斬魄刀ガチャでSCP-444-jpみたいなの引いた 作:はなぼくろ
「やあ、やっとお目覚めかい」
寝起きに髭面の間抜けな面を見るなんて幸先が悪いなと思いながら、私はベッドから上体を起こす。
確か私は心象世界にてあの烏に食われたはずだがどういうことだろう。精神世界で死んだところで現実の霊体には害がないということだろうか。
「ここは?」
「真央霊術院の医務室。君が刃禅組みに行ったっきり戻ってこないもんだから心配して探しに出たら、草っ原で気持ち良さげに気絶してるとこを僕が見つけたんだ」
「そうかい。さんきゅー髭」
「とても感謝してる風には見えないケド。まあ、ありがたく受け取っておくことにするよ」
私の軽口に苦笑しながら、髭面の優男はそう答える。
こいつは京楽春水。私の同期で、こやつも真央霊術院で死神としての訓練を積んでいる。
なんでも貴族出身とかで、元からそこそこ特訓されてたのか腕はなかなかいい。私の次に。
頭もなかなかキレる。私の次に。
私は嫌いだがぶっちゃけ人柄も悪くないし一見欠点のない完璧人間に見えるが、なかなか色を好むようで女隊士を見つけてはセクハラ紛いなことをしでかす変態だ。
ジジイはこいつを昼行灯で実は聡明なヤツとか思っているらしいが、私に言わせればこいつは"働かない働き蟻"だ。
「ところでいつの間にか着替えさせられてるんだけど、まさかとは思うがお前がやったんじゃないだろうな髭」
「いやぁ、ちょっとだけだよ?なぁに見られたって減るもんじゃないんだからさ」
「死ね」
そう言って掌で鬼道を練ると構えてみせる。
すると慌てたように突き出した両手を振りながら京楽が叫んだ。
「冗談だって!着替えさせたのは他の娘達さ。僕が君を抱えてきたのを見て血相変えて持ってきちゃったんだよ」
「物みたいに言うな。つーか冗談でもそんなこと言うなよ気持ち悪いだろうが」
悪びれもせず「ごめんて」なんていう髭を見て気勢を削がれたので手を仕舞う。まあ元から打つ気なんてなかったが。
「まあ、割と本気で感謝してるよ。ありがとね」
「おっ、ツンデレかい?可愛いとこあるじゃない」
「いや、お陰で風邪ひかずにすんだなって」
「あ、そういう問題なんだ」
そりゃお前、腹出して外で寝てたら風邪ひくに決まってんじゃん。何言ってんだか。
「で、なんだってあんなところで倒れてたんだい?まさか昼寝してたってわけでもないだろ?」
「あー。ちょっとね、始解をね、ミスっちゃったもんで」
意外そうな顔をする京楽を見て、ちょっとバツが悪くなって目を逸らした。
なんで倒れてたかだって?そんなもん私が聞きたい。
基本的に斬魄刀は主人に友好的だと聞いたが、あの糞烏のどこにそんなしおらしさがあったというんだろうか。有無を言わさずご主人様を食っちまいやがって、なんだってんだ。
あー思い出しただけでなんか腹たってきた。
「へー、あの"天才"で"最強"の二階堂朱玄ともあろう御方がまさか失敗なんてことをするとは.........珍しいこともあるもんだね」
「おい、なんか含みがある言い方だな。言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ。お姉さん怒らないから」
「いんや~?べっつにぃ〜?」
間延びした喋り様に思わず拳を握る。相変わらずムッかつくなあこいつ。
ヤケに剣術が上達してたから徹底的に距離取って鬼道で狙い撃ちしてたのをまだ根に持ってんだろうか。肝の小さい奴よ。
「そういうお前こそどうなんだよ?いい加減、始解の"し"でも出来るようになったのか?ふっ、まあ先ずお前じゃ____」
「ああ、出来るようになったよ。おかげさまで。花天狂骨っていうんだ。見る?」
___無理。と続けようとしたらこいつトンデモナイこと抜かしやがった。
えっ、マジ?だってお前、こないだ刃禅も出来ねーって言ってたじゃん。だからドヤ顔で私講釈垂れたのに。うわっ。メッチャ恥ずかしいんだが!?
「うん.........見るわ」
「じゃあちょっと待っててね」
京楽が斬魄刀を手にブツブツとなんぞを唱えると、手に持った普通の刀だったそれがみるみると変貌を遂げる。
噴き出す霊圧の圧が凄まじい。私が全力を出してもここまでのチカラは出ないであろう。なるほど、これが始解。あるのとないのでは隔絶した差があるわけだ。
そして滂沱のように溢れていた霊圧が収まると、そこにあったのは大振りの太刀。それも二本。
「二刀流!?マジかよカッコイイな!羨ましいわ!」
「いやぁ、そんなに素直な反応されると嬉しくなるねぇ」
触ってもいいよ。と了承が出たので花天狂骨の一振りを手に持ってみる。
重い。ずっしりした重さだ。私が振れば両手で持っても振り回されかねない。ましてそれが二本。相当な筋力と技量が要求されるだろう。
ま、京楽ならばそこの所は大丈夫か。
それにしてもかっけえ.......。二刀流は浪漫だ。使い勝手とか性能だとかはカッコよさという絶対的な価値の前ではカスに等しいといって良いだろう。
いいなー欲しいなー。あの糞烏も二刀になんないかなー。
「そういえば浮竹も始解出来たってさ。しかも僕とお揃いの二刀流」
「なん......だと......」
浮竹も始解を習得しているだと?私を差し置いて二人も?
野郎二人で「お揃い」とか言っちゃうのマジキモイなとかそんな感想は置いておいて、これは由々しき事態だ。
真央霊術院トップ3の内、私だけが始解出来ていないという事実。こいつは私の沽券に関わる問題だ。
「ちょっと、立ち上がってどこに行くつもりなのさ」
「いや、ちょいとばかし烏をシバキ倒しに」
「何を言っているんだい君は」
浅打を握り、とっとと出掛けようとする私を京楽が肩を押さえつけて邪魔をしてくる。
「離せェ!私は何が何でも今日中に始解を会得するんだ。邪魔をするなぁ!」
「いやいや、病み上がりなんだから今日はしっかり身体を休めた方がいいって、ね?」
「病み上がりがなんなんだ。手足をもがれようが這いずってでも泥臭く勝利を得るのが死神の華だろうが。このくらいどうってことないって!いけるいける」
「いやダメだって。というかここで君に出られたら山爺から怒られるの僕だし」
「さては貴様そっちが本音だな偽善者め!」
「いったい何を騒いでいるんだ!」
混沌とした押し問答に終止符を打ったのは、凛としたそんな声。私の容態を聞きつけてやってきた噂の浮竹本人が扉を開けて開口一番に叫んだ言葉だった。
しかしその口はすぐ様閉じられることになる。なぜならば彼の目の前に広がる光景には京楽の腕力に負けベッドに押さえ込まれた私と、跨るように私を押さえつける京楽の姿が映っていたからだ。
「あー、すまん。取込み中だったか。出直してくる」
「待て待て待て待て。マジでその勘違いキモイからやめろォ!」
どうにかこうにか浮竹を引き止めてなんとか誤解を解いた後、真相を知った浮竹に長々と説教を食らうハメになって、結局私はその日刃禅をしに出掛けることは出来なかった。
「病み上がり時が一番危ないんだぞ」という浮竹の言葉には年がら年中病気してるだけのことはあるなと思わせる程の含蓄と切実さが込められていた。
まあ、別にどこでだって刃禅出来るんだけども。どうせやるならリラックス出来る馴染みの場所の方がいいというのが持論だ。
生半可な気持ちでやっても失敗するだけだろうとも思ったし、今日のところは浮竹の顔を立ててやろうと刃禅はせず、そのまま眠りについた。
*
「なんで」
思わず声に出た。
刃禅もしていないのに、私はあの心象世界に広がっていた緋色の世界に立っていた。
その事実に気付くと同時に反射的に上を見上げる。いた。烏がいる。
なんだってあいつが夢にまで出てくるんだ?いや、そんなおかしなことでもないのかもしれない。元々あの心象世界は私のものだ。なら、夢を見るまでに意識を心の中に沈めれば自ずとここに落ちてくるのも道理なんだろう。
兎も角、私は期せずして再チャレンジのチャンスを得ることになったのだ。
にしても、あの烏は何がしたいのか。聞く話によれば対面した斬魄刀は主人に何かしら語りかけてくるものだという。
奴はそんなの知るかとばかりに私を襲ってきたが、もしやそんな道理も常識も分からない見た目通りの畜生なのかもしれない。鳥頭だしな。
ならそうだな。そんな矮小な生き物に一個人としての対話を求めるのは酷なことなのだろうな。
もっとこう、動物と戯れるように親しみを込めて接するべきなんだろう。私はあなたの敵じゃないよって。
くそ、自分の斬魄刀がこんなんだとは情けなくて泣けてくる。しかし無いもの強請りしたところで無い袖は振れぬのだ。
「おーい烏やーい。そんな所にいないでこちらへおいで。話をしよう」
大声で呼び掛けつつ体全体を使ってアピールする。これは前回の教訓だが、あの烏相手には見かけの距離は信用ならない。
どれだけ近付こうが、奴自身が気付いてこちらに近付こうとしなければ意味がない。恐らく、私の斬魄刀の能力に深く関わる性質なのだろう。いずれにしろ、"認識"が攻略の鍵なのだ。
そうこうしていると烏はやっと私に気付いたのか、あの時と同じようにこちらに向かって急降下を始めた。
その光景に寒気が走る。何故ならアレに食われた記憶を、痛みを私は鮮明に覚えている。恐怖するなというのがおかしいのだ。
そして、ソレが私の目の前に降り立った。
やはり大きいなと思ったが、よくよく見ればそれすら定かではなかった。自分より大きな翼獣にも見えれば、普段見かけるただの烏のような矮小な姿にも見える。
ヤツの身体の輪郭が曖昧で、上手く像を結ぶことが叶わない。それが斬魄刀の能力なのか、これが夢だからなのかは定かではないが。
目の前で警戒するように私を見やるソレに私は手を広げて近付く。敵対の意思はないのだと視線で、身体で見せつけながら。
そして手を伸ばせば届くまでの距離まで辿り着く。
烏は相変わらず私を見やるばかりでなにかしらのアクションを起こそうとする気配も見せない。
さて、何を語りかければいいものか。
「あー、こんにちは。もしくはこんばんは。どっちなのかは分からないが、兎も角この間ぶりだ」
私の言葉に反応したのか、烏が首を傾げるように傾けた。ちくしょう。なんか可愛いな、お目目がクリクリだ。
「前のことについて私はあまり怒っていない。お互いについて何も知らなかった故の、些細な行き違いが生んだ悲劇なのだと思う。なら、それはしょうがないことだ」
この畜生に言葉が通じるのかは定かではないが、なんとなくニュアンスで伝わるよう身振り手振りで情報を付け加えていく。さながら言葉の通じない南蛮人を相手にしている心境だった。
「君は斬魄刀。私はその担い手だ。君が私の心に巣食うものである以上、君の生命のためにも私の生存は重視するべき事項だと思う。そして私が戦場に身を置く死神であるから、君は私を助けるべきなんだ。そのことは分かるね?」
ぶっちゃけ大分アレなことを言っている自覚はあるが、この際しょうがない。こいつが何故か私に敵対しようとする以上はどんな手を使ってでも丸め込まなくてはならない。
「だから、君のためにも君のチカラを私に貸して欲しい。私も君のために誠心誠意努力すると誓う。駄目かな?」
手を取ることを期待するように掌を差し出す。
それを見て烏はなにか考えるように頭を振ると、差し出した手に頭を擦り付けた。
やった。通じた!やっぱり言葉は偉大だ。対話こそが人に与えられた最大の武器なんだ!
にしてもこいつ可愛いな。まるでペットみたいで____
不意に、私の身体を不快なナニかが走った。苦痛。見ればあの烏が嘴を私の腹に根本まで沈めていた。
烏が捩るように頭を振る。それに合わせて私の中に挿し込まれた苦痛の塊が腹の中で踊った。
「ぁっ、がっ」
声にならない。込み上げてくる痛みに。いや痛みだけではない。想像を絶する痛覚は知覚出来る限界値を越え、余った分が吐き気に変換されていた。ドロドロの苦痛、不快感に脳が思考が溺れていた。
ズルり。と烏が埋めていた嘴を引っこ抜く。同時に食まれていた腸が引き抜かれて、ピンク色のぷるりとした内臓が私の腹からはみ出ていた。
まるで糸の切れた人形みたく私の身体は崩れ落ちる。腹に力が入らない。今までそこに詰め込まれていたものが無くなってしまった喪失感だけがそこに残っていた。
視線だけで烏を見やる。相変わらず表情の読めない顔つき。いや、最初からそれの浮かべていた顔は一つだったのだ。
即ち、餌を見やる目。
そして、私の身体は烏の嘴型に肉を抉りとられ。二度目の死を迎えた。