魔法少女リリカルなのはStrikerS 【ブレイカー】 作:凡人Mk-II
「ご、ごめんなさい」
査察から翌日。ディンはいつも通り日常業務をこなし、食堂にて食事を終えて自分のデスクに戻っている最中に、シャマルに医務室へ呼ばれて謝られた。謝罪する顔は本当に申し訳無さそうで、何か裏があるとは到底思えない。しかし、何故謝られるのか、ディンには心当たりがない。首を傾げると、彼女は続けた。聞く限り、昨日は隊長陣はかなり気が立っていたらしく、特に八神家などは酷かったらしい。主であるはやての数年かけた夢が、一ヶ月もしない内に潰される可能性があったのだから仕方ないとも言える。加えて査察に来る相手は、あの地上の英雄の娘であったのだから、切迫は相当なものであったのだろう。
「……? 一つよろしいですか?」
「え、う、うん」
何か言われるとでも思っているのか、シャマルは少しだけ身を縮めた。昨日、氷のような表情をしていた人間と同一人物とはとてもではないが思えない。
「貴方が私に謝罪する要素が一つとして見当たらないのですが、何故謝るのですか?」
今話を聞いた限りでは、シャマルが謝る必要など欠片もなかった。むしろ、謝るとすればこちらの方なのではないだろうか。
「え、えっと」
まさか、そんな事を言われるとは考えてもいなかったのか困惑していた。ディンは、ますます分からなくなってきた。
「その、冷たい態度とっちゃったでしょ?」
「はい」
「だから謝ったの」
彼女の中では、冷たい態度をとったら謝らなければいけないのだろうか? そうなると自分は年中頭を下げなければいけなくなる。不思議な持論を持つ人だ。ディンはシャマルの意図を完全には理解できなかったが、きっと彼女の中ではそういった理屈や持論などがあるのだと強引に納得した。もし、それが世間一般の常識であるのならば、ディンは頭を下げるのが仕事になってしまう気がしないでもない。
「(まぁ、いいか)」
こんな風に素直に相手を気遣って謝ってくる相手に接した経験が無いため、ディンには理解し難かったが、丸く収まったようなので、彼は良しとした。
《どうも、シャマル医務官。マスターディンのデバイス、ジャッジメントと申します。以後お見知りおきを》
シャマルが、はやて達と同じような反応をした。当たり前ではあるが、肉声で喋るデバイスとは珍しい、というかこんな奇天烈なやつは世界に一つしかないだろう。
「ほ、本当に人の声で喋るのね……」
興味深げにシャマルはポケットから自立機動で出てきたジャッジメントを観察する。
《いやん、そんなに見つめないでください、恥ずかしいじゃないですか》
くねくねとした口調でシャマルの周りを回るジャッジメント。ディンにとって頼もしい事この上ない相棒であるが、こういったところは直して欲しいものだ。まぁ、これもジャッジメントの特徴であるから、諦めているディンである。
《あ、マスター。レオン一佐から連絡です》
主の返事を待つまでも無く、ジャッジメントは空中にホロウィンドウを表示する。ディンは注意しようかと思ったが、シャマルにも話はいっているはずなので止めておいた。
『よう、ディン。レリックについての在り処なんだが……おっと、失礼。お楽しみのところだったか。また後で連絡するわ』
あちらの画面にはディンとシャマルが二人きりで逢引しているようにでも映っているのだろうか。何にせよ、レオンがふざけているのは明白だ。
「レオン一佐。職務中にふざけるのは感心しませんよ」
いつもより硬質な声で言うと、レオンは悪びれもせずに
『いやいや、男と女が二人っきりでいたら……ねぇ?』
これである。確かに、ディンは女性と二人っきりで話した事は、オーリスと職場を除けばほとんど無い。最近では職場で話す事すら無くなってきていた。だからからかっているのだろうが大いなる勘違いである。シャマルはレオンの言葉の意味を理解したのか、何故か挙動不審になっていた。
「……レオン?」
『っはっはっは、怒るな怒るな』
いいからさっさと報告しろとの意味を込めて敬語を止めて話したのだが、無意味だったらしい。
「(……話したくない事、なのかな?)」
迅速をモットーとするレオンからすれば、話の流れの順序がいつもと逆だ。普通、報告をしてからからかってくるはずなのだが……
《レオンさん、その様子だと相当にヤバイ報告のようですけど、さっさと話した方が楽になれますよ?》
『ったく、お前らは……こっちの気遣いだっての』
見透かされていたのを失態とでも思っているのか、レオンは頭を片手でがしがしと掻いている。そして、彼は一度佇まいを直すと真剣な顔になる。ディンとジャッジメントが知る一課の部隊長の顔だ。
『八神にはもう連絡してある。レリックが見つかった』
「場所は何処ですか?」
面倒な場所か。ディンはそう予測していた。レリックが見つかったとあらば、もう前線メンバーに命令が下っているはずだからだ。レオンやはやてが躊躇するぐらいには問題があるのだろう。
レオンは一度、溜息を吐くと、言った。
『第四十四進入禁止世界』
一瞬、ディンが固まった。
『進入禁止世界』とは管理局が直々に渡航するのを禁止していて、厳重に監視されている世界を指す。空気汚染、危険生物、希少動物の保護、危険性の高いロストロギア。理由や事情は多々あれど、進入禁止世界に立ち入る事は原則禁止とされている。例え管理局員であろうとだ。これは、局員の身の安全のためでもある。何故なら、進入禁止の太鼓判を押された世界は基本的に危険であるからだ。少なくとも、一般的な実力を持つ局員が出向いたところで、死ぬのがオチである。
《ちょっと待ってください。あの世界にレリックが? そんな馬鹿な事有り得るはずが》
そうだ、有り得ない。レリックは魔力に反応し爆発を起こす性質を持ち合わせている。ならば、あの世界にレリックなどあるはずがない。仮に存在していたのだとしても、あの時に爆発しているはず。しかし、レオンは首を横に振った。
『レーダーとサーチャーからの映像では、研究施設が発見されている。どっかの馬鹿がそこで研究をしてっるて事だろうよ』
「成る程……」
進入禁止世界ならば、レーダーとサーチャーさえ誤魔化してしまえば、後はやりたい放題できる。局員は出向くのは禁止とされているし、部隊としても隊員を死にに行かせるような事はしたくない。加えて、進入禁止世界に入るには上の許可がいる。そういった時間も考慮すれば、相手は施設と惑星から脱出する手筈も十分に整えられる時間ができる。理想的な状況だ。
《相手は馬鹿ですか?》
呆れているのか、感心しているのかどちらとも取れるような声をジャッジメントが発した。確かに進入禁止世界は犯罪者にとっては理想的な場所かもしれない。しかし、どんな犯罪者でもそこに行こうとは考えない。レーダーやサーチャーを掻い潜る事がまず不可能で、それを突破したとしても、誰も寄り付かない場所に文明などあるはずもなく、周りはどんな危険性を秘めているか分からない物が足元にごろごろと落ちている。そんな所に行こうなどとはまず、考えない。
『そうだとよかったんだが、な。こいつは相当な大物だ。俺達が、いや管理局が捕まえた事が無い様な』
《貴方がそこまで言いますか……》
事は相当に深刻のようだ。通信を聞いていたシャマルにもそれは伝わったようで、片手を顎に添えて考え込んでいる。
「不安なのは、どれくらいの人数が入る事ができるかどうかですが」
戦力的には申し分ないどころか過剰なぐらいな六課であるのでそこは問題ではない。問題なのはディンが言うように進入禁止世界は入れる人数が制限される。これは、そもそも進入禁止世界が多分に秘匿事項を含む場合が多いためであり、中隊規模や大隊規模を送り込んで全滅したら洒落にならないからでもある。しかも、六課のメンバーは戦力面だけを見れば、局の中心にいると言ってもいい。そんな彼女達を失った時のリスクを考えれば前線メンバー全員で現場へと赴けるとは思えない。しかし、その事で上と喧々としているわけにはいかない。時間をかければかける程、相手に有利な状況になっていくのだから。
ディンが問題を指摘すると、レオンは申し訳無さそうに言った。
『悪りぃな。色々と手を尽くしてみたんだが、二人が限界だ。その事で八神達が部隊長室で話し合ってるだろうから、加わってくれ。出来ればお前が向かってくれれば俺としては安心だからな』
《むしろ二人も行けるのですから十分過ぎですよ》
「了解しました」
『おう、気をつけろよ~』
吞気な声でレオンは通信を切った。医務室から出て、部隊長室へ向かおうとすると
「私も行くわ」
「医務官である貴女も、ですか?」
今回の任務にシャマルは関係が無い。いや、医務官である彼女には戦闘が発生する任務には縁が無いはずであるのだが、魔導師ランクを保持する戦う医者であるのだから関係があると言えばあるのかもしれない。
「これでも夜天の守護騎士、湖の騎士よ? サポート専門とは言え、私だってちゃんと戦えるんだから」
ふふん、と子供が何かを自慢する時のように胸を張って答えるシャマル。そんな彼女を見ていると、なんだか微笑ましかった。
「そうですか。なら行きましょう」
言って、ディンは部屋を出た。
「お、驚いた……あの子もちゃんと微笑んだりするのね……」
シャマルが呆然と呟いた。
「オーリス三佐から、ディン陸士の同行は必須。人選は彼に任せろとの事。いつでも行けるそうや」
部隊長室へ入るなり、はやてが言ってきた。口調が変わっているのは遠慮する必要がないとでも思っているのか、それとも心境の変化か。何にせよオーリスの手の回しの早さには呆れを通り越して感心する。しかし、自分へ人選を任せるとは随分と大胆な事をする。
「私が決めてよろしいので?」
「不安、ではあるんやけどな。大丈夫なん?」
変な口調だと思う。これが調べていた関西弁というはやての出身世界である地球の、方言と言うものなのだろうか。ディンは聞きなれない言葉遣いに興味を抱きつつ、質問へ答えた。
「それは、私の実力の事を言っていますか?」
はやては頷いた。魔導師ランクDの人間が超危険な場所へ赴く事に不安があるのだろう。それも当たり前で、ガジェット相手に立ち回りが出来ても、ディンがあの事件でしたのはせいぜい逃げ回って隙あらば一撃を入れていただけ。彼女が不安に思うのも仕方ない。こうなるのを知っていればディンはあの時にもう少し力を使っていたのだが、今更だ。さて、どうはやてを納得させようか、悩んでいると意外な人物から助け舟が出た。
「主、彼の実力ならば問題ないかと」
シグナムだった。彼女の言葉に同調するようにヴィータも首を縦に振っている。ファーストアラートの時に共に現場にいた二人だ。シグナムは言葉を続ける。
「運送会社での一件、明らかに手加減した痕がガジェットに見受けられましたから」
「何故そう思うのですか?」
「お前なぁ、あんなにくっきりと拳の痕がガジェットのボディについてんのに、ガジェットが爆散してない時点でおかしいだろ。普通に考えれば」
「疑いたくはなかったが、あの痕跡を見ると、な」
歴戦の猛者である彼女達にはあの程度、簡単に見破れたらしい。それも彼女達だからこそ見破ったのだろうが。
「なら、あの時はわざと苦戦しているように……」
「任務でしたので。あの時力を使えば支障が出ましたから」
結果的に、人へ被害が出ていないとはいえ、やりきれない部分があるのかはやては眉間に皺を寄せている。だが、わざと手加減して会社に被害を増大させたのはディンであるが、彼が会社にいなかった場合、もっと深刻な事態になっていたのは事実。その事を分かっているからはやては何も言わない。代わりに彼女は溜息を一つ漏らした。
「はぁ……まぁ、ええわ。結果的に大丈夫やったんやし。それで話を戻すけど、どないすんのや?」
「そちらの推薦などはありますか?」
今回に任務において、レリックの存在する場所が閉所である研究施設であり大魔力に反応する危険物が存在する可能性があるため、ミッド式で砲撃を得意とするなのはは除外。フェイトも同じような理由でメンバーから外される。フォワード陣の中でスバルがこういった時は適材なのだが、いかんせん実戦経験が乏しいのでこれも除外。そうなると必然的に身体強化、閉所での戦闘もこなせるベルカ式を扱う守護騎士の中から選抜する事になる。はやての説明を聞いて、ディンは考える。
「(あの光景を見て、平静を保てる人物……)」
おそらく、これから行く研究所は凄惨な光景が待ち受けている。それを見て、なお平静を保つ事ができるとなると、思いあたる人物は一人しかいない。シグナムやヴィータでも構わないのだが、ディンが守護騎士達の中で最も接触があり、尚且つあの光景を見ても耐えられそうなのはシャマルしかいない。他の二人は不安が残るし、何よりも彼女を同伴させるとこちらとしても都合がいい。仮に、自分に何かあっても、転送魔法が使えれば一人でも帰還し何があったかを報告できる。
「(あの時の顔……多分、大丈夫、だよな)」
思い出すだけで嫌悪感が体中を走る。シャマルをディンが推薦しようとするにはわけがある。彼はあの時感じ取ったのだ。シャマルの中にある普通の人間では絶対に持ち得ない一種の異常性を。それは、何時如何なる時も自身を保つ事ができるはずだ、という確信があった。自分と似ていたからこそ余計に。
「シャマル医務官を同行させてもよろしいでしょうか?」
「なんやて?」
訝しげなはやて。シャマルを同行させる意味が分からないといった顔だ。シャマルはサポートが専門で、一般局員よりも戦闘能力が高いとはいえシグナム達には及ばない。はやてを納得させるために、ディンは説明をする。
「私は、隊長陣の事をよく知りません。この中で一番交流があるとしたらシャマル医務官ぐらいです」
「それとシャマルを同行させるのに何の理由が?」
「彼女は総合ランクAA+を保持し、転送魔法なども扱えます。もし、万が一があった場合一人でもこちらへ戻れる人物の方が任務上都合がいいのです。それと、もう一つ」
一度、ディンは言葉を止めて、一拍間を開けて言う。
「実験施設を見ても大丈夫だと判断したからです」
言葉の意味をはやては理解したのか、椅子に深く座りなおし、背もたれに身を預けた。
「シャマル、行ってくれるか?」
「勿論。任せて」
間を置かず即答だった。とてもではないが、自身の命がかかっている判断の仕方とは思えない。だが、ディンとしては好都合だ。ここで時間を喰っていては相手に逃げられる。
「では、行きましょう。それと、最後に一つだけ要望が」
「なんや?」
「サーチャーでこちらの行動をモニタリングすると思いますが、その映像新人四人には見せないでください。子供に見せるには残酷過ぎます」
研究施設は、大人でさえ直視するのを躊躇う事があるのだ。実験体にされた者の残骸、臓器。常識では考え付かない非人道的な行為が行われている場所なのだから当然だが、あれをまだ十代半ば、十歳の子供達に見せるには、ディンが言うとおり残酷過ぎる。あれを見たら、少なくとも三日四日は普通に飯が喉を通らなくなるはずである。
「……分かった。心遣い感謝するわ」
ディンは隊長陣にも見るなとは言わなかった。彼女達には隊を任された者としての義務がある。事件の顛末を見届ける最低限の義務が。だから、研究所の実験跡を見て彼女達が精神的に参っても何かのフォローをする気はない。それが義務であり責務でもあるのだから。
《ふ、久々に私の出番ですね》
「戦闘にならん限り出番は無い」
《にょろ~ん……》
「だ、大丈夫なんかなぁ?」
ジャッジメントの軽い態度を見て、はやては不安そうに呟く。
「では、準備をしましょう」
ディンが言うと、全員が準備へ取り掛かる。はやては正式に進入禁止世界に入る手続きをし、現場へ向かう二人はお互いの相棒の確認する。
「行ける? クラールヴィント」
《問題ありません》
「何か問題は無いか、ジャッジメント」
《大丈夫ですよ。あるとすれば、ここのメンテナンスルームの調整槽の心地よさを確かめたいくらいで》
よし、大丈夫だ。ディンはジャッジメントを無視し、隊舎の外へと出る。転移魔法を屋内で使うのは流石に憚られたからだ。今回の事は秘匿事項とでもされているのか、スバル達はいなかった。それでいいと思う。研究所の実験跡などを、スバルが見れば自分の出自と重ねて六課の中で一番心を痛めるだろうから。
「転送先座標に障害物は無し。うん、行けるわね」
座標先の確認が早い。四十四進入禁止世界はミッドチルダから近い距離にあるとはいえ、この速度少々おかしい。流石は歴戦の猛者といったところだ。シャマルの魔力光である淡い緑色の光が地面へと走り、魔法陣を形成する。その中にディンは入る。優しい色だ、と思う。
「それじゃ、ちょっと行ってくるわね」
死地に赴くというのに、シャマルの中ではちょっと行ってくる程度の感覚らしい。口調からも緊張などは見受けられない。大物なのかそれとも天然なのか、ディンは判断に困る。
「二人共気をつけてな。こっちでも一応サーチャーでモニタリングはしとるけど、無茶はせんように」
「了解です」
ディンは一度姿勢を正し、敬礼をする。任務へ向かう時には当然のようにしていた行為だ。それにはやて達も真剣な顔をして敬礼を返した。
「行くわよ」
転送が始まり視界が光に包まれ、ディンとシャマルはミッドチルダから消えた。
更新が遅く成りました凡人Mk-IIです
次に進入禁止世界を書いていきます。さて、そこで二人を待ち受けるものとは?
感想、及び指摘など受付けております。 お気軽にどうぞ
では