魔法少女リリカルなのはStrikerS 【ブレイカー】   作:凡人Mk-II

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第十二話 閃光と銃弾

「何か御用でしょうか?」

 

ディンはいつも通りに業務をこなしていると、11時丁度にアナウンスで呼び出しがかかった。部隊長室に呼ばれている回数がそろそろ片手で数えられなくなりそうだ。

 

呼び出した本人であるはやては、やはり昨日の今日だからか、顔色が悪い。小柄で小顔な容姿も相まって今にも倒れてしまいそうにディンは感じる。普段のふてぶてしいとも言える六課の部隊長としての彼女ではなく、悩みを抱える歳相応の少女のようだ。

 

「二つあるんやけどな、とりあえず一つ目。昨日はご苦労様や」

 

「ありがとうございます」

 

ディンは軽く頭を下げる。まさか労うためだけに呼び出したのではあるまい。すぐに頭を上げるとディンははやてに次を促すように視線を向ける。昨日あんな事があっても表面上は平常であるディンを見て、はやてはこめかみを押さえながら溜息を吐き、ディンを呼び出した理由を話し始めた。

 

「ちょうっと、君の実力を知りたくてな。模擬戦をして欲しいんよ」

 

この提案をディンは承諾しかねた。部隊で目立つのは得策ではないからだ。しかし、オーリスから全面的に支援を約束されているはやての提案を一方的に蹴るのもまずい。だから、真っ直ぐに質問を返した。

 

「それは建前でしょう。本当の目的は何ですか?」

 

ばれたか、とはやてはぼやくが、気付かれてるのは承知の上だったので、そこまで驚かない。ディンも、昨日力の一端を見せたとはいえ、いきなり模擬戦をして実力を見せろなどと言われれば納得出来るはずもない。

 

「まぁ、悩んでる時は思いっきり体を動かすのが一番やって事」

 

「……相手はテスタロッサ執務官ですか?」

 

「そうや」

 

はやての根底にあるのは、十年間、苦楽を共にしてきた友人への配慮。昨日のフェイトはまずい状態であった。ディンも彼女を見て、確かに普段とは違い、陰がある表情をしていたのが分かっていた。

フェイトも隊長職に就いているのだから、周囲に心配をかけるような事はしない。だからこそ、内側に溜め込んでしまうのではないか、とはやては心配なのだろう。今回はそれを溜め込んでしまう前に、発散させてしまおうという魂胆か。

 

対応が甘い、と言ってしまえばそれまでだ。だが、苛烈なだけの人間に誰が付いて来ようか。身近にいる人間を思いやれない人間に、部隊を纏める事など出来よう筈がない。それに、これくらいの我侭なら許容の範囲内だ。組織の中にいながらも、友人を気遣うはやてに、ディンは好感を覚えた。無論、組織の人間として、だが。

 

「他に、見学するメンバーなどは?」

 

「基本的には、六課の前線メンバー全員やね」

 

ちゃっかり、隊長の実力を新人達に見学させようとしている辺り、抜け目が無い。本音では、フェイトが心配なのであろうが、建前である理由にもしっかりと他へ利益がいく。これが小狸だとか言われる所以なのであろう。ディンは、しっかりとその辺もはやての能力を評価しつつ、最後に自分が思う懸念事項を言った。

 

 

「私は基本的に目立つ事を禁じられています。その話しは、そちらにも伝わっていたと思うのですが」

 

「オーリス三佐に許可を取ったから大丈夫やよ。心配せずに、存分に力を奮っていいと。もし本当だと信じられないんやったら確認してくれてもええで?」

 

「いえ、ここで嘘をつけば後々に影響します。貴方はそんな愚を犯さないでしょう」

 

機動六課が、すでに地上の英雄に目を付けられている状況で、その仲介役兼連絡役といざこざを起こすのは得策ではない。そんなものを起こす程、八神はやては馬鹿ではない。それは、ここ数週間で、ディンが感じた事だ。

 

「信用してくれて、何より……ってわけやないよなぁ」

 

少し肩を落とすはやてに、ディンは、YESともNOともとれない言葉を返した。

 

「ご想像にお任せします」

 

「はぁ……まぁ、ええわ。そいでな、ちょう頼みがあるんやけど」

 

「は?」

 

はやての意味の分からない要望に、ディンは頭の上にクエスチョンマークを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

機動六課、シュミュレーターにて、前線メンバーは集まっていた。新人含め、全員が集まっており、特に隊長陣は目を光らせている。一応、怪我人が出た場合に即座に対応出来るようにと、医務官であるシャマルも同席している。

 

空は晴々としており、絶好の模擬戦日和。しかし、模擬戦をするフェイトは、萎縮していた。それは、目の前で黙っているディンに対してである。

 

一課で仕事をこなすし、レジアスからも能力を認められているディンならば、今回の模擬戦の目的が『ガス抜き』である事は分かっている筈である。要は、業務そっちのけでこちらの身勝手な都合に付き合ってもらっているわけだ。心なしか、いつものディンよりも表情に陰影がついて、険しい顔つきになっているようにフェイトには思える。

 

――ううぅ……ちょっと怖いかも

 

眉ひとつ動かさず、感情の起伏が読み取れないディンに、フェイトは少しだけ気圧される。今回の目的、つまりは自分のために模擬戦をしてもらうのだ。こちらの都合に付き合わされているのだから、小言の一つでもあれば、フェイトは多少は救われたのだが、ディンは全くの無言で粛々と準備を始めている。相手が怒っているのかも分からないまま、話しかけるのには多少の勇気がいる。仕事場、執務官としてならば一歩も引かずに会話をするところだが、この場合はそうはいかなかった。変なところで、昔の引っ込み思案な部分が残っているフェイトである。

 

「(は、はやてぇ……絶対ディン怒ってるよぉ)」

 

先程、十年来の親友が言っていた事を思い返す。

 

『大丈夫大丈夫。別に全然怒っとらんから』

 

いい笑顔で断言してきたので、それを信じたいフェイトなのだが、ディンの様子を見る限りどうにも信用出来ない。バルディッシュを胸の前で握り締めながら、フェイトの視線はあっちこっちに向いて安定しない。そんなフェイトを見て、ディンは痺れを切らしたように……いや、どちらかというと呆れたようにはやての方向を向き、溜息を吐きながら言った。この時、常に表情を変えないディンに、周りが少し驚いた。

 

「部隊長、指示通りにしてはおりますが、そろそろよろしいのでは? これ以上はテスタロッサ隊長の精神衛生上悪い上に、模擬戦で実力を発揮出来ないかと愚考しますが」

 

「……はやて?」

 

指示通り、という単語に疑る視線を親友に向けると、はやては悪げもなく、むしろ快活に笑いながら

 

「なはは! ちょう悪ふざけが過ぎたわ。もうええよ、ディン陸士」

 

「そうですか」

 

すっと、ディンから発せられていた不機嫌そうな空気が消えた。同じくして、顔にあったように思える陰影が消えた。そこで、フェイトはからかわれたのだと理解する。

 

「は、はやてぇ!」

 

「そう怒ったらあかんよ、美人が台無しやで?」

 

「もう……はやてちゃんったら」

 

本気でオドオドしていたフェイトは、はやてにからかわれた事に拗ねて頬を膨らませ、なのははいつも通りのはやてに苦笑。他の隊長陣も同様。そんな彼女達を新人達は意外そうに見る。彼女達からすれば、普段は凛々しい態度で職務に励む隊長達が、このようにふざけ合うのはイメージに合わなかったのだろう。

 

「そいじゃ、始めよ~か」

 

からかわれた事にもう少し言及したいフェイトだったが、これもはやてなりに自分を気にかけてくれたんだろうと納得する。いつも通りの自分達に戻るためにも、フェイトは一度深呼吸をして目を閉じ、体の力を一旦抜いた。

 

頭の中では昨日見た、あの光景が頭を過ぎる。それを振り払うようにもう一度深呼吸をし、フェイトは目を開ける。

 

「大丈夫ですか?」

 

準備が完了したかどうかよりも、こちらを気遣ってくれたディンに、彼が普段は見せない根底にある優しさをフェイトは垣間見た気がした。

 

「うん……もう大丈夫。今日は付き合ってくれてありがとう」

 

「命令ですので。それに、私程度でお力になれるかは分かりません」

 

「ううん、十分だよ」

 

シュミュレーターの中央に二人で飛び、中距離を保つ。はやて達はすでに退避しており、観戦している。空中にホロウィンドウが開き、はやての顔が映し出される。

 

『じゃ、始めるで。カウントスタート』

 

三つ表示されている青い丸が一度赤く発光し、消えていく。最後の一つが消え、ブザーが鳴る。模擬戦開始の合図が出された。

 

直後、フェイトを砲撃が襲った。

 

「っ?!」

 

しかし、閃光の名は伊達ではない。フェイトは急激に上昇し、砲撃の直撃を避けた。黒い砲撃は、後ろにあったビルを紙切れのように吹き飛ばし、霧散した。

 

「掠っただけで……」

 

フェイトの左手、バリアジャケットの最も頑強である部分であった筈の篭手が、跡形も無くなっていた。当然だが、フェイトはしっかりと回避を行った。紙一重とは言え、直撃などしていない。ただ、砲撃の外側に迸っていた黒くか細い魔力の線が腕を撫でただけだ。たったそれだけで、リミッターを課せられてはいるが人外レベルの魔力を持つフェイトのバリアジャケットの篭手を消し飛ばした。その事実が、フェイトへ強い衝撃を与える。そして、判断する。ディンの砲撃は、なのは並みだと。

 

《流石、異名は伊達ではないですね》

 

何故か、ディンよりも先にジャッジメントがフェイトを褒めた。普通は逆であろうが、この二人を見ているとそれが当たり前のように思えるから不思議だ。フェイトは、そんな主従のやり取りを聞きつつ、意識を集中させる。

 

《マグナムブレット》

 

再び、フェイトを砲撃、マグナムブレットが襲う。だが、一度見た攻撃が二度通用する程フェイトは甘くは無い。しっかりと回避距離を見極め、今度は無傷で躱した。今度はこちらの番だと言わんばかりにフェイトは加速し、バルディッシュを握り締め肉迫しようとする。

 

間髪入れずに、次の砲撃が飛んでくるまでは。

 

「な」

 

常識を外れた事態に、フェイトの思考が一瞬停止する。それに反するように、体は本能的に動いた。ここで、また無傷で砲撃を回避出来たのは、長年の訓練の賜物であろう。

 

《いやはや、本当にいい反応をしますね》

 

ジャッジメントの銃口から、砲撃によって発した熱が蒸気していた。彼女は二挺拳銃、一発目の砲撃を撃った後に、開いているもう片方の銃でこちらを迎撃して来たのだ。それは、理解出来る。だから、フェイトが驚いているのはそこではない。

 

信じられないのは、ディンがタイムラグ無しに砲撃を連発して来た事だ。当たり前だが、砲撃魔法とは連発するような代物ではない。なのはも、出来るには出来るが、アクセルシューターのような射撃系統の魔法のように連発出来るかと言えば否だ。デバイスが持たない上に、術者も魔力が切れる。仮にはやて並みの魔力があったとしても、体に負担を掛け過ぎる。

 

それを今、目の前の魔導師は容易く実現した。顔にも苦悶の表情は無い。その事実に驚きながら、フェイトは迎撃のために、射撃魔法、プラズマランサーを発生させる。

 

「ファイア!!」

 

プラズマランサーを放つ。フェイトの魔力変換資質である雷を纏い直進する。ディンが銃口を向けたのを見計らい、フェイトは六つのプラズマランサーを三組に分けてばらけさせた。

 

二つはそのまま直進し、二つは右から、最後の二つは左から、それぞれ三方向からディンを狙う。どう迎撃してくるか、頭の中で射撃型の魔導師がどんな対応をしていたかを思い浮かべつつ、油断無くフェイトは飛びながら成り行きを見守る。

 

ここで、またしてもフェイトの理解の範疇を超えた迎撃方法を、ディンは取った。ディンは片方だけ銃口を、向かって来る左側のプラズマランサーに向けて引き金を引いた。射撃魔法と砲撃魔法がぶつかり合っては当然前者が負ける。だが、まだ四つのプラズマランサーが残っている。

 

さて、どうするかな? そう思った矢先に、ディンはとんでもない事をした。銃口を左から右へ向けたのだ。まだ砲撃は終わっていない。となると、まるで波のように左から右へプラズマランサーが砲撃に薙ぎ払われる。近くにあった廃ビルが、真っ二つになり、吹き飛ぶ。

 

ビルが崩れ煙が舞い上がる中、それを切り裂くように砲撃が迫る。思考が硬直していたフェイトだったが、すぐに平静を取り戻し回避する。

 

連発される砲撃。スピードや発射速度は大したものであるが、この程度の速さならばフェイトの飛翔速度が上回る。砲撃魔法だけで撃墜される程、こちらは甘くは無い。多少余裕が出来たフェイトは、ディンの砲撃の解析を始める。とは言っても、解析するのはフェイトではなく、相棒であるバルディッシュであるが。

 

「……?」

 

今まで絶え間なく襲ってきた砲撃が止んだ。が、それもほんの二秒にも満たぬ合間。だが、これまでの常識を覆してくるディンの砲撃へ、フェイトが疑問を持つには十分だった。

 

余裕も出来てきた分、しっかりとディンへ視線を向ける。よく見れば、砲撃を一発撃つ毎にカートリッジが消費されている。どうやら、あれがこの砲撃の鍵のようだ。先程、一旦砲撃が止んだのは、カートリッジを補充したからだろう。フェイトはバルデッシュに問う。

 

「バルディッシュ、あれがこの砲撃の秘密、かな?」

 

その問い掛けへの答えは、解析が終わったのかすぐに返ってきた。

 

《おそらく、カートリッジに過剰圧縮させた魔力に指向性を与え、砲撃のように放っているのではないかと》

 

「む、無茶苦茶な事するなぁ……」

 

一歩間違えれば大事故に繋がりかねない。カートリッジに込められている魔力というのは馬鹿に出来ないのだ。暴発すれば、怪我を負う。しかも、ディンのカートリッジには、バルディッシュが計測したところ、カートリッジ三発分の魔力が込められているらしい。下手をすれば、手首から先が丸ごと無くなるのも有り得る。それなのに、表情に出さずぽんぽん撃ってくるディンに、フェイトは呆れるしかない。同時に、ディンの高い技量に舌を巻く。

 

ディンは、砲撃だけでは埒が明かないと察したのか、今度は砲撃ではなく射撃魔法を撃って来た。通常の射撃魔法よりも、大きさが二周り程大きいような気がしたが、結構な速度で迫ってくる。フェイトは、射撃を掻い潜りディンに接近するよりも、ここは慎重に相殺する事を選んだ。自分の手前30メートルまで近づいて来た、ディンの射撃魔法に、新たに生み出したプラズマランサーを撃ち込む。

 

雷が魔力を覆っていた弾殻を突き破り無力化しようとした、そのタイミングで――――急激に弾丸が膨張した。まるで内部より爆発するように。

 

「っく!」

 

膨張速度は速いもので、フェイトを飲み込もうとする。とは言っても、多少速い程度だ。過去、初代リインフォースが扱った広域魔法程ではない。普通の空戦魔導師ならばすでに飲み込まれているであろうが、フェイトは余裕をもって攻撃範囲外に出た。そこで――――足が、ガクっとふらついた。

 

「っ!?」

 

まさか、被弾したのか。フェイトは違和感を発した左足を見る。あったのは、何の変化の無いバリアジャケットによって構成されたブーツだ。攻撃は受けていない、ならこの違和感は一体?

 

疑問を解決する前に、ディンの射撃が更に五発、六発と飛んでくる。先程と同じように内側から魔力が膨張し、周囲の瓦礫を巻き込みながら、こちらを捉えようとしてくる。それら全ては徒労に終わる。フェイトは速度ならば管理局一で、あれくらいの『鈍重な攻撃』に当たる程遅くはない。

 

しかし、体中を覆う倦怠感のようなものは、どんどん強くなっていく。さながら強い重力へ強制的に引きずり込まれる感覚。足を泥沼に取られているような、何かがこびり付いているような不快感を感じつつ飛翔する。

 

《マスター、ジャマーフィールドを感知しました。AMFです》

 

「AMF……まさか!」

 

心当たりはあれしかない。先刻からこちらを飲み込まんとしてくる、あの黒い渦。あれが、AMFを発生させ濃度を高めている。

 

有り得ない。瞬時に結合していた魔力がAMFを発生させるなど。そもそも、AMFと通常の魔法とは相反するものだ。仮に弾殻の内部にAMFを閉じ込めていたのだとしても、弾殻が持たないで内部からAMFが漏れ出す。あれだけ高濃度のAMFを内包出来るわけが……

 

「(ま、まさか……マギリングフィールド?)」

 

高濃度のAMFに足先を引っ張られながらフェイトは一つの推測に至った。AMFとは正反対に位置する魔法MF。存在其の物が有り得ないとされ、眉唾物とされていた魔法。当然だ、魔力素の結合濃度に干渉出来るという事は、魔導師戦において絶大なアドバンテージを得るのだから。魔力素は結合し魔力と成らなければエネルギーを発生させない。その結合濃度を自由自在に変化させる事が出来るのは、非常に大きい。自分の周りは結合し易くすれば、通常よりも遥かに少ない労力で魔法を発動出来る。逆に相手の周りをAMFで囲めば、相手の疲労は大きい。

 

しかし、そんな都合のよい魔法が存在する筈がない。このMFという魔法は、魔導師にとってあまりにも『都合が良過ぎる』魔法なのだ。だからこそ眉唾物として扱われてきた。どうにも、その都合のよい魔法は存在したらしい。フェイトの目の前に使い手がいるのだから。

 

「信じられない事のオンパレードだなぁ……」

 

呑気に感想を言いながら、フェイトはディンの攻撃を凌ぎ続ける。攻撃が激しさを増すにつれて、周囲のAMF濃度はどんどん高まっていく。通常飛行に支障が出る程に。そんな空間を、フェイトは颯爽と飛行する。数回、接近出来たが、ディンの周囲に展開されていた弾丸によって距離を離される。

 

《中々捕まえられませんねぇ。あれだけグラビティブレットを撃ち込んでAMF濃度を上げているのに……影さえも捉えられないとはよく言ったものですよ》

 

感心したように、ジャッジメントがしみじみと言う。さっきから撃って来ている魔法の名前はグラビティブレットと言うらしい。フェイトは少しからかうような柔らかい口調で言葉を返す。

 

「私の影は、そんな簡単には踏ませないよ?」

 

「ご安心を。ならば影ごと吹き飛ばすだけですので」

 

軽口を言い終わると、風がフェイトの美しい金の髪を揺らす。その風は、ディンの元へと集まっていく。莫大な魔力、それを瞬時に結合させたため、結合時に発生したエネルギーの余波が風を発生させた。

 

そこで、フェイトは気付く。いつの間にか、高くまで登っていた太陽に影が出来ている事を。この時間帯ならば、日は落ちていない。廃ビルの方向的に陰るなど無い筈である。そこまでして、フェイトは頭上を仰ぎ見た。

 

「うそ……」

 

空にあったのは巨大な魔法陣

 

その空に浮かぶ巨大な魔法陣から生み出されていく黒い弾丸。それは、流星群のように、綺羅星のように数を増やしていく。戦闘中であるにも関わらず、フェイトはそれを美しいと思ってしまった。

 

《レイジングフォール》

 

ジャッジメントの言葉を合図に、頭上に展開していた黒い流星が降り注ぐ。その攻撃方法は先程のやり取りの通り、影が踏めぬのならば、影ごと吹き飛ばす攻撃。それはすでに戦艦の砲撃、飽和攻撃と成りえている。しかし、フェイトも伊達にSランクを冠してはいない。かつて、闇の書事件で戦艦よりも恐ろしい相手と一戦交えているのだ。ディンの技量に驚きはしても、思考は至って冷静だった。

 

空から降る雨と化した弾丸、そのほんの僅かな隙間を縫うように高速で飛翔する。その光景は、黒い濁流の中を、金色の閃光がかき分けているようだ。

 

「(このままじゃ……拙い!)」

 

接近しようにも、この弾丸の雨の中、攻撃の中心にいる相手に向かうのは自殺行為だ。降り注いでくる弾丸を切り裂きながら、フェイトは回避と迎撃に専念する。

 

一撃が当たれば致命傷となる弾丸を、フェイトは必死で回避と迎撃を続ける。弾丸が降り注いだ、シュミュレーターによって作り出された廃ビルが、地面が、跡形も無く吹き飛んでいく。

 

「(直撃したら、痛いじゃ済まなそうだなぁ……)」

 

機動力を重視した作りになっている自分のバリアジャケットをこの時は恨めしく思いながら、フェイトはそんな吞気な事を考えつつ、飛翔する。もう、シュミュレーターで作られた廃ビル群は、ディンの射撃によって、シュミュレーターのパネルが剥き出しになっていた。

 

たったの一分。それだけで全てが無になってしまう魔法を行使するディンの実力は桁外れに高いと言えた。一撃で地面を吹き飛ばす漆黒の弾丸を、同じ色を持つ相棒で切り裂きながら、フェイトは更に飛翔速度を上げる。

 

シュミュレーター全体に降っている弾丸ではあるが、それでも降り注ぐ密度が薄い箇所が何個が点在しているのだ。

 

「(これだけの大魔法、完全に制御は出来ないよねっ)」

 

流石のディンも、この大魔法全てを完全に掌握し、操る事は出来ないようだ。尤も、こんな常識外れな魔法を使う事態が有り得ない事であると、フェイトは思う。

 

その密度が薄い箇所に、駆け込むようにフェイトは飛び、上から降って来る弾丸を切り裂いている。当然ながら、この魔法を操っているのはディンだ。すぐさまフェイトがいる場所に弾丸を集中させてくる。だが、フェイトとてその場にずっと留まっている訳ではない。また他の、密度が薄い場所へと即座に移動する。

 

ある種、鬼ごっこのような事を二人と二機はしていた。

 

捕まえようとする鬼であるディンは、ジャッジメントへと命令を出した。

 

「ジャッジメント」

 

《了解。斉射速度を上げます》

 

黒い雨が、金色の閃光を捕まえようと、降る速度を上げた。降りかかって来ていた雨が、叩きつけるような豪雨へと変化する。上昇する弾幕の密度。最早スピードだけでは振り切れない。

 

「仕方ない……ちょっと強攻策だけどっ!」

 

フェイトは頭上に五重のシールドを展開する。装甲が他の魔導師と比べて極端に薄いフェイトだが、防御魔法が弱いわけではない。

 

金色の防壁が、黒い雨を防ぐ傘になる。弾丸は意図も容易く傘を食い破り、フェイトを撃墜しようとする。しかし、五重に張られたシールドはそう簡単に弾丸をフェイトへ到達させはしない。リミッターがあるフェイトがこれだけの防御魔法を発動出来ているのには訳がある。

 

実は、フェイトのデバイスである、バルディッシュ。本来はリミッターが付けられているのだが、今回は外されている。なので、デバイスの方は十全の力を発揮する事が出来るようになっている。はやてが、ディンの実力を見るために問題が無い程度に外したのだ。魔力リミッターを外すと、部隊の保有ランクを超えてしまうので、フェイトの魔力はリミッターが課せられたままであるが。

 

「行くよ、バルデッシュ!!」

 

《Yes,sir》

 

可変が可能であるバルデッシュの姿が、変わる。斧の刃であった部分が先端へとスライドし、パックリと二つに割れ、中心からフェイトの魔力光である金色の刃が伸びる。

 

「剣……」

 

それを見ていたディンが呟いた。斧から大剣、巨大な物体を叩き斬れる斬艦刀となる。高レベルの魔力を刃の形に保つ事によって、フェイトの電気の変換資質と合わさり、切れ味抜群の名刀と化す。

 

「(やっぱり、リミッターがあると、キツイ!)」

 

黄金の刃を維持するにはそれ相応の魔力が必要となる。普通に剣として振る分にはリミッターがあっても問題無いが、フェイトがこれからやろうとしている事には、それ相応の魔力が必要となる。今までの戦闘の疲労もあり、高魔力で形成される刃を保つには時間が限られていた。

 

自分の魔力疲労と戦いながら、降りかかる黒い雨に、フェイトは体全体を使って横薙ぎに黄金の刃を振るう。

 

「ハァァァ!!」

 

刃を振るった際に生じた魔力と雷電を纏った衝撃波が、襲い来る弾丸を全て吹き飛ばす。数瞬、黒い雨が止む。だが、雨は宙に浮かぶ魔法陣から際限無く降りかかる。たとえ数瞬時間を稼いでも意味は無い。しかし、その数瞬があれば、フェイトにとっては次の行動を起こすには十分な時間だった。

 

「雷鳴……上か」

 

ディンが気付くが、遅い。不意に鳴り響く雷鳴に顔を上げているが、準備は整っている。フェイトはバルデッシュを掲げる。それを避雷針とするように、空から雷が落ちる。

 

サンダーフォール。天候操作系の魔法にして、フェイトが持つ雷の変換資質を存分に利用した魔法。雷が宙に浮く魔法陣の一部を食い破り、バルデッシュへ落ち、刃が更に帯電する。刃はその恩恵を受けるように、肥大化する。

 

「っつ」

 

フェイトの表情が歪む。あまりにも無茶をし過ぎたせいだ。サンダーフォールは、こんな短時間で発動するような魔法ではない。ディンに狙いを気付かれまいと、バルデッシュを横薙ぎにした瞬間から発動させたが、天候操作系の魔法は発動させるだけで魔力を大量に喰う。それ故に、瞬間的にフェイトの体を疲労が襲い、表情を歪ませたのだ。

 

これからフェイトが行う策は到って単純。雷電と高魔力で形成された巨大な刃を宙に浮かぶ魔法陣に向けて振り下ろし、破壊する。後に、距離を詰め、一撃をディンへ与える。実にシンプルだが、フェイトが言った通りこれはかなりの強攻策だ。

 

最初、フェイトはディンの魔力が切れるのを待った。これだけの大魔法、長時間持続は不可能だと推測したからだ。が、その推測は完全に外れた。いつまで経っても精彩を欠かない魔法。こちらが対応し始めると同時に、速度を上げたのを見て、フェイトは逃げるのを止めた。いや、止めざる終えなかったと言った方が正しい。このまま逃げ続けていれば、こちらが先に魔力切れになるとふんだからだ。乾坤一擲、フェイトはこの作戦に、勝負の全てを賭けた。

 

上から下へ、縦一線に振るわれる黄金の刃。

斬撃は、弾丸を吹き飛ばし、宙に浮く漆黒の魔法陣を切り裂いていく。バチバチと、高魔力同士がぶつかった際に起きる音を鳴らしながら、刃は魔法陣を真っ二つに分裂させた。

 

ディンへと刃によって拓かれた一本の道が出来上がる。信じられない事に切り裂かれた魔法陣が再生をし始めたが、遅い。切り拓いた一本道に雨が降り始める頃には、フェイトはディンへ一太刀浴びせている。

 

「ハァァァ!!!」

 

閃光の異名を持つフェイトは、名の通り一筋の光となり、ディンに肉迫する。迎撃に放たれる弾丸を紙一重で躱し、斬撃が届く範囲に入った。

 

――捕まえた!!

 

確信があったフェイトは、有らん限りの力を込め刃を振り下ろした。しかし

 

《捕まえましたよ》

 

フェイトに返ってきたのは、ジャッジメントの言葉と、掌への堅い感触。銃身より、黒い刃を生じさせたジャッジメントを使って、ディンはフェイトの渾身の一撃を片手で受け止めていた。目を見開いて驚くフェイトへ、ディンはもう片方の銃身に刃を発生させた。

 

まるで来るのが分かっていたかのように力の限りを尽くして振り下ろした一撃が防がれたのを受けて、フェイトは、はっとする

 

魔力素の結合濃度に干渉出来るのならば、事前に魔法の発動を察知出来るのではないか。ならば、先程のサンダーフォール発動時に気付かれた筈だ。なのに何故、ディンはまるで雷鳴が響いた後に気付いたような素振りをした?

いや、そもそも……あれだけの技術があるのならば、あんな大がかりな魔法など、使わなくてよかったのではないか。

レイジングフォールに弾丸の密度が薄い場所が点在していたのは、まさかわざとではなかったのではないか。

更にAMF濃度を上げて持久戦に持ち込み、こちらが魔力切れになるのをじっくりと待てばよかったのではないか。

 

そこまで考えてフェイトは理解する。全て、この状況を作り出すための布石だったのだ。速度で勝る敵を確実に仕留めるために。確実に、自分の必殺が当たる距離に近づかせるために。

 

単純な話。最初から最後まで、ディンの計算通りに、掌の上で踊らされていた、と言うだけだった。フェイトは、腹部から広がる衝撃に意識を強制的に落とされた。




遅くなって申し訳ありませんでした、凡人Mk-Ⅱです。

戦闘描写がやはり難しい……時間がないのもありますが、大分時間がかかってしまいました。中々上手く書けませんが、これからも精進していきます。

次の更新は、二週間以内に出来るといいなぁ……

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