ロデニウス沖海戦の大敗北は機密扱いとなった。だが、国威発揚のために出陣の際には大々的な発表をしていたからか、その後の4000隻の行方、マイハークの状況などを知ろうとする者が続出した。戦争という行為そのものは消費行動であり、其処には多くの大金が渦巻いている。それ目当てに来る商人は多く、ロウリアやクワ・トイネは対外的に対立しつつも、商人と言った民間は取引をちゃっかりしていたりするのである。
そのため、ロウリア王国海軍の大艦隊壊滅の報は瞬く間に広がり、『人の口に戸は立てられぬ』という諺もあるように、口外を禁じようとも誰かが漏らしていた。ギムやその周囲の駐屯地にもその情報は伝わり、ロウリア王国東部諸侯団クワ・トイネ先遣隊では衝撃が走っており、士気の低下が目立つ。
さらに、ギム攻撃戦で現れたジオン公国所属の部隊とそれと一緒にいた緑の巨人。多くの兵が斃れていき、兵力の半分が死傷していた。そんなこともあって、兵の士気は低く、辛うじて兵士の脱走は防げているような有様だった。
そして、威力偵察に出たホーク騎士団第15騎馬隊の約100名が、ギムの東方約25km付近で消息を絶った。騎士団司令部は、何の連絡もなしに消えたことに混乱していた。威力偵察は敵がどの程度いるか、攻撃を仕掛けていき、出方をみる任務である。何かあれば状況報告をするのが当たり前だし、騎馬隊ならば一人ぐらい戻ってきてもいいはずだ。それが誰も戻ってきていないのはどう見ても変だった。東部諸侯団を取りまとめるジューンフィルア伯爵はギム周辺地図を確認し、兵の配置状況や確認された情報を元に分析する。ギムの攻防戦において、消耗した兵力の穴埋めを行ったのはロウリアの封土を頂く貴族お抱えの部隊である。王国軍とは違い、私兵や州兵のような意味合いが強い諸侯団は高い練度と引き換えに、諸侯ごとの連携の取れない部隊。
ジューンフィルアもそのことは痛感しており、これまでいたアデムなどの部隊とは連携しつつも、主力である騎兵を機動力に敵陣を包囲する戦術が有効と考えていた。そのためにはまず、威力偵察やワイバーンなどによる情報収集であったが、ワイバーンは数が少なく、諸侯が保有する竜騎士は出払っていた。
副官の魔術師ワッシューナに声を掛け、実質的参謀の彼に尋ねる。
「何かおかしいとは思わないか?我々は、本当にクワトイネの亜人と戦っているのだろうか、導師ワッシューナよ、どう思う?意見を述べよ」
「魔力探知には、一切反応が無く、誰も気がつかなかったので、ワイバーン等の高魔力生物の使用や、ワイバーンの導力火炎弾のような高威力魔法の使用は無かったものと思われます」
「では何だと思う?」
「まさかとは思うのですが・・。最近、導師の間で・・・導師魔信掲示板に記載されていたのですが、あまりにも現実離れしており、荒唐無稽な書き込みなので、信じてはいなかったのですが・・・」
魔師魔信掲示板
ロデニウス大陸の魔導士がよく使う連絡用ツールの一つであり、研究成果の他、とりとめもない会話など、横のつながりが強い魔導士にとって、これほど有意義なものはなかった。たまに荒らしのような匿名魔導士が誹謗中傷をするときがあり、魔導士の制裁部隊がこれらを狩り出したりする。なので、比較的平和な掲示板であったりする。無論、ロウリア王国主体の事をさすが、一部ではクワ・トイネ間と連絡を取り合う魔導士もおり、見つかった場合は反逆罪として火炙りにされてしまう。
団長もその掲示板の話は耳にしたことがあり、情報の精度はともかく、学問の使徒である魔導士の掲示板によからぬことは書いてないと踏んだ彼はその話を聞いてみた。
「マイハーク攻略部隊が壊滅。ギム攻防戦の際に目撃された鉄の巨人の仕業としているらしく、ジオンと名乗っていたそうです」
その場にいた団長他、司令部全員に衝撃が走る。
マイハークへ向かう船団が壊滅したという話に驚きを隠せず、もし本当であれば、国王がそれを隠匿していたという事になる。
諸侯は国王から信任を得て封土をもらい、その剣を捧げている。命を張って戦う以上、信頼は何よりも厚くしなければならない。軍議に嘘偽りはご法度である以上、王がそれを隠匿した事実はロウリア全土の諸侯を敵に回したに等しい。ジューンフィルアは国王が流石にそこまではしないと思い、あの4000近い大船団が壊滅したとは信じられなかった。
「いや、待て待て!今回の派遣船団はそれだけでクワトイネを征服出来るほどの大部隊だった。パーパルディアに攻め入ったとしても、彼らの艦隊包囲網を数でこじ開け、上陸させられるだけの量と戦力だ。それに、保有する兵員はギムより多い。あの場所を占領するのは容易いはずだ!」
「実は・・・、ギム攻防戦時に戦闘していた中に小国ジオンが善戦したとありましたよね。大船団に対してジオンが空浮かぶ箱舟を用いて艦隊の大部分を消し飛ばし、鉄の巨人で艦隊旗艦を爆砕したという話が出てました。今、掲示板で大荒れです」
まさに「ロデニウス沖の大船団、大炎上m9(^Д^)プギャー」とかありそうで無いものだが、多くの従軍魔導士の証言が重なり、掲示板は大炎上。それを管理するロウリアの魔導士協会は掲示板の
一同は国の頭脳である魔導士が嘘を言うとは考えず、よくある戦場伝説に近い法螺話なのか、真実だとすれば突拍子も無い話だが、まさか本当かと参謀達は頭を悩ませている.。
そして、ロウリア王国東部諸侯団の諸侯を悩ませる事態があと一つ。王国軍からの指令書、恐怖の副将アデムからであった。
指令書には、
「城塞都市エジェイの西側3km先まで兵を集めよ。そこで、本隊合流まで待て」
城塞都市エジェイは国境の町ギムなどの周辺の村々とは訳が違う。クワ・トイネ公国が国土防衛の戦略として防衛線として築き上げた要塞である。都市機能は最低限に抑え、要衝として各街道を制する場所。ここさえ落せば首都はすぐそこだが、その守りは先のギムの比ではない。攻城兵器はかなり要するし、2万の兵では心もとない。
マイハークの経済都市さえ占領できれば、補給線の崩壊で簡単に攻め入ることが出来よう。だが、攻めるには手駒がたりない。あってもかなりの激戦になることが予想され、諸侯団は先遣隊として出血を強いることが予想された。ここで諸侯団を残していても、王権を衰退させるだけであり、憂いのある諸侯団の兵力を潰せれば王権を強められるという意思が見え見えだ。
かと言って、拒否権はないに等しい。
ジューンフィルア伯爵の部隊が拒否しても、最悪の場合抗命罪として、王国軍から粛清されるだろう。一般的にそれをすれば、他の諸侯も黙ってはいまい。しかし、副将アデムの指令に逆らったら、自分が死ぬのはもちろんのこと、家族も恐らく惨たらしい死を遂げる事になるだろう。
アデムは言わば、ゲシュタポや人民委員会などと同様、反逆した諸侯や貴族を王権の名のもと処断する。それ故に王権が強化され、アデムの地位も昇って行ったのである。ロウリア王国東部諸侯団約2万名の兵は、西へ兵を進め始めることとなる。
そして、城塞都市エジェイには、クワトイネ公国軍西部方面師団約3万人が駐屯しており、クワトイネの主力が配備されていた。総兵力としてロウリアに劣っていたが、数の利は地の利などで簡単に覆すことができ、周囲が唯一の山岳地帯だからか、防衛も容易である。城塞の籠城を崩すには守りの三倍の兵力で攻撃を仕掛けねばならないことは戦の定石である。
航空戦力はワイバーン50騎、
他、騎兵3000人、弓兵7千人、歩兵2万人。
西部方面隊の精鋭が集い、国境警備の騎士団とは規模も桁違い。エジェイはロウリアが侵攻してきた場合に備えて、堅牢な軍事拠点として建設されている。そう簡単には陥落しない。クワ・トイネ公国の計算では、エジェイだけでも3か月は持ち堪えられるよう考えており、山岳地帯を横断するようにできた街道を守るようにあるエジェイは、両軍の兵站における重要拠点だった。ここを一か月で突破しなければ、延々と続く補給線によって進軍は停止。準備を整えた公国軍の反撃によって、後退を余儀なくされるだろう。
そのため、西部方面隊将軍ノウは今回のロウリアの進攻を跳ね返せると思っていた。高さ25メートルにも達する防壁はあらゆる敵の進攻を防ぎ、空からの攻撃に対しても、対空用に訓練された精鋭ワイバーンが50騎もいる。もし、ロウリアが山岳地帯を抜けて、二方面包囲をしてくるならば、騎馬による蹂躙を取るつもりで致し、兵糧はしっかりとある。まさに要塞。鉄壁の守りであるエジェイに対し、将軍は満足そうにしていた。
「ノウ将軍、ジオン公国の方々が来られました。」
政府から協力するよう言われているため協力しているが、戦馬鹿であるノウは公国指導部の及び腰に気に入らなかった。エルフの首相の悪口を堂々と言ってのける程。そして政治部会が許可したジオン公国という国家も気に入っていない。あまりにも荒唐無稽な噂が流れており、情報戦が巧みなようだと吐き捨てるように罵詈雑言を並べていたのである。
彼は所謂ドワーフという鉄鋼業や鉱物資源に関しては優秀な学者でもあるが、一番は戦である。我の剣こそ正義であるという感じで、将軍のみでありながら、低程度の国境紛争では自らが先頭に立ってロウリア兵を一刀両断したほどである。それほどまでに自尊心が高い。クワ・トイネの将兵たちも将軍の命令とあらば、命を捨てようとするだろう。人望の厚い彼は知人よりもらったドワーフの最高級の強い酒を用意し、ジオン公国の将軍を待った。
そして、将軍の執務室がノックされ、将軍は口を開く。
「どうぞ」
将軍ノウは形式上国賓であるジオンの将軍を出迎えるよう立ち上がり、彼らを迎える。
「失礼します」
一礼し、室内に入る人間が3名
「ジオン公国突撃機動軍所属、地上機動師団のノイエン・ビッター大佐です」
百戦錬磨のノウにも分る指揮官として成熟した器の大きさを瞬時に見極めた彼は以前の態度とは一転して握手をする。
「儂はクワトイネ公国西部方面師団将軍ノウという。このたびは、援軍に来ていただき、感謝の限り」
まずは社交辞令から入った。
シンプルな軍服ではあるものの、精強な顔付きや威厳のある軍服を見る限り、ジオン公国侮れないというように感じ、指揮用のテーブルにあった周辺地図を見つつ、幾らかの社交話を交えて本題に入った。
「ビッター大佐殿、ロウリア軍はギムを落とし、補給が整い次第、ここエジェイへ向かって来るでしょう。しかし、見てお解かりと思うが、エジェイは鉄壁の城塞都市、これを抜く事はいかに大軍をもってしても無理かと」
ノウは続け、周囲の地形に対して説明を行う。
「このエジェイはギムから公国中央へ続く街道が。彼らはここを突破しなければ到達は困難。両翼には山岳地帯があり、ここを奪取しなけば、騎兵隊による追撃を受け、山岳能力のない彼らは瓦解する」
「敵には山岳師団はいないので?」
「ロウリアの弱兵は平地の農耕兵……弱腰の弱兵共です。我らドワーフを小さいと馬鹿にしているが、わしらからすれば赤子のようなもの」
籠城の期間は説明しなかったが、あまり長引かせるわけにもいかないため、緒戦は打って出るようで、ワイバーンを基軸とする制空権の確保と騎馬による攪乱、そして歩兵の鍔迫り合いが主な戦闘内容となる。
ビッター大佐は分ったような、分っていないような顔をし、近くの情報将校は訳が分からないといったような有様だ。彼らの目の前にあるのは中世の地図。近代的な測量による地図ではなく、『ここはこうだったっけ?』と記憶をたどって書いたようなもの。衛星写真から書き起こした軍用地図を後で渡そうと考えるが、ノウ将軍はジオンの配置場所を伝えた。
「城塞都市エジェイの東3km先に敵が陣を敷いて待ち構えておる。その方は観戦しておいてくれればよい」
あまりにもストレートな物言いにノウの副官は驚き、一方ビッター大佐の副官はプライドを傷つけられたとばかりに憤慨する。だが、意外にも反応が無かったのはビッター大佐だった。
「成程、本国からききましたが、ノウ将軍。話と同じで豪胆ですな」
「ほう、儂の話をきいておるか」
「ええ、頑固者の偏屈おやじだと」
次は別の意味で空気が凍る。ジオンの情報将校はあまりの言いように国際問題化するのではと恐れ、一方ノウの秘書官はけろっとした感じで「今更?」と言いたげな様子だ。
いくばくか沈黙が流れる中、その沈黙を破ったのは他ならぬノウだった。
「ガッハッハッハッハ!やはり面白いのぉ!あんな鉄の棺桶のようなものを飛ばすし、青二才のボンボンはすぐ怒り出すが、いやはやジオンの指揮官はみなこうなのか?」
青二才のボンボンと呼ばれた情報将校は怒りの表情を作るが、ビッター大佐はノウ将軍を偏屈な変わり者爺であったことを身に染みて理解した。そして、彼の乗ってきたザンジバル級巡洋艦の存在を知っていたことに若干驚いていた。
「ほかの指揮官はどうか知りませんが、粒ぞろいですよ」
「成程、あの船の名前は何という?」
「ザンジバル級巡洋艦といいまして・・・・・そうそう、酒豪とお聞きしましてね。どうぞ」
大佐の手元にはサイド3にあるコロニー「ハマル」の高級ワインがあり、それを見たノウは酒に目がないのか、喜色のえみを浮かべた。
「ほう、準備がいいのう。それでジオンの部隊はどう展開する?」
「できれば我が方に先手を譲っていただきたい」
「ほう?」
所謂、一番槍。それは武闘派の指揮官や戦士にとっては誉というもの。相手も万全な状態で戦うため、非常に危険である。だが、それをやってこそ一人前の戦士である。その名誉を譲れというのは、戦士の指揮官であるノウにとって驚きだった。確かに名誉であるものの、指揮官であるノウにとって兵士の損耗は自身の手柄に直結する。兵士が減る以上、自身の影響力も国からの評価も変わるために、消耗したくないのが普通である。
「どうするつもりじゃ?」
「我々の最大火力をぶつけ、一気に殲滅します。それか敵が進軍して会敵する瞬間を狙って敵を薙ぎ払います。そして閣下には残りの敵を蹴散らしてもらいたい」
自信満々にいうビッター大佐に対し、ノウも自軍の損耗が抑えられると思い、その攻撃を許可したのであった。
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中央歴1639年4月30日 早朝
東部諸侯団及び王国陸軍から再編成された歩兵など、総勢2万の兵力がエジェイから三キロの地点に陣を張っていた。
まさに嵐の前の静けさ。この後、諸侯団と王国軍の連合部隊約二万がクワ・トイネ公国軍主力2万と死闘する。そして、中盤にはギムよりアデムの1万の兵が横槍を入れ、二方面から一気に突き崩す。アデムの部隊は騎馬を中心とした一万もの大部隊。クワ・トイネ公国軍の部隊はエジェイに逃げられずに、壊滅的打撃を受けることだろう。
諸侯団を束ねるジューンフィルア伯爵は未だ野営の焚火のしけった煙の臭いを嗅ぎつつ、従卒に甲冑を着せてもらうと、見晴らしのよいテントへと移動する。
高台に陣取る諸侯団司令部のテントからは総勢二万の軍勢が城塞都市エジェイから這い出るクワ・トイネ兵を見る。動きは流石に主力なのか、均等な装備としっかりとした練度の部隊である。伯爵と言う一人の貴族として生き残らねばならないが、同時に騎士だった若いころを思い出し、武者震いか、手が震えている。
二万と二万。亜人という存在は世間で侮るものとし、侮蔑の対象とされていたが、ジューンフィルア伯爵は逆に尊敬の念を抱いていた。農耕兵といった召集兵であろうクワ・トイネの兵はロウリア兵よりも洗練された動きをしており、国土を守るためなら死も厭わないようにも見えるのだ。
「亜人として殺すには惜しいな……」
「はい?」
従卒は突然伯爵がつぶやいたものの、あまり聞こえなかったのか聞き返してしまう。本当ならばひっぱたかれても仕方ないが、従卒もまだ若くて幼い。緊張のあまり聞いていなかったのだろう。ジューンフィルアは「なんでもない」といい、魔導士から拡声器を渡され、兵への訓示を行う。彼の声は魔導士の持つ魔導通信器に接続され、東部諸侯軍二万の兵にすべて伝わった。
「ロウリアの兵らよ、私は伯爵ジューンフィルア!君達のような勇士と戦えて光栄だ。我々の対する向こうにはクワ・トイネの主力が待っている。亜人と言って侮るな!彼らは君達と同じように訓練された強者共だ。個々に奮闘し、我らロウリアの名を大陸全土に響かせようではないか!!」
二万の兵の歓声が響き、東部諸侯団の士気は最大まで高まっていた。ある物は盾と剣を叩き合わせて音を出し、獣のように雄叫びを挙げて吠える。亜人を野蛮人というのは一部間違えている。亜人や人間は戦場においてすべてが野蛮である。そこには種族の線引きなどなく、生きるか死ぬかの戦い。
種族の絶滅を掲げるロウリアはクワ・トイネ公国以上に野蛮と言えるかもしれない。
「弓兵準備!」
敵の兵へ矢の雨を降らさんがため、数千の兵が弓を引き絞る。それが放たれれば、たちまち数百のクワ・トイネの兵が負傷して死に絶える。しかし、放たれた矢はよく訓練された盾によって防御され、数十人の負傷者のみしか出ず、第二射や第三射もそこまでの被害は出なかった。
「歩兵隊用意!」
「隊列を乱すな!長槍隊構え」
歩兵に交じっていた長槍を装備した兵士達。木の盾であれば簡単に貫けるそれらは振り下ろせば、斧の形をした刃が兵士の頭蓋を勝ち割れる。長槍には凶悪な攻撃力を秘めていた。
「長槍隊突撃!」
大地を揺るがす雄たけびがエジェイの荒野に木霊し、槍をクワ・トイネ兵に貫かんがばかりに吶喊する。そこからは血と血を洗う合戦になり、大地は血で泥濘、肉と肉がぶつかり合い、金属と金属が削りあい、そこら中が屍臭で溢れることになるだろう。
だが、その大地を揺るがしたのはそれだけではない。
まるで、何かが噴火したように土が盛り上がり、ロウリアの戦列歩兵が一気に爆散したのである。
「な、なんだこれは!?」
ジューンフィルアの叫びを打ち消すように、発砲音とほぼ同時に120㎜ライフル砲弾が命中し、榴弾の破片が歩兵を切り刻む。中には105mmの旧式ライフル砲や連邦軍から鹵獲した空対地30㎜バルカンが掃射される。それはまさに噴火。ロウリアの兵たちは知る由もないことだが、ジューンフィルアのような貴族階級なら他の大陸にある火を噴く山。それが爆発する詳細は知る由もないことだったが、彼が見たそれは噴火と形容するにふさわしい。
配下の兵や軍馬、攻城兵器が等しく破壊され、その荒野が兵たちの身体を加えて耕されているような光景である。
「こんなことが・・・・・・・こんなことがあってたまるものか!!」
敵が強くて撤退ならまだわかる。自分たちよりも優れた兵、優れた将軍であれば尚の事。しかし、どうだろう。この光景は戦争ではなく、一方的な殺戮だった。
「な・・・な・・・なんと威力の爆裂魔法!魔力投射量はどれほど?!大魔導師6000人、いや一万人でもこれは!神龍でも味方についているのか!?」
城塞都市エジェイから見物として出てきたクワ・トイネの民間人は唖然とした様子でその光景を見ていた。また、クワ・トイネの兵たちも例外ではない。槍衾と相対し、死を覚悟した矢先に目の前で死にゆくロウリア兵を見て、喜ぶという感情はないに等しい。人知を超えたものが作用しているのではと考えるのが普通だろう。
部隊の半数が消失し、唖然となる中、エジェイの両翼にある山岳には人よりも巨大な、一つ目の巨人が幾つも立ち上がり、ロウリア兵を睨んでいた。
「じ、ジオンの化け物共めぇぇ!」
その言葉を最後にジューンフィルア伯爵は一瞬の内に絶命し、ロウリア征伐軍は完全に崩壊することになる。
クワ・トイネ公国将軍ノウは眼前の戦場が全く理解できていなかった。自分が百数十年積み上げてきた戦いの記憶。それらは一切合切叩き潰され、巨人の放つ爆発魔法らしきもので全てが踏みにじられていた。ビッター大佐の要望通り先制攻撃を行わせようとしたが、ノウの部下たちの反対に遭い、止む無く「支援攻撃」という形でのみ戦闘を認めた。しかし、結果はノウやクワ・トイネの出る幕はないに等しい。
「これが・・・ジオン・・・」
同盟国のなまえを呟き、背筋に冷や汗が流れる。そしてビッター大佐から聞かされていた緑の一つ目巨人の名前を思い出した。
「・・・・・・これが、ザクか・・・・・・」
同じく戦場を部下と一緒に駆けるビッター大佐の乗るザクⅡF型。自分と彼の戦い方。ジオンとの途方な技術格差。本来喜ぶべきこの状況の中で、彼は1人敗北感と自身の老いを新たに感じていた。
だが、戦いは終わらない。
国境の街、ギムは未だに占領されたままであったからだ。