぼない。使えるとすれば《ヴォーパルストライク》がある。

 

...しかしあれはとてつもない〈イメージ力〉と〈心意〉を必要とする。しかも純白のカーテンによって、内部にいる目標を見つけられないのでは命中させることも出来ない。それでもやるしかない。外したとしても突進力の勢いで、間合いからは逃れられるはすだ。突進力はおそらく〈全アインクラッド流ソードスキル〉でも最高峰なのは間違いない。

 

「っ!」

 

右肩に担ぐような形に、抜刀した愛剣を移動させながら意思を固めていく。宙に漂うだけだった力の源が、凝縮されるように剣へと集まりだす。光は剣だけにではなく、カイトの身体をも覆っていく。それと共に、カイトが着ていた剣術学院の制服にも変化が現れる。高い襟と長い裾を持つ黒革の外套(・・・・・・・・・・・・・・・・)が、どこからともなく出現した。

 

その変化にアリスとベルクーリが(まなこ)を見開き、何が起こっているのかさえ理解出来ていない。それは当然のことである。たとえ〈整合騎士〉だったとしても、2人は〈現実世界〉と関係の無い〈アンダーワールド〉で暮らしている〈人工フラクトライト〉なのだから。科学文明と関わりのない2人には、その変化の意味がわからない。だがキリトが見ればこう言ったはずだ。

 

黒い騎士()》のようだと。

 

ジェットエンジンじみた金属音の轟音と、炎よりもずっと深いクリムゾン・レッドの閃光を放つ〈神器《翡翠鬼》〉。それはまるで死へと誘う死神のような出で立ちだ。

 

「ちっ!」

 

打ち出すと思われた直後、カイトが舌打ちをして攻撃モーショーンを解いた。金属音の轟音は空気に解けるように消え失せ、〈神界の間〉には先程までの静寂が訪れる。カイトが纏っていた黒のロングコートは光の粒子となって消え、剣術院の制服へと戻っていく。何故カイトは攻撃を止めたのか。

 

それは巨大な円形のベッドを見ればわかる。

 

「...まさか謀反を起こされるとはね。甘く見ていたかしらベルクーリ。そしてカイトとアリスちゃんも」

 

風素によって持ち上げられた純白のカーテンの隙間から、耳にこびりつくような不快な甘い声が聞こえてきた。僅かに開けられた隙間からは、どこにいるのか見えない。斬り付けようにも〈神聖術〉で攻撃されるのが目に見える。現れるのを待って隙を突くしかない。後手ではあるがそうするしかない。

 

「分かってたんなら話が早くて助かるぜ最高司祭さんよ。オレはオレのやり方でこの世界を変えるぜ」

「世界を変える…ね。簡単にそんなことができるとでも?」

「頭の出来が悪いオレにはできねぇだろうなぁ。でもそれは1人だったらという仮定だ。今のオレは1人じゃねぇ。ましてや自分だけでやろうとは思ってねぇよ。意見の一致したこいつらに手を貸すことしたんだ。覚悟しろよ最高司祭様」

 

ベルクーリが〈神器《時穿剣》〉を右手に構えて、アドミニストレータがいるベッドを睨みつけた。一方アリスはあまりの恐怖で震え、立つことさえ覚束無い様子だ。だが無理もないことだろう。アドミニストレータの存在は〈絶対〉で〈不変〉。その恐怖は計り知れない。アリスが弱いのではなく、ベルクーリやカイトが素の状態でいられることの方が、異常と言ってもいいだろう。

 

「呆れたわね。私に従っていれば《愛》を惜しみなく受け取れたというのに」

「言っとくがあんたの《愛》ってのは一方的すぎる。オレたちはそんなものを必要としねぇし、求める気はさらさらねぇ。無駄なもんとしか見ねぇよ」

「...ふふふふふ。そこまで言えるなんて成長したわねベルクーリ。あれから(・・・・)100年も経ってしまえば、壊れても仕方ないのかしら。いいでしょう。もう一度私の《愛》を教えてあげるわ」

 

その言葉が終わると同時に、3人へと得体の知れない何かが吹き付けた。それが何であるのかカイトにもベルクーリにもわからない。だがそれは異質で受け入れてはならないと、本能的に身体が拒絶したのは嫌でもわかった。愛剣の柄を強く握り直したカイトは、カーテンの隙間をぬうように現れた〈人界〉を統括する〈公理協会最高司祭〉アドミニストレータへと突進した。

セントラル・カセドラル決戦編以降の章にての質問

  • そのまま続編を書く
  • if編と称して2人がそのままいた話を書く

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