斬魄刀ガチャでSCP-444-jpみたいなの引いた 作:はなぼくろ
これは私がまだ真央霊術院に所属する、死神見習いのぺーぺーだった頃の話だ。
自分で言うのもなんだが私はかなり出来るヤツだった。斬拳走鬼を不足なく修め、高水準で纏めたオールラウンダー。
傑出したものこそなかったものの、どの能力も他のボンクラ共とは一線を画した天才だった。頭もよかったし。
あの年がら年中頭お花畑のにっっっっくき京楽クソッタレ春水や、病弱お坊っちゃんの浮竹十四郎クンにごくごく偶に、万が一億が一の不覚を稀に取られることがあったとしても(勿論本来なら有り得ない。あの時はちょっと心なしか風邪気味だった気がする)、次には徹底的に倍返ししてやった。
そんな天っっっ才で強くて頭が良かった私にも、意外かもしれないが雌伏の時というものがあった。
これは、あのクソボケ___私の斬魄刀の話だ。
*
当時の真央霊術院には日に数刻、刃禅を組む時間があった。
刃禅というのは、わかりやすく言えば、座禅を組み、瞑想して斬魄刀に意識を沈めて刀と会話する儀式のようなものだ。
この儀式を経て我々死神見習いは配られた浅打を自分のモノとし始解に至る。これはその為に設けられた時間なのだ。
なにしろ死神になるなら始解の一つや二つ習得せねば、とてもじゃないが狡猾で強力な虚と戦うなどやってられん。
なので戦力増強という意味合いで、この始解の習得が死神見習いには義務付けられていた。
まあ、正直刃禅自体は余裕だった。だって天才だし。他の連中は苦労してんだろうなぁとほくそ笑みながら、私は刀の奥底___私自身の心象世界へと意識を沈めていった。
気付けば、私は元居た場所とは違うどこかに立っていた。
四方八方、見渡す限りどこまでも広がる原野。ともすれば世界の果てまでこうなのかもしれないと思ってしまうほど限りのない原野だ。
そして、なにより赤い。空が、セカイが紅い。夕暮れ時のノスタルジックな赤とは程遠い、血の色を彷彿とさせる不吉な緋色に覆われていた。
不気味な場所ではあったがしかし、この現実味のない異様な光景は刃禅の影響か意識が朧気になっていた私の思考を叩き起すにはもってこいだった。
そう、私は斬魄刀を取りに来たのだった。
そう思うと、こんな気味の悪い場所に一人放り出された不安など木っ端微塵に吹き飛んでいた。そんな下らない心象よりも自身の斬魄刀に対する期待の方が勝った。
どんな斬魄刀だろう。直接攻撃系の斬魄刀だろうか?太刀か?鉈か?斧、いや槍やもしれん。ああ、でもこの私の斬魄刀だし、もしかするとビルみたいな巨大な剣かもしれん。だとちょっと困っちゃうなぁ。
あ、鬼道系という線もあるな。火吹いたり氷漬けにしたり、雷を鳴らすというのもいいなぁ!
いずれにせよ楽しみだ!
期待に胸膨らませ私は原野に仁王立ちする。さあ、カモン我が斬魄刀。お前の主人はここにいるぞってな具合で。
私は待った。待ち続けた。この昼なのか夜なのかも分からない世界で。いっこうに来る気配を見せないソレをかれこれ5時間は待ったが。
終ぞ、それが目の前に現れることはなかった。
閑古鳥の代わりなのか、頭上はるか上空を旋回する烏がカァと啼いた。
*
結局、この時始解を習得し損ねた私はこのことを教官の死神に伝えた。
折角内なる世界的なとこに行けたのに、そこには斬魄刀っぽい人型も生物もいなかった。聞いていた話とは大分ズレた現実。
なにかしらの不手際があったかもしれないが自分ではさっぱり分からなかったので助言を請うことにしたのだ。
幸いというか、教官なる死神は尸魂界始まって初期から存在する最古に近い死神だった。ふくよかに蓄えた女の長髪ほどあるそのひと房の髭と同様に、さぞ深い含蓄を蓄えているに違いないと踏んでの相談だった。
「ふむ、本来ならそのような事は有り得ぬ。斬魄刀とは己が心と同じようなもの。心があるならばそこに対応する何かしらが存在するが道理よ」
「しかし、私が確認する限りは何処にも。隠れていたにしろあんな原っぱのどこに身を潜めることができましょう。あまりにも何も無さすぎて烏が呆れて啼く始末ですよ」
「烏とな?」
教官の言葉に、何かおかしいところがあっただろうかと思いつつ私は頷いた。
すると彼は得心がいったという風に呵々と笑った。
「成程な。二階堂よ、内なる世界には自分と斬魄刀以外の生命は存在せぬ。即ちソレが貴様の斬魄刀の姿よ」
マジかよ。あの烏が私の斬魄刀だって?もうちょいこう、威風堂々とした武人とかどデカイ龍みたいなの期待してたんだが。
「はっ、先程も言ったであろう。斬魄刀とは己が心を映すもの。貴様の性根には相応しい姿だと思うが?」
このジジイはいつか泣かすと決めた日だった。
*
まあ、腹は立つが的を射た助言を貰い問題解決の糸口は見つけたので、意気揚々とリベンジに挑む。
ジジイは言った。斬魄刀は持ち主の心を映すのだと。
ならばあの烏とて身形はアレでも、私の肚から出でるものならさぞ高尚な烏に違いない。ちょっと期待が込み上げてくる。
再び緋色の原野に立った私はすぐ様上を見上げる。やはりというか、そこには弧を描くように赤い空を旋回する一羽の烏がいた。
おそらく、前に来たときも烏はそこで私を待っていたのだ。
空を踏むように、足下に作り出した霊子の壁を駆け上がって烏に接近する。
元の世界では出来ていたが、心象世界で同じことが出来るかちょいと不安だったので上手くいってホットした。
期待が足を早める。私は破竹の勢いで霊子の階段を駆け上がっていく。
だというのに
烏の姿は未だ地上で見かけた時の大きさのままだった。もう地上から百メートルは離れてる筈なのに。
奇妙な感覚。距離感を狂わされているような。近付いているはずなのに遠のいている気分になる。
次第に平衡感覚すらも狂ってくる。最早私は上を向いているのか下を向いているのかすらも分からなくなってきた。
危険な空気を感じた。しかし、引き返そうにも最早どこが戻るべき場所なのかが分からなくなっていた。
気付けば地上だった原野は無くなり、緋色の空間が周りにあるだけだった。烏という目印を失えばどうなるか分からない。我武者羅になってソレを目指す。
自分と世界を分け隔てる輪郭がカタチを失う。足を動かす感覚が無くなった。ただ、意識だけが懸命に烏を目指していた。
そして不意に____烏の目が私の意識を射抜いた。
蛇に睨まれた蛙のような心境。直感的に思った。私は食べられるのだと。
そこに風景としてあるだけだった烏は旋回を止め、こちらに向かって急降下を始めたようだった。
そこで初めて、烏が近付いてるという実感が湧いた。
それは鳥というにはあまりに巨大だった。距離感が狂っている。数十メートルの巨躯をもつ烏がその嘴を大きく開けて迫っている。
そして、
私は貪られて死んだ。