斬魄刀ガチャでSCP-444-jpみたいなの引いた 作:はなぼくろ
距離であり時間。
昼であり夜でもある。
或いはそのどちらでもない。
あの斬魄刀を相手にするならばあらゆる思考は隅に置くべきだ。
相対したときには既に、思考と記憶を司るあの畏るべき鳥は我々の脳に胤を撒いているのだから。
とある受刑者の談
「精が出るな、京楽」
「浮竹」
背中越しに奴に声を掛けると、京楽は振り返って俺の名を呼んだ。
「鬼道の鍛錬か、.........流石だな」
先ほどまで京楽が鬼道の的がわりにしていた崖の岩肌を見ながら感嘆にも近い感情を吐露する。
かつてはちょっとした小山くらいあったその丘は、今や京楽の手でその体積を三分の一程減らしていた。一体どれだけの攻撃鬼道を撃ち込めばこんなことになるのか。
「またまたぁ、煽てちゃって。君なら分かるはずだよ。こんなの、なっちゃいないって」
口調に反して声音はつまらなそうに俺の賞賛を吐き捨てる。そんなどこか拗ねた京楽に俺は苦笑いした。
言いたい事はわかる。が、未熟とは思わない。
これだけの威力が出るのなら対虚の集団戦で彼の鬼道は後衛としても充分に通じるだろう。完全詠唱の鬼道でもここまでの威力を出せる死神はそう多くない。京楽家の血筋の持つ恵まれた霊力の賜物だ。
だがこいつの言ってるのは、あくまで個人対個人の戦闘においての話なのだろう。
刹那の判断や読み合いが要求される状況では悠長な詠唱が必要な完全詠唱は不可能に近い。必然、詠唱破棄の鬼道を用いることが前提となる。
それにも霊力を篭める暇も殆どないのだから自ずとその威力は底割れする。実戦ではこうして練習で出る出力の十分の一程度しかないと考えていい。
故に鬼道の才能というのは如何に短い時間の間に多くの霊力を込められるかの霊子操作効率の良さ、速射性、射出速度などを指す。威力なんてものは馬鹿でも力を目一杯に篭めれば出る。
京楽にはこの鬼道の才能があまりなかった。といっても並以上ではあるが、彼の誇る剣才の天稟と比べれば霞んでしまうだろう。
天は二物を与えず、ということだろうな。
「ああ、はっきり言って向いてない。大人しく剣を振っていた方が、同じ時間でも伸び代は遥かに上だろうな」
「は、はっきりと言うね.......」
お前がそう言えって言ったんだぞ。と言えば拗ねたように目を逸らすのが面白かった。
「二階堂か、あの試合は凄まじかったな」
京楽が鬼道に固執する原因に心当たりをつけ聞いてみる。すると奴は目線を逸らしたまま頷いた。
相変わらず二階堂にも劣らない負けず嫌いっぷりだ。
「対抗意識を燃やすのは大いに結構だが、視野狭窄に陥ったな京楽」
少し驚いたふうにこちらを見やる京楽に、ちょっとした優越感を感じながら解説してやる。
「二階堂が見せた綴雷電連射戦法の対策は、まだ俺達が未熟で取れる手段に限りがあったとしてもそう難しい話じゃない。鬼道で対抗するよりももっと簡単な方法だ」
人差し指を立てる。京楽の視線が集中した気がした。
「それは距離を取ること。逃げ回ること。これを徹底するだけで勝てる」
「でもそれじゃ斬れないじゃないの。一方的に攻撃されてたらいずれ当たっちゃうでしょ?」
俺の答えに納得がいかなかったのか京楽は口を挟んできたが、俺は首を振ってその考えを否定する。
「いくら二階堂程の腕前とて、右へ左へ瞬歩で移動する人間に鬼道は当てられらない。見たものと鬼道の発動までのプロセスにどうしても数瞬の差が出るからだ。お前が避けるのに苦労したのは焦って距離を詰めようと弾幕の渦中に飛び込んだのが原因だ。距離を取れば必然と弾幕の密度は薄くなって避けるのは容易だったはずだ」
「なるほどね、回避に余裕を持てるわけだ。そして、そうしてやると先に体力が尽きるのは鬼道を使いまくる彼女の方になる。そのことに彼女が焦れば向こうから接近戦を選ぶ。そうなれば剣術の技量では上の僕に分があるというわけだね」
「流石、理解が早いな。だが釈然としてない顔だ」
バツが悪そうに頬をかく京楽に俺は「責めたいわけじゃないんだ」と前置きして続ける。
「京楽の気持ちも分かるよ。俺や二階堂の考え、戦術は正々堂々とは遠くかけ離れたものだ。卑怯と謗られても文句はないよ。ただ、戦場に綺麗事は存在しない。まして敵は虚だ。必ず奴らは悪辣極まる手段を平気な顔して取ってくるだろう。それに直面した時、きっと俺達には方法や手段を選んでいられる余裕はなくなる」
死神としての矜持、それを否定する気はない。だがそれに拘泥していては助かるものも助からないのが戦場での現実だった。
魂魄の調律者として、俺達死神は勝たなければ存在している意味がない。負けは許されない。
「.........分かっているつもりだよ、頭の中ではね。君らのそれは純粋な勝利への渇望、勝負への必死さ、そういったものを起因としたものだ。虚のそれと同一視する気にはなれないよ。僕も見習いたいものさ。だけど実際問題、頭で分かってることとそれを実践できるかは別な話なもんで。だからカタチから入ろうとこうして鬼道を鍛えようと思ったんだけど」
「なら先ずは始解を使いこなさなきゃな。鬼道よりもよっぽど幅が広がるぞ」
奴が腰に佩いた二刀を指してそう言うと、京楽は苦笑いを零した。それが如何に面倒で途方の無い事かを理解しているようだった。
始解の修得。それを終えたからといって始解を使いこなせるようになった訳では無い。
始解によって変化したこと、つまりは形状変化。凡そ剣のままのものはいいが、ものによっては槍だとかに姿を変えるものがある。当然、それを使いこなすのに今まで習った剣術は意味をなさない。間合いも構えも、取り回しも全てが異なる。こういった場合、大体また一から修練のやり直しだ。
京楽の場合は二刀(俺もだが)。当然ながらこれも一刀のときとは使用感が全く違う。取れる選択肢や構えががらんと変わってくる。一刀での技術が流用できない訳では無いが、それでも慣れるためにいくらかの修練のやり直しと、技術の学び直しが必要だ。
加えて、京楽の斬魄刀は直接攻撃系としての形状変化だけでなく鬼道系としての異能が備わっている。これも使いこなすための練習を行う必要がある。しかも京楽の斬魄刀に備わった異能は前例が無いほど異質なものだ。運用の為のノウハウを知っている者がいない。自分で模索しなければならないので時間がかかるだろう。
そして、始解によって増大した霊力の運用。霊力は使えばパワーアップするというだけの単純なものでは無い。攻撃や防御、足や斬魄刀にそれを割り振り、流動させることで絶対量以上のチカラを発揮することができる。今までは少量だったので使いこなすのに苦労はなかったが、これからは違う。支配できる総量が増えた反面、その極一部を切り取って使うのに神経を使うようになった。小回りが利かなくなったのだ。これも、練習が必要だ。
やれることが広がった故に、やらなければならないことがぐっと増えた。
その膨大さは、一死神がその半生を捧げることだってあると言えば伝わるだろう。
はあ。と京楽がため息をついた。
「先は長いねぇ」
*
やあ、私だ。二階堂朱玄である。
この度ようやっと始解を修得するに至った、二階堂朱玄である。
京楽や浮竹が始解を修得してから丸々一年経っても糞烏を倒せず、今日漸く始解が叶った。
天才の私をここまで翻弄したのだからあの畜生も一応は私の力の一端だったということだろう。なかなか手こずったわ。
もっとも、夢の中では必ず襲撃かましてきた奴も今では遠巻きにコチラを見やるのみ。ご主人様との身の程の違いをやっと分かったようで私は嬉しいぞ。
ところでこいつを見て欲しい。私の斬魄刀「緋烏」だ。解号は知らん。なんせ常時解放型というヤツらしいから。
形状にさして変わりがないのはちょっとつまらないが、今まで培った剣術を無駄にしないで済んだことを喜ぶべきだろう。ポジティブシンキングだ。無い物ねだりしても無い物は無いのだからな。
能力はあの糞烏に散々悩まされた認識を歪めるチカラ。
何も考えないで戦えば私みたく意味を成さないので、ぶっちゃけ死に能力だと思う。
あ、でも鬼道はどうやっても使えなくなるし、霊力操作も利かなくなるのでデバフとしては優秀な斬魄刀かもしれん。
それに私の絶対無敵最強剣術と合わせれば最早敵はいないな!
因みに天才の私は始解のついでと言わんばかりにその先の斬魄刀剣術最終奥義___卍解も手に入れたのだが、はっきり言ってこいつは使い物にならない。使ってはならない。私にも制御の利かない代物を私の力だとはさっぱり思えないのでこれのことはもう考えないことにする。
マジで卍解枠の無駄遣いだから若干萎えた。やっぱあいつは糞烏だわ。本当に私をガッカリさせるのが上手い。もっかい殺したろかな。
さて、そんなことは置いておいて早速試し斬りしてくることにする。
ここ一年くらい道場の方では始解ありきの実戦形式の稽古が行われてる。当然、始解状態の斬魄刀で斬ったら人死が出かねないので四番隊の隊長副隊長が常にスタンバっているが。
始解を修得出来ていなかった私はここのところずっとそれに参加出来ずにいた。
前にも言ったが始解のあるなしでは先ず馬力がだいぶ違う。現世風に言うなら自転車とスーパーカー並に。その違いは霊力総量によるものだが、始解を修得しているだけでそれが通常時の数倍は違う。それだけ変われば生き物が違うと言ってもいい。
始解も修得していない私がその稽古に交われば、ともすれば本当に死ぬ可能性すらある。だから一度を除き稽古に参加できなかった。
一回だけ、その違いってどんなもんだろうって思ってジジイに頼み込んで始解状態の京楽とやらせてもらったが、身に染みたね、その違いが。まあ勝ったけど。
といっても始解を修得して間もない時期だったし、その剣筋にかつてのキレはほとんど無かったから本当の意味で京楽に勝てたとは言いづらい。今ではきっとあの時より数段は強いだろう。
だからこそ、試し斬りには持ってこいだ。
私には斬魄刀の修練は殆どいらない。形状はそのままだし、異能の運用方法も忌々しいがあの烏が示してくれていた。そして、剣術や鬼道と違って、霊力操作においては私は天才だと自負している。
終盤の烏程まで増大した私の膨大な霊力の操作だって、わけない。
今一番の為になるのはそれをちゃんと実践することだ。京楽ならば相手に不足なし。ちょっくらぶっ倒してくるわ。
ㅤにしても、わくわくが止まんないなぁ。これでもうすぐ____あいつを殺してやれる。
ホンへで出番がないので「緋烏」の解号を開示
『啄め____』
因みに霊力やら始解の鍛錬やらは独自解釈なので間違ってたら教えてくださるとありがたいです。
Q卍解って屈伏と具象化の両方が行えて初めて出来るんじゃないの?この主人公屈伏だけしかしてないけど設定変えた?
A間違ってないよ