慈恩公国召喚   作:文月蛇

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すいません、二番煎じです

投稿しようとロウリア王国陥落まで書いてたらもう既にジオン公国召喚があったのでびっくりしました。

とりあえず、ジオン公国好きなのでジィィーク!ジオンと叫んどきます。


ガンダム系の二次は初めてですが、頑張ります。


第0章 ジオン独立戦争
第零話 開戦前夜【修正済】


宇宙世紀0079年一月一日

 

世界は戦争へと突入しつつあった。

 

地球連邦政府成立以降、増えすぎた人口を宇宙に移民させること既に半世紀。

 

地球連邦政府とスペースコロニー政府への重税や肥大化した官僚制。多くの鬱憤がたまり、地球人と宇宙人の対立は色濃くなっていった。

 

地球から最も離れたスペースコロニー・サイド3は「ジオン公国」と名乗り、地球連邦からの独立を宣言。緊張状態が続く中、ジオン公国は総動員体制へ移行し、全面戦争の準備を行っていた。

 

 

人類史上凄惨たる戦禍を人類生存圏の殆どに植え付け、憎悪と死を撒き散らすはずだった。

 

宇宙移民(スペースノイド)と地球人(アースノイド)を対立させたデラーズ・フリート戦役、グリプス戦役、ネオ・ジオン戦争、ラプラスの箱事件、コスモバビロニア建国戦争、ザンスカール戦争など数多くの戦乱によって地球が疲弊。高度化されたテクノロジーによって文明をすべて無に戻す、∀の時代に至る数百年にわたる破壊の時代の幕が開かれるはずだった。

 

 

だが、動かないはずだった『歯車』が動き出し、正史を変える。

 

 

「総統府に緊急速報!地球圏との連絡途絶!」

 

「なんでもいいから宇宙へ上げろ!アナログなデータでも構わん!写真に収めるんだ!」

 

突如として、宣戦布告するはずであった仮想敵国である地球との連絡途絶。アナログな無線からミノフスキー粒子などの妨害下でもある程度通信可能なレーザーまでが全て喪失。まるで中世の地球に逆戻りしたかのようだった。

 

地球にも諜報網は存在し、全面戦争するうえで支援を約束した組織も存在する。それ以前にまだ戦争状態になっていない以上、地球圏の通信設備が一斉にダウンするなど考えられない。

 

一番考えられないのは地球そのものの消滅。そんなこと誰も信じはしないだろうが、第一報を発したジオン公国宇宙管制センターの一報はジオン公国全土に響き渡ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「父上、あの話はもうお聞きに?」

 

ジオン公国公王府。さながら宇宙世紀のテクノロジーとスペースコロニーの建築様式を併せ持った、地球圏にはない歪な城はジオン文化の象徴的な存在だった。その謁見の間において、多くの文書の署名を済ませた公王デギン・ソド・ザビの表情は暗い。公王府は主に儀仗的機関の一つであり、総帥府のような集権的機関と比べれは見劣りする。しかし、多くの国書を裁定する公務に携わり、公国の貴族を束ねる国立劇場の運営や国立公園、博物館などを経営する。また議会議事堂の維持なども含まれるほか、ジオン資産家や貴族層の統制を行っていた。

 

ただ、長年の政争に疲れ果て、老齢のために痩せた体を鞭打って公務に励む様は公王という国家元首の地位にいても、とても国家の中心にいるようにはとても見えない。既に国家の中心は総帥であるギレン・ザビにあり、お飾りであることは誰の目から見ても明らかだ。

 

しかし、デギンの眼光は鋭く長男ギレンの姿を見ていた。

 

「ギレンよ、わしを耄碌したと思うな。……が、最初聞いたときは耳を疑ったものだが……」

 

デギンの顔色はよくない。施政者であることへの重責と緊急事態への対処を憂慮しているに違いなく、目の前にいる息子、ギレン・ザビも同じく表情が強張っていた。

 

スペースコロニー群、サイド3国家「ジオン公国」の指導者であるギレンも話を聞いたとき、3か月先のエイプリルフールのネタか、管制センターの役員が酔って誤報をぶちかましたのではと疑ったほどである。IQが非常に高いギレンでさえも、その報告を聞いてどう処断してやろうかと考えあぐねていた所だったが、その他の民間通信社や連絡船の救難信号、連邦軍の不可解な軍事暗号を入手したことで状況が一変する。 地球が目の前から消え、見たことのない惑星がその場所にあったのだから驚きであった。加えて、微弱ながら地震を検知し、何らかの磁気嵐もしくは次元の裂け目が出来、地球が飲み込まれたといったオカルトの類までが真剣に検討された。

 

だが、その状況を好機とみている男がいた。彼(ギレン)である。

 

すぐさま、予定されていた予備役総動員令を発令し、戦闘準備態勢に移行。地球圏よりのサイドへ布告と同時に核攻撃を仕掛けようとしていた部隊を準備させた。サイド3の他にも、サイド1から7まで存在を確認でき、グラナダやフォン・ブラウンなどの月面都市のある月以外にも、もうひとつ衛星が存在した。50億人近くが中央政府を失い、半ば狂乱状態となっていた。非現実的な事実に対し、暴動が多発。連邦軍が駐屯していないコロニーにおいては無政府状態が続いていた。各サイドは非常事態宣言を布告し、多くの警察署では暴徒の鎮圧のため、実弾が使用されている。

 

 

サイド5のルウムは小康状態が保たれているが、外出禁止令が出され、重火器を付けた装甲車が市街地を練り歩いている。もはや戦時下の反政府ゲリラ狩りの様相を呈していた。一方、サイド3は総動員令を発令しているし、十年前から軍事教育がハイスクールまで行き届いている。下手な暴動やデモは滅多に起こらなかった。

 

「父上、今こそ行動の時でしょう。この事態を放置すれば、あのレビルが何らかの形で動き出すはず」

 

連邦は愚鈍な組織であり、頭さえ落せば容易く死ぬ。……とジオン政府首脳部の大半は思っているが、民主主義の利点は頭の替えが聞くことである。ジオン公国など専制君主、独裁政権はトップを失うと屋台骨を折ったように、勝手に崩壊していく。

 

 連邦の存在は愚鈍な腐敗の象徴としているが、ギレンからしてみれば度々頭をすげ替える多頭獣に近い。日本神話に例えれば、頭を何度も斬っても再生するヤマタノオロチに代表するような神獣の如き巨大な生物だろう。連邦政府首脳を壊滅させても、何処かの議員か内閣の人間、代理の大臣や国家公務員の高官が代理の職を担う。

 

だが、首都そのものと母なる星を失った地球連邦軍は一気に頭を奪われ、行動不能に陥っていた。ただ一つ残っているのは、レビル将軍一人だろう。 

 

地球連邦宇宙軍総司令官として、サイド5に駐屯する部隊やルナⅡを指揮し、地球連邦の中でも高潔な軍人の一人である。軍中枢のジャブローに籠る政府首脳や軍高官とは違い、戦場に出向く人間。それは暁の蜂起事件など、連邦とムンゾ自治共和国時代から付き合いがある。公王デギンからも一目置かれている存在だ。

 

彼であれば、他のサイド自治政府をまとめ上げて、反ジオン連合政府を作りかねない。そうでなくとも、彼主導の連合組織を作りかねず、その下地がそこにはあった。もとより、地球連邦宇宙軍はレビル寄りが多い。既に宇宙連邦の艦隊へは警戒態勢を敷いている。その数はジオンの艦隊決戦戦力以上の戦力であった。

 

 

「既に準備は整っています。あとは……公王次第です」

 

父ではなく、公王と呼ぶ。

 

 手には宣戦布告文書の書式と総動員法の本格的な成立とギレンへの全権委任法だった。公国議会はあるが、ザビ家の傀儡であり、全権委任法は自身への権力集中するための、布石に過ぎない。既に彼の頭にはブリティッシュ作戦を含む地球への攻撃を除いた作戦計画が構築されていた。他のサイドへの核攻撃や生物化学兵器による粛清行為もその作戦計画に含まれている。既に配下の部隊には指示を下しており、あとは公王の署名があれば遂行可能である。

 

 

「ギレンよ」

 

「はい」

 

「わしは戦争には賛成したが、虐殺行為に手を出せとは言っておらん」

 

その時、ギレンの表情は固まる。謀略を司り、歴史上の指導者よりも優れた知能を持っていると彼は自覚していた。それだけに父のセリフは思考を停止させるのに十分であった。

 

 

「知っておるぞ、ギレン。貴様はワシが見ていぬうちに何やら物を準備していることは」

 

  

 

ギレンは秀才である。故に致命的な失敗を冒す。それは人間故にある失敗。

 

 

肉親への狭窄的視野

 

もとい肉親が故に気づかない部分。性格的な、子を思う父あっての思いだろう。そして、ギレンの心のどこかで父を思ってのことだったのか。政敵ではあったにしろ、父である手前。秀でた頭脳は父であるデギンの存在を過小評価していたのかもしれない。

 

「お前の政治的な野心、そして優生思想は困難な時代であってこそ。だがな、わしは何時、お前に歴史の殺戮者となれと言った?」 

 

「時に殺戮も必要でしょう?」

 

「その殺戮に意味はあるのか?」

 

「その問いかけすら無意味でしょう?平和は剣によってのみ守られるのですから」

 

真実を織り交ぜながらも、民衆に嘘と偽りを並べ、悪逆のかぎりを尽くした旧世紀の指導者の格言を入れるギレン。平和を求める者はペンと剣を持たねばならず、いつの時代もそれは求められた。宇宙世紀になっても然り。

 

だが、敵対するほぼ全てを殺戮したとて何が残ろうか。国力30倍の敵が居なくなったとて、植民地政府には未だに地球連邦のシンパは大勢いる。そのすべてを核等の大量破壊兵器で殺戮したとて、のちの子孫にどう言い訳できるのだろうか。

 

如何に情報統制をしたとて何れは漏れる。殺戮の証であるコロニーの残骸を核で粉々にしたとしても、そのすべてを葬ることは不可能だ。

 

―息子ながら恐ろしい

 

 一抹の不安が現実となり、それを抑止できない自分が憎い。デギンは老齢で衰え、ダイクンの元で集った時の力はもうなかった。自身の頃にはなかった残虐な性質が、彼の力を募らせた。今ではほぼ全てを手中に収め、かつての民主主義の悪夢である指導者の面影を残しつつ、更に酷い殺戮を行おうとする。

 

 

最早、老人に止める術はない。 

 

「“真実の追求は、誰かが以前に信じていた全ての”真実”の疑いから始まる。“兄上は全てが終わってからどうするおつもりです?」

 

 

「ニーチェか?最後には気が狂った思想家だろう。キシリアよ」

 

 

その会話を聞いていたかのように表れたのは妹である。内務省に影響力をもち、ギレンの次に権力を保有するキシリア・ザビ。彼女もギレンにも劣らぬ秀でた頭脳の持ち主だった。ニーチェを引用する彼女のセリフに対して反論するものの、ため息をつくキシリアだった。

 

 「かつての大罪人の汚名をザビ家に塗ることはあってはならぬ行為。かつてのユダヤ人虐殺行為のように、コロニーへのガス攻撃……コロニーをジャブローに落とすなど」

 

キシリアでさえ、コロニーを使用した大型質量弾は懐疑的だった。

 

 

地球連邦軍司令部ジャブローは熱核兵器の攻撃を想定して設計された巨大基地の一つである。岩盤の下に構築された巨大地下要塞はICBMの直撃でさえも耐えられ、複数の着弾でさえも堪えられる。巨大なコロニーによる攻撃は従来の核兵器よりも強力なものとなるが、その分環境破壊が凄まじいこととなる。

 

 もし、コロニーによる巨大質量弾による攻撃を行えばどうなるか。地球環境は激変し、大気の激変から異常気象と共に様々な災害が大地を襲うだろう。既に収束しているウィルスや病原体の蔓延、竜巻や台風などの気象にも関わってくる。だが、スペースノイドであるザビ家にとってそれは直接的な問題ではなかった。

 

最もなものとして、独立を勝ち得る過程と求める物が違う。ギレンは自身の地位と権力、そして選民思想の政策を行うため、自身の支持母体を満足させるにたる政策を行わなくてはならない。独立のための戦争であり、選民思想のために地球や地球連邦を支持する者は粛清してしかるべきなのだ。

 

だが、ザビ家は違う。かねてより政財界に身を投じればわかることであったが、コロニーの中で工業立国として栄えたサイド3が最も恐れたのは経済が落ち行くことである。地球連邦による関税強化法案は何事も避けていきたい問題であり、独立と関税の撤廃などはジオン公国にとって悲願である。スペースノイドによる独立戦争は、ザビ家や上流階級にとって『経済戦争』であり、独立戦争を求める民衆の意思と上流階級の思惑が合致したからこその戦争だった。だが、ギレンは違う。

 

ザビ家の方針から外れ、選民思想を唱える彼の野望は相反していたのだ。

 

人殺しを厭わないキシリアであっても、選民のための大量虐殺は望んでいない。寧ろ、顧客である地球連邦や他のコロニーへの輸出など、需要を殺戮によって無にしてしまえば、人類そのものが危機に陥る。

 

 

「兄上は大義をお忘れか?」

 

 

「大義など民衆を導く方便だ」

 

「その方便を掲げるのが政治家でしょう。国益ためならまだしも、人を選別するために虐殺をするので?……兄上も墜ちましたね」

 

「何?」

 

 ギレンは自身の名誉を傷つけたのか、不機嫌な顔をした。しかし、その表情は再び固まる。キシリアの手にはジオン公国公王府の紋章ではなく、総帥府発行の『ブリティッシュ作戦』と記された作戦計画書。

 

そこにはスペースコロニー「アイランド・イフィッシュ」への攻撃と占領、そして核パルスエンジンを用いた攻撃などを記したものである。

 

だが、そこにはG3ガスによる虐殺には一切触れておらず、キシリアの持っていた()()()()の方には記載がされていた。「最高機密」の印が押された機密文書の中でも最高機密文書であることは間違いない。

 

キシリアはギレンに対して一瞬不敵な笑みを浮かべていた。ギレンは彼女に一足先を越されたと苦虫をかみ殺したような表情を浮べる。「キシリア機関」という私設情報機関を有する彼女はあらゆるコネと情報を掴んでいた。ギレンにも国直属の情報機関を私有化していたが、キシリアが一手先を制していたのだ。キシリアの表情は、ギレンの行動に対しての怒りは籠っていなかった。すなわち、ブリティッシュ作戦を公王に教えたことも彼女の策略に違いなかった。宇宙攻撃軍を有する次男ドズル・ザビは軍人であり、国益のためなら手段を択ばぬところがあるため、ギレンが音頭を取れば渋々承諾していた。ガルマ・ザビの方は全くのノーマークであるが、家族で唯一汚れていない人間である。

 

 

キシリアにも家族という思いが強かった故の失敗だったのか。それとも、自身の知能が彼女を下回ったのか彼には分らなかった。キシリアに確かめずとも、暗黙の了解を得てブリティッシュ作戦を進めていたのである。

 

「ギレンよ、戦争するなとは言わん。だが、情報操作は何よりも得意だろう?」

 

公王の言葉は息子を叱るそれだった。既に40を越え、半世紀を生きようとするギレンだったが、息子として叱られるのは何時ぶりだっただろうか。かつてジオン・ダイクンへの援助に違法な形で援助をし、きつく激怒されてからか。それともダイクン暗殺への思惑を父に相談した時以来だったか。

 

 

 ―父に半ば隠居させるつもりで公王に即位させたのに叱られるとは……まだまだか

 

 

 

「分かりました、攻撃内容に対しては修正します」

 

「・・・・・・うむ……」

 

「・・・・・・・・・」

 

デギンは粘り強い性格のギレンが素直に非を認めたことに驚き、キシリアもまるで呆気にとられたような表情を一瞬見せる。公王府では顔を隠さないため、政治家として唯一の欠点であった「表情豊か」な所が垣間見え、ギレンは心なしか笑みを浮かべていた。

 

「地球の悪評とこれまで明るみにならなかった経済的失策。マスコミにリークさせ、民衆の支持を集めさせないようにしましょう。さすれば、レビルも臨時政府樹立には難色も示すでしょう」

 

ー既に手の者がいますから

 

と内通者をほのめかすように言い、キシリアと共に謁見の間を後にする。謁見の間を過ぎ、半ば行政機能がパンクしそうな仕事場に向かう二人であったが、行く道は同じであった。

 

「キシリアよ、よくもやってくれたな」

 

「兄上こそ親衛隊を過信しすぎでは?」

 

政治的にも、家族関係共にあまり良くない。ドズルにおいてギレンは同性であるために、それなりに仲はあるが、ドズルとキシリアも軍を二分させる程に軍略の方針が仲違いしている。とはいえ、謁見の間の廊下を歩く二人以上に仲が悪いというわけではない。唯一、殺してしまう危うさをもっているのはこの二人である。

 

自身の利に敵わなければ、容赦なく暗殺を目論んでもおかしくない。冷酷なギレンであればそうするであろうし、政治の舞台に立ち、権謀術数の世界に入って同じく冷徹な思考を持ったキシリアもギレンが相手なら容赦はすまい。

 

近くの衛兵はひやひやしつつ、その光景を見ていたが、ギレンの表情が和らぐと同時に、人間らしい表情が現れた。

 

「ふん、昔と比べたら随分と政治というものが分ってきたようだな、キシリア。それとも子飼いの情報機関が優秀だったのか……羨ましい限りだ」

 

「随分と機嫌がよろしいようで」

 

「お前こそ、その表情を表に出せば男も寄ってこよう」

 

 

「……なんですって?」

 

腰にはない小型レーザーガンは公王府の警備室に預けられていて、ここで暗殺されることはない。だが、廊下の壁に飾られている儀礼用のサーベルを手に取り斬りつけそうな怒気が感じられたのである。

 

「お前は私と違って表情が豊かだからな、権力に物を言わせて愛人を囲わなくても男が寄ってくるだろう?」

 

「……ご冗談を、もう私の歳では行き遅れ……」

 

 先程とは打って変わって落ち込むそぶりを見せるキシリアであり、マスクの上からでもその表情が読み取れる。ギレンはその思考力を使わなくても、勝気な男勝りなところがなければ、ザビ家という家柄さえなければ嫁の貰い手がいただろうにと溜息をついてしまう。

 

 

「兄上、体調でも悪いので?」

 

何時もなら独裁者の鉄仮面を被るギレンであるが、キシリアの嫁ぎ先を心配するなど、一体何があったのかと心配するほど、人間味のある彼に驚いていた。

 

その言葉に足を止め、苦笑する。

 

 

「そうだな、国を守るため、家や自分を守るために政治家になった。民衆が求め、指導者として何れ来る戦争の準備をしながらな。だが、地球連邦はもういない。いるのは腰抜けの宇宙軍とレビル一人……敗軍の指導者となり、ニュルンベルクやトーキョー裁判で絞首刑台の階段を上らずに済むのだ。体調が悪いはずないだろう」

 

建国当初より、ムンゾからジオン共和国、ジオン公国になるまで政治の中心にいたザビ家は、ギレンが生まれてからというもの政争に身を投じてきた。いずれ、アースノイドとスペースノイドの対立は訪れ、独立戦争の名の元に指導者になることを予測していたのだろう。ギレンが独裁者として戦わずとも、いつの日にか宇宙移民の解放者と称して、情報欺瞞を掲げていく指導者が現れ、旧体制を非難して、憎悪が元で地球人を粛清する者が現れるだろう。

 

既に移民という行為によってそうした土壌は整いつつあった。あとはどうするのか?今ある資産を抱えてどこへ逃げる?逃げるところなどどこにもない。

 

ならばいっその事、自身が指導者となり、自身の思い描く世界を作ろう。

 

悪逆非道な指導者とは多くの場合、殆どが嘘偽りの人物像がある。たとえ、その人物が存在していても、様々な情報操作が行われ、都合のいいように作り変えられてしまう。歴史上の最悪の指導者と呼ばれるヒトラー以上に組織的殺戮を行ったのはソ連、後の歴史に残る物として中国の文化大革命などがある。人民救済を唱えるソ連の父レーニンにおいても、初めての国家的粛清行為を行った人物でもあった。

 

だが、そのほとんどが捻じ曲げられ伝えられている。なぜ、政治指導者となったのかなど、多くは純粋に国を思う心だったのか、それとも民を思う心だったのか。どちらにせよ、政争や戦争、その後の歴史次第で時の指導者は悪逆非道な独裁者か、善政を敷いた政治家として後世伝えられていく。

 

ギレン・ザビも正史であれば、冷酷であり、残虐非道な独裁者に映ることに違いない。だが、如何なる優れた頭脳を持つ彼も一人の人間なのだ。

 

「……」

 

「なんだ、キシリア。急がぬと送れるぞ」

 

黙りこくるキシリアへせかそうとするギレン。二人とも今後の会議や部隊を動かすためにひっきりなしに動かねばならない。想像以上のことが起きたために、徹夜も覚悟の上で仕事に当らねばならないだろう。

 

「……久々に兄上の鉄仮面が剥がれたもので……」

 

「鉄仮面か…かぶって演説でもしてみるか」

 

 

―さすがにキャラ被るのでは?

 

政治指導者を目の前にして言えない衛兵だった。

 

そして、ジオン公国は残存する地球連邦軍に対して攻撃を加えていくことになるとは、この時ジオン指導部でさえ、地球連邦残存勢力でさえ知る由もなく。

 

 

また、その惑星に住む人々には、星が点滅し、流星や隕石のように宇宙戦艦が墜落してくることなど夢にも思わなかった。

 




2019/06/30 表現のおかしい部分を修正

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