魔法少女リリカルなのはStrikerS 【ブレイカー】   作:凡人Mk-II

15 / 16
第十五話 陸と海

「オォォォォォ!!」

 

目標に吠えながら口をばっくりと開き、鋭く生え揃った牙で眼前に迫る獲物の喉笛を噛み千切ろうとした一匹の実験体を一筋の剣閃が迎撃する。

擦れ違いざまに放たれた一閃、普通ならば回避不能であるそれを実験体は目に捉え、信じ難い事に剣に噛み付いた。

ディンやシャマルといったエースクラスに比べれば吹いて消える程度の力しか持たない施設の実験体達だが、一般的な武装局員の前では相当な脅威となる。実際、施設に侵入した一課の武装局員達は、二人一組を崩さず確実に一匹を狙い各個撃破する戦術を取っている。

実験によって鉱石よりも頑丈に作られた牙は――しかし、噛み付いたデバイスを砕く事なく、その顎を切り裂き、それだけでは止まらず胴体を泣き別れにした。

 

死骸となった実験体の切断面から派手に血が吹き出る。それに構わず油断無く一撃を放った主、レオンは辺りを警戒する。すでに施設に入り戦闘が開始されてから二十以上の実験体を切り伏せていた。

その隣では共に戦闘指揮を執りつつ、戦況の報告を聞いているオイゲンもいる。彼のデバイスである、防御ではなく攻撃性に重きを置いた手甲と長靴である『イージス』は返り血で赤く染まっている。

 

「戦況は上々っと。やっぱ優秀な斥候がいると楽でいい」

 

「アコーズ査察官のお陰で、戦域での情報は突撃前にほぼ出揃っています。むしろこの程度の戦果を上げられぬようならば、一から鍛えなおさねばならなくなります」

 

手厳しい評価に、レオンは違いねぇ、と返す。

ロッサの協力もあり、実験体の残存数から施設の大まかな見取りまで突撃前に解析出来たのは大助かりだった。ロッサのウンエントリヒ・ヤークトの力によってほぼリアルタイムで戦域の情報が更新されるため、局員達の混乱も限りなく少ない。一課の人間達に到っては、あまりの戦いやすさに嬉々として敵の真っ只中に突っ込んで言っている輩さえいる。

 

「こんなワンコロが、斥候から軽い戦闘、情報の解析まで行えるとはなぁ……古代ベルカ式ってのは奇々怪々だな」

 

『聞えてるよぉ~レオン。奇々怪々で悪かったね。でもそのお陰で助かってるんだからあんまり僕の子達をこき使わないでよ? ――っ! 戦域の最奥に進行した隊員達がすごい勢いで後退している……僕の子もやられた。レオン』

 

「ディンの報告にあったデカイ獲物か」

 

『うぉぉぉぉ??!!!! た、隊長、副長、ヘルプ、ヘルーーーープ!!』

 

突如通信回線が開かれ、隊員の姿がホロウィンドウに映し出される。戦域を表示しているマップを見ると分かる通り、脱兎の如く後退している。

その肩には敵にやられたのか、二人一組を組んでいたはずのもう一人の隊員が担がれていた。ぐったりとしており頭から血を流し、完全に気を失っている。

 

「被害は?」

 

『意表を突かれて頭をしこたま殴られただけですので大丈夫ですっ! 命に別状はないっすよ、こいつ石頭ですからっ……て、きたぁぁぁぁぁ?! 隊長まじヘルプです! あんなの勝てないっすっ!』

 

回線越しに轟音が響いてくる。それから逃れるように隊員は必死の形相で爆走する。気絶している人間一人抱えているというのに大した脚力である。

そんな、頼もしいのだか情けないのだが微妙なラインを行き来している隊員に労いの言葉を投げかけた後、レオンは指示を出した。

 

「こっちに誘導しろ、俺が始末する。追いつかれて尻を掘られんなよ?」

 

『ご安心を! 最初っから隊長に押し付ける気でもうそっちに向かってるんで!』

 

「俺は優秀な部下をもって幸せだよ、全く……」

 

セイバーを担ぎながら嘆息する。

まぁ、こういった勝ち易きに勝ち、勝ち目の薄い戦いならば手に負える者に即座に任せる判断力は評価したいのだが、いかんせん格好が悪すぎる。命あっての物種とは言うものの、少しぐらいは格好つけてもいいだろう、とレオンは思う。

オイゲンも同意見のようで、いつもの動作をしながらやれやれと、悩ましげに頭を振っていた。

 

そうこうしている内に、爆走している隊員のやけに気合の入った悲鳴と建物を砕きながら進んできているであろう音を鼓膜が捉えた。音はどんどん近くなる。悲鳴もどんどん近くなってくる。

 

「声を張り上げながら走ると速くなるんだったか?」

 

《ご主人、それは迷信では? ――――来ます》

 

「むがぁぁぁぁぁぁ!!?!」

 

目視で逃走する隊員を確認し、レオンは獲物に向かって走り出す。

隊員の速度と対象の速度を比べれば、あのままでは追いつかれる。

建物を破砕しながら進む実験体の爪先が隊員の背中に掠り、痛みによって隊員の足が一瞬鈍る。実験体はそれを見逃さず、肩に担がれている隊員ごと人の太ももよりも太い豪腕でもって亡き者にしようとする。無論、レオンがそれを黙っているわけもなく――ダンッ! と床を蹴った。実験体との距離が一気に縮まる。

 

「頭を下げろっ!!」

 

「ふぉぉぉぉっ??!!」

 

隊員は担いでいる相方を一切気にせず、そのまま地面に勢いよくヘッドスライディング。先程までに隊員の頭があった場所を豪腕が通過し、レオンが放った蹴りが実験体の顔面に真正面から衝突した。

急加速と魔力強化による一撃は一切の拮抗を許さず実験体の首をおかしな方向に曲げながら後方に吹き飛ばした。

 

「隊長、副長、後は頼みまぁぁぁす!!」

 

地面に転がった相方を担ぎなおし、逃げていた以上の速度で安全地帯に消えていく。

あの様子なら途中で敵に遭遇しても逃げ切るだろう。レオンは、蹴りをかました大型の実験体に剣を構える。

 

《ご主人、他にも来ました》

 

十字の通路の真ん中に居座っていたレオン達の正面から、大型の実験体、右方向から小型種が数体押し寄せてきた。

 

「右は任せた。俺はデカブツをやる」

 

「了解です」

 

オイゲンは疾駆してくる小型種に悠々と歩いて接近していく。

手始めにいの一番に牙を突き立ててきた小型種の首を殴り飛ばしたのを確認し、レオンは大型種に視線を移す。

バキ、バキキ、と骨が強引に再生し擦り合う生々しい音と共に、大型種は立ち上がった。その目は赤く血走っており、最早理性や本能関係無しに、ただ動く物を攻撃するだけの存在と成り果てている。忌々しげに舌打ちする。

 

「ッチ……胸糞悪いぜ。本当に完成させてやがったのか、あの糞学者は」

 

《人体へこの技術が適用出来る段階にまで到っているとは、考えたくありませんね……》

 

「とっとと終わらせるぞ。セイバー、収束開始」

 

《承りました》

 

魔力の収束が開始されると、幅厚のロングソードであるセイバーの、剣の腹の部分が左右に割れた。その割れ目へと向かって辺りの魔力が急激に吸い込まれていく。

『収束剣』(ブレイズ)

それがレオンの得意とする技能。形状の通り叩き切る事に適したセイバーは、収束された魔力と相まって、触れれば斬り飛ぶ凶悪な武器と化す。

 

「ゴァァァァァァ!!!!!」

 

大上段から構えられた豪腕が振るわれる。体中の筋力と、圧倒的体格差から振り下ろされた腕は……

 

「っふ!」

 

レオンを捕らえる事無く、セイバーの刀身に触れた瞬間、振り下ろした方向とは反対にへし折れる。圧倒的な筋力、体格差を意図も簡単に覆す、高密度に圧縮された絶対的な魔力。

折れた腕が数秒経たずに再生しようとするが、その数秒間で勝負はすでに決していた。

 

「らぁぁぁぁあ!!!!」

 

絶え間の無い、連続斬撃。

触れただけで、強固な大型種の腕を小枝のようにへし折る一撃が連撃となって襲い掛かった。折れた腕が再生する間には、大型種は体の体積を三分の一程吹き飛ばされていた。

斬撃は止まらない。再生した腕を今度は肩から丸ごと斬り飛ばし、無事なもう片方の腕を粉砕し、太ももから下を切断し、胸板に蹴りが入り、床をゴロゴロと後ろに転がった。

 

「ガ……ガ……ガ……」

 

回っていた歯車が詰ってしまったような、鉄と鉄が擦りあう不快音が響く。これだけのダメージを受けてもまだ息がある事自体が奇跡であるにも関わらず、大型種は残った一本の足を折り曲げためを作り、筋力のバネを使って最後の攻勢に出た。

 

「――――あばよ」

 

爆進しながら口を開き、自らに残った最後の武器で相手を殺そうとする大型種に、レオンは無慈悲に、いっそ軽くセイバーを振り下ろした。

二つの影が施設を交差する。一方は不動のまま直立し、一方はその体を脳天から股まで真っ二つに裂かれた。

大型種の死骸はビク、ビクっと痙攣し、それがおさまると二度と動き出さなかった。

 

「こちらも終わりました」

 

オイゲンが捻じ切ったであろう小型種の首を放り投げ、念のために足底で踏み潰していた。

『関節技』(サブミッション)

レオンとは正反対とも言える、必要最小限の魔力と動作によって相手を組み伏せる格闘技。極近距離で戦闘を行った場合は、レオンでさえ勝てる気がしない。

何せ、殴ろうと斬り掛かろうと、その両腕が届く範囲ならばまるで魔法のように捌き、回避し関節を決めてくるのだ。その後は……実験体達のように体を捻じ切られる結末を迎えるだけだ。派手さが無い技だがそれだけに恐ろしいのは、時折模擬戦をするので身に染みている。

 

「あいよ、ご苦労さん」

 

戦況は落ち着きつつあるようだ。ホロウィンドウが表示する敵のマーカーも残すは後、二十程度。これならば自分が出向く必要もないだろうと、レオンは一息ついた。

 

「しっかしまぁ……海にはどんだけ優秀な人材がいんだ? ちったぁこっちに寄越せっての」

 

「こちらが先陣を切っていたにも関わらず、私と隊長の撃破した個体を除けば、撃墜数は一課の隊員とほぼ同数……流石、精鋭揃いと呼ばれるクロノ提督の部下達ですね」

 

「最初らへんは動揺してたみてぇだが、すぐに落ち着いたようだしな。ふん、精神的にも十分に成熟している、か」

 

『今回死傷者が出なかったのは、一課の隊員達が僕の部下のフォローに回ってくれていたからだ。こちらばかりが良かったわけではないさ。むしろそちらがいなかったら確実に死傷者が出ていたさ』

 

通信でクロノがこちらだけの功績では決して無いと表明する。

普通、こういった秘匿任務では責任の押し付け合いが発生するのが常であるが、その心配はこの任務に限っては皆無のようだ。この人物は出世欲が無い、と言うよりも根があまりにも真面目なため、公正に判断をしているだけのようだ。

良い上司に恵まれている、とレオンは思った。勿論、自分も上司には恵まれているが。

 

「さてと、ロッサ。他にはいるか?」

 

『ご安心を。もうあんなのはいないよ。あ、一課の人が最後の一匹を倒したよ』

 

『そうか。一佐、ひとまず作戦は一段落した。一旦隊員達を下げて負傷者の手当てを。施設の調査はその後にしよう』

 

「了解。うっし、聞いたなお前ら! 一度上に戻るぞ!」

 

隊員達の返事を確認すると、レオンとオイゲンも地上へと足を向ける。

足元には先程まで自分を殺そうとしてきた大型種の死骸がある。斬られた断面からは肉と骨と、機械部品が覗いていた。

 

「……」

 

自然とセイバーの柄を握る手に力が加わる。

レオンは忘れもしない。ジェイル・スカリエッティを追っていた隊員から連絡が途絶えて数日後、その隊員の情報を元に見つけ出した違法施設で見つけた――人では無くなってしまっていたその姿を。

見せしめであったのか、それとも隊員に適正があったため改造したのかは分からないが、よく違法施設で見つかる、人と機械の融合体、戦闘機人になれなかった『成り損ない』(・・・・・・・・)に成ってしまったその姿を見て、体中が凍りついたあの感覚を今でも忘れる事が出来ない。その隊員を『ディンが始末した事も』(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「(あの糞野郎だけは、あいつだけはっ……俺の手で豚箱にぶち込んでやらねぇと気がすまねぇっ)」

 

これは復讐であり、私情だ、とレオンは自覚している。だが、だがそれでも、そう自覚していても、腹の底にある黒い感情を押さえる事は出来ない。自分の大切な『家族』(ファミリー)を殺す何処ろか、死さえも侮辱し、亡骸を陵辱したあの男を決して許さない。

 

「……レオン」

 

「っ! わりぃ……行こう」

 

私人としてのオイゲンの声に、思考と感情の底に沈んでいた意識を引き上げられ、レオンは前を向き歩き出す。二人が去った後には、ただ静寂と亡骸だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

地上に出ると、さながら一昔前の野営を思い起こさせる光景が広がっていた。

負傷している者や、担架で運ばれている者もいる事からキャンプなどと言える平和な光景で無いのが残念だったが、危険な状況を乗り切った事から精神的な余裕が隊員達には生まれたようで、弛緩した空気が流れていた。

 

「いだだだだ?!! ね、ねーちゃんもうちょっと優しくしくれよっ?!」

 

「我慢してください。こんなの引っ掻かれたぐらいでしょう?」

 

「治療系の魔法が使えないからって、消毒液を大量にぶっかけるのはちょっと大雑把すぎねぇか?!」

 

そんな大声がどこからも聞えてくる。

レオンは少しだけ驚いた。最初は厄介者扱いされていた一課の人間を率先して治療しているのが、海の人間達だったからだ。

 

「いよぅ! あんた大丈夫か?」

 

「ああ、あの時は助かったよ。貴方が助けてくれなければ大怪我をしていたところだ」

 

コツっと、二人の隊員は拳を合わせていた。これも、所属が違う海と陸の人間だ。

そんな、お互いの健闘を讃えあう様子が溢れていた。

 

《あまり、陸だ、海だと難しく考える必要はなかったのかもしれませんね》

 

「ああ、そうだな。もっと早く気付くべきだったな」

 

死と隣り合わせの戦場を共に駆け抜け、生き抜き、今この時、彼らは戦友となったのだ。

組織の所属に関係無く、人と人が手を取り合い喜ぶを分かち合っている姿を見て、レオンもオイゲンも口元が緩む。

 

『一佐、お疲れ様。流石、陸のストライカーだと言われる事はある。見事な手際、はやてにも見習わせたいぐらいだ』

 

もっとこの素晴らしい光景を見ていたかったが、悲しいかな、自分は部隊を預かる責任者だ。その責任を果たさなければならない。

手始めに、事の顛末を報告しようとしたが、クロノの発言で訂正しなければいけない箇所があった

 

「クロノ、そいつはちげぇ。俺はあくまで『エース』(・・・・)であって『ストライカー』(・・・・・・・・・)じゃない。ストライカーってのはお前みたいな奴の事を言うんだよ」

 

エースとは戦況を『支える者』(・・・・・)であって『覆す者』(・・・・)では無い。

レオンの中では、エースとは凡人が辿り着ける境地であり、ストライカーとは天才が行き着く場所である。そう、ストライカーとはどんな絶望的な状況でも、不屈と不倒の意志を持って戦いを覆す者にこそ相応しい称号なのだ。だからこそ、自分にはストライカーと言う呼び名は分不相応だと言った。

その言葉に、クロノは苦笑しながら答えた。

 

「それなら、僕もストライカーではないさ。僕も、エースであってストライカーじゃない。ストライカーと言うのは、なのは達みたいな子達を言うのさ。君から見て、僕がどれだけ強くてもね」

 

「っは、優秀な知り合いを持つと、気苦労とコンプレックスが耐えないな」

 

それからは事務的な会話が続いた。制圧における被害、負傷した隊員の数、今後の施設調査の部隊の構成等を話し合い、一段落すると、レオンは視線を周りの隊員達に向ける。

 

「なぁ、クロノ」

 

『なんだい?』

 

「こいつを見てるとよ、海と陸が手を取り合える日も、そう遠くないと思えねぇか?」

 

『……そうだな、きっといつか』

 

一課は合同で捜査してはいても、基本的には後方での情報収集が主だった任務だ。一部、犯人のアジトに踏み込む際には、喜んで先陣を切る馬鹿もいるが、こうやって共に戦場に立ち、死線を越えたのは、初めてではないだろうか。

理由はどうあれ、こういったのは悪くない、と思う。

 

「(胸糞悪い任務だが、こいつが見れただけ良しとすっか)」

 

見上げた空は、肩を並べ、手を取り合う人々を祝福するかのように、蒼く澄み渡っていた。

 

 

 

 

――――だが

 

「ふ、くくく……はははははは!!! ははははは!!!! そうか、そう言う事か!!! 成る程、世界は広いな私と同じような存在がいたとは!!! はははははははは!!!!」

 

その空と同じ下で、一人の学者が哄笑しているのをレオンは知らない。

かつて、旧暦の時代に誰かがこう言った。

『世界は変わらず、慌しくも危険に満ちている』

次元世界は、未だ嵐の前の静けさを保っている。後にやって来る嵐の凶悪さを、この時はまだ誰も知らない…………




どうも凡人です。

前回と違い今回はコンパクトに纏められたかなと思います。
前にだれだけ書いたせいかちょっと物足りないかなって感じはしますけどねw

さて、一旦レオンの話が一区切りついたので、次回からはディンの話しに戻りたいと思います。

遅筆な作者ですが、今後もお付き合いいただければ幸いです。

では
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。