魔法少女リリカルなのはStrikerS 【ブレイカー】   作:凡人Mk-II

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第九話 研究施設

転送魔法特有の浮遊感が数瞬体中を包むが、それが無くなると同時に景色が一変している。

 

「ここが、四十四進入禁止世界……」

 

シャマルはもっとこう、暗雲が立ち込め、雷が鳴っているイメージがあったのだが、むしろそんな事は無く、逆。空は青々としていて、今は大分薄れている記憶、古代ベルカ時代の戦乱よりもずっとましだ。似通っているのがあるとすれば、枯れ果てた大地くらいか。

 

「(本当に、危険な世界なのかしら?)」

 

そう思ってしまう程に緊迫感といったものが皆無だった。これならば大地が元通りになれば観光地になってしまうのではないかと感じる。しかし、大地はもうかつての姿を取り戻す力が無いのかもしれない。屈み、土を触ってみるとカサカサとしていて砂のようだ。もしこの星に緑を取り戻したいのならば環境を整える必要がありそうだ。

 

「目標地点まではあと何キロだ、ジャッジメント?」

 

《あまりに近くに転移し過ぎると迎撃される恐れがありましたので、目標地点まで七キロ程です》

 

そういえば、ディンがバリアジャケットを纏っている。自分もこの危険性がある世界に侵入するにあたって騎士甲冑を纏ってクラールヴィントを装着しているから、彼がバリアジャケットを装着するのは当たり前なのだが、問題があった。別にバリアジャケットに問題があるわけではない。バリアジャケットの方はむしろ普通で、一般的な魔導師が着ている物に多少の改良を加えてあるものらしく、胸当ては廃され、動きやすそうな黒いズボンにシャツ。その上からフード付きのコートを着ている。再度言うが、それには問題は無い。問題なのはデバイスであるジャッジメントの方だ。

 

「よ、よく審査に通ったわね?」

 

ジャッジメントは銃型の二丁拳銃であるようで、色は漆黒。銃身はクロスミラージュに酷似してはいるし、グリップや引き金などの各所にはデバイスらしい作りが垣間見える。が、それが意味が無くなるぐらい、他の部分が質量兵器である拳銃に酷似し過ぎている。シャマルの拳銃の知識は、地球にいた頃にアクション映画を見た程度しかないが、それでも構造は何となく理解できている。まず、カートリッジを入れ替える場所が通常の拳銃と変わらない場所にあり、薬莢を排出するためのスライドが銃身に付けられている。見た感じでは、映画で使われているデザートイーグルという拳銃を想像させるようで、デバイス四割、質量兵器六割といった構成のように思える。

 

シャマルが言う審査とは、デバイスを作成するにあたって、外見が質量兵器にならないように局が取り決めている基準がある。ジャッジメントはそれを明らかに超えている。申請しようものならば書類で突っぱねられる事間違いなしだ。

 

《ふふ、乙女には秘密が沢山あるんですよ、シャマル先生》

 

絶対にその秘密は物騒なものだろうとシャマルは突っ込まなかった。何にせよ、今やる事はジャッジメントについて質問する事ではない。クラールヴィントを使って通信状況を一度確認する。

 

「はやてちゃん、こちらシャマル。聞える?」

 

『あー、こちらはやて。感度良好。問題あらへんで。サーチャーも問題無し。ただ、一つしか無い虎の子やから大事にな』

 

なんでも、ここに入るに到ってはレオンの助力もあってすんなりいったのだが、サーチャーだけは一個のみと厳命されたらしい。シャマルは会議の場に居たわけではないから分からないがそんなにもこの世界は秘匿事項が多いのだろうか? 危険性が見当たらない事といい疑問が絶えない。

 

「行きましょう」

 

この世界に対して疑問ばかりがシャマルの胸の中で膨らむが、今はそんな事に構ってはいられない。調べるのならば兎にも角にも任務を終わらせてからでいい。頭を切り替えて周囲の警戒に努める。ディンの後ろを歩いているが、クラールヴィントのレーダーには敵影は無い。敵が邪魔して来ないのはいいが、静か過ぎて不気味にも思う。それに研究施設にレリックを求めてガジェットが群がって来ないのも気になる。何かある。シャマルはその事も踏まえて集中する。

 

シャマルとディンの二人が転移して来た場所は比較的緩やかな坂になっていて、目的地を目指すにはまず坂を上らなければいけなかった。砂利のような地面を一歩一歩踏みしめながら上る。別にこの程度どうと言う事はないが、シャマルにとっては長距離を歩いて行くというのは久しぶりのような気がしていた。そんな事を考えていると一陣の乾いた風が吹いた。砂埃が舞っていないので視界が遮られるような事はないが――ガラっと何かが転げ落ちた音がした。

 

「っ!」

 

もしや、敵か。振り返るが、勢いがあり過ぎたせいか足を滑らせてしまった。「ッキャ」っとシャマルの小さな悲鳴が上がる。しかし彼女は尻餅をつかなかった。ディンが腕を取って支えてくれたのだ。

 

「あ、ありがとう……」

 

「あまり気を張りすぎるのもいけませんよ」

 

と当たり前の事を言われてしまった。昔はこんな醜態を晒すなど考えられなかったが、ここ最近前線から退いていたのもあってか変に体に力が入っているかもしれない。ガジェット戦で戦う事はあっても、あれはシャマルの中では論外だ。緊張などしない手強くない相手をしてばかりいれば実戦勘も鈍るのも仕方の無いか。

 

《マスターは張り切りすぎるとよく失敗するので、多少力を抜いていた方が良いかと》

 

「ちょ、ちょっとクラールヴィント!」

 

まさかの相棒の暴露に、反論しようとするシャマルであったが心当たりがあり過ぎる、ようは図星であるため言い返せないのである。

 

「でも、さっきの音は……!」

 

音源は何かが転げ落ちたものだ。その、転げ落ちた物は……頭蓋骨、つまり人骨だった。遠目ではあるが、骨の具合から死後何年も経っているのが医師であるシャマルには分かった。足元をよく見ると、骨が地面へ埋まっている。それも大量に。

 

「貴女を選んで正解でした」

 

「成る程ね……」

 

この様な、日常では決してお目にかかれない物が足元にゴロゴロと転がっているからディンは自分を選んだのか。シャマルは彼がはやて達幼馴染三人を選ばなかった訳を今理解した。こんな物があるのが普通の場所に来れば平静を保とうとしても無理が生じる。こういった光景を『見慣れている』シャマルからすればまだ冷静さを保てる。

 

――そこまで考えて疑問に突き当たる。ここに来る前に、ディンは実験施設を見ても大丈夫だと判断した、と言った。しかし、この世界に関しては何も言っていなかった。まだ実験施設を見てもいないのに正解だったと判断するのは早計ではないだろうか? いや、そもそも彼はこの世界の惨状を知っていた?

 

「(考え過ぎ、よね)」

 

この世界を知っていたからああ言った。そう結論付けるには推測の域を出ないし暴論過ぎる。シャマルは一旦考えるのを止め、一度屈んで両手を合わせて死んでいった者達の冥福を祈った。数秒して立ち上がり、坂を上りきる。そこに広がっていたのは相変わらずの草木一本生えていない荒野。だが、その他に信じられないものがあった。

 

「嘘、これって……」

 

坂を上りきってあったのは、大量のクレーター。別段それが珍しいわけではない。戦時中ではクレーターの一つや二つ『出来るのが当たり前』だ。ただ、その数が尋常ではない。そこらかしこにあるクレーターの数はゆうに百を超える。しかも、それ一つ一つがはやての全力の一撃を放った時出来る様なもの。これはまるで

 

――何かに、蹂躙されたような

 

そんな印象をシャマルは抱く。後ろを向くと、さっきまで上ってきた坂もクレータだった。

 

「クラールヴィント、レーダの感知範囲でいいから立体マップを生成してくれる?」

 

《了解》

 

数秒とせずにホロウィンドウが開き、3Dで地形を表す地図が表示される。それを見ると平地など一つも無くデコボコとしていて、まるで惑星に大量の虫食いがあるかのようだ。一体、この星で何があったのか? 予測が疑問を生み、疑問が思考へと繋がる。かつて、守護騎士の参謀役であったシャマルは時折考え込む癖がある。思考に没頭しているとディンが声をかけた。

 

「シャマル医務官、私達の任務はレリックの回収です。それをお忘れなく」

 

「そう、ね。行きましょう」

 

ここで、先程クラールヴィントに表示させた3Dマップを見てシャマルは気付く。

 

「これ、歩いていくの大変よね」

 

「飛んでいくと迎撃される可能性があります。我慢しましょう」

 

目標地点まで六キロ強。このどでかいクレーターだらけの地形を歩いていくのはそれなりの労力を必要とする。しかも、研究施設がある座標の方向には嫌がらせかと思える程にクレータがわんさかとある。ここは、最近の運動不足を解消出来ると思おう。シャマルはポシティブな方向に考えた。

 

「本当にすごいわね、ここ」

 

爆撃されたような痕が残る大地を見て、シャマルは感想を口にする。これをやったのが例え人であろうと兵器であろうと凄まじい事には変わりない。リミッターを全て外したはやてがこれと同じような惨状を作り出す事が出来るには出来るが、数百、数千のクレーターを作るのは流石に夜天の主であろうと不可能だ。ならば、何かしらの兵器がこの光景を作り出したはずだが、万が一、これを人がやったとするのならば、実行した人物は人ではない怪物か何かだ。そんな存在が実在するかと考えると、ぞっとする。

 

《残り四キロ弱。敵影はありません》

 

クラールヴィントが常に警戒してくれているお陰でこちらは索敵にまで気を割かずに済む。感謝しつつ、足を前に進める。どれだけ歩いても変わり映えしない景色。果ての無い荒野に、クレーター。別にピクニックに来ているわけではないのだが、ここまで景色が変わらないとうんざりする。それに、何もかもが荒れ果てたここは、あまり居ていい気がしない。どうしても、昔を思い出すからだ。それは良くも悪くも現在のシャマルを形作る思い出であり、罪。

 

「(こんな空気だったわよね)」

 

戦いが終わった後、何も残らない荒野。荒れ果てた大地。暗雲が立ち込める空。燃え盛る炎。シャマルの記憶にある古代ベルカ時代はそんな印象だった。まともに人とコミュニケーションを取っていなかったから分からないが、きっと憎悪や絶望、復讐。世界中が負の螺旋に陥っていたのかもしれない。

 

「ハァ……」

 

戦場跡に似た景色を見続けているからだろうか。嫌に昔の記憶が脳裏をよぎる。決していい物ではない事を思い出して、シャマルは溜息を吐いた。心なしか、辺りが暗くなっている気がした。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、う、うん、大丈夫よ」

 

「そうですか」

 

心配させてしまったらしい。ディンは一度立ち止まってこちらを気遣ってくれたようだ。無慈悲なように見える彼も、実は優しい……のかもしれない。シャマルは付き合いが短すぎてイマイチ判断に困る。これ以上はあちらに心配させても悪いと思い、黙って足を動かす。進んでいく度に人骨を見ては立ち止まり手を合わせはしないが、心の中で冥福を祈る。

 

更に歩を進めると段々とクレーターが多くなってきた。もう山岳地帯と何ら変わらないような地形になっており、久々に長距離を歩くシャマルとしては気が滅入る。とは言っても、疲労は体に回っておらず、むしろ研究施設に入る前の丁度よい準備運動だ。元より本質が人ならざる者に近い守護騎士達は、常人の体力とは水準が違う。斜面が突然急になっていたり、緩やかになっていたりする地形は歩く者の気力と体力を刻一刻と奪っていくが、そんな事はシャマルには関係なかった。それはディンも同じようで常に同じ歩幅で歩き続けている。

 

「(しかし、見れば見るほどすごいわね)」

 

研究施設に進むにつれてどんどん地形が険しくなっていく。地割れが起きている所もあり、そのあまりの巨大さに渓谷のようになっている。飛べない人間が落ちたら一巻の終わりだ。一体、誰がこんな非常識な事が出来るのか。まるで、大地が抉り取られているようでもあった。そして、チラホラと建物の残骸や、何かの武器の部品のような物が見え始める。ここで戦闘があったのは間違いなかった。

 

《残り二キロ、注意して下さい》

 

さて、ここまで接近したのならば余計な思考は命取りになる。シャマルは今まで得た情報を全て頭の片隅にしまい込み、クラールヴィントから送られてくる情報に集中する。

 

《……おかしいですね。迎撃が一切来ないどころか、ガジェットすら現れないなんて》

 

「まさか、誘い込まれてる?」

 

可能性は十分に有り得る。研究施設に違法研究者達がいるかは不明であるが、戦うのならば自分達が熟知している場所の方が有利なのは言うまでもない。だが、ジャッジメントが言うようにガジェットが一体も現れていないのはおかしい。いくら進入禁止世界とは言え、ロストロギアを回収しようとする機能を持つガジェットが何の反応を見せないのは、何かあるのではないかとシャマルは勘繰ってしまう。

 

「有り得ます。慎重に行動しましょう。ジャッジメント、警戒を怠るな」

 

《はい、マスター》

 

「クラールヴィントもお願いね」

 

《了解》

 

施設へと更に足を進める。目的の座標に向かうが、一つ問題が起こる。

 

『む……二人……、映像と……音声に……ジャミン……グが……る』

 

サーチャーの調子がおかしくなった。あちらでモニタリングが出来なくなってしまっているようだ。こちらから話しかけても反応が無い。

 

《マスター。施設から強力なジャミングを感知しました》

 

「これ以上、サーチャーによるモニタリングは無理か」

 

「仕方ないわ。とりあえず施設を目指して進みましょう。中にジャミングを停止する装置があるはずだわ」

 

ここで止まっていても事態は好転しない。シャマルの提案にディンは頷き、研究施設を目指す。残り一キロを切るとそろそろ目視出来る距離のはずなのだが、一向に視界に入ってこない。もしかしたら、施設その物は何処かに擬態でもさせてあるのか。周囲に気を配りつつ何か無いか辺りを見回す。

 

「この辺りのはずなのですが」

 

《座標はここを示しています。マスター、シャマル医務官。不審な物はありませんか?》

 

先程からシャマルも探してはいるのだが、中々見つからない。ここまで何も無い平地なのだから、地下に施設を張り巡らせていると読んでいる。だからこそ足元を注意して見ているのだが、地下に入るための入り口が全く見当たらない。と、そこへ背後からいきなり突風が吹く。

 

「ッキャ!?」

 

それは、シャマルのロングスカートを思いっきり下から捲り上げていた。こう、ばっちりと。

 

「っぶ?!」

 

中をしっかりと目撃してしまったディンは体ごと視線を逸らす。シャマルはいきなりの風にスカートを押させ付けようとしたが、不安定な足場のために尻餅をついてしまった。流石にディンも今回ばかりは助ける事が出来なかったらしい。シャマルは転んで打ってしまったお尻を擦っていると、自分が転び、座っている地面が変化している事に気付いた。

 

「こ、これって扉、かしら?」

 

こんな事で見つかるとは夢にも思っていなかったのだが、よしとしよう。シャマルは立ち上がり、出現した扉を観察する。この扉、どうやら普段は見えないように光学迷彩か、擬態らしき装置が発動しているらしい。先程転んだ際に扉に触れ、一旦迷彩が解除されたのだろう。証拠に、一度扉の上から離れると荒れた地面へと変化した。

 

《なんと! ドジで事態が好転するとは……初めて見ましたよ》

 

「そ、そうだな……」

 

ディンの頬が赤い。騎士甲冑とはいえ、女性の下着を見たからかもしれない。こうなると、シャマルも何だか釣られて気恥ずかしくなってくる。見られたのが本当の下着ではなくてよかったと思う。

 

《お二人共。任務に集中して下さい》

 

クラールヴィントに怒られた。シャマルは一度意識を切り替えるために深呼吸をする。ディンも同じようにしていた。すぐに彼の頬から赤さが引き、いつも通りになる。

 

「これ、相当厳重な扉よね」

 

「ええ、ここまで頑丈なのはあまり見ませんね」

 

施設へ入る扉は、大きさは人が入れる程度であるが、いかにも分厚そうで、物々しい。コンソールが取り付けられており、ここにパスワードを入力して開く仕組みのようだ。生体認証が無いので、幾分かは潜入するのには楽である。

 

「ジャッジメント、侵入出来るか?」

 

《もう少々お待ち下さい………………もう少しです》

 

コンソールの数字が左から表示され、残り一つになる。最後の一つが表示されると、電子音が鳴り扉が開く。中は一切照明が点いておらず真っ暗だ。

 

「奈落の底にまっしぐらって感じかしら」

 

「『地獄』の底へ、の誤りだと思いますが」

 

あながち、ディンの表現は間違っていないのかもしれない。彼が隊長室で言った事が事実ならばこの先、身も凍るような場所へと進むのだから。

 

「ジャッジメント、警戒を怠るな」

 

「クラールヴィント、何かあったら教えてちょうだい」

 

二機のデバイスがそれぞれの主に返事をすると、シャマル達は入り口から施設へと入っていく。光が一切無いため、魔力によって作った光球を灯りにして進んでいく。

 

「(本当に、地獄へ向かってるみたいね)」

 

一寸先は闇、とまではいかないがそれでも視覚的に情報が著しく遮られるのは恐怖心を煽る。奥底が分からないだけに、本当に地獄への道を進んでいるような錯覚を覚えるのも無理はない。シャマルは別段恐怖を感じてはおらず、暗闇からの奇襲を警戒している。今のところ、階段を下りるだけで分かれ道が無いからいいものの、複数の通路があるような場所では特に警戒を強めなければいけない。この施設の詳細な見取り図は無いのだから。

 

先頭を行くディンの背中からは恐怖と言ったものは無いように思える。むしろ、この状況下で図々しい、いや無防備とも言えるぐらいに階段を降りて行く。頼もしいと思えばいいのやら、それとも心配をすればいいのやら。

 

そんな判断に困る背中について行くこと、二分程。階段を下りて行くばかりだったディンが足を止め、一度こちらを振り向き目で合図をしてきた。これから施設内部に突入する、と言う事だろう。シャマルはここから先、何があってもいいようにクラールヴィントをはめている指、そして全身に神経を張り巡らせる。

 

「行きます」

 

施設内部へと侵入を開始した。相変わらず暗闇が視界を遮っている。ただ、今までとは何かが違う。異質な空気を感じるとでも言い表せばいいのか。肌にねっとりとへばり付いてくる。通気が良くないのもそれを助長していた。

 

《ジャミング源を発見しました。その近くにレリックの反応もあります。どうしますか、マスター?》

 

独断で行動をするのは憚られたのか、ディンはこちらを向く。やる事は決まっていた。

 

「先にレリックを回収しましょう。その後にジャミングを止めてロングアーチを連絡を取れるようにしないとね」

 

「そうですね、行きましょう」

 

しかし、クラールヴィントよりも早くジャミング源とレリックの反応を感知するとは。このジャッジメントと言うデバイスはどれほどの性能を秘めているのだろうか?

 

「警戒を弱めないで下さい。実験体が襲ってくる可能性も有り得ます」

 

「実験体……それって」

 

「深くは考えない方が得策です。敵ならば排除する、それだけでいい」

 

まるで、それはディンが自分自身にも言い聞かせているようにも聞える。彼の言うとおり、あまり深くまで考えない方がいい。その生い立ちまで考えたらきっと迷ってしまうから。シャマルは心を鬼にし、遭遇した場合容赦はしないと決める。

 

《ジャミングが酷すぎて動体反応を感知しきれません。暗闇に乗じて襲撃してくるかもしれませんから、警戒してください》

 

「ああ、分かっている」

 

真っ暗闇の細い通路を、魔法で作った灯りを頼りに歩く。目的の地点までは遠くはないようだが、近くも無い。多少歩かなければいけない時点で、この施設の大きさが感じられる。通路には部屋に入る扉も点在し、いつ扉が破られ襲われるかとヒヤヒヤしていたが杞憂に終わった。目的地に着いたのだ。

 

ディンとシャマルは、一度壁に背を預け、頷き合う。扉はロックされておらず手動でディンが開けた。先に彼が入り、前、左、右とジャッジメントを向けながら安全を確認し、シャマルは部屋の中の安全が確保される間、部屋の前で待機し、敵を警戒する。

 

「問題ありません」

 

「こっちもよ」

 

敵が襲撃して来ないのを確認し、シャマルは部屋の中へ入る。そこには想像を超える物があった。それが、まだ臓器や人の死体だったのならばシャマルは嫌悪感、気持ち悪さを抱かなかった。しかし、部屋の中にある物はそれを抱かせるには十分過ぎた。

 

目、指、手、足、。人を構成するパーツが臓器から四肢、全てに到るまで細部まで分解され槽の中にホルマリン漬けのようにされて浮いている。それらの中には、腐っていたり、機械部品が中途半端に付けられている物も存在する。人とは、ここまで『成り果てられる』ものなのか。得体の知れない気味悪さと、実験に使われた人への同情がシャマルの胸には渦巻いている。

 

唇を噛み締めながらも、部屋にあるはずのレリックを探す。目的の物は意外とすんなりと見つかった。部屋の一番奥に設置されている机の上にケースが開封され、ケースを通して何かの装置に繋がれて置いてあった。

 

「封印処置をするわ」

 

「お願いします」

 

封印処置をしないと、何かの衝撃や魔力によって大爆発を起こす可能性も無くはないため、おちおち抱えてもいられない。シャマルはレリックへ封印処置を施すと、ケースに繋がっているケーブルを引っこ抜いた。電力が通っていないので大丈夫だろうと見越しての事だ。案の定、何も起こらなかった。ケースを脇に抱える。

 

「……これは」

 

気付くと、ディンが部屋にあったPCを電力が通っていないというのに起動させていた。ジャッジメントが発光している事から、彼女から電力を供給しているのだろう。モニターに映る文字は、この施設でどれだけの研究が行われていたかを推測させるには十分な材料だった。何百何千単位で実験を繰り返し繰り返し行っていたようだ。

 

「……っ」

 

「ディン君?」

 

モニターを凝視しているため、ディンの表情を窺い知る事は出来ないが、どうも彼の様子が変だ。態度こそ変わっていないものの、体の内側から感情が滲み出ている。それは、憤怒か、悲しみか、同情か。様々なものがない交ぜになっている。シャマルには、それが『泣いている様』に思えた。

 

《マスター……》

 

「ここで研究を行っていた連中、相当に頭がいかれているらしいな」

 

シャマルは、実験の結果や報告書など見ても何がなんだか分からない。しかし、表示される文字の中に知っている単語を見つけるぐらいは出来た。

 

『Project Fate』『戦闘機人』『人造魔導師』どれもが秘匿事項とされて世間一般には公にされていない情報だ。それが平然とこの施設では扱われ、実験が行われている。確かに、ディンの言うとおり頭がいかれている連中のようだ。

 

「許せないわね」

 

自分で思ったよりも、ずっと冷たい声が口から出た。ディンは、ほんの一瞬だったが眉を上下させた。

 

「……そうですね。終わらせないといけません、こんな事は」

 

普段から平坦で抑揚の無いディンの声に、苦々しい物が含まれていた。やはり、これを見ると彼も感じる物があると言う事か。逆に、この施設を見て何も感じなくなってしまったのならば、人としていけない、のかもしれない。

 

《マスター、このデータはどうしますか?》

 

「……重要な証拠品だ。このままにしておこう」

 

「持ち出されたらまずいでしょうから、海の信頼出来る知り合いに掛け合って、回収してもらうわ」

 

シャマルにも、このデータが外部や違法研究者達の手に渡ればどうなるかは簡単に想像がつく。新たな悲劇が繰り返される前に、止めなければ。そのためにも、ここの情報は機密扱いにし、海の知り合い、クロノ辺りに回収しに来てもらったほうがいい。信頼出来る人物であるし情報の取り扱いにも馴れている。PT事件や、闇の書事件などの機密情報を扱ったのは他ならぬクロノなのだから。

 

「分かりました。お任せします」

 

「うん、任せて。後は、ジャミングを止めに行きましょう」

 

「ええ。ジャッジメント」

 

《ここからそう遠くはありません》

 

ジャッジメントの案内で、部屋から出てジャミング源に向かう。彼女の言った通り、そこまで離れておらず入り口から先程の資料があった部屋に着いた時よりもずっと速く到着した。

 

「行きます」

 

同じようにディンが先行し、中の安全を確かめる。部屋の中で一度ディンが頷いたため、シャマルも足を踏み入れる。この部屋がジャミング源のようだが、施設全体の電力を賄っている場所でもあるらしく、スイッチやらケーブルやらが装置と共にびっしりとある。シャマルは困る。何故ならこれのどれが通信などを阻害させている装置なのか、専門外なので全く分からないのだ。

 

そんなシャマルを尻目に、ディンは次々とスイッチを迷い無く押していく。すると、後ろを付いて来ていたサーチャーの調子が元へと戻ってきた。未だにジャミングの影響があるせいか、ノイズがあるが、あちら側ではモニタリング出来ているようだった。

 

「ジャッジメント、施設内に動体反応はあるか?」

 

《いえ……反応は一切ありません。ジャミングが消えたので、大丈夫かと》

 

「分かった。シャマル医務官、施設の動力を入れますので、一応周囲に警戒して下さい」

 

「分かったわ。この真っ暗闇ともおさらばね」

 

ディンが部屋の中にあった一際大きなレバーを上げると、部屋の明かりが一気に点いた。暗闇に慣れていた目が、眩む。視界が遮られようとも、何となく気配で相手の接近を察せるシャマルからすれば何とも無いのだが、警戒を頼まれておいて両目を開けていないのはあれである。

 

「っ……目に悪いわね」

 

眩んだ視界が回復するが、床や蛍光灯の光が全て真っ白なので言ったとおり目が痛い。映画などでよく見る研究施設は真っ白な床に蛍光灯だが、まさか現実でもそうだとは。馴れるのが大変そうだ。こんな場所で研究のためとは言え暮らせる人間の精神が分からなかった。いや、人の命を何とも思わない人間の精神構造など分からない方がいいか。

 

「こういった施設の床が白いのは、施設の部品や汚れが目立ちやすいからこうしているのでしょう」

 

ディンが言う汚れ、とはつまり実験に使われた者達の血、と言う事なのだろうか。そう考えると嫌になってくる。人が流した血が、汚れなどと言えてしまうこの場所が。

 

「目的は達したわ。帰還しましょう」

 

シャマルは転送魔法を使い、六課へと帰還しようとする。緑色の魔法陣が浮き上がり、ディンもその中に入る。

 

「はやてちゃん、今から帰還するわね」

 

『了解。ご苦労様や』

 

声だけを聞くならば、はやては大丈夫そうではある。しかし、シャマルは心配だった。隊に戻ればサーチャーで撮影したもの全てを見る事になる。そのせいで食事が喉を通らなくなったりしたら大変だ。ただでさえ、重い立場にいるのだからしっかりと栄養を摂らないと倒れてしまうかもしれない。

 

「(そこら辺は私がちゃんとケアしないといけないわね)」

 

シャマルは六課の医務官であり、家族であるはやてを支えるのは当然であった。そんな事を考えながら、転送を開始しようとして

 

――突然、魔法が解除された。

 

《ッ?! 施設全体に転移を阻害する魔力を検出! これは一体?!》

 

狼狽するジャッジメント。クラールヴィントからも未知の魔力が検出されており、それが転移を阻害している。何度試しても、魔法陣が浮かび上がり、転移をしようとした時点で消える。救いなのは転送魔法以外は普通に使用可能な事か。

 

『やぁ、ディン・ハーミット一等陸士にシャマル医務官。君達とは、初見になるかな』

 

「っな!?」

 

シャマルは突然浮かび上がったホロウィンドウに映る人物に驚愕する。愉快そうに笑う白衣の男。広域次元犯罪者と呼ばれる管理局でも最高ランクと言っても過言ではない危険人物であると同時に、フェイトが長年追い続けている男。名をジェイル・スカリエッティ。別名、世紀の犯罪者。

 

「施設のデータでも回収しに来たか、外道」

 

ディンは、怒っている。それがはっきりと分かる程に、声に感情が込められていた。

 

『ん? いやいや、私はこの施設のデータに興味は無いよ。そもそも、この施設程度の研究ならば数年前には完成している』

 

「きっ貴様……」

 

ギリっと、ディンの歯を噛み締めた音が鳴る。シャマルも聞いていて決して気分が良くない無いように眉を顰める。

 

『おっと、話しが逸れそうになってしまった。実は、これからゲームを始めよと思ってね』

 

「貴様の遊びに付き合っている暇は無い」

 

ディンがこちらをチラッと見る。それに頷き、周囲を警戒しつつ部屋から出る。ご丁寧にホロウィンドウが追従してくる。ガジェットが来るにしても、この閉所ならば相手も数で押そうとしても、数の脅威を完全に発揮出来ない。彼の実力の程は分からないが、少なくともガジェットに遅れなど取らないはずだ。

 

『残念ながら、君達に拒否権は無いのだよ。何故なら』

 

一際、世紀の犯罪者は口を歪めて薄ら笑いを浮かべる。そして、次の言葉が彼の口から出る前に変化が起こった。

 

《マ、マスター! 複数の動体反応を検出! 数は……100!?》

 

「まさか……お前のセンサーを掻い潜った、だと?」

 

驚いているのはシャマルも同じで、補助に特化されているクラールヴィントのセンサーにも全く反応が出なかった。相手はどうやってこれだけの戦力を隠していた? 元からこの施設に居たのならばジャミングが解けた時点で気付けるはずであるのに。

 

シャマルとディンの反応を見て満足したように更に笑みを深くするジェイルは、手を広げてまるで演説でもしているかのように話す。

 

『負ければ君達は死ぬ。どうだい? これで少しはやる気が出たかな?』

 

 

生きてここを出られればこちらの勝ち。負ければ死。これをゲームと言うこの男の神経が理解出来ないが、今は敵に備えるのが先決だ。

 

「ああ、嫌と言うほどにな」

 

《敵反応急速接近。来ます》

 

「分かった」

 

「了解」

 

敵に備え、ディンとシャマルは構えた。

 

『さぁ……見せてくれたまえ。君達の力を。くっくっくっく』

 

耳障りな笑い声が聞えると同時に、何かが襲い掛かってきた。




更新が遅くなりましてすいません凡人Mk-Ⅱです。

年末に向けてリアルが忙しくなってきたために、絶賛更新速度が低下中です。ほぼ一ヶ月ぶりの更新になってしまいました……

とりあえず二週間に一度の更新を心がけますが、ピクシブで書いているほうのなのは小説の方が優先なので、早い更新はちょっと難しいかもです。

こんな作者ですが、この作品を見続けてもらえると幸いです。

感想なども受付けておりますので、お気軽にどうぞ。

では
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