斬魄刀ガチャでSCP-444-jpみたいなの引いた 作:はなぼくろ
及び隊士37名
以上の変死に深く関与したと思われる
元護廷十一番隊隊長 二階堂剣八に一万年の"無間"への投獄を命じるとともに、その斬魄刀「████」に零番隊 兵主部一兵衛による恒久的な封印措置を行うものとする。
数百年前に起きた事件の顛末より
僕が彼女を初めて見たのは、確か茶会の一席でだったと思う。
元々僕の京楽家も彼女の二階堂家もそれなりの身分を持つ上流貴族だったし、次男ではあるけど京楽家の跡取り候補であった僕と、二階堂家の長女であった彼女が引き合わされたのはそうおかしな話じゃない。
今でこそあんな粗暴に振舞っているけど、あの時の彼女はとても女性的だった。言葉遣いも丁寧だったし、彼女の目遣いや振る舞いには確かな淑やかさを感じた。
僕自身結構グッとくるものがあった。容姿も整ってたしね。結婚に対してあまり乗り気じゃなかった僕も、この人となら吝かではないなって思ったよ。
まあ、そんな思いは数刻もしたらぶち壊されることになったんだけどね。
二人きりになった途端、彼女は自身の本来の性格を赤裸々にした。
「申し訳ないんだけど、貴方と結婚する気なんてこれっぽちも無いんだわ。すまんね」
口調はもっと砕けてたと思うが、端的に言えばそんなことを彼女は僕に告げた。
驚く僕を余所に彼女はさらに続ける。それを纏めるとこうなる。
彼女は二階堂家を出て死神になること。その際、二階堂家とは完全に縁を切ること。なので政略結婚紛いのお見合いに付き合うつもりは一切ないこと。
そんなことを彼女は言っていた。
僕が「なんだってそんなことをするんだい?」と聞くと、彼女は鼻で笑って答える。
「この家が嫌いだからだよ」
貴族としての生まれが気に入らないのか?と聞くと彼女は首を振る。
「二階堂家が、父様が嫌いなんだ」
酷く侮蔑の篭った表情で吐き捨てるように言う彼女に、僕はちょっとした違和感を覚えた。
二階堂家の当主である彼女の父は人徳の人だ。流魂街の荒涼した地区を訪れては、飢餓に悩む霊力ある子供を匿い食べ物を与えていると聞く。
そんな人格者をなぜ嫌うのか?実は裏では自分の子供に厳しいとか?
「あいつが裏で子供達にホントは何してると思う?」
彼女の言葉の圧に、真実は僕の考えているような生易しいものではないと直感した。
僕の考えられる限りの、幾つもの凄惨な光景が脳裏を過ぎる。
ショックを受けた僕は彼女に何故告発しないのかと聞いた。
「あいつは狡猾で頭が回る。証拠なんて残さない。証拠が挙げられなければ上流貴族は裁けない」
苦虫を潰したような苦渋の表情を浮かべた彼女はしかし、次の瞬間には笑ってこう言った。
「だから死神になって、チカラを得て、私が殺してやるんだ」
*
僕が真央霊術院に入学すると、同期の一覧に彼女の名前を見つけた。
二階堂の名を取れていないところを見ると完全な縁切りは出来ていないらしかった。もしかすると家を出るための妥協案だったのかもしれない。
稽古が始まる。勿論、真剣を用いた斬り合いじゃなくて木刀を使った剣術の訓練だった。
当時の段階で、山爺曰く傑出した才能を持つとされた生徒は二人だけ。僕と浮竹だった。
僕はぐうたらだからお家の稽古もサボっていたし、そんなことを言われるのは意外だったが、山爺が言うには僕達の剣筋には天稟を感じさせるものがあったらしい。
そんなこんなで山爺は僕と浮竹によく直々に稽古をつけるようになった。さっきも言ったけど僕はぐうたらで、浮竹の方は身体は弱いわで、僕達はヒィヒィ言いながら日々の訓練に身をやつしていた。
しかしながら彼女は、二階堂朱玄はお世辞にも強いとは言えなかった。
筋力が物を言うことが多々ある剣の稽古で、小柄な彼女は男の膂力の前では容易く弾き飛ばされた。加えて、木刀に身体を振り回されて剣技どころではない。彼女に才能はなかった。
鬼道は剣よりマシだったが、それでもせいぜいが並。これも才能があるとはいえなかった。
ふと休みの日に庭にいる彼女を見つけた。
木刀を振り、稽古で習った剣術の動きの一つを愚直に繰り返していた。同じ動作を延々と。
しかし、そこにはこれといったキレがない。
僕にはその原因がその剣振りに使う筋肉の使い所、身体の動きが間違っているからだと気付いた。
あのままじゃ、へんなクセがつくだけで一向に上達しないぞと思った僕は見て見ぬ振りは出来ず彼女に声をかけた。
結局見合いの日に出会ったきり、顔を合わせることはあっても話し掛けはしなかった僕に、彼女は怪訝な表情を向けてくる。
僕はそんな彼女を宥め、君の練習は間違っていると指摘した。
少しムッとした風な表情を浮かべた彼女は、少し考えるように視線を彷徨わせると具体的に何が違うのかと聞いてきた。
言葉を交えながら手取り足取り教えてやる。すると動きに納得したのか、教えた通りの正しい動作で幾度か剣を振ると、ふりかえって「ありがとう」と笑顔で僕に言った。
それから彼女は事ある毎に僕に分からないところを聞きに来るようになった。やれここの動きはどうするのだとか、やれあの鬼道の霊子イメージはどうなのとか。
僕の分かるところを聞いてくるウチはどうにか対処はできたのけど、だんだんと処理できなくなってきたので山爺に相談した。
話を聞くとそんな熱心な子がいるのだなと山爺は感激していた。悪かったね、僕が熱心じゃなくて。
その日から山爺は今まで目もくれていなかった彼女を扱くようになり、彼女が僕のところを訪れる回数はとんと減った。
休日まで稽古のことを考える必要があまりなくなったことに僕は喜んだ。
ある日、鬼道ありの実践形式に近い試合で僕は彼女に負けた。試合模様は殆ど鬼道も交えない剣による接近戦の様相を呈していたのにも関わらず。
体格も、力も、腕の長さも僕の方が上だった。なのに負けた。
僕の放った斬撃を彼女は悉く捌き、避け、受け流す。そして僕が剣を振り抜いた隙を狙い澄まして、彼女は僕から一本を奪っていった。
単純な技量負けではない。アドバンテージは僕にあった。それなのに負けたのだからこれは完敗だった。
あの時の彼女の剣捌き、体捌きに特筆すべき驚嘆すべき技術はなかった。彼女が用いたのは全て、稽古で習った基本の型ばかり。
驚くべきはそれの完成度の高さ。無駄を一切削ぎ落とした、流れるような動きだった。
僕は山爺に相談した。なんで僕が負けたのか。元々僕の方が技術は上だった。肉体的なアドバンテージも僕が持っていた。そして山爺曰く才能もあるらしい。なんでそんな僕があんな小柄な女の子に負けるんだと。
「そんなこと決まっておるだろう」
拗ねたように言う僕に山爺はそう前置きして言った。
「奴の方がずっと練習しておったからじゃ」
*
それから僕は何度か彼女に辛酸を舐めさせられ、最初の敗北から一ヶ月後。僕は彼女に勝った。
当然の結果だった。彼女同様、あれから暇を見つけては鍛錬を積んでいた僕は一ヶ月で彼女の技量に追いついていた。ならば拮抗した技量を持つもの同士、あとに勝敗を決めるものは他のアドバンテージの差なのだから。
一本を取られ、地面に伏した彼女はその事実に気がつくとぷるぷる震えて泣き出した。
「覚えてやがれコンチクショオぉぉぉぉ」
そう捨て台詞を残し彼女は道場から逃げ出した。
勝利した僕はというと、嬉しさよりも妙な虚しさを覚えていた。
彼女が頭角を現したのは入学して三年経った今である。つまり、彼女は三年かけてあの領域に至ったのだ。
それを、僕はたった一ヶ月で覆した。これが山爺のいう才能。
虚しく感じたのは、そんな見えない先天性の要素だけで全ての努力が無に帰すのはどうにも理不尽に思ったからだ。
僕は彼女にとんでもない仕打ちをしてしまったのではないだろうか。なら、僕は彼女に謝らなければならないんじゃないだろうか。
そんな甘い考えは次の日、微塵に吹き飛ばされることとなる。
「ぎゃはははは、逃げろ逃げろ。ま、無駄だけどなァ!」
試合が始まると彼女は一目散に距離を取り、鬼道を放ってきた。
鬼道の種類は「綴雷電」。雷撃を放つそれは破道の十一番目。かなり簡単で威力の低い鬼道だった。
それを詠唱破棄で弾幕のように連射してくる。
食らって分かるが、この鬼道の恐ろしさは決して威力や速さではない。当たると一瞬身体が硬直してしまうのだ。これは綴雷電の特性というよりは電気というものの性質、それが霊体に及ぼす普遍的な効果のようなものだろう。
それを知ってるから彼女はこれを連打してる。一個でも当たれば硬直して次の綴雷電に当たる。それをエンドレスに繰り返すことになる。
冗談じゃない!鬼かあの娘は!
瞬歩の速さも制御も僕と同等で、追いかけてもイタチごっこ。その間、間合いが離れているので僕は剣を振れないが、彼女は容赦なく撃ってくる。
死にものぐるいで避けて弾いて、なんとか接近しても彼女もさるもの。僕の剣を一合だけ捌くなんて造作もない。そこに牽制で綴雷電を撃てば僕はそれの対応に一瞬追われて、彼女はその間に間合いから離脱する。
じゃあ、こっちも鬼道を撃てばいいじゃないか?
冗談でしょ、この一ヶ月僕は剣しかやってない。彼女とは鬼道の扱いで実に三年程の開きがある。
ヘタに撃ち合おうとすればドジって一撃もらって終わってしまう。
なんとか、なんとか彼女の隙を窺ってそこ突くしかない。しかし彼女は始終その戦法を徹底して実践し、結局根負けした僕は綴雷電の一つを避け損ねてそのまま怒涛の雷撃の雨を受けることとなった。
試合の後、僕は彼女に苦言を呈した。アレはないよと。どうしたらあんな卑怯姑息極まる戦法を思いつくんだい?と。
すると彼女はあっけらかんとして言った。「何が悪いんだ?」と。
「私は私に出来る事の範疇で最善を尽くしたに過ぎない。お前と真正面で馬鹿正直に打ち合ったら間違いなく負けると思ったからな。だから鬼道を使った。油断もしなかった」
プライドの高い彼女にしては意外な言葉だった。あの彼女が自分で「剣では負けてる」と言ったのだから。
「確かにムカつきはする。憤死ものだ。だけど、それは事実でしょ。事実は事実と認めなければ先には進めん。それはそれとしてやっぱムカつくからお前覚えとけよ、いつか絶対剣でも負かしてやるから覚悟しろ!」
僕はそんな彼女を凄いと思った。鍛え上げてきた自分の技術に、彼女は自分で言っているほど固執していない。剣も鬼道も、おそらく勝つための手段でしかないと考えている。
彼女にあるのは純粋なチカラへの探究心。だからアレだけ努力できる。だから負けてもへこたれない。
僕はそんな彼女の在り方に尊敬の念を抱いた。それがおそらくは"あの願い"から生ずるものであることは残念だったが、純粋に凄いと、自分もこうでありたいと思った。
そんな彼女が歪に変質したのは彼女が刃禅で倒れてから間もなく。
赫い斬魄刀を手にしてからのことだった。