魔法少女リリカルなのはStrikerS 【ブレイカー】 作:凡人Mk-II
六課が稼動し始めてから十数日後。ディンはミッドチルダの一角にあるカフェに来ていた。本来、稼動してから数日の部隊は基本的に二十四時間勤務なので、たとえ午後がオフシフトだとしても外出の許可は滅多な事では出ないのだが、そこはばれなければ問題ないの精神でディンは六課を出てきた。カフェはチェーン店ではなく、個人経営している店でシックな感じをしており、椅子は木で作られて濃い目の茶色。テーブルクロスも肌色で、加えてライトから注ぐ優しい光もゆったりと出来る印象を与えてくる。メニューもそれなりな値段がするのだが、働いている人間からすれば許容範囲内の値段だ。
ディンが座っている位置は、店の一番奥で外からは見えない位置取りになっており、他の席からも少し離れているため余程の大声を出さなければ会話を聴き取られる心配は無い。ここの店主は知り合いなのでそこらへんも融通を利かせてもらっている。
入り口のドアに付けられたベルが鳴る。誰かが入ってきた。オーリスだ。服装は仕事の合間に抜けて来たのか管理局の制服のままだった。オーリスは迷い無くディンがいる方向に向かって足を進めた。
「ごめんねディン。ちょっと遅刻ね」
「"ううん僕も今来たところだから、姉さん"」
ディンの声が職場にいる時と比べて豹変したと言っても過言ではないくらいに優しいものになった。凍っていた表情は溶けて、吊り上っていた眉と目は下がり自然と柔らかい顔になっていた。
「仕事中抜けてきて大丈夫だったの?」
「ふふ、可愛い弟のためならなんのそのよ」
オーリスも仕事中ではないので態度や眼差しがとても柔らかい。仕事の出来る女性ではなく、弟の事を気遣う姉へと変化していた。
「先にコーヒーだけは頼んどいたから」
密会のためにここに来たのだが、何も頼まずに話だけをして帰るのは明らかに営業妨害なので、ディンはオーリスが来た時点でコーヒーを持ってきてくれるように注文しておいた。店主もオーリスと知り合いなので顔を間違える事はまずない。
ディンが言った後にすぐコーヒーが店主より持ってこられた。コクのある匂いが二人の間を漂う。ディンはカップを手に取り口にした。
「うん、やっぱりここのコーヒーは美味しいね」
「ふふ、そうね」
久しぶりに弟であるディンと話せて嬉しいのか上機嫌のようでオーリスは笑顔が絶えない。
そんなオーリスに誘発されるようにディンも職場では絶対に動かさない表情を動かして微笑んでいた。
「姉さんは最近どう?何か困った事はない?」
「大丈夫よ。昔ほど忙しくないわ。最近は陸もようやく安定の兆しが見えてきたもの」
オーリスの言う安定とは何も治安だけを言っているのではない。陸の人員や装備、訓練体制など様々な意味を含む。事件の規模が海の方が大きいため予算も人員もそちらに自然と流れて行ってしまうのだ。陸で育った人間が海に転属するなど日常茶飯事。
ディンはこれを仕方ないと考えている。管理局に入る人間だって家庭の事情で金が安定して必要な人だっている。そんな人からすれば給料が高い海に行きたがるのは自明の理。そこに付け込んで海に強引に勧誘する人間も僅かに存在するのが悲しいところだが。
水が上から下に流れるように、人も費用も流れていく。だが、常にこの流れでいいのかと言われれば、それは否。貯水している水を絶え間なく流し続ければ枯渇するように、この流れが続けばいずれ陸は枯渇し戦力が無くなり海にばかり集中する事になる、いやすでになりかけている。それは組織として非常にまずい。陸と海は二つで一つの組織なのだ。片方に戦力が集中し過ぎれば必ず歪みが生まれる。
それは陸の事件への対応の遅さだったり、海への過剰なまでの敵意だったりと様々な部分で顕在化している。それに反発するように海所属の局員も、陸の人間を無能と罵る者も出てきてしまったのだ。
「海へ人員が流れていくのをもう少し防げればいいのだけれど」
「難しい、だろうね」
近年では犯罪も凶悪化し、激化の一途を辿っているのは海も陸も同じ。ただ、海は事件の規模が段違いに大きい。下手を打てば星一つが消えてなくなる事件が起こりうる。実際、十年前に起きた闇の書事件も何かを間違えれば地球が跡形も無く消え去った可能性もある。
そういった事件が起こるため高い能力が求められ、それに見合うだけの報酬も支払われる。反対に陸はロストロギアの取り締まりや犯罪組織の逮捕など海に比べると規模は小さく地味に感じてしまう。また、海の方が出世が早いという事も海に人材が流れていってしまう一因でもある。
事件の規模が大きいだけに、解決した時の功績も大きいのは当然で、陸は地道に経験を積んでゆっくりと地位を上げていくのが主流。若者からすれば出世のチャンスが多く、給料もよく一攫千金のチャンスがあるのならば食い付くだろう。その分リスクは大きいが。
陸で多少のキャリアと実績を積み、海へと転属するという傾向が若い局員には非常に多い。経験を積んだ若い優秀な人材が陸を離れていくのは痛手でしかない。その流れていく人材に対して陸に残るメリットを提示出来ないのがオーリスにとっても頭の痛いところなのだろう。
《まぁまぁ、お二人とも、今日は兄弟水入らずで話せるんですから固い話は無しにしましょうよ》
話題が仕事場の固い話になってしまっていたのをジャッジメントが遮った。彼女の言うとおりこれ以上、兄弟での会話で職場のお堅い部分の話は無粋だろうか。ディンはジャッジメントの意見に従って話題を変えようと、最近何かあったかを思い出す。
ここで問題が発生する。何か明るい話題でもと思ったディンだが、最近あった事と言えば違法研究施設に調査に行ったり、犯罪組織の根城に押し入ったりと物騒な事しかない。なら、姉の近況を聞こうとディンは考えたのだが、仕事関係の質問しか頭の中に浮かんでこないので弱っているとジャッジメントが気を遣ってくれたのか、ポケットの中から出てきてオーリスに話題を振った。
《そういえば、家の近所に美味しいスイーツの店が出来たらしいですよ》
「あら、本当? なら今度買いに行ってみようかしら」
「ケーキ作りとかなら父さんが作った方が美味しいと思うよ?」
ディンとオーリスの父であるレジアス・ゲイズ。趣味はケーキなどの菓子作りでその味は見事の一言に尽きる。いい年のゴツイ体型した中年がお菓子を作るのが意外だとか絵的にむさいとか、シュールだとか言ってはいけない。お菓子を作る人間は番組で紹介されているイケメンばかりではないのだ。
《いえ、調べた限りだとここのパティシエ相当な腕前だとか》
「……思ったんだけどさ、そういうのってネットに載ってるのか? というか信用出来るの?」
《はぁ~全く。これだからマスターは……》
デバイスに呆れられた。いや、こんな事は日常茶飯事なので今更気にするディンではないのだが。
《確かに一人や二人が美味い、なんて言っているのなら信用度は低いでしょう。ですが、何百人以上の人間が美味しいと言ってかつリピーターも付いているのならば、確実にまずくは無いでしょう。情報において数は力ですよマスター》
ジャッジメントの言葉にオーリスもディンも素直に感心した。どうやら暇な時にネットサーフィンやスレを立てて遊んでいるだけではないらしい。あまり積極的にネットを活用しないディンであるが、話の話題を見つけるためにしてみるのもいいかもしれない。
「ディンは最近どうなの?」
「任務で六課に居る以外は特に変化はないよ」
「まぁ、任務だから仕方ないけど、気になってる子とかいないの?」
気になっている人? ディンの頭の中で六課で過ごした数日の記憶が再生される。その中で気になった人といえば一人しかいない。
「うん、いるよ一人だけ」
「ご、ごふぅ!」
コーヒーを口に含んでいたオーリスがディンの発言で咳き込んだ。口についてしまったコーヒーをハンカチで拭くと目をキラキラさせながらディンを見る。興味津々らしい。ただ、ここで一つお互いに致命的な認識の齟齬がある。ディンは単純に気になっただけで、オーリスは気になったと言う意味を、様子を見る限り、好きな人と認識しているようだ。
「そ、それで、どんな人?」
「どんな人、か……」
ディンはオーリスに自分が感じた事とシャマルの外見的な特徴を説明した。それをオーリスは真剣に聞いている。
「え、え~と、ね、姉さん? なんか仕事場みたいに目が厳しいよ?」
「当たり前じゃない。弟に変な虫が付いたら大変だもの」
ディンの説明が終わると仕事中でもしないような真剣な眼差しになっているオーリス。彼女にとってディンは家族であり弟であるからこの真剣さは当然と言えば当然なのだが、ちょっと度が過ぎるところがあったりする。ゲイズ家は現在、父であるレジアスと娘であるオーリスしかいない。
レジアスの妻はもう十数年以上前に事故で亡くなっているのだ。なのでオーリスは一人っ子なわけで、口には出さなかったが秘かに弟が欲しいと願っていたオーリスからすればディンは血が繋がっていないなど関係なく可愛がるのは当たり前で、ディンに悪い虫が寄り付くようなら様々な手を使って相手を潰すくらい普通にやるのである。ディンはオーリスのそういった面を知っているから別に今更驚きもしないが、オーリスが本気になると洒落では済まなくなる場合が多々あるのでディンは釘を刺すように注意した。
「姉さん、公私混同は感心しないよ?」
「ふふ、冗談よ冗談」
「(いや、目が笑ってなかったけど……)」
眼鏡の奥に光ったものをディンは見逃さなかった。悪い虫が付くようならば排除する事がオーリスには出来るから尚更まずい。オーリスの管理局の階級は三佐。ブラコンパワーを遺憾なく発揮し、地位を駆使する彼女を簡単に止められる者は存在しないのである。ちなみにそうなった場合、父であるレジアスは匙を投げる、
「シャマル医務官、か。評判はすごく良いのよね」
《ですねぇ。本局の方では特に男性局員からは絶賛されてたとか。いや、勿論腕は確かなんでしょうけど》
まぁ、男からすれば美人で凄腕を持つ医者と言う単語だけで惹かれる人物は沢山いるだろう、きっと。ディンは全く惹かれもしないが。
《あ、それと戦う医者である事も有名ですね》
「魔導師ランクAA+でしょう? 地上での最高ランクが本局では医者が持ってるのだから笑えないわよね」
「戦闘とかはあんまり得意じゃなさそうだけどね」
事実として、魔導師ランク=魔導師の戦闘能力の高さとはならない。魔導師ランクには三つの分類があり、空戦での戦闘力を測る『空戦ランク』と、同じように陸での戦闘能力を測る『陸戦ランク』そしてその人物の総合的な力を測る『総合ランク』がある。前者二つは純粋な戦闘技能を測るものであるが、後者の総合ランクは少々違う。総合と名の付く通り、総合力の高さを測るのだ。戦闘能力から援護、射撃、魔力値、等々。それら全てをひっくるめてランクが付けられる。
何かが劣っていても他に突出した部分があればランクは自然と高くなるのが総合ランクの特徴なのだが、総合ランクを目指す人間はあまりいない。何故なら陸戦や空戦と違い、戦闘技能が高いだけでは駄目なのだ。戦闘技術だけではなく、その他の様々な知識や技能が広く必要とされる。陸戦ランクが高い人間が総合ランク試験を受けると酷い評価がもらえるだろう。同様に総合ランクが高い人間が陸戦や空戦の試験を受けると酷い事になる。
そもそも魔導師ランクの高さは『状況に対して一定の対応が出来る』という設定なので魔導師ランク=強さとはならないのは決まった事である。ただし、どんな物事にも例外とはいるものでAAAやSランククラスになると試験というものはない。『一騎当千』を実現するレベルがAAA以上のクラスの人間の実力なのだ。簡単に言うならば規格外。
「って、話しが逸れたわね」
《マスター、オーリスさんの目と空気がガチです》
「女性の話しをするとこうなるのはいつもの事だと思うよ」
なんだかこのままだと根掘り葉掘り聞かれる気がするディンである。だが、時間とは誰にでも平等でありオーリスも例に漏れない。そもそもオーリスは休憩の時間を使って抜け出して来たに近いのであまり職場を空けると問題が発生するのである。
「そろそろ時間が……仕方ないわね、彼女に事については自分で調べるとしましょう」
オーリスは一度、周りに誰か聞き耳を立てていないかを確認する。ディンも気配に気を配ってはいるので誰も居ない事は分かっているのだが、一応念のためなのだろう。誰居ない事を確認するとオーリスはポケットの中から端末を出してホロキーを操作し、小さめのホロウィンドを表示した。
「これは……密輸ルートのデータ?」
「ええ、近々機動六課で追っているレリックがミッドチルダに運び込まれると情報が入ったわ」
「情報の出所は?」
「それは安心していいわ。レオン・タッカー一等陸佐からの確定情報だから」
レオン・タッカー。ディンが六課に配属される前に所属していた地上捜査部第一課の部隊長であり、地上での最高魔導師ランクAA+を保持する優秀な魔導師兼捜査官で、ディンの直属の上司である。ディンはそれなら安心だと話を続けた。
「父さんは六課に協力する姿勢なの?」
「現状は様子見、ってところよ。でも、ミッドにレリックが持ち込まれればまた被害が出る可能性がある。それを未然に防いで欲しいと」
レリックは過去に二度爆発を起こしている。一度目は無人世界で、二度目は情報は公開されていないが数年前に起きた次元空港での火災。大きな被害を被ったのは言うまでもない。レリックは爆発すれば程度にもよるが少なくとも周囲一キロは何も無い荒野に変貌させる威力を秘めている。次元空港の事件が火災の原因程度で済んだのは奇跡と呼べた。
「六課は貴方が調べてくれた通り、地上での情報伝達が少し遅い。複雑な部隊だから仕方の無い事だけれど、密輸に関して情報伝達が僅かでも遅いのは致命的だから」
「怪しまれない程度に裏で動いてレリックを回収させ易くする、と」
それがレジアスが決定した様子見なのだろう。六課が設立されてすでに十三日目だが、ディンとジャッジメントの予想通り、六課近辺での犯罪率が減少している。それだけで地上にとっては有益な存在だ。居るだけで犯罪が減少するならばこれ程おいしい話も無い。
「僕が六課を離れる理由はどうしようか」
「それなら大丈夫。すでに用意済みよ」
オーリスが用意した理由は一課での引継ぎ作業に不備があったため、一旦一課に戻るという簡単なものだった。レオンもこの事には協力してもらっているようで、口裏を合わせるのにも問題は無いとのこと。なら心配ないとディンは任務の事を聞いた。
「一番可能性の高い場所は?」
「現状では二つ。犯罪者達のアジトと運送会社。一つは貴方が向かって、もう一つは一課が向かうわ」
「レオン達はどっちに?」
「アジトの方へ。ディンは運送会社の方へお願い。万が一に運送会社へレリックが運び込まれてしまっていた場合洒落にならなくなるから慎重にね」
「分かったよ。あんな物中央区で爆発でも起こしたら甚大な被害が出るからね」
純粋な魔力爆発で汚染物質などの残留が無い事が救いと言えば救いだが、ディンが言うとおりレリックの爆発範囲は一キロから数キロまで及ぶ。人が密集する中央区でレリックが爆発した場合の被害は下手をすれば万を超える可能性すら有り得る。それだけに今回の任務は慎重に行わなければならない。
「全く、密輸する人間も何で自分も吹き飛ぶかもしれない物を好き好んで運ぶのかしら」
やれやれと、オーリスは嘆息した。
「誰が欲しがっているのかは知らないけれど、仕方ないよ。報酬も見合うだけいいのだろうし」
密輸を生業とする人間の事情をディンはよく知らないが、ロストロギアなどの危険性の高い物は一度の運搬で他の密輸物とは桁が一つ違うほどの報酬が払われると聞いた事があった。だからこそ食い付く人間も多いのだろう。しかも性質が悪い事に、そういった高い報酬に食い付くのが経験の多いプロではなく経験が浅い人間達なのだ。プロならば経験からロストロギアの危険性や取り扱いを心得ているからいいもののアマチュア達にはそれがない。無闇に乱暴に扱ってしまえばロストロギアがその場で暴走を始める危険性は大だ。逮捕し易いのはアマチュア達だが、被害を拡大させ易いのもアマチュア達だった。
「愚痴っても始まらないわね。明日の早朝に許可を得て出て頂戴」
「分かったよ」
《何も起こらない事を願います》
ジャッジメントはそう言っても確実に何かが起こる。密輸をしている人間達のアジトに乗り込めば戦闘が起こるのは必至。運送会社にレリックが運び込まれていればもっと面倒な事になる。運送会社がある場所はミッドチルダ東部。テーマパークなどの巨大な娯楽施設がある年齢問わずに休日は人口が集中する場所である。そんな地域でレリックが爆発でもすれば多くの物と者が被害を被る事になる。しかも最悪な事に明日は休日だ。
「迅速かつ慎重に解決させます」
「ええ、気をつけて」
時間が経ってしまいすっかりと冷えたコーヒーをディンは飲んだ。冷えたのもこれはこれで美味しいと感じた。
「折角会えたのに仕事の話ばかりになっちゃったわね」
ディンがオーリスとこうして直接会い、話すのは実に一ヶ月ぶりだった。お互いが多忙であり、立場上中々会えないのはしょうがないのだが、オーリスとしては弟にもっと会いたいのが本音なのだろう。
「ううん、そんな事無い。楽しかったよ姉さん」
話し終えると時間が来たようで、オーリスは席から立ち上がった。
「お会計は私がしておくから」
「ありがとう」
先にオーリスは会計を済ませてから店を出て行った。ディンはその後姿を見えなくなるまで見送った。
「ジャッジメント、運送会社について調べてくれ」
《そう言われると思ってすでに調べてありますよ》
オーリスが資料を見せた時点で調査をジャッジメントは開始していたようだ。相変わらず用意周到な相棒に感心しつつ、ディンは表示されたホロウィンドウを見る。
問題の会社は結構大きな規模で商業を展開しているようで、運ぶ品も幅広く取り扱っている。ロストロギアからネット通販の品物までジャンルも様々だ。過去に不祥事などを起こした経歴も無く、健全な企業とデータを見る限りは言えた。だからこそ密輸者に狙われたのかもしれない。密輸を商売とする人間の中には管理局もびっくりのハッキング技術を持つ者もいる。一般企業のセキュリティなど、そいつらから見れば有って無いようなものだろう。積荷のデータを改竄してしまえば密輸物を紛れ込ませるのは簡単なのだ。
荷物を運ぶためのトラックや貨物列車は何十台以上もあり、普通に探したのではこの中からレリックを発見するのは困難であるのだが、ジャッジメントにレリックの魔力パターンを記憶させているので多少距離が縮まればレーダーに反応するはず。
問題なのはレリックの反応に群がってくるガジェットだ。ロストロギアの反応がある場所に突然現れて回収し、邪魔者は排除してくる機械兵器。製作者が誰か、何故レリックを回収するのかは謎に包まれている。仮に運送会社にレリックが運び込まれておりガジェットが襲撃してきた場合、従業員の避難を誘導しつつ、ガジェットを破壊しレリックを回収しなければならない。ジャッジメントを使えれば比較的楽に済むだろうが、六課に提出した書類には支給品デバイス所持しか記載していないので、ディンの任務を考えれば使うのは得策ではない。あくまで六課内でディンはありふれた局員なのだから。
「一課からの援軍は見込めない、よね」
《ええ、今回の一課の相手はそれなりに大きい組織のようですし、武装局員をこちらに回している余裕はないかと。それに援軍を他から呼ぼうにもAMFに対処する訓練を受けている局員でなければ、言い方は悪いですが足手まといになるだけです》
AMFとはアンチマギリングフィールドと呼ばれるフィールド系魔法の事で、魔力結合を分断する特性を持つAAAランクの魔法である。それを機械兵器であるガジェットが展開するため一般の武装局員だと歯が立たずに負けてしまうのだ。それに対抗する技術も複数あるにはあるのだが、難易度が高く普及していない。そもそもAMFを突破する技術は殆どがAAランクの魔法であるので、習得している魔導師も少ない。だからこそ近年管理局の頭を悩ませる種になっているのだ。
《まぁ、大丈夫だと思いますよ。相手もロストロギアであるレリックを運ぶのなら危険性も十分承知のはずです。慎重に事を運ぼうとするでしょうから、まだアジトに残っているでしょう。それにレリックを発見するのならば私がいれば十分ですから》
援軍が見込めない孤立無援の任務に就くのはディンからすれば珍しくもない。違法研究施設に単身乗り込み安全の確保や、犯罪者の根城にいる魔導師の無力化などを行ってきたディンからすれば今回の事は馴れたものなのである。
「そうだね。出来ればまだ運び込まれていないと願いたいけど」
頭の中で考え得る最悪の状況を浮かべながらディンはコーヒーを飲み干し、席を立った。午後がオフシフトとはいえ、勝手に六課を出たとバレれば面倒である。
「コーヒー、相変わらず美味しかったです」
店主に礼を言うと、にこりと笑みを返してくれた。ディンは一度頭を下げてからカフェを出て六課へと向かった。
どうも凡人Mk-IIです。
ディンの仕事場以外での一面が表れましたがどうでしたでしょうか?ディンのちょっと幼い感じが伝われば幸いです。
さて、ファーストアラートですが、完全なるオリジナル展開になりますのでご了承下さい。
では失礼します。