慈恩公国召喚   作:文月蛇

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前話の前書きで記した
>フェン王国の話はカット
の話

削除はしないのでご安心ください。ただ、アルタラス王国の戦いと比べると、薄くなるかもしれませんが、オリジナルの日本国召喚とは違う展開を軸に執筆していますのでご容赦をw




第二十二話 アルタラス事変(上)

 

「指定座標に到着、撮影開始。ナビゲーター頼んだぞ」

 

「了解、偵察カメラ撮影開始!パーパルティアの皆さん手を振って~」

 

大気圏内戦闘機ドップを改良し、旋回能力と航続距離の改善、兵装の充実化を図ったドップⅡは作戦遂行能力と作戦適応能力の向上のため、コックピットをモジュラー化しており、簡単に複座に出来る利点があった。初期のドップと比べてコックピットが細長くなっているが、その分ドップの翼は大きくなっており、ジェットエンジンも三次元ノズルを採用した機動性の高いものとなっていた。大空を舞うドップⅡの兵装は偵察用カメラが設置されており、目標座標に到着した彼らはカメラを起動して撮影を始める。

 

「ナビィ、状況は?」

 

「俺は緑の少年の妖精かよ。せめてマスターソードを持ってこい」

 

「連邦のセイバー(聖剣)フィッシュでいいか」

 

「勘弁してくれよ。んで状況を頼む」

 

機内の二人は戦場での偵察任務であるにも関わらず、間の抜けた会話をしていた。それもそうだろう。自分達を撃墜できる戦力はこの空域には、いやこの惑星には存在しないのだから。交戦を想定されているパーパルティアのワイバーンロードは現在の偵察機の高度に達することは出来ない。竜騎士が酸素アセンブリや防寒着を着用し、尚且つ暖房魔道具や魔法を使用しなければならず、長時間の軍事行動は出来ないため、ワイバーンロードがドップⅡを撃ち落とすために迎撃することは現実的ではない。それに、性能上ドップⅡの方が圧倒的に有利であった。

 

「地上にアルタラス王国の部隊とパーパルティアの糞共が戦ってるよ」

 

「そりゃ見りゃわかる。どんな調子だよ」

 

「知るか、俺が大学の爺に見えるか?そうだな、骨董品(パーパルティア)の銃と復刻品(アルタラス)の銃でドンパチ。単純戦力じゃアルタラス王国の有利。だが、パーパルティアの将軍もやるな。ありゃ名将だね」

 

「ほぉ、いつから将軍に?」

 

「お前が売春宿行ってる時にだよ間抜け」

 

売り言葉に買い言葉。だが、二人はルウム会戦ではMSでなく、性能的に連邦軍の戦闘機(セイバーフィッシュ)に負けると言われた宇宙戦闘機ガトルで生き延びた猛者だった。仲も喧嘩する程よいと表現でき、命を預けてもいいと思える二人だ。

 

彼らの1000m下ではパーパルティア大陸軍の歩兵部隊と騎馬兵が突撃をしており、それをアルタラス王国軍の部隊が防衛している。アルタラス王国がジオンの援助によって第二次大戦レベルの歩兵火器を提供したおかげで、パーパルティア大陸軍の火打銃部隊を機関銃でハチの巣にする光景が見られた。だが、パルティア大陸軍の指揮官も馬鹿ではない。まるでソ連のT34の如く、地竜に歩兵部隊を載せたり、後ろから随伴させることによって弾避けの役割を果たし、防衛線にじりじりと近づいていた。

 

「化学兵器部隊や放射線センサーにも反応はない。やはり司令部の危惧は外れたようだ」

 

パーパルティアが行う軍事行動の一つとして挙がっていたのは、残りのアルタラス王国を排除するためにNC兵器(核・化学)の使用だった。だが、その場合進軍するパーパルティア大陸軍も被害に出ることは必須であり、占領統治にもかなり悪影響が出るだろう。すでにル・ブリアスを核攻撃し、その地点を不毛の地にした時点で最もうま味のあるのがシルウトラス市の魔導石の鉱山とその隣にある古代都市遺跡。

 

もっとも価値のあるものを傷物にしたくない彼らは、通常兵器ののみでの攻略を計画した。事前にそう易々と使用しないことを予期していたジオンは、アルタラス王国軍の司令部にそのことを伝え、まだ戦争状態でないジオンは後方で支援することを約束した。とは言え、大規模な兵力投入は行わない。行うのは偵察やアルタラスが不利になった場合に駆け付ける航空支援だろう。

 

アルタラス王国臨時政府はシルウトラス市に設置され、急ごしらえで行政能力を整えている。順調にパーパルティアを駆逐すれば、生き残ったアルタラス王国民は臨時政府を支持し、譲位した女王に忠誠を誓うだろう。

 

 

「さて、そろそろ帰るか……」

 

仕事も終わり、さっさとザンジバル級巡洋艦に帰って食堂の糧食班の女性下士官を口説きたい。パイロット二人は同じ思考で、さっさと帰還しようと旋回した。

 

 

ビィー!ビィー!ビィー!

 

それは鳴ってはいけない計器類の一つ。レーダーロック、所謂ロックオン、レーダー照射を受けているのだ。

 

 

「付けられたぁ!旋回!」

 

ドップは一気に旋回し大空を舞う。パイロットの急旋回によって急速にGが彼らの身体を締め付け、血流を滞らせる。重力が思いのほか重い事を感じつつ、レーダーを見るが若干ノイズの入るそれが目に入った。

 

「方位340、高度3000に所属不明機!」

 

「嘘だろ!ムーのプロペラか?」

 

「いや、速度は700km/h?」

 

パーパルティアのワイバーンロードがそんな早い生物を使役している情報はない。逆にアルタラス王国のワイバーンの可能性もあったが、ドップⅡの護衛としては邪魔であったし、そもそも高度3000m程まで来る必要はなく、高度300m前後が限界。地上戦力にブレスを行い、火炎放射をしているのだ。こんな高度で飛ばしてくる者等がいるはずもない。

 

ーだがいるとすればそれは……。

 

「IFF反応なし!回避しろ!急げ!」

 

ナビゲーターの叫びと共にパイロットは操縦桿を思いっきり引き倒し、急激なGも物ともせず急旋回を行った。

 

HUDに移る急旋回によるGの警告と体内の血流が遮られ、全身が圧迫されている感覚が全身に伝わった。すると、レーダー照射の警告音がさらに変化し、言語を伴った警告へと変わる。

 

【warning!ミサイル接近!】

 

 

「嘘だろぉ!」

 

「回避ぃ!方位330より飛翔体!」

 

ナビゲーターの叫びと共に飛来するのは、ロケット推進力とレーダー誘導らしき飛翔物体。もし、しっかりと見ることが出来ればそれは空対空ミサイルの形状をする何かだと気づくことだろう。文明的にもミサイルを発射する兵器があると思わなかった二人は動揺し、急いでミサイル攪乱用の兵器を使用する。

 

「ミノフスキー攪乱開始、投下!投下!」

 

「レーダージャミング!」

 

 

機体下部に装備されたレーダージャミング兵器として、小型のミノフスキー粒子拡散装置があった。熱源追尾ミサイルにも対応できるそれらの電子機器を混乱させる兵器はこうした戦闘機には必須の代物。熱追尾するミサイルにフレアと言った疑似熱弾のようなものも装備していたが、連邦やジオンの兵器を鹵獲したと思っていた彼らはすぐさまそれを使用した。

 

 

「ナビ、ミサイルは?」

 

「だめだ、尻に張り付いている!」

 

「くそぉ!」

 

「右だ!右!右旋回、最大航速で振り切れ!」

 

レーダーの効かない状況では、後ろの視界をみるのは、ナビゲータの役目。ミノフスキー粒子散布でも動じないミサイルはドップⅡに接近しており、もし何らかの影響で機体が遅くなれば捕捉されて撃墜されてしまうだろう。

 

【Warning!ミサイル接近】

 

「クソ!なんでミサイルの癖に妨害できない!」

 

「フレア投下!投下!」

 

熱赤外線追尾や機体エンジンの発熱を追尾するのであれば、フレアは効果的だった。機体下部に放たれたフレアは数百度以上の火球を形成し、ミサイルらしき飛翔体に直撃する。

 

インターセプト!(着弾阻止)

 

「方位220距離7000に不明機……どうする?」

 

「写真を撮って司令部に送れ。ミノフスキージャミングの効かないミサイルだぞ。機関砲以外武装のないこれにどうやって落とせというんだ」

 

遠距離タイプの巡航ミサイルであったらこの距離でも攻撃が可能だ。だが、攻撃の素振りを見せず、むしろこちらの機動力を見ていたように思えるそれは、明らかにこの惑星において異質な存在だった。

 

「連邦の戦闘機?いや、それならもっと食いついてくるはずだ」

 

 

パイロットは機首を傾け、急ぎザンジバル級へと帰還する。撮影された映像の大半はパーパルティアの戦術配置と兵力分布についての撮影画像だったが、最後の数枚はミサイルを発射したと思われる所属不明機の姿。ムーの機体でもないその姿はジオン公国に『惑星文明における特異点』として知られることになる。

 

 

 

 

 

「インフォール1よりドランド、目標は射程外。敵は誘導噴進弾に命中せず」

 

【ドランドよりインフォール1、了解した。敵の性能はそちらの魔導記録機にて確認する。インフォール分隊はそのまま空中警戒を厳と為せ】

 

アルタラス王国領空内を我が物顔で動くのは、パーパルティアの航空部隊だけではない。世界第一位の大国『神聖ミリシアル帝国』の聖鳥旗が記された魔導金属装甲に覆われたそれ。見た目はMiGに近い形状を持つそれは魔光呪発式空気圧縮放射エンジンから推力を得ていた。その名前はエルペジオ4アルフォ(試作先行型)アルフォ(試作先行型)。推進力とその攻撃力を挙げたそれはまるでソ連の戦闘機Mig25を思い起こさせる。

 

彼らはパーパルティアとの軍事協力として本体より抽出された派遣部隊。ジオンの航空部隊の調査とあわよくば、自軍との性能比がどれほどかを見極めるために派遣されたのだ。逆行工学(リバースエンジニアリング)だけで惑星第一位の大国に上り詰めたミリシアルであるが、オリジナルの古の魔法帝国のテクノロジーはまだまだ先を行く。それこそ、今の最新鋭主力機であるエルペジオ3は元の機体と比べれば、子供だましに思える程に。エルペジオ4アルフォは試作先行型として一部の精鋭部隊や実験部隊に配備され、今回において外部の協力機関からの強い要望から派遣が実現した。インフォール1と部隊コードを使用するパイロットは訓練でしか使用したことのない新型誘導噴進弾の性能を見て、魔導通信の台詞とは打って変わって驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

―これはまるで古の魔法帝国の言い伝えにある『誘導魔光弾』と同じじゃないか?!

 

嘗て神聖ミリシアル帝国がミリシアル神国として大陸の小国であった頃。偶然にも初代神王が古の魔法帝国の巨大兵器庫を発見したことでミリシアルは拡大した。音速で飛行する天の浮舟や誘導光弾、アイアンゴーレムよりも固く筋力を増強する鎧、大口径連発魔導銃を持って歩兵を薙ぎ倒す。更には魔導人形による自動攻撃など、まさに神話の戦いを思わせる。彼の代では稼働数も少なく、逆行工学のために残され、消耗品として壊れるのに忍びない帝国は保管へと動いている。ただ、彼の所属は空軍であるため、対魔帝対策省の行う極秘の実験や秘密兵器などは知る由もない。

 

 

彼は若干震える手を押さえながらも、操縦桿を握り、旋回する。

 

【こちらデルーシャ1よりインフォール1、応答せよ】

 

「こちらインフォール1どうぞ」

 

方位(ラントウェイ)220よりそちらにつく。魔導レーダーがアルタラスにジャミングされている。目視で確認できるか?】

 

南西の方角にパイロットは目を向ける。

 

パーパルティア大陸軍を支援するために派遣されたジグラント1と呼ばれる旧式の戦闘爆撃機の編隊があった。旧式とは言え、次世代機のジグラント2以上の爆装能力があり、空中戦には向かないが、その対地攻撃能力と機体の対空能力は高く評価されている。ただし、欠点として鈍足であることと機動性に劣っている点においては、魔導通信によって情報伝達が早く行われている惑星の戦場において、際立つ欠点であった。

 

「目視で確認、ジオンの戦闘機は尻尾まいて逃げてったぞ」

 

【だろうな、話によるとジオン軍は徹底した軍隊らしい。義理で戦おうとはしないんだとさ】

 

 

神聖ミリシアル帝国が世界第一位の大国として君臨する理由の一つが「同盟国を見捨てない」ことだった。世界規模の戦争を経験していないからかもしれないが、国民性として義理堅い一面が存在する。植民地化や保護国、同盟を組んだ如何なる国であっても、大軍を率いて馳せ参じ、徹底したテクノロジーをもって滅するのである。

 

列強第三位のパーパルティア皇国とは表向き対立姿勢であるが、今回の戦いでは利害の一致から航空支援を行っている。そんな彼らだからか、実質同盟関係となったアルタラス王国に対して、軍を出さないジオンに対して「腰抜け」という論調が派遣部隊の中で広がっていた。

 

「まぁ、出せば代理戦争に発展するだろうからな」

 

神聖ミリシアル帝国ではムーと技術体系が似ている事を理由にムーと同盟関係を結んでいるのでは、と憶測が飛び交っていた。それが事実だとすれば、このアルタラス王国侵攻は列強の代理戦争に発展しかねない。以前にも、こうした代理戦争が幾多と行われている中で、再び行われるとなると、列強同士の大戦争に発展する可能性も生まれてくる。だとすると、ジオンが消極的姿勢になっているのも頷ける話だった。

 

パイロットは作戦規定と燃料の関係から洋上の空母へと引き換えしていく。下で起こっている血みどろの大戦を眺め、この後に起こる各都市の市街戦を想像していた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

一般将兵の遭遇戦の報告やアルタラス王国の善戦と敗退。じわじわと敗北の色が見え隠れする中で、ガルマは眉間に皺を寄せ、不眠気味の身体を起こすべく冷めたコーヒーを喉に流し込んだ。

 

酸化した不味いコーヒーなど、上流階級のザビ家の御曹司が飲めるはずもなく、脳に不味いと味覚中枢が訴え、吐き出そうとするがそれを抑え込む。アルタラス王国の後退戦に対してストレスを感じていた彼は胃に食べ物も受け付けず、秘書官が心配するような顔色になっていた。

 

 

「打って出るべきか、去るべきか」

 

 

ガルマの思い悩む原因はアルタラス臨時政府を守るべく、保有戦力の多くを投入すべきか否か。

 

ジオンとパーパルティアの関係は良くも悪くも国交という国交を持っていない。列強と文明圏外国家の関係としては普通の国交であるかもしれない。だが、アルタラス王国とは技術支援や軍需物資の支援、軍顧問団の派遣のみであり、相互防衛条約などは結んではいない。今回の戦いに介入するような国家間の同盟は結んでいない。ガルマが義憤に駆られて部隊を投入する事は国家への背信行為となりかねない。最悪の場合、軍の私有化は銃殺刑もあり得る。

 

ジオン公国突撃機動軍の指揮官として、命令のない軍事行動はやってはならないのだ。例え、国家中枢のザビ家の子息であっても。だが目の前で起きているアルタラス王国内での虐殺を止めなくてはならない。部屋で泣く譲位したルミエス女王(・・)のためではない。国際法上の違法行為を阻止するための軍事行動である。一部の人道的軍事介入を求めた部隊指揮官の求めに応じ、威圧的偵察行動や民間人への医療支援、治安維持部隊への支援を認めた。既に部隊の移動準備を終えており、総帥府の命令があればアルタラス王国からの離脱も視野に入れている。

 

「独自に行動してアルタラスを守る」か「離脱すべきか」。

 

MSを使えばパーパルティアの軍勢を一蹴できる。だが、軍指揮官としての立場や自分の命も危うい。そして、ジオンでのザビ家の立場も危うくなるかもしれないのだ。だが、アルタラス王国から撤退したとしても、自分にはアルタラスで失われた数万の民間人の怨嗟がのしかかる。自身が行動を起こさなかったために、救えたはずだろう命が犠牲になるのだ。一方、アルタラスを守ったとしても、幾人かのジオン将兵が亡くなるのかもしれない。軍指揮官として、一人の男として決断しなければならなかった。

 

 

「ガルマ……ここにいたのか」

 

「シャアか、軍服はどうした?」

 

そこにいたのは、いつもの色の主張の激しい赤い軍服ではなかった。着ていたのは、所謂野戦服と思しき服装である。テレビ版の如く地球連邦総司令部に真っ赤な軍服で赤鼻と共に潜入する滑稽なことはしないシャアだが、今着ていたのは将校用の野戦服だった。

 

 

「既に前線が40㎞を切っている。地上戦で目立ったら不味いだろう」

 

「……」

 

ルウム会戦では『赤い彗星』とジオンと連邦双方から呼ばれ、二階級特進とジオン十字勲章を手にした彼だが、その自己主張の激しい「赤い色」を封印したその恰好はかなり異質である。何時もの仮面はサングラスに変更されており、嘗ての映画に出てきそうな米軍の教官のような貫禄が出ていた。

 

「いや……ある人が慣れない地上で赤を纏うなと言ってね。その子は勘が鋭いから従ったまでだよ」

 

「……ほう、そうか。僕はひょっとして女子に言われて変な癖を直したのかと思ったよ」

 

「……何?」

 

「いやぁ、君もやるものだね。あまりお目に掛かれないインド系美女……いや美少女……まさか君がね」

 

「それならばガルマ、おまえもだぞ。ルミエス嬢とはどこまですすんだのだ?」

 

「わ。わたひはなにもやってにゃい!」

 

「噛んでるぞ、ガルマ」

 

狼狽えるガルマの様子を見ていたシャアはその様子に笑ってしまう。シャアは自分自身にザビ家としてのガルマ・ザビではなく、親しい友人としての情が芽生えていた。怨敵ザビ家の一員をそこまで親しむ自分に嫌気が出ると同時に、そう思う自分自身が鬼と化していることを自覚する。

 

「僕っ子だったガルマが私とは」

 

「そう言うなシャア。」

 

いつの間にかザビ家のお坊ちゃんが軍指揮官として成長している。お坊ちゃんであれば、「謀殺」することに躊躇いを覚えないだろう。

 

「シャア、伝達事項があるのではないか?」

 

「そうだった。先のル・マカレーとレブランの偵察画像を渡すところだった。これだ」

 

シルウトラス市とル・ブリアスを結ぶ交易都市レブランが映されていた。歴史上アルタラス王国と対立していた諸侯団が建設した城塞都市であり、防衛するアルタラス王国軍は一進一退の防衛戦を行っていた。その偵察写真と共にあったのは、神聖ミリシアル帝国の新型機と思われる航空機の写真だった。渡された音声データを再生し、接敵したドップⅡのパイロットの声が執務室に響く。

 

「ミリシアル帝国が関わっているか……」

 

「ああ、それに偵察機が帰還後、ル・マカレー防衛拠点が爆撃を受けた。アルタラス王国軍部隊は壊滅、その爆撃は神聖ミリシアル帝国の爆撃機だったと」

 

「ふむ、やはりか」

 

核攻撃の能力を持つ国家は神聖ミリシアル帝国かジオン公国、そして連邦軍残党と第二の(ムーンⅡ)に存在していたらしい異種族武装勢力位だろう。パーパルティアのテクノロジーや基礎科学についてはまだまだ運用に至るまでの技術力や知識は持っていない。パーパルティアの軍事行動は背後に神聖ミリシアル帝国があったことは疑いようもない。

 

「レブランが突破されれば、アルタラス臨時政府は崩壊する。司令部は何と言っている?」

 

「『現状兵力にて対処せよ』とね。含みのある言い方だ。ギレン兄らしい……シャア、君ならばどうする?」

 

「それは愚問だ。私は特務指揮官じゃない」

 

「そうだろうが、頼む。教えてくれ」

 

ガルマはやんわりと断ろうとするシャアに食いつき、答えを求めていた。それほどまでに熟慮を重ねている彼を断る気にはなれず、シャアは溜息を吐くと述べた。

 

「もう、決まっているはずだろう?ガルマ、私に聞く必要もない」

 

そう、ガルマの腹は決まっていた。だが、その踏ん切りがつかない。所謂、まだあるザビ家のお坊ちゃまの部分が彼にブレーキを掛けているのだろう。

 

「さぁ、ガルマ。男を見せろ。泣く姫君を助けるために立つんだろう?さぁ、その名に恥じぬ事をしよう」

 

シャアの励ましによって腹を決めたガルマ。

 

もう彼には迷いなどなかった。

 

「命令を伝える……」

 

それは暁の蜂起にいた若い士官候補生。ザビ家の御曹司として花よ花よと育てられたお坊ちゃまにも見える表情。だが、それは間違いだ。シャアの目に映るのは、部下の命を守ることを念頭に置きつつも、軍人としてなさねばならないと考える良き指揮官。ザビ家の策略家としては失格だが、その敵の目に映っていたのは自分の意思で為すべきことをする男の姿だった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

アルタラス臨時政府の最後の防衛線であるレブラン城塞都市は王国建国当初、王家と敵対する諸侯と民族の勢力下にあり、シルウトラス地域は古の魔法帝国を崇拝する人々の支配下にあった。アルタラス王家はシルウトラスの鉱山地帯を掌握するために、拡大戦争を仕掛けた。レブランはアルタラスとの戦いに備えるための防護壁や区画化された都市機能を備えていた。ル・ブリアスとシルウトラスの間にある都市として、交易機能を阻害する機能は削られたが、殆どの機能は残っていた。アルタラス王家の系譜をたどるアルタラス臨時政府を守る最終防衛線としてレブラン城塞が使われるというのは皮肉だろう。遺されたアルタラス王国軍は臨時政府の指揮下に入り、ジオン軍の軍需支援と軍顧問の指導によって高射砲部隊が編成され、レブラン城塞都市上空には高射砲による対空砲火の嵐が起きていた。

 

地上へ火炎弾を浴びせようとするパーパルティア大陸軍のワイバーンロードを撃ち落とそうと、無数の砲火が上っては灰色の爆炎を起こす。それを掻い潜り、数十騎のワイバーンが急降下爆撃を仕掛けていた。急速に仕立てた砲兵部隊であるため、練度も低い。敵味方の区別など出来るはずもなく、空軍機の主な戦場はその上の空に限られる。

 

【王国軍の対空砲に気をつけろ!1000ft以下は敵味方なく攻撃を受けるぞ!】

 

【イーグル2、FOX2】

 

ドップⅡから放たれた赤外線追尾型の短距離空対空ミサイルが発射され、聖鳥旗の描かれたエルペジオ4アルフォに命中する。ジェットエンジンに衝突した液体燃料に引火。大爆発を起こし、破片が周囲に飛び散った。無数のミサイル推進煙が軌跡を作り、機関砲の曳光弾が交差する。戦闘機がルブランの城塞上空を乱舞し、一つまた一つと爆散する。そこにはドップⅡが爆散する様子はないが、赤外線誘導らしきエルペジオ4のミサイルがドップの片翼に命中した。

 

 

【イーグル11、イジェェクトゥ!!】

 

ジオン公国突撃機動軍惑星派遣団第21特務隊に所属する、イーグル11と呼ばれるパイロットは日光を陰に攻撃を始めたエルペジオ4アルフォによって被弾。片翼が吹き飛ぶ形で墜落した。幸運にも墜ちた場所がアルタラス軍勢力圏だったことが幸いした。

 

「イーグル5がやられた!全チーム、フレア残弾気をつけろ!」

 

【パープルバロンより全イーグルに次ぐ、南セクターに新たな爆撃機編隊が出現。地上からも敵機甲部隊の……いや、地竜が相当数接近中。増援が来るまで5分】

 

「無理だろ!そんな!」

 

 

レブラン城塞都市へパーパルティア大陸軍が大攻勢を行い、二万近い大軍と神聖ミリシアル帝国の義勇軍が押し寄せた。そして、特務隊指揮官ガルマ・ザビ大佐の命令からドップⅡ12機からなる航空隊を派遣。MS6機の地上部隊を後衛に回すことを決定した。陸上歩行によって到着に時間のかかるMSの損害は全く出ていないが、ドップⅡの損害が既に二機出ている。

 

エルペジオ4は速力がドップⅡよりも遅めだが、機動力や旋回性はドップⅡを上回る。ドップⅡは従来のドップと比べて大気圏内用に再設計されている。パイロットの生命を度外視するような性能や歪な機体設計を見直したドップⅡは様々な作戦に合わせた調整と複座式コックピットの採用に伴って、旋回性とスピードが低下。連邦が惑星軌道上でミノフスキー粒子を使用した状態を考え、有視界戦闘を重視した結果、機動性の乏しいドップⅡは旧世代機に近いエルペジオ4に後れを取っていた。

 

誘導兵器などが優秀なジオン軍の優勢ではあるが、如何せんエルペジオ4の量が多い。加えてジグラント1が爆装状態で近づいている。加えて、地竜の大部隊が接近中とあって、ドップⅡの部隊長、イーグル1のパイロットは苦虫を噛み潰したような表情をヘルメット越しにして、追尾するエルペジオ4に機関砲を浴びせた。

 

20㎜機関砲の砲身が回転し、毎分4000発の大火力を持ってエルペジオ4の右翼がハチの巣になった。左翼を穴だらけになったエルペジオ4は錐揉みになりながら、黒煙を吐き出し、地面へと突進する。そして1000ft以下になった瞬間、アルタラス高射砲隊の砲撃が集中し、空中にて爆散した。

 

 

「イーグル1より、パープルバロンへ!爆撃機編隊はこちらで何とかする。しかし、地竜の部隊に関しては攻撃不可能。弾薬が持たない!増援を求む」

 

【地竜に関してはドダイでレッドバロンを向かわせる。航空戦力の撃滅はそちらで対処されたし】

 

 

―レッドバロン……アズナブル少佐か

 

イーグル1はパープルバロンの同期の戦友、ジオン十字勲章の英雄を思い出す。自己主張の激しい赤い塗装に赤い軍服。エリート且つ英雄の姿は正に個性的で、イーグル1の彼は一目見た瞬間、危険な人物であると思っていた。

 

【イーグル1!助けてくれ!青い機体に追われている!】

 

それは僚機のイーグル7の悲痛な叫び声だった。

 

「イーグル7了解した。待ってろ!」

 

操縦桿を捻り、スロットルを挙げて急旋回する。体が縛られるような感覚に襲われるが、友人が死んで葬式をする方が一番嫌だった。吐き気を伴うGを感じながら、追尾されるイーグル7の方向に機首を傾ける。

 

【イーグル7、ブレイク!(回避)ブレイク!】

 

ドップⅡの後ろに回り込んでいた青い塗装のエルペジオ4。その自己主張の激しいそれは一見して目立つと思いきや、青い空や海の上ではこの上ない偽装効果があった。Mig25にも似たエルペジオ4は回避行動を取り続けるイーグル7を執拗に追い続ける。そして、エルペジオ4の魔光弾が発射される。ミリシアル帝国のミサイルは誘導装置など未だ未発達のため、命中することは先ずない。イーグル11は何時もの如く帰還するだろうが、普通は当たりっこないミサイルなのだ。

 

だが、魔光弾全く違う。

 

その性能はまるで戦艦クラスのメガ粒子砲。エルペジオ4の一部には試作装備として採用された大型魔光弾が装備されており、従来の連発式魔導銃や魔導機関砲とは違い、メガ粒子砲並みの高熱を放つプラズマ弾だった。

 

イーグル7のエンジンに直撃した瞬間、燃料に引火。まるで砲弾のようにコックピット周辺を吹き飛ばし、機体後部は爆散する。そして、イーグル7の絶叫がイーグル1のヘルメットに反響する。

 

「クソっ!やりががったな!」

 

頭に血が上り、彼の人差し指が強く発射ボタンを押す。20㎜バルカンが発射され、10発に一発の曳光弾が発射された。だが、水平飛行になっていた青色のエルペジオは180度ロールすると、一気に地面に機首を向けて突き進み、一気にUターンを行う。他の機体にはない回避運動を見たイーグル1は、青いそれが「スプリットS」と呼ばれる戦闘機動を行ったと知る。

 

【イーグル1、援護する!】

 

「いや、他の敵機を迎撃しろ!」

 

上空ではドップの数よりもミリシアル帝国空軍の戦闘機が多く、数の有効性はジオンが良く知っていた。シャンデルと呼ばれる旋回によって青いエルペジオを追い、ミサイルモードを起動。レーダー照射を行い、青い機体をロックする。レーダー照射の機械音が響き、ロックがかかる。マークした敵へミサイルを発射しようと発射ボタンを押すが、反応がない。

 

【Warning! Targeting System Error!】

 

「holly shit!」

 

整備不良か、不良品かはわからない。せっかくの獲物を仕留めるチャンスを失い、システムのモードを変更しようとするが、機体に突如として衝撃が伝わる。

 

「他の奴か……」

 

敵の数はジオンの航空隊よりも多い。数機落としていたが、それでも、数が多すぎた。エルペジオ3と呼ばれる機体も集めてドップの二倍に近い部隊が展開しており、後ろに回り込んだ機体が攻撃を仕掛けていた。

 

 

「イーグル1被弾!」

 

エンジン出力が落ちており、魔光弾ならば燃料に引火しかねない。だが、放たれたのは銃弾と同じく弾丸を魔導石で撃ちだすタイプの実弾だったことが幸いした。バックミラーから見える黒煙を見たイーグル1は自己診断プログラムを起動させる。

 

【イーグル1、黒煙が出てるぞ!】

 

【指揮を受け継ぎます!イーグル1は退避を!】

 

僚機は既に多くの敵と対峙しているにも関わらず、他の仲間にも気を配れることを知り、イーグル1は唇を噛む。自分自身は歳のせいか若い時の状態を維持できていない。ごく些細な事を見抜けなくなっているロートルであることをこの時自覚する。

 

スロットルを出来る限り上げ、エルペジオ4に追い付かれないよう、空域を離脱する進路を取る。機体が制御不能になる前に脱出することも考えなければならないため、残存するアルタラス友軍部隊に行けるような進路を進む。

 

「イーグル2に指揮権を委ねる!ツァイス!あとは頼んだぞ」

 

機体は消耗品。命以上の価値はない。脱出(ベイルアウト)するか悩んだが、バックミラーに移りこんだ機体を見て背筋が凍った。計器を見れば、エルペジオ4が追い付けない速度を出していると思っていたが、計器の故障であったらしく、外の景色と比べると遅く感じる。計器には900㎞/hと表示されているが、実際はエルペジオ4が追い付ける鈍足にまで落ち込んでいたに違いない。

 

エルペジオ4の機体下部にある歪な形をした魔光砲を見たイーグル1は死を覚悟し、その瞬間を耐えた。

 

だが、その瞬間は訪れなかった。音速に近い速度で真っ赤な何かが横切ると同時に青いエルペジオ4の機体が巨大な足に踏まれたかのように真っ二つになり、魔導エネルギーの暴走によって爆発したからだ。そして、その赤い何かはジオン軍に採用されたMSサブフライトシステムとして使用されるドダイYSに乗り、左手に持っていたザクマシンガンを連射し、エルペジオ4数機を撃ち落としていく。

 

【イーグル1、ゲビル少佐か?こちらレッドバロン。地上目標掃討のつもりだったが、助太刀する】

 

 

青を駆逐した赤。

 

シャアの乗る機体はまるで宇宙空間にいるのではと錯覚するように、大空でMSを自在に動かしてはエルペジオ4を撃ち落とし、爆装状態だったジグラント1へ近くにいたエルペジオ4を鷲掴み、投げつけるという神懸った攻撃を繰り出した。片翼に命中したジグラント1は操縦不能に陥って、密集編隊だった故に隣の有軍機に衝突。そのまま大地へ真っ逆さまに落ちていく。パラシュートなど脱出する機能を持たせていないのか、そもそも脱出装置の存在がないのかわからない。

 

イーグル1改め、第21特務隊イーグル航空隊隊長ゲビル少佐は大空で乱舞する赤い巨人を見る。あたかも其れは神々の戦いとも思え、機体が耐えられなくなったことを確認した彼は直ぐに脱出装置を起動させ、射出する。体を引き裂くのではと思うような強烈な衝撃と共に射出された彼の身体とコックピット座席は自動でパラシュートが開き、ゆっくりと降下する。

 

突如として現れた巨人が空中戦を行うという光景に目を疑っているミリシアル帝国パイロットは、パラシュートで脱出する敵兵など見向きもしない。

 

ゲビルは大地に降り立つと、直ぐにアルタラス王国軍に合流。ジオン軍部隊の陣地へと急行した。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

レブラン城塞都市・南セクター。

 

交易用の整備されたレブ川がレブラン城塞都市を隔て、頑丈な城壁を形成している。河川がある事によって水源の確保や老廃物の廃棄が簡単な事から中世都市の様相を持つ。レブランと郊外を隔てる石造りの橋は郊外へと続く。

 

つい先ほどまでそこは避難民で溢れていたが、騎馬とも劣らぬ機動力を駆使して地竜を数十頭近く保有していた大陸軍は、南セクターの混乱を突く作戦に乗り出した。戦闘に一番邪魔なもの。それは民間人だろう。有史を辿れば民間人が殺戮されるのはそう珍しいことではない。だが、侵略戦争において、根絶やしにすることはそこでの経済活動が滞ることになる。税収は戦争前と比べて著しく落ち込み、宣戦布告前に見込まれていた資源を奪い取ることが出来ずに、消費していた戦費が嵩張り、戦勝国が疲弊する。

 

だから、パーパルティア大陸軍はこれまでとは打って変わって、道行く道で()()()()()()()()()()()。アルタラスに対して殲滅戦を宣言した大陸軍としては珍しく、落ち着いた行軍を続けていた。パーパルティア皇国の殲滅戦の定義は民族を消し去ること。草の根残さず、歴史を完膚なきまで破壊して、その存在を奴隷レベルまで落とし込む。民族そのものの破壊と隷属化。国土を併合していくやり口は侵略戦争となんら変わらない。ただ一つ違うのは、戦勝した後は生き残った国民を全て一生奴隷に残し、後世に繋がらないように去勢措置を施す。大陸軍が敵対する軍事組織を包囲殲滅した後は、人狩りとして国家監査軍と交代。歴史的建造物やそれらを破壊して回り、その後は貧民入植が始まり、属領として管轄されることになる。そのため、大陸軍の将兵は出来るだけ、貧民や国家監査軍の下人に富が渡らないよう、徹底的に奪いつくし、殺し尽くす。

 

それは焦土作戦、敵軍に利用されないように徹底的に資源と人財を滅却する。その敵軍は末代になって復讐してくるであろう未来のアルタラス。根絶やしにしなければ、後世のパーパルティアの子供たちに牙を剥こうと襲い掛かってくるだろう。

 

 

【目標群αα(アルファ)の座標N394E342S2、支援砲撃を要請!】

 

【レブ川を渡航してくるぞ!機関銃部隊もっと弾幕はれ!】

 

【第七機銃陣地が砲撃を受けている!】

 

【ユタに乗るぞ!】

 

大空の戦場に加えて、南セクターと呼ばれるレブラン南側の兵力は避難民の誘導と治安維持に回され、混乱した状況が続いていた。ただでさえ、練度不足と士気の低下も相まってアルタラス王国残存部隊の攻撃力は予想した以上に低下していた。救護が必要な民間人の収容の混乱に乗じて、パーパルティアに恩を売ろうとする者も多い。そのうえで地上から来る大陸軍を迎撃し、空から来るワイバーンロードを撃ち落とさねばならない。

 

このような大混戦の中で、ジオン軍の支援が得られなければ組織的抵抗が出来ず、簡単にレブラン城塞都市内部に侵入されたのかもしれない。通信システムの構築がうまくいき、すべての戦闘通信はデジタル軍用無線に統一され、アルタラス王国側の無線周波数ではかなりの頻度で通信がされる。

 

砲兵陣地にある10.5cm leFH 18が進軍する地竜に向けて放たれた。榴弾は竜に命中し、行軍が一時停止する。だが敵の進軍は止まらない。レブラン南セクターの端に位置する川岸に歩兵や騎兵を載せた上陸船が接近する。一度上陸されれば進軍を止められない。木造のボートに乗り込み、魔導銃でオールのように漕ぎ、アルタラス王国軍から放たれる機関銃掃射によってボートごと切り刻まれていく。

 

まるでノルマンディー海岸のような様相を呈していたが、強力な航空戦力によって歩兵の被害を最小限に抑えていく。

 

「ワイバーンロードだ!機関砲を!」

 

機関銃陣地にいた指揮官の騎士は叫び、ワイバーンが飛来する。車輪のついた2 cm Flak 38を向け、近接対空射撃を行おうとするが、ワイバーンの急降下に間に合わない機関砲を動かす及び腰の兵士はうまく照準を付けられず、恐怖で訓練通りに照準を合わせることが出来ていない。迫りくる不敗のパーパルティア大陸軍。そして自分達を焼き殺さんとばかりのワイバーンロード。ここから逃げ出さねば、自分はパーパルティアによって殺されてしまう。

 

そんなことを思う末端の兵士は逃亡を図ろうと持ち場から逃げ出した。

 

「おい!逃げるな!戦え!」

 

高射砲の兵士達は攻撃態勢にあるワイバーンに恐れをなし、攻撃もせず我先にと陣地を逃げ出した。機関銃陣地にいる兵士も逃げ出し、指揮官は怒鳴り声を上げるが、恐怖が広がった其処にいる者はそう多くない。

 

逃亡する兵士達の直ぐ後に放たれる火炎弾。火炎放射器と言うよりも、可燃性の粘着物、大量のゲル状の液体が陣地に降り注ぐ。ロードの口にある火打石に近い器官が火花を散らし引火させる。一気に燃焼し、爆炎が陣地を覆う。残された者はおらず、アルタラス王国軍の練度不足が露呈した。また一つ、また一つと機関銃陣地が潰されていき、ユタ川岸へと兵力が集中する。

 

「上陸したら、急いでボートを対岸へ送れ」

 

「川岸では相応の抵抗が予想される。急いで川岸から出るんだ。」

 

「奴らに皇国魂を見せてやれ!」

 

数少ない魔導式動力を持つ上陸艇は機関銃を弾く装甲が取り付けられ、大口径砲台でなければ排除は不可能。木造船を囮にして、既に転覆した兵士の亡骸が川岸や川にながれ、血の川が形成された。そして上陸艇が岸辺にたどり着くと、上陸艇ハッチを開き、歩兵が上陸する。上陸艇から出てきたのは、パーパルティア大陸軍の最精鋭部隊。一番槍として突撃する火打ち銃兵達は漂着する友軍の亡骸や先の王都核爆発の死骸を掻き分け、川岸を脱しようと突破を試みる。

 

「ここを突破しろ!急げ!」

 

「左側!左側に敵銃座!」

 

「撃て!撃ち続け……」

 

「従騎士がやられたぁ!衛生ぇ!」

 

ジオンが支援として鉄条網を施設したことによって、パーパルティア大陸軍の兵士達は無理に進むことが出来なかった。無理に進めば、鉄条網のハリや返しの付いた釣り針が体に刺さり、引き裂いてしまう。躊躇している間に、復刻銃として輸入したMG42を持つアルタラス王国軍の兵士が大陸軍兵士へ攻撃を仕掛けていた。無数の銃弾に倒れる皇国兵。その機銃掃射へ反撃しようと、先込め式ライフルで機銃を潰そうと銃撃を加えるが、銃座に付く兵士でなく、そこにいる指揮官に命中する。

 

まるでそこは血のオマハ(Bloody Omaha )。嘗てのフランス、ノルマンディー海岸の激戦地もかくやと言わんばかりの骸と血の海が広がり、パルティア大陸軍の兵士達がその骸を踏み越えて前進する。

 

「魔導砲もっと前ぇ!」

 

「射角20に調整、弾頭は白燐!装薬1」

 

「照準よし!」

 

「放てぇ!」

 

 

上陸艇に載せられてきたのは歩兵だけではない。人力で押し、機銃掃射によって何名かを犠牲にした魔導砲は機銃陣地に向けられ、一発の砲弾が機銃銃座に直撃する。ものすごい勢いで火花よりも高温な火が命中した砲弾から溢れだし、弾薬と兵士に降りかかる。

 

 

「熱い!熱い!」

 

絶叫が響き、銃座についていたと思しき兵士が火だるまになりながら鉄条網へ突進する。一番の水源である敵の上陸する川へと行こうとしたらしいが、すぐさま大陸軍の兵士に銃剣で串刺しになっていく。

 

「銃座を破壊した。このまま、そこの鉄の茨を吹き飛ばせ」

 

「榴弾装填、目標は鉄の茨だ!やれ」

 

鉄条網を吹き飛ばし、進入路を確保したパルティア大陸軍の兵士達は我先にと進入路に群がり、止めようとするアルタラス王国軍の兵士達を蹂躙していく。如何に高性能な重火器を装備していても逃げ腰の兵士が効果的な反撃などできるはずもない。二列横隊で整列したパルティア大陸軍の兵士は銃を構え、指揮官の命令を待つ。

 

「狙ぇ!……撃て!」

 

小隊士官の命令によって放たれた弾丸は逃走するアルタラス王国軍に命中する。未だ戦列歩兵を行うが、長年の訓練と経験から戦うパルティア大陸軍。それに対して、優れた近代歩兵戦術と旧ドイツ系装備を身にまとうアルタラス王国軍。以前の訓練だけしか行わず、転換訓練もろくに受けていない。見せかけだけの兵士達は組織的な反攻をすることはできず、やがてオマハと称された地域一帯がパーパルティア大陸軍の御旗に染まる。

 

「デニムとスレンダーは両翼に展開。敵の侵攻を食い止めろ」

 

「少佐はどうされますか?」

 

「私はあのオマハで敵を迎え撃とう。」

 

「大佐、MS一機だけであの軍勢です。私も……」

 

「問題ない。あの地域では対歩兵戦闘もありうる。部下の手を血で汚すわけにはいかん。それに……」

 

 

―私は返り血がついても、目立たないだろう?

 

指揮官の台詞はデニムとスレンダーの両名を震わせるに十分すぎた。

 

シャアの乗るザクⅡS型は地上戦用装備を駆使して、オマハのパーパルティア軍勢に攻撃を仕掛けていく。歩兵部隊には容赦なくザクマシンガンを腰だめ撃ちで掃射し、対歩兵用指向性兵器であるSマインを発射し、ボールベアリング球を周囲にばら撒いた。

 

「きょ、赤い巨人だ!」

 

「アルタラスは悪魔と契約しやがったのか!?」

 

一つ目の赤い巨人。ジャイアントオーガ―とも劣らないその大きさはパーパルティア大陸軍将兵を怖がらせるのに十分だった。それでも、血気盛んな砲兵部隊は照準をシャアの乗るMSに向けるが、砲撃をひらりと交わし、ザクマシンガンを乱射する。120㎜多目的榴弾(HEAT)が命中し、小さいクレーターが形成される。それも、逃げる瞬間すら与えずに。生き延びていた周囲の随伴兵は恐怖のあまり発狂し、子供のように泣き喚く。其処には軍隊としての誉れは存在しない。

 

ただ絶対的な死。

 

パーパルティア大陸軍の優勢は一転して、劣勢に追い込まれ、オマハエリアを含め、レブラン全戦域の戦況が回復する。

 

シャアは戦士としての、修羅に近い鬼の部分の心情が喜んでいることを知る。大宇宙の天翔ける戦士としての生きがい、戦いへの渇望を満たす戦いではあるが、何処か喜んでいるというよりも、ライバルのいないもどかしさを感じる。今いる地上には居ないのでは?戦士としての彼の表情に陰りを見せ、スクリーンに映される。オマハの破壊された野戦陣地と骸となったパーパルティア大陸軍の兵士達を見て、ここではないと直感的に感じていた。

 

任務のためならといざ命を犠牲にする軍人を演じてはいるが、自分に合っているのか考えてしまう。もし望めるのなら、宇宙空間に戻りたい。

 

シャアはそう感じ、自分の直属の上司である野生の獣の顔をする男を思い出し、その弟へ連絡する。

 

「レッドバロンよりパープルバロン、応答を」

 

無線は二度三度繰り返されるが、シャアは驚きのあまり声を張り上げてしまう。

 

「何だと!?」

 

シャアの表情は驚愕といった感じで、その事実を知り驚きを隠せない。シャアは二人の部下と予備で残していたジーンにここを任せ、急いでガルマのいるシルウトラス市へと駆けていった。

 

 

 





前後編になります。次でアルタラス王国編は終了します。ちょっと長すぎましたね、(グダグダ感を個人的には感じています)

ちょっと展開を早めにしますww

以前の指摘にもありましたが、パーパルティアの皇族が馬鹿すぎて話にならないとか?……馬鹿になる理由は他に幾らでもあるのです……w

その展開は……後日公開です。

あと告知ですが、トーパ王国編はぶっちゃけ面倒なので省きます(若干説明とエースパイロット無双の話でちょっとだけ小話入れるかも……)原作みたく、外伝三話はないですね。読みたがってる方には申し訳ありません。

フェンは省きませんが、多分かなり強化されるでしょう。

誤字脱字・感想歓迎です。

一言だけでも書いていただいたりすると、返信早めに送りたいと思います。(いつも次話投稿前にお返ししてますが、ペースアップ・モチベアップを狙っていきます)

それにしても、お気に入り登録件数が500越えしたことに驚きを隠せません。ジオニストがここまでいるなんて……(連邦ニキもいるかもしれないが)

最近、プラモにハマっていて塗装も本格的にやり始めた所ですw
サイクロプス隊南極戦闘シーンを……ry

これからもよろしくお願いします。

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