慈恩公国召喚   作:文月蛇

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一先ず閑話っぽいのちょっと入れます


3月までにパーパルティア編を終わらせる予定です。その後のグラ・バルガス帝国編はちょっと遅れますが、作者の転職事情で遅れる可能性大ですw


第十七話 嵐の前の静けさ

 

 

 

パーパルディア皇国の首都行政区に位置する第三外務局は非常に気まずい空気に包まれていた。

 

パーパルティアの国家監査軍は首都防衛部隊や皇国陸軍と比べると練度が劣っているという話であるが、それは全くの筋違い。皇国はフィルアデス大陸の覇権を有するため陸軍主体の大国である。主に力を入れるのは陸軍であるため、海軍への投資は申し訳程度。しかし、その装備や兵力は他の追随を許さないほど兵力や装備も充実している。植民地統治機構と共同で扱う装備もあるが、基本的には旧列強のレイフォルと比べても、その兵力は断然上である。

 

ただ、そんな彼らであっても、パーパルティア皇国の誇りに掛けて負けるわけにはいかない。懲罰攻撃は負けることがない作戦であるため、多くの局員や監査軍将校は意気揚々と狩りか買物に行くような感覚で出発していった。

 

中継地点の属領や艦隊基地から何度も状況や東洋艦隊の様子が知らされていたが、作戦実行日になって突然連絡が途絶えたのだ。

 

本来であれば、艦隊参謀と事務辺りが巡洋艦を中継基地に乗り入れて、魔導通信によってことの成果を報告する。魔導通信など、画期的な情報伝達技術が存在し、その速度は1970年代の電話網に近い。ラジオやテレビに似た情報発信技術もあるが、如何せんその範囲は限定され、中継基地においても魔導妨害と言った手段を取られれば本国との通信は途絶する。

 

第三外務局は情報を搔き集め、やっとのことで東洋艦隊の動向を知ることができた。

 

 

『東洋艦隊の壊滅』

『フェン王国とジオン公国によって武装解除』

 

その他

『フェン・ジオンとの間で友好条約並びに相互国土防衛条約を締結』

『東洋艦隊の将兵の引き渡しを皇国へ求めている』

 

 

どれも間違いかと、そのソース元であるフェン王国軍祭に参加した文明圏外国家の外交官に確認を取った。彼らが本国経由でもたらされた報告書の写しや証言によってそれが真実だと明らかになる。

 

そして、少しだけフェンについて話さなくなる。それは問題を先延ばしにして役所の常套手段である。問題を棚上げにして先送りにする。

 

 

しかしそれが局長カイオスの怒りに触れた。もし、ガセネタと思っていても東洋艦隊壊滅との報を出していればそこまで怒らずに済んだのだろう。脳の血管が切れるのではないかと思われるほど激怒していた。

 

 

フェン王国が皇国の領土献上案を拒否した事からはじまり、498年間の租借案という「慈悲」案も拒絶。それにより、文明圏外国家の蛮族に舐められた態度は許容できるものではなく、懲罰攻撃を行うようになった。他の国々の恐怖の楔が外れては困る。外れれば皇国の維持はできない。皇国経済は崩壊し飢餓と暴動によって皇国は崩壊してしまうだろう。

 

 

だが結果は惨敗。

 

その事を伝えなかった課の管理職は左遷。棚上げを意図的に指示した者は依頼退職した。

 

 

どの道、国家監査軍東洋艦隊の全てを失ったことは耳に入るし、すでに皇国内部でも噂されている。『海神に祟られた』『鋼鉄の巨人に蹂躙された』などの訳の分からないものが来ており、カイオスは頭を抱えている。

 

戦闘の詳細は知ることが出来ないが、列強による攻撃であることは疑いようもない。

 

そして皇帝の耳に入り、次の皇宮会議では議題に上るであろう。確実に精鋭艦隊から抽出した部隊を向かわせる。そしてフェンは巨大な地獄へと変貌するだろう。

 

先の失態を挽回するために、オフィスから出たあとカイオスは叫んだ。

 

 

 

「全職員に通達する。先の戦いの情報を速やかに集めよ!些細な噂や盗んだ公文書でも何でも構わん。全てここへ持って来い!!!」

 

騒がしくオフィスの扉を雑に閉める。そして失態を返上すべく正体不明のジオン公国の情報を集め始めるのである。

 

そんな最中、窓口に人が現れる。

 

「申し訳ありませんが、今日課長と会う事は出来ません。」

 

いつも通り、国際関係や第三外務局のシステムを存じていない蛮族の外交官に対して再三出された会談願いは却下される。いつもの光景があった。ジオン外務省の職員は、約束したパーパルディア皇国外務局の課長と会議のためやってきたが、窓口で再度足止めをくらう。外交団の中でも下っ端が行う再三の頼みであり、既に受付の職員の顔も覚え、向こうも「またあんたか」と声には出さないが、その振る舞いからしてバイトが嫌な客を見るような対応に「おれは何時ファストフード店にきてたのか」と職員の一人は頭を抱える。

 

何度目かの来局の時にアポを取り次ぎ、新たな事案について早急なお話が必要であると念を押しているのにも関わらず、急に会うことが出来ないという受付に職員は憤慨した。

 

 

「何故ですか?約束したではないですか!!」

 

 

「ちょっと込み入った事情が発生いたしまして・・・。申し訳ありませんが、文明圏外の新興国と会議をしている状況ではないのです。」

 

「どっかの中小企業でもそんなことはしないよ……」

 

「すいませんが!お引き取りを!」

 

 

受け付けから門前払いを受けた職員が来たのは、トランプで負けてしまい、そのために罰ゲームを引き受けたのだ。職員は溜息を吐きながら、こんな田舎に来るなんて泣きたくなるとぼそりと愚痴をこぼした。

 

 

「こんなクソド田舎……マスドライバーから打ち出された隕石弾で消滅すればいいのに」

 

物騒なことを言った彼はそのまま、仮領事館へと帰っていく。だが、こうしたことを何度も繰り返した結果、パーパルティア皇国との国交を諦め、パーパルティア皇国に擦り寄る国家をジオン側に来るよう説得するようになる。

 

次第に外務局に来る外交官は減り、第三外務局の職員はその光景を異様に感じ取った。工場労働者という名目の奴隷を集めるため、小国から奴隷を出すよう要求し、その見返りに技術者の受け入れをしていたが、多くの国が奴隷を送らないという返事と共に、技術交流条約(技術交流という名の奴隷購入の条約)を破棄する内容の国書を送り、受付には全く顔を出さないなどということが相次いだ。

 

 

明らかに異常事態であることに気づいたが、某国が「ジオン公国と平等な条約を結び、技術提案をしてくれた。貴国とは今後付き合えない」と事実上の国交断絶状態になったという事が度々あり、第三外務局はパニックになる。

 

そして、ジオン公国の外交官を事実上追い返した外交官が自身の行動に後悔するのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

最早、パーパルティア皇国のフェン王国懲罰失敗は全世界に広まっていた。それに加えてジオン公国の軍事力も伝わっており、天文学的に色々変化していたことも含めて様々な裏付けがあることから、ジオン公国は列強以上のテクノロジーを保有することがマスコミ各社などで報じられた。

 

列強の報道機関は基本的に魔導通信の映像放送である。魔導士結社が民営放送の体を取っている。とは言っても、国が『NO!』と言えば放送できなくなるのだが、列強諸国の魔導士結社は閉鎖的であり、法制度もそこまで規制が行われている訳ではない。世界第一位の列強として君臨する、神聖ミリシアル帝国は民間の報道に対して、国営放送で反論しつつも、裏で官僚が民間に圧力をかけた事が露呈。社会問題になるなど、報道機関の発達によって様々な問題が噴出していた。

 

 

そんな第一文明圏の帝国領の港町カルトアルパスは貿易都市として栄えていた。

 

国際貿易の中心地であり、帝国領の流通拠点として栄え、多くの商社が軒を連ねている。人口100万を越え、殆どが貿易関係の仕事に就いている。そして、商人の中には各国の諜報員が活動している。購入する食品の量や購入する物品などの正確な量により様々な予測が可能となる。

 

例えば、石油燃料から国で消費する量が分る。もし、大量購入していれば、戦争の準備段階であることが分る。その他、硝石や魔法石・奴隷など様々な物が行き来する。その数が例年より多ければ何かがあり、少なければ何かがある。それを調べるために商人に扮した諜報員が動き、またパートタイムのスパイも存在する。諜報機関が金を出し、一般業務の合間に商人が情報を提供する。

 

こうした国家間の暗躍を金蔓と考えた犯罪者組織は数知れず。一時期はニューヨークやシカゴ並みの犯罪都市になりかけたが、治安維持部隊の投入と犯罪者への厳罰化によって沈静化。地下深くに潜った犯罪者シンジケートは各国のスパイと裏取引をしながら生き延びてきた。

 

 

国際都市にありがちなスラムなどは出来ていなかったが、犯罪発生率の高い地区が生まれる。が、カルトアルパス治安維持部隊の重装備警邏隊がこれらの犯罪組織に対処していたため、総合的に見て治安のよい町になっていた。

 

 

その町並みは高層ビルがないものの、飛行船やジェット推進エンジンを搭載した垂直離着陸機が周囲を行き来し、馬車ではなく魔導式エンジンを用いた自家用車が走るなど、非常に文明的な都市であることは明らかだ。

 

 

 

 とある酒場では、酔っ払った商人達は自分たちの情報を交換していた。こうした現場では些細な情報でも商売にする商魂たくましい彼らであったが、彼らの母国も情報に興味があり、内容次第では買い取ってもらえる。主に彼らの交遊費はそこから出ていたりする。

 

 

 ビア樽のような体をして白い髭を生やした男は意外にも話を聞いたり、話したりする。酒場の常連である男は豪快に何時ものメンツや新参者に酒をおごったりするなど、バックには列強がいるにちがいない。

 

 

「最近の衝撃的なニュースといえば列強レイフォルが、新興国の第八帝国とやらに敗れたニュースだよな!誰か、第八帝国について知っている者いないか?」

 

「第八帝国は通称であり、本当はグラ・バルカス帝国というらしいな。俺は開戦時にレイフォリアで香辛料の商売をしていたが、あの恐ろしい日は今でも忘れないよ。突然首都近辺の警備が厳しくなって、逃げようとしても軍警察に止められ、魔導砲とか砲兵がわんさか。それに予備役が緊急呼集されて嫌でもやばいのがわかったよ。で噂で主力艦隊がたった一隻にやられて冗談だと思ったね。だけど、違った。機械文明の飛行機械がわんさか来て夜間飛行で爆撃していくんだ。首都近郊の駐屯地と海軍基地の殆どが壊滅的被害を受けたって聞いてな。一部の地区じゃその影響で暴動が起きてた。んで、夜が明けたらレイフォルは降伏。あの時、レイフォル主力艦隊の一部が戻ってきて、クーデター起こさなかったら、その日のうちに首都が陥落して俺もここにはいなかった」

 

 

「え?クーデター起きてたのか?!」

 

 

その商人の台詞に驚いた数名は目を見開いていた。それを見る限り、動じていない表情を動かさない奴らはどこかのスパイか、それとも元軍人崩れの商人のようにも見えたが、そのレイフォル帰りの商人はその反応に嬉しくなって再び語りだす。

 

 

「そうなんだ。今のグラ・バルガスの占領下だと情報統制が図られているから多分その時の様子は俺ぐらいしか語ることないから言っとくよ」

 

レイフォル帰りの彼が何を見たのか。徹底抗戦と蛮族への復讐に燃える王国指導部は首都近辺の消耗した部隊や首都で無事だった兵力を再編。国民に旧式の魔導銃を配り、国民突撃隊を編成しようとした矢先、将軍バルを信奉する海軍将校および陸戦隊が蜂起。

 

王国指導部は敗北した海軍を冷遇し、バルの敗北を気に海軍を解体し、海軍兵の全ての給料を停止するという蛮行を行った。本来はあり得ないような行政決定だが、成功を重んじ、失敗を否定する国の方針に憤慨した海軍首脳部は、蜂起した海軍将校と結託して首都を占領。加えて抵抗する陸軍を半ば壊滅させ、臨時政府が設立された。その後はグラ・バルガス帝国が占領することになったが、クーデターを指揮した参謀や危惧する海軍司令部などが傀儡政府中枢を担い、着々とグラ・バルガス帝国に編入されていく。

 

レイフォル帰りの商人については、彼がミリシアル人だったことも含め、今後の国際関係に配慮して国内情勢が落ち着くまでは国外に追放するというものだった。半年以上がたったが、レイフォルの残存部隊がどうなったのか。反乱勢力はどうなったかは情報統制されて知る由もない。

 

 

「あの国は間違いなく、列強を上回る。わが帝国もかなり危ういかもしれん」

 

 

 

「まてまて、レイフォルに勝つとは確かに強いが、魔導超文明を持つ帝国に勝てる訳が無いだろう。格が違いすぎる。」

 

 

「ムーも、ミリシアル帝国に順ずる強さがある。ムーにも勝てないだろう。なんだかんだ言っても、文明圏外の蛮国にムーは負けんよ」

 

 

「その蛮国にレイフォルは負けたんだよ」

 

 

「レイフォルなんて、列強といっても・・・言っちゃ悪いが、最弱の列強だろう?一般国に比べれば遥かに強いが、他の列強にくらべると、実力は遥かに弱い・・・。」

 

 

その話を聞くと「レイフォルは我ら四天王の中では最弱」「左様、ムーやミリシアル、パーパルティアと比べれば格下の存在」などと言っているのではと考えてしまうが、彼らは軍事面では素人。とはいえ、彼らの商人としての勘や開戦までの期間を考えれば、国力を推し量ることは出来よう。表立って帝国領で帝国の批判を言っても、ファシズム国家のように処罰されることはない。ただし、情報代に色は付けてもらえることはなくなるだろう。

 

「お前らはグラ・バルカス帝国の恐ろしさを知らないから、そんなことが言えるんだ」

 

商人に浸透する列強国としての誇り。例え、不特定多数からそうした情報を得ていても信じるはずもない。そして、商人の他愛もない話は続いていく。

 

 

「そういえば、ロウリア王国ってあっただろ?」

 

 

「東の蛮国か?あの、人口だけは超列強な国だろう?」

 

 

「ああ、俺が交易にいった時期に、隣のクワ・トイネ公国に喧嘩を売ったんだよ。亜人の殲滅を訴えてな」

 

 

「亜人の殲滅?無理に決まってるだろう。さすが蛮族の国!」

 

 

ロウリア王国の噂はよく聞いていた。人口だけは非常に多く、それ故に纏まらずに内戦が他国よりも多い国家。纏まるために亜人という種族を敵性民族に認定し、怒りのはけ口を彼らに求めだのだ。国を纏めるために多民族を排撃する。ロウリアは国を一つにするため、亜人を槍玉にあげ、徹底的な差別政策を行った。王国の混乱は彼らの陰謀として宣伝。ばらばらであったロウリアをまとめ上げ、政治的にも中央集権化が進み、パーパルティアも何とか軍事援助を踏み切るところまで成長したが、国を纏めるために使った亜人差別は大陸の亜人を根絶やしにしようという民族浄化も辞さないものになっていた。

 

列強の生存域にはエルフやドワーフなどの種族も人間に紛れて、一緒に暮らしている。排斥すべきどころか、ドワーフは金属加工や鉱山などの技術者として適正な技術と天性の勘があり、エルフは魔導に非常な適性があることから魔導研究において重要視される。列強の指導部からしてみれば亜人の存在は「ちょっと特異な人」「特定技術に秀でた民族」としか思っていない。

 

差別意識や自分と違うというレイシスト的意見などはどの世界に関係なく起こっている。ロウリアは正に典型とも言える人間中心の国家である。そうしたロウリアであったが、パーパルティアの支援も虚しく、ジオン公国に降伏。ジオン公国ロウリア領として君臨することになった。

 

またロウリアのジン・ハークから300㎞離れた地帯は地をならせば非常に巨大な港町が建造可能であり、ジオンの力で多くの機材や建築重機が運び込まれていた。既に工事は終了し巨大な軍港と商業港が生まれ、その横には巨大な工業地帯が生まれていたが、彼らはまだそれを知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「いまじゃ、ロウリアはジオン統治領ってことになってる。もと国民は殆ど同化しているから見分けも付かん」

 

 

「ふぇぇ~!そういえば、ジオンって帝国並みの科学力だって本当か?」

 

 

「いやいや……死傷者なしで4400隻が退けられたとか、鋼鉄の巨人が暴れ回るとか、情報操作だろ!第一、あの放送はどう見てもプロパガンダ(欺瞞情報)だろう」

 

 

既に地球連邦(ティターンズ)の放送やジオン統治下のジン・ハークに建設されたロウリアン・タワーからは電波や魔導通信の技術によって、様々な放送が行われている。全世界までとはいかないものの、何処かの中継地の民間放送局と契約し、ほぼ世界にジオンの放送が流れている現状。商人からしてみれば、その報道に対する資金の当て具合から、国力も相当なものであると言えるだろう。

 

 

嘘偽りを伝えるからと言って、国家そのものが欺瞞に満ちた小国『嘘つき国家』と評価するのは間違いである。そうした情報への評価によって小国であろうとも、大国並みの力や権力が手に入る。多くの民衆は情報の選別がうまく出来ていない。インターネットの普及によって様々などうでもいいデマ・欺瞞情報が混在する今日において情報への理解は一世紀前とは格段に進歩している。

 

それは誰しもが、膨大な情報を得られるためであり、様々な選択肢が提示できるからだ。だが、インターネット以前の事を考えるとそれらの情報への理解は民衆全体からみて非常に低く、政治指導者からしてみれば、操りやすかったに違いない。第二次大戦中はこれらの情報理解が及ばなかったために、ドイツではヒトラーの宣伝省が猛威を振るい、ヨーロッパ全土を支配した。日本においては古来の民族主義・集団意識が根底からあるために余計に拍車がかかる。新聞などの媒体によって悪意ある情報があっても、判別できない者も多く、マスコミの無責任な扇動から戦争へ暴走していった。

 

 

こうしたことから商人もジオンについての報道に耳を傾け、ある程度の情報への理解があるのか、冗談半分に聞き流す。そして、信用できる情報筋から『ジオンは只者ではない』と認識するに至る者も多くいた。

 

 

「ジオンって一体何者なんだろうな。おれは会ったことないし何とも言えないが……」

 

「星間国家とか、宇宙人ってことかな。さながらムー『星戦争』だな」

 

「まあ、グラ・バルカスやジオンがいくら強かろうと、わが神帝国とは格が違う!絶対に勝てないよ。結局、中央世界はいつまでたっても安泰さ!古の魔帝が復活でもしない限りはね」

 

 

「その通り!」

 

 

「皇帝陛下万歳!」

 

「ミリシアルに栄光を!」

 

エールやビールを掲げ、楽しく笑いある酔っ払いたち。日々の疲れを飛ばすべく、アルコールを飲み騒ぐ彼ら。だが、数千年に一度とも言われる災厄は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、第2文明圏最強の国であり、列強国ムーの軍事情報局はこれらの情報を元に様々な分析を行っていた。国防省隷下の情報局は所謂CIAにも似た組織であり、スーツ・軍服組双方が手を取り合って働く場所である。

 

だが、軍と官僚との軋轢もあるため、一筋縄ではいかないのが欠点であるが、フィルアデス大陸で噂される某秘密組織『マンダ』も彼らに属しており、平和主義を掲げる政府内にいるタカ派官僚と結託し、フィルアデス大陸への軍事的介入は軍服組が取り仕切っていた。

 

 

とは言っても、スーツ組の目線から見る分析や軍事知識と経験を元に判断する軍人達双方の長短は分っており、お互いに補っていることは両者ともに理解していた。そのうちの軍服組の一人、技術士官のマイラスはレイフォリア襲撃の際に魔導写真機によって撮影されたグラ・バルガス帝国の兵器や部隊の装備を見比べ冷や汗を流していた。

 

 

ムーのテクノロジーは基本的に機械文明が発達している。魔導文明は嘗て侵略してきた民族の文化が若干残っているが、基本的には機械文明が浸透している。ムーは嘗てこの世界に転移してきた大陸国家である。ムー王朝は混乱し、内戦が勃発。その混乱に乗じて周辺諸国が侵略した。

 

転移直後の国土は一割減り、当時の国宝や多くの命が失われた。しかし、内紛を鎮圧して残る国土を平定し、侵略する異民族や魔導文明の国々へ反撃を開始。現在に至るまでムーは列強として君臨する基盤を築き上げた。しかし、ムーの有していた科学技術は継承できず、多くのテクノロジーが失われ、転移前の最盛期から今のムーと比べると300年程遅れた文明になってしまった。

 

嘗てのムーは1000年ほど前に転移した国家であり、嘗ての世界で猛威を振るったアトランティス帝国と冷戦状態であったと遺された文書で記されていた。その当時の記録から推察するに、米ソのような核抑止の中で起きた冷戦と同じような対立状態であり、光線兵器や外殻骨格を有する機械化歩兵、数百年生きる人を実現していたと記され、現在のムーはこれらのテクノロジーを求めて研究しているが、未だに300年の開きがある。

 

 

現在のムーのテクノロジーは地球文明基準で言えば、西暦1930年代に近い。他国のワイバーンの航空機と戦うため、複葉機を主とした空軍を編成。陸軍海軍は第一次大戦中か戦後の科学技術を有する。ムー単体での技術発展は非常に時間がかかったが、これでもまだ発展途上の段階だった。

 

 

 

 

 

閑話休題

 

マイラスはグラ・バルガス帝国担当の士官だが、帝国の兵器について頭を抱えていた。

 

 

「まずいな・・・。」

 

彼が見る限り、確実に帝国の技術力はムーを凌駕している。ムーも単身で技術力を底上げし、嘗てのテクノロジーに追い付こうとしたが、競い合う方が成長する。話では転移前に帝国と対立する国家があったことから、グラ・バルガス帝国は軍備を増強し、国家予算のほとんどをそれに充てたという。

 

 その脅威に対して警戒するだろうが、多くの人間は「ありえない」と口をそろえるだろう。既に神聖ミリシアル帝国の魔導技術力は現在のムーの科学技術を越えている。軍人組は良く思わないが、技術士官のマイラスはそのことを良く分かっている。魔導文明は魔法と言うエネルギー加工技術を使うテクノロジーであり、魔法を使用する技術体系を持つ。機械文明とは根本の所から全く異なっており、以前の研究部署では魔導文明と機械文明の相違について様々な大学の研究者とコンタクトを取り、どう軍事的優位をとるか考えていた。

 

現在、神聖ミリシアル帝国と友好的なのは互いに尊重し合い、戦争することは双方被害が甚大になりかねないという事が理由だった。

 

嘗てのムーに存在したオーバーテクノロジーとも呼べる多くが、国立博物館や兵器研究所の大倉庫に保管されている。その技術体系は魔導とは全く異なるが、機械文明の行き着く先であることは理解できた。日夜、科学者がそれを分析しているが、オリジナルに及ぶことはない。ムーの基礎研究分野はグラ・バルガス帝国よりも劣っている。加えて、同程度の文明との戦争経験がないことも一因だった。

 

ムーは近隣の魔導文明との戦争に備えた軍備であるため、対機械文明との戦いへの準備が劣っている。そのため兵器開発思想も異なっている。

 

 

「これは……装甲車?」

 

 

「いや、榴弾砲を搭載している……強いて言うなれば……戦車(チャリオット)?」

 

 

「なんか水槽(タンク)みたいだな」

 

写真に写っていたのは、グラ・バルガス帝国陸軍の戦車だった。その装甲は強固であり、レイフォルの攻撃は全く受け付けなかったと聞く。もし、第二次世界大戦を良く知ってる人が居れば、大日本帝国陸軍の九七式中戦車に酷似しているが、よく見てみれば、二回りほど大きく、その装甲は傾斜装甲、厚さ40mm。主砲75㎜を搭載する。単純に見ればM4シャーマン中戦車にも見えるはずだ。

 

そして帝国兵の装備もよく見れば、ボルトアクション式小銃ではなく、セミオート小銃や短機関銃、30口径の汎用機関銃など歩兵装備が充実していることがわかる。

 

そして、グラ・バルガス帝国の最新鋭艦『グレードアトラスター』の装備に目を向ける。

 

 

「なんだこの主砲の大きさ……」

 

 

「まるで城だな。あんなのが浮いてるなんて」

 

 

ムーの戦艦「ラ・カサミ」の形状は大日本帝国海軍戦艦「三笠」と酷似する。グレードアトラスターと比べれば、およそ30年近くの開きがあることは窺い知れよう。ムーは機械文明と言われるが、近年になって魔導レーダーなどを応用した、レーダー索敵の実用を始めて行い始めたばかりである。

 

 

単純に火力で押し負けることは明らかであり、砲の命中精度はレーダーによる運用を最悪想定しても、勝ち目はない。

 

 

ふと、技官や大学の研究者、その他の研究機関との話も終わり、他の課の人間が忘れていった写真をふと目にする。そこにはロデニウス大陸を調査する課の持ってきた資料であったが、ロウリアに駐屯するジオン公国占領軍の行進や兵器の写真である。

 

ロウリアなどロデニウス大陸は文明圏外国家して見なされているため、大した重要度ではない。だが、警備体制が厳重だったのか、少しピンボケした写真であった。

 

 

「うーん・・・全く解らん」

 

彼が見たのはオタワ級汎用巡洋艦だった。他にも建造中のイオージマ級強襲揚陸艦などの艦艇。マイラスはジオンが大規模な艦艇建造を行い、海洋進出を狙っていると考える。しかし、次の写真で見たのは、ガルダ級成層圏往還機。その大きさは両翼の端から端までの大きさを考えると、非常に大きいものであると確認できる。寸法が狂いすぎており、飛行機の隣にある人影は豆粒の人とその人型はどちらが人間の寸法だとしても、どちらもおかしい大きさである。

 

 

「何だこれ……おい、リア!なんだこれ。ロウリアの造船所とんでもないことになっているぞ」

 

会議室に戻ってきていたロデニウス担当のリアは「ごめんね」と言ってマイラスから書類を受けとる。

 

もう一人の技術士官リアはマイラスの一個上の階級、技術中尉の階級である。容姿は金髪の髪を後ろで束ね、すらりとしたスタイルの良さは軍情報局随一と言ってもいい。言い寄ってくる男は大勢いるが、彼女の頭脳明晰な所や歯に衣着せぬ物腰から「高嶺の花」扱いされることも少なくない。だが、マイラスから見れば、外側は優秀でいいが、中身はポンコツだという評価である。

 

「ああ、私もそれ見てフェイクじゃないかと思ってたわ」

 

彼女曰く、ロウリア王国の製鉄技術や造船技術はそこまで発達しておらず、この前まで木造船が主流となっていた。しかし、この数か月の間に金属製の装甲を持つ船舶が着工しており、既に訓練航行の段階らしい。

 

「だが、この航空機と人影はどうみても寸法が……」

 

「後ろの写真見てみて」

 

彼女に促され、次の写真をみる。其処には、何らかの格納庫らしき建物と軍属らしき人影とそれらの人々よりも大きい鋼鉄の巨人が鎮座していた。その大きさはマイラスの概算で17m近い。もしかしたら、もっと大きいかもしれない。

 

「って、ことはあの大型航空機はそれ以上でかいという事なのか!?」

 

「そうらしいわよ。このまえのジオン公国のレコード聞いたでしょ?」

 

「ああ、でもあれは星戦争の予告だったんじゃないかと思うぐらいだぞ」

 

マイラスは以前、仕事関係でリアからレコードを貰った。それにはジオン公国の宣伝放送と共に音楽やニュース、ジオン国内の話と地球連邦軍との戦いやロウリアへの経済状況など、様々な情報が放送されていたらしい。それを聞いていたマイラスは偽ニュースか、それこそ近年話題の『星戦争』と呼ばれるSF小説の映画の広告ではと疑っていた。

 

 

「この前、外務省がジオン公国と接触したそうよ。私も外交使節と共に同行することになったわ。あなたも推薦しておいた」

 

「待て待て、俺は第4文明の分析チームだぞ。」

 

「グラ・バルガス帝国の動向は機械文明だからそこまで人員を割かなくていいの。それにこれは局長命令でもあるしね」

 

リアは口添えと言っても、既にマイラスの外交使節と共にジオンと接触するのは決まっていたらしく、あとから聞けば推薦しなくても抜擢されていたという。リアは魔導文明に対して否定的であったが、逆にマイラスは魔導文明を肯定しつつ、機械文明へどう発展させるか分析や研究を行っていた。

 

ムーの科学技術は頭打ちになっており、外から情報を収集し、新しい糸口を見つけなければならない。

 

 

マイラスは次の日、軍情報局から辞令を受け取り、外交使節と共にジオン公国と接触することになった。

 

 

 

 




ムーに新しいヒロイン出しました。

マイラスばっかじゃつまらんよ。女の子だそうぜっと思ったのが切っ掛け

次回、兵器について投稿します。多分、年内には

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