慈恩公国召喚   作:文月蛇

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第十四話 怒れる皇国

 

 

 

パーパルディア皇国

 

 

その名を聞けば、世界列強のうちの一つと数えられる大国と恐れおののく。皇国民はその国力と文化を誇り、尊大なプライドは一度傷つけられれば、烈火の如く怒り、その相手の大地を不毛へと変えうるとさえ言われる。

 

 

皇国はその地理的条件や肥沃な大地によって国力を培い、大陸全土へと版図を広げてきたのである。幸運にも、彼らは神聖ミリシアル帝国やムーと言った敵わない相手が近くにいないために、その強国を維持できていた。彼の歴史にも『敗北』の二文字がないために、尊大な国民性になっているのは仕方のないことだった。

 

 

 

そして、覇権主義を唱えた彼らは長年占領した上で圧政を敷く状態となり、それらの搾取体制は肥大化した官僚制を築き上げる。幾多に渡って作られた官僚体制はあたかもジオンの憎む地球連邦と似通った部分が見られた。

 

もし、ジオン外交官が来れば

 

「腐った国家だなぁ!こんな国家には5thルナがお似合いだぜぇ!」と言ってネオ・ジオンの如く、隕石攻撃を仕掛けかねない程腐っていた。

 

 

 

そして、皇都エストシラントの宮殿の傍に設置された第三外務局の局長オフィスで怒鳴り声が響き渡った。

 

 

「あの計画はどうなっている!」

 

 

それは傍の廊下にいる衛兵や書類を運ぶ文官がひっくり変える程の声量である。オフィスは近世に入ったヨーロッパに近い雰囲気の建築様式と文化水準であったが、魔法や魔石などのエネルギー体を介して、まるで20世紀前半のテクノロジーを有している。

 

そのオフィスの奥に座った男、軍人然とした口髭を揃えた男は使えない部下を目の前に体を震わせていたのである。

 

 

「はい・・・間もなく皇国監査軍東洋艦隊22隻がフェン王国に懲罰のため出撃します」

 

 

 冷や汗をかきながら部下が答える。その容貌はあまり優れない木端役人という風貌。冴えないと言っていい彼は、軍人の振る舞いを辞めない男を目にして震えている様相であった。

 

 

 

 

 パーパルディア皇国第3外務局局長カイオスは怒りのあまり壁に飾っていた金の装飾を施したマッチロック銃をぶっ放したくなるがどうにか抑え込む。

 

 

やや短気な気質故に皇国上層部から抜け出し、知り合いの文官の伝手で第三外務局局長になることが出来たが、第三外務局は外交業務の中では下の位置にある。

 

パーパルティアの外交機関は三つ存在し、皇宮直属機関として外務局が存在する。

 

第1外務局は、皇宮の内部に位置し、文明圏の5大列強国のみを相手として外交を行う。下手をすれば、全面戦争となり、総力戦体制は双方ともに疲弊を招くためである。パーパルティアで考えうる戦略の多くは攻勢であり、防御に弱い性質がある。数少ない防衛戦において劣勢になったからだが、その多くを攻勢によって補い、勝利へと導いていた。それ故に戦略思想や兵器思想などから苦戦を強いられる列強国との外交には高度な政治判断が求められ、官僚の多くは皇族や皇国と共に歩んできた大貴族の官僚である。

 

 

第2外務局は、皇宮の外側に設置された機関である。列強とは違うものの、ランクの下がった保護国や強気な姿勢が可能な小国に対して外交を展開する。第一外務局より重要度は低いが、構成される官僚もそれなりのエリートでなければ務まらず、皇国維持運営のために必要な部署である。

 

 

 

 そして、第3外務局は文明圏以外の国、いわゆる蛮国相手の仕事とされる。

 

役人曰く、『いかに高圧的に出て、相手から絞りとれるかが試される』。蛮国は数が多いため、外務局人員の6割がここに属する。第二外務局より組織としては巨大であるが、その存在価値は皇国内では低い。また、皇国監査軍といった独自の軍を保有し、これらの多くは皇国内では蛮族への警察行動(・・・・)の一環と捉えられる。

 

それ故に、皇国に逆らった蛮族には懲罰行動を行わせる権限を有している。力は正義であり、高度な文明を有する自分たちが略奪する権利を得る。それらはパーパルティア成立以前より弱肉強食の自然の理に沿った形で行われているが、理性と社会性を勝ち得た人はその行為を受け入れるはずはない。

 

 

 

属国や占領地域の維持・収奪は限界に近付きつつある。しかし、パーパルティアの歪な産業体制や腐敗した官僚体制。これまでの歴史から、敗戦を知らない愚者の国家『パーパルティア皇国』は崩壊の兆しが見え隠れしていた。

 

 

嘗てのローマ帝国やモンゴル帝国、ナポレオンやヒトラー。これらの隆興した国家の多くは何らかの致命的な欠陥を持っていたために、徐々に衰退していった。それを肌で感じていた第三外務局カイオスは現状を分っていない内地の腑抜けた官僚や監査軍の横暴な軍人に頭を悩ませていた。

 

 

既に、主要な資源供給源であるロウリア王国の資源獲得計画の裏工作は第三外務局から第二外務局へと渡り、最終的な盥回しの末に国家戦略局の杜撰な計画によって失敗した。そのロウリアへの投資には、多くの資金が回され、皇族の国庫も一部使われたとカイオスは聞いていた。彼の予想では、ロウリア王国への計画立案をした官僚は左遷させられ、何処かの田舎蛮族を相手にしているはず。

 

 

―ジオン公国という訳分らん国家…………まるで御伽噺の神の国のようだな

 

 

 

 

使えない部下への怒りを抑えるために、別の話題を考えるカイオスである。監査軍の一部や国家戦略局のようなところから観戦武官を送ったが、荒唐無稽な報告ばかりしており、数名は治療院へ入院となった。『魔獣を従えていた』『アイアンゴーレムだ!』など世迷い事を叫ぶ高級官僚や軍人の話を聞いたカイオスはその報告書を「解決済み」の棚へと押し込んだ。

 

 

「もう良い、下がれ!」

 

 

「し、失礼します!」

 

 

 

恐怖の色を隠せない文官は青い顔をしながら、カイオスのオフィスを後にする。深い溜息をついた彼は監査軍の測量部隊が作成した地図を取り出し、件のフェン王国の国土を確認する。

 

 

パーパルディア皇国から東に約200㎞行った先にある小国。国土面積約一万㎢。キプロスやプエルトリコに近い国土面積を持ち、勾玉の形の国がある。片方にガハラ神国があり、隣がフェン王国である。ガハラ神国はパーパルティア皇国建国当初から付き合いがあり、皇族とも深い関係にあるために、不可侵条約を結んでいる。

 

 

一方、フェン王国の文化は基本的な文明レベルを下回る文明圏外国家であった。ガハラ神国が外界に疎いために、皇帝の国土拡大計画の一環としてフェン王国の南部、縦20km、横20kmの範囲をパーパルディア皇国に献上するよう求めた。

 

 

一方的な領土割譲はパーパルティア皇国からしてみれば、かなり要求を抑えている。本格的な侵略行為を行わず、何もない森林地帯を割譲することによって、第三外務局の功績となり、見返りとして大使館や技術供与が出来るのである。皇国からして、「ここまでしてやっているのだから、お前らも何か寄越せ」と一方的な押し売りを展開していた。とはいえ、領土割譲や国土への軍の駐屯。保護国化に至る流れは二十世紀までに行われていた帝国主義の国家方針の政策としては普通。寧ろ、植民地化になるよりはまだましな部類である。

 

 

しかし、フェン王国はこの割譲を断り、第二案である租借案を出した。一方的な割譲は一般的に言っても侵略と同義である。それこそ、同レベルの国家であれば開戦も視野に入れなければならない。しかし、無茶な要求を行い、そのあと無難な選択肢を示すことでそれを選ばせるという心理学的戦略から、その要求を行った。

 

 

しかし、この租借案に対しフェン王国の剣王シハンは丁重に断った。

 

 

「列強国の顔をつぶされた」

 

 

外交において、顔や世間体は大事にしなければならない。列強の大国が一万キロにも満たない国土を持つ国家に舐められたのである。仮にパーパルティア皇国が全人類の半分を死に至らしめる一年戦争を経験していたら、他の案を用意したかもしれない。植民地や属国に対して高圧的なふるまいをしていたパーパルティア皇国は小国に舐められれば終わりである。第一次・第二次産業を属国に依存する歪な体制を転換しない限り、属国が離反することは皇国の死に直結する。仮に欠点に気づいたとしても、産業の転換は出血無しには行うことができない。皇国指導部は産業転換ではなく、属国や植民地からの収奪で皇国の延命を図った。

 

 

 第3外務局局長カイオスの命により、監査軍東洋艦隊の派遣が決定された。

 

 

「フェン王国よ、恨むなよ。弱者は強者に屠られるのが世の定め」

 

 

 

幾多の侵略戦争に明け暮れ、壮年の身体に刻まれた無数の傷跡がカイオスを武人であることを物語っている。皇国軍人として戦場に身を投じ、幾多の戦績を築いていた彼にとって、軍人は誉れある職業である。だが、彼が軍功を上げるに従って、彼の地位は上昇する。そして、皇国軍中枢に食い込む頃には、軍人ではなく政治家の道を歩むことになった。

 

 

だが、政治家の水は軍人一筋として生きてきたカイオスには合わなかった。味方であるはずのパーパルティア人が謀略を駆使し、友を蹴落としていく様は正に地獄といえた。カイオスは早々にリタイアし、第三外務局長のポストに自分の意思でやってきた。周囲には、皇国の暗部たる腐敗した官僚や役に立たない官僚ばかり。私利私欲のために属国から女子供を凌辱しては富を貪る有様である。

 

 

自分の意思でそのポストに就いたのは、私利私欲で小国を植民地化して奴隷を得るためではない。皇国の命運が第三外務局に掛かっていると感じてやってきたのだ。だが、その悪しき役人を一掃するには遅すぎた。雁字搦めにされた皇国の腐敗はカイオスのような軍人崩れの役人では食い止めることはできない。

 

 

それを是正する力を持たないカイオスは皇国の歯車として生きなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、第三外務局の窓口に現れたのは、文明圏でも異色のデザインの軍服とムーの外交官にも似ている服装の外交使節だった。

 

 

 

「ジオン公国外交団のヴァルター・ヘーヴルと申します。一週間前にご連絡したはずです。担当者に会わせていただく」

 

 

 

 

ジオン公国外務省は既にパーパルティア皇国との外交ルートを既に確保していた。件のロウリア王国の残した莫大な借金の請求先をジオンに求めた第三外務局はジオンのマ・クベ率いる総督府に請求書を送っていた。その時に、マ・クベはパーパルティア皇国の臨時領事館を設置。その領事館経由でパーパルティア皇国との外交ルートを得ようと模索していた。

 

 

受付の職員は列強でも類を見ない異質な外交団とその護衛に驚きつつも、マニュアル通りに行動する。

 

 

「しばらくお待ち下さい。順番に手続きを行っていますので・・・。しかし、貴方たちの要求内容を見ましたが、かなり高度な・・・いわゆるハードルが高い事が記載されていますので・・・。」

 

 

「失礼だが、主権国家として正当な要求内容だ。貴国は我々の統治下にある旧ロウリア王国の借金返済を我が国に求めている。それの拒否と改めて国交を考えているのだが、君のような木端役人では話にならない。カイオス局長殿はご滞在しているのだろう?それとも、今すぐ外交団を追い出すつもりかね?」

 

 

 

パーパルティア皇国としてのプライドもあるが、スぺ―スノイドとしてのプライドもジオンには存在する。外務省及び総帥から外交全権を委任されたヴァルター・ヘーヴル親衛隊名誉少将兼外交団長は前髪を少し出した短髪の壮年政治家であるが、その据わった眼光とムンゾ自治共和国時代から培ってきた外交手腕が見え隠れし、窓口職員は只者でないオーラを感じていた。

 

 

しかし、マニュアルでは文明圏外国家との外交は『対等な関係』などありえない。窓口での役所業務のように粛々と行われるべきなのである。つまり、国家間の普通の外交はできないのだ。

 

「いえ、その件に関しましては私が承ります。外交窓口の開設ですが、あちらの表を確認して、規定の書類にサインを。それと事前にそちらの書式で記された国交文書に関してはお返しいたします」

 

 

「な、なんだと?」

 

ヴァルタ―は入館してからの異様な光景に戸惑いながらも何とか窓口を見つけたものの、交渉相手が窓口の職員とは考えられなかった。連邦政府の腐った官僚でさえ、茶を出すのである。それなのに、まるでズム・シティー鉄道網の発券売り場のような様子と各国外交官達が窓口で話している光景に眼を疑ってしまっていた。そして、外交文書の返却という無礼にもほどがある対応にヴァルターは驚いていた。

 

 

 

―いや、これがこちらの外交儀礼か?慣例法的に適法なのか?

 

 

連邦政府樹立からジオン独立戦争まで、独立国若しくはコロニー自治国家などへの待遇は前世紀の国際法や慣例に従って行う。外交という世界にも様々な作法や方法があるため、ジオンでは価値観の全く異なる異文化のしきたりを吸収するため多くの情報機関を駆使して情報収集を行っていたが、ここまで無礼な対応まで知ることは叶わなかった。

 

 

「こちらの外交文書に目を通しましたが、……えー治外法権。我が皇国民がそちらの国家に滞在中、犯罪を犯した場合に関して我が領事館でなく、ジオン公国の法に基づいて裁かれる……」

 

 

「我が国にも貴国と同じく法律があります。外交官など政府要人を除いて、一般人まで特例を作るわけにはまいりません。それに貴国と我が国の法体制には殆ど差異がない……」

 

 

 

「差異がない?・・・我が国は列強ですよ?」

 

 

「……?それが?」

 

話を急に遮られたため、ヴァルターは不機嫌になりつつも、窓口職員の不遜な態度に疑問符を浮かべる。そして職員の口から出てきたのはとんでもない一言だった。

 

 

「あなたの国は、出来たばかりですか?文明圏以外の国とはいえ、国際常識を知らないにもほどがある。そもそもパーパルティア皇国がこうして下々の野蛮人に窓口を開き、特例で外交官特権を与えているのにも関わらず、我が皇国民を下々と同等とせよと?ふざけるのも大概にしてください」

 

 

 

「……は?」

 

 

ヴァルターは呆気にとられ、言葉を失う。

 

 

「いいですか、今、世界において、治外法権を認めないことを我々が了承している国は、4カ国のみです。つまり、列強国のみなのです。あなた方のような野蛮国家と対等な関係を結ぶことはあり得ない!まして文明圏にも属していない、国際常識すら理解していないあなた方の国が存在しているなどあってはならないこと!…………この件は二週間後に課長対応に回します。貴国が今後、こうしたふざけた対応を行わないことを切に願います」

 

 

 

そして返されたのが、総帥府の印がされた正真正銘の外交文書とそれに付随したジオン公国の紹介やパーパルティア皇国の文字に置き換えて記されたジオンの説明を記した書物。丁寧に羊皮紙と皮を鞣して作られた表紙はジオンでも連邦でも、あまり行われない製本形式であり、金の細工や各種装丁も最高級なものばかり。

 

 

 

 

だが、こればかりはジオン公国外交使節にも非が存在する。何故なら、外交文書と一緒に渡した書物に「星間国家」「スペースノイド」「人口10億人」「セツルメント国家連合」など理解不能な文言がある。どのように読んでもそれが理解できる(・・・・・)とは思えない。寧ろ、ロデニウス大陸の近辺に突如転移してきましたと説明した方が未だ理解できるというもの。

 

仮に突然隣に越してきた隣人が宇宙人と名乗り、「家のペットが五月蠅くしなければいいんだけど」と恐竜のペットを連れていると言えば、信じられないと思う。明らかに嘘にしか読めない事実にどう判断すればよいのか。ジオンが惑星軌道上の宇宙コロニー国家であるとどう理解できるのだろう。

 

 

 

ヴァルター・ヘーベルは怒りの表情を浮かべるが、事前にパーパルティア皇国の不遜な態度は聞き及んでいたため全く問題はない。既にパーパルティア皇国が文明圏外国家として見下していた国家と交流しその事実を知っていたため、連絡先と借り受けた仮の領事館の場所を教えて帰途に付く。

 

 

 

彼は乗ってきていた警護車両と随伴する外交官用の特務車両に乗り込む。エレキカーなど電気自動車を乗りたかったが、各法律に照らし合わせてパーパルティア皇国で調達した車両に乗り込むと、ヴァルターは溜息をついて、胸の内ポケットから衛星電話を取り出した。

 

 

 

「交渉は失敗です。やはり、わが方の国力を見誤っているかと。……いえ、彼らの文化レベルでは理解できないでしょう。今後、こちらで諸外国の外交官と交流を行ってまいります。それと、ガルマ様のフリンジ機関がアルタラスに入国したと聞き及んでおりますが……はい、パーパルティアはさらなる資源確保のため、彼の国に圧力をかける見込みです」

 

 

 

既に外交という戦いは始まっている。

 

 

二週間後、第三外務局はジオン公国との国交樹立に関して大事件が起きるのだが、この時はまだジオン・パーパルティア両国は知ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

フェン王国、この国に魔法は無い。

 

民全員が教育として剣を学ぶ。

 

剣に生き、剣に死ぬ。どんなに見下されるような出生でも、強い剣士は尊敬され、どんなに見た目が良くても、剣が使えない者、弱い者はバカにされる。限られた大地と過酷な環境下において、フェン王国の民はほぼ全ての民は戦士である。それは外国人からすると「サムライ」に似ていると思われるかもしれない。

 

 

だが、その国家形態や風習。そして地理的環境を鑑みればギリシャのポリス。100万の軍勢に300の兵で戦ったスパルタの兵を思い浮かべるだろう。各産業に従事する農民や鍛冶職人、商人に至るまで、徹底した思想はさながら薩摩兵子の戦闘民族に近い。

 

 

身分制度は王以外平民と言ってよく、過酷な環境化で生き残る上で精神力や戦闘能力にスペックを全振りした民族。現在の地球上にそうした民族は稀であろう。

 

 

 

首都、アマノキの王宮に近い川の近く。早朝の時間帯、一心不乱に剣を振るう戦士の姿があった。

 

その戦士の筋肉はよく鍛えられ、数多の傷は彼が武辺一辺倒の猛者であることを物語っている。フェン王国では珍しい事ではなく、寧ろこうした戦士は数多い。だが、この戦士。十士長アインは他の戦士とは別格である。

 

王宮騎士団の十士長アインは王に認められた剣豪の一人であり、王国内には他十人いると言われている。しかし、アインを除く9人のうち、5人ほどは既に亡き人物。他の4人は老齢故に剣を交わすことがなく、剣道場で後続を育成する師範となるか、山籠もりをするかの二択であった。

 

アインは今代でも稀な技能を有しており、現状では王国内で負けることはないと言われる。さらに、頭脳もよく、武辺一辺倒の其処らの武人よりも気立てや性格もいい。まるで完璧超人と称されても不思議ではない。

 

 

 

王宮戦士団団長候補とも言われる彼であるが、自分の腕を試したく、外界への進出を考えている冒険心のある若者だった。

 

 

「ふんっ…………!」

 

 

空気を斬り、研ぎ澄まされた刀剣は落下中の石を一刀両断する。一寸のブレもない見事な剣捌きは剣豪に値する技であったが、石の表面や半分に両断された石を見て、不満げな様子であった。

 

 

「アイン、また『石斬り』か?子供が真似するぞ」

 

 

「戦士長!おはようございます」

 

 

その光景を見ていたのは、アインよりも一回り年上の戦士長マクレブであった。アインのような黒い髪に茶色い眼とは対照的に、金髪短髪のパーパルティア皇国系の血筋をもつマグレブはパールネウス共和国時代に起きた魔力のない民衆を追い出したことでフェン王国へ来た移民の末裔であった。

 

 

日本で言う『渡来人』のような立ち位置にあるマグレブは剣術以外にも文官としての才能もあることから、戦士団を束ねる指揮官になっている。そんな彼はアインのような剣豪が周りの子供が真似すると危ない訓練方法にくぎを刺すものの、首を傾げるアインだった。

 

 

「出来れば、木に括りつけた人形をだな……」

 

 

「移動する物体を正確にぶったぎるにはこれしかないので」

 

 

ここまで研磨された才能は磨き方にもコツがいる。凡人にはできない磨き方であることを理解したマグレブは苦笑も交えながら、本題に入る。

 

 

 

「剣王シハンがお呼びだ」

 

 

 剣王シハン…………フェン王国の国王である。フェン王国の王制は世襲制であるものの、ある一定の剣技が無ければ務まらない。フェン王国建国以前、島の中で群雄割拠し、戦争ばかりしていた頃。フェン王朝の初代国王が全ての諸侯を平定。民を虐げる身分制を廃止し、自身を王にし『我以外支配者になることは死罪に値する』と宣言した。その後、何代もの国王が生まれるが、未だに王国内では王族の敬意は失せることなく、剣王シハンに至ってはその剛腕を持って振るう一撃はアインでも防ぎようがない。まるで斬撃が交わされたら死んでも構わないような、猛突な攻撃はアインのような若者にとって恐怖に値した。

 

シハンの振るう斬撃は鋼鉄の刃でも防ぎようがなく、王族伝統の刀剣によってその斬撃は体を真っ二つにしかねない程の威力である。

 

 

ただ、最近になってパーパルティア皇国などの列強からの外交使節や国家の一大行事の準備に忙しく、剣王直々の稽古の予定もないアインは戸惑いを隠せなかった。

 

 

「え?私をですか?」

 

 

アインの位は剣豪であっても十士長。言わば下士官レベル。剣豪は言わば名誉勲章並みの名誉であるが、国のトップと会談することなど、今後ないと思っていたからだ。彼は今まで剣豪授賞式と剣王直々の稽古の二回しかあったことなく、もしかすれば海外留学できるのではと期待する。

 

 

「いや、戦士団全員だ。十士長以上の者が対象らしい。どうやら国の一大事だ」

 

 

期待が外れたものの、国家の一大事と聞いたアインは急いで身支度を済ませ、マグレブと共に王宮を目指した。

 

 

 

王宮アマノミヤは日本の建築様式を思わせるような、瓦屋根の白壁作りの天守閣が設けられている。アマノミヤを中心とする各行政庁がフェン王国内を支え、有事の際には首都防衛の要として、戦士団の駐屯地として軍事拠点化するよう建設されている。

 

 

 

 

そのうちの天守閣に近い、「老戦士の間」に招かれた十士長以上の戦士達は剣王シハンの言葉に耳を傾けた。

 

 

 

「パーパルディア皇国と紛争になるかもしれない」

 

 

 

その言葉によって、戦士達に緊張が走る。戦士達の中では多くの者が強敵に立ち向かえる事に歓喜していたが、心の半分以上は戦争状態となれば、亡国になることは避けられないと考えた。そして、残された家族。女子供は悉く奴隷にされて辱しめを受ける事になるだろう。武辺一辺倒の兵者共であっても、かれらは戦士というフェン王国でも、認められた役職に就く。騎士などの貴族がなるようなものではなく、国に奉ずる武士や男子のみにしかなれないスパルタのような強兵ぞろい。

 

 

戦争になれば誰が勝ち、誰が負けるのかは自ずと知ることが出来よう。

 

 

フェン王国には魔法が無く、中世に近い文明レベル。更に貧しい小国であるため、国力の差は月と地竜と表現してもいい。また、魔法が使えないことで、魔導通信などの情報伝達手段がないことから、軍事行動のスピードは同国に追い付けない。仮に同量の兵力でも戦力差は凄まじい。

 

そして何より、空軍能力が皆無である。

 

その理由として、東の国にあるガハラ神国は風竜と呼ばれるワイバーンよりも強い竜種がいるためである。ガハラ神国は独自の技術からこれらの風竜を友として、パーパルティア皇国からも皇族との縁があるために、一目置かれている存在である。

 

その風竜が居ることから、ワイバーン種の育成や輸入が出来なくなっている。

 

 

加えて、パーパルティア皇国には魔法石を使用した小銃兵(マッチロックガンナー)を有しているため、アウトレンジからの射撃など、他の兵を圧倒する戦力を保有する。フェン王国は魔法の取り扱えるものは限られ、剣と弓主体の貧しい国であるために、文明国との戦争は避けねばならなかった。

 

 

 

「現在、ガハラ神国にも救援を求めている。各々、戦の準備をしてくれ」

 

 

 張り詰めた空気が流れ、緊張した面持ちの戦士達は帰途に着く。戦団長クラスや各行政長は隣の「師範の間」に移動し、対策会議を始めていく。

 

 

 

 

「剣王、ジオン公国という国が国交を開くために交渉したいと参っております。いかがいたしましょうか?」

 

 

 王の側近である剣豪モトムが話しかける。その風貌は白髪交じりの剣術師範というようにみえる。実際に王宮直属の教育部門の責任者として、第一線を退いた人物だが、かつて、剣王シハンと切り結んだとされ、最も信頼の厚き重臣である。ツトムの質問にシハンは朧気な記憶を頼りに、ジオン公国の文字が入国する外交官リストに含まれていたと思い出した。

 

 

「ああ、ガハラ神国の大使から情報のあったあれだな。ガハラの東側……新興国家。あの辺は小さな群島がたくさんあった。どうも、我が国以上に地理的にも、物理的にも数年前まで貧しいと記憶にあったが、噂通りロデニウス大陸を吸収しちまったのか?」

 

 

 

 

 剣王はジオン公国をロデニウス大陸の近くに存在する群島国家と想像する。

 

 

「いえ・・・それが・・・。ジオン公国が言うには星間国家……だとか……」

 

 

「星間国家?つまりはあれか?この前の魔導放送と機械放送にあったあれか?」

 

 

フェン王国とて国際関係に疎いわけではない。独立国として維持している理由が高い練度の戦士達と友好国との情報交換やお雇い外国人などの各技術者・知識人などを各産業に配置している。その中で、情報収集のために王宮内には情報収集専門の機関を設けている。その中で魔導放送の設備と外国人技術者や機械放送受信設備を設け、ジオン公国や連邦の放送を剣王自身が聞いていた。

 

 

だが、剣王は全く信じていない。それを真に受けるのは、傾奇者の類だろう。剣王も開明的な人物だが、放送の内容をプロパガンダであろうと考えていた。

 

 

「ガハラ神国経由の情報でも同様の情報があります。また、ムーの天文方博士も月軌道上に何らかの人工物があると言っていました。彼らの国は列強をも超える超文明を実現していると・・・。」

 

 

「ほう・・・列強を超えるのは言い過ぎとしても、ガハラ神国がそこまで褒めるのであればそれなりの国家なのだろうな・・・。」

 

 

 

ガハラ神国は文化も似通っており、長年友好関係を維持している。空軍能力のないフェン王国へ竜騎兵を貸し出す等、両国が列強など他国の干渉が入らないのは、そうした協力関係があったからこそである。しかし、ガハラ神国はその統治体制は占いによる神託統治体制のため、もしかすればパーパルティア皇国との戦いは関知しない可能性もあった。剣王シハンはガハラ神国に再度要請を求めつつも、彼らの求める資源や外交的譲歩を引き出そうと考える最中、ジオン公国の使節を謁見の間に呼び出すことにした。

 

 

 

 

 

「おぉ……日本の時代劇のようだな」

 

 

「ルウムのジャパンコロニーに似てますね。あの場所の江戸村にそっくりです」

 

 国中が厳しく、厳格な雰囲気が漂っている。それはアトラクションでは味わえない緊張感だろう。武士の治める国・・・これが局員のイメージだった。文化も日本に似通っている部分も見られ、その武具や衣服は武士の鎧にも似ているが、どこかが違う。すべての人間が戦士として訓練され、怠惰に生きる人間は一人もいない。

 

 

 

生活レベルとしては低く、国民は貧しい。しかし、精神レベルは高く、誰もが礼儀正しい。まるで武士道の国、日本であるがどこかが違う。それは王制であったり、国民皆兵というスパルタのような武人の国であったりと、日系人であれば少し滞在すれば違和感を覚えるだろう。だが、ヨーロッパ系のジオン公国人には分らなかった。

 

 

 

 

「剣王が入られます。今回は非公式ですので剣王が入室されましたら、起立して一礼していただければ十分です。」

 

 

宮廷文官が話し、衛兵の数人が部屋の隅に立ち、剣王が来ることを動作で知らせる。

 

 

「剣王陛下入室!」

 

 

衛兵の号令と共に、ジオン外交官と警護の者が起立する。

 

 

 

「そなた達が、ジオン公国の使者か」

 

 

 剣王シハンの剣術は達人の域を大きく超えている。鍛え上げられた肉体はジオン公国の軍人には見られないような、白兵戦を想定した戦いを主軸に置く戦士の覇気が感じられ、外務省職員のハウフトマンは緊張しつつも、前もって考えられていた言葉を紡ぐ。

 

 

「はい・・・ジオン公国外交官ハウフトマンと申します。国交を開設したく思い、参りました。ご挨拶として、我が国の品をお持ちいたしました。何分、この世界の外交儀礼や国際常識が未だわかっておりません。このような場を頂き感謝いたします」

 

 

 剣王の前には、様々な物品が並ぶ。その中には刀剣や培養真珠、電化製品などが並び、美術品も見られた。その中には西洋のサーベルと日本刀が置いてあったが、金の装飾が施された美術品のサーベルよりも実用重視の日本刀を剣王が選び、その刀身を見る。

 

 

 

「ほう・・・これは良い剣だ」

 

また剣王は復刻版であるモーゼル社のKar98kを手に取ると、「一発おきに再装填の時間は?」と外交官の護衛兵に尋ねた。

 

 

「自分は撃ったことはございませんが、一秒未満で4発のうち一発を再装填できるように出来ます」

 

「ほう?ちょっと撃ってみてくれんか?」

 

「え!?いやそれはちょっと!」

 

 

「構わん、構わん!あっちに射撃場がある。君が試しに撃ってみてくれ」

 

 

剣王シハンは歴代でも傾奇者(カブキモノ)として有名である。貧しい国ではあったが、国の近代化に向けて各国技術者を招聘し、各国技術力を吸収しようとしていた。それ故に強引に外交官と文官は移動し、射抜きの間に到着する。

 

そこはパーパルティア皇国の先込め式ライフルや魔導式ライフル、ムーの一発づつ弾込めして射撃する、Kar98kのご先祖に当たるGew71に近いだろう。だが、細部をよく見れば黄金を探し出すカムイ的な漫画に出てくる猟師が愛用した、村田式単発銃にそっくりだ。

 

Kar98kなどのボルトアクションは殆ど形状に大差ない。贈物の弾薬箱から5発の弾丸のクリップを取り出し、ボルトを開くとクリップの弾丸を押し込み、ボルトを締めると同時にクリップをはじく。

 

「装填よし、よろしいですか?」

 

直属の上司であるハウフトマンに聞くと、渋々ながら頷いた。

 

そして、兵士が安全装置を外すと、引き金を引いた。無煙火薬が燃焼し、7.92x57mmモーゼル弾が発射される。高速で発射された弾丸は標的であるフェン王国の古い鎧が吹き飛ばされる。それはあたかも未来のフェン王国の兵士達の姿に重なるはずで、周囲の衛兵は神妙な表情だった。だが、その表情は一気に青ざめたものとなる。

 

 

槓桿が引かれ、空薬莢が宙を舞い、再び槓桿が戻されると次弾が機構に戻される。その間、一秒も満たない動作はパーパルティアのマスケット銃とは全く異なり、ムーのそれらに近い射撃と5発すべてが標的の鎧に命中する。

 

 

 

 

まさにそれは突撃するフェン王国戦士が瞬く間にジオン兵にせん滅される光景が彼らの脳裏に移りこむ。事実、フェン王国は他にもパーパルティア皇国やムーといった先進国から送られたライフルや武器をこの場で使わせ、相手の力量を図っていた。多くの国はそれらの武器の多くを古い倉庫行の物ばかりであるが、相手国の軍事力の指針となるためである。

 

 

驚愕といった表情を浮かべていた家臣や衛兵の中で不敵な笑みを浮かべる者がいた。剣王シハンである。

 

 

「素晴らしい武器だな、ハウフトマン殿。してこれは貴国の軍使用していないものなのかね?」

 

「ええ、これより高性能の銃を取り揃えています。今度、お贈りいたしますが、整備はこちら持ちになるでしょう。こちらの武器は貴国が工業を発展させれば製造可能な品です。貴国次第になりますが、最短で五年から三年でしょうか?」

 

 

「そんなにか?!」

 

シハンは驚きを隠せない。何故なら、殆どの国はこうした武具の製造法についてははぐらかしたり、機密として教えてはくれなかったためだ。例え、製造法について教えたとしても、ムーの科学技術では伝播して何年かかることだろうか?

 

火縄銃といった火器はそれこそ、日本に高度な鍛冶技術が存在したため複製に成功し、多くの資源と人材、そして買い手がいたからこそ、出来た技である。もし、当時戦国大名が名を挙げようと戦いをしていなければ、火縄銃は発達せず。ポルトガルやスペインに侵略された可能性もある。

 

ジオンが持ってきたライフルは二百年以上前に設計、製造されていたライフルである。フェン王国からしてみると、600年程のちに出来るか出来ないかのレベルであり、明治維新後の日本でこうしたライフルが作られたのは、開国して十数年経ってからである。剣王シハンが知っていた知識と今後の技術発達の予想から、約20年かかるだろうと考えていた節があり、その期間はまるで夢のようである。

 

 

「ええ、ですが今のは私の予測に過ぎません。貴国の産業育成や法改正、他にも技術者の育成を考えれば、十年かかってやっと軍に配備できる生産能力を得るかと」

 

 

それでも、剣王シハンの予想の半分程度である。

 

 

 

シハンはパーパルティア皇国の軍備よりも高性能であると確信して、上機嫌な様子で先の会談場所に移動し、非公式会談が始まった。正式なものでないため、地球連邦政府樹立以前から王族が非公式会談に出席する事は稀である。だが、剣王シハンが国政を差配する事を考えると何ら不思議なことではない。

 

 

 

国書にあった内容や修好通商条約に記された文章を読むうちに幾つかの問題に行き当たった。

 

 

「この治外法権についての文章ですが、出来れば貴国の法制度はどのようなものかお聞かせ願いたい」

 

 

そもそも外国人の治外法権を認め、自国の領事館によって法の裁きを行うという趣旨の条約。これらは日米修好通商条約など、よく日本史を習う上で欧米との不平等条約であると学ぶだろう。だが、江戸幕府は封建制など行っている以上、地方の藩では独自の法があるため、場所によって裁きの法や一定の身分の者が処断しても良い法が出来上がっている。そのため、中央集権国家でない封建制国家に国民を送る以上、国民を保護するためにそうした対策を考えておかねばならない。

 

一方的な弁護も付けられない前時代的な異国の裁きに応じたくはない。そのため、文明的にも高い水準である国家、若しくはそれに準じた法体制のある国家にのみ治外法権を認めないというような考えがジオン公国内に定着していた。

 

 

既にロウリア王国に駐屯した兵士や企業関係者がロウリア王国の諸侯の法によって裁かれ、腕を切断されるなど、肉体的に厳しい刑罰が施行されたことを受けて、ジオン公国外務省のこうした動きは国内世論を抑えるための苦肉の策でもあった。

 

 

中にはジオン公国内から出ていったならず者も存在し、国際問題に発展しかけたことがある以上、ジオンも法制度や価値観に注意しなければならなかった。

 

 

「こちらの条約は貴国と我が国の法制度に互換性がない。つまり、両国との認識の差が両国民の間で問題となると考えたうえでの判断です。こちらの修好条規にあるのは、今後修正されるべき事案と考えています。ただ、外交官特権は変わらずそのままにしていただきたい」

 

 

「貴国の外交官が犯罪を犯した場合は如何する?」

 

「我が国で対処いたしますが、重罪が認められた場合は外交官特権をはく奪し、貴国へ引き渡す所存です。しかし、それが冤罪であった場合、政治的・外交的な損害は甚大なものになるでしょう」

 

 

「それは我が国が謀った場合……と考えてよろしいか?」

 

 

室内の温度が急に下がったように感じられ、ハウフトマンは背中に冷や汗を流す。もし、この場で剣王シハンが剣を抜けば護衛隊員もろとも袈裟斬りにされるだろう。高い精神レベルを持ち、パーパルティア皇国に向かった友人の話以上に、フェン王国の人々の対応はべつの意味で疲れる。もし彼らの意を害すようであれば、その場で腰の刀でぶった切られるのではと思えるほど恐怖を抱いていた。

 

 

「…………そんなに強張ることはない!我が国とて粗骨者が出ることがある。貴国も政治的謀略によって被害を受けたことがあるのだろう。我が国もそれは理解できる。これは条約外のことだろうが、両国で交換留学生を送りたい。我が国は技術的な者、そちらは我が国より高度な技術を有しているだろうから……武術の秀でた若者や文化研究の者と交換するのは如何だろうか?勿論、永年的なものでないから安心してほしい」

 

 

「そうでしたか、安心しました。我が国は多民族国家ですが、貴国に似た民族がございまして」

 

 

「ほう、それはまことか」

 

 

「ええ、陛下も我が国にお越しいただければと」

 

 

 

「ふむ……」

 

 

 

剣王シハンは頷き、少し考えたあと口を開いた。

 

 

 

 

 

「失礼ながら、私はあなた方の国。ジオン公国を良く知らない」

 

 

 話が続く。

 

 

「しかし、貴国からの提案、これはあなた方の言う事が本当ならば、すさまじい国力を持つ国と対等な関係が築けるし、夢としか思えない技術も手に入る。我が国としては、申し分ない」

 

 

「では……」

 

 

 

「しかし、国ごとの転移や巨人兵器に星間国家……とても信じられない気分だ」

 

 

 

「やはりそう思われても仕方がないです。でしたら時期を見計らって我が国や同盟国を見ていただけたらと」

 

 

 

「いや、近日中に我が目で見て確かめたい」

 

 

「近日中?」

 

 

 

 

「そうだ。我が国では五年に一度『軍祭』と呼ばれる各国軍を招いて開かれる祭りがある。そこで貴国にも力を振るってもらいたい。廃船となる数隻の船を破壊したり、歩兵の強さを演習で見せてもらいたい」

 

 

 

「!?」

 

ハウフトマンは剣王シハンの申し出に驚いた。まだ正式な国交のないジオン公国が軍事力を従えて来るという行為は前例のないことである。何か間違いがあれば国際問題になりかねず、パーパルティア皇国を警戒するジオン公国としては、近くに位置するフェン王国との関係悪化は避けねばならない。また、生半可な部隊を連れて来れば、列強や今後の国際関係に影響を与える。国際関係は言わば不良の鍔迫り合いのようなもので、弱気になれば舐められる。適切な行動と適切な部隊量を持って、最善な結果を出さねばならない。

 

 

本来であれば、国家中枢の首都に他国の部隊を派遣して演習を行うなど、安全保障の観点からしても、国防上の観点からも危険である。フェン王国を滅ぼすならば、この演習に乗じて軍事行動を起こすのが普通だろう。宣戦布告などの国書を送ることも必要だが、宣戦布告と同時に奇襲攻撃などもあり得る。信頼のない国家に対して「合同演習しようぜ!」「RIMPACしようぜ!」と磯野に野球を持ちかけるような友人でない限り、やってはいけない。

 

 

ちなみに、大した信頼もない軍隊を呼べば情報収集のための装備を持ってきて、相互信頼の場を崩すようなことがあり、国際問題化する可能性もある。

 

 

―これには裏があるな……特大級の事案が

 

 

ハウフトマンは王国の危機をその無茶ぶりから感じ取った。明らかに変な要請はジオンとの同盟若しくは類似する軍事行動を求めている。ハウフトマンは本国に案件を持ち寄っていくことを剣王シハンに伝え、三日後再び正式な会談を行う。

 

 

 

中央暦1639年九月、ジオン公国とフェン王国との間に友好通商条約が締結された。所謂、『不平等条約』と公国議会の野党に追求されたが、総帥府はこれに反論。双方に文化や価値観の相違があるため両国民の生命と財産を守るべきであり、法執行範囲については相互に判断すると発表した。また、フェン王国の外交使節団が派遣され、剣豪アインの訓練方法に娯楽要素を見出したタカ〇トミーが子供向け玩具を発表。スポーツ用品も含めて、一大ブームとなるのは別の話。

 

 

そして、安全保障条約については、棚上げ事案とされたが、フェン王国の危機の際には可及的速やかに対処すると発表した。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは惑星圏内でも高度な文明と科学力を持つ場所。宇宙に進出した古の帝国の後を引き継ぎ、第二の植民地を維持すべく動いていた。進んだ文明を自負する彼らにとって、その場所は最先端のテクノロジーに囲まれている。だが、安穏な指揮所であるはずのそこにはかつてないほどの緊張した雰囲気に包まれていた。

 

 

 

「第一防衛ライン、西セクターに敵の機甲部隊が集中!」

 

「東セクターより敵戦艦2砲撃中!対艦防御厳となせ!」

 

「敵未確認歩兵!違う、二足歩行兵器、十五メールの巨大兵器だ!」

 

 

戦闘オペレーターと連携して宇宙空間の部隊の指揮にあたっているが、ほぼ空気のない環境下の戦闘では、これまでの経験は当てにならない。これまでの宇宙空間下での戦闘はしたことがない軍隊が苦戦することは明らかだった。

 

 

 

「南セクターに新たな敵、第2艦隊が向かった地区からです!」

 

「南より敵更に増加!センサーから先の敵とは艦種が異なります!」

 

 

「原子衝突弾反応!数3、南より接近!」

 

 

「迎撃急げ!自動迎撃!」

 

 

戦闘指揮所のアラームが鳴り響き、戦闘オペレーター達の指示の元、歩兵と機甲部隊へ退避を呼びかける。だが、敵前で遮蔽物に隠れることや隕石防衛用の防空壕に入ることは難しい。基地周囲に張り巡らされた防衛陣地には宇宙服を着た白兵戦部隊とそれを防衛する軽戦闘車両がいるが、敵が発射した噴進弾の弾頭は彼らを吹き飛ばすには十分すぎた。

 

「閣下、敵は強大です。部隊と民間人を避難させてください!」

 

「だめだ、技兵が転送装置停止の準備に入っている。その状態で避難すればどうなるかわかっているだろう!?」

 

指揮所のある本国と戦闘中の植民地をつなぐ転送装置は既に停止準備に入っている。もし、人を転送でもすれば真っ二つに転送されたり、もしくは混ざって出てくる。避難した民間人の生死は分っている。どうなるかは火を見るよりも明らか。

 

 

「弾着まで5秒!各防衛部隊耐ショック防御!」

 

 

戦闘指揮所のスクリーンに映された、原子衝突弾と呼ばれる大量破壊兵器。地球では核弾頭と呼ばれるそれらの三発は第一防衛線の近くに接近し、爆発した。

 

かつてないほどの爆発の地響きが彼らを襲い、意識があることに感謝した。もし、戦術級若しくは戦略級のそれが命中すれば、命中したことも気づく間もなく、祖先の元へ送られることになる。爆発の衝撃波で防衛線に設置された対空火器や戦車は吹き飛ばされ、歩兵部隊は瞬時に数千度の炎に包まれる。

 

 

辛うじて戦闘指揮センターの電磁波が周囲の魔導機器をショートさせ、戦闘指揮所に地響きと共にスクリーンやオペレーターが使う端末が真っ黒に染まる。照明も緊急用の赤いランプがともり、内部にいたオペレーターはセンサーとシステム復旧に全力を挙げた。

 

 

「予備電源を使え。今すぐ、部隊との通信回復を!」

 

破壊を免れたセンサーや通信設備も戦闘によって若干ずれていたことや動かなかったこともあり、各オペレーターや技術兵は復旧作業に入った。

 

「各センサー間回復急げ!パラボルアンテナ修正!」

 

「スクリーン回復、通信戻ります!」

 

 

 

スクリーンが戻り、照明が戻ると、周囲には地響きと揺れによって埃が舞っていた。放射線アラームが響き渡り、赤いランプがクルクル回り、赤く照らされた戦闘指揮所は異様な空気に包まれていた。

 

 

「損害報告!」

 

「西・東セクターの防衛線……陥落!」

 

「各守備隊と連絡ありません!」

 

「西自動砲台……沈黙、各自動機銃も先の電磁波で全て落ちました!」

 

 

「なんてことだ!転送装置周囲に白兵戦用陣地を構築。味方も全て通すな!」

 

 

 

 

「うん?……閣下、先の敵の攻撃から西セクターの敵戦車隊が壊滅。敵戦艦も先程現れた敵戦艦の砲撃により瓦解、潰走中との報告が上がってきております」

 

 

「なんだと?」

 

 

戦闘指揮所の指揮官である『閣下』はその部下の報告に耳を疑った。未確認の知的生命体の遭遇が最悪な形になったと考えていたが、更に悪いことに、第三の勢力が攻撃を仕掛けてくるなど悪い冗談にしか思えない。展開する先の戦車隊の壊滅は朗報だが、新たに出てきた敵艦隊の攻撃が強力であることは、こちらに降りかかる火の粉も強力であることは明白だった。

 

 

 

「わが皇国植民地もこれまでか……」

 

 

数百年前にやっとのこと、失われた月面植民地を取り戻すことが出来た。諸問題が幾つも発生していたが、月面軌道に衛星ステーションを建設して、様々な生態研究や軍事革新など幾つも見つかっている。植民地民の健康被害や人的被害も多いが、それ以上の実りある成果もあった。だが、それをすべて覆すような敵性知的生命体の攻撃。幾つかの研究成果は本国に送れたが、それでも全体から見て僅か。

 

 

男の台詞に周囲の戦闘オペレーターや分析担当官など、恐怖の色を隠せなかったり、その場の端末に蹲って泣く者も少なくない。

 

 

「諸君らはよくやってくれた……最後の一兵まで戦い抜く者……敵に投降して命を繋いでも構わない。以後、君達の軍役を解く。今までよく私の命令に従い、共に戦ってきてくれた。光栄に思う。」

 

 

司令官最後の言葉に多くの者が意気消沈するか、その場で悔し涙を流す。戦場で戦う将兵の報告や支援要請などの無線は先程とは打って変わってかなり少なくなる。敵歩兵部隊が侵入という警備兵の悲痛な叫びと共に、戦闘指揮所のダメージコントロール室に隣接する基地警備指揮所も騒がしく、慌ただしい空気に包まれる。もはや陥落も時間の問題であり、圧倒的な戦力に立ち向かう能力はない。

 

 

 

 

 

司令官の男は指揮所を出て、近くにあったオフィスに着きカギを締める。すでに廊下では敵性生命体の重火器が聞こえ、友軍兵の叫び声やエネルギーライフルの銃声が聞こえる。敵部隊の銃声が魔石爆発型の燃焼ガス推進型ライフルであることが銃声で分ると、敵の文化レベルはそこまで高くないことを知る。意外にも、自分達が予想していた以上に文化レベルはそう変わらないことが分り、男も安心する。

 

 

 

「会ったこともないから分らないが……敗軍の将として処刑されるより、己を処する方がましか……」

 

 

 

生き残ったとしても、皇国に生きて帰れるとは思えず。また、生き恥曝して生きるつもりはない。

 

金属製机の引き出しから、魔石を弾倉としたエネルギー充填式拳銃を手に取り、皇国で行われる右手の拳を斜めに突き上げる敬礼を行う。

 

 

「ラヴァーナルに栄光あれ!」

 

 

一発の銃声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(発進準備よし、航路クリア!サイクロプス隊発進せよ!)

 

「りょーかい!発進するぜ」

 

 

ムーンⅡ派遣艦隊所属のムサイ級軽巡洋艦『スィクロプ』から発進したのは、MSM-04アッガイの宇宙戦改良型のMSM-04Zリッグ・アッガイだった。少数生産と月面や低重力下を想定した機体に加え、歩兵との共同作戦を考慮されたそれは、内部に歩兵収容空間を設けた『兵員輸送車』の要素が加えられている亜種とも言えるMSである。

 

 

「ミーシャ、月の重力に惑わされるなよ!」

 

「大丈夫でさ、大尉!」

 

 

「飲みすぎるなよ」

 

 

「ばれてたか」

 

ミーシャ改め、ミハイル・カミンスキー中尉は、ロシア系移民の作るマハル産ウォッカのスチール製ボトルから一口飲む。きついアルコールが喉を焼き、胃を焼く。程よい酔いが戦闘への恐れと士気の向上を促すのだ。熟練のパイロットでさえ、恐怖を感じる。彼のそれは景気づけであるが、いわゆるジンクス。飲めば最良の結果を出すための願掛けである。

 

 

隊長の注意にあまり飲まないようにと、心がけながらも対空砲火に晒されつつも、アッガイの両腕に装備されたミサイルランチャーとメガ粒子砲を放ち、対空火器を始末する。後続のザクⅡやドムも同時に降下し、ムサイやザンジバルの援護砲撃が後に続いた。

 

 

ザクⅡの装備するMMP-78から放たれた90㎜徹甲弾が迎撃として離陸した船型の攻撃機に命中して火の玉が出来上がる。撃墜される直前に対艦ミサイルが放たれるが、ザクⅡの左腕にある対物20㎜機関砲によって撃ち落とされる。そして、280㎜大口径ジャイアント・バズを構えたリックドムが管制塔らしきタワー目掛けてバズを発射した。

 

大口径砲弾は管制塔のアンテナと有人部分に直撃すると、爆発。続いてムサイの黄色いメガ粒子砲が滑走路と格納庫を抉り、エアロックを吹き飛ばした。

 

 

「よし、ミーシャ。エアロック付近を掃討後、俺達を降下させろ。目標は敵に鹵獲された連邦のMSとわが軍のMSの確保。連邦のMSについてはワイズマン行けるな?」

 

「は、はい!大尉!行けます!」

 

 

ジオン国防軍の略帽をかぶるハーディ・シュタイナー大尉の指示を聞いた、隊の中で一番の新入りに声を掛ける。まだ、十代のバーナード・ワイズマン伍長は初戦で特務部隊というとんでもない名誉に預かっていたが、軍の急激な人員削減によって急遽宛がわれた補充兵である。MS操縦技術や伸びしろは他のサイクロプス隊パイロットより抜きんでていた。

 

 

負傷したアンディー・ストロース少尉の補充兵として抜擢したワイズマン伍長改めバーニィは「嘘だと言ってよ」と言って、今回のサイクロプス隊に配属され、ここに来るまでに古参兵の扱き(とは言ってもMSシュミレーションや対人格闘)によってそこらの新兵よりはましな動きをする。しかし、長年特殊任務をしていた古参兵からしてみれば、まだ殺しをしてない以上、新米と変わらない。

 

 

「おい伍長、緊張してもいいが、しすぎて固くなるな」

 

同じ下士官のガブリエル・ラミレス・ガルシア軍曹は何時もの赤いバンダナを額に巻いており、その上から対弾気密ヘルメットを被る。

 

 

「了解です、軍曹!」

 

「だから固くなりすぎなんだよ」

 

 

「ガルシア、あまりこいつをいじめるな」

 

 

リッグ・アッガイの内部で部下へ言うシュタイナーの目の前には、ミーシャと同じアッガイのモノアイに移る映像が送られていた。アッガイは既に月面への第一歩を踏み出しており、アームストロング並みの名誉を預かっていた。だが、気を緩めば、スミス海に散った連邦の初期型ガンキャノンの如く、月面海に没する鉄くずとなり果てるため、ここで死ぬわけにはいかない。

 

 

(こちら、キュプロープ1!敵対空兵器及び対戦車兵器無力化!奴ら航空拠点の癖に防御が手薄すぎる。これじゃ遊びと変わらん!)

 

(ネルソン少尉、あんまり遊んでると死ぬぞ!)

 

 

ザクⅡが接近するホバー式戦車を蹴飛ばし、横転させるとMMP-78を掃射する。パイロットスーツを着込む兵士が戦車から這い出るところを撃たず、戦車を破壊するが、それを見ていたドムのパイロットが指摘する。既に敵の反抗は下火になっており、もはや敵の抵抗は軽微になっている。

 

この様子だと奪取したのちに緊急離脱する必要性が無いように感じられたシュタイナーは、司令部へ具申して倉庫区画の制圧のみに限定する。

 

「作戦は少し変更、基地の格納庫区画を抑える。歩兵部隊が多いかもしれん。注意しろ」

 

 

「タッチダウン!降下だ!」

 

「サイクロプス隊行くぞ!」

 

 

 

 

格納庫に到着したサイクロプス隊のリック・アッガイは破壊されたエアロックに近づき、歩兵降下用ハッチを開く。シュタイナー大尉率いるサイクロプス隊は異種族との初めての宇宙白兵戦に突入した。

 




一話から微々加筆修正中。


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