お久しぶりでございます。久々の投稿です。安定するのはもう少し先ですが、パーパルティア皇国編に入ります。
今日明日に二話投稿します。
今回は完全に閑話ですが、楽しんでいただけたらと思います。
第十三話 閑話 各々の憂鬱
「ふむ~・・・・・・・・・」
其処はズムシティの総帥府の総帥執務室。幾重にも張られたセキュリティーはギレンの用心深さを物語り、周囲の壁に飾られていた絵画や飾られた公王の肖像画の他、マ・クベの寄贈した正真正銘の中国王朝の壺など、随所にわたって金が掛けられている。
そんな執務室において、主であるギレンは短いながらも溜息を溢す。
私生活において、防諜をしっかりと行い、愛人関係である秘書のセシリア・アイリーンや本妻との関係は良好である。歴史上、愛人関係や家族関係がボロボロな指導者は数知れず。だがギレンは後継者問題をも視野に入れ、プライベートの情報は外に漏れたことがない。ジオン国内ではその熱狂的な支持とは別に、都市伝説とも言える『ギレンの息子』という話が出ている。公表されているのは、ドズル・ザビの娘であるミネバぐらいであり、政治指導者の子息の情報が全く出回ってないことを不審に思った民衆が都市伝説としているに過ぎない。
そうしたことを問題視しているわけではない。
ただ、ギレンが溜息をつくほどに面倒な事案が一つ。
反ジオン組織『ティターンズ』についてである。
レビルの宣言により、より一層ザビ家の独裁に反発した連邦系コロニー政府はジオンと袂を分つまではしなかったが、『抗えば滅ぼされる』というレビルのセリフに対して、事実確認の催促が既にコロニー政府高官から駐在ジオン大使へ連絡が取られていたほどである。
既に、ジオン大本営や国家情報保安部、民間諜報機関「キシリア機関」など、正規や不正規に問わず連携を密にしており、以前とは違った派閥争いのない協力関係が出来ていた。
キシリア・ザビとギレン・ザビの表向きは共同歩調を取っていたが、キシリア自身がギレンに対して政敵として振る舞っていたために、ギレンの息が掛かった国の諜報機関とキシリア子飼いであるキシリア機関は仲が悪く、戦争勃発までは水面下で対立していたのである。
だが、幸か不幸か地球がなくなったことによって、キシリアの態度が軟化。これにより、対立していた双方が和解。両者のいざこざが幾分か抑えられるに至った。
ただし、これを良く思わないのが、ザビ家に対して敵対姿勢を強めるダイクン派である。戦争直前に反政府活動を行っていたダイクン派は表立った活動を控えて地下に潜伏。表向きダイクン派として目されたアンリ・シュレッサー大佐は准将に昇格し、ズムシティ首都防衛大隊と防衛師団司令部を総括する司令官へと異例の昇格を果たす。ダイクン派閥でも穏健な部類は彼の元に集まったが、ギレンにとってみれば自由に動かれては監視しにくい政敵が、纏まっていた方が監視する事や消すことが容易くなる。
だが、レビルの演説によって地下に潜伏していた過激ダイクン派が活動を開始し、既に検挙した者も多く、それらは連邦系企業の重役やジオン内部の政権に与していた閣僚であったりと、ギレンは内心頭を抱えていたのである。
「兄上、将棋や囲碁は続けているのですね」
「キシリアか、…頭の体操には丁度良いのだ。ネットで民衆とやるのも中々楽しい」
「最近は落ち着いていますからね」
キシリアはゲームソフトのラベルを確認して、ギレンの好みを知る。ブランドものが多いものの、復刻版や中小企業が手掛けたソフトも見られ、フラナガン機関に使えそうなソフトも見繕うことが出来た。そして何より…
―だ、脱衣麻雀だと…
明らかに二次元美少女系のゲームソフトである。企業はかの日系のソフトであり、そういう部類のジャンルでは最先鋒をいっている。キシリアが見たのは健全な水着少女の出てくる全年齢板であった。だが、そのパッケージの後ろに更に奥の方には「 」のマークが垣間見、キシリアはそれを見ることなく棚にしまう。
「キシリア、クワ・トイネの貿易書類だがっ!?」
「っ!?なんでしょっ!兄上!」
まさか、成人してから兄のエロゲーを見つけるとは思わず、キシリアは返事を噛み、ギレンもギレンで自分の秘蔵コレクションをカモフラージュしていた棚の中身が微妙にずれているのを見る。
―見つかった……
その心境は母親にエロ本を見つかった中学生に近い。いや、歳の離れた妹に知られる方が辛い。母親ならその知識はあろうが、妹にそれはない。あったとしても、親よりも微妙な空気になるほかなく、成人に達し、政治家となった二人がその状況になったらどうだろう?
間違いなく、微妙な空気になるに違いない。
「……」
沈黙が執務室を満たし、ギレンとキシリアの微妙な空気が流れている。ギレンは日系のアニメ(脱衣チェス系の全年齢向けアニメ)に出てくる妹系ツンデレキャラの反応とちがうことに驚きつつも、IQ180という超高速回転する頭脳によって分析を始める。
―あ、アニメの妹ツンデレキャラはもっとこう、『お兄ちゃんのエッチ!』なんていうが、こいつは違うじゃないか!……いや、そもそも現実には……
妻帯者の考える思考とは思えなかったが、誰も彼がこんな思考を抱くなど思わない。あんなボンキュッボンの秘書の愛人がいるのに……というやっかみすら衛兵の間で出ているにも関わらず、ギレンのもったいない天才的頭脳は現状を打破する方法を見つけられず、その空気は刻一刻と悪くなるばかり。
ギレンは『見たのか?』と口から出そうとしたその時、突如として巨大スクリーンの画面に弟の姿が映りこむ。
「兄貴ぃ!……二人してどうしたんだ?」
頭を抱えるギレンとフェイスマスクを頭まで引っ張るキシリアの様子は、筋肉ゴリラのドズルからしてみれば、一体何事かと思う。ただ、以前までの仲の悪すぎる二人が仲の良い様子を見て、ドズルはその剛顔に似合わない微笑みを浮かべる。
ただ、その顔はどう見ても威嚇するゴリラの顔。妻のゼナならば、家族のことで笑っているだろうと理解できるはずだ。娘のミネバなら見て大泣きするだろう。
ドズルの表情や仕草は感情の起伏に疎い二人には威嚇にしか見えない。
「謀反か!?」
「まさか、ドズル!ソロモンの宇宙攻撃軍の兵を!」
「何を勘違いしている!?そんなのではない!」
まさか
「失礼します、兄上。惑星派遣部隊の最終計画書を……」
歩けば花が咲き、乙女たちはその動きに目を奪われる。将兵たちは士気上昇して一騎当千の働きをする。正に美少年!神が選んだザビ家の次期当主のガルマ・ザビだった。そんな彼であったが、心もとない時は前髪を弄る癖がある。ともあれ、それが乙女の母性をくすぐる原因となる。一部の男子はそんな彼に嫉妬するが、彼の高潔な精神と部下に対する姿勢から、直ぐに嫉妬から尊敬の念へと変わるのだ。
そして彼には夢がある。
ザビ家の皆が楽しく家族団欒することである。
一人はソロモンから画面を通じているものの、今は亡きサスロと養生中の父を除けば、ここにはザビ家のブレーンが集まっていた。
そんなわいわいがやがやしている場所を見たものだから、ガルマは思う。
「わ~い、お兄ちゃん!!!」
「おにいちゃんだとぅ!!」
その日、執務室で叫び声と雄たけび、そしてこどもの声が聞こえたという。それは統帥府の怪として語り継がれることになる。
「よし、仕切り直しだ。まずはドズルだ」
「おう兄貴」
一通り落ち着いたザビ家一同は何時も家族団欒の時に使うリビングに集まった。また、その騒動を聞いた公王デギンも来室した。加えて、総帥と議会の橋渡し存在であるダルシア・バハロは目の前で起こる内紛騒ぎから胃を抑えて顔面蒼白になっていたが、長い付き合いのあるデギンは笑っていたという。成人しても自身の子供。ニュータイプでなくとも、自身の子供の様子は読める。
「連邦……いやティターンズか?奴ら、威勢はよかったが、その割に戦線は普通。これと言って目立った報告はない。それよりもムーンⅡの艦隊からの報告は例の磁気嵐によって通信が不能になっている。詳しいことは分らんが、天体物理学の権威の話によると、以前の太陽系とは違う様子らしい。第四惑星のマーズⅡはヘリウム3が大量に眠っている。木星船団のようなことにはならずに済みそうだ」
連邦軍残党改めティターンズとなった彼ら。レビルの演説によってジオンと安保条約を結ぶコロニーから脱出した連邦支持者がサイド7に集結。加えて、ティアンム中将の艦隊など残存艦隊の生き残りもティターンズに合流した。資源に関しても、小惑星暗礁宙域などから岩石を持ってきてはサイド7周辺やルナⅡに配置しており、ジオンに対する備えを準備している段階なのだろう。ギレンとしては、ジオン公国建国時にダイクン派の勢力を纏めて粛清したこともあるが、今回ティターンズへ核弾頭を撃ちまくればいいというわけにもいかない。
中にはサイド7の民間人もいるはずであり、これから流入する移住者もあることから、これは独立のための戦争ではなく、民主主義的連邦国家体制か社会国家主義的なザビ家の専制政治かのイデオロギー戦争に切り替わっていた。
スペースノイドの独立を掲げたジオンに対して、連邦のティターンズはジオンの専制独裁政治の打倒とスペースノイドの民主主義を目指して戦う。どちらも掲げているのは虚構であり、ティターンズの掲げる民主主義もジオンの独裁を客観的に見ているからに過ぎない。
旧世界において、自身の主張や宗教、経済が正義として戦っていた。それは宇宙世紀になっても同じであり、ジオンの独裁を否としてレビルは否定するが、当のジオン国民はそうではない。アースノイドは地球という安穏とした環境に身を置いている者を金持ち連中と蔑み、全く仲間とみなしていない。 連邦寄りのコロニーは多少事情が違うとしても、比較的裕福であることに変わりなく、ひどい搾取をする連邦にすり寄っていた奴らとみなされている。 どちらの言葉も両者に差別され搾取されていたと考えるジオン国民はほぼ眉につばして聞くのが通常なのだ。
ジオンよりのスペースノイドやサイド3の人々にとってはコロニーの自治権確立のための戦いという大義は共通して抱いている。ジオンの独善的なやり方に不満や不安を抱く者も多いかもしれないが、その鬱憤や憎悪を解消するには、より強大で邪悪な物に頼らざるを得ない時がある。その憎悪の源は地球から遠く離れた宇宙都市への棄民政策同然の入植計画の強行。そして、自治権拡大の阻止のために行った経済制裁の恨み。それらによって自分たち自身が傷つかないようにするためならば、共通の敵に怒りをぶつけて一時不満や不安を先送りしようという邪悪である。
コロニーは環境の整った空調の効くものであったが、壁を隔てた宇宙空間では生き残ることはできない。そして最下層の人間は在りもしない『空気税』を取り立てられ、食うや食わずの生活を行っていた暗礁宙域の採掘労働者や企業体の支持があった。コロニーを建設し、私腹を肥やすコロニー公社の役人に搾取され、暗礁宙域から持ってきた資源小惑星からヘリウム3や鉱物を採取する労働者は私利私欲から架空の税金を課され、それが払えず餓死ではなく窒息死する人間も少なくない。ムンゾ自治共和国建国後にそうしたものは是正されたが、未だにサイド3や資源小惑星の人々からは忘れられない痛みとして記憶されている。
物語では簡潔にするために勧善懲悪の話は数知れず。だが、現実はそんな簡単ではない。物事は多角的であり、一面だけで物事を見ることはあってはならない。
「ムーンⅡと交信できるようになるまでどの程度必要だ?」
「最短で5日。最長一か月程掛かるだろう。それに、太陽フレアも出てきている。合わさる可能性もあると観測部隊はいっていた」
ミノフスキー粒子下での通信技術を向上させたジオンはレーダー通信や各衛星や中継基地を通して連絡を取る。だが、それは磁気嵐や太陽風などの環境に影響しやすく、木星船団や火星植民地との通信は難しい。一年に数度しかできず、大規模な
「ふむ、ドズル。ソロモンと駐留部隊とア・バオア・クーの防衛艦隊を抽出して、ムーンⅡの後詰めとして配置しろ。」
「了解した、あに……いや総帥閣下……」
「ドズル、兄貴でいい。お前がかたっ苦しく呼ぶとムず痒い」
次にマスクを脱いでいたキシリアは惑星派遣部隊の話をしていく。
「一先ず、ロデニウス大陸は平定しました。ロウリアはマ・クベが。クワ・トイネとクイラについては自国で発展してもらうように致しました。目下の問題であった技術供与の件については、文化人類学者や歴史学者などの有識者グループを結成し、適度な技術供与と文化や文明の底上げをする予定です。現在の目標は西暦でいうと1940年代、クイラは中東の文化に似ていて、一方クワ・トイネはギリシャ風の文化様式です。両国と類似する文化を研究するチームを組織し、技術・文化両面から発展させる予定です」
「資源回収については?」
「持ち出せるものは……」
キシリアは途中で言葉が詰まる。
「どうした?」
「いえ、それが言った方が早いので、待たせている御仁が。」
キシリアは後ろにいた衛兵に合図を出し、扉が開かれると、デギンと同じぐらいの年齢の男性とガルマよりも年上でキシリアよりも年下位。無精ひげの男性が現れる。
「私はウォルター・ビショップです、いやはやザビ家の皆様に会えるとは光栄です。私も若いころは政治家に憧れて……」
「落ち着け、ウォルター。すみません、父は長い間病院に入院していて、情緒不安定なんですよ」
そんな人物が役に立つのかと、皆の口から出かかるが、キシリアは彼らの経歴を知っており、半信半疑な周囲の気持ちを代弁するように説明する。
「彼はムンゾ国立大で教鞭をとっていた。ハーバード大学大学院の博士号を5つ取得している。専門は
「フリンジってエセ科学じゃなかったですか?姉上、確か超科学的な……」
「超能力や発火能力、現在の科学技術では解明できないものについての科学的追求に長けている。私が知っている科学者でこの分野に優れている科学者は彼以外にいない」
―確かに、少し変わっている老人にしか見えないがな
と言ってしまうあたり、キシリアもそう思っている。既にガルマに「チュッ〇チャプス食べるかい?おいしいよ。実はこれはアメリカの……」「え、ええぇ……」と引かれているあたり、客観的に変人にしか見えない。
「キシリア閣下の言う通り。私は連邦で極秘研究を幾つも行っていた。もう10年も前だが……入院させられた理由はダイクン派と言われて……」
「ウォルター!それは言うなって…………父はジンバ・ラル氏の依頼でダイクン氏の司法解剖を依頼された同時期に事故を起こして……」
「キシリアよ、この御仁は大丈夫か?」
それは現体制の転覆を目論むダイクン派に近しいビショップ博士がジオン首脳部の集まる会議にいていいのかという事とザビ家の暗殺をもくろんでいた場合、不用心ではないかという質問であった。ギレンは今回の会議に有識者として二人ほど呼んでいるとメールに書いていたが、仮にもダイクンを殺した謀反人たちを目の前にしてこの振る舞い。
ギレンは不快感を抱いていたのだ。だが、その本人により疑念は払しょくされることになる。
「総帥閣下、私は科学者です。ダイクン氏の死に関しまして、私は一切知りようがありません。それに息子が言ったように、助手を死なせた。そのため、私はマハル精神病院に入ったのです。ザビ家の皆々様を害するつもりはありません」
「父はダイクン氏の司法解剖をラル氏から依頼されたに過ぎません。入院した原因は先の事故が原因です。父はその……入院期間が長かったのでおかしく……」
「十年もあの病院にいておかしくならないわけがないだろう!……それで説明してよろしいか?」
ギレンは天才である。故に狂ってしまった
「構わん……続けろ」
「いえいえ……このスクリーンを使っても?」
「兄貴、本当にこいつに任せていいのか?」
「ああ、お前も聞きたいだろうが、あとで資料を渡す。」
「わかった、こっちは配置につくよう準備する。」
ドズルの心配について理解するギレンは早々に説明を切り上げてもらおうと、指示をだす。キシリアの要請によってこの場を設けたのであり、国に利するものでなければ、グラナダの兵を地上に送ろうとギレンは考えていた。
「始めたまえ」
「ええ、まずは……」
スクリーンに映ったのは何かが堕ちたと思われるクレーターの写真。木が焼け焦げていることから、核攻撃ではないだろう。核攻撃なら衝撃波によって脆弱な木々は炭になって粉々になるか、衝撃で折れてしまって倒木になるであろう。だが、焼け焦げているが、衝撃でも木の形を保つそれは、核攻撃よりも威力の小さいものであると予測できよう。
「これは、西暦1908年6月30日頃、ロシア帝国領中央シベリア、ツングースカの隕石衝突現場。現場では地球では少ない微量のイリジウムが検出されたと公表された。地球連邦の公式見解はまぁ、嘘偽りが多いものの、原因は現地のガス噴出地帯を直撃したためとされ、キノコ雲が現れた」
「これがどういった関係を?」
ガルマは多少の知識があるものの、隕石が落ちた話などTVのドキュメンタリー番組でも見たことがない。彼は首を傾げるものの、それを見たビショップ博士は「いい質問だ」と得意げに語りだす。
「確かに連邦政府の公式見解を照らし合わせればそうだ。しかし私はU.C.0057において、ベガスのエリア51に保管されていた隕石の分析を依頼された」
「アメリカのネバダ州にある極秘試験場の名前です。
「ホラ話なんかじゃない……あれは素晴らしいぞ!グレイ宇宙人は何と膀胱が三つ……」
「要件を話したまえ、博士!無駄話を聞いている場合じゃない。簡潔に頼む」
ギレンはしびれを切らして苛立ったように話す。博士は「失礼、これを」と脱線した説明を再開した。
「このツングースカ隕石の公式発表では、小型隕石のエアバースト。衝撃による広範囲破壊と出ている。隕石は弾着と共に粉々になったと発表した。……だが、実際はロシア帝国によって秘匿され、ソ連崩壊後は合衆国に引き渡され、継承された地球連邦が管理していた。これがその隕石」
スクリーンに映されたのは、人為的に作られたと思しき素材とその形。言わば、核弾頭のような形の物体である。核弾頭は球体の核物質を爆薬による爆縮によって核分裂が起き、人工の太陽を作り出すような莫大なエネルギーを発生させる。
だが、それは何らかの鉱石と何らかの呪文が刻まれた鉱石を周囲に埋め込こまれていた。損傷具合から、不発に終わった弾頭の一部と思われたが、ロシアやアメリカ、そして地球連邦の科学者でさえ、それが何なのか分らなかったようだ。
「当時、このような文字を記した文明は存在しなかった。何らかの数式か化学式の一部であることは推測できたが、何らかのエネルギー体としか判明できなかった。そして、何かが作用して錆びずに数百年もその存在は落ちてきたその日の状態を維持していた」
地球の鉱物で作られた金属や化合物などは風化する。原子の半減期が途方もない物質もあるとはいえ、多くの物質は酸化や風化と共に腐食していき、ボロボロになるのである。だが、写真を見た限り、そのような状態ではなく、ロシア帝国時代の黒写真やソ連の秘匿研究所のカラー写真、アメリカ合衆国のNASAと国土安全保障省の連合調査。そして地球連邦軍主導の秘密プロジェクト『コバルト計画』などの新時代の兵器システムの研究において、これらの未知の物体の調査が行われたが、その形状は落ちてきた当時と変わらない造形を保つ。
「そして現在だが、これらの文字列がある旧文明の遺跡から発掘された。クイラの鉱物資源採掘場において、似た文字列を含んだ工作機械を発見した。言わば、これは動力部分に使われた動力源の画像。見たまえ」
それはどうみても、二足歩行作業機械にしか見えず、形状はまるでYMS-01に近い形状。作業機械のモビルワーカーに近い形状をしているではないか。
「まさか、ロデニウスで出てきたものとはこれか?」
ギレンは目を丸くし、MSのと似た兵器思想をもつ国があることを知って唖然とする。その他の面々もロデニウス大陸の人々の文化レベルがそこまでのものとは見えなかったため、驚愕といった表情をしていた。
「ええ、他にも何らかの兵器。戦車にも似た形状の遺物が発掘できていますが、どれも錆び付いていていて回収された物はどれも使えないものばかり。写真のこれはラボで分析したいのですが……」
「ああ、手配しよう。……総帥、彼らをガルマの部隊に加えても?」
ガルマ・ザビはこの後、マ・クベ中将指揮の元、惑星派遣部隊の実働指揮官としての任に突く。確実に今後、他の国家が戦争を開始するのは避けられないことは誰の目が見ても明らかだった。ザビ家やその他面々はガルマが戦場に行くことに対して反対していたが、ガルマ本人は寧ろ果敢に行こうとしていた。
―私はザビ家の男です。親の七光りなんて御免です!私が戦場で戦わずして誰が戦うのです?
ザビ家の殆どは成人し、要職に就いている。ガルマのみ、佐官クラスの将校である。安穏とした銃後に隠れているようでは士気に関わりかねない。また、ドズルと歳が近いために、その見た目に反して血気盛んである。
とはいえ、暁の蜂起事件以降のガルマの人気はギレンをも凌ぐ勢いである。ギレンとしては、ジオンの国威発揚の意味も込めて、末っ子を戦場に狩り出さねばならないと判断する。
そして、ビショップ博士主導の惑星技術調査チーム『フリンジチーム』はガルマの所属にした方が、社会勉強になるとギレンは踏んでいた。また、惑星派遣部隊の多くはキシリアの子飼いの部下が占めており、総帥の息が掛かった親衛隊もある他、何かあった場合の火消しには困らなかった。
「では、ガルマに技術調査チームを率いてもらおう。博士、調査場所として何処に行く?」
ギレンは今後の外交使節の第二陣に向けて準備している最中である。主要国への政治的パフォーマンスも含めた今回の出陣は旧ロウリアに建造された魔導アンテナ装置によって全世界の魔導テレビ通信によって、各軌道上の魔導装置を中継して放送される。機械文明の発達していない魔導文明の世界でも通じるようにしたそれらは、ギレンの情報政策の一環だった。
それを知ってか知らずか、現行の科学技術の更に上を行く研究を行っているビショップ博士は他の研究チームとはまた違った角度から調査する。それは現行の魔法文明ではなく、この世界をかつて支配していたという、「古の魔法帝国」は現時点でジオンの仮想敵国である。それを継承したと思しき、神聖ミリシアル帝国などを警戒しているギレンは戦禍拡大を避けるため、情報収集を行おうとしていたのだ。
そのため、調査する場所は様々。
「そうですな、まずはクワ・トイネのリーン・ノウの森ですな。あの場所はエルフ族によって神聖化されている……、以前ムンゾのコミコン(コミケ)で美しいエルフのコス……」
「ウォルター!他にもあるだろう!」
何らかのわけがあるらしく、父親の名前を呼ぶ息子ピーターは書類を無理やり見せる。
「あ、ああ!そうそう、この場所も!」
ビショップ博士は指摘された場所を演劇の役者のような振付をしつつ、語りだす。
「アルタラス王国のシルウトラス鉱山地帯!あの場所に魔帝と呼ばれる古代文明の遺跡があることが分っています!」
中央暦1639
ジオン公国はロデニウス大陸以外の各文明圏国家への外交使節の派遣を決定。各文明圏への情報発信とロウリアに建設された超大型魔導波塔『ロウリアン・タワー』によって多くのラジオのような音声信号や映像に至る魔導波を送り、ジオン公国の情報を広めることとなる。
また、ガルマ・ザビ麾下の惑星降下部隊がロウリアのジン・ハーク軍令部に配備される。同月中旬には、ミノフスキークラフトを装備したザンジバル級改を主軸とした緊急展開部隊を結成すると共に、ジオン公国のテクノロジーに匹敵する可能性が高い魔法文明を調査すべく、様々な研究チームが発足する。その中には、かつて連邦の極秘研究を行う研究者やジオン屈指の頭脳を誇る教授たち、フラナガン機関の薄気味悪い科学者も含まれていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「はぁ~……」
「どうかされました?」
クワ・トイネ公国の首都、クワ・トイネ。その歴史は長く、食糧自給率の高い国家であるため、農作物集積地や交易中継所として栄えた其処は様々な作物が取引されていた。現在は老朽化やマイハークなどの成長を遂げた交易都市に貿易機能を移設。古都としても知られる首都は、多くの連邦系企業の建設会社が高層ビルを建設し、旧作物市場の取引所や倉庫などは、今や建設ラッシュとなっていた。
そして、国家の舵取りを任される首相カナタの椅子や机もコロニー国家から輸入したマホガニー製の高級机である。机の上にはジオン公国から輸入したコンピューターや電子紙を使用した書類など、ちょっと前までは考えられない。
新たに作られた行政特区には、新首相官邸を建設中であり、現在使用される首相官邸は歴史博物館として利用される予定であった。あまりにも性急な変わりように首相カナタはエルフであるにも関わらず、白髪や皺がこの半年で増えたのではと思える。
現に液晶に移る自分の顔が前と比べても、老けて見えるようで溜息を吐いてしまったのだ。
「いや、なんだ……最近疲れたなと」
「……まぁ、あの光景をみれば……」
女性秘書官は視線を泳がす。彼女は逆にジオンや他のコロニーの美容液や化粧によって見違える程綺麗になっている。前から容姿端麗で頭脳明晰な者が首相秘書官に任命されるが、彼女はコロニーへ視察に行ってから、首相と反比例して美しくなっている。
とはいえ、彼女もあの光景を見て、最初は寝込むレベルの驚きであった。
「あとは、友邦のクイラが我が方を圧倒するなんて誰も思わんよ……」
クワ・トイネ公国は農業生産が他国と比べても、段違いである。そのため、餓死者は全くなく、食に関しての心配はない。肥沃過ぎる大地を持っており、大地の神に祝福されたことから、飢饉などは発生したことはない。また、片田舎に行けば貨幣経済が浸透しておらず、悲しいことに物々交換を行っている所も少なくない。唯一、食品加工業が発達しており、緊張の続いたロウリア王国との冷戦期においては、一種の高級嗜好品として嗜まれていた。また、文明圏外に売り込む場合も「クワ・トイネ産エール」「クワ・トイネ産チーズ」「クワ・トイネ産加工食品」などが出回っている。外貨取得のために多くの交易ルートを持っているが、その肥沃な大地故にその他の産業が発達しないという欠点があった。
一方、隣国のクイラは荒野や砂漠が多く、日々の糧を得るのがやっとといった状況。精強なクイラ山岳兵やラクダを使用した騎兵など、経済資本が傭兵派遣という、中世のスイスの如き貧困国である。少しだけ、魔石が産出できるが、過酷な環境下では難しい。しかし、そんな中で救世主が現れることになる。
ジオン公国だった。
ジオン公国の技術者曰く「地球が無くともクイラがあればなんとかなる」「ジオンはあと10年……いや百……いや1000年王国も夢じゃない!」など言っており、その埋蔵量はジオンの創造の斜め上を行っていた。そのため、ジオンは鉱物資源の輸出を条件に技術開示や軍事援助などを行い、クワ・トイネ以上の発展を遂げた。コロニーの歴史好きな人からすれば、サウジアラビアなどの石油産出国のようと考えるだろう。
とはいえ、クワ・トイネも発展したが、クイラの発展した様は目を見張るものがあった。相互協力関係によって友邦であるが、どちらか一方が裕福になると、手のひらを返したように、態度が一変する。
こちらは食糧、あちらは少量の鉱物資源と傭兵。仮想敵国であったロウリアを失ったことにより、『昨日の味方は今日の敵』とあるように、クワ・トイネとクイラは自然と距離を取った。小康状態が続いているのは、ジオンという強大な国力をもつものがいるからだ。公国軍も王国軍も対隣国の作戦計画を練っていると情報が来ているため、カナタは頭を抱えていた。軍の血気盛んな者達は新しい玩具を手にして、遊びたい子供のような状態になっている。内需を整え、軍備の中心を陸軍から海軍へとシフトする必要があるのに対し、ロウリアと戦えなかった将兵は振り下ろせなかった拳を振り下ろしたくてうずうずしている状態だ。
それは軍人以外の民間人「隣の芝生は青く見える」状態の経済界や数年後に設置される国民議会の準備機関である『枢密院』の枢密院議員や政権内部にもクイラに対して、食糧を制限するようにすべき論調もあって、首相カナタの胃はジオン印の薬がないと、穴が空きそうなのである。
「豊かになりたいとは願ったが、仕事が多すぎる」
「首相の務めですよ」
「ミレイよ、私の代わりにやるか?」
「嫌です。出来れば枢密院の推薦が欲しいです」
首相秘書官としての野心があるのか、躊躇う様子もなく枢密院の推薦を求める彼女。もし、本当に首相を志すのであれば、ただなりたいと願うより、外堀を埋めるために枢密院へ手回しをする必要がある。そんな彼女にカナタは苦笑しながらも、目の前にある書類の山を片付けていく。
首相の残業はまた増えていく。
文明開化の最中にあるクワ・トイネの中心は、まだまだ休まない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「はぁ~…どうなってんだこれ」
埃が溜まっているオフィスに溜め息が響き渡る。先のクワ・トイネの首相執務室に響くような声ではない。喜々としたものではなく、理解できない問題に頭を悩ませる学生のような溜め息であるそれは、人知れず響き渡った。その部屋の肩書きは「天文兵器準備室」。所謂、衛星軌道上における兵器研究であった。グラ・バルガス帝国の技術力は他の追随を許さないほど洗練されているが、それ以上の技術発展を求めている。帝国の渇望する技術の飽くなき求めに応じ、多くの科学者は様々な最先端技術の開発に入っていた。
「一体、数百年・数千年前の文明に劣っているなどあってはならないことだぞ」
彼のような天文学者は情報部からもたらされた報告書に驚愕していた。それは魔帝の誇る僕の星と呼ばれる惑星軌道上に設置する監視衛星の話である。
各占領地域で調査された文化や歴史・伝承に記された転移に纏わるフィールドワーク。それによって明らかになったのはグラ・バルガス帝国の他にも、転移によって大小様々な国家が転移していることが分かり、現在世界2位とされるムーは二千年前に転移してきたと称していた。その原因として魔帝国と呼ばれる古代の超大国が超科学的な方法を用いて時空や物理的事象をねじ曲げ、隕石などの国家的被害を免れたと推測された。だが、その影響により、時空の歪みや転移に巻き込まれる国家が現れた。国家の他、物や人など、『神隠し』『人体消失』といった事象として、様々な事件が引き起こされたのである。そして、その事象はグラ・バルガス帝国が現れた頃から度々起きるようになっている。
「魔物や害虫の大量発生にペストや出血熱の蔓延。……終いには天文学上あり得ない爆発と巨大な物体の計測……全く持ってわからない」
天文兵器準備室の室長ケイブラー教授は頭を抱える。天文学を研究して幾十年の彼だが、他国の書物をグラ・バルガス帝国で使われる公用語に翻訳された文書を読み取り、グラ・バルガス帝国が転移した時期と数百年前の詳細な歴史書を読み解いていくと、明らかに特異事件はここ数十年増加している。専門外であるケイブラーもその異常事態に気づいている。それこそ、歴史を紐解く研究員を擁する大国であれば、警告してしかるべき。彼もまた天文学的異常事態と『ジオン公国』の放送から、彼の国が宇宙的国家であることに疑いようはない。
既に、グラ・バルガス帝国領内にあるラジオ放送。それらの電波塔や各軍用無線など様々な周波数帯域に流されたジオン公国の公共放送。それらはあまりにも出力が大きすぎるために、公共の電波放送が一時中断され、急遽別の周波数帯域を確立させたほどである。それらの放送された内容はあまりにも荒唐無稽な内容であるため、帝国領内では聴くことはできない。聞けば、スパイ容疑が掛けられるなどの措置が取られるほどである。
しかし、高等教育を受けた知識人やケイブラーのような研究者からすれば、火消しに躍起になる帝国指導部の焦りは、自分達より強い国家が現れたと証明しているに等しい。
既に、ジオン公国と戦争状態にある地球連邦のレビル将軍の演説によって、市井に憶測が飛び交っていた。それは地球連邦という惑星国家がかつてこの地に君臨しており、ジオンは宇宙に棄民した人類である。または帝国と同じく転移した国家であり、その規模は宇宙的なものであるとさえ言われている程だ。
どれも、ジオンと地球連邦双方の主張や発言を元に憶測が作られているが、ケイブラーの計測した天文学データはそれが事実であることを示している。既にグラ・バルガス帝国領土内からでも月より小さいが、星より大きいものが夜空を通っていることは分っているし、軌道から判断しても月の周囲や月軌道上にジオンや地球連邦の何かが居るのが分っている。すでに彼はその観測結果を報告しているが、思った以上に政府の反応は弱かった。
そもそも、宇宙観測技術は昔から存在するものの、近年になって論文で発表された電子を用いた天文観測器の存在や大型の天文測定器具などが考案されたのは、百年以内に起きたことである。グラ・バルガス帝国は転移前の国際事情の悪化により、多くの兵器が作られていたが、天文学的研究に割かれた予算はあまりにも少ない。それこそ、平和であれば、何十年もの空白を埋められるであろう研究が国家の無関心により、進んでいないのが現状である。
やっとのことで予算が割り当てられ「天文兵器準備室」なる物が作られたものの、その予算も少なく、研究者も少ないときている。明らかに上層部はジオンや連邦といった存在を過小評価しているとしか思えず、ケイブラーは机の引き出しに入っているブランデーを飲もうかと手を伸ばす。
「ケイブラー教授……ってまた酒ですか!いい加減、絶ってください!」
其処に現れたのは、グラ・バルガス帝国内務省軍情報局のナグアノであった。金髪蒼眼のゲルマン民族系の容姿であるが、多民族国家である帝国ではよく見られる容姿である。それでも、女性受けが良く、情報局でも一、二を争うほどの美男子と評判である。
だが、内務省人事部の評価は悪い。「優秀なれど、将来性の薄い技術や初期投資のかかる科学技術に執着するため、主流に追いつけず、時期を見誤っている。その理由として、彼の恩師に関係する」として評価は微妙だった。
グラ・バルガス帝国軍部において、大鑑巨砲主義を中心とした艦隊決戦思想が根付いており、航空機による船舶の破壊は疎かになりがちになっている。しかし、空母打撃群による攻撃能力は上層部の一部からは認められており、これらの兵器が今後の主軸となると考えられている。
なので、ナグアノのような先進的な考えを持つ者は変わり者、悪く言えば異端と呼ばれている。ケイブラー教授との関係は軍大学時代の恩師であり、今回の天文兵器の試案が出来る唯一の人物だったため、準備室を設けてその室長に据えられている。ただ、予算や異端といった存在であるため、半ば倉庫のような空間なのは仕方がない。
「いいじゃないか、帝国指導部の連中が何言っているかわかってるだろう?『我が帝国が躍進するための戦争に貢献できない科学技術に何の価値もない』銃がただの金属の棒としか思ってないでくの坊に言われたかないわ!」
衛星軌道上にある敵の兵器の存在を示した、閑職として有名な第七研究準備室などの研究部署は弾道推進兵器の有用性を果敢に説いていたことで有名である。内務省や国家監査省、統合幕僚司令部、統合軍司令部などに掛け合ってみたものの、多くが帝国以上のテクノロジーを有した存在はあり得ないの一点張りによって撥ね付けられてしまっている。
唯一、皇帝直属機関である皇室府などの機関がわずかながら資金を工面し、幾つかの研究資材と内務省への内偵を要請しているが、そこで何もなければそれまでである。彼らの存在は内務省情報局の一存にかかっており、彼らが空振りであれば、第七研究準備室や天文兵器準備室などのマイナー研究の部署は潰えることだろう。
「あ~、内務省がアホならもうダメだ。また田舎の大学で馬鹿な学生相手に数学教えなければならん!クソッたれのアホ共め!」
口が悪いが、優秀。それがケイブラー教授の評価である。だが、この口の悪さが学会では汚点であり、鼻つまみ者にされている。教授という地位も学会の重鎮と親友であるから保たれているに他ならず、帝都大の天文学学会や宇宙開拓推進協議会などの先進的な学会からも除外されている彼の居場所は天文兵器準備室か田舎の大学講義室しか居場所がない。
内務省の報告もあまり良いものが無ければ酒も煽りたくなるというのが人情であった。
「はぁ…………いい情報持ってきたのにな」
「どうせ、フェイクニュースに踊らされているだけさ・・・・。見せてみろ」
ナグアノの手元にある「内務省情報局」と「極秘」、「クラス5」の超機密文書の一つである、ケイブラーはそんなことを気にせず、雑な手つきでファイルを開けていく。そのファイルは勝手な持ち出しや破損、流出したならば、持ち出した将校の首は物理的に刎ねられるデリケートなものであるが、そんなことはどうでもよいよばかりに読んでいく。
「何々、パーパルティアを経由した内務省情報局の内偵からの報告か」
「ええ、それにしても教授……なぜこちらの世界はここまで文明の差がくっきり分かれているのですか?」
「そりゃ、この惑星に月が二つあるからだろう」
地球には天然の衛星として月がある。それはグラ・バルガス帝国の母星も同じようなものである。しかし、彼らが転移したこの惑星には衛星が二つ。衛星が二つあるのは珍しい事ではない。
「衛星の引力によって引潮や満ち潮などの海の影響もある。月が二つあることによって、引力や磁力の影響から海洋の動きが活発なんだ。ここら辺の話は海洋生物学や海洋水流系の話になるが、流れや海流の流れ。または気象の変化によって、外界に行く手段……この場合は蒸気船や金属船舶……それか魔法で強化した船でしか外界を行き来することができないのが、文明の差に開きがある原因かもしれんな」
ロデニウス大陸の文明は中世。それも、封建制国家であるために諸侯の権力が強く、逆に王家はそれらに対して中央集権しにくい国家形態を築いていた。クワ・トイネなどの民主国家の例外はあるが、中央集権を行っていないのが中世の特徴的なものと言える。
一方、パーパルティア皇国の文明圏では魔法文明やマスケット銃、帝国覇権主義思想が根強く、中央集権化などの動きから、近世さながらの文明レベルを誇る。そして、ムーは第一次大戦前後の文明レベルを誇り、グラ・バルガス帝国と神聖ミリシアル帝国の文明レベルはそれほど離れていない。むしろ、自力で開発したグラ・バルガス帝国と古代文明の解析から列強へのし上がったミリシアルでは、グラ・バルガスに文明の伸びしろがあるように思えるだろう。
ナグアノは教授の推測に頷き、彼がスパイの撮影した写真を見ていないことに気づき、ファイルに手を伸ばす。ファイルの一番後ろにあった小封筒には「要分析」に斜線が引かれ、「捏造ナシ、兵器研究・解析ノ必要アリ」と朱字の手書きで記されていた。
「ロデニウス大陸に潜入したスパイが撮影した写真があります……これを」
封筒から出された写真にその教授は目を引ん剝いていた。
「…………うそだろ!まさかこんな事は!」
「きょ、教授!」
若干、アルコールで赤くなっていた顔は見る見るうちに青くなり、急に立ち上がった衝撃で、わずかに残ったコーヒーのマグカップが床に落下し、砕け散る。そんなことを露とも気にせず、ケイブラーは手を震わせていた。
「…………」
ナグアノは頭上にクエスチョンマークを浮かべるかのように、教授の持っていた写真を見る。そこには、縮尺がおかしいのか、米粒のように小さい人の姿と巨大な航空機の写真。そしてその航空機から出てきたのは、機械の巨体を持つMSだった。
彼らは知る由もない。
彼らが見たのはロデニウス大陸に建設されたジオン駐留軍ジン・ハーク基地にある滑走路。演習準備中の機体である、ガウ攻撃空母と搬送途中のMS-07グフの写真であった。そして驚くべきことに、近くには大気圏往還機であるガルダ級と呼ばれた成層圏プラットフォームの地上と宇宙の渡し船がその場に駐機されていたのである。
だが、多くの知識と天文学そして推進兵器や今後の兵器システムを予知していたケイブラー教授の目は無骨なMSではなく、巨体のガルダ級に向けられていた。
「い、今すぐ推進兵器準備室へ!奴らと話さねば!」
「ちょ、ちょっと教授!きょぅじゅぅぅ!!!」
いきなりの事で噛みながらも、ナグアノは教授を止めようとするも、何処からでてくるのかまるで馬のような馬力でナグアノの制止を振り切り、近くにあった同じく閑職の研究準備室の研究仲間を呼び寄せる。
この日はグラ・バルガス史初めて、宇宙へ行く構想を考えた歴史的な一日であることは、ケイブラー教授やナグアノ自身、知る由もなかった。
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【おはようございます!ズム・TODAYのお時間です!今日のズムシティは気温21度湿度40%前後と過ごしやすい天気となっております。人工風については弱風、ただコロニー公社の定時点検のため、人工雲の集積具合から場所によって雨の降る場所がある模様です。とは言っても、そこまで土砂降りではないようですし、今日一日張り切っていきましょう!】
【本日のズムシティ取引所の株価は歴史的な日を迎えることになりそうです。では経済部のリックに聞いてみよう!】
【はい!まさか、タイラーの持っている株式が数十倍に値上がりするとは思ってなかったでしょうね。そう!まさに彼もヤシマ工業の株を多く買っていたんですよ。皆さん!私のこの話を聞いたら、直ぐにエクストラネットの株トレードを覗きましょう!今なら、中小の資源回収会社の株も高騰するでしょう。でも、もし値下がりしても苦情はこまりますよ】
【この一連の株式市場の大高騰は類を見ない程、大きな動きを見せています。既に昨日の終値はジオン公国建国時の最値を大きく上回り、資源や採掘などの各企業へ資金が流入しています】
【本日、アナハイムとヴィッカーズ、そしてジオニックの合同開発された成層圏プラットフォーム『ガルダ』がロウリア宇宙港に到着しました。マスドライバーのない惑星と軌道上の橋渡し的存在として注目が集まっています。本機は今後、3隻目以降からはロウリア工業地帯ルールリアにて建造が始められる予定です】
【ギレン総帥閣下による予備役動員解除令によって労働人口の急激な増加によって、失業者が増加するかと予測されていましたが、経済産業省と総帥府の雇用拡大計画を推進させたことによって、現在の失業率は数パーセントとなっています。加えて、惑星への技術供与に関しては、多くの『お雇い外国人』として流入するかと思われます】
【本日、外務省迎賓館にてロデニウス大陸国家連合の外交官が到着するため、迎賓館前には首都防衛大隊や親衛隊の共同警備が行われ、厳重な警備体制が敷かれています!その周囲には市民たちが歓迎の横幕を出し、歓声を上げています】
ジオン公国や公国の実効支配圏では、総帥府の許可されたテレビ局やラジオ放送によって様々な情報が伝えられていく。
【エクストラネットや街角の人々の話を聞きますと、惑星とコロニー経済編入について否定的な見方や賛同する見方があるようです】
【彼らは我々を野蛮人だと思っている。だが、あいつ等の方が未開で無知だ。我々と同等に扱うのはどうなんだ?ギレン総帥も優勢人類である我々と彼らとでは天と地の差があるだろう?】
【もし、連邦と同じような関税に重い税金を掛ければ、我々も連邦と同じような支配者になりかねない。彼らとて、我々がムンゾの時のように経済成長しているさなかに制裁を加えられたら、誰だって独立したくもなるし、戦争したくなるさ】
【今後、自由主義経済を推し進めていけば、工業化せず、資源を掘るだけの労働しかできない民が同盟国にあふれることになる。我々がすべきなのは、そうした植民地的搾取の経済ではなく、お互いに支え合いつつも、伸ばしていく経済体制だ。かつての旧アフリカ植民地は一次経済しか発展していなかった。それを考えれば、自由経済を推し進めて、優れていた産業を物量とテクノロジーで押しつぶすことはあってはならない!】
だが、そうした報道機関が虚構であったなら?
もしも、誰かの意思によって操作されていたならば?
情報を元に行動する
「はぁ~……」
ジオン公国国家公安局のオフィスに座る30代初めの男。着崩したスーツは軍人や表の仕事をしている警察官からすれば、あまり良いとは言い難い服装をする彼は長髪のゲルマン系白人、祖父譲りの細めの眼光は獲物を探す狩人の如く、調査資料に眼を通していた。
「また溜息かレオ?……最近は反政府勢力も活発だからな」
同僚の肥満体型に近づきつつあるジャン・マリー・ソクラテスはレオと呼んだ彼のデスクに山のように置かれた資料を見て、自身の案件でなくて内心ほっとしていた。
「おいおい、ジャン!八時からディナーがあるって言っただろ。頼むよ」
「耳に入れたそれ(イヤホン)聞く余裕あるなら楽勝だろ」
レオの片耳に入っているのは、アングラ放送。国の認可が下りていない報道機関、つまり海賊放送である。聞こえは非常に悪いものの、連邦とジオンの戦争のために、報道規制や情報操作が公然と行われている。
一応、報道の自由は公国民の権利として保障されている。しかしながら、それは建前に過ぎず、あからさまな反政府組織のリークや政府の不都合な情報は隠蔽される。表立ってギレンを批判する報道機関は存在するが、それはフェイクに過ぎない。所謂、ジオン国内でリベラルを標榜し、野党を支持するマスコミである。これらはギレンに対して否定的な友好的国民の受け皿として利用されるのだ。ジオン国内において、公国右翼や左翼、リベラル・共産・保守に至ってはギレン劇場の元、政治劇が展開されているに過ぎない。
民にはワインとパンさえあれば、政治などどうでもよく。不平不満をコントロールできるギレンによって、議会政治は国立劇場の舞台となった。
「フィネガンの嬢ちゃんだったか?あんな別嬪さんとディナーとはな」
「ただの腐れ縁さ、それにただの女だったらどんなによかったか」
満更でもないものの、他の女性とは全く異なるアブナイ女である。非常に愛くるしく、容姿端麗、頭脳明晰の金髪美女、だが彼のような公安捜査官がしり込みしてしまう。
「レオ、いいじゃないか。総帥府だろ?いろんな情報仕入れてこいよ」
「馬鹿言うな、エリートのあいつに汚点が残ったら大変だよ」
レオポルド・フィーゼラー捜査官のディナーの相手、エリース・アン・フィネガンは世渡り下手な兄貴分の彼に代わってエリート街道を突き進み、総帥府の総帥補佐官として仕事を行っている。元より、レオもエリースは名家の出であるために、そうした街道は比較的楽であるが、彼はエリート路線を嫌って、公国軍パイロットを志した。しかし、絶望的に身体能力が悪く、軍人としての適性は皆無であった。
志半ばの彼がどのような挫折を経てこうなったのは分らない。だが、確かな事は良くも悪くも窓際役職に就き、満足してしまっていることだ。
ただ、ジオニック社創設者の孫という立場から、政財界に仕事柄としても、家族方面からも関わりがある。いつかは自分の使命を認識し、ジオニック社の中核に立つのか、それとも政界へ進出するのかは本人でさえ知りようがない。
レオは海賊放送の案件に関して、情報屋として「放逐」するという趣旨の報告書を上司のパソコンに送り、タブレット端末の時計をチラリと見てギョッとする。
「あ、そろそろ行かないと不味いな。総帥府の近くであいつを拾わないと!」
「あの通りは混むからな。課長には俺が言っておこう」
「助かるよ、ジャン!」
レオポルド・フィーゼラー
後に彼はジオンの暗部である『レギンレイヴ』という謎の人物と『ワルキューレ』という反ザビ組織の存在。そして、それを捜査していたデイヴィッド・シラー捜査官に行き着く。その捜査がジオンを揺るがす事件になるとは、露にも思わない。
しかし、それはまた『別の話』である。
〇原作の変更点
・ザビ家が壊れる(ネタ的な意味合いで)
・アメリカのドラマ「fringe/フリンジ」より、ビショップ親子登場。総指揮官はガルマ・ザビに⇒アルタラスの伏線作っときました。
……実はこのドラマ結構好きで、今回の日本国召喚の二次に必要と感じ出演。要所要所で色々出していきます。知らない方向けに色々書いていきますが、SFサスペンス的な意味合いもあるドラマなどで物語の核心的なものには一切触れませんので安心を。
・クワ・トイネとクイラの関係が微々悪化。ナショナリズムが浸透し始め、各技術的進歩がみられる。目標は1940年代に絞り、産業育成段階。
・クワ・トイネの民主化(他国と比べると民主化傾向であったが、ジオンと関わり、急激に加速。以前までは制限選挙や旧貴族財閥の台頭を妄想したためw)
・レギンレイヴの存在とワルキューレ(知らない方はギレン暗殺計画を読みましょう。かなりおもろい)
・ジオンとコロニーの経済が鰻登り。しかし、情報統制や国家社会主義的なザビ家独裁に反抗する海賊放送も存在。
まだまだ続きますが、本格的にパーパルティア皇国編にはいりまーす。また第0章を大幅な修正も検討中です。修正した場合には大幅な加筆修正の文字が副題に入ります。
誤字脱字など受け付けておりますが、多くの方々ご指摘いただけるため非常に助かっております。ただ、時間がないため、要所要所微調整してますので修正までもう少々お待ちください。
感想も受け付けていますが、お返し文についても、時間があり次第お返しいたします。
読んでいただき感謝ですm(__)m