魔法少女リリカルなのはStrikerS 【ブレイカー】 作:凡人Mk-II
違法研究施設の捜査から二日後、ディンは機動六課へと潜入していた。彼の六課内での立ち位置は事務仕事をする一般局員であり、一応魔導師ランクを保持しているとはいえDランクなので戦力として扱うには不安が残るもので、一般局員と変わらない扱いとなっている。稼動式を終えて、ディンは自分の与えられた任務と仕事をこなしていた。
「(この隊の構成は概ね把握した)」
基本的には隊長陣は新人、フォワード達の育成に付きっ切りで、執務官であるフェイト・T・ハラオウンは捜査周りの事で手一杯。副隊長であるシグナムは交替部隊の隊長を兼任しており、昼は中々時間が取れないはず。
ヴィータは現在はスターズの隊長である高町なのはの助手的な位置にあるようだ。部隊長である八神はやては地上の人間達への対応、及び隊の管理で今は他の事に気を回す余裕は無い。もう一つの仕事をするのは簡単だった。
それと、ディンはオーリスの手腕に舌を巻いていた。兼ねてから優秀なのは知っていたし、その優秀さに何度も助けられた事もある。ただ、かなり特殊なこの部隊に自分という異物を何の違和感も無く入れてしまった。それが改めて凄いと思う。
機動六課という部署は前例が無い特殊な部隊だ。陸と称される管理局地上本部と、海と称される管理局本局。前者はミッドチルダを中心に名の通り陸を管理し、海は次元世界全土という超広域な範囲を管理する。言ってしまえば二つの巨大な派閥のようなものだ。しかもこの二つの派閥、致命的と言って言い程に仲が悪い。
当たり前だが地上にある部隊は全て陸所属となり、本局にある部隊は全て海の所属となる。だが、機動六課はこれを逸脱している。陸にありながらも本局、つまり海の所属となっておりしかも手続きなどの殆どを海が取り仕切っていて、陸には情報が回ってきていない。
そんな部隊にオーリスはディンを簡単に入れてしまった。しかも、特に警戒される事もなく、だ。
彼女の話だと通知された情報を多少弄くったらしくディンの元に出向依頼が来た、という流れらしい。これで仮にディンが疑われたとしても、連絡の不備でした、と言い訳が立つのだ。はやても部隊員の全てを把握しているわけではないだろうし、まさか人事部にまで手を回されているとは思っていないのだろう。強引だが、彼女達と親しくもない地上の局員なので多少強引でも問題はない。オーリスの手練手管には感心するばかりのディンである。
《(マスター、六課のデータベースに侵入した結果重要な情報は無いようです)》
さらりとジャッジメントは物騒な事を念話で話してくる。彼女は時折違法行為を平然とする。人間味があるデバイスだからこそ他人から見たらさぞ恐ろしいだろうが、それは自分の為にしてくれているものであり、たとえそれのせいで不利益を被っても構わない。
ディンは念話で返事をし、書類仕事を終わらせにかかる。あまりに早く終わらせすぎると怪しまれるので適度に休憩を挟みつつ、周りの局員のスピードへと合わせる。ディンの周りにいる局員達は他の部隊の局員よりも仕事が速いようで指が淀みなく動き続けている。戦力だけではなく事務専門の局員でさえ優秀らしい。
まだ六課に来て数時間足らずだが、他の地上部隊と比べれば設備から人員に到るまで敵わない。不正と言うものも無さそうで、局員達もやる気に満ちている。
もしかしたら八神はやては自分が潜入任務でここに来ているのを気付いていて、何か抜け目があるのならば見つけてみろとでも言う代わりに何の監視も付いていないのかもしれないと推測する。
「(いや、それは考え過ぎか)」
仮にそうであっても監視ぐらいは付けるだろう。ディンは時間を確認する。すでに十二時。昼休みの時間だ。チャイムが鳴り局員達が体を伸ばし体を解して、彼ら彼女らは食堂へと足を進め始めた。
食堂になど行かなくても別に捜査に支障は出ないのだが、ディンとて人間。食べなくても活動に支障はそこまでないにしても腹を満たしておいて損は無い。
それに個人的興味として、ディンはこの食堂の料理の味を知りたかった。管理局の食堂の味はピンキリであり、不味いところはコンビニ弁当とさして変わらない隊まであるのは局員の間では結構知られている。ディンはここの隊の食堂が当たりである事を願う。
立ち上がると他の局員は誰一人として部屋に残っていなかった。部隊稼動一日目だからか自分と同じような考えを持つ者が大半だったのか。遅れて部屋を出た。
オフィスから食堂に行く為には、一度六課の入り口があるロビーを通り過ぎなければいけない。廊下をディンは歩くが、他の局員とすれ違わないのは食堂に集まっているからか。もし席が空いていなかったら諦めよう。そう思い、ロビーを通り過ぎようとした時だった。
「あ、す、すいませ~ん!」
ディンに一人の女性が話しかけた。
「これ、どうしようかしら……」
六課の主治医であるシャマルは困っていた。その原因は彼女の目の前にある何十個ものダンボール。張ってある紙には薬品の名前が書かれている。何故、こんなにも大量の薬品がロビーに置いてあるのか?それは単純で六課に薬品だけ運び込むのが遅れたからである。運送してきた局員も今日は忙しいらしく、それをシャマルは感じ取ったので後は自分で運ぶから大丈夫と言ってここに置いてもらったのだ。
しかし、いざとなると色々と困ったもので、これを全て運ぶのは結構な手間だ。普通の女性よりも腕力があるシャマルはダンボールを四、五個持ち上げるくらいわけないのだが、一度に全てを運ぶのならば台車か、せめてもう一人くらいは欲しいところだ。と言っても台車は無いし、ロビーを通り過ぎる人は誰もいない。間が悪いとはこの事だろう。丁度今は昼時で食堂に局員が集中しているため人が通りかかるなど無い。
「ま、いいっか」
二度手間になるがこの程度の労働屁でもないと自分に言い聞かせ、シャマルはダンボールを数個積み上げ持ち上げようとして、ロビーに人が通りかかるのを見た。
「あ、す、すいませ~ん!」
多分食堂に向かうのが遅れた一人なのだろう。チャンスとばかりにシャマルは声をかけた。彼女の声が二人しかいないロビーに響く。しっかりと相手に聞えたようで足を止めてこちらに向かって来てくれた。
「何か御用ですか?」
呼び止めた人物は色々と特徴的な人物だった。180を超える身長なのは珍しい事ではないが、灰色と白が混じった濁った色の髪。手入れをしていないのか髪は男性にしては長い。前髪は目にかからぬように額の中心から左右に分けられていて襟足も肩についている。友人のフェイトのように赤い目。仕事中だからかは分からないが眉と目は吊り上り、自然と厳しそうな近寄り難い印象を与えてくる。それだけならばどこかにいる青年だが、彼の表情だけは違った。
能面のように動かない顔。凍り付いているように眉から頬に至るまで顔のパーツが何一つ動かない。動いたとしたら口を動かした時ぐらいのものだった。ここまで無表情な人物をシャマルは初めて見たので少し動揺した。だが、シャマルの本職は医者。様々な患者を診て来た彼女からすれば無表情の彼は珍しいが避ける程のものでもない。そんな事していたら医者は務まらない。
「これを運ぶの手伝ってもらえないかしら?」
彼は一度荷物を見た後に食堂の方向を向いた。お腹が減っているのかもしれない。もしそうなら気の毒だから大丈夫とシャマルは言おうとしたが
「分かりました。医務室に運べばよろしいですか?」
手伝ってくれるようだ。なら好意に甘えよう。シャマルはダンボールを五個重ねて持つ。残りが八個ある。
「うん、私に着いて来てくれる?」
「はい」
彼はダンボールを脇に四つずつ持ち、それなりの重量があるのだが特にバランスを崩すような素振りはない。体を鍛えているのだろう。シャマルは医務室に向けて歩き出す。食堂とは反対方向にあるので実は一番遠かったりする。とは言っても六課自体そこまで大きい部隊なわけではないので到着まで二分もかからない。二分もかからないのだが、何も喋らないのは辛い。なのでシャマルは話題を振った。
「六課はどう?」
「質問が抽象的過ぎて具体性に欠けます。それはどういう意味でしょうか?」
まさかこんな質問の返し方をされると思っていなかったシャマルは少しだけ戸惑った。具体性に欠けると彼から言われたので彼女は出来るだけ具体的に質問の内容を変えた。
「え、えと……貴方から見た六課の印象、かな」
「いい部隊だと思います。局員達の意識も高いようですから」
淡々と彼は言った。家族であるはやての部隊が褒められているのだからシャマルとしては嬉しいのには違いないのだが、彼の発する言葉はまるで入力された言葉を機械が喋っているように聞えてしまう。表情が全く動かないのもそれを助長していた。
「医務室、ここではないのですか?」
「え、あ、ご、ごめんなさい」
そんな事を考えていたら医務室を通り過ぎようとしてしまっていた。彼に注意されて足を止める。
「ありがとう」
「……? 何がですか?」
「六課の事褒めてくれたでしょ?だからお礼を言ったの」
彼も六課のメンバーだが、それでもシャマルははやてが設立した部隊が褒めれると我が身に起こった事の様に喜ぶ。勿論その逆もある。お礼を言うと医務室の中に入る。
六課の医務室は新設の部隊なのだから当たり前だが新品同然。四つ置かれたベットと診察用の机に、薬品を置く棚に医療機器。そこそこの広さがある部屋の大きな窓からは外の海が見える。勿論、外から中の様子は見えないようにガラスに細工がしてあるので覗かれる心配は無い。
「とりあえず、床に置いてくれる?」
彼はシャマルの指示に従いダンボールを床に置いた。
「ええ~と、これはここで……」
シャマルは持っていたダンボールを開けて薬品を医務室にある棚に分類していく。それは栄養剤から傷薬まで様々だ。薬品に詳しくなければどれがどれだか名前だけでは判断出来ない物も多々ある。なので彼に手伝わせる事は出来るわけがないので、シャマルがお礼ともう大丈夫だと言おうとしたのだが
「お手伝いしましょうか?」
「え?」
「不要なら去りますが」
シャマルは迷う。下手に手伝われて薬品が混同するのだけは絶対に避けたい。万が一にも間違って患者に薬を投与した場合洒落ではすまなくなるからだ。しかし、このままだと時間が掛かるのも事実。考えている間、彼はじっとして動きもしない。こちらの指示を待っているのだろうか。
「う~ん、じゃあダンボールの中に入ってる薬品を出してくれる? あ、どのダンボールに入っていたか分かるようにしてくれると助かるわ」
「了解しました」
お願いすると、彼は作業をし始めた。ダンボールの中から薬品を取り出している。それを見てこちらも作業を再開する。棚にそれぞれの薬品を分類し置いていくだけなのだがシャマルが思っていたよりも時間が掛かってしまっていた。一つのダンボールの中にある薬品を全て棚に置くのに数分も経っていた。これだと、一時間くらいかな。大体の作業時間をシャマルは見積もる。
彼の方は大丈夫だろうかと視線を向ける。ダンボールはすでに三個空いており、机の上に薬品が並べられていた。ちゃんと分類されて。
「(あれ……?)」
もしかしたら薬に詳しいか、医療系の人だったのだろうか。彼には一切迷いが無い。分類していくスピードも速いのは良い事だが、シャマルの中で疑問が生まれていた。
「どうかされましたか?」
「え?」
「手が止まっているようなので」
それは遠まわしにさっさと作業をやれと言っているのだろうか? いや、多分この青年は自分の手が止まっていたので聞いただけなのだろう。
シャマルは「なんでもないわ」と言って彼を横目で見ながら作業を再開した。彼女の後ろでは彼が黙々と手を動かし、薬品を分けていっている。無駄口一つ叩かず、休みもせずに作業をしていく。それ自体は別に構わない、むしろ早く作業が終わるのはいいことだ。
だが、シャマルはあまりにも彼の動きが機械的に見えてしまう。人間的動作があまりにも少ないとでも言えばいいだろうか。例えば薬を分けていくのだってあまりにも正確過ぎる。薬が入ったビンの間隔が全て等間隔でおかれており、しかも作業スピードが常人よりずっと速い。普通薬品のラベルを読んでから置くものだが彼は薬の形状などから判断しているように思える。さながら分類を専門とする機械のアームのように。
今の彼は薬を分類するという一種の機械となってしまっているのか。これも個性、と呼べばそうなのかもしれないが見ている方はちょっと不気味だ。
お互い無言で作業を終わらせにかかる。ビンが置かれる音だけが医務室に響く。会話が無いので窓を見る。医務室の窓から一望できる訓練用シュミュレーターから何個か光が見えた。新人達が訓練を開始したようだ。
「(初日から疲労でここに新人の子達が来なければいいけど)」
シャマルは訓練風景を想像し、苦笑する。教導官であるなのはの訓練は厳しい。どれくらい厳しいかと言うと、数年管理局に勤めている局員が簡単に悲鳴を上げるくらい。尤も訓練の成果の程は折り紙つきだ。新人達も半年と経たない内に十分な戦力になるはず。
「終了しました」
「へ? あ!」
声を掛けられて振り向こうとしたシャマルだったが、考え事をして注意が散漫になってしまっていて、彼女の白衣の裾にビンが触れて手前に置いてあったのが棚から落ちて割れてしまった。ガラス片と薬品が入ったカプセルが床に散らばる。
「大丈夫ですか?」
変わらない口調で彼はこちらを心配してくれた。良い所もあるのね、とシャマルは口には出さずに首を縦に小さく振って大丈夫だと伝えた。彼は箒を使おうとせずに破片をそのまま素手で回収しようとしていた。
「あ、待って」
シャマルの言葉で彼は手を止めて、ピクっと指先が震えた。破片が深く指に刺さってしまったようだ。彼は言われたとおりに手を止めただけで、刺さってしまった原因は自分にあるのではないだろうか。知り合ってから十分程度しか経っていないが言われた事をきっちりと実行する彼からすれば十分に有り得た。血を拭く為だろうか、制服のズボンに指を擦り付けていた。
「刺さったのね、見せて」
「いえ、大丈夫です」
「駄目よ。いいから見せて」
シャマルは言うと強引に彼の手を掴んで指先を診る。深く刺さったように見えたのは錯覚だったのか、血は出ていなかった。傷口も無い。
「よかった、怪我してないのね」
ホッとしてシャマルは彼の手を離した。
「ありがとう手伝ってくれて。後始末は私がやるからもう大丈夫よ」
シャマルは微笑みながら彼にお礼を言うと
「そうですか。では失礼します」
彼は言うなり振り向きもせずに部屋から出て行った。シャマルは箒は何処にあったかなと部屋を見回す。
「あら?」
おかしいものがあった。ビンが割れて破片が散らばっている床。その中に赤い、一滴の血があった。可能性から考えれば彼の血液なのだろうが、診た限りでは指先に傷口は見当たらなかった。
「どういう、事なのかしら……」
考えても疑問を解決する事が出来ないので、箒を探すシャマル。そこで、はたと気付いた。
「あの人の名前聞いてなかった」
ディンは医務室から出て、シャマルに握られた手を見た。暖かく、男性とは違う女性特有の柔らかさがあった掌。触られていた箇所にはまだ、その感触と暖かさが残っている。
「(不思議な人だった)」
データではシャマルの存在をディンは知っていた。この部隊の医務官で主治医。医術や回復魔法の腕は勿論の事、魔導師ランクAA+を保持している戦う医者である。主に前線で戦う者のサポートを主体とするため単騎での戦闘能力は分からないが、少なくともそこらの一般局員には引けをとらないだろう。
ただ、それらはあくまでデータを見てディンが予想したものでしかない。実際に会って見てディンの中で予想とは印象が大分違った。医者、というのでもう少し事務的な態度をとるかと思えばそうでもなく、真逆。柔和で朗らかな笑顔を浮かべていた。母性的というのが一番適切な表し方だろうか。しかし、ディンが不思議だと感じたのはそこではない。シャマルは自分に対しても全く変わらない態度で接していた。それが不思議だった。ディンは自分で言うのもなんだが無愛想な部類に入る人間だと自覚している。仕事中は決して表情を崩さないし、態度も機械的だからだ。大抵、ディンを見た局員は気味悪がるか、関わり合いになろうと近づいては来ない。
だがシャマルは違った。普通に話しかけ、頼み、心配してくれていた。普通でない自分に何故普通に接してくれたのか。それがディンは分からなかった。
《(良い人でしたね)》
職場では基本的に喋らないジャッジメントが念話でシャマルの事を言った。良い人、確かにシャマルはディンの中でも良い人の分類に入る人間だ。無愛想で気味が悪い人間相手に心配し、微笑んでくれる時点で十分に。
医務室から離れると昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。ディンは食堂の料理を堪能するどころか様子を見る事すら出来なかったようだ。少々残念に思いながら、ディンは自分の役割を果たす為にオフィスに向かった。その手に暖かさを残したまま。
作業も終盤に差し掛かり時間も七時を過ぎた頃、ディンは一人の青年と少年の中間辺りの局員に話し掛けられた。
グリフィス・ロウラン準陸尉。本局人事部のレティ・ロウランの息子であり、魔導師では無くとも若くして準陸尉という地位にいるエリートだ。仕事は時間通りにきっちりとこなし、局員然とした態度をしその事から年齢や性別に関係なく信頼が厚い。これもディンがデータベースの情報を元にしているのでシャマルの時のように脳内のイメージとは違う可能性も大いにある。
「お疲れ様です。グリフィス準陸尉」
同じようにグリフィスは労ってくる。彼はすでに仕事を終えているようでこのオフィスを回ってきたようだ。
「仕事の方はどうですか?」
「これで終了します。グリフィス準陸尉はどうされたのですか?」
グリフィスの話によると稼動初日なので勝手が分からない隊員がいないか自分の仕事が終わった後に見に来たと言った。こういった細かい気遣いが人気の理由なのかもしれないとディンはグリフィスの人望の厚さに納得した。
「何か困った事が起こったら遠慮せずに相談してください。同じ男同士ですし」
機動六課は比較的女性の割合が他の部隊と比べて高い。オペレーター陣が全員女性など稀だ。加えてグリフィスは事務仕事だけではなく隊長陣とも仕事上でも個人でも関わり合いが深い。そのため男性と話し合う機会があまりないからディンにこう言っているのかもしれない。肩身の狭い思いというよりも、やはり同性が一人も居ない場合は疎外感のようなものを感じるだろう。男の割合が多い部隊に居たディンにとってはあまり理解出来ない感覚だが。
「ええ、お気遣いありがとうございます」
座ったまま一礼をするとグリフィスはオフィスに残っている他の局員にも話しかけに行った。一介の陸士に対して尉官が随分と腰の低い態度だった。どうやらグリフィスは階級が自分より低くても敬語を使い態度を変えないらしい。
「(父さんが見れば、見上げた若者だ。とか言いそうだな)」
グリフィスの年齢はディンよりも低く、局で働いている年数も少ない。にも関わらず準陸尉の地位にいるのだから能力も優秀で立派な人格者のようだ。でなければあの若さで尉官などにはとてもではないがなれない。そう考えると二十歳にも満たないはやてが左官の地位にいるのは陸にとっては異常とも言える。だが、基本的には管理局は実力主義だ。能力も無い人間に左官の地位を授けるほど局も馬鹿ではない。つまりはやては地位に見合うだけの能力と資格を十分に持っていると言う事なのだ。加えてはやては過去の重大な事件を起こしている。前科があるというのは局員にとってマイナスでしかない。起こした事件が大きければ大きいほどに昇進する速度が遅くなるのも有り得る。が、それに負けずにはやては左官の地位にいるのだから彼女のほうが異常と言えるのかもしれない。
ディンは最後の作業を終わらせると、纏めた資料を送るために決定キーを押して資料を送信した。作業が終了すればやる事は無いので宿舎に帰って寝るだけだ。事務専門の局員はそこらの会社の事務員と内容は少々特殊でもやっている事は特に変わらなかったりするのだ。
立ち上がりディンは他の局員に一度頭を軽く下げてオフィスを出た。初日だから怪しまれぬように作業を大分遅めに終わらせたが、遅くしすぎたようで六課内の一部の電気が消えていた。その電気が消えている場所は、オフィスから食堂に行く過程で必ず通る場所で、局員達の休憩スペースだ。これは宿舎にもあるのだが、仕事場にも休憩場所は必要で事務員が食後に一息つく場所でもある。ここで他の局員達と交流を深めたり情報交換をしたりと部隊では必ずある物の一つだ。
電気が消えている事から誰もいないはずの休憩所に、天窓から差し込める月明かりが四つの人を浮かび上がらせていた。新人達四人だった。様子を見る限りではなのはに相当に扱かれたらしい。
エリオは床に胡坐をかいて座っており、夢と現実の狭間にいるのか頭がうつらうつらと上下に揺れて舟を漕いでいる。ティアナとキャロはソファに座り肩を寄り添っており、すでに意識は夢の中のようだ。スバルは一応意識はあるようだが、ソファに腰深く掛けて「う~あ~」何て言っている。疲労困憊過ぎて周りを見る余裕が無いのだろうか。何にせよこのままでは体が冷えてしまう。一言注意をしておこうとディンはスバル達に近寄る。
ここで普段ならばディンは声を掛けずに無視をする。任務上、部隊を構成する主要な人物に顔を覚えられるのはあまりいい事ではない。だが、それが出来なかった。スバルがいたからだ。彼女の母にディンは昔、世話になった事があるのだ。恩を返せずに逝ってしまったので、これで一つでもそれが返せればと思う。
「(……無駄な感情だ)」
そう思ってはいてもディンは声を掛けるのを止めはしない。一度くらいの接触ならば問題無いと心の中で言い訳をつけてスバルに声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「へ?」
近寄ってきているのを全く気付いていなかったのか、スバルは素っ頓狂な声を上げた。
「訓練後、体を冷やすのはあまり良くありません。辛いでしょうが他の人を起こしてすぐに休息すべきです」
「え、あ、は、はい」
顔も名前も知らない人間からいきなり言われたからだろう。困惑しているスバル。ディンは言うべき事は言ったと背を向けようとした。
「あ、あの」
「何でしょうか?」
スバルはディンの顔を凝視している。スバルの顔は何かが引っ掛かっていて、霞がかかっている何かを思い出そうとしている様な顔だ。
「えっと、何処かで会いませんでした?」
ピクリと、動かないディンの眉が僅かにだが揺れた。
「いえ、気のせいだと思われます。では、これで失礼します」
背を向けて歩き出す。鋭い、ディンは思う。確かにスバルとは会った事がある。しかし、直接会ったのはもう随分と昔で、スバルが五歳にも満たない年齢だった。まさか、それを覚えているとは考えてもいなかったディンは驚いてしまい、表情が若干動いたのだ。
《(鋭いのは親譲り、って事でしょうか?)》
「(だろうな)」
ジャッジメントも驚いていたのか、今日職場で二回目の発言をした。機動六課に来て一日目。少々驚いた事はあったが、問題なく終了した。この調子でいけば早めに任務を遂行出来そうだ。
宿舎に戻りながら今日あった事を頭の中で整理しながらディンは宿舎の自分の部屋に戻って行った。
どうも凡人Mk-IIです。
今回はなんだか地の文がすごく多くなってしまった回でした。読み辛かったら申し訳ございません。
文はこうした方がいい、ここがおかしい等のご指摘がありましたら遠慮なく感想、またはメッセージで送りください。
では