魔法少女リリカルなのはStrikerS 【ブレイカー】   作:凡人Mk-II

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第六話 世紀の犯罪者 

一人の男が暗闇の一点を凝視していた。明かりが消された部屋で、モニターに映し出される映像と音に余程集中しているのか、男は瞬きすらしない。まるで、一瞬でも逃すのが勿体無いと言わんばかりだ。

 

「ふむ……これは素晴らしい」

 

神妙に何度も頷くこの男、次元世界では名高い世紀の犯罪者、ジェイル・スカリエッティである。そして、モニターに映し出される内容は、彼が専門に研究している生体技術関係の映像……というわけではない。映し出されているのは、地球でいうところのアニメである。

 

「地球について暇つぶしで調べてみたが……これはいいものだ」

 

子供のように知らなかった物に純粋に反応する様子は、どう見ても犯罪者には見えない。ジェイルがうんうん、と何度も感心するように首を縦に振っていると、暗くなっていた部屋の電気がつけられた。

 

「ドクター、あまり暗いところで映像を見すぎると目を悪くします」

 

呆れているとも心配しているとも感じられる女性の声がジェイルの背後より聞える。ジェイルが振り向くと、彼の予想通り一人の女性がいた。

 

女性の名をウーノ。犯罪者、ジェイル・スカリエッティの最高の助手である。と、同時に偶に行き過ぎる行動を取るジェイルを諌める存在だ。

 

「いや、すまないね。調べた限り、こういった映像は映画館などで見るとまた違った感じ方が出来るとあったのだよ」

 

「それで、その環境に近づけてみたと」

 

「そういう事だよ」

 

再びジェイルは画面へと集中する。ウーノはハァ、と溜息を吐いた。

 

「ドクター、お楽しみのところすみませんが、武装に関して、妹達から意見、というか不満が出まして」

 

「ほぅ」

 

ウーノの言葉を聞くや否や、くるりと体をウーノの方に向けた。火が付き始めたのか、その目には科学者としての怪しい光がギラギラと輝いていた。

 

「ノーヴェからは『もっと軽くしてほしい』ウェンディからは『装甲をもっと厚くしてほしい、あ、でも重いのは嫌っす』との事です」

 

無茶な話しだ。完成した武装を、そうほいほいと軽量化や装甲を厚く出来たりするのならば、人類の技術はずっと先にいっているだろう。

 

「全く、あの子達も無茶な要求をしてくれるものだ。くっくく」

 

「すでに武装は完成しています。これ以上の機能向上は不要かと」

 

「何を言っているんだい、ウーノ。不満が出てきたと言うのならば、それはまずい。娘達からのお願いだ。叶えるのは私の役目、違うかい?」

 

言うなり、ジェイルは立ち上がり、部屋を出る。この男、基本的には物臭で、自分の興味が向かない事には無関心なのだが、娘達には無条件で甘かったりする。それに、世紀の犯罪者とすら言われるジェイルの明晰な頭脳をもってすれば、武装の強化など容易いものだ。

 

「お手伝いいたします」

 

ウーノもジェイルに続き、部屋を出た。部屋の前には二人の赤毛の少女が立っていた。一人は愛想が良さそうで、屈託の無い笑みが似合いそうな子で名前をウェンディ。もう一人はウェンディとは正反対で、つんけんしたような態度の子で、名前をノーヴェ。この二人が武装に関して注文をつけたのだ。

 

「あ、ドクター。注文聞いてくれたっすか~?」

 

「ああ勿論だとも、任せたまえ。ただ、微調整とテストの時間もあるからね。テストの時は手伝ってくれたまえよ?」

 

「勿論っすよ。ありがとうっす」

 

「あんがと、ドクター」

 

無邪気に喜ぶウェンディとそっぽを向いて礼を言うノーヴェ。性格的には正反対とも言える二人だが、コンビを組むとこの二人が一番息が合う。これもまた、人間の不思議なところだろう。ジェイルはそんな二人を可笑しく思いながら、別れを告げて開発室へと向かう。向かうとは言っても、ジェイルの私室から開発室は離れていないのですぐに着いた。ちなみに、開発室と私室を分けたのは、同じにするとごっちゃになり過ぎて掃除が大変であったため、ウーノが分けたのだ。

 

「さて、では始めようか」

 

ジェイルはノーヴェとウェンディの武器の設計を一から組み直し始めた。ウーノは今まで取った二人のデータを精査し、どこを直せば効率的かを考える。集中するとジェイルの力は凄まじい

もので、一般的な科学者の実力など比べるのもおこがましいレベルにまで離れる。……集中したり興味が向いたりしないとただの物臭な男なのが玉に瑕であるが。

 

「……そういえばドクター。先日の襲撃の際に取れたデータはご確認されましたか?」

 

淀みなくキーボードを叩いていたジェイルの手がピタリと止まる。ここ数日、アニメや他の地球文化に夢中でデータなど全く確認していない。

 

「…………ドクター?」

 

「は、はは。いや、違うんだよ? ちょっと六課について調べていたら、地球に興味が出てそれに夢中でデータを確認していないとかでは断じてないからね?」

 

まずい、ウーノが若干であるが怒り始めている。ウーノは怒ると誰よりも恐いと知っているジェイルは極めて冷静に対応にあたる。常人のそれとは比べられない明晰な頭脳がフル回転し、どうすればウーノの怒りを鎮める事が出来るかを考える。

 

「はぁ……結果についてはレリックを回収され、あちらに損害を与える事は出来ませんでした。これがそのデータと映像です」

 

作業に集中したいのか、ウーノはホロウィンドウを開くだけで怒りはしなかった。ジェイルは内心ほっとしながらも映し出されたデータと映像に目を通す。内容はこちらには芳しくないものとはいえ、凄まじいものであった。並みの魔導師ならば歯牙にもかけないガジェット達が容易に貫かれ、切り裂かれ爆散していく。総数100に届くほどのガジェットを投入して、相手に損害一つ与えられないとは。改めてジェイルは相手にしている機動六課の異常性を再認した。

 

「……ん?」

 

データや映像を確認していく中で、気になるものがあった。それはリニアレールで戦っている六課ではなく、何処かの会社でのガジェットの戦闘だった。そこで行われている戦闘は、リニアレールとは比べるまでも無く、地味であり、凡庸であった。いや、ガジェットを相手に生き残れているのだから、一般の魔導師とは一線を画す実力を持ってはいるのだろうが、やはり見劣りがする。なので、ジェイルが注目したのは戦闘ではない。

 

「これは……」

 

計測されているデータの中で異常値を示しているものがあった。

 

「ドクターもお気付きになられましたか?」

 

「ああ、これは一体どういう事だろうか。普通、魔力の結合濃度はここまで高くはならない」

 

魔力素とは、結合して魔力とならなければエネルギーを発生しない。AMFとはこれを逆手に取り、魔力の結合を解き、エネルギーを発生させないようにするものだ。逆に、魔力の結合濃度が高ければ高いほど、魔力はより強いエネルギーを生み出す。が、これは非常に難しい技術であり、ジェイルでさえこれを実現させるには手間取っている。少なくとも、ジェイルが知る限りでは、示されている結合濃度の数値は前例が無いほどに高かった。

 

「ウーノ、この戦っている局員の名は?」

 

「名前はディン・ハーミット。階級は一等陸士で、魔導師ランクはD。所属部隊は機動六課、前所属は地上捜査部第一課です。それ以外の経歴は、調べられませんでした」

 

「調べられない? 君が?」

 

冗談か何かではないのか。ウーノの能力は戦闘に秀でてはいないものの、情報収集や解析には非常に重宝し、姉妹達の中では随一。そんな彼女が『調べられない』と言った。ウーノの顔は嘘をついているようには見えない。これにはジェイルも驚いた。

 

「はい、申し訳ありません。彼の以前の経歴は、一課以前のものは、存在しなかったのです。どこの訓練校を出たのかさえ、ありませんでした」

 

「ふむ……」

 

ガジェットと戦闘をするディンは、そこまで高い技量があるようには思えない。確かに動きは独特で、回避は上手い。だが、それだけだ。これならば姉妹で戦闘能力が高い組には絶対に勝てない。だが、ジェイルの中で、何かが警告していた。油断するな、と。

 

「それと、もう一つ気になる事がドゥーエより報告されました」

 

「何かな?」

 

「地上本部が六課に査察を行う準備を進めているらしいのです。このままでいくと、二日後には実行されるかと」

 

いくらなんでも速過ぎだろう。査察は面倒が多いのだ。信頼出来る人員の確保から書類まで、ありとあらゆる工程を慎重に進めなければいけない。それを三日や四日で済ませるのだから、尋常ではない。

 

「しかも、査察に入る人員の中に、オーリス・ゲイズ三等陸佐がいます」

 

どうやら、この査察はただ事ではないらしい。地上の英雄の娘が設立されて一ヶ月経たない部隊へ査察を行うとは。何やら裏で誰かが糸を引いているように感じる。それとも、六課に根回しした人間がいるか。

そこで、ふとジェイルは根回ししたのが、先程ガジェット相手に立ち回っていたディンではないかと考えた。根拠は無い、何となく思っただけだ。

 

「お互い潰しあってくれれば都合が良いのですが」

 

「それは無いだろう。あの親子はそこまで無能ではないよ」

 

ジェイルはレジアスという人間をよく知っている。計画を遂行する上で一番の障害がレジアスだからだ。

少なくとも、レジアスは事件を解決するのに、最も適した部隊の邪魔をして解決までの時間を遅延させるような愚か者ではない。たとえ、その部隊を率いているのが海の人間で、二十に満たない小娘だったとしてもだ。

 

「幾度か、彼には煮え湯を飲まされている。ドゥーエにもあまり派手に動かないようにと釘を刺しておいてくれたまえ」

 

「ええ、それは勿論です。……ドクター、手が止まっておりますが?」

 

「いや、もう終わったが?」

 

「速過ぎでしょう……」

 

呆然とウーノが言った。

 

「しかし、不思議なものだ。魔力もなければ戦闘能力も高くない人間が、地上の英雄などと呼ばれているのだから。くくく、これもまた人間の素晴らしいものであり、科学的に証明出来ない摩訶不思議だな」

 

まるで、見た事のない物を見た子供のように、ジェイルは口を歪めた。

 

「それが、ドクターがよく言っている、生命の輝き、揺らぎ、ですか?」

 

「ああ、そうだよ。現に私達の周りでそれは起きている。ノーヴェとウェンディが良い例だろう? 最初、あの二人はあそこまで息が合うなんて思いもしなかった。端から見れば水と油のように見えるのに、ね」

 

ノーヴェは、姉であるチンクと最も相性がいいはず、でありジェイルも製作段階ではそう作った。ウェンディはトーレとコンビを組めば相性が良いはずだったのだが、実際コンビを組ませてみると、予想通りの結果を出した。出したのだが、ノーヴェとウェンディが組むとそれ以上の結果を出すのだ。嬉しい誤算であったのと同時に、ジェイルは科学では証明出来ない人としての生命の輝きと揺らぎを感じた。

 

「と、まぁそれは置いておいてだ。彼、ディン・ハーミットについてはもう少し詳しく知りたいが、ウーノ何か手立てはあるかい?」

 

「彼の親しい間柄の人間を調べればよろしいかと。ドゥーエにもそう指示を出しました」

 

「そうか、ならいい。報告は逐一して欲しい」

 

「またアニメにはまって気付かないなんて事は無いようにしてください」

 

ジト目で見られてはジェイルも苦笑するしかない。

 

「いいじゃないか。あれは素晴らしいものだよ。架空であるはずのキャラクター達がまるで存在するかのように物語を紡ぐ。いやはや、作った人間達に是非会ってみたいものさ」

 

ジェイルは、人が作った物、人が大好きだ。だからこそ文明や文化に興味を大きく示す。それはジャンルを問わない。言語だったり習慣だったりとまちまちで、偶々今回はまったのがアニメだっただけの話しだ。はまると数日部屋から出てこないのは常で、それにウーノも馴れているのだろう。また、溜息を吐いていた。

 

「っと、いかんいかん。また話しがそれた。彼に関しての情報収集は君達に任せよう。私はおそらくディン・ハーミットが起こした魔力の現象について、もう少し調べてみるとしよう」

 

「ドクター、これはドクターが使う『力』と同質の物なのではないでしょうか?」

 

「魔力に干渉する、という点についてはね。どちらにせよ確証が無いのならば調査するしかない」

 

ジェイルはデータを元にホロキーを打ち始めた。

 

「それと、もう一つ。陸全体に関してですが、前と変わりはありません。緊迫状態は続いているようですが、薄皮一枚のところで踏ん張ってはいるようです」

 

「これもまた不思議だ。あの事件以来、陸は経済界、政治界、様々な方面から信用を失ったというのに、まだ持ち堪えているのかい?」

 

ある事件を切っ掛けに、管理局、特に陸は経済界、政治界や様々な場所から不信感を持たれている。表面化していないだけで、すでにボロボロな状態なのだ。これに唯一、事件の事実を知らない一般人達からも信用を失えば、陸は更に悪化の一途を辿る。手を下さなくてもその内自滅するだろうと予測していたジェイルの考えは裏切られたと言う事だ。尤も、それが愉快であるジェイルなのだが。

 

「はい、共に動きはありません。前と同じように細々と援助しいる者達がいるようですが」

 

「大局には影響をもたらさないさ。陸も、唯一支持を集めている世論と一般人から不信感を持たれれば終わりだろうがね」

 

ジェイルはそれ以降、集中しデータの解析に努めた。ウーノも邪魔をしては悪いと思いそれ以降は口を閉じていた。

 

「(まさか、ディン・ハーミットがあの事件に絡んでいて、今の陸を支えているのか? ふ、ふふ、流石に考えすぎだな)」

 

だが、この時のジェイルの勝手な憶測は、あながち間違ってはいなかったのである。




更新が遅く成りました凡人Mk-IIです。

リアルの都合で更新が出来たり出来なかったりと不定期ですが、これからもよろしくお願いします。

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では
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