慈恩公国召喚   作:文月蛇

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身内がインフルで「いやぁ、移らないだろ」と思ってた矢先、インフルでした。

明日には落ち着くかな?なんて思ってますw


第二十話 アルタラス王国崩壊

 

 

シルウトラスはその地域一帯が魔導エネルギー体の鉱山として栄えていた。嘗て古の魔法帝国(ラヴァーナル帝国)がこれらのエネルギーを抽出して利用するため、シルウトラスには古代都市や多くの遺跡が残っていた。

 

帝国が無くなってからは幾つかの王国が成り、アルタラス王国がこれらの鉱山を保有。五大鉱山として栄え、交易都市も兼ねた王都に供給される整備された街道が輸送路となっている。

 

既に鉄道と輸送馬車、魔導車によって王都、そして港町から各都市へと運ばれる。その資源は神聖ミリシアル帝国やパーパルティア皇国、レイフォルなど文明圏内外問わず輸出された。日本で言う石見銀山レベルで世界規模の流通がなされ、魔導機器の殆どの動力源にアルタラス王国の印があふれている。

 

時と状況、そして運が味方すれば大陸の大部分はパーパルティアの旗ではなく、アルタラス王国の御旗が大陸に翻っていたことだろう。しかし、そうはならなかった。街道には遺棄された郵便馬車や魔導車、家庭用馬車などが遺棄され、すでに持ち主はシルウトラス市に入っている。そこにいたのは、街の医者や魔導士に助けてもらおうと向かう被爆者の列だった。

 

 

「水……水はどこだ……!」

 

「母さん、痛いよ痛いよ」

 

「うぅ……目が……」

 

 

その列は郊外に疎開していたため、核爆発から離れていたから助かった避難民の列だった。辛うじて爆発の陰になって助かった者もいれば、熱線によって火傷を負いながらも歩く負傷者。既に亡骸となった子供を抱えて歩く母親や六人程の失明した人の手を引く男、未だ避難できぬ街道沿いの村々はその光景に恐怖する。これがこの世の光景か。その街道はシルウトラスの死の街道として人々の記憶に残ることになる。そして、街道沿い、シルウトラス市まで20Km地点の宿場駅において、ジオン軍部隊の臨時救護所が設営されていた。

 

「重篤被爆者と軽傷被爆者を分けろ!急いで除染水を持ってこい。普通の水でも構わん」

 

「第10救護隊は南街の空き倉庫に救護所を設置!急がせろ。シルウトラス市兵は救護所の警備を」

 

 

王都郊外から街道を下り、シルウトラス市に入ろうとして来た人々は安堵し、ある者はそのまま気を緩ませ命すら手放す者も多い。使えない魔導車や馬車は隅に追いやられ、大きな野戦病院と化した宿場は呻き声のする修羅場と化した。

 

 

「心室細動だ!電気ショック!」

 

「息子が!魔導士様、どうか息子を!」

 

「奥さん離れて!」

 

衛生兵は顔が半分焼けただれた母親を抑え、全身火傷を負って心臓が止まりそうになる子供を軍医が急いで心臓マッサージを行い、心臓へ電気を送るためにパッドを貼る。

 

「チャージ、離れて!」

 

電流が流れ、子供の細い体が跳ねる。しかし、バイタルは細かに動き、やがて心臓は停止する。

 

「エピネフリンを」

 

「もう一度チャージ、生き返れ!戻ってこい!」

 

再び跳ねるが、子供の心拍サインは停止する。バイタルが停止したサイン音が響き渡り、軍医が懸命に心臓マッサージするが、やはり反応はなかった。

 

「おい、生き返れ!こんなところで死ぬんじゃない!」

 

軍医の叫びは救護テント内に響き渡る。その子供以外にも治療を待つ幾多の患者が待っている。そして、負傷者や避難する人間の数はさらに膨れ上がっていた。

 

 

 

 

 

 

「まさか、パーパルティアに核兵器開発能力があるとはな……」

 

シルウトラス市のジオン軍高官に貸し出された豪邸は臨時司令部として機能しており、そこの主が使っていたと思しき執務室にガルマ・ザビは腰掛けていた。

 

「大佐殿、確かにパーパルティアに独自で開発することはできません。基礎研究の分野でも彼の国は近世初め。それこそ我がジオン公国には太刀打ち出来ないでしょう。」

 

「ならなぜ彼らが?」

 

「可能性として考えられるのが、彼らにもアルタラス王国と同じく古代遺跡があるのでしょう」

 

古の魔法帝国のテクノロジーは一部分においてジオンすら凌ぐと考えていた。ウォルター・ビショップ博士はこれまでのデータや遺跡からそれを確信し、プルトニウムやヘリウム3に準ずる核融合や核分裂のテクノロジーを保有すると考えていた。既にアルタラス王国に点在する研究所を視察したとき、残された異物に彼は目を奪われた。ジオンのテクノロジーはそれこそ、この惑星の全てを相手にしても勝てる。そもそも、地球連邦という数十倍もの国力を相手に戦おうとしていた。そのために蓄えられた国力によって惑星を全て掌握できるだろう。

 

だが、一定分野においては惑星の技術に負けている部分、全く未知の領域が存在する。魔導エネルギーなどの魔導文化に付随する技術体系はジオンのそれと全く異なる。魔導エネルギーをもってプラズマやレーザー、炎を発射し対象を焼き殺す。その他、バイオテクノロジーや生物の改造、その体系によって惑星離脱から衛星に基地を作るなど、まさに未知のテクノロジーである。

 

連邦にとって未知に近いMSやミノフスキー粒子下による有視界戦闘と艦隊戦術。これらによって国力の差を覆したジオンは、自分達も同様に未知の力によってやられる側になるのではと恐怖していた。

 

パーパルティアは核兵器となるものを発掘、使用したと考えられる。核兵器製造能力はウランやプルトニウムの精製、濃縮技術をもってして可能となる。その程度の工業能力がないと考えれば、遺物をそのまま使用したに違いない。

 

 

「多分、彼らは他にも装備しているでしょう。ガルマ大佐。これは先の古代都市から発掘されたライフルです」

 

ビショップ博士はガルマにそれを見せる。それはライフルに近い形状を持つ。金属製であるが、同時に見たことない質感と手触り。引き金とカバーの部分が大きく、まるで指が三本しかないような設計になっているそれは連邦のブルパップライフルのように、後ろから装填するエネルギーライフルであることが分っていた。

 

「このライフル、年代測定に掛けると、一万二千年前に製造されたものであると確認できた」

 

「そんなに昔か!?」

 

ガルマは驚いていたが、博士は一冊の本を出す。その題名は「ムーの歴史と古の魔法帝国」というもの。その内容はそれこそオカルトじみた内容であり、とある日本のオカルト雑誌レベルのもの。本来なら失笑すべきものなのだが、それを捕捉するのが、屈指の頭脳を持つ元天才科学者。信憑性は非常に高くなった。

 

「この本は露天商から買ったんだが、非常に面白いことが書かれていた。ガルマ大佐も好きになるかもしれない。この地底世界の……」

 

「博士、要点を話してくれ。君のその酔狂じみた話は僕……いいや私としても大いに面白いし場が和む。だが、今はやめてくれ」

 

友好国になりつつある国が核攻撃に遭ったのにも関わらず、狂った科学者(マッドサイエンティスト)の狂言を楽しむ余裕はない。博士は少し落ち込むそぶりを見せるが、説明を続けていく。

 

「この本はムーの科学者と歴史学者が共同で執筆した所謂空想小説のようなもの。科学的には推測の類だが、事実この書かれている内容は真実だ」

 

ページをめくり、見せてきたのは「古の魔法帝国消失とムー王朝の成立」。

 

「これは古の魔法帝国の消失とムーの転移についての因果関係を示したものだ。これを例えにしてみよう」

 

と取り出したのは、「ニュートンのゆりかご」と呼ばれる運動量保存則と力学的エネルギー保存の法則の実演するための装置だった。ガルマも子供の頃に見たことがあったが、それが何の役に立つのかと頭を傾げた。

 

「これは子供の頃に使ったことがあるだろう、ニュートンのゆりかご。これを例えで使おう。

この鉄球を古の魔法帝国としよう。彼らは伝承によると、隕石による崩壊から逃げるため、転移したと記録されている。その時のエネルギーをこうする」

 

球体を持ち上げて離す。そして、球体にある力量が伝わり、端の玉が弾かれていく。

 

「すなわち、その魔法帝国が転移した場合、他でも同様の異変が起こると?」

 

「そうだ。ガルマ大佐、これは魔帝が移動した場合、別の地点にその国家が現れる。それこそムーのような国はな……」

 

「では、我が国やグラ・バルガスといった転移国家も?」

 

「もちろん、魔帝が転移実験の失敗、若しくは段階的な試験によって我がジオン公国やグラ・バルガス帝国がこの星に転移したと説明がつく。」

 

魔帝は隕石衝突による国家の崩壊を食い止めるために転移魔法によって大陸ごと移動。しかし、その反動によってムーがこの世界に来てしまう。また、その後の惑星の重力異常や異常気象が度々起こっている。その事実を照らし合わせれば、魔帝による転移魔法の影響はかなりのものであったと考えられた。

 

そして、ジオン公国などコロニー国家の移動。そしてグラ・バルガス帝国の転移。それを踏まえれば、魔帝による実験によるものだと推測できる。ともあれ、現在進行形で異常気象や環境問題が噴出する現在、ジオンとしても今後やってくるであろう魔帝に対しての対抗策を考えねばならない。

 

「彼らは我々よりも優れているという事か……」

 

ガルマは眉間に皺を寄せるが、博士は首を横に振る。

 

「それは現時点では分りません。彼らのテクノロジーは遺跡でしか……また、ムーの潜在能力も考慮に入れるべきかと」

 

「ムーもか……博士の推測が本当だったとして、彼らも地球から来た国家だと?」

 

既にビショップ博士はムーが転移国家だと推測して、一つの仮説を立てた。ムーという転移国家は古の魔法帝国の転移魔法に巻き込まれた国家であり、一万二千年前に消失した国家の一つであるということだ。非公式諜報員やキシリア機関の手繰り寄せた情報によると、ムーの科学技術は嘗てのムー帝国の尋常なまでに発展した遺失したテクノロジーを元にしているということ。単独ではなし得ない機械文明の成り立ちに疑問を覚えたビショップ博士はテクノロジーを分析しつつ、現在の地位に上り詰めたと持論を述べていた。

 

「一万年前の国家だぞ。我々のテクノロジーに……」

 

「地球が誕生して四十六億年…人間以外にも同等の文明を持っていた生命体が居てもおかしくない。それ以上の文明を持っていても何ら不思議ではない」

 

 

「そのテクノロジーをパーパルティアという外道国家が入手した訳ですか。我が国、アルタラスは滅亡の節目にあるわけですね」

 

 

何時、入ってきたのか。焦燥しきった顔をしたルミエス王女が入ってきていた。

 

ル・ブリアスへの帰還を行おうとしていたが、ジオン関係者に止められ半狂乱になっていた。今は落ち着いているがかなり憔悴しきった表情をしていた。

 

「ルミエス殿下……」

 

ガルマは声を掛けようと近づくが、ルミエスは執務室に無断で入った事を思い出したらしく、頭を下げる。

 

「失礼しました。お客様の部屋に無断で入るのはいけないのに……」

 

 

「いえ、ルミエス殿下。ガルマ大佐も激務が重なってお疲れでしょう。お二人で少し休憩したら如何でしょう。」

 

 

ガルマに気を使ったのか、それともルミエスに気を使ったのかは分らない。博士の気の効かせたその台詞によりルミエスの傍にいた侍女が案内し、二人は執務室へと去っていく。例え、ルミエスがボロボロに消耗しきっていても、そこを突いていくガルマではない。一言も喋らず、博士とガルマの話を聞いていたシャアはジオン本国とロウリア総督府から何とかして通信を受けた王都の偵察報告書をチラリとみる。そこにあるのは衛星写真とドローンから撮影された高精度カメラの画像である。

 

 

「ビショップ博士、パーパルティアは発射可能な核弾頭を所持し、生産可能状態だと思うか?」

 

シャアの問いかけに対して、白衣からBabyruthを取り出し、チョコレートとキャラメルヌガーを頬張る老人はもごもご言いながら答え始めた。

 

 

「ちょっほ待ってほしい……ごくっ……今回の攻撃が一発だけとは限らない。核分裂に関しては我々の知らない方法があるのかもしれない。生産可能、即時発射の可能性は捨てきれない。」

 

 

ジオンは開戦前からすべての国は核戦力を保持していないと調べていた。衛星からの放射線センサーを駆使した弾道ミサイル基地や原子力発電所の捜索はある一つを除いて見つからなかった。その除いた一つがアルタラス王国内にあるシルウトラスの古代遺跡だった。

 

全くのノーマーク状態のパーパルティアの核攻撃はジオン指導部も混乱している。ジオン本国とグラナダに駐留するキシリア麾下の予備戦力を投入すれば、片が付くだろう。しかし、本格的な戦線投入とパーパルティア殲滅には一か月を有する。惑星基準からすれば、驚異的なスピード。しかし、相手の有するテクノロジー次第では、ロウリア統治領への核攻撃も考えられ、ガルマやシャアは被害を受けたアルタラス王国内に滞在している。ジオン本国はガルマの早急な退避を求めるだろう。そして、その判断は指揮官のガルマが決めること。

 

―少しは軍人然としてきたが、ガルマは耐えられるか?

 

ガルマは開戦後、参謀付将校から101空挺師団指揮官やセツルメント国家連合での防衛顧問を経て、アルタラス王国派遣部隊の指揮官、第21特務隊指揮官になっているが、義憤に駆られてアルタラス王国民を守り、核によって戦死することは誰も望まない。ザビ家を憎むシャアであったが、自分だけ逃げ延びる事は今後の復讐に悪影響を及ぼすだろう。そう考える彼は復讐鬼の自分を心の奥底へと隠し、ガルマの盟友、シャア・アズナブル少佐としての感情を見せる。

 

「そうか……非道ではあるが、撤退もやむなしか」

 

 

「再び核攻撃をする可能性があるので……ですが、このシルウトラス市の戦略的価値を考えると、目標にはしないでしょう」

 

シルウトラスの鉱山や古代遺跡、資源的価値は勿論の事、今後のテクノロジーの発展にはそれを手にすることが最も望ましく、核攻撃によって放射能汚染すれば、その価値は半減する。勿論、環境次第では放射能が抑えられるが、資源として収集することは数十年先か数百年先になるかもしれない。

 

とすると、パーパルティアがシルウトラスへ核攻撃する可能性は少ない。

 

シャアは後ろに控えていたドレンに命令し、ガルマ配下の将校や艦隊司令部に会議の準備をするように伝える。ガルマが休息した後に今後の部隊の行動指針を決め、去るか残るか選択をしなくてはならないだろう。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

シルウトラス市が混乱の中、王都壊滅の報を聞いたアルタラス王国海軍主力艦隊は混乱していた。消息不明となった海軍長ボルドの側近であるシルラ大佐は艦隊の数隻を王都救援に派遣したが、救援に向かった戦列艦の通信から「正体不明の疫病が発生」の報告の後音信不通になっていた。

 

各艦長や将校の反乱はないものの、士気はどん底まで落ちている。首都を死守しようと考えるシルラに対して、川を上っていくか、艦隊を自沈させて兵員共々、シルウトラスに移動すべきと言う意見もあった。死守すべき王家はルミエス殿下のみ。ル・ブリアスの廃墟とクレーターを守る必要性はなかった。

 

「哨戒騎よりパーパルティア皇国海軍部隊を発見の報あり!」

 

通信担当士官の報告からシルラ大佐は息を吸い、肺に思いっきり空気を送り、そして吐き出した。

 

「はぁ~……、よし!全艦、戦闘態勢!旗を掲げよ!」

 

アルタラス王国の国旗と共に「戦闘開始」の意味のある竜の旗を揚げる。そして、ジオン公国から技術援助を受けたことによって、機械文明の高性能通信機器からモールス信号が各艦へ送られる。

 

【敵ヲ発見!戦闘態勢!】

 

アルタラスの戦列艦は戦闘態勢に移り、輸入した対空砲、携帯型対空ハンドミサイルを装備していた。その戦闘力はジオンから見れば、アフリカ東海岸に出るような携行火器で武装した海賊に近い。

 

パーパルティア皇国の装甲艦と比べると防御能力が乏しいが、攻撃能力は桁違いであるとジオン技術士官は太鼓を押した。演習でも勝率は高く、現状戦力でも敵を撃退できるとされた。

 

その代わり、自軍のワイバーンは間違えて攻撃する可能性があったために、今回の戦いでは使用できないと哨戒騎を除き、航空戦力は王国陸軍へ部隊ごと異動した。主な航空部隊はジオン派遣部隊がドップを派遣。性能上、マッハ4を超える超音速戦闘機であるが、其れだとパイロットがミンチになりかねない。

 

そのため、地球圏では性能を抑えており、それでも大抵の爬虫類飛行隊を圧倒する。ジオンとの条約から復刻版のメッサーシュミットBf109を輸入するつもりであったが、今回の攻撃で立ち消えになるだろう。

 

 

「ハンドミサイルは有効射程に入ったらぶっ放せ。自由射撃を許可する!」

 

シルラは魔通信用器具を手にとり、艦隊に指示を出す。他の通信担当士官はジオン製無線を使い、モールスを送り、魔導妨害対策としてそちらからも指示を出した。

 

迫りくるワイバーンロードを確認後、水兵の持つハンドミサイルが放たれた。西側の代表的な携帯型対空ミサイル兵器『スティンガー』をモデルに、携行性を高めたそれは射程3㎞と短いが、操作性と炸薬量から対歩兵用重火器として重宝されるそれは、砲術士官の命令と共に発射された。打ちっ放し能力を持つ赤外線追尾のミサイルはマッハ1.5のスピードで飛翔し、ワイバーンロードに命中した。

 

 

「よし!いいぞ!」

 

 

「パーパルティア皇国のトカゲどもが逃げてくぞ!」

 

一度に十数騎堕とされたために、一度態勢を立て直そうと一度編隊を組みなおしていくのを目撃したシルラは再び指示を下した。

 

「88㎝高射角砲で八つ裂きにしろ!」

 

 

戦列艦としての外見を残しながらも両舷に各4門の88㎜砲が装備されている。パーパルティア皇国の装甲艦に対してはかなりオーバーキルに近い破壊力を持つ。8.8cm FlaK 36は高射砲から戦車砲に転身し、ティガー戦車として知られる重戦車の主砲としても知られる。木造戦艦や魔導砲などのエネルギー弾を弾く特製の装甲をやすやすと貫くそれはアルタラスに試験的配備がされていた。

 

ワイバーンロードに向けて発砲された88㎜は炸裂し、更に数騎が墜落していく。まだ、実戦配備から日が浅いアルタラス王国軍の砲術兵は自身がワイバーンロード殺しをしたと驚き、そして誇らしげに思っていた。

 

 

 

「敵艦隊との距離あと10km」

 

「性能上、本来なら20㎞先の目標を狙えるが、我が艦隊にはそれはできん。全艦隊に通達。全艦取舵一杯!このまま、敵に砲撃を加えるぞ!」

 

 

「は!」

 

「取舵一杯!」

 

「全艦取舵一杯!取舵一杯!」

 

【全艦取舵一杯】

 

 

パーパルティア皇国の魔導砲の射程距離は2㎞前後。これらはジオンの情報やムーの諜報機関「マンダ」の情報に基づくものだ。この射程距離外からの砲撃によってパーパルティア皇国海軍を迎撃するやり方は既に何度も考えられた方法だ。

 

 

「全艦合図の後、一斉射!この攻撃の効力を確かめる!」

 

「射撃指示送ります」

 

 

88㎜の砲手が照準を上空から海上の敵艦に向けて発射準備に入る。射程内は着々と縮んでいる。砲撃の合図はシルラの合図次第だった。

 

 

 

「放て!」

 

 

「全艦攻撃開始!」

 

 

【全艦発砲開始!】

 

シルラの命令から放たれたそれは前方のパーパルティア皇国海軍第二艦隊「パールネウス」の先方に位置する装甲艦に直撃した。

 

対空用ではなく、徹甲弾を込めたそれは装甲艦を貫き、一気に弾薬庫を貫き爆散する。数発外れたものの、効果は絶大且つ途轍もなく、シルラは子供のように体を跳ねさせ、叫び声を上げる。

 

 

「どうだ!見たか!ハゲタカ共め!全艦、このまま全速で進み、敵を撃滅せよ!」

 

「全艦自由射撃!先行艦ル・マンドに続け!」

 

【先方、ル・マンド。各艦続イテ自由攻撃】

 

それまで抑えられていた砲撃が全力のものへと変わりだす。88㎜砲は立て続けに放たれ、パーパルティアの艦艇は次々と火の手が上がった。正に紙装甲のように破壊される艦艇にアルタラス王国兵の士気は最高に達していた。

 

壊滅した王都の敵、亡き家族の敵として砲弾を込めて発射し、敵を八つ裂きにしていく。例え、砲術士官が射撃中止を命令しようとも止まることはないだろう。砲撃予測と観測を行っていた監視台の水兵はパーパルティアのワイバーンロードがさらにむかってきている事を察知した。

 

「ワイバーン第二波接近!高度7000」

 

「対空砲準備しろ!対空砲手準備!」

 

船尾にある復刻版2cm Flak 38がワイバーンロードに向く。しかし、ワイバーンロードの数は4騎程の小隊。列強レベルのアルタラス王国海軍の艦隊に対して攻撃を仕掛けるには、やや劣勢。更にジオン製の兵器で強化されたそれらには明らかに不利。

 

高度を落として船舶に攻撃を仕掛けるだろうと思っていたアルタラス王国兵達であったが、高度は7000前後を維持したまま、攻撃を仕掛けてこない。しびれを切らした砲兵が先の2cm機関砲を発砲し、砲術士官にどやされる。射程は88㎜とは違い近距離の迎撃兵器である。7000m先のワイバーンには届かない。

 

「ワイバーンは射程外です」

 

「やつら何しようとしているんだ……」

 

シルラは艦隊を密集陣形から少し、間を開けていくよう指示を下す。すると、ワイバーンロードから何かが落下するのが見えた。監視していた水兵はその事を報告し、シルラは持っていた双眼鏡でそれを確認する。

 

 

「上空のワイバーンから飛翔物体!」

 

 

「飛翔物体が分裂!艦隊右翼に落下します」

 

 

シルラは事前にジオンの派遣軍事顧問の講義にて、今後の戦争から技術発展や戦術の変化などを聞いていた。確実にワイバーンなどの航空戦力に爆弾を搭載した空爆や、高高度からの爆撃など、その攻撃に対応する術はレーダーと言った電波によって敵の位置を把握することに掛かっている。

 

飛翔物体のそれの形はまるで、嘗てアメリカ軍のB-29が日本本土に焼夷弾を落としていくのと同じように、拡散して落とされたそれは海面に墜ちた瞬間、何らかの化学薬品が反応して、激しく燃焼し、水蒸気にもにたガス状の物が散布されていく。

 

 

「なんだ、煙幕とでもいうつもりか。小賢しい。右翼戦隊を引き上げて煙幕を抜けるぞ。!」

 

シルラは命令を下そうとするが通信担当士官はその話を聞かずに通信を行っていた。

 

「戦列艦シディ応答せよ!繰り返す!そちらはどうなっている!」

 

【右翼戦隊、状況ヲ知ラセ】

 

魔導通信とモールスによって右翼戦隊との連絡を取るが、一向にも連絡を寄越さない。それどころか、戦隊から離脱しかけていると聞き、シルラはどういう状況かとその場にいる艦長に問いかけた。

 

「右翼戦隊の状況は?」

 

「右翼戦隊、敵の煙幕によって視界不良。攻撃中止との電文があった直後、魔導通信でも連絡が来なくなりました。」

 

中央の艦隊の主軸戦力とも言える戦列艦数隻と艦隊司令艦を主翼戦隊。左右に司令艦と先の戦列艦を含めた右翼戦隊、左翼戦隊の計3つの戦隊を保有し、乱戦の時には各戦隊司令艦をコマンダーとして指揮する独特の指揮系統がアルタラス王国には存在する。

 

煙幕攻撃によって前後不覚に陥った右翼隊は徐々に離脱し始めていたが、ふと、それを見た主翼戦隊の戦列艦の水兵が右翼艦の甲板を見ることが出来た。

 

 

「な、なにが起こっているんだ!」

 

 

彼が目にしたのは、目を抑えで蹲る水兵や呼吸困難によって首を抑えている兵士など。中には苦しさのあまり海に飛び込んでは浮かんでこないなど、地獄絵図が広がっていた。シルラはその光景に対して、ジオンが提供する情報の中にあった興味深い兵器を思い出していた。それは『化学兵器』。視認可能であるが、皮膚に接触することや吸い込むことによって効力を発揮する。銃で撃つことや砲撃、斬りつけるなどの殺し方は王国に奉じてから幾度となくしてきたし、命令もしてきた。

 

しかし、それらはシルラのこれまでの経験を覆すものだった。

 

化学兵器は第一次世界大戦中に使用され、戦場の多くでそれらが使用された。一度吸えば、肺を焼き、肌を爛れさせて失明させる。使われる種類によって、症状も様々。ジオンの軍事顧問はもし、これらの兵器が使用されれば、戦争は変わることになると語っていた。

 

右翼戦隊の艦艇はコントロールを失い、何隻かは衝突しており、戦闘能力を失ってしまった。そして最悪のタイミングで風向きが変わり始める。帆船ではないため、風の影響は受けない。以前までは風魔法の魔石を使用した動力機関であったが、ジオンの技術供与によって石油資源を用いたスクリュー推進へと変わっている。

 

その風向きはシルラの乗る司令艦が風上に来ており、化学兵器のガスがこちらに向かってきていた。

 

 

「回避運動を!急げ!」

 

「面舵!面舵!」

 

「ベシアルにぶつかるぞ!」

 

 

シルラの乗船する司令艦ルブランは緊急回避しようとするが、データリンクや連携を密にしていないため、近くにいた戦列艦ベシアルに衝突する。

 

「機関停止!操舵不能!」

 

 

「死の霧!皆、逃げるんだ!」

 

王都は壊滅しているためか、接敵前の士気に戻り、更に士気は降下する。航海中に霧に突っ込んだ船が二度と帰らない水兵の噂としてある『死の霧』。入れば二度と生きては帰れず、出てきた船の乗員は死んでいるか、病に侵されているかのどちらか。その霧が目の前で人を殺していれば尚の事。水兵はその光景を見て混乱し、海に飛び込む始末だった。

 

 

「おい!待て逃げるな!」

 

 

「持ち場に……ゴホッ!……」

 

シルラは喉に痛みを感じ、咳をする。肺の奥底から出たそれは真っ赤な血。とめどなく気管内から溢れるそれは呼吸を阻害し、シルラは窒息する苦しみを味わった。彼以外にも持ち場に留まろうとした士官や水兵も同様に、その白い軍服を血で汚し、ある者は喉を押さえ、最終的には死の霧から逃れようと海面へダイブする。

 

 

 

シルラは窒息する恐怖と意識が削られていく中、絶望に飲まれていく。それはアルタラス王国艦隊の崩壊を意味していた。それに追い打ちをかけるように更にワイバーンが上空に飛来、魔導化学兵器を搭載したワイバーンは再びその兵器を投下していき、瞬く間に艦隊全体に広がっていく。

 

 

 

【ガードタートル、こちらホーク1!応答せよ】

 

 

【ホークリーダー、ダメだ。風向きが変わって艦隊全部がやられている。回避行動を行っているのは数隻しかいない】

 

上空の航空支援として、ドップのホーク分隊が艦隊(ガードタートル)に張り付く手筈だった。ホーク分隊の前にいた、グラーバク分遣隊が燃料切れと機器の故障によって、急遽ザンジバル級へ帰還。ホーク分隊は航空戦力が皆無になったために急いでアルタラス王国艦隊の元へ急いだが、彼らが目にしたのは白い霧に覆われ、壊滅的打撃を受けたアルタラス王国艦隊の姿だった。

 

【クソ、下は地獄絵図じゃないか】

 

【パーパルティアの蛮族共め、なんてひどい真似を】

 

数隻はガスに飲み込まれずに回避行動を取っている。何とか後方にいた中央戦隊の数隻はシルウトラス市に近い漁村へと進路を取っている。何とか交信出来ているが、ジオン軍との密約は果たせそうもない。

 

【パープルバロンからホークリーダー、状況を知らせよ】

 

司令部にて指揮を執る艦隊司令「パープルバロン」、指揮官としては有能されど甘さが見られるとして、パイロット連中からは非道が出来るかどうか測りかねている人物だ。

 

【スパルタは斃れたり、数名の戦士はポリスに帰還す。彼らの敗因は生物兵器か化学兵器の可能性がある、指示をこう】

 

【了解した……火葬にしろ】

 

 

既に作戦が失敗した場合の行動についても彼らは理解していた。もし、ほぼ無傷な状態で彼らに提供した武器や兵器が鹵獲された場合、かなりの被害が出ることは必須である。ハンドミサイルはほぼ確実にワイバーンを撃ち落とせる。更に言えば、ドップも撃ち落とせるかもしれない。ザクなどは流石に無理があるが、88㎜を集中的に砲撃されてしまえば、撃破される危険性もあった。

 

仮にしなくとも、化学兵器の量によっては汚染することにもなり、生物兵器であれば、感染拡大を阻止するために焼却消毒する必要があった。

 

 

 

 

幸いにもアルタラス王国艦隊の船舶は木造船だった。

 

ドップの持つ燃料帰化弾頭や機関砲によって破壊することはそう難しくなく、金属製兵器の殆どが海中に没すれば、パーパルティア皇国がジオン製のそれを鹵獲することは困難だ。

 

 

「まだ生きている奴もいるかもしれない。だが、仕方ないか」

 

ホークリーダーとして、分隊を指揮する中尉はキャノピー越しに見る幽霊船と化した多くのアルタラス王国の艦艇を見る。みれば、まだ動く人影もいるが、航行能力は皆無。拿捕されて嬲り殺しになるよりは、こちらが一気に楽にしてあげたほうがいい。彼らも敗残兵として晒し者にされて嘲笑われるよりか幾分かましだろう。

 

【ホーク全機、FAE投下後に機銃掃射及び誘導弾で航行不能な艦艇を一掃する。俺とホーク1、2は右翼戦隊、3と4は左翼艦隊に攻撃を集中せよ。散開(break)

 

各機は散開し、中尉は発射火器を機関砲からFAE(燃料気化弾)へ切り替えた。

 

【投下用意、高度は現高度を維持。ホーク1、2準備良いか?】

 

【ホーク1、準備よし】

 

【ホーク2、合図を】

 

【よし、全機投下はじめ!】

 

 

ドップのウェポンベイに装備された、真っ白い弾頭は切り離され、真っ直ぐに投下された。パラシュートが開かれ、ゆっくりと降下して弾頭内では少量のRDXが起爆した。内部の液体燃料である酸化エチレンや酸化プロピレンが加圧沸騰され、沸点を超えても加圧された容器であるため、気体にはならなかったそれは、圧力限界に達して、外気へと放出された。沸点を軽く超えた液体燃料は秒速2,000メートルもの高速で噴出され、一気に蒸気雲が形成された。その蒸気雲に火が付くと、一気に爆発し、3000℃近い高熱と衝撃波が艦隊を襲った。

 

木造艦艇はその衝撃だけで一気に転覆し、熱によって炎上する。海面は沸騰して辛うじて生きていたアルタラス王国水兵は茹で上がってしまった。立て続けに投下され、核にも等しい破壊力のそれは海面を蒸発させ、アルタラス王国艦隊は文字通り海の藻屑となり果てた。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

皇国軍アルタラス王国蹂躙司令部には各部隊の指揮官と貴族、末端の皇族が並んでいた。その総指揮官に収まっていたのは、濃い口髭を蓄えた壮年のバフラム大陸軍中将だった。平時と皇族以外の軍指揮官としては最高位に位置する。戦時下であれば、大将の任を拝命する。若しくは議会と皇帝の指名、皇族の血筋があれば平時でも大将となれる。大陸軍のトップは皇帝陛下であるが、軍の順位としては6番名に当たり、軍に属する貴族の中では最上位を占める。

 

バフラムは紺を基調とした色合いの軍服であったが、服の縁は純金が散りばめられ、胸には数多の勲章がある。軍服に飾りきれない程の勲章は持っているが、彼の胸にある大陸名誉勲章や前皇帝陛下から頂いた金星勲章、月光勲章が輝いており、直系の皇族でも彼の勲章を目にすれば、高飛車な態度をすることはまずない。

 

「状況はどうなっている?」

 

 

「は、現在ワイバーンロードに持たせた新型毒散弾によってアルタラス海軍は壊滅。殆どはわが軍に渡らないよう、自爆装置が仕込んであったそうです。残存兵力も港からシルウトラス市より20㎞の地点のレブラン防衛線に後退。絶対防衛線として死守する構えです」

 

「ル・ブリアス周辺はまだ瘴気が残っていて、幾つかの船舶と歩兵に被害が出ています。病気のようにうつることはありませんが、兵末端に関しては動揺が広がっています」

 

パーパルティアは今回の蹂躙戦(国家間戦争とは国内法上定義されていない)に関して、異例の大陸軍という、フィルアデス大陸の統一戦争時代から存在する陸軍が主体となって進軍している。

 

本来であれば、海軍戦力の豊富な国家監査軍を使用すべきであるし、文明圏外国家として国威発揚を考えれば、異例のことである。今回の大陸軍出兵には何らかの意味合いが存在し、第三外務局隷下の国家監査軍への対抗心もある。この蹂躙戦が大陸統一への橋頭堡にあたるのだろうと、司令部にいる高級将校は既に気づいていた。

 

「ル・ブリアスへの新型爆弾への布告を全軍に徹底させよ。毒散弾についてもな」

 

今回の爆弾投下は『皇国の軍事力を見せつける』。言わば、デモンストレーションの一種である。ジオンと言う科学技術が卓越した国家やグラ・バルガスなどの新興国向けの対外政策であり、新技術のお披露目と抑止力として利用できるようにしたかった。

 

 

今回の戦いの矢面に立つのはパーパルティア皇国であるが、新型爆弾や化学兵器の提供は神聖ミリシアル帝国によるものである。元々、古の魔法帝国が開発していたものであり、基本原理や製造は全く変わっていない。今回の軍事協力にはシルウトラス市にある古代遺跡を二国間で分割しようと企んでいた。

 

だが、両国間共に魔導核魔法に関しての基礎知識や運用ノウハウを持っておらず、毒散弾と呼ばれるものも、ミリシアル帝国内にある古の魔法帝国の軍需保管庫にあったものをそのまま使用したに過ぎない。ジオンが人型機動兵器「ザク」を使用していた事実は両国間の危機意識を煽り、魔法帝国の遺された技術を使用させたのである。

 

 

 

「作戦参謀……シルウトラス市攻略作戦について話せ」

 

バフラムは若い皇族の作戦参謀に指示を下す。皇族という貴族よりも階級の高い身分の軍人ではあるが、バフラムの指揮下では特別視しているわけではない。大陸軍の伝統として、軍の階級以上に特別視されないため、ほぼ実力でのし上がらなければならない。そのため、司令部の中には平民でここまで成り上がった軍人も要る他、軍には身分云々を厭わない実力主義が根付いていた。

 

「はっ、わが軍はシルウトラス市行政地区を目標として、敵の防衛線にあるレブランに兵力を集中。第二竜甲大隊によって撃滅後、進軍します。なお、レブランの南20㎞にあるル・マカレーについてはパールネウス艦隊の航空隊及び陸戦隊が攻撃作戦を準備中。レブラン攻撃の後衛にあたるのは第二近衛大隊、ル・マカレーからの攻撃に対処していただきます。その後はレブランで一度部隊を再編、休息後にシルウトラス市行政街奪取に掛かります。」

 

シルウトラス市の鉱物資源を輸出するルートは二通り。一つがシルウトラス街道と近年建設された鉄道を用いる。しかし、ル・ブリアスは壊滅しており、その道中には放射能などがあるため、進軍や迂回、背後を突く攻撃は難しい。

 

そして二つ目は海路。レブランという交易都市を経由した港町があり、アルタラス海軍残存部隊と王国陸軍の残存部隊が集結している防衛線が残されていた。

 

アルタラスの兵力は一万強。首都防衛のために一万弱を配備していたが、核攻撃により壊滅。そのため、残された一万はシルウトラス市と北部の都市を守ろうと部隊を補強。ジオンと言う後ろ盾を持った彼らは強固な防御線を敷いている。

 

 

「レブランの敵軍については?」

 

「敵軽歩兵2000弱、及び騎兵2000、わが軍と同じ銃兵4000、他航空隊50に2000のジオン軍歩兵部隊を各拠点に点在しているようです」

 

「ジオン軍だが、巨人のようなゴーレムの対処はどうするのだ?携帯型魔導砲では正面から撃ち合うのは困難であるという。これはどうするのだ?」

 

近衛大隊指揮官は怪訝な表情で意見する。

 

パーパルティア陸戦部隊は様々な兵科で混成される混成部隊。機甲師団に相当する地竜を配備した竜甲師団から抽出した大隊と皇帝のお膝元の部隊である近衛大隊、騎兵を有する軽騎兵大隊、その他工兵や衛生大隊、輸送部隊などが混ざり合った部隊だった。それ故に、組織間の融通が難しいが、魔導通信設備によって高度な連携作戦が可能となっている。

 

それ故に、近世レベルの文明と軍事技術だったとしても、近代並みの展開能力を持ち、数的劣勢であっても、培われた戦術で圧倒する。

 

「既に皇帝陛下より賜った隠密によって破壊工作が行われている。既にシルウトラス市内は混乱に包まれているだろう。ジオンにしても便衣兵が混ざっていれば発砲は出来まい」

 

「敵のザクと言うゴーレムへの対処策は?砲兵が対峙した場合はどうするのだ?」

 

砲兵隊指揮官の貴族出身の大佐は元々、砲兵隊小隊長と言う現場叩き上げ指揮官であり、現場での対応しきれない敵がいる場合どうするのか疑問を感じていた。既にジオンの兵器「ザク」について、対策を練らねばならない。 

 

「現時点ではゴーレムやジャイアントオークの対策として航空部隊による陽動と足への攻撃。移動の制限。加えて、関節部分への攻撃によって行動不能を目指します。」

 

 

 

まだ、ジオンのザク対策は確立されていない。未だに撃破数は0に等しく、関節への集中的な攻撃によって行動不能に追い込むことは出来たという話があったが、真実であるかは分らない。それでも類似する巨体の対処法は殆ど同じである。嘗て大陸に存在し、数を減らした巨人族やジャイアントオーク討伐に際して、魔導砲などで足を奪い、敵の脳髄を破壊するのが倒す方法の一つとして確立されていた。今回のザクに対しても同様の攻撃を取ると考えているに違いない。

 

「密偵の報告では配備されている数は少ないため、何とかわが軍の進軍は可能です。」

 

「そのジオンが攻撃を仕掛けた場合はどうする?」

 

「外務局では彼らが攻撃してくる可能性は低いかと」

 

「どうせ、第三だ!碌な仕事をしない。今回も嘘だろうに」

 

アルタラス王国への外交失策とこの度の戦争についても、国内では同情があるなど、いつもとは違った空気が皇国内に蔓延していた。大手を振っての国土の拡大については国民の同意を得られたが、今回の戦いは第三外務局の外交官が私利私欲から無礼な態度や外交文書の改ざんによって引き起こされたとして、第三外務局への風当たりが強く、更にはそれに対しての出兵とその軍に対しても批判の声が上がっていた。

 

国家監査軍とは異なる指揮系統と大陸軍という別格である存在の彼らは、出向している第三外務局の役人に対しての罵倒がひどく、司令部にいる将校たちの冷たい視線と罵る声が響く。その報告をした第三外務局出向の役人と国家監査軍の将校は一回り小さくなったように見えた。

 

それを見ていた総司令官のバフラムは鎮めるように右手を小さく上げ、他の将校は口を噤んだ。

 

 

「確かに第三外務局の弛み具合は皆の知るところ。だが、元大陸軍准将カイオスの指揮によって改革が進んでいる。ここにいる局員や監査軍の彼らは自ら志願してきたのだ。それも、他人の不始末を清算するために。……今後彼らに嫌がらせや不必要な罵詈雑言を放った場合は私に言っていると思え」

 

司令部の空気は沈黙に包まれる。

 

 

「諸君は戦いに来た。蛮族を嬲り殺しにするのではない。我々は皇国の繁栄のため、彼らを滅ぼすのだ。我々は彼らのシルウトラスに眠る古の魔法帝国の技術を手に入れる。」

 

 

シルウトラスのテクノロジーはパーパルティア皇国を数十年若しくは数百年躍進できる。神聖ミリシアル帝国をも凌ぐともされるそのテクノロジーは密約によって、かの国と分割する約束になっているが、シルウトラスを手中に収めることで、帝国との交渉に有利な条件を突きつけられるかもしれない。

 

 

「では、諸君。皇国軍人として民族の誇りになる戦をしようじゃないか」

 

 

戦太鼓が鳴り響き、号令ラッパと兵士の掛け声が大地を揺るがす。地竜は吠え、空にはワイバーンロード。空気を揺さぶる魔導砲とマッチロック銃の硝煙が空気を汚し、無数の死体が積み上がる。

 

『シルウトラスの戦い』の幕が上がった。

 

 

 

 

 





次話は二月に投下予定。この後、ジオン内政回&シルウトラス防衛戦。また、ザビ家コントが見られるかもしれません。

というか、見ないうちに評価も読んでいただいている方々もめちゃくちゃ増えてる……まじかよ

感想は非常に励みになります。

ガルマに付くMS小隊を出したいと思いますが、何がいいでしょうかねw

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