慈恩公国召喚   作:文月蛇

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今回はかなりの難産。

というのも、最後の締めがなかなか難しかったです。


第十九話 ル・ブリアスの太陽 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィルアデス大陸の西側。そこはパーパルティアに属さない小国が無数にある地域。文明圏外国家が幾つもある中、その文化は東欧州にも似ている。その中でもアルタラス王国は文明圏外国家の中でも大国に位置する国家であった。

 

多くの国民を擁し、豊富な鉱物資源を有する。そして、古の魔法帝国の遺跡が多く存在し、様々な海外の研究機関を呼び寄せ、大きな収益を得ていた。経済も好調であり、王都ル・ブリアスの活気は列強の地方都市を凌ぐ。今なお、交通機関は馬車でもあったが、首都の道路には魔導車が多く走っており、明治か大正の日本を思わせるようだ。馬車と自動車が混ざっている光景はその国の近代化が着々と進んでいるように見える。その光景を誇らしく思うだろう国王ターラ14世は、苦渋に満ちた表情をしていた。

 

 

「これは・・・正気か?」

 

 目を通す外交文書にはとんでもない事が書かれている。パーパルディア皇国からの要請文、毎年皇国から送られてくる要請文であるが、「要請」とは名ばかりであり、事実は命令書である。

 

 

「ありえないな・・・。」

 

ターラ王は頭を抱える。

 

 パーパルディア皇国は前皇帝が崩御した後、現皇帝ルディアスが即位した。皇帝ルディアスは国土の拡大、国力増強を掲げ、各国に領土の献上を迫っていると聞く。しかし、そこは無難な場所であったり、双方に利がある場合が多い。拡大政策によって国民の支持を得て、一方で産業の転換と育成を図ろうという魂胆なのだろう。

 

だが、産業の急激な発達から第三次産業の肥大化。第一次産業や二次産業を担う属州や近隣諸国への圧力が強くなっていた。すでに属州では強引な搾取体制によって餓死者や暴動に発展。その都度国家監査軍の部隊や統治機構に任命された傭兵部隊が虐殺行為を行い鎮めている状態。一応、文明圏外国家として繁栄するアルタラス王国には直接的行動に出ていないが、どう見ても送られてきた外交文書には文明圏外国家と一戦交えようと考えているのではと思うぐらいの内容である。

 

その内容は、王国有数の魔石鉱山シルウトラスの譲渡及び、古代遺跡であるシルウトラス古代都市の管理を全て割譲。アルタラス王国王女ルミエスを奴隷としてパーパルディア皇国へ譲渡。農作物などの食糧数十万トンの譲渡。

 

 

「出来れば武力を使用したくないものだ」

 

その最後の一言が余計だった。

 

横暴の何物でもない外交文書を破いて燃やしたくなるターラ王は、必死に玉座の手摺を握る。既に怒りのあまり、爪が折れて血が滲み出ており、メイドが狼狽える程に憤慨していた。

 

 

魔石鉱山シルウトラスはアルタラス王国最大の魔石鉱山であり、国の経済を支える中核であり、世界でも5本の指に入るほどの大鉱山である。そしてその近くにある古の魔法帝国の古代都市の遺跡が存在する。それは各国研究者が侵略してでも欲しいとねだる程であり、近隣のシルウトラスは各国研究者の落す金によって経済が回っている状況である。それを渡せというのは、様々な国家から技術援助や招致している技術者が帰る可能性もあることから、国力は格段に落ちる。

 

 さらに、王女の奴隷化。これはパーパルディア皇国に全く利の無いものであり、明らかにアルタラス王国を怒らせるためだけにある。そもそも、実の娘を奴隷にして売れという暴虐非道な外交文句に対し、それでも文明圏かと叫びたくなる国王だった。

 

 

―まさか、侵略戦争を起こす気では?

 

冗談なのではと思えるほど、国王も馬鹿ではない。近年のパーパルティアの蛮行は目を覆いたくなる。高圧的で非常識な外交官ではあるが、フィルアデス大陸すべての国家が敵対して、嘗ての大陸戦争を再現させようとは思わないはず。補佐官に連絡し、外交文書について王宮に来てもらうよう要請することを決め、王宮警護官や宮長へと連絡する。そして、ある人物に会談の内容を見てもらうことになり、パーパルティアの外交官が来たのはその日の夕刻だった。

 

 

 

 

「蛮族の分際で呼び出すとは何たる事か。この田舎町に我が皇国の出張所があるからと、我々を呼び出して何様のつもりだ!」

 

パーパルディア皇国第3外務局アルタラス担当大使ブリガスは椅子に座り、足を組んだまま1国の王を呼びつけた。一応、そこの席は外交官用の席ではなく、ターラ王の玉座であるのはブリガスも知っていた。明らかに外交的に失礼な振る舞いに王は言葉を失う。

 

 

―これほどまでに列強になると、無礼な態度をとるのか……

 

 

国力が劣るからと他国の王に対して失礼を行う外交官は世界広しと言えどもパーパルティアだけだろう。ムーや神聖ミリシアル帝国の外交官でさえ、礼儀は弁えている。所有する古代文明の遺跡の調査するために場所を借りたいと、列強外交官が自ら頭を下げてきた。若かりし頃にミリシアル帝国に短期留学し、ムーに息子を留学させたこともあるターラ王は近隣国の振る舞いに改めて辟易していた。

 

 

 

「本題の前に列強と言えども、礼は弁えてもらいましょう。あなたの席はそちらにてご用意しています……そして我が国の宮廷女官は娼婦ではございません。先程警護官から連絡がありました」

 

礼を逸しているだけでなく、他国の宮廷女官に陵辱しようとしただけでも外交問題に発展する。それは未遂に終わったが、その仕返しに王族の椅子に座る男に対して、「てめぇ、それでも列強か」と怒鳴りたい気持ちを抑えて、冷静な口調で話す。

 

 

「悪いか?蛮族の女の味見位いいだろう?」

 

 

警護官の手がホルスターに伸びかけ、近くの宮廷女官の護身用ナイフが光る。だが、そこまで言われて怒らない人間はいない。流石に身の危険を感じたブリガスはそのまま不遜な態度をし続け「本題に入ってもらおう」と言うさまは流石と言える。

 

 

「魔石鉱山シルウトラスは我が国最大の鉱山です。他の条件も飲むわけには参りませんな」

 

 

「他に鉱山はあるだろう。それとも何か?え?皇帝ルディアス様の意思に逆らうというのか?」

 

 

「皇国とは友好関係を築いてきたではないですか!?これは流石に常識外れもいいところだ!」

 

「我が皇国の成長、敷いてはフィルアデス大陸の栄光のために貴国に助力を要請しているに過ぎん!」

 

「先の通商条約でも貴国には関税を抑えております。これでも足りぬと?」

 

 

「足りぬとも!我が皇国が貴国を属領にしないだけあり難いと思え」

 

暖簾に腕押し、まるで話が通じない。パーパルティアの産業の偏りは属州に波及し、近隣諸国へも影響が及んでいる。既に自前の軍事力を背景に通商条約を結ばさせ、アルタラス王国の鉱物資源や農作物を格安で購入していた。更なる譲歩はこちらに利があるものでなければ納得はしない。

 

「先の外交文書に関して我が国のメリットは?」

 

 

「貴国は我が国の近隣国であろう?それで十分ではないか?」

 

 

―コイツとは世界が違う

 

 

 

ターラ王は話を変えることにした。

 

「では、我が娘、王女の事ですが、何故このような事を?冗談は外交文書に書かないのが通例でしょう。今後は困ります」

 

 

「ああ、あれか。王女ルミエスはなかなかの上玉だろう?俺が味見をするためだ」

 

 

「は?」

 

再びターラ王は言葉を失う。一体この男は何を言っているのか、『目が点になる』というのはこういう事を言うのだろうか。ターラ王はあまりにも信じられない台詞に固まった。

 

 

「俺が味を見てやろうというのだ。まあ飽きたら、淫所に売り払うがな」

 

 

「……それも、ルディアス様の御意思なのですか?」

 

アルタラス王国とパーパルティアの歴史は長い。それこそ、先々帝の起こした大陸統一戦争では敵同士であったが、宥和政策と優れた魔導技術の輸出と鉱山資源の輸出から経済的には友好関係を築いていた。先代とはそれこそ付き合いが長く、現皇帝のルディアスとの関係は悪くない。鉱物資源の輸出に関しては便宜を図ってもらえるよう確約を得ていたのだから。

 

目の前の外交官ブリガスは蓄えた脂肪を震わせ、憤慨する。

 

 

「あぁ!その反抗的な態度は一体!?皇国の大使である俺の意思はルディアス様の御意思であろう!」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

「んだ?言ってみろよ愚王!今なら俺の足を舐めれば許してやろう!」

 

 

ターラ王はぼそぼそと呟くが、ブリガスの耳には理解できない。そもそも、ブリガスは第三外務局の左遷された官僚の一人。第三外務局は属領や小国への搾取を任とする。そこまでの仕事ではなく、重要視されていない。ブリガスは能力不足と人格破綻者も相まって来た一人。だが、彼に与えられた外交官の任は彼の自尊心を肥大化させ、汚職塗れの汚い豚へとなり下がった。

 

 

「ほら、早くしろ!それともてめぇの娘の穴を・・・・・・・・・」

 

 

ブリガスが続けようと口を開くものの、眩い光と破裂音に言葉を詰まらせる。そこにあったのは硝煙と自身の弾けた足の指であった。

 

 

「あぁぁぁぁ!クソ!痛っいいいぃ!!!」

 

 

突然の激痛と指の消失したことで彼の頭は混乱する。たかが野蛮な王へ脅しつつ、譲歩を持ち込もうと考えていたが、あまりの出来事に頭がついていかず、ブリガスは姿勢をくずして椅子から転げ落ちる。

 

そして、視線を向けると、金属製の何かを構えるターラ王の姿。その金属製の何かとは、ジオン製の復刻されたワルサー社P-38が握られ、発砲したため硝煙が立ち上っていた。

 

 

「お前、お前!何をやったか……」

 

「儂には汚い肥え太った豚が喚き散らしているようにしか見えませんな」

 

涙と鼻水を垂れ流す彼の顔は正に家畜と言った有様であり、ターラ王は微笑みながら、その拳銃を眺めている。

 

「さすがはジオン公国の拳銃だ。まだそこまで撃っていないが、狙った場所にしっかりと当たる。パーパルティアのフリントフックより扱いやすいですな」

 

「皇国にたてつくつもりか!」

 

「……正直申しますと、もう少し友好的態度であれば妥協案をすり合わせて考えました。ですが、貴方はどうしようもない薄汚れた豚野郎だ。不遜な態度とあなたの家畜のような酷い匂いはあまりにも鼻につく。我が王宮に入らないでいただきたい。」

 

 

「皇国は貴様らを滅ぼす!今に見ておれ!お前の妻と子を泣き喚いても、陵辱の……」

 

「黙れ」

 

夫としてのターラ王、父親としての彼が引き金に指をかける。その銃口の先にあるブリガスは汚物を垂れ流すという恥ずかしい行動をしたが、ターラ王はそのまま発砲し、もう片方の爪先を吹き飛ばす。

 

「つぅぅぅぅ!!!!」

 

声にもならない声が響き渡り、ターラ王は近くの警護官に「領事館に捨ててこい」と命令してその場を後にする。目指すのは隣の間。今だにブリガスの叫び声と「覚えていろ!」という負け犬の遠吠えにも似た叫び声が反響する。そんなピリピリと張りつめた空気を振り払いながら、一緒に歩む補佐官に命じた。

 

「あの家畜外交官をパーパルディア皇国へ送り返せ。国交断絶の趣旨の書類を外務卿に命令。それと、皇国の資産を全て凍結。皇国民は全て国外追放にする」

 

 

更に王国軍の連絡担当官にも命令を送る。

 

「現時点を持ってパーパルティアを仮想敵国とする。全部隊に厳戒態勢に移行。速やかに国境封鎖を行え。」

 

「はっ!」

 

 

ターラ王は待たせている客人の元へと歩いていき、扉を開く。其処は言わば王族のみが入ることを許される間であるが、パーパルティアの礼儀を欠いた者を入れることはなく、もっとも信頼の厚い外交官のみ入室を許される。外部の諜報機関からシャットアウトされ、諜報用魔導道具も妨害され、電波妨害も可能なそこは王宮の機密性の高いエリアである。

 

 

誰が居るのかすら、外部から見ることはできない。声だけは微かに聞き取ることが出来た。

 

 

「お待たせして申し訳ない。パーパルティアとは国交断絶を行いました」

 

「……」

 

「いえ、これも予定された行動です。既にマンダの機関が破壊工作を行っています。貴国もその企てに賛同していただき、非常に感謝いたします」

 

「……」

 

「シルウトラス鉱山の近くにある古代遺跡でしょう。あの場所ならば古代のテクノロジーが秘められた場所がありますので。ええ、こちらは管理権のみ保有してますから、あなた方の研究資料を我が国の研究機関にも共有と言う形で……いやそれはいいです。中々その色で菓子とは凄いですね」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「既にムーの兵器類やミリシアル製兵器も導入済みです。しかし、戦時下には何らかの混乱が考えられます。我が国としては……ええ、それは総帥閣下によろしくお伝えください大佐殿」

 

 

 

 

 

 

 

 

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この惑星の国々を特徴づけるとすれば何だろうか。神聖ミリシアル帝国は最先端技術を持つ大国。そのすべてのテクノロジーは未知数のものであり、あまりにも次元の違う国家であることから、その存在感は凄まじい。

 

次にムーの機械文明は、言わば効率性を高めた国家であり、ミリシアルの次に大国である。その機械技術は魔導文明につく精巧さであり、魔導文明への対策も怠らない。その国力はミリシアルに次ぎ、仮に戦争状態になっても膠着状態にまで持ち込むことが可能である。

 

そして次のパーパルティアは何かと考える。それは温暖な環境を土台とした、優雅な文明だろう。魔導文明や国力はミリシアルに次ぎ、人口はムーよりも多く、経済規模はムーよりも多い。現時点でムーよりも上でないのはテクノロジーへの到達具合がムーを超えていないからだろう。

 

その事から文明圏国家の自尊心が肥大化しているのではないだろうか。劣等感から来るプライドは歪な官僚制と経済体制から肥大化。文化面にも如実に反映され、皇都エストシラントの主要施設の一つ一つが芸術品になっていた。

 

皇都の行政区。皇宮はパーパルティアの威光を示すために、パーパルティアの著名な美術家を雇い、柱の1本1本まで繊細な彫刻で作られており、その光景は嘗てのギリシャ文明やローマ帝国の様式にも似ている。所々、金銀に彩られ、魔導鉱石による照明によって明るく照らされている。

 

宮殿の内装はまるで、この世の富を集めたかのようだ。この皇宮を訪れた各国の大使や国王は思うだろう。

 

ここは神の国かと。あたかもそれらはフィルアデス大陸の神の国を模したかのようなもので訪問した客はそれに圧倒する。美を追求した庭やそれを維持する能力はパーパルティアが大国であるからこそ。

 

 何と凄まじい規模の都市かと。何と国民が豊かなのだろうかと。何と美しい町なのだろうかと。第三文明で最も優れた民族と優れた貴族が統治し、最も優れた皇帝が統べる。

 

 

その謁見する間の中でも官僚との会議に使われる、フェンの『密会の間』に近い机の配置とその閣僚会議を見下ろすように設置された玉座からは皇帝ルディアスが座り、その皇帝に跪いている男が一人いた。

 

「おもてをあげよ」

 

 第3外務局局長カイオスは、冷汗をかきながら顔をあげる。嘗て皇国大陸軍の将軍達の末席にいた彼。叩き上げの大将として兵や指揮官の支持は今でも熱い。カイオスはまるで某ハリウッド映画に出てくるような将軍である。あたかも、都落ちして奴隷となり、最終的に怨敵と一騎打ちで倒すグラディエーターのようだ。そんな彼が強張った表情と冷や汗をかいていることを考えると、難題が持ち上がったのだと推測できる。そしてその彼の跪く先にはかなり若い皇帝が座っていた。

 

その先には27歳といった若さからは想像も出来ないほどの威厳を保つ、若き皇帝ルディアスの姿があった。その容貌は美青年と言っても差し支えない程。歩けば花が咲き、息をすればマイナスイオンは発生させるのではと考える程だ。

 

だが、そんな彼の威厳は長年君臨していた先帝と同じくらいであり、更にその判断力と政治家としての能力は桁外れと言っていい。皇帝ルディアスは玉座から立ち上がると、拳を振るわせながら口を開いた。

 

「フェン王国への懲罰の監査軍の派遣、予への報告はなぜここまで遅れたのだ!?」

 

 

「真偽が分らないような状況と部下の監督不行き届きで……」

 

 

「たわけ!!」

 

皇帝の叱咤が飛び、カイオスは委縮する。

 

 

 

「予へ派遣の報告を行わなかった事はどうでも良い。それは予が認めた第3外務局の権限だからだ。一々蛮国への侵攻報告など受けてしまえば時間の無駄。お前には最大限の権限を与え、国家監査軍の指揮権を与えていたのだ。なぜ、東洋艦隊が壊滅したかだ!」

 

 

 カイオスの顔から滝のように汗が吹き出る。現政権下で失敗した軍人の首を刎ねることはしない。しかし、局長解任もあり得るこの事態。仕事こそわが命と言えるカイオスが解任を皇帝から命ぜられれば、自刃も選択肢に入れていた彼は歯を食いしばって皇帝の問いに答えるべく顔を上げ続けた。

 

 

「何処にやられた?まさかフェン王国か?」

 

 

「目下全力で対象国の割り出しを行っております。情報が錯綜しており、正確な情報が得られておりませぬ。ただ、ムーの軍事援助と思しき情報とロデニウス大陸のジオン公国が矢面に立ったとの情報もございます」

 

 

「またもやあのジオンか。我が皇国に滅ぼしてほしいようだな……」

 

 

 皇帝の顔が怒に満ちる。

 

 

「野蛮人国家が皇国に牙を剥くという事はどういう事か教えてやれ!国家監査軍ではなく、皇国海軍の主力を向かわせ、文明とは何なのか分らせてやろう。」

 

 

「ははっ!!」

 

 カイオスは、さらに深く頭を下げる。

 

「我が国の経済は歪になっている。小国に舐められれば、属領や保護国、搾取する彼奴等に舐められ、一時的な経済後退や国家を傾きかねん。フェン王国を草も生えぬ焦土にしてもかまわん。そのジオン公国とやらも属領に入れるべく、再度情報を集めよ」

 

 

 

「はっ!……皇帝陛下、もう一つ報告したいことがございます」

 

 

「何だ!!!」

 

 

再び悪い報告かと、あまり良い顔をしない皇帝であったが、カイオスの発言と書類に目を通す。

そこには、アルタラス王国の報告書。第三外務局の外交官に現国王ターラが発砲し、外交官の両爪先を吹き飛ばし、彼と共に外交文書と条約文書の返還。更に資産の没収、皇国民の国外追放が記されていた。そして外交官がターラに渡した外交文書の写しにルディアスは苦笑を漏らす。

 

「カイオスよ、この者は如何した?」

 

「職権濫用と数件の汚職容疑で病院内に監禁中です。現在、法務局に問い合わせています」

 

「ふむ……この者は明日中に処刑し、第三外務局各員に知らせろ。今後、このようなことがあれば厳罰に処すとな」

 

 皇帝ルディアスの顔に笑みが零れる。そもそも、文明圏外国家にまともな外交官は置いたりしない。何らかの外交問題に発展し、泥を塗られたとして侵略することもできる。

 

 

「アルタラス王国は、監査軍ではなく、本国の軍で叩き潰す。皇軍の準備は出来ているな?」

 

其処には皇国大陸軍の他、皇都防衛艦隊司令などが隣席しており、既に皇都近郊にある軍港を拠点とする皇国海軍総督が起立する。

 

 

「皇帝の命があれば、いつでも出撃できる準備は整っております。陛下の御言葉一つですぐにでも出陣して一か月足らずで、蛮族を平定しましょう。すべての魔石鉱山を皇帝陛下に献上し、古代都市の魔導技術をお持ちいたします」

 

 

「そうか・・・では任せた。アルタラス王国人の取り扱いについては、好きにいたせ」

 

 

「ははっ!!!!」

 

 

列強パーパルディア皇国はアルタラス王国に対し、宣戦布告。

 

 

皇国海軍所属の精鋭第二艦隊『パールネウス』が出港。竜母4隻、戦艦4隻他揚陸艦や随伴艦含め、100隻の艦隊がアルタラス王国に向け出発した。

 

 

 

 

 

 

 

一方、アルタラス王国の主要鉱山の一つであり、古の魔法帝国の都市遺跡があるシルウトラスの入口に立つ人物がいた。

 

 

「おぉ!これは素晴らしい!異世界!う~む、やはりエルフやドアーフの女性と愛を語り合いた……」

 

「ウォルター!仕事が先だ!あとで好物のビスケット買うから!」

 

 

其処にいるのはジオン技術者の白い軍服のウォルター・ビショップ博士と士官の軍服を着る息子のピーターは暴走する父の腕を引っ張り、鉱山街に行こうとする彼を古代都市の方へと案内する。二人が来た先には目を見開くような光景があった。

 

 

「これは……すごい」

 

 

ウォルターが見た物は先のアルタラス王国の街とは違い、高層ビルが立ち並び、モノレールと自動車らしき車両が放置されている未来都市のような街並みがあった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

アルタラス王国のシルウトラス市には大まかに三つの地区がある。一つがシルウトラス鉱山の労働者が集う鉱山街。ドワーフや貧民層の鉱山労働者がおり、ここ最近のパーパルティア輸出のため、経済的にも活発な街。

 

もう一つが旧市街。本来であれば、古代都市地区という都市自体が遺跡になっているが、これは所謂“冒険者”の収入源となって栄えている。古代都市シルウトラスはダンジョンとして冒険者の収入源となっている。別名、『墓荒らし』の名で呼ばれるが、稼働できる古代魔法帝国の魔導車や連射可能な魔導銃、魔導式電算機、強化外骨格鎧が出てくることもある。しかし、価値の高い武器兵器のあるエリアは稼働する防衛火器の存在もあり、アンデッドやゴブリン、オークと言った生命体が徘徊する危険なエリアがある。

 

 

そしてそれらの魔導技術を研究する研究街がある。これは各国の領事館もある他、魔導研究結社や各国合同の研究結社研究所もある。エルフや上流階級の面々が集まり、町は二分化されているに等しい。

 

シルウトラス市庁舎の迎賓館では、煌びやかな音楽が響き、多くの来賓がダンスや談笑を楽しんでいた。

 

 

「いやはや、これがジオンで作られたお菓子ですか!非常に美味ですな」

 

「ティラミスですか。この何とも言えない甘みがいい!」

 

「閣下の配下の方々も中々の面構えですな」

 

 

その人だかりの人々はその中心にいる人物へ称賛の雨を降らせている。パーティーはジオン公国が来たことを祝うものだったが、パーティー会場のいくつかはジオンの銘菓から取り寄せた一流パテシィエのものがあり、ティラミスなどは元々日本のシェフが作ったもの。それを知っていたガルマ・ザビ大佐は愛想よく受け答えしていた。

 

ザビ家の末子として様々な業界の重鎮との会食を幾度となくしてきたため、自然体で受け答えをしている。既にジオンと言う名は世界中に知れ渡っており、列強も凌ぐのではと声があるほどだ。既に超えている部分もある他、既に情報分析に重きをおく国の情報アナリストはジオンに対して正確な情報を振り分け、国家指導部へ情報を送っている。それを確認した各国外交官はジオンへのパイプ作りとして、公王の息子であるガルマへと擦り寄っていたのだ。

 

それを横目で見ていたシャア・アズナブル少佐は果実酒を傾け、カウンター席で飲んでいた。

 

「人気があるようだな」

 

「そうですなー。あちらも負けてはいませんが……」

 

副官のドレン中尉は反対側で人垣を作る人物を見ていた。其処は先のガルマの元に来る外交官達とは違い、研究職にある魔導士結社に所属する研究者たち。格好は上等な礼服であるが、雰囲気から研究職だと窺い知れる。連日の研究で目が血走っており、幽鬼のような彼ら。そんな彼らは新たな知識を求めようとある人物の話を聞いていた。

 

 

「いやはや、エルフの生態は実に興味深い。長寿不老であり、それは遺伝子情報をみれば明らかだ。遺伝子配列を見ても、その素晴らしさがわかるだろう。エルフの遺伝子は人間とほとんど変わらない。だが。遺伝子の劣化、言わば活版印刷の版が使い物にならなくなるまでのペースは実に長い。人間の細胞は数年おきに代わっている。4・5年経てば数年前とは異なる体になる。しかし、なんども複製を繰り返した関係で我々人間は老化していき、やがては死ぬ。だが、エルフの細胞の入れ替わりは全く違う。それこそ数十年単位で変わるから、その容姿に変化がないのだ。人間が行き着く先が彼らなのかもしれないが、その遺伝子の劣化が遅いのと比べ、彼らの生殖能力は人と比べると低い」

 

ビショップ博士の講義を聞きこむ研究者の目は猛獣に近い。自分よりも知識や学識をもつ彼は研究者にとって神に等しい。彼の紡ぐ言葉は彼らの耳に入り、かみ砕かれてそれまでの知識から一新される。

 

それでも、それを否定する人物も存在するが、元大学教授の彼はその内容についてわかりやすく解説し、疑問や疑念を投げかける研究者は次第にビショップ博士を信奉するようになる。

 

 

「さて、エルフの彼女を見てもらおう。一番特筆すべきはこの耳だ」

 

人身御供(ボランティア)として研究者の傍付きのメイドが博士の傍に座り、メイドの耳が露わになる。人にじっと見られたメイドの耳は真っ赤になっており、真っ白い肌のエルフメイドは顔も真っ赤になっている。

 

「人や動物の耳は非常に敏感だ。聴覚を司る部分は殆どの場合敏感になっている。外敵の接近から身を守る術の一つだが、既に身を守る術を持つ生命体は意外にも聴覚は鈍い。大抵、耳朶の大きい生物はかなり敏感だ。ほれ」

 

 

「ひゃん!」

 

「ある動物は耳を甲殻類の触角のように扱うのも多い。君、性行為の時は耳を良く愛撫されたりするのかね?」

 

「え、せせ、こうい?!……私まだ……ない……」

 

「……失礼したお嬢さん、多くの生物は外敵から身を守るため、耳に関しては触らせてもらえないことが多いが、一部の社会的生物……つまり人類と言った生物は相手へ愛情を与えるために相互に触る場合……」

 

 

 

 

「あれってセクハラですよね」

 

「……」

 

少女らしきメイドに何聞いてんだあのおっさんは……。と妻子の居るドレンは眉間に皺を寄せていたが、ロリコンなのかと言っていたドレンを横に一瞬褐色の少女を思い浮かべる。もし、ドレンに知られれば陰口でロリコン呼ばわりされかねない。大事な女性である手前、ロリコン呼ばわりされたシャアを庇うために幼気な少女はドレンにキツくあたるかもしれん。

 

反面教師にして自身もララァとの関係を考えないと、とシャアは思うのだが、実はメイドが120歳を超えたロリババアであり、シャアも唖然としたのは別の話。

 

「ドレン、あの博士について調べてくれたか?」

 

「ええ、今は助平おやじですが……あの人物は中々です」

 

 

ドレンは長年軍にいた伝手を使って、多くの情報を仕入れてきた。収集した情報元は情報部や総帥府、文科省などの情報網を駆使している。シャアからすれば、どこでそんな人脈を得ていたのか気になっていたが、意外にもシャアに対して妬みやっかみもなく、寧ろシャアのコネを得たい彼の求めに応じ、シャアが必要な時に提供してくれる頼もしい部下だった。

 

 

 

「かのビショップ博士はもとMITの教授。そこで連邦軍の研究所にも顔を出していたようです。その跡は月面研究所で5年以上研究後、サイド3のムンゾ国立大非主流科学の分野で研究していたようですが、僅か2年で閉鎖したようです」

 

「二年か……それは急だな」

 

 

「ええ、閉鎖する数か月前にジンバ・ラル氏からジオン・ズム・ダイクン氏の司法解剖を依頼していたという話も」

 

「……何……」

 

シャア・アズナブルの本名はキャスバル・レム・ダイクン。ザビ家の謀殺によって家族がバラバラになったダイクンの息子。瞳の色以外瓜二つのシャア・アズナブルを身代わりにして生き残った彼はジオンの英雄として祭り上げられていた。ドレンはそれを知ってか知らずか、かなりの情報を渡してくるが、決定的なことはない。

 

 

そして、ビショップ博士が司法解剖したとすれば、父ジオン・ダイクンの謀殺に加担したのではないかと、一瞬であったが殺気立っていた。

 

 

「それで司法解剖はしたのか?」

 

「いえ、その時は地球のネヴァダである実験をしていたとか。医師免許はないものの、生化学の権威だったことで超法規的な実験を行っていたようですな」

 

「……ふむ、そうか……」

 

ドレンは「何をやっていたかわかりませんがね」と付け加え、蒸留酒を傾ける。主役であるジオン軍人ではあるが、ガルマと比べれば脇役。シャアはビショップ博士に目線を向けつつ、衛兵が準備をしている事に気づいて席を立つ。

 

 

「ルミエス様の御成り!」

 

王室専用の入り口から出てきたのは純白のドレスに身を包み、赤いカーテンから現れた国王ターラ14世の娘、王女ルミエスだった。息子は既に王位を捨てており、時期女王として国王の補佐を行っていると噂されている。

 

彼女の姿は民族衣装ではなく、ジオンのデザイナーによって卸された特注品。それだけでもジオンの影響が出ているのは見ての通りだった。黒髪と白いドレスの組み合わせは非常に美しく、外交官や来賓の女性ですら見惚れてしまうようだった。

 

 

「ルミエス殿下、本日も美しい」

 

「おぉ、アルタラス一の美女ですな」

 

 

ルミエスの容姿は煌びやかな令嬢と言うよりも、窓辺に佇んで読書をする深淵の令嬢のような佇まい。既に神聖ミリシアル帝国とムーから依頼した外国人学者から教えを請い、留学の末に学位を幾つか保有している。

 

頭脳明晰な彼女が最初に会話をしたのは、取り巻きの人々ではなく、今回のパーティの主役、ガルマ・ザビだった。

 

 

「ガルマ様、ご機嫌麗しゅう」

 

「ルミエス殿下、今日もお綺麗ですね」

 

シャアは既に彼らの世界が出来ていることに気づいていた。ドレンの「若いですな」と聞こえたとき、「全くだ」と相槌を打つ。

 

 

昨日到着してから、次官級会談としてガルマ・ザビ大佐とシャア・アズナブル少佐などが臨席した会談では、国王の代理として、王女ルミエスが現れた。本来であれば、しっかりと外交官として任命された官僚組が来ればいいものの、パーパルティアという仮想敵国の近くで活動する関係上、なにより科学調査の名目でやってきたガルマ。まさか、総統府から外交文書と臨時の外交官任命書が送られてくるとは思っていなかった。

 

艦隊司令兼臨時外交官として王位継承権を持つルミエスと話すにつれて意気投合。年齢も近いこともあって、周りの外野をほっぽらかしにしていき、会場の中心にあったダンス広場へと移動する。

 

「若いな」

 

「危機的状況なのに、ここでダンスなんていいんでしょうかね」

 

「現実を忘れたい時もあるさ。こんな状態だとな」

 

 

既にターラ王がパーパルティアの外交官の両爪先を銃で吹き飛ばしたのは、全外交官に知られている。既にパーパルティアと外交ルートのもつ国々では外交官の退去が行われており、シルウトラス市にも、外交官退去の報が来ていた。ここにいるのは、隣国への退避準備が完了している外交官や既にパーパルティアへの賄賂が完了している商人だ。

 

ジオンとアルタラス王国が密約を結んでいる事などは知らず、パーパルティアも苦し紛れのパーティーであると考えているに違いない。

 

シャアはバーテンダーに注がれた果実酒を傾ける。

 

「これはどこの酒だ?」

 

「パーパルティアのアルーニ94年です。お客様はチーズをお召し上がりですので、こちらを」

 

「非常に旨い。中々の味わいだ」

 

―この味が無くなるのは惜しいな

 

地球の消失によって、食文化の消失からシャアの気に入っていた酒も今では、アタッシュケース一杯の金塊が無ければ買うことは出来ない。マハル産高級ワインの他、各コロニーの酒造によってコピーや大衆向けの安酒が売られている。だが、高級品と言ったものは、独自に高級性を確立していない商品ではないものに限っては、地球原産に限られている。

 

主に連邦政府の独善的な貿易政策から、地球製高級酒はさらに関税が掛けられている。加えてコロニー酒造も大衆向け以外は多くの税が取られ、必然的に地球産にシェアを奪われていた。そんな連邦の文化的圧政が影響し、高級志向の酒はあまり出回っていない。

 

シャアとしても、戦争によって多くの食文化など、民族特有の文化が失われることを予感し、口の中でゆっくりとそれを味わう。

 

彼はいずれ無くなるだろうその味を名残惜しいように飲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※                                                                                                                                                                                         

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動くな!」

 

 

格納庫に女性の声が響き渡る。既に格納庫から大気の流出が始まっており、低重力であるため、散乱した書類や携帯食料、埃が浮かび、大気の流出源であるエアロックに吸い込まれていく。核攻撃によって厳重にロックされたエアロックが歪み、隙間から大気が流出しているのだ。既にアラートが鳴り響き、警告灯がクルクルと周り、あたりを黄色く照らしていく。バーナード・ワイズマン伍長、“バーニー”は主武装のStG78 ライフルを拾いたかったが、動けば声の主が持っているライフルらしき物体で彼を撃ち殺すだろう。

 

ホルスターに収まるヴァルタ P08-M 拳銃を抜きたかったが、それよりも先に彼女の中指が引き金を引きかねない。ジオン製拳銃は伝統的な人差し指の操作によって発砲するよう出来ているが、彼女の持つ武器は三本の指で操作できるように改良されていた。

 

「異星人め、顔を見せろ!殺す前に顔を見てやる!」

 

(ワイズマン!聞こえるか!敵の機動兵器が通路を破壊した。少し時間がかかる!援護は出来そうにない!聞こえるか!?)

 

ハーディ・シュタイナー大尉の応答にこたえたいが、変な動きをすれば撃たれかねない。慎重にバーニーはヘルメットの二重チャックを外し始める。

 

 

―ああ、もう次から次へと!

 

 

格納庫に侵入後、格納庫付近に隠れていた敵の人型機動兵器の攻撃を受け、ちりじりになったサイクロプス隊。唯一、先行していたシュタイナーとバーニーは敵の攻撃によって分断された。大尉の命令によって先に格納庫に行った先、敵の兵士に遭遇。訓練通り引き金を引こうとしたが、その人物の様子を見て投降を呼びかけたにも関わらず、自分自身が硬直してしまう。

 

その隙に乱闘になってライフルを落してしまい、形勢が逆転した。

 

彼女の姿はジオンと同じように、ノーマルスーツのような加圧服を着ているように見える。体の線が見えるような、まだ少年の域を出たばかりのバーニーにとってその光景は目に毒。手の指は三本あり、人と比べると少なく感じる。そして背中には翼が見え、ジオンにはない新素材で作られた防護布に覆われている。そして彼女の容姿は赤色の髪にやや尖った耳。エルフにも見えるが、翼の付いた種族など見たことがない。

 

ヘルメットを外そうとするが、大気の流出が早いことに気づいた。

 

「おい、空気が漏れている。早く被らないと死ぬぞ」

 

「うるさい!お前を撃った後に被るさ!」

 

彼女のヘルメットは先の乱闘で床に転がっている。既にパイロットスーツの腕時計にある環境測定器には危険レベルとなっており、直ぐにヘルメットを被らなければ、命に関わるだろう。低酸素血症から脳症に発展し、記憶欠落や人格欠損、知能が著しく低下する。

 

銃を向けられ、いつ殺されてもおかしくないのにも関わらず、相手の心配をしてしまうというのも可笑しな話だったが、バーニーはサイクロプス隊のメンバーが低酸素欠乏症に掛かった人間がどのような末路を辿ったか、新兵の彼はその生々しい光景に気持ち悪くなった。だが、大尉が駆け付けるまでの時間稼ぎをしなければならなかった。

 

 

「君の種族はどうだか分からないけど、酸素欠乏症は哺乳類にとって致命的だ。足元のそれを被った方がいい」

 

爆撃の地響きと警報が相まって、彼女の表情は強張っていた。いつ、ジオンの攻撃によって格納庫に穴が開いて、気圧の変化から血を吹き出して死ぬのではと恐れたのか、ライフルを片手に持ち、もう片手でヘルメットを被ろうと手を伸ばす。

 

被る前にバーニーを撃つことも出来たが、突然の攻撃によって正常な判断もできなかった。そして、徐々に空気が薄くなっていくことも考えれば、正気ではいられまい。

 

ヘルメットを頭にかぶったその時だった。

 

格納庫が爆撃され、大きな揺れと共に鉄骨が軋む。急激な大気流出を引き起こし、一瞬だけ彼女の注意が爆発音のする方向へ向く。

 

「うぉ!」

 

短い雄叫びにも似た声がバーニーの口から漏れ出る。地面から飛び上がるようにして床を蹴り、彼女の持つライフルを弾き飛ばす。片手で保持していたそれは脆くも吹き飛ばされ、バーニーはホルスターのヴァルタ拳銃を引き抜き、被りかけの彼女に馬乗りになるようにして、銃を突きつけた。

 

「降伏しろ。どの道負けは確実なんだ。こんなところで死ぬきか?」

 

「う、五月蠅い!攻撃してきたのはそっちだろう!?」

 

「……まぁ、そうなんだけどさ」

 

 

一石二鳥、漁夫の利とも言えるジオンの攻撃によって基地能力の半分以上を喪失した彼ら。連邦軍も突然のジオン襲来に対応できず、既に連邦軍基地部隊は降伏している。どちらが先に攻撃したのかは、双方の戦闘記録を突き合せなければならないが、それは後の歴史家が考えることになる。

 

実際に戦っていた彼らからすればどちらにしても変わらない。

 

バーニーの冴えない返事とそんなとぼけた返しに呆気にとられた有翼種族の女性兵士はシュタイナーが来るその時まで「偉大なアニュンリール皇国が貴様ら下等民族に……!」「」うん、そうだね……」等、会話していたことにシュタイナーが怒り、鉄拳を落としたのは別の話。

 

 

戦闘は半日で終了し、ジオン死傷者90名弱、連邦軍と異種族軍死傷者1万名。捕虜両軍3000名が収容され、月面の民間人居住区にいる3万人が保護されるに至った。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

フィルアデス大陸西方群国家として、パーパルティアと付かず離れずの関係を保っていたアルタラス王国は、最近の「ル・ブリアスの断罪」によって大きく騒がれている。

 

パーパルティア皇国の無謀な外交要求と王女ルミエスを奴隷として外交官へ献上するように圧力をかけ、外交官の爪先を銃で吹き飛ばした事件は国王が断罪したことによって国王支持派とパーパルティア皇国を敵視する国家は歓声を上げた。

 

しかし、その行為はパーパルティア皇国へ泥を塗る行為に他ならない。顔に泥を塗った相手に泥を返し、更には惨殺して唾を吐くのが彼の国の手法である。既にパーパルティア皇国の攻撃を予期して、大規模な避難指示と予備役動員令が下されていた。外国人や商人などはムーのレンタル飛行機や王国から許可を取った飛行船によって脱出している。

 

戦闘用に土嚢が盛られ、防衛陣地や対空砲を設置した対空砲陣地が設営され、他にも兵員を配備していない偽の歩兵陣地や近くで見ないと分からないような偽砲兵陣地が設置され、あたかも其れはパーパルティア戦列歩兵対策として考案された、ジオンの新しい陽動戦術の一つである。

 

 

アルタラス王国は既にジオン軍事顧問派遣団を招き入れ、既にムー製兵器やジオンの復刻兵器工廠で製造されたボルトアクションライフルや軽機関銃が配備されている。また、ロウリア総督府が義勇軍として募集したところ、元ロウリア軍兵士や一般人が参加。数か月の訓練の末、戦列歩兵程度であれば倒せる練度の義勇軍がアルタラス王国軍と共に警備を行っている。

 

陸つなぎのフィルアデス大陸であるが、数か国の文明圏外国家を通るために進軍速度が遅くなる。精鋭大陸軍の軍勢を差し向けず、内海から進む皇国海軍の部隊が近づきつつあった。

 

 

「国王陛下、如何でしょうか?」

 

玉座に座らず、ル・ブリアスを一望するところに立ち、国王ターラは外を眺めていた。彼に声を掛けたのは、海軍長のボルド。まるで髭の生やしたナポレオンと言うような、少し背の低い髭を蓄えた将軍・海軍長の地位に就いた歴戦練磨の軍人である。

 

 

「敵の第二艦隊“パールネウス”は我が領海のギリギリのところで停泊。上陸の意図がなく、何かの合図を待っているのかと」

 

 

テーブルにおいてある海図には本土防衛艦隊としてル・ブリアスから40km沖合にあると赤い船の模型が数隻置かれ、その100㎞離れたところに皇国第二艦隊と殴り書きした青い模型が置かれている。一気に攻撃を仕掛けないところを見るに何か裏があるとしか思えない配置だった。

 

 

「面倒だな、ジオン軍やロウリア義勇軍はどうだ?」

 

「顧問団は内陸のサン・ブリュンの練兵所で訓練を行っています。ロウリア義勇軍はリュクサン駐屯地と各警備所に配置しております。わが軍とも共同歩調の取れそうな指揮官もいますので、なんとかなります」

 

「疎開は出来ているか?」

 

「問題ありませんが、避難の混乱によって一部暴動が確認されました。既に鎮圧済みです」

 

ル・ブリアスの人口は多い。文明圏外国家と言え、国力は列強と比べると劣るが、凄まじく格下という訳ではない。先に出ていったのは耳の早い商人達。次に命令を受けた外交官。そして、裕福な富裕層である。そして次が一般市民。王都には疎開する一般市民や火事場泥棒を働こうとする者、徹底抗戦のため、兵と共に戦おうとする者等、統制が取れなくなっていた。

 

「ジオンは我々よりも格段に技術の上を行っている。この戦争は勝てるだろう……ようは勝ち方だ。簡単に我々が連合軍を率いて奴らの首都に進軍できるか?したとして、全土を支配できるか?いや……むりだ……ジオンも簡単にそこまでできるとは思えない」

 

アルタラス王国が単独で戦うことは難しい。しかし、ムーの特務機関「マンダ」の軍事物資提供、また反皇国同盟として約百年前に結成された大陸同盟が役に立つだろう。しかし、加盟国の半分近くがパーパルティア皇国に吸収されている。

 

そんな彼らがパーパルティア皇国を打倒して、占領することは出来ないだろう。根絶やしにしなければ、皇国の残存勢力が再び火種を残す。ジオンが国を亡ぼすことはできるやもしれない。だが、その兵力を展開させて、多くの血を流すだけの価値が我々にあるだろうか。

 

敵の攻撃を退け、膠着状態にして休戦条約を結んでも、後世の人間がそれを良しとするはずもない。戦いは繰り返されることだろう。

 

国王ターラは考え、ル・ブリアスの街並みを背にして部下たちの顔ぶれを見る。

 

「奴らをここから追い出せば、相手へ休戦条約を持ち込める。そうすればこの国は娘に託すか」

 

既に政治の主役は王ではなく、娘のルミエスになっている。もう一人息子が居るが、彼は王位を捨てて、ムーに留学している。先進的な法体制を学んで帰ってくるだろう。

 

「陛下、まだルミエス王女は二十歳になって間もないですが、陛下もまだまだご健在でしょう」

 

「今回の戦いは我が国の存亡を掛ける……この事態の幕引きに丁度いい。シルウトラス郊外の避暑地でも籠って面倒な外交官と酒を飲むさ」

 

「ル・ブリアスの断罪」はかなりのインパクトと国民の多大な支持がもたらされた。だが、貴族や商人など、王国への影響力の強いものは王家へ嫌味や侵攻が始まり次第、皇国に付くとさえ明言する者もいる。今回の戦いによって王家は株を上げたが、王国内部の反王家勢力は王家への反抗を強めている。彼らを静めるには国家そのものを亡き者にするか、王のすげ替えが必要だろう。

 

今後の戦いで確実に少なからず犠牲が出るだろう。そうすれば、必ず国民はターラに対して退陣を求めるだろう。支持も下がるだろうし、混乱が収まれば、確実に王権に対して制限を求めるだろう。

 

ターラは再び窓へ向かい、ル・ブリアスの街の光景を焼き付けようと視線を向ける。

 

その街の喧騒はやがて狂騒と戦乱によって荒廃してかもしれず、歴代の王達によって繁栄していた。それが崩れ去るのだろうとおもうと涙が込み上げる。ふと王は空を飛行する飛行機らしきものを捉えた。

 

「空軍長、今は灯火管制と飛行禁止令が出されていたな。あの騎影が何かわかるか?」

 

飛竜と飛行機械の両方を運営している空軍の将軍はそれを見て頭を傾げる。

 

「いえ、どこの機体かまで分りませぬ。王都防空部隊からの連絡も……」

 

その機影は非常に高く空を舞い、高高度を飛んでいる。その機体の大きさもアルタラスの物ではない。そしてムーやミリシアルの物とはことなっていた。

 

「パーパルティアの奴らか。迎撃できるか?」

 

「あの高度まで高いと迎撃は無理です。もしかして、高高度偵察用のワイバーンをつくったのでは?」

 

だが、ああまで高い場所に陣取って何をするつもりなのか。その場にいた彼らは上空遥か彼方のそれを注視する。

 

もし、彼らが高性能な望遠鏡や高性能なカメラを持っていれば、その物体下部のハッチが開き、何かを落とすのを目にしただろう。それはもしかすれば落竜した竜騎士かも知れなかったが、筒状の物が落下し、急に閃光がル・ブリアス全体に降り注いだ。

 

 

 

 

その閃光は数千度の熱量として放射され、目標とされた町の中心のル・ブリアス公園は瞬く間に熱線によって消滅し、数多の避難民が即死する。数千度の熱線は種族の隔てなく一瞬のうちに死に絶え、チリも残さず消し去った。そして熱線は町の中心部を消失させる。

 

 

 

眩い光はまるで太陽がル・ブリアスに出てきたかのように明るい光。熱線として降り注ぎ、すべてのものを焼き切った。音速に近い突風が崩れやすい建物を破壊していき、外にいた人々は熱線と飛び交う瓦礫によって即死する。

 

 

 

それは王宮も等しく、熱線と音速に近い突風が王宮に直撃して建物ごと崩れ落ちた。

 

 

ル・ブリアスの大部分は爆風に包まれ、爆炎が立ち上っていく。

 

 

街の上空には『キノコ雲』が立ち上っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【臨時ニュースをお伝えします。昨日、24日未明にアルタラス王国首都ル・ブリアスにて核爆発が観測されました。現在、総帥府では現状確認が行われていますが、アルタラス王国派遣部隊との交信が途絶えているとの事……繰り返しお伝えいたします……】

 

 

【アルタラス王国首脳部との交信途絶して二日。未だに電磁場の影響もあって無線通信及び魔導通信は一切出来ておりません。王都の被害は今のところ分かっていませんが、約20万近い犠牲が出たとの情報があります】

 

 

 

【派遣された部隊の内、核攻撃によって被害を受けたのはサン・ブリュン練兵所に訓練していた軍事顧問の将校十数人、ロウリア義勇軍指導教官5名が重軽傷を負った模様です】

 

 

 

【今回のアルタラス王国核爆発の剣に関しまして、パーパルティア皇国外務省広報官がアルタラス王国へ「我が国へ泥を塗った代償」として「蹂躙宣言」を行いました。これは皇国戦争法に定められたもので、国民を全て奴隷化し、属州化するという人道に反する法律です。ジオン及びセツルメント国家連合は非難決議及びアルタラス王国残存軍に対して必要な支援を準備すると声明を発表】

 

 

 

【現在、アルタラス王国にいるガルマ・ザビ大佐率いるアルタラス第21特務隊はシルウトラス市防衛のため任に就いていますが、負傷者救護と臨時政府存続のため死守する構えを見せています】

 

 

 









実はちょくちょくまとめの二次項目見てますが、延ばし展開多いとか、ジオンの外交態度が……と評価が書いてあってoh……( ゚Д゚)ってなってます。

全部あってるから否定できねーけど……w

延ばし展開については原作もまだラヴァーナル帝国との対決まで来てないし、グラ・バルガスもまだだしな~……。

ジオンの外交態度については後日、記していきます。その理由についても後日……

あとは質問や誤字脱字などご感想お待ちしております。

感想来ますと、コンペイトウの上空で「ソロモンよ、私は帰ってきた!」と叫ぶかもしれません
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