慈恩公国召喚   作:文月蛇

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前話や前前話における「何やこの兵器!?」

を解説する回。オリジナルというか魔改造兵器をジオン整備兵が説明し、ガルマの処遇を決める話です。まぁ、推して知るべし的なのが一割。あと、魔導文明訳分らないのと、古の魔法帝国を上方修正した影響で日本軍がry

どうぞ説明会でございます


第二十四話 設定話(という名の補足話)

「う~ん、だめ……まったく分からん」

 

そこは宇宙攻撃軍が建造した宇宙要塞ソロモン

 

東南アジアにあるソロモン諸島の旧日本軍の要塞群をモデルとして、様々な小惑星帯を周辺に配置し、大規模な要塞計画を立ち上げたものの、資源不足や軍資金不足、司令官のドズル・ザビの想像する難攻不落の要塞のイメージ不足も相まって、中途半端な出来栄えとなった。

 

とは言っても、宇宙攻撃軍の擁する艦隊の司令部であり、その防衛能力は非常に高い。地球連邦軍の拠点であるルナⅡを凌駕する戦力を有するが、転移後のルナⅡの戦力は分っていないため、分析するのは困難だった。

 

だが、困惑の言葉を紡ぐ彼にとって艦隊やMSの有する兵力を鑑み、判断を下す立場にない。彼が出来ることと言えば、MSの兵器を点検・管理して、未だ発展途上のMS開発に一石を投じることだ。

 

一応技術少尉という位についているが、彼にとってはどうでもいい。自身の携わっている『ジオング計画』はマ・クベ中将によるMS統合整備計画の最終計画に位置し、全軍がサイコフレームによる脳波兵器の採用とニュータイプ兵士によるサイコミュのMS装備計画を進めるにあたって、高性能メガ粒子砲や敵対兵器の対抗手段を考えていた。

 

所謂、彼が職人気質・研究者気質という精神を持っているからなのだろう。

 

自身の研究する兵器のためならば、『足がある』ことを理由に、上司やその上の司令に直談判することも厭わない。

 

何とも損をしている性格だった。

 

『足なんて飾りです!偉い人にはそれが分からんのです』

 

そんな事をシャア・アズナブルに言ってしまう程の豪胆さを持っている彼、ジオング整備士の名で親しまれるリオ・マリーニ技術少尉は今後敵対するであろう兵器の写真と映像を見ていた。

 

「全く分かんない」

 

そんな技術者魂の塊である彼でもこうである。実際に遭遇したパイロットや兵士からしてみたら、確実に驚くだろう。

 

彼が見ていたのはタブレット端末に映っていた映像、アルペジオ4アルファと呼称されるジェット戦闘機に搭載された魔光砲である。

 

ビーム兵器の大半はミノフスキー粒子をIフィールドによって圧縮。これが「メガ粒子」であり、運動エネルギーに変換され、それをIフィールドによって収束させ打ち出す。プラズマと同じような高温によって装甲を溶かし、目標を破壊する。だが、この圧縮工程を行う機関の小型化は難しい。だが、宇宙世紀00079九月の時点で連邦はメガ粒子砲に準じた破壊力を持つビームライフルの開発に成功している。

 

このビームライフルはメガ粒子になる直前のミノフスキー粒子をある一定の容器に入れる「エネルギーCAP」と呼ばれる技術であり、この容器の製造には未だにジオンのテクノロジーでは解明されていない。先んじて、Dr.ミノフスキーの弟子であるテム・レイ博士や連邦科学者が高出力ミノフスキー融合炉と併用して作り上げた最新兵器にのみ、エネルギーCAPを放出する動力やその他の兵器を利用でき、未だジオンはこの技術を習得してはいない。

 

だが、高出力プラズマに近いエネルギー兵器を神聖ミリシアル帝国のエルペジオ4アルファが搭載し、ジオン軍のドップⅡへ攻撃したという。

 

ジオン公国のテクノロジーは惑星の全てを凌駕する。それがジオン国民や政府の共通する見解であり、常識である。外交政策や兵器開発においても、それが前提で行われており、もしそれが覆されれば、大きな波紋が起こることとなる。そもそも、ドップⅡと呼ばれるジオン軍大気圏内戦闘機の次世代機と対等の接近戦(ドックファイト)を斬り結ぶ時点で問題であり、高出力プラズマ兵器を戦闘機に載せている時点で、彼の国のテクノロジーを見誤っていると言える。

 

 

「やはり、数万年前のこの惑星のテクノロジーがこれを可能にしているのか?信じられない……」

 

 

古の魔法帝国(ラヴァーナル帝国)が数万年前に存在して、惑星の全ての科学技術を凌駕し、更にはジオン公国がたどり着けていないエネルギーCAP技術を実用化している事に驚きを隠せなかった。

 

「あのビショップ博士の『文明既出論』は眉唾物のオカルト都市伝説かと思っていたが

あながち間違ってはいないのか?」

 

 

かなりの機密情報として制限されている情報だが、横繋がりの強いジオン公国技術者集団にとっては何の足かせにもならなかった。地球が誕生して46億年の歳月を経ているが、それまでの文明が現行の文明よりも進んでいるという仮説はSFとして語られる。その存在はオーパーツ(製造工程不明物体)として証拠が挙げられていても、立証にたるものではない。だが、逆にそれを否定する証拠も挙がっておらず、オッカムの剃刀に代表するように、『同様のデータを説明する仮説が二つある場合、より単純な方の仮説を選択せよ』と唱えたカール・セーガンの言葉を借りれば、十分に可能性のある仮説である。

 

既に古の魔法帝国という存在がある以上、地球にも彼の国のようなテクノロジーがあってもおかしくない。そして、古の魔法帝国がジオン以上のテクノロジーを秘めていてもおかしくないのだ。

 

 

「魔導弾やら魔光弾……もう訳わかんない。文明ごとに魔導砲やら魔導弾、魔法式光熱誘導弾、神聖ミリシアル帝国にしても、自社製造とラヴァーナル製でも名称違うし……あぁ!もう」

 

古の魔法帝国のテクノロジーは各国が様々な研究や模倣を繰り返し、実体弾に誘導能力を付けたミサイルのような魔導誘導弾やプラズマ集合体を発射し、任意の座標に飛来させる高度な魔光弾。様々な兵器が試行錯誤で生み出され、神聖ミリシアル帝国の兵器は成功と失敗の数々の兵器で彩られる、まるで兵器開発の見本市を見ているよう。

 

既に神聖ミリシアル帝国の対空火器はプラズマ放射弾としてイクシオン魔導結社製イクシオン20mm対空魔光砲が軍艦の殆どに設置されている。見た目は第二次大戦中の対空砲に近いが、その中身はジオンが逆立ちしても作れない超科学技術がそこにあった。

 

エルペジオ4アルファのエース機に搭載された魔光砲と称されるそれは、20㎜という対空機銃よりも口径が大きく、威力の大きいそれは試作型モデル。ガンダムに搭載されるような艦砲射撃レベルの威力のエネルギー体を発射する。それこそ、MS以下の質量のエンジンを持っている。明らかにドップ以上の空戦能力を持っているそれは、パイロットの練度だけで片付けることは出来なかった。大気圏内戦闘機の製造ノウハウや戦術運用に至る経験が欠如しているから出来た技術的な劣勢。改めて技術者のリオ・マリーニ技術少尉は溜息を吐き、徹夜明けの頭をフル回転させ、紫煙を吐いてまた一歩と技術開発に身を注いでいった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

研究畑の苦悩は現場の技術者にも波及していた。

 

アルタラス王国に駐屯していたジオン公国軍派遣艦隊、第21特務隊に編入されていたザンジバル級巡洋艦『モガミ』の内部にあるカタパルトデッキでは酒盛りが開催されていた。

 

そう、酒盛りである。つい先日までフル稼働していたモガミは兵器と人を休める意味合いも兼ね、両舷休暇という最低限の人員を残し、MS整備や航空機整備員、カタパルトデッキの誘導員などの裏方部隊は親睦会を行っていた。

 

「「「飲んで!飲んで!……」」」

 

某飲みサーや高度経済成長期のサラリーマンが親睦会や歓迎会を兼ねた飲み会でよく聞こえる合いの手、合いの歌に聞こえるそれは日本人にとって馴染み深く、忌み嫌うものである。だが、その続きは全く異なる。

 

 

「「「飲んで!飲んで!……ちょっと!」」」

 

そう『イッキ!』でなく『ちょっと』である。それはジオンが嘗ての悪しき日本の風習を受け継いでいない事を意味する。しかし、その理由には歴史のミッシングリンク(分岐点)が異なることに由来する。

 

嘗て宇宙開発で最先端であった旧ソ(C.C.C.P.)の技術力は地球連邦の宇宙開発に引き継がれている。この系譜は脈々と連邦からジオンへ、連邦から宇宙移民者へと受け継がれた。真っ赤なソヴィエト連邦の精神は資本主義という地球連邦の精神と混ざり合い、現在のジオンや宇宙移民者へと受け継がれる。嘗てアメリカという大国を種として育ってきた地球連邦という大樹がジオンというソヴィエトやナチス・ドイツのような国家社会主義・共産主義の価値観を持つ枝木を作ってしまうとは何とも皮肉である。

 

そんなジオンは旧ソ連の宇宙ステーション『Салют два』(サリュート Ⅱ)で起きた事件を覚えていた。当時の宇宙ステーションに滞在していた宇宙飛行士サケェノミィー・イッキィノスキィー少佐率いる生物研究チームは実験成功を祝うため、ウォッカの飲みまくった。そう、ウォッカである。ソ連人またはロシア人は寒さを凌ぐために、国民的にも酒が好きなためか補給物資として大量の酒類が地上から宇宙ステーションに送られた。

 

だが、それがまずかった。大量の酒類に興奮した研究チームは大はしゃぎ。無重力空間で大量の酒に溺れた宇宙飛行士達は大宴会を行い、ほぼすべてのメンバーが急性アルコール中毒によって地獄と化した。

 

宇宙空間という特殊な状況下で行われた大宴会は一気飲みという悪習とともに、大気圏に焼かれるという人類史上類を見ない大事件となった。すべてが酒飲みのためとは言わないが、タイミングよく隕石が衝突したというソ連の公式発表と、当時ソ連による生物兵器開発を警戒したCIAの宇宙妨害工作部隊が展開した謎の情報リークから、一大スキャンダルとなった21世紀の大事件。『サリュート飲み』という名前まで定着し、ジオンや宇宙移民者は一気飲みという飲み方を忌み嫌い、この掛け声は日系ジオン公国民が広めたのかもしれない。

 

「このマハル産ワインどこで手に入れたんです?」

 

「ああ、海兵隊の姐さん(シーマ・ガラハウ)にもらったんですよ。」

 

「こっちの酒もいいけど、やっぱり故郷の酒が一番だな!」

 

アルコールが脳を刺激し、酔いという現実を忘れさせるような作用と気持ちの良い脳内麻薬が駆け巡って人種や性別、階級や出自などという垣根を越えて、友情が芽生えていく。一方で、やんちゃしすぎて後に後悔と人間関係に不和を生じさせることになるかもしれないが、今の彼らには知る由もない。

 

とは言え、そんな宴会で盛り上がったのは、やはり自分達が電磁カタパルトで発射する機体の事であった。整備をする整備兵と無我夢中で発射する誘導員。誘導の都合上、MSも誘導する彼らやMS、戦闘機を整備する彼らは今の欠陥機を愚痴ってしまう。

 

「ひっく!……やっぱさ偉い人には分かんないよね。整備してる俺達の苦労がさ」

 

「わかる!わかるよ!俺はコックピット回りについて言いたい!なんで06F型とMZ型のコックピット回りが違うのさ。設計したド間抜けにはそこんところ教えてほしい」

 

「MSは発展途上の兵器だし仕方ないんじゃ。昔でいうゼロ戦やbf109なんじゃない?職人気質だったのよ」

 

「MZの装甲や整備に関しては俺達の意見は良く取り入れてるし、名機だとは思うよ。だけど、僕としてはね!もっとデザインにこだわってほしいよ」

 

「いやいや、兵器にデザイン云々言うってどうよ。」

 

「洒落が分んないの?そもそも一つ目はどうかと思うよ!もっとこう、機体の識別ができるようにさ」

 

 

整備士達にも愛がある。開発した技術者への愚痴も少なからずあるが、それでも機体をパイロット以上に愛してやまない。愛するが故の愚痴であった。MSは未だに第一世代。全周囲モニターもなければ、音声認識システムもないご時世。Iフィールドビーム駆動なんて未来の技術で何それ美味しいの?と聞いちゃうくらい発展途上。06F型やC型に至ってはミノフスキー粒子における電子機器の干渉や核攻撃による電磁パルスの対策として、通信機器の異常なまでのバリアとシステムの単純化。これまでなかった新鋭システムによる統制……所謂「整備泣かせ」なものがある。

 

とは言っても、MZ型(海兵隊ザク)や統合整備計画を反映した06F2型ザク、ドムトローペンやリックドムなどの部品や操縦系統の統一化は正に整備士泣かせを削減した計画であったと言える。MSの進化を阻害するという某パイロットや研究者の意見もあるように、進化の過程で生まれたMS構想を潰すような整備計画であることは間違いなく、整備士達の愚痴話でポロポロと話されていく。

 

 

「だからさ、やっぱりわかりやすく赤とか青、白色とか混ぜこぜにすればいい」

 

「あとカメラはデゥアルアイにして、サブカメラの計3つにすればええのよ」

 

「馬鹿野郎!一つ目はジオニック社のモビルワーカー時代の伝統!それを連邦の模造品みたくするのはやめい!」

 

「モビルスーツじゃなくて、レイバーでもいいじゃん」

 

「ああ、それ!ちょっと小さいけど、その位が整備しやすいよね」

 

「レイバー、それは産業用に開発されたロボットの総称である。

建設、土木の分野に広く普及したが、レイバーによる犯罪も急増、 警視庁は、特科車両二課パトロールレイバー中隊を新設、これに対抗した。

通称、パトレイバーの誕生である。」

 

「落ち着け!それこれをぐびっと!」

 

最早宴会は、混沌としたものへと変化する。そもそもの話はガンダムなどの連邦製MSが目立つ特徴のある頭部から、識別しやすい白を基調とするデザインの採用。通信用ブレードアンテナを鎧武者の顔とばかりのデザインはどうも、土木建築や軍用の無骨なザクをぶった切る白き騎士と思わせぶりなデザインから、ジオニック社系統の整備士は怒りのあまり焼酎をがぶ飲み(イッキ飲みではない)しており、周りの面々は怒りのあまり飲みすぎないようにと抑えさせる。

 

そのうち、MSよりもレイバーがいいと言ってしまうMS整備士もいることから、なんでこんなところに来たのよと周りから口撃に晒される。とはいっても、ジャパンアニメーションを知る整備士、ロボット系アニメを知っていれば嫌でもそれは分るだろう。

 

そして、プチモビや現行MSよりも5m程小さいジュニアMSなどもあることから、そのジュニアMSを『レイバー』と別名で呼ばれるまでさして時間もかからなかった。

 

そのうち、航空機整備長らしき、整備員のトップが声を出す。

 

「まったく、ドップで大ポカやらかして、ちゃんとした航空機を作ったと思ったらああだよ。パイロットを何だと思ってるのか……」

 

航空整備士の面々は頷き、焼酎やウィスキーをぐびっと飲み、再び機体の愚痴に突入する。

 

「だいたいよ、シュミレーションだけで飛べると思わないでほしいよな。ただでさえ俺達は宇宙移民者だよ。いきなり大気圏で格闘戦も爆撃もこなせるマルチロール機を整備しろって……ぶっちゃけ連邦軍兵器のデッドコピーの方がマシだよな」

 

「まじでそれ!向こうは作戦内容によって使い分けているのに、こっちは飛べるものなら何でもできると思いこんでる!しかもそれはジオン上層部だけじゃなく、パイロットまでもこれだからな……」

 

整備士の一人は頭を指さし、その人差し指から手のひらをひらひらさせる。近くには同じドップⅡのパイロットもいるが、自覚や他の航空パイロットの中にそんなのがいるせいか、苦笑で誤魔化していた。

 

ジオン上層部やパイロットに至るまで、こうしたズレた考えが多い。対艦攻撃や宇宙での戦いでは基本的にMSが居ればなんとかなる「MS万能論」が根付いている。これらは戦場が歩兵ではなく戦車や戦闘機が生まれて、その役割がこんがらがった時代に似ている。宇宙戦闘機ガトルなんてものは元々、哨戒機や飛来する隕石を迎撃するほぼ民生に近い航空機であり、そもそもドックファイトなんて期待されてない。掃海機の意味合いも強いのだった。

 

そんな戦闘機の云々やノウハウを理解していたとしても、「MS最強!」っていう概念によって縛られてしまえば、「大気圏内戦闘機?ザクじゃダメなの?」とまるで子供のような精神年齢になる。言わば、最強スペックを手に入れた主人公があらゆる作戦をすべて無視して吶喊しか選ばないようなもの。

 

初期の戦術の栄光に固執するあまり、戦争後半戦になって負けまくる某国にそっくりだったり、調子乗りすぎてかなりの方面に喧嘩吹っ掛けた某国を見れば、如何に初っ端勝ちまくるとその後の戦術や戦略は盲目になると言える。

 

宴会は混沌が広がり始め、そこの頭ともいえる年配の整備長の音頭が入る。

 

「一先ずさ、わが軍の大気圏内戦闘機の第一世代機『ドップ』について語ろうじゃないか」

 

そして語られだすのは罵詈雑言ともとれる酷評だった。

 

「あのドップを設計した奴は頭おかしい」

 

「シュミレーションしか見なかったど阿呆」

 

「マッハ4でドックファイトしたらパイロットが死ぬことを理解してない」

 

「設計運用をUAVでしか考えてない基地外」

 

もはや、ドップ設計者に対してリスペクトなどありはしない。駄目っ作機に当時の時代の整備士が敬意を表するだろうか。答えは否である。

 

後世の人間は何らかのリスペクトを。兵器開発の系譜をたどり、開発の失敗に対して、エジソンの哲学を前提に話を進めていく。失敗は成功の元という思考で。

 

だが、それは命を懸けて戦う彼らに求めるのは場違いだ。

 

ただでさえ、慣れない大気圏内での戦闘。その機体設計は有視界戦闘を重視しすぎて、コックピットはせり上がり、ジェットエンジンの推進力で浮力を得ているような設計は明らかに異常の一言に尽きる。そして、低高度でもマッハ4を記録できるトンデモ性能。数値的には非常に高性能だと思われるが、ドップのようなマルチロール機に必要な能力ではない。

 

そもそも、ドップの最大航行速度と同じ速度を出す、前世紀の最速戦闘機『SR-71』はソ連の対空ミサイルを避け、超高高度の偵察を行う。この能力はドップに必要かと問われれば、その超音速によって敵を振り切ればいいと単純志向で考えただろう。だが、明らかにそれは地上の味方部隊を救おうとは考えてないし、低空での地上軍支援を全く考えない「宇宙移民者的思考」があった。

 

そもそも、宇宙空間に空気はまったく存在しない。音の伝達がない以上、パイロットが聞こえるのは、機体のエンジン音や微かに聞こえる爆発音。それしか経験しない彼らが地上支援を行う航空支援をしっかりと認識できなかったのも仕方ないのかもしれない。

 

地上支援で来るドップの最高航行速度はマッハ4。普通はそんな速度で支援爆撃などしないが、ドップの機動力は皆無。スピードで他の追随を許さない設計思想の元作られているため、支援爆撃などはコアファイターや連邦軍傑作戦闘機フライマンタとまともに戦えば勝ち目がない。そのため、地上に味方が居れば、地上に考慮して減速し、居なくとも格闘戦に持ち込まずに一撃離脱戦法(ヒット&アウェイ)が主となる。

 

そうなると、部品消耗が激しくジオンは、ドップを運用するために部品を一ダース準備しなければならなない。宇宙運用しか考えていない愚鈍な技術者が開発したドップ。大気圏内戦闘機として大気を燃焼する関係上、宇宙空間以上に部品の摩耗が早い。それこそ、作戦ごとにジェットエンジンのオーバーホールが何度も必要なほどに。これほどまでに技術者泣かせな物はない。

 

そして、こうしたドップの欠点を確認したドップ開発者達は原点回帰をして新たな戦闘機開発に着手した。それがドップⅡである。

 

「不運な名機」

 

「やっぱり俺達に航空機は無理」

 

「時代は俺達に何を望んでいるんだ?」

 

「そんなに僕たちの力が見たいのか」

 

「アスロックが出ているぞ!散れ!」

 

「おい、米倉ぁ!厨房行ってつまみ持ってこい」

 

ドップの有視界戦闘を重視しすぎたせり上がったコックピットは無くなり、機首の若干短いコックピットに仕上がり、複座式のために若干細長い形状をしている。一方、翼も肥大化している代わりに、ガウ攻撃空母やザンジバル級巡洋艦に搭載できるよう、艦載機能力として折り畳みが可能になっている。20㎜機関砲と対空ミサイルや対戦車ミサイル、無誘導弾やJDAMなどの爆弾も搭載が可能となっている。

 

一応、ミノフスキー粒子対応の電子戦防護能力やレーザー通信による指揮戦闘通信システム、各兵器統制システムとの連携も重視しており、ミノフスキー粒子散布下でもこれまでと同じく、連携した作戦行動が可能となる。

 

それはまさしく、整備士や航空機パイロットとして正に望んでいたドップのスペックであり、ドップⅠなんてなかったのだと現実逃避する整備士もいたとか。前時代的な設計思想に基づくのではと前開発者がほざいたが、現場の圧倒的な支持の元封殺された。とは言え、これまでのドップの唯一の長所であるスピードは全く生かさないものになり、最高巡航速度はマッハ2前後。これまでのスピードを半分にしたことで、機動力や旋回性の向上。三次元ノズルジェットエンジンによって変態飛行が可能となった。

 

正に第五世代・第六世代戦闘機にも似た性能を発揮するが、大気圏内戦闘機の開発がほとんど止まった連邦軍とも互角に戦える兵器、連邦軍戦闘機フライマンタに僅差で負けるとシュミレーションでは出ていたが、この惑星で遭遇することは先ずない。ドップの独断場になると予想され、いや断定されていたのだ。

 

だが、意外な形でドップⅡの性能が明らかになる。

 

「なんであんな第三世代っぽい機体にやられてしまうんだ」

 

「嘘だと言ってよバーニィ……」

 

「バーニィって誰だよ」

 

何処かに転生技術者がいるのではと視線を凝らしてみるが、誰もいない。空耳だったのだろう。ともかく、エルペジオ4アルファと呼ばれるMig25に近い形状を持つジェット戦闘機に負けてしまったのは確かであり、戦場に送り出した巡洋艦『モガミ』の整備士達や飛行甲板誘導員達、そして亡き戦友を思うパイロット達は機体の性能よりも、まず自分たちの力量が不足している事を痛感した。

 

大気圏や重力戦線に慣れていないからと御託を並べたて、言い訳を述べるのは報道官や偉い人たちの仕事である。自分達はこの経験を元に敵に負けないように技を磨くのみ。だが、負けることはないとどこかで思っていた自分達の傲慢な心が仲間を殺し、傷つけたことを考え、彼らは酒を煽る。

 

本来、そこにいる戦友たちの姿に思いを馳せ、悲しみをアルコールで洗い流す。

 

彼らの供養となるのは、敵をどう倒すか。この一点に限られる。

 

 

「今回苦戦したエルペジオ4アルファと言う機体、公国司令部では『フォックスバット』って名付けられるらしいが、どうみてもやばいよな」

 

「魔法や魔導兵器、そして現存のミノフスキー融合炉で不可能な魔導小型機関の出力……さらには誘導兵器にビーム兵器……どう見たって魔導文明恐るべしって感じだ」

 

 

彼らはドップⅡのパイロットが記録した記録映像や撃墜した機体の残骸から凡そのスペックは判明していた。魔導機器の多くは魔石や類似するエネルギー集合体を動力源とし、ジェットエンジンや電気を使用するような家電製品に至るまで使用される非常にエネルギー効率の高い物質である。

 

宇宙世紀に入って、石油資源の消費量は電気自動車(エレカー)や水素電池、ミノフスキー融合炉・融合炉パルスエンジンに使用されるヘリウム3など、未だ天然鉱物資源を使用する。魔石と言った物質がどのように作られているのか、未だ分かっておらず。そして、そのエネルギー効率の良さはジオンが代替えエネルギーとして使用できるか考えてしまう程なのだ。

 

そして、惑星における文化発達は、文化人類学を齧っているジオン公国士官や科学者なら、この文明分布に頭を傾げる。現在の友邦国であるクワ・トイネやクイラ。占領して属国となった旧ロウリア領の文明は中世から近世の間。パーパルディアに至っても科学技術が近年躍進しているが、総合的に見れば近世に入って間もない。神聖ミリシアル帝国やムーは第一次世界大戦時のテクノロジーと文化形態と推測できるが、エルペジオ4アルファのように冷戦中の旧ソ連軍航空機に似たものもあることから、この惑星の文化分布は異常の一言に尽きる。

 

海流の流れや海洋生物の存在は多くの文明の海洋進出、それに伴う大航海時代と言った侵略の歴史は大陸間や地続きによって引き起こされ、地域の文明レベルの差異が大きくなった原因として挙げられる。

 

神聖ミリシアル帝国などが侵略戦争を展開すれば、一時代の世界征服が可能だろう。だが、それをしないのは、元の技術下である古の魔法帝国(ラヴァーナル)が再来する可能性もあるからだろうか。

 

「それでもドップとアルペジオ4のキルレシオはこちらが圧倒的。そうそう負けないだろ」

 

と客観的な意見も出る。ドップⅡがエルペジオ4アルファに遭遇した場合、戦闘技術や蓄積された全盛期の格闘戦知識を使用すればドップが勝つだろう。というか、先の戦闘で落とされたのは3機のみ。一方、エルペジオ4アルファは10機以上落とされている。

 

「そういうことじゃない」

 

「あれが誘導兵器とマッハを出すことが問題」

 

「ビーム兵器とか、何処の魔王だってんだよ」

 

確かにドップⅡとアルペジオ4のキルレシオや戦闘の勝ち負けを考えれば『勝利』である。だが、貴重なジオン将兵が4人死亡し、2人は負傷するという事態になっている。自分達のテクノロジーに驕り、死傷者を出したということを考えれば、今回の人的被害を考えると何とも辛い勝利である。そもそも、ジオンの兵力はそこまで多くない。連邦との戦いを考え、志願制という名の徴兵によって頭数を揃えてきたが、経済を回すために職業軍人以外を全て民生に返し、人手不足にちかい様相をしているのがジオンだ。

 

そして、更に問題なのがエルペジオ4アルファが何故あそこまでの技術を結集しているかについてだった。

 

「やっぱり連邦?」

 

「もしかすると、奴らが噛んでるんじゃ?」

 

「あの場所にビーム兵器を搭載するとか……やっぱりルーデルっぽくね」

 

「「それだ!」」

 

テクノロジーに関しては、赤外線誘導の誘導弾(ミサイル)は明らかに今まで対峙してきた敵とは異なる。今後、一番戦うであろうパーパルディアが持っていないことは唯一の救いだが、神聖ミリシアル帝国が今回の能力を持っている事はムーやパーパルディアを押しのけて、仮想敵国になる危険性があり、今回の戦闘にしても『義勇軍』と言ってもミリシアル帝国と戦闘になったことに変わりない。

 

そしてエルペジオ4アルファの機体下部に搭載された魔光砲。口径が小さいと魔光銃や魔導機銃などと呼ばれるものもあるが、整備兵からしてみれば、あれはビーム兵器と変わらなかった。

 

「あの機体下部にあるビーム兵器はさ、絶対重いぜ」

 

「あの魔王に近い変態操縦者……仕留められて助かったな。明日は我が身だぜ」

 

ジオンが戦争に突入する前、ギレンがマスコミや媒体に命令して、歴史に注目を集めようとしていた。自分だけでなく、国民一人一人に歴史を見させていき、歴史によって間違わさせない鉄血宰相ビスマルクの思考をもって行われたそれ。一番整備士達が考えるのが、第二次大戦東部戦線で活躍した旧ドイツ空軍の『魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル大佐である。

 

彼はJu 87 シュトゥーカなど、急降下爆撃機を以てソ連軍車両や対地目標を数千破壊した地上攻撃の魔王である。ソ連から渾名は『ソ連人民最大の敵・シュトゥーカ大佐・ルーデル閣下・東部戦線の鷲』とされ、彼の乗ったJU87Gは普通のパイロットであれば操縦できずに墜落する非常に難しい機体であった。

 

両翼に37㎜砲を搭載する、当時の航空機では操縦が非常に難しい。そして、ジェット戦闘機においても同様の事がいえる。制空戦闘機に試作特殊兵器を装備し、試験配備して戦わせることは無謀にも等しい。そんな命知らずは、頭のおかしいパイロットがやっぱり頭のおかしいパイロット位だろう。

 

だが、その操縦センスは神懸りだ。何せ機体を特殊塗装にして自己を誇示するような、名パイロット。その操縦センスはドップⅡを追い詰める程であり、他の機体と同様の操縦をするレベルなのだから、そのビーム兵器を搭載していなければ、もっと被害が大きかったはず。

 

あれを載せようと決断した敵方の指揮官や整備士には感謝しなければならないだろう。

 

「だが、神聖ミリシアル帝国に毒ガスや核兵器を開発することはできるのかな?」

 

「ジェット戦闘機を作れたわけだし」

 

「いや、これはオリジナルがあったはずだ。それをモデルにしていればどうだ?」

 

「この前、あの変人……ビショップ博士が言ってた古の魔法帝国のだろうな」

 

「馬鹿いえ、あれは一万年前の埃まみれのゴミだぞ。毒ガスは酸化して使い物にならないし、核兵器は漏れだして調べる前にガンマ線でインテリ共は死ぬだろうさ」

 

「こういう時こそ魔法の時!」

 

「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」

 

ぼそっと、一人で焼酎を傾ける飲兵衛な整備兵はぼそりとSF作家アーサー・C・クラークを引用し、暴走した整備兵の持ってきたつまみのイカを齧り、再び升に入った焼酎を煽る。

 

「ウィンガーディアム・レビオサー」

 

「違う違う!レヴィオーサ!あなたのはレビオサー」

 

「そんなに言うなら自分は出来るのか?あ?」

 

「おいここにホグワーツがおるぞ、ふざけた事言ってないで酒追加かな」

 

「そういえば、ジオンの歴史研究者がクワ・トイネの神聖な森に入ったそうだな」

 

「ああ、俺の従妹がそれの護衛で言ったんだが、面白い物見たんだと。見る?」

 

「お、可愛い!この子幾つ?18だ・・・・・・・・・じゃなくてこっちな」

 

見せてもらった整備士の一人はその写真に目が釘付けとなった。18歳ジオン女下士官の胸とかお尻とかではない。そのピースサインの後ろにある金属製のそれに目を奪われた。

 

「いやいや、ちょっとこれは!」

 

「何々……ありゃま!」

 

「長生きして、こんなのが見られるなんてね……おいおい」

 

其処にあったのは、真っ赤な日の丸が描かれた航空機。嘗て第二次世界大戦中、連合軍の間で「ジーク」と呼ばれ、恐れられていた傑作戦闘機「零式艦上戦闘機」だった。

 

「なぁ、その後ろにあるのってMe262じゃないか?」

 

そしてもう一人の整備士が見て気づく。零式艦上戦闘機の後ろに駐機してあった機体は確かにドイツ空軍で使用されていた初のジェット戦闘機Me262。だが、そこにあったのは日本が終戦間際まで開発していた幻のジェット戦闘機。戦闘襲撃機や特殊防空戦闘機として対B29の備えとして1945年までに設計は完了し、第一次試作機が作られる予定だった。だが、本機は日の目を見ることがなく、終戦を迎えた。

 

幻のキ201火竜。陸軍で設計されたジェット戦闘機が何故、海軍機と共にクワ・トイネ公国の神聖な森に置かれているのか。整備士達は謎を深める問いをアルコールの回る頭で考えるが、その答えは出てこなかった。

 

 

 

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「調査報告は届いた……だが、大日本帝国は西暦1945年にポツダム宣言を受諾したと記憶しているが?」

 

そこはジオン公国総帥府の総帥執務室。いつもなら整然とした執務室だったはずだが、その時だけは異なっていた。アルタラス王国が核攻撃を受けた直後、ガルマ率いる特務隊が連邦軍と交戦。そしてパーパルディアだけでなく神聖ミリシアル帝国の義勇軍まで参加する今回の戦いはギレンも予想外の出来事に焦っていた。

 

そして、政務やガルマについての処遇も考えあぐねている所に、クワ・トイネ公国へ派遣した文化調査チームが驚くべき報告をしてきたのだ。

 

「ええ、我々の歴史ではそうです」

 

彼の目の前にいるのは、惑星の文明調査を行う調査団の団長を務める男。ジョン・シバ教授という、ズム帝国大学の文化人類学の頭的人物だった。ミノフスキー博士やフラナガン博士とは違う文系的な知識の宝庫である彼は何故か頭皮がまだまだ丈夫らしく、白髪が豊かであった。

 

それはともかくとして、シバ博士も混乱した様子で話し始めるそれはギレンの理解を遥か彼方に追いやっていた。

 

「仮に現在行方不明になっている、ウォルター・ビショップ博士の仰っている次元転移論や並行世界・異次元の扉と言った……まあ、オカルトじみた仮説を鵜呑みにすれば、明らかにあの戦闘機は我々の知る大日本帝国(・・・・・)とは異なります」

 

 

既にガルマ率いる部隊の被害状況が伝えられ、その中には誘拐されたと思われる調査団の一人であるウォルター・ビショップ博士の存在は何故か、シバ博士などジオン公国の頭脳明晰な科学者たちに知られることとなった。

 

そもそも、ビショップ博士の存在はジオン公国の科学者や著名な学識者の間では、非常に面白おかしく伝えられていた。曰く「Xファイルを鵜呑みにした男」「次元転移装置のドクよりも危険な博士」「精神錯乱した危険な人物」と評価され、転移以前の彼の存在はまるでゴミのような扱いを受けていた。

 

それもそのはず。彼は非常に秘匿性の高い機密プロジェクトに関わっており、かの有名なXファイルを解き明かすべく作られた連邦の科学者集団の一人だった。彼はその中でも異質であり、SFのような事象をまるで簡単に出来るような知性と暴走性(狂った)を兼ね備えていた、言わば天才の部類に入る。彼の言動は的を外しているようでいて、学識者が聞けば気を疑いつつも、それが事実とわかるような信憑性の高いことを言うのだ。そのため、彼を雇った連邦は彼のそうした評価を拡大して正に狂気に駆られた科学者として広めたのだ。

 

 

勿論、その評価は後の事件の後に真実になってしまうのだが、機密性の高いプロジェクト故にそうした情報統制は不可欠であった。そんな彼が唱えたのが、『文明既出論』である。まるでSFのような主張であるが、その根拠となる証拠が複数あり、更に古の魔法帝国(ラヴァーナル帝国)の存在もある事から、相互証明するような論文が書かれた。

 

彼の『文明既出論』を要約すると、

 

【彼の惑星には、古の魔法帝国の存在がある事から、没落した文明が自己の文明よりも優れていると証明できる。また、それに伴い、我々の地球連邦から我がジオン公国に至るその道のりも、嘗て地上に存在した文明も同じ状況にあった可能性もある。地球が生まれて46億年、人類の歴史の分厚い歴史書は地球にとってみれば一ページにも満たない。嘗て、アトランティスという国家とムー大陸の国家が対立したという、我々の想像をはるかに超えるテクノロジーの存在があった。それらはSFや都市伝説として扱われてきたが、我々の目の前にはムーと言う国家の存在がある。我々は地球の真の歴史を知るべきだ……】

 

 

この主張はジオンのインターネットに掲載され、直ぐに消されたが多くの民衆がこの論文を閲覧した。ジオンの手の届かないところでは、彼の顔写真と共に流布され、世論が沸き立った。

 

ビショップ博士の評判を吟味して、狂った科学者の世迷い事として論されることを期待していたが、あまり情報統制が後手に回っているギレンは博士の名前から眉をひそめた。

 

「つまり、彼の言っていた並行世界。歴史の分岐点において別の選択をした大日本帝国の部隊がクワ・トイネ公国近辺で活動していたと思っているのか?」

 

「ええ、総帥閣下の仰る通りです。クワ・トイネ公国に伝わる伝説がそれを裏付けていますし、日系の研究団体の協力も得て、残された記録をたどりました。この写真と注釈もご覧になってわかるとは思いますが、大日本帝国が大戦中にジェット戦闘機を使った記録はありません。別の世界の彼らが何らかの形で世界に影響を及ぼしたとして間違いないでしょう」

 

先の整備士達の話にもあるように、Me262の設計や技術供与からキ201火竜の存在が海軍機と共にある事時点でおかしく、そもそも実戦配備された事もない。そもそも、現物すら終戦と共に機密情報として焼却されたのだろう。そもそものデータが無いことを見ても、明らかにジオンの知る大日本帝国とは異なる。

 

「シバ博士、貴方もビショップ博士の調査データはご覧に?」

 

「ええ、総帥府のクリアランスレベルを上げていただき、閲覧することが可能となりましたが……いやはや、あの御仁があのような計画に加担していたとは」

 

宇宙空間に漂っていた物体の調査「バビロン計画」そして、酷似する物体が東南アジアから見つかり、それらの復刻し、リバースエンジニアリングを行おうとする「レインボー計画」。そして、その計画によってジオンや宇宙移民者たちはこの世界に転移してきた。その事実が漏れなければ、ギレンの政治力と外交力があればビショップ博士の処遇について連邦と外交決着が可能となる。だが、ビショップ博士が行った両計画についてのデータが公になれば、ジオンやセツルメント国家連合に属する植民地政府植民地政府、そして連邦政府の信用は地に墜ちたと言えよう。

 

これらを発端に反乱や暴動、何らかの社会不安が発生されるのは誰の目から見ても明らか。

 

ギレンもこうした計画を見聞きしたのは初めてであり、アナハイム社と連邦の薄暗い関係やラプラス首相官邸の爆破事件以来の因縁も関わってくる。ギレンがもっと早く知っていればもっと楽な形で独立が成せただろうと思い、博士の話を続けていく。

 

「私もあの話は聞いて驚いたよ。で、どうなのだ?君のような、長年人類の文化を比較し、分析していた者としてはビショップ博士の論文は?」

 

「最初……あの男の首根っこを引っ掴んで殴りたくなりましたよ」

 

「ほう」

 

シバ博士の意外な言葉にギレンはやや驚くが、その反応は幾つかの予想の反応に幾つか当てはまる。

 

「彼の論文はあまりにも荒唐無稽で妄想的、明らかに正気ではない。そもそもあの妄言ぶりは閣下も知っているでしょう。まるで自分を神になったつもりで人の命をもてあそぶ」

 

彼の機密レベルで知ることが出来たビショップ博士の記録。そこには地球連邦軍の命令によって生体実験や人体実験など、公表されれば連邦高官の多くが職を失うものであった。宇宙移民者と地球在住者のウィルスや菌類の耐性について調べ、それは撲滅したウィルスや細菌を用いた悪魔の実験だった。

 

それを知るギレンは大義のためとあれば致し方無いと判断を下せる政治的人間である。人は施政者となれば冷徹な判断をしなければならない。だが、シバ博士はギレンよりはリベラルな、人権を重んじる人間だった。彼はそれにこだわっているのか分からないが、表情は暗い。しかし、博士の紡ぐ言葉はその評価とは打って変わって異なっていた。

 

「しかし彼の言っている事は正しい。彼の事は勿論嫌いですし、学問を重んじる人間として軽蔑する。だが、彼の語る言葉には裏付けが取れます。この論文は隠せずとも広がるでしょう。世界はこの真実を認めざるを得ません」

 

シバ博士による一連の識者説明が終わり、ギレンは情報統制を行う政府の要人にアポを取り、急ぎ、ビショップ博士の出す論文に対してマスコミに拡散、そしてそれを押さえてしまったということで宣伝省の役人が頭を下げ、当役人はその不始末に泥をかぶったので、ボーナスが出された。今頃、宣伝省の担当官は泥をかぶりながらも、給与明細に0が3つ程増えていたことは後で知ることだろう。

 

「兄上……お時間はどうですか?」

 

「キシリアか、もうこんな時間か。」

 

つい最近になって仲が良くなり始めた兄妹。政治的利害が衝突する二人は連邦との戦争が勃発する前にも多くぶつかっていた。だが、ガルマの部隊が襲撃を受け、ガルマが負傷して以来は定期的にミーティングを行う程仲が良くなっている。

 

とは言っても、これまでの確執や利害の不一致もあるが、唯一彼らが仲を改善したのは、「ガルマ・ザビ」の事である。彼の対応に共通見解を持ったのがこの兄妹である。

 

ドズルやデギンと言った家族の危機に血が上りやすい二人は即座に艦隊を軌道上に行くよう命令を出し、戦略核や遊星質量弾などの戦略兵器を持ってパーパルディア皇国を撃滅しようと考えた。だが、それに待ったをかけたのがギレンとキシリアであった。

 

二人は例え100人の子供を犠牲に一億人のジオン国民が助かるのであれば、前者を迷いなく犠牲にする。そういう冷徹な判断ができるのが政治家であり、ガルマの仇討を考える事は国益に反すると分かっていた。

 

仮にパーパルディアに全力攻撃してもいいかもしれない。だが、それをすることでジオン本国の防衛戦力が減り、連邦軍や特殊部隊のティターンズによる破壊工作が行われるだろう。仮に政府が私情を持ち込み、閣議決定もなしに武力行使を行えば、政府システムの不審や公国の信用に関わる。

 

「兄上、ガルマのことはどうします?」

 

キシリアの危惧する事。それはガルマの進退、更迭や謹慎とした処罰に関してだろう。今回の被害は事前に対処が出来るものであると結論付けられた。攻撃が予期できぬものであり、もしもガルマが適度な休養を行い、ミノフスキー粒子による妨害行動に気づき、各部隊に電子戦防護を命令することも出来ただろう。最高指揮官のガルマが適切な指揮をしていなかった、現地の士官数人もミノフスキー粒子をみつけた時点で警戒態勢に移行すべきであったと始末書や報告書、航海日誌に記載している。

 

 

今回の事や鬼の首をとったと雄たけびを上げる反ザビ派の将校や利害を考えて賛同する中道、一般市民の意見もガルマへの責任問題について挙げられ、既にネットでも書き込みやマイナーニュースジャーナルなどで緩和された情報統制に漏れたそれらは徐々に世間で騒がれることになっていた。

 

「出来ればあいつには汚れてほしくない。だが、ガルマには父上やドズルのような熱狂的ファンが多いからな」

 

「ファンとして活動している親子との発言とは思えませんね」

 

某アイドルグループの来賓席からコンサートに参加し、二人して一般客に紛れて握手会を行うのはキシリアから見て失笑の対象である。この親子がアイドルに現を抜かすという状態に笑うのではなく、彼女も誰にも知られず、DMM系列のレイピアが乱舞して美男子が戦うゲームが好きすぎて、財力を駆使して本物を購入したマジの審神者となっているから、

この家族にしてこの娘と言ったような感じ。

 

ではなぜ、この二人が失笑の対象なのか。

 

『握手は30秒……い、いぇいぇ一分でも二分でも』

 

『構わん三分でよい。私はただの一観衆の一人!特権階級の如くルールを無視するのは、ジオン国民の長として恥ずかしい』

 

『は、ははぁ!』

 

スタッフを平伏させ、アナウンスをしたスタッフ以外の反応も酷く、其れこそ「この紋所が目に入らぬか」「ジークハイル!」状態に平伏して頭を下げる有様。

 

『きょ、今日はコンサートに来てくれてありがとう!おきゃ……いえ総帥閣下♪』

 

『君のことはムンゾ地下ホール時代から好きでな。実はお忍びで来ていたことがある』

 

なんというカミングアウト。という事は18歳と偽っていることがばれ、永久の18歳から28だということがばれてしまったことを意味している。しかし、彼女もアイドルのプロ。心の中では「てめぇ……!何様のつもりだ!」と叫びたいが我慢して、ニコやかに且つかわいく挨拶する。

 

『いつも、いえ長らくファンでいてくれてありがとニャン』

 

プロの意地だった。

 

そして、次に来たのは公王の礼服を着ているデギン・ドゾ・ザビその人である。総帥よりも更にグレードが高い。首相の次は国王が突然現れてアイドルを訪問する。これがどれほど異常なことか、日本と遇わせてみていたらどれだけやばい事なのが分るだろう。

 

『おぉ、ミキティ!萌え!』

 

そう、国家元首であり、あのムンゾ自治共和国と言う連邦からの自治独立を成し遂げた第一世代の宇宙移民者。ダイクンの死後にムンゾをまとめ上げた老人の姿は衰えていても、その心はアイドルによって生き返り、若返っていた。

 

それを見て皆の表情は驚愕を通り越して、「ここは現実なのか?」と自問自答し、思考が停止する。それはアイドルも同様であり、握手をしようとした手を宙ぶらりんにしながら、表情も呼吸も止まった、まるでカメラの一ページのように、空気が硬直した。

 

そしてそれは「伝説」となり、一部国民層からは真の意味で「総統閣下」と呼ばれ、デギンに至っては「萌え殿下万歳!」と諸手を挙げて忠誠を誓ったという。

 

 

 

「・・・・・・・・・審神者(さにわ)がなにを言う?!」

 

「提督閣下はまだ艦娘を全てカンストしていないので?私の刀剣はカンスト極み済み」

 

「何だと・・・・・・・・・!?」

 

 

もはやそこにいるのは国家元首と情報組織の長の台詞とは到底思えない。

 

「話を戻そう。ガルマにはこの後、ルミエス王女を我が国に招き、セツルメント国家連合の副構成国家として認めよう。国名は王国連邦としよう。」

 

「話が逸れています」

 

「まぁ最後まで聞け。ガルマにはエスコートさせる。両者ともに仲が良いから、何も不自由はない。ガルマは今後実戦は必要ないものだ。今後は裏方で頑張ってもらおう。」

 

「するとお咎めは」

 

キシリアの問いにギレンは不敵な笑みを浮かべて、口を開く。

 

「上等な羊より・・・・・・・・・喰らわれても良い生贄を選べばいい」

 

 




次はフェン王国。こちらは超速足で。四月にはパーパルディア潰す。

予定がちょっとずつ遅れてますが、次もすぐ出す予定です

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