魔法少女リリカルなのはStrikerS 【ブレイカー】   作:凡人Mk-II

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第一話 プロローグ

青年は明滅を繰り返す暗闇を歩いていた。

 

天上に付けられた蛍光灯が割れて灯りが消えた細い廊下。所々に電気は生きているのか、バチバチと音を立てながら断続的に明かりが点いたり消えたりを繰り返している。

 

ガラス張りにされた通路の左側には実験室であろう広い空間がある。強化ガラスのようで万が一にも砕けないように頑強に設計されているようだ。

 

「……」

 

ここはある研究をするための研究所であり、すでに廃棄されている。廃棄されている、とは言っても人の痕跡や埃等の積もり具合を見ると人が立ち去ったのはおそらくそう遠くはない。

 

T字になっている細い廊下の突き当たりで青年は足を止めた。研究者専用の部屋からも灯りは見えない。何の研究をしていたか、それは窓から見える人一人分がすっぽりと入ってしまうような生体ポッドを見れば想像に難くない。

 

倫理というものを完全に無視した研究。常人ならば発想にすら至らない悪魔の所業。それがここで行われていたものの正体だ。

 

《マスター、動体反応アリ。近付いて来ます》

 

青年の手に持った二挺銃、ジャッジメントが警告を鳴らす。それに持ち主である青年は分かっているように構えた。

 

この研究の成果が自分を襲いに来る。

 

T字に分かれている通路の右側から何か物音がする。今現在、青年がいるのは突き当たりの研究者用の部屋の正面なので右側から何が来ているのかは目視は出来ない。

 

灯りが点滅し、一瞬であるが闇を照らす。そのおかげで向こうで何かが一つ蠢いたのが視認出来た。鉄と鉄が擦れ合う金属音と肉を引き摺るような湿っぽい音が響く。

 

地面を這いながら何かが近付いて来る。青年はそれが何なのか、経験から十分に理解していた。蠢めき、近付いてくる物の正体は人だった。いや、正確にはこの研究成果のなり損ないだ。

 

床を這うために使っている両手は機械で構成され、人工皮膚の下からケーブルや機械部品が覗いている。顔も皮膚が破れ機械部品が剥き出しになっており、瞳も機械による義眼だ。脚は両脚とも破損しているのか全く動いていない。ツギハギだらけにも見える成り損ないはまるで何も知らない子供が作った玩具のようだ。

 

これこそがここで行われていた研究。人に機械の体を与え後天的に通常の人間とは比べ物にならない程に身体能力やその他諸々の能力を飛躍的に向上させ、高い戦闘能力を引きだそうとするもの。

 

『戦闘機人』

 

それが機械と人間が融合した者を指す言葉だ。ただし、成功例は極めて少なく、失敗が多い。故に、この研究は人道的理由を始めとする様々な問題から廃止され、それ自体がタブーとされたはずだった。だが、裏で極秘裏に研究は推し進められていたのだ。目の前の成り損ないは失敗作の一人だったのだろう。

 

両腕を使い這い寄る人物の目には生命の光はない。完全に機械となってしまったのか。今動いているのも侵入者の迎撃という頭にインプットされた命令に従っているだけだ。

 

「粗末な」

 

青年は淡々と機械的な言葉を成り損ないに投げかけた。その表情からは何も推し量る事は出来ない。何故ならば青年は表情と言ったものをその顔に作っていなかったのだ。眉一つ動かさない様は正に無表情といえるものだった。

 

投げかけられた侮蔑にも近い言葉を当然ながら目の前の物言わぬ機械にそれを理解する機能はすでに無い。

 

造りかけだったのか、途中で失敗作だと見限られたのか分からないが、地を這う相手は無残な姿だ。武器すらも無いのに迎撃に来る。ただ従順に命令に従うだけの機械となってしまった哀れな存在。

 

「……」

 

彼は銃口を相手に向けた。這い寄って来るだけの相手に当てるなど造作もない。もうこの成り損ないは駄目だ。脳が動いているのだとしても感情がなく植物状態。生きていながらも死んでいるというのはこう言う状態を指すのだろう。

 

人としての意思があるのならば保護するが、この成り損ないはすでに死んでいるただの動く屍だ。このまま動いているだけではまた何かに利用され体を改造されるだけだ。

 

「慈悲だ。眠れ」

 

淡々と青年は言葉を紡ぐ。親の顔も知らず、ただ培養期の中で育てられ体を人ならざる者に改造された存在への唯一の救い。意識が死んでいるのならば体も休めてやらなければいけない。それが成り損ない達への弔いであり救い。

 

今までも青年はそう考えて実行してきたし、これからもそうする。引き金に指を掛ける。青年は相手を死なせる為に、殺す為に、銃口を頭に向け、狙いをつけて引き金を引いた。

 

銃口より放たれた魔力によって形成された弾丸は成り損ないの額の中心に正確に向かい、パン! と風船が割れたような音が響いた。

 

這い寄って来た名も知らぬ相手は頭を吹き飛ばされて絶命する。

 

血と脳漿、機械の部品が飛び散り生理的に聞きたくない不快な音を出した。

 

「ジャッジメント、他は?」

 

《動体反応ナシ。今ので最後です》

 

この最深部に到着するまでに青年は何十体もの成り損ないを葬ってきた。研究者達が置き土産にでもと置いていったのだろう。調査をしに来る身としては全く嬉しくない。

 

「分かった」

 

ジャッジメントへと青年は返事をすると、研究者用の部屋へ入るために足を前に出すが自動で開くはずのドアが開かない。電気は生きていても設備の一部が死んでいる箇所があるようだ。扉がどうやっても開かないので青年はジャッジメントに命令を出し、銃の片方をしまわせた。空いた右手を引き、握り拳を作る。

 

呼気をひとつ、青年はそのまま拳を扉へと叩き付けた。空気を裂き唸りを上げて叩き付けられた拳の威力は相当なもので、扉が四角い形を中心から歪ませて紙切れのように吹き飛ぶ。

 

《手荒過ぎじゃないですか?》

 

「開かないのならば仕方ない」

 

研究者用の部屋へと入ると吹き飛ばした扉が入り口から反対側の壁に突き刺さっていた。書類が散乱し機械が壊れているのは間違いなく扉を破壊した余波をくらったせいだ。

 

「ジャッジメント調べろ」

 

《はい、マスター》

 

ジャッジメントへと命令し、青年も部屋を調べる。PCや書類などが置かれているが見た限りだと重要そうな物はない。PCは電源が生きているにも関わらず起動もしない。強引にPCの外装を引き剥がし中身を調べてみるが、ハードディスクは入っておらず基盤も徹底的に破壊されている。だが、相手は焦っていたのか何個か調べるとハードディスクが残っていたり基盤が破壊されていないPCも見つかった。

 

書類も何百枚と部屋に残っているのだが、目を通してもさほど重要な事を書いてあるわけではなかった。ただ、書類の項目の中に示されている実験数が青年の心を締め付けた。何度も何度も失敗を繰り返して行われた実験の中でどれだけの命が失われたのか。それを考えるだけで欝になりそうだった。

 

青年の表情は依然と動かない。だが、その手にある書類をいつの間にか青年は握りつぶしていた。

 

《マスター、報告します。部屋にあった指紋などを鑑定した結果、破棄されたのは二、一日前かと》

 

成る程、と青年はPCなどの不始末を納得した。急遽破棄が決定されたため全ての設備を壊す事は出来なかったのだろう。施設を安易に爆破しなかったのは研究員の逃亡時の事を考えてか、それとも別の目的か。

 

《ただ、残念ながら指紋に一致する人物は存在しません。痕跡を残しておきながら追跡が困難とは、この研究施設の人間相当なやり手ですよ》

 

ジャッジメントは部屋にあった指紋を全てデータベースで照合したようだが、無駄だったらしい。勝手にデータベースにアクセスする事は違法であるのだが、そんな事彼女は気にしていないだろう。痕跡を残すなどとヘマをするはずもないので特に青年は咎める事をしない。

 

「そうか……なら引き上げよう」

 

《了解です》

 

これ以上犯人への手掛かりが無いのならばいても無意味、後の調査の邪魔になるだけだ。研究室を出ると、先程撃ち殺した成り損ないの残骸があった。

 

「……」

 

仰向けに倒れている成り損ないを青年は無表情で見つめる。頭を吹き飛ばした為、もうピクリとも動かない。

 

「(自分もあんな風になっていた可能性があった、か…)」

 

違法研究施設に押し入り、成り損ない達を見る度に青年は自分の生い立ちを重ねてそう思う。同時にこういった施設で過去に見つけた研究の成功例である二人の姉妹が頭に浮かぶ。その母親となった人も。

 

いや、今は関係ない事だ。割り切り、踵を返して青年は元来た道を歩く。

 

暗闇には頭を吹き飛ばされ、ただの物となった成り損ないだけが残っていた。

 

 

 

 

 

違法研究施設はミッドチルダのビル群の中の一つにあった。木を隠すには森の中とはよく言ったもので、研究所は適当な裏路地の何も置かれていない空きビルに似せた外見だった。が、地上だけならともかく、地下に研究施設を張り巡らせれば配管などに当然ながら当たるわけで地図上に配置されていない、壊そうとしても異様な程に固い壁がある事に気づいた配管会社がこれはただ事ではないと管理局に連絡したのだ。

 

それを聞いた青年は、この研究者達は馬鹿なのだろうかと思ったのだがそれに気付かなかった自分はそれ以上の馬鹿なのかもしれないと若干憂鬱になりそうだった。灯台下暗しとはこの事かもしれない。

 

違法研究施設から出ると、ジャッジメントが通信が来た事を伝えた。相手はオーリス・ゲイズ。青年にとって姉と呼ぶ存在だ。

 

空中にホロウィンドウが開き、オーリスの顔が映し出される。茶髪を女性にしては短く切り、目つきは切れ目で、普段優しいのだが今は仕事中なため眼差しは厳しい。眼鏡を掛けて理知的に見える分、厳しい眼差しは取っ付き難いように見える。優しいと知っている青年はそんな事は思いもしないが。

 

「任務は完了しました。何か御用ですか?」

 

青年は仕事中であるので普段とは違い、家族としてではなく局員としての態度をとり、対応する。

 

「お疲れ様です、ディン陸士。次の任務ですがこの部隊に潜入し、内情を調べて欲しいのです」

 

周囲の気配に気を配りながら、ディンは送られてきた部隊のデータを見る。

 

「機動六課、ですか」

 

「ええ、噂くらいは聞いた事があるでしょうか」

 

「ええ、一応は」

 

ディンは詳しく聞いたわけではない。所属する部隊の隊長が、なんだかとんでもない部隊が設立されるらしいと言っていたのを耳に挟んだ程度だ。

 

事実、この部隊はとんでもない。ディンが送られてきたデータを見ると構成員だけでも、隊長陣に管理局では数人しかいない魔道師ランクSを取得している人間が集まっているようだ。成る程、確かにとんでもない。

 

「了解しました。日時は?」

 

「明後日に部隊は立ち上がります。すでに手は回していますからご心配なく」

 

「分かりました。自分の方でも出来る限り情報を集めておきます」

 

ジャッジメントをディンは一瞥すると、彼女は分かっていますと答えた。すでに情報収集を始めたようだ。基本的に性能が馬鹿高いこのデバイスはハッキングから情報収集までお手の物だ。時折、自分で勝手に電波をジャックしてテレビ番組や動画などを見ている事があるのが玉に瑕だが。

 

それでもディンはジャッジメントを信頼している。言葉には出さずとも彼女は物心ついた時より共にあった、言わば体の一部。裏切られるなど一度も考えた事がない。そもそも体の一部が裏切る筈も無いのだか。

 

「任務内容はいつも通りでしょうか?」

 

「ええ、地上に不利益になると判断したらすぐに問題点を報告して下さい」

 

地上に設立された新設の部隊へと入り込み、部隊を調べる。不正が行われていないか、その部隊が地上にとって有益な存在かを確かめる。

 

これもディンの仕事の内の一つだった。身内を売っているようで嫌な役目ではあるが、それでも管理局のように巨大な組織には秘密裏に部隊に入り込み評価する人間が必要であった。組織の中には平気で不正や横領を行う人間も悲しい事だが存在するのだから。

 

こういった任務を遂行する人間を内情捜査官と呼ぶが、秘密裏に調査する部隊の人間に気付かれずに行われる為、内情捜査官の存在は管理局内でも認知されていない。噂程度のものならばあるがその全ては眉唾ものだと思われているのだ。

 

「それと、ディン?」

 

オーリスの声が変化した。口調は柔らかに、優しく、穏やかだ。表情も頬が緩み仕事が出来る女性、と言うよりは母親のような顔になった。

 

「はい、姐さん」

 

仕事中の口調ではなくなったのでディンもそれに合わせる。といってもディンの口調は依然固いままだ。あくまで現場から離れて家に帰るまではこの態度をいつも貫いている。

 

「六課に行って、時間が空いたら食事にでも行きましょう」

 

「分かりました。こちらも時間が空いたら連絡します」

 

「ええ、楽しみにしてるわ」

 

微笑みながらそう言ってオーリスは通信を切ったようだ。ホロウィンドウが消える。

 

「情報の方はどうだジャッジメント?」

 

《少々お待ち下さい》

 

珍しく極めて真剣な声に、いつも日常でこれくらい真面目にしてくれていればいいのだが。ディンは愚痴を心の中で言いつつ、現場から離れながらジャッジメントの報告を待つ。

 

《ふむ、美人が多いですね》

 

凄まじくディンにとってはどうでもいい情報がジャッジメントより報告された。彼は全く興味が無いので無視し、次の報告を待つ。

 

《マスター、今の結構重要な情報ですよ?》

 

「他に報告は?」

 

まともな情報を寄越せとディンは冷ややかに言葉を相棒に投げかける。それにジャッジメントはちょっと拗ねたように、「分かりましたよぅ」と言って今度はちゃんとした情報を報告した。

 

ホロウィンドウが空中に数個開き、情報が表示される。構成員含めて随分と少数の部隊だ。それもそのはず、この部隊は少数精鋭と言う名目で設立された部隊であり、稼動期間も一年とかなり少ない。しかも、部隊長を筆頭に管理局のエースと言われる人物達が集まっている。彼女達は友人関係だから集める事は容易であったのであろうが、それでも一個の部隊に集中させるのは明らかにおかしい。

 

《この部隊の周辺区域、間違いなく犯罪が減少しますね》

 

ジャッジメントの言うとおり、これだけの戦力過多とも呼べる存在がいる場所で犯罪を起こそうとする馬鹿はいない。ディンもそれは考えていた。

 

「機動六課、か……」

 

放った言葉はディンが好きな夜空へと消えていった。




どうも凡人Mk-IIと申します

この度ハーメルンでなのはの二次小説を書き始めた者です。

文章は拙いですが、読んでもらえると幸いです。

また、文章がおかしい、ここはこうした方がよい、などの意見は作者にとってとても参考になりますので遠慮なく感想で指摘してもらって構いません。

更新は二週間に一度くらいで遅いですが頑張りたいと思います。

では
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