アリシゼーション~アリスの恋人   作:ジーザス
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にゃはははははオリジナリティーゼロ

へばるぜよ


苦悩

ユージオが熱心に斧を振るっている横で、俺は何故上手く剣を操れないのかを考えていた。確かにALOではこれほど重い剣を振るうことはなかった。

 

ALOだけでなく〈旧アインクラッド〉でも支えるのがやっとの剣を握ろうと思ったことはない。SAOの世界では命が最優先される事態だったから、余計な想いを抱く暇はなかったのだから仕方ないが。

 

ALOでも身の丈以上の重い剣を使っていたが、それでもこれほどまでの不安定さはなかった。

 

もしかしたらこの世界では、ステータス以上のアイテムは装備することができないようになっているのかもしれない。

 

ゲームでいうコスト制限に似た何かが存在するのだろう。

 

何気なく自分のステータス・ウィンドウ、この世界でいう《ステイシアの窓》を開けてみる。左手の甲にSに似たような文字を描き、軽くタップする。

 

浮かび上がった紫色の矩形を食い入るように眺める。ログアウトボタンを反射的に探してしまうが、それらしきものは見つからないので少しばかり落ち込む。

 

最上段にはUNIT IDという文が書かれておりそれは無視する。なぜなら今の俺には関係がないだろうと推測したからだ。

 

その下にはパンや〈ギガスシダー〉にもあったDurabilityという耐久値、すなわちこの世界における〈天命〉を指している。

 

3280/3289と数字が減っているのは〈青薔薇の剣〉を振るった反動だろう。

 

二行目にはObject Control Authority:38とSystem Control Authority:1という文字が書かれている。

 

「オブジェクトコントロール権限(以下OCA)これか?」

 

単語の意味からしてアイテムを扱う権限のことだろうと予想するが果たしてどうだろうか。試しに革袋に包まれていた〈青薔薇の剣〉の《ステイシアの窓》を開けてみる。

 

すると耐久値197700という〈ギガスシダー〉に迫る〈天命〉に頬をひくつかせるが、その下に書かれている数字を見て納得する。

 

Object Control Authority:45。

 

俺は38で剣が45。数値が届いていないのであれば思うように振ることができなくて当然だ。だが問題は別に出てきた。思うように扱うためには数値を同じかそれ以上まで上げなければならないのだが、その方法はまったくもって想像できない。

 

SAOのように敵を倒すことで上げられるのであればいいのだがそこでも問題が発生してくる。何を倒せば経験値とやらを得ることができ、どこに行けば出会うのか。

 

方法がわかってもそれを達成させるための目標物がなければ意味はない。

 

ため息を吐き足元に咲き誇る植物を何気なく見る。翡翠色の花弁に藍青色の実という謎の植物はどこか儚げだ。摘み取ろうとするとユージオに制止される。

 

「キリト、ダメだよ!」

「え?」

 

…ユージオの静止も叶わず俺は実を指先でつついてしまった。

 

「ごはぁ!なんじゃこりゃぁ!」

 

少量の液体と粘液性の物質を飛散させて実は破裂した。その臭いは強烈で〈現実世界〉におけるアンモニアに近い刺激臭が鼻腔に突き刺さる。

 

「ぐおぉぉぉ!」

 

鼻がもげそうなまでの強烈さに、俺や先程まで斧を振るっていたユージオも〈天職〉を中断させるほどであった。

 

「げほげほ!キリト、その植物は〈サンネリア〉っていう名前で実が割れると、とてつもない刺激臭がするから害獣の対処方法の一つとして使われるものだよ。ただ、原液じゃあまりにも強烈すぎて獣たちは失神するからかなり薄めて使用するんだ」

「俺大丈夫か?」

「人体には直接の影響はないらしいから大丈夫さ。ただその臭いをつけたままだと嫌われるよ」

 

最後は苦笑しながら言うのでひくつきながらもなんとか笑みを返す。確かにこの臭いをそのままにして教会に帰ったら怒られるよ。

 

シスターはそういうところに厳しいし、セルカにはまたバカにされかねない。それだけは勘弁だな。

 

「洗えば落ちるか?」

「水じゃ落ちないから臭い消しの薬草があるところまでついていくよ」

「ありがとうユージオ」

 

ユージオは一時的に斧を置いて俺を案内してくれた。

 

 

 

「五十っ!ふぅ、さあキリトの番だよ」

「あいよ」

 

〈サンネリアの実〉の臭いを落としてからユージオは斧振りを再開して、俺はそれを眺めていた。

 

ユージオが渡してきた斧を握り、〈ギガスシダー〉の前に立って構える。テイクバックさせ斧の全体重が乗った瞬間、腰と腕の捻転力で思いっきり振り抜く。

 

〈青薔薇の剣〉よりはるかに軽く感じられる斧は狙った部分へと吸い込まれるように向かう。

 

コーン!と心地よい音の余韻に浸りながら俺は頭の片隅で、先程の結果をもう一度吟味していた。

 

俺のOCAは使用したい〈青薔薇の剣〉のOCAよりも低いため自由に使用できない。振るうためには権限を上昇させなければならないが、そのための方法はわからない。

 

予想はついているが、それが正しいと証明できるまではなんとも言えない。試すにも回りには敵はいないし場所さえもわからない。

 

今はこの斧を振るうことで少しでも上昇するのを祈るしかない。

 

でも何故自由に使用できないのかという理由がわかっただけでも良しとしよう。

 

俺は雑念を追い出すかのように懸命に斧を振り続けた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ユージオの思い出話を聞いていたのと〈青薔薇の剣〉の試し切りをしたことで、予定より少し遅れて〈天職〉を終えた。

 

「今日はこれで終わりだよ」

「かなりしんどいなぁ。ありとあらゆる関節が悲鳴あげてるぜ」

「あははははは。僕だって始めた頃はそうだったよ。でも300年かけてこれぐらいしか刻めないんだから疲労で多少はかどらなくても問題はないよ」

「300年振り続けてたったこれだけなのか?」

「うん。この樹は1日刻んだ深さの半分を夜のうちに回復させちゃうんだ。周囲の〈テラリアの恵み〉を膨大に吸い上げて」

 

〈テラリアの恵み〉とはなんぞやと思う。だが周囲に木々が生えていないことや、傷を塞ぐことから栄養に近い何かなのだと推測できる。

 

「そのせいで僕らの村はこれ以上麦畑を広げられないんだ。だから〈央都〉から大変なお金をかけて、この〈竜骨の斧〉を取り寄せて代々刻み手に振らせているんだ」

「うえ、俺だったら逃げ出すよ」

「キリトならやりかねないかもね」

 

ユージオと他愛ない会話をはさみながら村へと帰っていく。ユージオが〈天職〉として仕事をする場所は村からかなり離れているので、なんとなく不便なのではないかと思えてくる。

 

「なあ、ユージオ。村から遠くて面倒くさいと思わないのか?これだけ離れてるとさ」

「う~ん、もう慣れちゃったから今は特に思うことはないかな。あるとしたら鐘の音が聞こえないから〈ソルス〉の高さで時間を予想しなきゃダメってことぐらいかな」

「そんなに気にしてないんだ」

「慣れたからね。それに村のみんなに見られることもなく自分のやりたい速度でできるからむしろ嬉しいかな」

 

ユージオの顔に嘘をついているような様子は見られない。心優しいからなのかそれとも本当にそんなふうに感じているからなのか。

 

出会って2日ではさすがに、そこまで見通せるほどの俺は素晴らしい洞察力を持ち合わせていない。アスナなら気付けたかもしれないがそれを考えても今はどうしようもない。

 

俺自身でユージオの本心を聞き出して知るしかない。

 

「じゃあ、また明日ねキリト。今日の仕事はなかなか楽しかったよ」

「俺のほうこそ付き合ってくれて嬉しかった。またやろうぜ」

 

ユージオと別れの挨拶をしてから教会のドアを開ける。本来であればノックしてから入らなければならないが、俺はここの住人として扱われているらしく、そこまで礼儀をわきまえなければならないことはないらしい。

 

礼儀正しいことができない脳筋野郎だからありがたいが…。

 

世間一般がどの程度までのことを指すのかわからないがある程度のことは網羅しているかなと思いたい。

 

「シスター、ただいま戻りました」

「あ、キリト兄ちゃんのお帰りだぁ!」

 

教会の主に声をかけたつもりだったのだが、反応したのはこの教会に引き取られている少年だった。

 

歳は10才くらいだろうか。幼さの残る顔に嬉しそうな笑みを浮かべて抱きついてきてくれるので優しく受け止める。

 

兄と呼ばれることに感極まるぞ。俺にはスグがいるから「お兄ちゃん」と呼ばれることは慣れているが、まったく知らない子供から2日で呼ばれることに新鮮味がある。

 

「お帰りなさいキリトさん。それにしても貴方は子供になつかれやすいのですね。彼は人見知りなのであまり他人と話したがらないのです」

「こうして来てくれる辺りそうは思いませんけどね」

「貴方に何か惹かれるものがあるのでしょう」

 

背を向けて教会の奥に消えていくシスターの背中を眺める。

 

子供が惹かれる何かを俺が持っているからか。周囲に壁を作り塞がりながらも、寂しがり屋である俺に惹かれる何かがあるのかと疑問に思う。

 

〈ベクタの迷子〉ということで興味本位的に来ているのではないと俺にもわかる。もしかしたら無理無茶無謀という三拍子揃った俺の性格が、子供らしくて惹かれるのだろうか。

 

それはそれで悲しいのだが…。

 

「なあセルカ、俺に子供が惹かれる何かがあるのか?」

 

子供たちに食事の準備を指示したセルカに聞いてみる。

 

「子供っぽいところかしら」

「子供っぽいって…」

「悪い意味でとらないでね。無邪気で見ているこっちが和むみたいな感じだから」

「それはつまり俺の方がセルカより子供だってことか?」

「あら、今の言葉でよく気付いたわね」

 

まったくこの少女は人を小バカにするのが好きなようだ。もしかしたら俺限定なのかもしれないが、それは特別扱いという良い意味なのか悪い意味でなのか判断はつかない。

 

「ひどいぜセルカ」

「こうやってあんたを弄ることで少しは気を抜けるんだから感謝しなさい」

「弄られて喜ぶと思うか?」

「キリトならあり得るかも」

「この!」

「キャーキャー」

 

悲鳴をあげながらも楽しそうに笑っているセルカを見ると、こっちも何故か楽しくなってくる。不思議な少女だと思ったがふとユージオの言葉が脳裏をよぎった。

 

『セルカは性格をアリスに似せている』

 

今の様子を見る限りそのようには思えない。アリスがどのような性格だったのかわからないが、ユージオの話を聞く限りさぞ面倒見がよかったのだろう。

 

今のセルカも面倒見が良くて無理をしていない。自分がしっかりとしなければならないと思ってやっているのだろうが、楽しそうだから俺がわざわざ口に出す必要はない。

 

「もうすぐ夕食だから手を洗ってきてね。サボったら夕食抜きよ」

「…へいへい」

 

面倒臭がりな俺にとげを突き刺してくる。本当にしっかりしてるよトホホ…。

 

 

 

SAOで見たことのある子供たちの戦争じみた夕食を、シスターとセルカの3人で微笑ましく眺めてから今度は風呂へ入る。

 

シスターとセルカ、女の子2名を含んだ4人が先に入ってから俺と男の子4人の入浴となる。

 

「ふぃ~、極楽極楽」

 

散々はしゃぎ回った腕白坊主どもを風呂場から追い出し、ようやく静かになったところでオッサンっぽいセリフを吐きながらゆっくりと湯船に浸る。

 

今日1日でわかったことはRPGにおいてコスト制限なるものがあるように、この世界におけるOCAはそれ以上になると自由に使えなくなるということ。

 

ゲームのようにコストがオーバーしているとクエストに行けないということではなく、ただ単に使いづらくなるということ。

 

〈竜骨の斧〉のOCAを見ていないので定かではないが、俺より高く《青薔薇の剣》よりは低い。だから多少なりとも使いこなせる。だがそれがわかったところで根本的な解決にはならない。

 

権限を上昇させるための方法が思い付かない以上、問題解決には至らないからだ。

 

ゲームというのは起動させる前に必ずといっていいほどするであろう、その内容の把握が今回はないうえに、ここの内部では〈現実世界〉と似て非なる存在があるから余計に悩ましい。

 

〈神聖語〉は英語もあればラテン語との造語もあるので一概には一つの用語とは言えないし、迂闊に英語を口にすればユージオを不安にさせてしまう。

 

本当に気を付けないと生きにくい場所だ。だが同時にそれ以上にわくわくする世界でもある。〈人工フラクトライト〉であるユージオたちと触れ合う機会がこんなにも身近にあるのだから。

 

「誰かまだ入ってるの?」

 

悩み事を脳内で再生させているとセルカの声が扉越しに聞こえてきた。

 

「ごめん、俺だ。すぐでるよ」

「ゆっくりでいいわ。でも出るときにはお湯を抜いといてねおやすみ」

「あ、セルカ。このあと時間ある?」

「…私の部屋はもう子供たちが寝てるから貴方の部屋で待ってる」

 

つまり話をするぐらいなら大丈夫ということだ。俺はセルカにカイトとアリスについてセルカ目線からの意見が聞きたかった。

 

我ながら簡単に女性を誘えたことに拍手を送る。人との間に壁を作ってきた俺ができたのだ。OCAを40にまであげてほしいと創世主に願いたくなった。




ツンデレは神。撫でたいでふ


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