慈恩公国召喚   作:文月蛇

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ロデニウス大陸統一戦争編はそろそろ終わりになります


第十話 終結【修正済】

クワ・トイネ国境沿いにある城塞都市ギム。そこはロウリア王国陸軍の兵站拠点が設けられ、アデムによる情報統制が行われていた。海軍の上陸部隊壊滅に伴って流される噂話は彼の耳にも届き、脱走を行おうとした兵を容赦なく処刑した。明らかに過剰な刑罰であるが、ねずみ算のように指揮系統から逸脱した兵が出ることを防ぐため、恐怖によって押さえつけていた。逃亡兵の多くは『逃亡兵』『敗北主義者』『売国奴』という書かれた札を首にかけられ、吊るされる。戦線防衛にかかわらないギムの外れにある森には、無数の逃亡兵の骸が吊るされた。

 

「諸侯団に連絡はとれないのか!?」

 

 ロウリア王国陸軍クワトイネ征伐隊ギム前線基地司令部では、副将アデムが軍の通信隊を怒鳴りつける。本来であれば、諸侯団司令部から合図があって、アデムの指揮する騎馬隊がクワ・トイネの雑兵の横っ腹を殴りつける。例え、海軍の上陸部隊が作戦を失敗しようとも、公国の防衛主力を壊滅させれば、戦況は落ち着くだろう。戦場は流動しやすく、簡単に変わりやすい。一方面の敵が急に二方面の戦いに切り替われば、兵は混乱して瓦解する。ロウリア王国軍は基本的に正面攻撃を好み、騎士道精神といった物事は重要視される。ただ、アデムはこうしたものを一切重視しない。それが敵の陽動になるのなら、確実に行う。目の前で民間人を殺傷し、敵騎士団の注意を逸らす。叛意を少しでもあると判断すれば、部隊を丸ごと囮に使う。彼の行動規範は王国にとって邪道だが、天才的な戦術家だろう。陽動や欺瞞工作を巧みに扱う彼は、モラルさえあれば稀代の将軍にもなりえる。しかし、彼の暴虐で残忍な側面は諸侯たちに反感を抱かせる。しかし、失敗すれば一族徒党は皆殺しになる。もし彼が正史のように日本に出会わなかったら、ジオンと出会わなければ、ロウリアでも有数の政治家になっていたことだろう。

 

「導師から、魔通信を送っていますが、返信がありません」

 

だが、運命は彼に味方しない。

 

もし会戦が負け、司令部諸共敗走しようとも連絡するのが軍隊である。二万の兵が全く連絡をよこさないというのは、どう見てもありえない。

 

 

アデムは不安と勘が警告音を発しているが、今更それを感じるのは時すでに遅し。

 

 

「どうなっているのですかぁ!」

 

 

アデムのヒステリックな叫び声に、いつ切り刻まれるのではと、恐れる部下たちは冷や汗を掻く。既に何騎も偵察に出しているにも関わらず、全く持って返信がない。「巨人が・・・・・・」や「鉄の鳥が・・・・・」と言ったきり、音信不通になっているのだ。

 

 

「現在調査中でして・・・」

 

「具体的にどのような方法で調査しているのか!たわけがぁ!」

 

サーベルの柄を握りしめ、その報告をした従卒を袈裟斬りにし、ごみを捨てるようにその場に打ち捨てる。だが、あまりの所業に将軍も我慢できずに憤る。

 

「やめんか!わが軍の護衛はどうなっている?」

 

「ワイバーンが50騎常時直衛にあがります。また飼いならした魔獣もいますので。もちろん、命あれば、いつでも出撃いたします」

 

「50も?多くないか?」

 

「いえ、今までの軍の意味不明の消失、警戒しなければロウリアの未来に関わります。クワ・トイネ軍の反撃に備えなければ」

 

「そうか・・・。」

 

軍を引かせ、国境線まで後退するかどうか考え始めていた。これまでギムの街や村々まで攻め込んだことはあるものの、要所であるエジェイで何度か撃退されている。今回は国王がパーパルディアから大幅な譲歩と引き換えに軍事的援助を得、海軍を大幅に改造したのだ。海軍が壊滅したとの報を受ければ、現在いる部隊を国境線まで退却し、クワ・トイネの反抗作戦に対応しなければならないだろう。

 

しかし、将軍パンドールの思考は強制的に一時中断させられた。

 

上空を乱舞していたワイバーンのうち、16騎が突如として煙に包まれ、爆散。さらに8騎!見えない何かによって、細切れにされたワイバーンを竜騎士の破片が司令部宿舎に降り注いだ。

 

「なっ何だ!?何が起こったあ!」

 

パンドールはもとより、先程からヒステリーを起こしていたアデムは訳も分からず、サーベルを抜いていた。すると、風を斬るような音と共に近くの衛兵が斃れ、アデムは悲鳴を上げる。

 

「敵の侵入!隠密だ!」

 

 

そう叫ぶ衛兵は瞬く間に頭と胸へダブルタップされた銃弾がめり込み、絶命する。司令部を守る精強な騎士であり、頑丈な鎧を着ていても、亜音速の宇宙世紀のライフルには紙に等しい。暗視ゴーグルと黒い音の出ない軍用グレードのステルススーツを身にまとい、防弾ベストと手りゅう弾をぶら下げた彼らはキシリア麾下の特殊部隊であった。

 

瞬く間に衛兵は瞬殺され、あたりは静かになる。また司令部テント近くには他にも兵士が複数いるはずであった。それをかき分けてきたことにパンドールは深く感心してしまう。衛兵をすべて倒し、降伏する通信魔導士と秘書官、そしてボロ雑巾のようになったアデムを取り押さえられたパンドールは、持っていたサーベルを地面へと捨てた。

 

「征伐軍司令のパンドール将軍だ。君たちの指揮官は?」

 

「私がこの部隊の指揮官です。赤鼻と呼ばれています」

 

パンドールはよく見ると、頭と自称した男の鼻は赤く、黒く顔を塗っていても目立つ。一見してみれば奇妙な姿だった。

 

「成程、それで降伏勧告かね」

 

「その通りです、それと閣下。以前から監視していましたが、この男が近隣の村々の住民を虐殺していたので?」

 

赤鼻の質問にパンドールは頷いた。その光景を見たアデムは「この裏切者!」と叫び、聞き取れないような汚らしい罵り言葉で将軍を罵倒する。

 

 

「いつから見ていたのだ?」

 

「私は直接見てませんが、あなた方が自国領内で最後の演習をしたあたりから監視しておりました」

 

 

その言葉にパンドールは驚きを隠せなかった。さもすれば、ここまで上手くいかないのにも納得がいくというものだ。

 

 

「わかった、降伏しよう。兵たちの身柄は保証してくれないか」

 

「保証しましょう。しかし、虐殺行為を働いた兵や指揮官は引き渡してもらいます」

 

「かまわん」

 

「このくそ・・・・・・・・」

 

アデムは猿ぐつわで口をふさがれ、フガフガと言葉にならない叫び声をあげる。将軍もかれの残虐さに呆れ果てていたのだ。軍略は申し分ないが遊び半分で亜人を拷問し、訳もなく親の前で娘を陵辱させる命令を下していた。そんな光景は軍務であっても二度と見たくはなかった。

 

「彼らはどうする?」

 

「多くの犯罪者と同じです。謀反者や犯罪者の末路はどうなるか?我々の知らない深く誰にも知ることのできない深い闇の底へと落ちていくのです」

 

赤鼻の所属は突撃機動軍所属であるが、同時にキシリア機関の実働部隊の一員である。ジオンの暗部を知り尽くす特殊諜報部隊の一員である彼にとって、そうした戦争犯罪人や反逆者の末路は知り尽くしていた。殆どが闇の中に墜ちて、誰にも知られることなく朽ちるのだ。

 

 

 

中央歴1639年5月4日

 

6年もの歳月をかけロウリア王国が列強であるパーパルディア皇国の支援を受けて強大な軍事力を身に着けた。服従と言っていいほどの屈辱的なまでの条件を飲み、ようやく実現したロデニウス大陸を統一するための軍隊。錬度も列強式兵隊教育により過去最大の規模を誇っていた。数代ほど借金に塗れるが、いずれクワ・トイネとクイラを占領し、富を得るのだから返すことは可能である。それを考えれば、少し我慢すればかなりの収益になると予測していたのだ。瞬く間にクワ・トイネを滅ぼし、クイラ王国を締め上げる。圧倒的勝利で勝つはずだった。

 

だが、ジオン公国の参戦によって全てが変わってしまった。

 

ロウリアに訪れた外交官は何と、宇宙に住まう人と自称したため、相手にせず。そして、魔法を使わない人々であることを知り、門前払いをしてしまった。向こうはそれでも外交努力を続けたが、憎きクワ・トイネとクイラと国交を持ったことで、国外退去を命じてしまった。

 

 

「魔術やワイバーンを持たない未開の野蛮な国家だと思っていたのにワイバーンが全く必要の無いどころか、鉄の巨人を使役して戦わせるの超文明を持った国家ではないか!」

 

ジン・ハーク34世は打ちひしがれた。

 

膝をついた拍子に王冠が転がり、場内に響く地響きにも似た爆発音と破裂音にも似た銃声が響いている。王宮内の奥に王の間が存在するため、到着するのはまだ先だろうが、時間の問題だった。

 

 

「国のために、民のために尽力していた私が何をしたというのだ!」

 

 

ジン・ハークは咆吼し、瞳からは大粒の涙が零れ出る。自室であるため、召使いや護衛は既にいない。彼らもこの攻撃で命を落とすか、逃げているのだろう。

 

 もう、どうしようもない・・・。

 

「先王達よ、お許しください!私はこの国を守れませんでした!」

 

ロウリアという34代も続く歴史のある国家が潰えた瞬間だった。ジオンの陸戦隊が王宮の国王の私室に入った時には、即効性の毒物を飲んだ、亡きロウリア王の亡骸が残っていた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

【ズムシティ・チャンネルはこれより大本営から生中継で『ロデニウス戦争終結宣言』をお届けします!】

 

【現在、ロウリア王国首都、ジン・ハークでは第101空挺強襲師団が治安維持のため、街を巡回しており、比較的小規模ながら抵抗があったものの、ほぼすべてを手中に収めたようです】

 

【大本営は10日までにジン・ハークにおいて首相級会談を予定しており、クイラとクワ・トイネの両国首脳を含めた降伏調印がなされる模様です】

 

【7日の午前、一部抵抗を続けていたロウリア王国軍西部方面諸侯軍が全面降伏。すべての部隊は武装解除し、部隊を支えていた農耕兵といった召集兵の人々はわが軍に供給される軍用携帯食を貰い、満足そうな笑みを浮かべて帰宅の途に就きました。】

 

【本日15時に、ロウリア統治総督府からジン・ハーク王立裁判所において軍事裁判が開廷することが発表されました。主な罪状としては国家を侵略に導き、他の民族粛清と称して大量虐殺に加担したという、征伐軍副司令官アデム氏を訴えると共に、その他民族粛清に加担した軍属や資本家などに相当の判決を下すものと思われます。これに対して、セツルメント国家連合の連合議長のイヌカイ氏は『前時代におけるトーキョー裁判やニュルンベルク裁判に準じたものにすべきであるが、主導した国王が自ら崩御された今、裁くべきは戦争犯罪人のみである』と発言。政治犯として裁くのは人道に反するとして考えを発表しました】

 

 

多くの報道機関がロデニウス統一戦争やロデニウス戦争、第四次(クワ・トイネ公国発表)大陸戦争といった見出しの新聞が公王府のスクリーンに表示され、説明するギレンは勝ち誇ってはいなかった。

 

「勝ちました」

 

「対して気持ちが入っとらん」

 

とデギンからつっこみが入り、ギレンは溜息を吐いてしまう。

 

「しかし、父上。どう気持ちをいれろというのです?ここまで空しい戦争は他に前例はありません」

 

―どの口がいうのか

 

とはデギンの口からは出なかった。寸前で止めることができたものの、コロニー落しやハッテやリーアの粛清作戦「ブリティッシュ作戦」を考案した男と考えると、先のロデニウス戦争を見て空しいといえる口が本当にそこにあるのか疑わしい。

 

もしかすれば、アデムとかいう虐殺を指揮した将校と話があうのではなかろうか。デギンはふと思っていたが、この後のジオンの動きは戦争よりも大変である。

 

「ギレンよ、ここからが大変だぞ。占領政策やインフラの整備、思想改革・・・・・・・・」

 

「既に用意してあります。こちらを」

 

 

総帥府発行の占領プログラムである。なぜか地球侵攻作戦と記されているのは見なかったことにしたデギンであったが、そこに含まれていた科学技術の推進などは、あとから足したものなのだろう。

 

「すでに国土地理院の方のデータがありますが、このロウリアの東部には港や造船所に適した土地が多くあり、山岳部を抜けていけば、クイラの鉱床に近い場所があります。ここに工業地帯を建設し、この惑星の橋頭堡を築かねばなりません」

 

「一つ聞くが、ギレン・・・・・・・・お主はこの惑星で何を為すつもりだ?」

 

デギンの前から考えていた疑問。それはギレンがこの世界で何を為すか。未だにジオニズムに心酔し、スぺースノイドが地球を統治すべきという考えを持っていれば、これまで以上の戦乱を引き起こすことになろう。

 

ギレンはデギンの危機感を他所に語り始めていた。

 

「人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させて半世紀、あの腐敗した地球連邦は崩壊しつつある地球環境を野放しにし、あまつさえ…………」

 

 

「30字以内にまとめんか!この馬鹿たれ」

 

「・・・・・・・・」

 

演説ぐせがついていたギレンであり、そんなことは分っているデギンである。長男がこんな有様で溜息をつくデギンであるが、そのまま短くしたバージョンで語りだす。

 

「この惑星の近くに来た以上、関わらないのは政治的にもあの惑星に住む彼らにとってもいい事ではありません。今後、あの星は文明が進むにつれて地球のように汚染されていきます」

 

「して、どうするつもりか」

 

「出来る限り、我々がコントロールすれば問題ありません」

 

 

「戦争か」

 

 

文明が進んでいれば、他を吸収し肥大化する。地球もこの星の歴史も同じことが繰り返されてきた。コントロールするということは血を流して、自分たちを同化するか、異なる物を撃滅しない限り肥大化しない。詰まる所、戦争しかないのだろう。

 

しかし、デギンの予想を良い形で裏切った。

 

 

「いえ、確かに戦争といえば戦争ですが、侵略ではなく経済や文化面でどうかしてもらいます」

 

 

いずれにしても、ジオンと同規模の科学技術を持つ国家は存在しない。そのため、戦争して一気に更地にすることなど容易い。コロニーを落としたっていいのだ。だが、大規模な戦闘を行えば行うほど血が多く流れ、その後に禍根を残すことになる。戦争に至るまでに様々な方法で同化が進めば、戦争という形でなくとも、国盗りは可能である。それが親ジオン政権の樹立や併合など、既にジオンと同規模かつ同じ文明であれば、セツルメント国家連合といったジオンびいきの国際機関を結成することもやぶさかではない。

 

決して地球連邦政府のような腐敗した組織にならぬよう、余計な脂肪や腐ったところは出さない。ギレンは大きく方針を転換して総帥としての任に当たっていたのである。

 

―そして、ジオンが関わったことで運命は大きく交差する。

 

 

廃案

 

「おまえは中世の・・・・・・・・」

 

 

「なんですかな?」

 

 

「チャップリン」

 

 

「喜劇王か!」

 

 

 

 

 

 




コロニーの内情編やジオン国内編、MS開発事情など書いていきます。

またお会いできるのを楽しみにしております!

ジーク・ジオン!

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