みなさん、熱中症や夏バテには十分ご注意ください!そして残り少ない夏休みを思いっきり楽しみましょう!
そんなことあるわけがない。
あのような存在をいとも容易く同時に複数を創作できるはずがない。視界の先では認めたくもない様子が現れ、それが現実であることを示そうとしている。受け入れたくない。こんなことがあって良いはずがない。そう自分自身に言い聞かせるがそれは意味のない行動だった。
存在感が。圧迫力が。畏怖が桁違いに濃いことがそれが現実だと認識させてくる。そう思わないようにするという行為自体が、
悪夢だと言ってくれ。こんなことがあってたまるかよ。そんな相手が2体いるだなんて勝てるわけがない。絶望だ。希望が見えた瞬間に舞い降りた絶望という名の現実。どうしたら
重々しい音を鳴らしながら、《ソードゴーレム》がカイトたちを包囲する。さらにその周囲で円を描くように動き続けるため、カイトたちはベルクーリを中心に卍の陣を敷きながら警戒していた。
「同等のものを造り上げれると言ったものの、さすがの私でもこれが限界だわ。記憶領域を崩壊寸前まで圧縮して造り上げたのだから、簡単に壊されるのは少し癪ね。さっきは呆気なく破壊されたけど、それは
「…あなたのしたいことは何なんだ?」
「支配よ。未来永劫決して崩壊することなく平和が保たれる世界を見守る。周囲に怯える必要もない安心できる世界。争うことがない安全な世界。自由に生きることのできる世界を見て感じてようやく私は満たされる」
両手を広げながら話す仕草は、まるで世界を包み込むようでもあった。アドミニストレータの手中に世界と民が囚われ、文明の発達や人類の繁栄は管理される。それの何処に〈自由〉が存在するのだろうか。
「周囲に怯えることもなく争いのない世界…か。そりゃ誰もが夢見る理想の世界なんだろうさ。でもそれじゃ人は学習しない。何も学ぶこともなく死を迎えてしまう!」
「それが悪いの?人が学習すると言うことは破滅へと向かうことを示唆するというのに」
「違う!人が学習することで文明は発達してきた。確かに人は争うことでしか物事を解決できない生き物だ。それでも争いを望まず、平和的な解決を望む人がいるのも事実だということがわからないのか!」
「人間ほど欲深い生物はいないわ。だから私がすべてを支配して管理するの」
キリトとアドミニストレータが主張し合っている間も、《ソードゴーレム》×2はカイトたちを包囲している。その動きは、どのようにしてカイトたちを仕留めるか観察している猛禽類そのものだ。
「…どうする?」
「2人と3人で分担しなきゃ駄目だろうな。オレと小僧2人、坊主と嬢ちゃんでという感じだ。行くぞ!」
「「「「はい!」」」」
それぞれがベルクーリの方針通りに《ソードゴーレム》へと突撃していく。カイトは〈記憶解放《襲色 紫苑の鎌》〉を武装して大きく振りかぶった。
鎌の部分が横に一閃された《ソードゴーレム》の剣と激しくぶつかり合う。単なる力勝負なら、カイトは呆気なく押し負けて吹き飛ばされるだろう。しかしカイトがそのことを認識できていないはずがなく。
鎌の部分と剣がぶつかった瞬間に、カイトは持ち手部分を剣の刃部分で滑らせていた。火花が飛び散り耳を貫くような高周波が鳴り響く。そのままの勢いでカイトは脚で剣を踏みつけ優雅に宙を舞う。その身体へ剣を突き出そうとした《ソードゴーレム》へ、単発水平斬りを繰り出したアリスによって中断を余儀なくされる。
その間に着地したカイトは、地を這うようにそして滑るように移動し鎌を左右へ往復させる。とてつもない衝撃音が響き渡り、《ソードゴーレム》が僅かに体勢を崩す。そこへ怒濤の勢いで2人が攻撃を仕掛ける。アリスが左右へ重い払いを繰り出すと、今度はカイトが上下から攻撃を繰り出す。
〈アインクラッド〉でモンスターは、異なる攻撃パラメータ(片手剣や細剣など)を持つプレイヤー複数に攻撃されると、反応が鈍くなるという実例があった。それはつまりアルゴリズムで動いているということだからだ。モンスターの危険性は誰もが知っている通り、攻撃力や防御力の高さ、状態異常攻撃などを絡めた戦闘方法が厄介だった。
アルゴリズムのもっとも強力な点は学習能力の高さにある。相手の動きを覚えることで予測を可能にし、攻撃を躱したりプレイヤーを殺すなど容易くこなした。単独戦闘ならば、簡単に倒せないモンスターだって何度も出くわす。倒せたとしても、HPバ-が半分程度まで減らす敵だっていただろう。
それほどの強敵であったモンスターでも苦手なことはある。アルゴリズムの性能には限界があり、それを超える行動をされれば対処できなくなる。誘導される動きならば尚更予測不能だろう。そのことを〈
《ソードゴーレム》の学習能力は、カイトの知っている〈アインクラッド〉のモンスターと比べることができないほど高度だ。直接相対したわけでもないカイトが比べるのは実に可笑しいことだが、それでもカイトの予想以上に《ソードゴーレム》が学んだことで、呆気なく均衡は崩れてしまった。
数分前に倒したときも最大限に集中して攻撃を行ったし、破壊できたのも偶然や必然ではなく、協力したことで成し遂げれたと理解している。だから今の事態も動揺を少なくして攻撃と周囲に集中していた。その甲斐あって攻撃を喰らうことなく、回避もなく確実にダメージを与えていた。
回避がないのはカイトにする必要がないからだ。カイトの〈神器《翡翠鬼》〉の特徴はその移動速度にある。《ソードゴーレム》の片腕にあたる右の剣を簡単に破壊した攻撃力も恐れるにたるものだが、もっとも注目するところは動きの軽やかさだ。
《翡翠鬼》のもつ特性は【
特性というものは〈神器〉のかつての事象や存在を意味する。《翡翠鬼》の元となった生物は、翡翠色の体色をした鬼だった。鬼としての存在は異質で、暴力的な力であらゆるものを破壊していた。そして走る速度も並の鬼で勝てるはずもない。それらを可能にしていたのが肉体を形作っていた筋肉量である。筋肉はあらゆるものの礎となり、また力を引き出す根源にもなる。
〈神器〉との調和があればあるほど力を引き出すことは可能だ。ベルクーリは《時穿剣》と共に100年を過ごしているのだから、絆値など見なくともお互いが信頼しているのはわかる。ならば何故カイトが10年も共にしていない《翡翠鬼》を使いこなせているのか。それは後々わかることだろう。
カイトたちが交戦していたのとは違う《ソードゴーレム》と戦っていたキリトたちが、今まさにその命を散らそうとしていた。
どかっ!ざしゅっ!ぐさっ!
連続して3つの肉が断ち切られる音がカイトとアリスの耳に届いた。視線を向けると、血に染まった巨大な剣が眼に入る。そんなことがあるはずがないと懇願しながら視線を移動させると、とめどなく血を床に流して倒れている3人がいた。
「あ、ああああ、…ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「キリト・ユージオ・叔父様ぁぁぁぁぁ!!!!」
先程まで交戦していた《ソードゴーレム》を無視して、俺たちは3人を斬り倒した張本人へと猛然と突進した。決定的な死を与えようとしている敵に最大速度で接近していると、俺たちを追って《ソードゴーレム》が追従してきた。
「ここは私が!カイトは行って下さい!」
「っ頼んだ!」
アリス1人では足止めできないとわかっていながら、アリスの想いを無碍にはできず脚を動かす。アリス1人では《ソードゴーレム》を止めることができたとしても数秒が関の山だ。決してアリスの技量が低いわけじゃない。《ソードゴーレム》が異常なまでに強すぎるだけだ。
「届けぇぇぇぇぇぇ!」
〈記憶解放〉を解除して通常形態に戻し、俺は〈アインクラッド流上段突進技《ソニックリープ》〉を発動させた。約10mを突進できるこの〈ソードスキル〉は、こういう危険なときに使うことで、走るより速く動くことができる。
キリトに振り下ろされかけていた巨大な剣の側面に、《ソニックリープ》が直撃して大きく跳ね上げた。だがその凄まじいまでの反動が俺の右手を伝って、身体の芯までも振るわせる。跳ね上げた剣では俺は斬られないだろうが、奴には未だ5本もの攻撃剣が存在している。1本しか攻撃剣を持たない俺に躱5など不可能な話だ。
だがそんなことで諦められるわけがない。諦めてしまえば、俺だけでなく致命傷を負っている3人までもが死んでしまう。
「諦められるわけないだろ!っせい!」
衝撃で跳ね返される勢いを利用して俺は後方宙返りをした。その際に右足のブーツの先に眩い光が生まれる。俺が使用したのは〈後方宙返り蹴り技《弦月》〉。《体術》を扱えるのは、剣術院時代キリトにユージオと2人して習っていたからだ。とはいえ主に習得したのは、拳や肩による攻撃である〈閃打〉や〈メテオブレイク〉といったものだけ。なのに何故使えるというと、それは見様見真似でやってみたらできたというだけの話。
〈アンダーワールド〉でキリトが《体術》を用いた戦闘を行ったことは一度もない。
理由としては、双方の了解がなければ〈天命〉を減らすことは《禁忌目録》で禁止されているから。その前に剣で戦いをするのだから《体術》を使ってしまえば、どんな理由で罰則を喰らうか予想もできない。
《体術》を仕込まれた期間は、1ヶ月だけだったがそれなりには使えるようになった。キリトとの戦闘では勝率5割ではあったけども、自分もそれなりに扱えるようにはなったと自負していた。だから見様見真似でも発動できたことに、これといった感慨めいたものは何一つ浮かばなかった。
あるとすれば発動できて良かったという安心感ぐらいだ。
「っ!」
うなりを上げて突き出された剣を辛くも避けて着地する。後方宙返りが成功していなければ、今頃俺の首は宙を舞っていたことだろう。
「かはっ…」
攻撃を繰り出そうとモーションを起こした瞬間、背後でアリスの吐血する声が聞こえた。振り返ればその細い身体を分断するかのように突き出された剣で、串刺しにされたアリスが剣を引き抜かれて床に倒れるところだった。倒れた瞬間からあふれ出る鮮血が、純白の大理石を染めていく。
「アリス!クソがぁぁぁぁぁ!」
我を忘れて俺はアリスを串刺しにした《ソードゴーレム》へと、無謀な突進をしてしまう。その哀れな姿が《ソードゴーレム》×2にどのように映っているだろうか。これぞ「飛んで火に入る夏の虫」というものだ。〈アインクラッド流単発重攻撃技《ヴォーパルストライク》〉を繰り出すために引き絞った右手を突き出す瞬間。
「ぐはっ!」
背後から背中を串刺しにされ、その衝撃が全身に伝わる。胸元から飛び出した切っ先に、付着した自身の血に触れてみる。
生暖かく紅い。そして多い。
痛みなんぞ感じない。ただただ貫かれた部分が熱くて苦しい。身体を貫いていた剣が引き抜かれたことで、俺は背中から床へと倒れ込む。5人もの人間の血が散乱した〈神界の間〉。よくもまあそんな皮肉じみた名称にしたなと、薄れゆく意識の中で笑った。
黒ずんでいく視界の先にアドミニストレータが佇んでいる。最後の力を振り絞って今の表情を見てやろうと視線を上げる。だがそこには俺の予想していた表情とは違う表情を浮かべるアドミニストレータがいた。頬から涙を流し憂いているようにも見える表情に驚く。
この7年間何度か見てきたアドミニストレータと、《知識》として知っているアドミニストレータとの違いに脳が思考を躓かせる。いや、気のせいだろう。〈天命〉減少による視界の縮小の見間違いだ。あいつがそんな表情を浮かべるはずがないのだから。
意識を手放そうと眼をつぶった瞬間、特大の雷鳴が轟き瞼を閉じた状態でも眼を潰されそうな閃光が〈神界の間〉に拡散した。僅かばかり瞼を持ち上げると、見間違いようのない緋色のワンピースを着た妙齢の女性が、微笑みながら俺を見ていた。
「…カ、カーディ...ナル」
「よく頑張りましたねカイト。ようやく私の番ということなのだから、少しぐらいは休んでいて良いのですよ?」
「そ、んな...こ、と…で、きる…わ、け、な...い…だろ。抑止、力に…な、る、と…決め...た、あの…日、から」
この世界が間違っていると理解した日から。カーディナルと出会った日から。俺は世界を護るべく抑止力になると誓った。生きる意味を失わず、夢を追い続けている子供たちを。そんな子供を応援している親たちを庇護する。
俺がこの世界の《覇者》になると己自身の魂に誓ったんだ!
「あらあら、言うことを聞かない子供だこと」
口でそう言っていても表情はまったく怒ってなどいない。むしろ今の状況を楽しんでいるようにも見える。そんなよくわからないもう1人の支配者であり、裏の管理者であるカーディナルが杖を振ると、煌めくものが床に横たわる俺たちを包んでいく。
柔らかい羽毛の布団のようなもので包まれたような暖かさと安堵感を同時に感じられた。光が傷口に吸い込まれていくが痛みは一切伴わない。少しだけ熱が走り手を触れると完全に塞がっていた。俺がこれほどの治癒力を得ることは絶対に無理だろう。立ち上がると、床に倒れていた他の4人が少し遅れて横に並んでくれる。相変わらず息の合った動きに苦笑しながらも、周囲の警戒は怠らない。
「坊主、こいつは誰だ?」
「名前はカーディナル。200年前にアドミニストレータと戦い、追放されたもう1人の最高司祭です。もちろん敵ではありませんよ。俺たちをここまで導いてくれた人です」
「信用できるなその言葉は。〈神聖術〉ってのは使用者の感情を映すと言われる。俺たちを治した高位の術は暖かさに溢れていた。それはつまり術者が俺たちの命を憂いているということだ」
再び全員が怪我をしたとは思えない立ち振る舞いをするので、《ソードゴーレム》×2が僅かに狼狽しているようにも見えた。今この瞬間こそが、世界の破滅か存続を決定づける分かれ目になることは間違いない。
「さあ、この落とし前を付けさせてもらうぞアドミニストレータ」
俺は《翡翠鬼》の切っ先をアドミニストレータへと突きつけた。
クライマックスですね〜。あと3話ぐらいで〈セントラル・カセドラル決戦編〉も終わるかなと思っております。なんとしてでも学校が始まるまでに、投稿すると決めましたのでよろしくお願いします!
追記。Fate Stay night Heven's FeelⅡ lost butterfly初回限定盤届きました!映画館でも見ましたが、作画のレベルにただただ感嘆するばかりです!最終章にも期待です!