アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス

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オリジナル展開がぁ…

結局原作とほぼ一緒じゃねぇかぁ!


思い出

「カイトとアリスは僕の幼馴染だったんだ。生まれた日も近くて家族のように育ったよ」

 

ユージオの遠くを見る濃いグリーン色の瞳が揺れている。その話を俺は顎を抑えながら聞いていた。まさかあのパンが顎にくるほど堅いとは思わなかった。齧りついたまでは良かったが、まさかの堅さに顎と歯の耐久力が負けた。〈天命〉が僅かに減少したことによって、俺の精神力は若干下降気味だった。

 

「〈天職〉を与えられるまでは、3人で毎日のように走り回って平和な毎日を過ごしてたんだ。時には喧嘩したこともあったけど、お互いに信頼し合っていたから喧嘩していたんだと今では思うよ。〈神聖術〉はアリスが一番上手くて、剣の腕はカイトが一番上手かった。僕はどれも苦手で3番目だったけど、2人はそのことを理由にしてからかったりしなかったんだ。むしろ上手くなるように練習方法を探してくれたりするぐらいお節介だったよ」

 

ユージオは俺が痛みに耐えていることを気にせず、苦笑しながら話を続ける。気にしないというよりは気付いていないというのが現実だろうが、それを口にして話の腰を折る必要もないだろう。

 

「…僕は弱かった。僕はその2人の優しさにすがっていたんだ。だからあの日、何もできずに2人が連れていかれるところを、ただただ呆然として見ることしかできなかったんだ」

「なんで2人は連れていかれたんだ?」

「禁忌を犯したからさ」

「禁忌?」

「《ダークテリトリー》への侵入だよ。遠出した時に帰り道がわからなくなった僕たちは、広場の両端に空いている穴の片方へと足を向けたんだ。だけど向かった方向は行っては駄目な方向だった。アリスとカイトは入りたくて入ったわけじゃなくて、事故で《ダークテリトリー》に入ってしまったんだ。ううん、この言い方も正確じゃないね。《ダークテリトリー》の地面に、手が少し触れてしまっただけなのに2人は連れていかれた。あの時僕は何もできなかった!」

 

ユージオの眼には涙が溢れている。思い出せば思い出すほど、あの頃の自分の弱さを呪っているのだろう。何もできなかった自分が弱くて何もできなかった自分が腹立たしい。

 

何故あのとき手を差し伸べようとしなかったのか。俺も似た感情を感じたこともありユージオの気持ちは理解できた。

 

危険なことを伝えていれば。自分の本当のことを言っていれば。短い期間であっても、友人として接してくれた5人が死ぬことはなかった。初めて出会ってレベルを聞かれたときに、何故本当のLv.を言わなかったのか。本当のレベルを口にしていれば、彼らを巻き込むことも死なせることもなかった。

 

でも彼らのアットホームな雰囲気は、1年近くのソロプレイに少々疲れていた俺にとって、すがりつきたくなるような優しいものだった。だから俺は嘘をついてでも彼らと行動をしていたのだろう。その思いが他人を死に追いやる原因になるとは知らずに。

 

だから俺はユージオが涙を流していることに、笑ったり余計な言葉をかけて慰めようとは思わなかった。彼の言いたいようにさせておくことがベストだと思えたのだ。

 

「安息日に僕たちは〈果ての山脈〉に行ったんだ。氷を見つけるためにね」

「氷を?」

「うん。夏は料理の〈天命〉が速く減る。それをなくせるようにってことで、どれが効果が高いのか考えたんだ。そしたら氷なら長い間冷やせるっていう案が出たんだけど、そんなものは〈央都〉の市場にさえ夏には売ってないからダメだった」

 

〈央都〉とはなんぞやという思いが頭をよぎる。名前からしてどこかの都市の名前なのだろう。

 

しかしこの世界には氷という便利なものがないことに驚いた。

 

暑い夏にはあれが必須であるのにないとは残念だ。この先夏になるまでいたとしたら俺は耐えれるのだろうか。そんなどうでもいいことが、大切なことを話してくれているユージオの横にいる俺の頭の中で渦巻いた。

 

「考えていたら〈ベルクーリと北の白い竜〉っていうお伽噺に出てくるってことに気付いたんだ。そこで僕たちは冒険のように無邪気に向かって行った。そして結果はさっき話した通りさ。2人は僕の前から消えた」

「…そんなことが」

 

ユージオはこの6年間ずっと苦しみ続けてきたんだ。俺はなんて浅はかなんだろう。2年間の苦しみを、彼が感じていた苦しみと重ねるなんて。彼の方が何倍も何十倍も苦しんでいるじゃないか!なのに、俺は俺はっ!

 

…何故彼と自分を重ねたのだろう。同じ孤独を味わっていたことに対する共感だろうか。だがそれでは説明にならないような気がする。

 

「でも僕はこの6年間は耐え難くはなかったよ。そりゃ2人と幼馴染だったことで、みんなからは遠目で嫌な眼を向けられることはあったけど。でもセルカがいたからそれほど辛い思いをしなくて済んだよ」

「セルカってあの教会にいた女の子か?」

「うん、アリスの妹だよ。性格はなんとなく似てるけど、今は無理をして似せている気がするんだ」

「似せている?アリスとかいう子に?」

「うん。アリスは〈神聖術〉が村で一番の腕前だったんだ。それに比べてセルカはそこまで才能に恵まれていなかった。でもそれはアリスと比べたからであって、村のみんなと比べたら十分な腕前さ」

 

ユージオの説明する顔は、まるで妹の自慢をできる兄のように優しいものだ。

 

この世界でもどうやら俺がいた世界と似たような様子が起こっているらしい。才能のある者が身内にいると、それに劣る存在はすげなくあしらわれる。それは才能をその者にも求めているという事実に他ならない。

 

本人たちは才能がないことを残念に思っているつもりだろうが、その対象になっている存在からすれば同情されている。あるいは貶されていると勘ぐってしまうのだ。人間の心(彼等は人工フラクトライトだが)というものはままならないものである。

 

「でもそんなセルカだから僕はアリスを連れて帰りたい。あの頃みたいに純粋な笑顔を浮かべられるようにしたい。でも僕はそんなことできる人間じゃないんだ」

「どうして?」

「僕は臆病だからさ。動かそうとしてもあの時は足が根っこになったみたいで、まったくその場から動けなかったんだ」

「今なら助けに行けるんじゃないか?」

「それこそ無理だよ。僕にはこの〈天職〉があるからね」

「じゃあ安息日に行けば」

「1日しかないんだ。行けないのは当然だろ?早馬を使っても〈央都〉までは1週間かかるんだ。どうしたって間に合わないさ」

 

そこまで言われるとそれ以上は言えなくなる。それでも俺は一刻も早くこの世界から脱出しなければならないのだ。だが無理を言って連れて行ってもらうという選択肢は消えてしまった。この村から彼を連れ出すには、あの樹を倒せばいいのではないのだろうか。

 

可能ならばどんな手を使ってでも倒さなければならない。

 

「なあユージオ、この樹を伐る武器でこの斧より強いものはないのか?」

「あるわけないだろ?その斧は竜の骨から削り出したもの。今村にある物の中で一番優先度が高い。これ以上となるとそれこそ〈整合騎士〉が持つような…いや、ある。それに近い物が」

 

ユージオはそう言って立ち上がった。俺に仕事を再開しておくよう言い残して何処かへと走り去っていった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ユージオが帰ってきたのは、俺が50回斧を振り終わってからだった。

 

「これがさっき言ってたこれより優先度が高い物?」

「…ああ。気を、…つけなよ。…足に落としたら、…かすり傷じゃ、すまないぞ…」

 

そのようだ。

 

ユージオが地面に横たえた革袋に包まれた何かの重さは、尋常ではない。紐を解いて中身を露出させると、その見栄えの良さと存在感に圧倒される。水晶のように透き通りながらも、鈍く霞むような水色の刀身。同じ(いろ)の薔薇を模った柄頭は、なんとも優美な装飾だ。

 

「《青薔薇の剣》、僕は(・・)そう呼んでる」

僕は(・・)?それじゃあそれは正式名称じゃないのか?」

「たぶんね。それにこれがあることを知ってるのは僕だけさ。見つけたのは〈果ての山脈〉で3人で行ったときだ」

「試してみる価値はありそうだ」

 

鞘に収まった状態では到底持ち上げられるような重さではないが、柄を持って気合いを入れながら抜刀すると嘘のように軽くなった。軽くなったとはいえ、自由に振り回せるという意味ではなくどうにか支えられているという状態だ。

 

「この刀身の素材ってなんだ?」

「硝子でもないし、鉄でもなければ鋼でもないからよくわからないんだよね。触れると冷たいから、氷かと初めて見たときは思ったけどそんなはずがない」

 

冷たくもあるが凍るという感じではない。でも触れると芯が凍り付くような不可解な冷感があって、不思議な触り心地だ。

 

「ねえキリト、まさかそれで伐るとか言わないよね?」

「むっふふふふふ。そのまさかさユージオくんよ」

 

俺が剣を軽く素振りすると、ユージオが恐る恐る尋ねてきた。性格の悪い笑みを浮かべるとユージオが脱力するので、俺のこの笑みは他人の精神を疲弊させる特性があるらしい。新しい己の特徴に気付いて嬉しくもなりつつ、若干落ち込む感じで剣を構える。

 

イメージは剣を別物として見るのではなく、己の体の一部として捉える。動かない物体が目標であれば、単発の水平切り《ホリゾンタル》で十分なはずだ。

 

剣をテイクバックさせると、重さで左足が浮いてしまうがなんとか後ろに倒れないようにしながら浮かせる。その際、右足は強く地面を踏みしめ、滑らないように地面を捉える。右足で地面を強く蹴り、その勢いで体重を左半身へと移動させる。足と腰の捻転力によって、腕の力だけでは不可能な重さの剣が弧を描いていく。

 

システムアシストやライトエフェクトは発生しなかったが、俺の動きはまったく〈ソードスキル〉と同じ動きを模倣していた。体重が乗ったことで僅かに浮いていた左足が、地面を捉えて強く踏みしめられる。両脚が地面を捉えたことで体幹は安定し、重い剣が思うように自分が移動させたい空間を切り裂いて、目の前に佇む目標点へと接近する。

 

ズガァァァァァン!とすさまじい音がして剣がピンポイントで直撃した。

 

が…。

 

「いってぇぇぇぇぇ!」

「ほら、いわんこっちゃない!」

 

直撃するまでは良かったがその際の反動はすさまじく、右手は転げ回りたくなるような痛みに襲われていた。〈現実世界〉であれば手首だけではなく肩から脱臼し、下手をすれば二度と元には戻らなかっただろう。そう思わされるほどの痛みだった。

 

痛みを感じて気が付く。この世界で痛みを感じるということは、〈ペイン・アブソーバ〉が働かないということに。だがそれに気付くタイミングはもっと前にあった。丸パンを噛んだ際に感じた固さの反動だ。今頃になって気付くとは我ながら辟易とする。

 

「これは予想外の反動だ」

「そりゃそうだよ。なんせ〈竜骨の斧〉でやっても失敗したら呻くのに。より優先度が高いんだからそれくらいの痛みは感じるさ」

 

俺を笑いながら見下ろすユージオは、剣がめり込んだ〈ギガスシダー〉にあのSに似た模様を描いていく。叩いて浮かび上がった《ステイシアの窓》を見てユージオは驚愕した。

 

「どうした?ユージオ」

「…嘘だ、ろ?一撃でこんなに減るなんて…」

「ん?…うぇ…」

 

ユージオの後ろから覗き込んだ俺はついそう声を漏らした。そこには20何万という膨大な数字が書かれている。

 

「そんなに減ったのか?」

「キリトが伐る前が23万2315。今は22万2315。ちょうど1万減ったことになるね。僕が2ヶ月で50減らすのがやっとだったんだ。それを今の一瞬で覆すだなんて。考えは正しいけど、そこまで痛みを抱えると…」

「する気にはなれないよな。でもユージオならできるんじゃないか?斧をずっと振ってきたんだから、俺よりできると思うんだけど」

「やってみようかな。面白そうだし」

「さすがユージオ。わかってるねぇ」

 

俺の人を上げる調子の良さに苦笑しながらユージオは剣を握る。重そうにしてはいるが俺より安心して見ていられる。どうやら俺の予想通り、ユージオの筋力は俺より高いようで安定した立ち方をしている。

 

「重いよキリト」

「斧よりは重いだろうけど慣れたら大丈夫さ。やり方は重さをもっと意識して、腕だけでじゃなくて体でも感じるんだ」

「わかったやってみるよ」

 

剣を引いて一瞬のためのあと、シッ!という短い気合いと共に、地面にこすれるようなほど近い距離から振り抜かれた剣が幹へと接近する。切り込まれる瞬間、僅かに左足が滑り跳ね上がった剣は、切れ込みから大きく逸れた部分に接触し、甲高い音を発生させてユージオは後ろへと跳ね飛ばされた。

 

「おい、大丈夫か?」

「いたたたた、これは思ってた以上に痛いね」

「ユージオでもダメならこの案は没だな。いい線いってたと思うけどなぁ」

「上手くいけば効率は良いだろうけど、失敗したら効率は斧でやるより悪くなるね。さてと仕事に戻らないと」

 

そう言ってユージオは〈ギガスシダー〉に立てかけていた〈竜骨の斧〉を手にとって、嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべた。

 

「うわぁ、この斧が嘘みたいに軽く感じるよ。まるで羽みたいだ」

「うお、ここまで軽いのか!?これなら捗りそうだな。悪いな仕事の邪魔をして」

「いいんだ僕も楽しかったし。〈天命〉をかなり削ってくれたからね」

 

こうして喜んで貰えると実行して良かったなと思える。時間を無駄にしたわけだが、時にはこういった息抜きをしても良いだろう。

 

俺はまだ2日目だが…。

 

俺の横で斧を振り始めたユージオの楽しそうな表情を見て、俺も心が癒やされる気がした。




今はアイデアが溢れているのでアリシゼーションはまあまあ早くに投稿できるかと思います。

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