慈恩公国召喚   作:文月蛇

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一週間戦争?

知らない子ですね







第一話 ルウム会戦【修正済】

 

宇宙世紀 0079 一月三日 0900時 サイド5 ルウム 第15バンチ「ニューヨコスカ」

 

 

地球連邦宇宙軍E.F.S.F.(Earth Federation Space Force)の総司令部はサイド5のルウムに設置された。新規に建造された第15バンチとして建設され、半分近くが軍用として整備されたコロニー「ニューヨコスカ」はコロニードックの8割近くが軍艦を占め、他のコロニーと比べて防衛能力が高い。コロニー周辺では数隻のサラミス級巡洋艦数隻とマゼラン級戦艦一隻を含む巡視艦隊がパトロールし、常に数個戦隊が巡回する。

 

艦隊ごとの距離は非常に大きいが、濃密な防衛戦が構築されている。幾重にも巡らされた監視ドローンや赤外線カメラなど監視機器がコロニーの周囲に設置され、不審飛行物体があれば直ぐに戦闘機がスクランブル発進して確認する。

 

宇宙世紀に入り、宇宙での戦闘は専らミサイルによる撃ち合いなどのアウトレンジ攻撃かメガ粒子砲による大艦巨砲主義的なもの。多くが電子戦初期に見られたイージスシステムやリンク兵器システムを接続した統合システムによって運用されている。すなわち、第二次世界大戦のような人が人を撃つ時代ではなく、完全なコンピューター制御によって全てが迎撃され、巡航ミサイルを放ち、光学照準システムと軍艦全ての通信システムと連動して攻撃をする。

 

 

艦隊が一つの生き物のように動き、一斉にミサイルやメガ粒子を放つのは圧巻であった。人が狙うことはなく、レーダー観測による得られた情報をもとにボタンを押すだけである。すべてがコンピューターシステムによって簡素化され、前時代的戦闘を想定したものは皆無に近い。「妨害電波」「電子戦」などは総じて、初期の誘導システムに頼った兵器類を混乱させるためにある。地球連邦軍の兵器はほぼすべてがそうした電子戦にはほとんど完全な防御態勢にあり、幾らかジオンが先んじた技術を使ったとしても、圧倒的な戦力格差は変えられず、地球そのものが無くなったとしても、残存戦力はジオンのそれを上回っていた。巨神兵を連れてこない限り、不可能な話なのだ。

 

 

 

 

「……脆いものだな」

 

「はい?」

 

ニューヨコスカの司令部区画にある自身の執務室でレビル中将は、来客したルウム植民地政府の高官と話して、「怠惰」を滲ませる自軍の対応に本音を漏らしてしまった。

 

U.C.0078年まではジオンとの開戦を想定して、連邦政府は防衛準備態勢「デフコン4」を発令し、連邦軍全軍が準備態勢に入っていたが、多くは呑気なものであった。だが、地球の完全喪失によってコロニー全土が混乱。一部のコロニーでは無政府状態に陥っているところすらあり、それを増長させたのが、そのコロニーに駐屯する連邦軍の防衛隊だったのだから、その報告を聞いたレビルは怒りを覚えていた。

 

 

ジオンは総力戦体制を敷いているため、他のサイド自治政府程混乱している様子は見られない。もし、戦争をするのなら、相手が混乱するその時であるため、レビルが手を出せる範囲で部隊をデフコン3に近い警戒態勢を引くよう命令を下したが、「ジャブロー総司令部の命令はあったのか?」と真顔で聞かれた日には、本気でエアロックからソイツを葬るべきか悩む知将レビルの姿があったほどだ。宇宙軍においても腐敗や汚職があり、ジャブローのモグラ将軍よりはましと唱える位、レビルはここ最近胃薬が絶えない。

 

如何に武闘派将軍、知将、エリート軍人と呼ばれる彼であっても、政治家まがいの仕事をしてコロニー政府をまとめ上げ、悲鳴を上げる植民地政府へ援軍を送るために仕事をこなさなければならない。異常事態ともいえる地球の喪失にレビルは頭を抱えるほかない。もし、ジオンだけが消えてくれれば尚よかったか。

 

 

しかし、彼の望みは叶うことはなかった。ジャブローに巣くう腐敗したモグラ共を見ることがないということはあり難かったが、急に地球が消え去り、臨時連邦政府の暫定指導者として政治家のような振る舞いをしなければならない。運悪く宇宙に来ていた地球連邦議員からは何度もコロニー自治政府主体の連邦政府として、セツルメント国家議会の設立をレビル主体で行うよう、混乱の最中打診がきている。

 

 

「脆いと申したのは……地球を失った我々とコロニーを失った地球。果たしてどちらが混乱しているのでしょうか」

 

 

「なるほど、そういうことですか」

 

 

もしジオンがこの異常事態に乗じて攻撃をすることがあれば、連邦軍の戦備体制など脆く、艦隊決戦前までにはジオンの先制攻撃などで多くがやられるかもしれない。コロニー自治政府など、地球連邦がいなければ成り立たない。唯一成り立つのはジオンや企業体が強い月面都市ぐらいだろう。一方、取り残された地球も非常に不味い状況となる。食料自給率の低さやコロニー経済に深く食い込む状況。コロニーという巨大経済がいきなり消えれば、嘗ての世界恐慌に匹敵。もしかしたらそれ以上の経済破綻が起こりえる。もしかすると、ヨーロッパやその他の人口密集地で多くの餓死者が出る可能性もある。レビルは地球連邦軍将軍としてオブラートに包むか、本音を言うべきか迷う。口から出たのははぐらかすという選択肢だった。

 

「イヌカイ首相、そちらのコロニーはどうですか?暴動が発生しててんてこ舞いでは?」

 

「連邦よりの人間はお通夜モードでして。一方ジオン独立を叫ぶやつらは夜を徹してお祭り騒ぎ。その双方がぶつかって喧嘩、今のところ小康状態が続いています。」

 

サイド5、ルウムの自治政府首相のイヌカイ氏は国内のジオン派と連邦派の政治家や防衛隊将校を纏め、地球連邦側とジオン双方に便宜を図っている。レビルとて、その政治的決断は理解している。地球圏の喪失によって、連邦軍とジオンの戦力差はかなり狭まっている。戦力そのものはジオンの三倍以上ある。艦隊戦力はジオンに匹敵するが、歩兵やその他の兵站は圧倒的に連邦に軍配が挙がる。それに暴動や政治不安など内憂が存在する。その隙を突かれて敗北した国家は歴史には五万とあり、レビルは慢心しないよう気を配らなければ『窮鼠猫を噛む』という言葉もあるように、敗軍の将として歴史に名が残るかもしれない。

 

 

「ジオンの情報部の動きはどうでしょうか?」

 

 

「情報操作と報道機関への圧力。ジオンの資本が根強いサイド1は世論が傾きつつあります。ジオンに与する政党が政権を握るものと外務省は睨んでます。あとはサイド6のラング政権はジオン寄りの論調ですが・・・・・・・あの狸は……」

 

 

 

イヌカイの表情は険しいものとなる。数億の人口を有するコロニー国家は地球連邦の軍事力の庇護下に置かれていることもあってか、さほど強硬外交は行わない。しかし、工業化と軍事独裁を成立させたジオンを含め、宇宙軍司令部のあるルウムや建設途中のサイド7「ノア」は比較的に連邦よりだった。どっちつかずなのが、月軌道上を周回しているサイド1(ザーン)とサイド4(ムーア)であり、政権を奪い取ろうとジオン寄り政党が世論を焚きつけていた。

 

正史における一年戦争の中立国だったサイド6(リーア)はジオンよりのラング首相率いる政権があり、ジオンの次に工業化を成立させている。ジオンとルウムの次に安定しているのは、ラング政権の政治手腕の賜物と言えよう。ラング首相の狸を思わせるような容貌と化かそうとしてくる巧みな政治手腕にはイヌカイやレビルも手を焼いている。

 

 

「ジオンがどう出てくるかでしょうな。既にルナⅡとあの惑星の観測に差し向けた艦隊には、先んじて動いていたジオンの監視を命令しました。あとは……」

 

 

「モビルスーツ・・・・・・・ですかな?」

 

 

イヌカイ首相の険しい顔で話し、神妙な面持ちで頷くレビル。既に新MS兵器である「ザク」と呼ばれる人型兵器の配備が行われ、諜報部の報告ではMSを中心とした部隊編成がなされ、中核戦力として位置付けているという。

 

 

だが、宇宙軍やジャブローの将軍たちの間では「ロボットアニメの見過ぎ」「ハリウッド映画のロボット」「カイジュウ映画に出てくるやつ」と苦笑していたと聞く。かつての兵器運用によって大局を左右した、ナチス・ドイツの対戦車戦を想定した戦車。航空機をメインとする空母機動部隊と真珠湾奇襲。過去の兵器運用の革新はいつ出来るか予測はできない。レビルは時代の流れを鑑み、ジオンのMSが兵器として実用段階にあり、ミノフスキー博士の核融合エンジンを用いた兵器は危険であると考えていたのだ。

 

「亡くなったミノフスキー博士の弟子を現在、MSの開発に充てているが……」

 

「アナハイムのMS開発部門の開発部長でしたね。今はサイド7に?」

 

レビルはイヌカイの質問にため息を吐きつつ「すべてお見通しか・・・・・・・」と呟いてしまう。

 

U.C.0076年からジオンはMS計画を進めていた。そして公国の配備計画を察知した連邦軍も技術革新の傾向から、「RX計画」を開始。アナハイム社は地球連邦設立当初からある軍産複合体企業であり、従来の兵器開発者を抽出し、MS開発計画に充てていた。また、ミノフスキー博士の愛弟子であるアナハイム社開発部主任のテム・レイも出向として技術大尉として任官した。既に、サイド7には重力・無重力の使用を考えた試験が行われており、既存の技術から数モデルの兵器がロールアウトされていた。だが、MS開発競争に勝ったのはジオンだった。ジオンの研究と政府の行おうとする作戦に狂気を感じたミノフスキー博士は亡命。月面スミス海を渡って連邦に亡命しようとしたが、情報部にそのことが漏れ、月面への政治工作を並行して連邦のMS12機とジオンMS5機が衝突した。

 

結果は対MS戦闘をも視野に入れたジオンの圧勝であり、連邦のMSである試作型ガンキャノンは大敗。ミノフスキー博士もその戦闘に巻き込まれて死亡した。そのことから連邦の設計思想に問題があると感じ、MS開発計画であるRX計画は大幅に修正され、対MS戦闘を主軸とした計画へと移行した。現在はその試験運用データを元にしたMS製造が先行開発され、スミス海のガンキャノンよりも高性能である陸戦型ジムRGM-78(G)やRX78の余剰パーツ、試作品のスペックに満たないが、使用に耐えるGパーツが存在し、ルナⅡやサイド7に多くのガンダムパーツが宛先がなくなってしまったために放置された。

 

 

月面での戦闘や連邦が考える新MS構想は既に政界に伝えられ、サイド5のイヌカイの耳にも入っている。それは不正規戦として闇に葬られていても、人の口に戸は立てられぬとあるように、有力者の耳にはしっかりと届くのだ。

 

「ガンキャノンは納品して地球へ。ただし、宇宙軍では配備できず。宇宙空間の能力は月面とは言え、完膚なきまで叩き潰されたのでね。試作品と余剰部品はルナⅡとサイド7に・・・・・・・・・」

 

 

「既にスミス海の戦闘の詳細がマスコミ各社に報道されている。他にもムンゾ自治時代の鎮圧映像や連邦政府の失策が各コロニーにて取り沙汰されているから、連邦への感情は悪くなる一方だ。しかも、宇宙軍の一部が暴徒化している。悪い夢かと思いましたよ」

 

「恥ずかしながら、我々も一枚岩ではないので……司令官としては公式に謝罪します」

 

イヌカイの苦言に謝罪の言葉を述べるが、公式会談ではないため、謝罪の体を為していない。

 

「ジオンとの戦争は避けられますか?」

 

「それは要請ですかな?彼らも地球が無くなった現在、戦争は彼らにとっても得策ではないでしょう。」

 

「連邦宇宙軍としてはそうは見ていません。ジオンは今回の一件を独立戦争として定義している。連邦政府が消失したからと言って、振り上げた拳を振り下ろさないとは限らない。それに軍の観測所によるとジオンの艦隊がサイド1へ向かっている。」

 

 

ジオン公国と地球連邦は年末まで必死の交渉を続けていたが、やはり長年搾取されてきたスペースノイドと支配者アースノイドの確執は止められないところまできている。それが、地球が消えたからと言ってすぐに立ち消えになるはずもないのだ。

 

「救援はどの程度?」

 

「既にティアンム中将の艦隊を編成して、サイド1救援へ送り出している。あとはジオンが……」

 

とレビルが言いかけた瞬間、オフィスが地響きと共に大きく揺れた。

 

 

「地震!?いや、ドックか?」

 

 

コロニーは遠心力を利用した重力を形成している。しかし、莫大なエネルギーが遠心力を作り出す根幹部分を揺るがせば、人工地震としてコロニーを揺らすのだ。耐震強度など考えていないコロニー建造物の多くは揺さぶられ、大きな被害を受けることだろう。

 

「レビル司令!緊急電です!ドックに攻撃を受けました!」

 

「ジオンのMSか?」

 

サイド1へかなりの艦隊を送っているジオン。そうすれば、ルウムのレビル艦隊へ攻撃を仕掛けるのは、少数の艦隊とMSによる攻撃しかない。オフィスの液晶スクリーンの映像には青い顔をした将校がレビルの答えを否定する。

 

「ジオンの大艦隊です!敵艦の数は凡そ100隻!」

 

「なんだと!?」

 

 

 

 

宇宙世紀0079.1.3  

 

ジオンによる電撃的な奇襲攻撃。宣戦布告文書は各コロニー政府に送られていたが、この混乱の最中にそれを政府中枢に持っていくことは出来なかった。

 

この戦いは「ヨコスカ湾奇襲」と語り継がれる連邦の大敗北だった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

UC0079.1.3 0800時 サイド5 15バンチ周辺宙域

 

 

ニューヨコスカは宇宙軍発足前から司令部機能を持たせていた地球連邦軍の拠点の一つである。シャアやガルマ・ザビによる暁の蜂起事件以降、ジオン自治政府からの要請によって駐屯地から撤収した連邦軍はサイド5の中心にある過疎化したコロニーを購入。一大軍事拠点を建設した。

 

周囲は、旧時代にアメリカ軍が海洋監視のために用いた音響監視システム「SOSUS」のように、精度の高いレーダー装置と環礁宙域に設置した監視施設などによって広範囲にわたって監視していた。

 

しかし、どんなに鉄壁な守りでも穴が存在する。嘗てドイツの脅威に対抗すべく建設されたマジノ線要塞もその強固な作りから驕り、西のアルデンヌの森を突き抜けて突破されてフランスは降伏している。完全な守りなどありはしないのだ。

 

「こちらライトニング3、目標地点まで残り、ローテク光学機器計測で30km。」

 

(了解、ライトニング3。何か目視で異常があればすぐに伝えてくれ)

 

「あいよ、了解した!ニューヨーク」

 

観測偵察機カモノハシに載るリュウ・ホセイ軍曹は操縦桿を握り、アナログな光学機器と情報リンクのない地図で慎重に進んでいく。ノイズの多い無線通信は何時切れてしまうか、偵察機のパイロットであるリュウは不安の色を隠せなかった。ただでさえ、薄くなった防御線。如何に防衛線を何十に張ろうとも、部隊をいくつかコロニーの暴徒鎮圧に回し、穴だらけの防衛線になっている。重厚な防衛線は過去の話。地球があれば、兵の動揺も幾ばくか抑えられていただろう。だが、なくなったことで、軍拘留施設は荒れた軍人たちで満員。臨時の拘置施設を設け、宇宙軍艦隊航空隊のリュウも防衛線巡回のために、臨時巡回戦隊の一員として、サラミス級巡洋艦ニューヨークの艦載機パイロットとして巡回任務に就いていた。

 

 

「ぐ、軍曹~。これってもしかしてジオンの噂のジャミング兵器ってやつですかね」

 

「わからんよ、眼鏡!この宙域のデータリンクが切れて、監視所との音信不通。単に磁気の乱れだったらいいさ。暗礁宙域から来た小惑星ならまだいい」

 

「幽霊船だったりして……」

 

「馬鹿いうな!だいたい、ここら辺にいるとすれば、老朽艦の標的艦だろう。本当なら警戒線に射撃場を作るなんて頭おかしいんだよ、上層部は……」

 

高々、巡回パトロール艦隊に着ける空母はいらないために、突貫工事でカタパルトデッキを溶接し、武装していない偵察機を艦隊に配備。問題のある宙域に向かわせていた。リュウからしてみれば、敵が来そうな警戒線に標的艦を置く神経が分らないと不満たらたらであり、レーダー観測班から引き抜かれた「眼鏡」の彼もリュウの不満を聞きながら周囲を見る。

 

 

「問題の監視所P/B1か……発光シグナルはない……」

 

 

偵察機が近づくにつれて明らかになる、その無残な監視施設にリュウとその眼鏡の彼は息を飲む。まるで、何者かが特大の斧でトーチカのような形の監視所を真っ二つに割り、逃げる監視員を執拗にハチの巣にした惨状はどう見ても、敵の破壊工作の一環に違いなかった。

 

「くそ……もう始まってやがる!!」

 

リュウは咄嗟の判断から、偵察機カモノハシの発光となる光をすべて止め、機器の液晶画面の光までもシャットアウトし、やや、翼が浮遊する小惑星にぶつかり、歪むがそんなことは気にしない。標的艦の後ろに隠れると、エンジンの出力も最低レベルに設定した。

 

「わ、嘘!まじかよ」

 

「ぐ、軍曹!静か……しなくてもいいが、落ち着け。宇宙空間では光を出せばバレるぞ!」

 

―何にばれるのか?

 

眼鏡の観測員の彼が言おうとしたとき、真上に緑色の船体が横切っていく。カモノハシの数十倍もしくは数百倍以上になる大きさの物体が真上を通り、発光信号も消し、エンジンを極小にして、ほぼ慣性航行によって目標へと進路を取っていた。見れば、巡洋艦らしき船の横にはバルーンのような軍艦に偽装したものが見えることから、何をするのかわかりきっていた。

 

「奴ら、ヨコスカに奇襲攻撃するようだぞ」

 

 

「どうするんです?」

 

「ここまで強力なジャミングだと本隊となんて連絡付かない・・・・・・・・・何か手は・・・」

 

「クソ、この機体では蠅のように叩き落されちまうし・・・・・う~ん……」

 

 

たかが偵察機では巡洋艦相手に戦うことは不可能である。先行してきたとは言え、パトロール艦隊を撃破して一気にコロニーへ攻撃を仕掛けるだろう。玉砕覚悟で攻撃しても、蠅の如く叩き落されるのは目に見えている。

 

「あれを使うしかない……眼鏡、キャノピー開けるぞ」

 

 

「え、軍曹!さすがにそれは」

 

 

リュウが目指すのは艦隊、もしくは司令部へジオンの攻撃を伝えること。磁気嵐やミノフスキー粒子のせいで敵の攻撃を察知できないのではと、メガネの彼は考えた。だが、リュウは宇宙空間での緊急移動用のワイヤー発射装置を準備し、キャノピー解放レバーに手を伸ばす。出来る事なら老朽化した標的艦に設置された何らかの通信機や発煙筒を回収しようと考えていた。しかし、メガネの観測士は何を見たのか叫びだす。

 

「軍曹!軍曹!」

 

「落ち着け!眼鏡、司令部と艦隊に連絡しないとまずいだろ!だから……」

 

「上!上です!」

 

リュウは眼鏡の彼の指さす方向に目を向ける。そこには、ジオニック社製モノアイが動き、120㎜弾M-120A1ハイパーライフルの銃口が彼ら二人の乗る偵察機に向けられた。

 

 

 

 

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「各部損害報告!」

 

「コロニー外壁損傷!A13からA19の隔壁が破壊、大気の流出が確認されています!」

 

「着弾の地点から放射線探知!核弾頭です!」

 

「なんでジオンの戦闘機を発見できなかった!」

 

「大尉!違います!数分前の巡回している『アルデンヌ』からは人型らしきものがランチャーを発射と報告しています。あれはMSです!」

 

「どうだっていい!迎撃戦闘機を順次出せ!MSがでくの坊であることを証明しろ!」

 

13バンチコロニーの戦時司令部。各基地の戦闘の情報を統合し、指揮を行うCIC(指揮通信センター)はお祭りのように騒がしい。まるで、何処かのオペラ座か映画館のような構造だった。巨大な液晶画面があり、コロニー外縁宙域の配置が表示され、また半分の液晶にはコロニーの損害報告が表示されている。

 

「レビル中将、入室!」

 

CICに入ったレビルは険しい表情を浮かべていた。周りは緊急事態であるにもかかわらず直立敬礼の状態であったために、怒鳴り声にも近い声を響かせた。

 

「敬礼はしなくていい!!状況は!!」

 

 

「はっ!ジオンのMSが核搭載ミサイルを3発発射し、二発は迎撃システムで撃ち落としました。一発はコロニー外壁を破壊。破損により、大気が流出しています。」

 

13バンチ、「ニューヨコスカ」は完全な軍のコロニーであったため、核防護壁は万全であり、破壊されたとは言え、そのためのリカバリー策も昂じてあった。既にコロニーの気象設備にあるバルーンが打ち上がり、亀裂の生じた場所にくっ付くと、破裂した。粘度の高いスライム上のそれが吸い込まれる物と絡まり合い、大気の流出は収まった。僅かながら空気が出ているが、許容範囲内である。

 

「近くの防空巡洋艦を有する艦隊を側面防御に向かわせろ!敵はミノフスキー粒子で電子機器の殆どをジャミングして、誘導兵器やコンピューター制御は殆どできない。」

 

その命令に殆どが目を点にする。

 

ミノフスキー粒子、電子機器を主とする兵器類がそれによって全て無効化されてしまう。現在のミサイルやメガ粒子砲の照準装置、各艦隊の兵器リンクシステム、通信機器など殆どがダウンする。核のEMPの方が未だマシともいえるだろう。連邦軍の装備にはある程度核兵器使用によっておこるEMP(電磁パルス)を想定した装備もあったのだが、今回起きていたのは高濃度のミノフスキー粒子の散布。それによってほぼすべての電子機器が使用不能に陥っていた。

 

「これは我々がしたこともない戦いの幕開けだ。ハイテク機器や誘導装置、イージスなど役には立たん!すべて人の手で敵を撃て!」

 

「ティアンム艦隊を呼び戻しますか?」

 

「いや、いい!通信兵、コロニー周囲の艦隊に有視界戦闘を開始しろと伝えろ!通信回線は生きているか?!」

 

「いえ、データリンクシステムやレーダーが殆ど使い物になりません。映像のノイズも酷く、発光信号ぐらいでしか……」

 

「構わん、モールスの平文でも発光信号でも、全艦隊に伝えろ!」

 

混乱の極みにあったCICであったが、レビルの檄によって正気を取り戻した士官たちは急いで兵器システムの切り替えとベイに係留された軍艦の出航命令を矢継ぎ早に出していく。しかし、コロニー外壁に取り付けられたセンサーがジオンの動きをとらえていた。

 

 

「敵戦力は?」

 

「はっ、敵は三方向から攻撃を集中しております。敵の数はムサイ級が二十数隻ほど確認されています」

 

「ジオン軍艦艇の4分の1か、首を先に切り落としにかかるか」

 

 

ジオンは80隻ほどの艦艇をそろえている。しかし、火力で言えば巡洋艦のサラミス級に劣る。所詮、輸送艦を改装した商船と連邦軍兵士は侮っていた。最初は100以上の大艦隊だと思ったが、アナログ式望遠カメラで覗けば、欺瞞用のバルーンを使用したものであることはわかっていた。実際の艦艇数は80以下になるかもしれない。戦場での偽装は古代から行われている戦術の一つである。第二次大戦中のアフリカにおいて、自軍の戦車を多く見せようと、張りぼてや写真を駆使して欺瞞部隊を作り上げていた。ムサイに似たバルーンが陣形を組んで航行しており、その艦隊モドキはザクの牽引によって艦隊行動を行っていた。

 

「MSはどれほど展開している?」

 

「ベイ周辺宙域に不審な人型兵器らしき物体を目視で確認との情報あり。散発的な攻撃が相次いでいます!」

 

「敵は人型兵器に核を抱えている。これ以上核攻撃をさせてはならん。」

 

ジオン軍のMSは艦艇の多いドックやベイへ攻撃を集中させており、コロニー内部の部隊を封じ込める作戦に出ているようだった。ティアンム中将率いる艦隊よりヨコスカの有する艦艇の方が規模は少ないが、このコロニーにはレビルを含めた宇宙軍司令部が置かれている。多くの神話や歴史が物語っている。首都や司令部、頭脳さえ壊せば、その機能は停止する。ジオンは残存する連邦を消しに来たのだ。

 

 

「空母『アカギ』より偵察機の映像が届きます。スクリーンに表示します!」

 

コロンブス級輸送艦を改造した空母「アカギ」。メガ粒子砲の撃ち合いと巡航ミサイルの撃ち合いと迎撃が宇宙の戦いだった時期において、空母の戦略的立ち位置は低下している。宇宙空間は従来の雷撃や対艦攻撃に用いられることは殆どなくなり、耐放射線や漂流物の防護のために分厚くなった宇宙軍艦を撃破するには火力不足であった。

 

航空機を運用する空母は表舞台から姿を消し、あるのは輸送艦とユニットを同じくする改装艦か強襲揚陸艦の類に限定されていた。それでも、宇宙軍に空母が存在する理由として、未だに宇宙における戦闘機や攻撃機の存在が重要視されている表れかもしれない。宇宙世紀における地球連邦軍の優位性や宇宙空間での戦闘が行われなかった歴史を踏まえると、すべての状況に対応できるようにと考えるレビルの知将故の判断だったはずだ。CICの巨大スクリーンに映される艦載機から録画され、転送される映像。ミノフスキー粒子によって、ジャミングの影響を受けつつも、比較的距離の短い通信設備を経由しているのか、ノイズがありながらも、ある程度は理解できるその映像はCIC内にいる人々の目を釘付けにした。

 

「おいおい!冗談だろ!」

 

誰かがつぶやいた言葉、冗談であると思いたい。

 

どこから持ってきたのか、巨大な円筒状の植民地(コロニー)がニューヨコスカへ急速接近してきたのであった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「諸元入力完了!目標、コロニーベイ及びバイタルパート!発射弾数8、弾種November(核弾頭)!」

 

「艦首、ストーム(巡航ミサイル)準備完了!」

 

「ストーム発射はじめ!」

 

「ストーム発射…てぇ!」

 

サラミス級の艦首に設けられた八基の発射管に入った戦術核巡航ミサイル、ストーム【UG-70A TLAM-N】が発射され、迫りくる100億トンもの質量を持つコロニーへと向かう。既に、ミノフスキー粒子によるジャミングから電子制御の信管は作動しなかったため、急遽原始的なVT信管へと切り替えていた。他にも手動やアナログな信管を用いたものがあったが、宇宙世紀に入ってアナログな方法は非常に手間のかかる作業だった。

 

 

「弾着まで五秒!」

 

「護衛のジオン艦隊が『オーカム』『ブルックリン』を攻撃中!方位320上30より小型飛翔体3近づく!距離はおよそ4000!」

 

「各砲術迎撃しろ!敵のMSだ!」

 

「ファランクス撃ち方始め!各銃座は自由射撃を!」

 

サラミス級巡洋艦『イオージマ』のCICは混乱の極みであった。訓練では画面越しから操作し、レーダー誘導による攻撃を行っていた。しかし、ミノフスキー粒子の影響のため、レーダー誘導はおろかミサイルの起爆すらままならないような状態となった。ミサイルは原始的なVT信管に切り替え、目視による有視界戦闘を切り替えたため、CICは旧世紀の第二次大戦中の如く、騒がしいものとなった。

 

「弾着まで3秒!」

 

「艦橋及び有視界戦闘を行うものは目を覆え!!」

 

艦橋にいた航海長の号令と共にノーマルスーツを着ていた航海科の彼らは遮蔽シールドを下すか、片手で顔を覆う。その瞬間、強烈な光に包まれ、原子の炎によって第二の太陽が生まれた。

 

「やったか!?」

 

 

その光景を見た航海長は呟き、何名かはその台詞を聞いてギョッとした。何故なら、物語やゲームでいう「フラグ」に他ならず、爆発と破片、そして爆風にちかい煙が周囲を覆い、CICや艦橋のセンサーに「高放射線警報」が鳴り響く。

 

そして煙から現れたのは破壊された残骸ではなく、原形をとどめるコロニーだった。

 

 

「あれ、テキサスコロニーじゃないか!?」

 

 

軍用の核パルスエンジンが搭載された、ヤシマ工業の印も刻印された外壁に「Texas」の名が塗られており、軌道を外れたコロニーは互いに衝突するようにパルスエンジンを用いて修正が加えられていた。コロニー同士の衝突は植民当時に何度かあったが、現在では滅多なことがないかぎりありえない。ぶつかったとしても「コロニー落し」程の破壊力はない。

 

しかし、コロニー同士がぶつかり合うことで、軌道からそれて他のコロニーや月へ、もしくは地球への落下軌道に入ることが予測される。宇宙軍司令部の置かれるニューヨコスカも無事ではすまない。急激な衝突によって、内部の気圧や重力は変動。度重なる核攻撃から、衝撃に耐えられずに圧力から瓦解する可能性もあるのだ。

 

 

「ジオンの野郎!ふざけやがって!」

 

 

(こちら『ブルックリン』!敵のMSが本艦をっ……うぁぁ!!!!)

 

通信士の悲痛な叫びと共に僚艦であったサラミス級巡洋艦のブルックリンは艦橋とエンジンに至近距離から核弾頭を受け、撃沈する。乗組員の離艦も間に合わず、その光景を目にしていた航海長は悲痛な表情を浮かべた。

 

 

「旗艦『ミョウコウ』が中破、艦隊司令より撤退信号!」

 

「んな、バカな!目の前にコロニーがあるんだぞ!」

 

 

航海長の隣にいた水兵は艦隊司令の撤退命令に憤慨するが、パトロール艦隊の半数以上が大破または撃沈している時点で撤退もやむを得ない。しかし、艦の真正面から高速で向かってくる物体があった。

 

「前方、MS接近!」

 

 

「弾幕を張れ!ファランクスとメガ粒子砲もだ!」

 

 

「銃身が溶けています!第一、第二砲塔も使用不能!」

 

航空機用の自動機銃を手動で放ち、弾幕を張るものの、対艦装備のMS-06CザクⅡの敵ではなかった。頼みの綱であるメガ粒子砲の砲塔は度重なるジオンの艦砲射撃の応射から、砲身は焼けて、発射はもはや不可能であった。

 

 

「敵機吶喊!」

 

「全員、耐ショック防御!」

 

ザクから放たれるAPFSDS120㎜弾が発射され、艦のバイタルパートを貫通し、重要区画をズタズタに切り裂いた。その弾の一発が艦橋に命中。戦車砲クラスの弾が艦橋を撃ち抜き、内部の空気が一気に放出。乗り込んでいた多くが空に吸い出された。しかし、砲雷科が意地を見せたのか、甲板のVLSにあった対艦ミサイルが発射され、ザクの胸に丁度命中し、コックピットを貫通・その推進力をもって吹き飛ばした。破片と爆風が再び艦橋を襲うが、幸運なことに撃たれた弾が徹甲弾だったことで艦橋は窓を破壊されて貫通された以外、全くの無傷であった。

 

「各員、損害(ダメコン)報告!」

 

 

「航海科二人が戦死!第一、第二甲板の応答ありません!」

 

「CICとの連絡途絶!……艦長他戦闘班が全滅!エンジンも焼き付く寸前です」

 

ただ一人、士官として生き残った航海長はあまりの損害報告に呆気に取られてしまう。爆発の前にノーマルスーツのフェイスガードを下ろしておいて正解だったと安堵しつつ、CICに放たれた砲弾が戦闘任務中にノーマルスーツを着る必要のないCICの要員を皆殺しにしてしまったことに怒りさえ沸かず、彼はその事実を受け止めきれなかった。だが、彼は軍人であった。すぐに、現在の状況を判断し、自分が最上級士官であることを思い出し、直ぐに命令を下した。

 

「総員、脱出ランチで離艦!この船はもう無理だ!全員離艦だ!」

 

「りょ、了解!」

 

ヘルメット越しの通信を行い、艦内放送と共に離艦命令を下す。既に兵器システムも不調であり、満足に戦うこともできない。航海長は破壊された艦橋と同僚らしき体の一部を見つつ、急いで生き残った乗員を脱出用ランチに誘導する。

 

「おい、其処の三等航海士(サード)!まだ、舵は効くか?」

 

 

「は、はい。機関もあと十分が活動限界ですが動きます」

 

航海長はまだひよっこである若い三等航海士を捕まえ、破壊された舵につないだ小さいウェアラブルデバイスを指さした。

 

「よし、お前がランチに載ったら、すぐさまランチを出発させろ。俺は残る」

 

「そんな、航海長!」

 

航海士は止めようとするが、航海長はホルスターから銃を取り出し、航海士へと向ける。

 

 

 

「な~に、最後の意地を見せてやるのさ。うまくやればコロニーを破壊できる」

 

 

一種の賭けであったし、犬死の可能性もある。だが、そんな行為に部下を巻き込みたくはない。連邦宇宙軍といっても、海軍精神盛んな現場であるため、生き残った水兵は自らの意思で自分の犬死行為の犠牲になるに決まっている。

 

 

「待ってください、航海長!」

 

 

「行け!さもないと抗命罪で撃ち殺す……ほら、さっさと行け!」

 

 

航海士は悔しい様子で艦橋を後にする。出来ることなら彼も故郷の妻と子に会いたかったが、既に青い(地球)はない。

 

 

「あー……ロスのジュリアとトーマスに会いたかったな~」

 

 

軍服の胸ポケットにあるが、映画のように家族写真を眺めることはできない。出すにはノーマルスーツを脱がねばならないし、脱げば全身の血が抜けて死に至るのだ。

 

 

航海長は壊れた舵に装着されたデバイスを操作し、パルスエンジンの可変ノズルを操作してテキサスコロニーへと進路を向ける。

 

 

操舵する艦橋から見える脱出用ランチが離脱していく様子に敬礼をし、炎上する前甲板と艦橋下のCICを破壊した弾痕から出る空気と炎上する煙の向こう側には、砲塔をこちらに向けるムサイ巡洋艦の姿があった。しかし、砲撃をする前に他のサラミス級『ハンプトン』がメガ粒子を艦橋とエンジンにぶち当て、大破させる。航海長は全速力に速度を挙げ、コロニーの中で一番脆い部分。厚さ1メートルのポリマーと水によって遮蔽された部分を貫き、コロニーの中心部にある柱に目掛けて進み、エンジンを臨界まで出力を上げた。

 

 

サラミス級巡洋艦『イオージマ』は損傷した核融合パルスエンジンが暴走し、人工の太陽が形成される。それは、実際の恒星に比べれば何億分の一位のエネルギーでしかなかったが、コロニーを破壊するのに十分な爆発であった。

 

 

テキサスコロニーは中心から真っ二つに折れ、失速する。

 

 

しかし、核パルスエンジンによって押されたコロニーの半分はそのまま、ニューヨコスカのコロニー中心部に到達。核攻撃でも貫くことが出来なかった隔壁に穴をあけ、事実上地球連邦軍司令部は崩壊した。

 

 

 

 

 




2019/06/30 変な日本語を修正

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