だいぶ待ったと思いますが、前の話で書いていただいた感想もお返ししていない←
空いた時間でご返事かきますのでもう少々お待ちください!
※神城氏よりご指摘
カイオス、最後のあたりの会話文を修正。「ご老体」のくだり、「武辺者」→「軍人上がり」に変更。
ちょっと変でしたので、修正。
ジオン公国の科学技術は世界中に知れ渡ることになった。それはジオン公国の広報活動の一環としてラジオ・テレビ・魔伝放送によって知られていた事も含めて、フェン王国での戦闘やアルタラス王国での戦いでもジオンの科学技術は惑星全てに知れ渡り、そして認められ始めていた。
パーパルディアという軍事大国の最精鋭「大陸軍」にジオン軍が攻撃を行ったことは、非常に驚かされるものだった。仮にも文明圏外国家のような弱国が大国に対して牙を向く事は。だがそれ以上に驚かされたのは、『パミ相互防衛条約』という新世界秩序体制が立ち上がった事だ。これはパーパルディアと神聖ミリシアル帝国が共同で双方どちらかの国土が攻撃を受けた場合に同盟国として援助・開戦して戦うというもの。第一次大戦前のフランスとイギリスなどが結んだ条約のような有様である。
そしてアルタラス王国で使われた魔導コア兵器、魔力を極限まで集中させ、そこで
そして、海上で使用された化学兵器「毒散弾」との名称のそれはマスターカードガスのような効果があり、化学防護装備のない部隊は壊滅する。これらは既にパーパルディアに供与され、既に植民地暴動の際に使用され、文字通り屍の山を築き上げた。属州の反乱に属州統治軍は毒散弾を使用し、虐殺の限りを尽くす。あとに残ったのは老若男女問わず口減らしで殺されるのを目のあたりにした、恐怖に震える屈服した植民地人達。連日報道されたそれらは属州の徴収する税が減ることを懸念する声しかなく、だれもジオン恐るべしとの声はない。
それは皇国の臣民統治機構が属州の富を搾り取るだけでなく、潜在的に敵対するであろう従順でない国民を監視するため、監視体制を敷いていたからだった。ムーや神聖ミリシアル帝国程技術力が進んでいないかの国は新聞を検閲し、数少ない魔導通信を監視。国民を闇で操り、世論誘導や共通の敵を作り上げている。
旧ナチスドイツの宣伝省にも似た情報統制システムは議会すらもコントロールし、形骸化。全ては皇帝の思いのままだった。そのため見せられない情報はひた隠しにしていた。加えて、皇帝の意に反する情報もまたこれらの組織の粛清を恐れて、自発的に証拠隠滅される。
唯一、皇帝にジオンの正確な情報を伝えていたのは、第一外務局局長エルトただ一人であり、再三にわたって皇帝陛下に直訴していた。
「陛下、先のジオンの報告は読まれましたか?」
「くどいぞ、エルト!」
本来なら嫌がっている皇帝に書類を見ろと催促などはしない。だが、まだ二十数年しか生きていない皇帝陛下がしっかりとした判断を下せるためには、しっかりとした情報と知識、国内情勢と周辺諸国の情勢を知らなけばならない。
ある意味、皇都で一番苦労が絶えないのは、外務局長だろう。言わば、外務大臣をやりながら社会科の教員もやっている状態。そこまで悪く言わなくてもいいが、実際やっている事はそれと大差ない。
エルトは非常に有力外交官のひとりでパーパルディアと神聖ミリシアル帝国との相互防衛条約を結んだ皇国の立役者だった。実質、外交官の束ね役であるが、諸外国へのパイプは健在。外交機関では一番皇帝に近い立場にいる人物だ。
「申し訳ありません。ああでもしなければジオン軍に蹂躙され、我が方には甚大な被害が」
「それでこの外交草案とやらを書き上げ、この朕に渡してきた・・・・・・・・・中将そこに立て」
大陸軍中将バフラムを絶たせると、腰にあった魔導拳銃の銃口が彼に向けられた。
「陛下!おやめください!バフラムは失敗したと言え、大陸軍の幕僚司令官!戦いの幕を引いたのは確かに我々ですが、これは負けではありません」
「負けておっただろう!戯け!」
魔導拳銃は発射され、燃焼した魔石の硝煙が宮殿の天井へと流れていく。命中したのは、後ろに控えていた秘書官だった。どこかの貴族の次男坊か三男坊か分からない。斃れて呻き声を出しているが、皇帝ルディアスは気にも留めず玉座に腰を下ろす。
神に愛された男皇帝ルディアス。その実態は怒り狂えば手に負えない若者であった。銃を与えれば気に食わない者を撃ちまくり、指揮権を与えれば部隊の半数を死なせても目標を達成する。その傍若無人な態度はあまりにも酷いものだが、その一方で皇族の脈々と続いていた帝王学や政治決定能力、そして皇国史上最も美形で国民に愛された皇帝としての地位に立っていた。本人もその事を理解しているためか、無茶な行動をしても問題にはならず、バフラム中将を下がらせ、外務会議を進めていった。
「アルタラス王国は現在どうなっておる・・・・・・・・バフラムは良い、お前は休め」
「しかし陛下!」
「お前は戦場帰りで疲れている。既にカイオスの国家監査軍に引き渡したのであろう?ならばお前の行くところは妻子の所だ。処遇は追って知らせるが、彼奴等相手に良くやった。今日は帰れ」
「……ありがとうございます陛下」
冷徹な独裁者であるが、アメとムチを使い分け、優しさを表に出したルディアスは歴戦の将軍であっても、男色の気のない人間でさえも惚れ惚れする。そうしたカリスマ性と失敗した部下への気遣いは冷酷さを併せ持って、絶妙なバランスを保っていた。
「してカイオスよ。説明せよ」
「はい、身に余る光栄。」
文明圏外国家への外交を司るカイオス第三外務局長はお辞儀をした後に、バフラムから引き継いだと思われる書類と地図を睨み、説明を始める。
「アルタラス王国首都、ル・ブリアスについてですが、ミリシアル帝国の試作爆弾の影響から多数の被害が出ています。末端の兵士が略奪行為を行おうとして汚染。彼らに付着した毒が他の兵にも移らないよう
「あの肥沃な農耕地帯はだめか」
「ええ、放棄された農作物は全滅です。今回手に入ったのはシルウトラス鉱山一帯だけ。正直申し上げますと、大陸軍の栄光に泥を塗る行為としか思えません」
「カイオス!貴様が言える立場か!」
大陸軍総司令官、アルデ上級中将は叫び、近くの参謀もヤジ紛いの非難を浴びせる。大将は皇帝、皇帝を除く最高位の階級は上級中将。皇帝を除けば一番上の階級なのだが、アルデの非難も物ともせずカイオスは止まらなかった。第三外務局という僻地に飛ばされたが、その眼光は衰えず猛獣の如く鋭かった。
「物申せる立場なのは皆さんも理解している筈です。そもそも、今回の計画は毒散弾による国家機能の喪失だけのはず。なのに、大陸軍のお偉い皆々様はなぜ試作コア魔法の兵器を使用為されたのか」
「お前が言うことではない!そもそもアルタラス王国に攻め入ったのも、第三のごく潰し共が無理難題を吹っかけて奴らを怒らせたからであろう!」
「確かにそれはそれでしょう。だが、国家監査軍だけで事は済んだ。ジオンが居るからとミリシアル帝国から兵器を借り受け、防衛条約を結んで『地球連邦』という訳の分からん輩と協力し、結局かれらはどこに行ったのです?勝てた戦争を尻尾撒いて逃げてきたのに、敗者の台詞とは思えませんな」
「貴様、バフラムの苦労を知ってのことか!大陸軍を侮辱するつもりなら表へ出ろ!」
アルデ上級中将はプルプル手を震わせ、剣の柄を握りしめ、今にも襲い掛かりそうになっていた。カイオスの古巣は大陸軍。国家監査軍を擁する第三外務局に入ったのは閑職に左遷されたからでもあるが、それ以前に実戦経験豊富な第三外務局に行きたいという本人の意思もあった。力不足な官僚共が犇めきあう中で唯一長所としてあるのが第三外務局に属する国家監査軍。その規模は大陸軍に劣らず、練度も高い。
国策として大陸軍が勇猛果敢な精鋭ぞろいと宣伝するが、実際のところ張り子の虎に等しい。パレードと軍事演習、標的用の奴隷や標的をいたぶるのが仕事であり、戦闘の経験は監査軍に軍配が挙がる。大陸軍は装備と指揮官が優秀であり、バフラムの指揮する戦闘団以外は腑抜けに等しい。場末のチンピラの方が良く戦えるのではと考えてしまう有様だった。
アルデ上級中将のような保守的で貴族的価値観に溺れた指揮官は目先と見た目しか考えない。優れた装備をしていても、中身が弱兵であれば直ぐに勝敗は決してしまうのだ。
アルデの剣が抜かれようとし、カイオスも胸元のホルスターから魔導銃を抜こうか迷っている中、皇帝の挙手によって場は静まり返った。
「貴様らの確執はわしも知っておる。双方とも武器を収めよ。今回のアルタラスに関しては双方の落ち度がある。カイオスよ、今後は部下をしっかり統率せよ」
「はっ」
「アルデよ、バフラムにも申したが、練度の差が部隊によって開きがある。直ぐに、再訓練を行い、部隊の平均化に務めよ」
「はっ!」
「それでカイオス。お前の大陸軍への攻撃は見事であった。話を進めよ」
カイオスの古巣嫌いは既に皇帝が知るところ。元々、大陸軍に属し、政治的保身と政争によって大陸軍を辞めたことはパーパルディア皇国では有名な話だった。皇帝の意に反した行為による左遷が表向き、軍の政治的圧力に負けたカイオスが大陸軍の負債を全て背負い、引責左遷させられたことは周知の事実。ルディアスもそれを知っているため、カイオスの第三外務局入りを許し、外務局長の地位を預けたのだ。
「はい、ジオンとのアルタラス王国の国境線策定と非武装地帯の区域創りのため、外交官を派遣。実務者会議を行い、両国間の衝突が起きないようにしています。今後のジオンとの交渉は我々第三外務局で行いますが、陛下よろしいですか?」
「ふむ、その点に関しては第三に一任する。研究地区と遺跡はどうだった?」
「研究所を幾つか押さえました。遺跡に関してはミリシアル帝国と共同になりますが、既に兵研による検証が進んでいます。」
「ジオンの鉄の巨人は?」
「腕の破片を回収、一部砲弾を回収しましたが、バフラム配下の砲兵隊の対策が功を奏したようです。」
「今後はバフラム閣下式の砲兵隊と兵研により、対ジオン鋼鉄巨人の対策と防衛兵器の開発に全力を注ぎます。」
兵研の魔導士は頷き、既にザクの対策マニュアルを策定している。砲兵隊の魔導砲。高出力の魔光砲であれば、高出力プラズマを以て駆動系を破壊する。それでも敵は戦闘能力を有するが、足がない分行動も狭まり、鹵獲を恐れて敵の動きも愚鈍化する。
「今後、第三にはアルタラス王国を任せる。下手なことするなよ」
「はっ!」
外務局の本領は、こうした人と人との外交にある。恫喝外交も一つであるが、今回の一件を第三がしたのは訳があった。
「第三は時間を掛けてじっくりと行え。問題ないな」
「はっ!」
第三外務局はアルタラスにて時間の引き延ばしを行う。現場判断も必要であるが、本国から出たくない第一外務局に配慮しての事だった。縁故採用や皇族の遠縁もさることながら、内部での押し付け合いもあり、一番の原因である第三外務局が尻拭いをすることになった。
ルディアスは少し沈黙し、周囲の家臣を見やる。それぞれルディアスがどのような言動をするか、緊張した面持ちで注目する。一種の人心掌握術であり、人の注目を得るためにわざと沈黙する。そうすることで通常よりも集中して聞くことが出来る。
「フェン王国……あの蛮族の対処は何処にさせるか」
その一言に「やはり」と皆の顔は硬直する。御前会議であり、この場にいるのは国家中枢を担う官僚や軍人、皇族に占められる。その全員が全て視線を落とし、誰を生贄にするかと思案する。ジオン公国という超文明を持ち、鋼鉄の巨人に対応できる軍隊はいるか。パーパルディアのどこを探しても見つかるはずもない。
アルタラス王国でバフラムが善戦し、ザクを一機行動不能に出来たのは、不意打ちと不慣れな防衛戦、連携能力を高めていない連合軍であったが故に起きた奇跡。ザクの行動やパイロットの事など気にも留めない歩兵が縦横無尽に地上で歩き回る様は、シャアの指揮下にいたデニムやスレンダーと言った熟練パイロットでも神経を擦り減すことになる。
だが、この場で「我が皇国にフェン王国とジオンを懲罰攻撃できる部隊は居ません」と答えられる者はいない。いたとしても、それは自殺願望者。既に皇帝の癇癪や見せしめ目的でバフラムの秘書官が撃ち殺されている現状。誰も指摘する者等いない。国を憂いて反逆の意思を見せようものなら、臣民統治機構の捜査官が反逆の匂いを嗅ぎつけて、部隊を送り込む。それは嘗てのナチスの
静まりかえった会議室で手が上がる。その主は御前会議でも一際目立つ軍服、パーパルディア大陸軍が着用する赤を基調とする軍服に身を纏った彼女、外務局監査室のレミールという、皇族に名を連ねる女性だった。整えられた金髪のロールや皇族のみが許される国章を首に下げ、容姿端麗なその顔は過酷な軍務や政務があっても衰えず、寧ろ輝いて見える程。そんな彼女が右手を上げ、皇帝の問いに答えた。
「国家監査軍は適任ではないでしょう」
「その訳は?」
「既にフェン海域で醜態を晒しております。そうでなくとも、彼らには力不足かと思われます」
その一言にカイオスの眉がピクリと動く。心の中では憤怒の炎が燃え上がるが如く、今にも魔導銃に手を掛けたかったが、一秒もしないうちに素手で細い首をへし折る事はカイオスにとって容易い。だが、皇族を殺す事自体不可能、皇帝のお気に入り(・・・・・)となれば、下手に反論することも躊躇われた。
「以前、アルデ上級中将閣下が仰られておられました『統合計画』も視野に入れて、今回の外征は大陸軍にお任せしていただきたい」
「・・・・・何!?」
流石のカイオスも黙ってはいなかった。パーパルディア皇国の『統合計画』。それはパーパルディア皇国の軍組織を全て統合し、皇帝の意のままに操れるよう、指揮権を統一化する計画の一つである。大陸の覇者として存在するパーパルディア大陸軍と植民地統治と侵略の要である国家監査軍。それらは長年、対立しており、ときには内部紛争も起きていた。
そのため、すべての軍を一度『皇軍』として統合、再編成するとともに偏りのある資源や兵員、指揮官に平均化した教育を施すなど、ある程度の規格化を目指した計画。本来であれば、国家監査軍の大反対によって白紙になっていた計画だったが、第三外務局の度重なる失態から、再び計画が浮上。
更に悪いことに、国家監査軍の完全解体も視野に入れている事から、正気の沙汰ではないとカイオスは声を張り上げた。
「陛下!国家監査軍は大陸軍と比べれば、兵器も古く、粗忽者も多い……ですが、あのアルデの提案した統合計画は全くの暴論もいいところですぞ!」
「カイオスよ、貴様も海軍魂とやらが身に付いたか?大陸軍の赤い軍服はもう似合わんからな」
アルデ上級中将の嘲笑に我慢の限界であったカイオスは掴みかかりたいところだったが、秘書官がそれを押さえ、それを見ていないかのようにレミールは話を続けた。
「大陸軍の兵力や戦闘能力は国家監査軍とは一線を画します。我が国に泥を塗ったフェンは陛下に頭を垂れるでしょう・・・・・いえ、陛下は彼らの頭など不必要でしょう」
「分っているな。……そうだ、あの蛮族は皆殺しでいい。レミール、外務局監査室から一度、第一外務局長補佐として、フェンについての裁量権を与える。」
「ありがたき幸せ!」
「ただし、レミールよ。貴様は軍事よりも文官寄りだ。指揮官は別の人間にやらせる。アルデ中将、人選と部隊には任せる。」
「はっ、精鋭を派遣いたします」
「うむ、好きにしてよい。そうだな・・・フェン王国については、戦後の国土や民の扱いまでアルデの好きにして良いぞ」
一同に衝撃が走った。
文明圏外の野蛮な国家であっても、1国の領土と民を国家機関の一つが好きにして良いというのは想像もできない。だが、恐怖政治によって締め上げられ、鞭を打たれすぎれば反感を買う。鞭以上に飴を多く与えることが必要になる。指揮官の貴族に領土と奴隷を与えれば、近年大陸軍に見られがちな士気の低下も抑えられ、軍の士気はとてつもなく上がる事だろう。
アルデは陛下に平伏する。
「あ・・あ・・あ・・ありがたき幸せ!!!」
フェン王国と広大な土地が手に入る。部下に切り分けたとしても、自分の領地はそれ以上。恐怖政治の影響によって強力な貴族は数少ない。アルデは貴族で中の下に位置する。フェンを手にすれば、やや本国から離れるものの、一国一城の主になれる。アルデは皇帝への忠誠をいっそう強くしたのであった。
だが、それに危機感を抱く者が一人。
「不味い……このままでは監査軍どころか外務局すら危うい……」
御前会議の後、カイオスは執務室に入って考えていた。カイオス自身、国家を憂う者の一人。フェンやアルタラス王国侵攻に関しては諸手を挙げて賛成しないが、偽善者として反対することはない。国家の繁栄を望むものとしては、国土の拡大は願っている事だ。しかし、植民地統治や駐屯軍としての役割がある国家監査軍の軽視は国家衰退に関わる。
加えて、第三外務局の存在意義も揺らぐだろう。
国家監査軍は元々、パールネウス共和国所属の海軍ではなく、共和国に雇われた海賊の系譜を持つ。大陸軍に比べると、海上の過酷な環境からか高給取りの水兵には比較的に貧民層が入隊しやすい。海賊の流れは殆ど形骸化しているが、海軍魂と称される誇りは大陸軍からしてみれば侮蔑の対象だった。国家監査軍の海軍魂は武士道の無常観に近く、懐古主義なのか古いものを好む。逆に大陸軍は最新型を好み、古き良き時代を捨て去り、啓蒙思想が根付いていた。
「閣下、このままでは監査軍は……」
ポクトアールの後釜として、東洋艦隊臨時司令になったマシュルペはオーバーホール中の数隻と除籍寸前の老朽艦を臨時で編成した形だけのものだが、それでも外洋への作戦や物資輸送のためには必要な繰り上げ昇進だった。とは言え、ポクトアールのような懐古主義の権化のような、古い船を崇める体制を変えるべく、カイオスはポクトアールを引退させ、新式装備の導入を進めるマシュルペを推していた。ここに来て、老朽艦隊ごとポクトアールが居なくなって清々したカイオスであるが、ポクトアールの元には熟練の水兵も居たため、東洋艦隊の損失はポクトアールの戦死以上に大きなものであった。
「分っている……第三の使えそうな若手外交官をクワ・トイネに派遣して、旧ロウリア領だったな。現在はジオン統治領か?」
「『ジオン自治領』です。たしか、向こうのロウリアの民に自治を与えて、軍港と主要工場地帯の半分をジオン国営工場にしています。工場地帯の開拓はジオンなのに、その半分をロウリア民に与えるなんてかなり優しい国であることはうかがい知れます」
「いや、そうじゃない」
カイオスは机に肘をつき、頭を抱える。
「ジオンからしてロウリアや周辺国そして我が国のような国家は全て格下だろう。『優しい』なんて言葉で表現するのは阿呆のすることだ」
「すると、我々(阿呆)は侵略され、略取されるかもしれませんな」
「いや、現時点で帝国主義的侵略政策は行っていない。そもそも、諜報員がもたらした条約内容はほぼ対等の……関税自主権については配慮したものが多い」
カイオスの机に広がっていたのは、ジオンと文明圏外国家が結ぶ技術供与条約と国家戦略顧問団と呼ばれる、国の文明レベルや地勢に合わせた支援を行い、その土地に合わせた技術支援を行う写真やそれらの活動が詳細に記されたレポート。パーパルディア皇国やその他列強の価値観からすれば考えられない、全く持って不可解な行動である。
更に関税自主権などは文明圏外国家のレベルや産業に合わせて変化する。そもそも、経済システムが整ってない、其れこそ物々交換レベルの未開地域では、工業化された低価格加工品により産業が破壊されることもある。それがキッカケで文明国によって侵略・併合されることもあるから、寧ろ一番双方譲りにくいポイントだろう。
それを見たマシュルペは置かれた資料をみて眉を顰める。
「確かに……第三外務局だと、関税自主権辺りで揉めてました。それこそ、戦争を行っていた事もありますから」
パーパルディア皇国は第三外務局を先兵として、文明圏外国家の搾取を行っていた。その軍事力を背景に強硬姿勢を貫き、更に文明や政治体制、経済政策の違いからうまく金品を奪う算段を整えていた。カイオスのような武官上がりの行政長官であっても、ジオンの行う外交姿勢が大国と言う立場からして生温く、内部から批判を浴びることになるだろう。
マシュルペにはジオンがどうしても、魔導放送や機械文明の電波通信技術によって宣伝するような、技術を持ち得ているのか理解できない。理解しがたいものをオカルトとして無い物として扱う。それはジオンやスペースノイド、地球連邦の人々が考える「魔法」「魔術」の類として理解しがたいと言っておびえるように、マシュルペには彼の技術を信じ切れず、迷信やありもしない作り話、ジオン政府によるプロパガンダ(情報操作)と断じる方が理解しやすい。
マシュルペがそうであるように、パーパルディア皇国の国民の殆どが。これまで列強として誉れとしていた人々は、ジオンの実力を過小評価していた。
「私にはどうしても信じられません。ジオン公国が本当にそうした実力を秘めているのでしょうか?」
彼の言葉はまるで皇国の国民を代表しているかのようで、まるで三大列強の人々の疑問からその言葉を発したのか。マシュルペには目の前にある外務省の情報を疑い、判断する立場にいるだけに、ジオンの実力を疑問視していた。
カイオスも彼の疑問には一理あると感じていた。ルディアスの指揮下にある臣民統治機構はソ連の
カイオスは彼の疑問を聞き、一つの機密ファイルを広げる。其処には大陸軍の戦闘記録や砲兵隊のMS対策マニュアル、先のアルタラス攻撃作戦の報告が詳細に記されていた書類だった。
「これは大陸軍の戦闘詳報ですか?閣下……?!」
「なに、まだわしにも大陸軍のコネを持ち合わせておるよ」
大陸軍内の皇族軍人や支持派が居れば、情報漏洩罪で捕縛され、更迭されてもおかしくない。先の御前会議で提出された報告書は皇帝にお伝えする部分を強調した簡略化したものである。御前会議を要請した行政長官が書類の委細を判断しているため、あの会議に提出されたのは不都合な真実が記されず、抽象的な被害と数字の羅列のみ。それ故に、戦ってきた大陸軍の戦闘詳報を手にしたマシュルペの衝撃は強く、目を見開いていた。だが、彼の驚きはこれからだった。置かれた機密ファイルには詳細な記録が記され、ジオン側の戦闘能力は大陸軍を凌ぐ。
みるみる彼の表情は強張り、顔色は青ざめていく。最後にMSの脅威報告書を記した書類を見て、真っ白に近い肌色になったマシュルペはカイオスの顔を見て、パーパルディア皇国の直面する問題を理解した。
「……いや、しかし……陛下がこれを
「いや、理解せずに終わるだろう。誰かがこれを握りつぶす」
パーパルディア皇国の政治体制は皇帝を元首とした欽定憲法による統治体制を築いている。三大文明圏では神聖ミリシアル帝国とムーの次、3番目の巨大帝国であるが、皇族を主とする臣民統治機構による恐怖政治が跋扈する体制となっている。
彼らの監視対象は一般市民にまで広がっており、スパイ撲滅を名目に皇帝反対勢力の摘発を行っていた。ジオンの情報を真実として皇帝に見せても、其れがサボタージュ(破壊工作)として捉えられ、欺瞞情報を持ち込んだスパイ容疑でも掛けられる可能性もある。また私利私欲のために情報の公開を渋っている可能性もある事からマシュルペとカイオスは頭を抱えていた。
「仮に第一外務局長のエルトが自分の持つ資料に疑問を持っていなければ、皇帝陛下の見る資料は改竄されているだろうな」
「軍需複合魔術連合や各政界の有力権力者、そして皇族の仕業ですか?」
「パールネウス共和国時代からも議会政治があるが、汚職と既存権益にどっぷり。先代の皇族の方々が粛清をしても人の性というものは止められはせんよ……」
パールネウス共和国が衰退した原因。それは貴族による既存権益や汚職にどっぷりつかり、共和国自体が硬直化。行政や軍が動かなくなり、そこから侵略を受けて多くの国々に資産が流出した。大部分は戻ってきているが、未だ流出した国宝がどこかにあると噂される。これらの汚職や権益にしがみつく貴族や役人を粛清して、パーパルディア皇国として建国させたのは先代の皇族の方々だった。しかし、今では皇帝の若年化に伴い、再び汚職と権益の守護を行う貴族と役人が生まれ始めた。それに加えて皇族までもがそれに加担している事を考えると、粛清してからはこうした汚職、既存権益の確保に向かう輩が先鋭化、地下に潜ってしまい、その存在は公にされてこなかった。
闇の
「国家の二極化、若しくは意思決定の二分化は非常に不味い。片方が利益追求を行い、片方は国家を守ろうと指揮を下す。王棋で王の役が二人も居れば、どうなるかわかるだろう?」
パーパルディア皇国でチェスや将棋の意味合いを持つゲーム盤の王棋。その打ち手が二人いれば、打つ駒の意思が二分され、滅茶苦茶な動きをすることは予想出来る。片方は国のために指導するが、もう片方は自分達の財布の財を増やすために、国民を犠牲にして兵器を買わせる。肥大化した軍需産業やその他の業界の人間は様々な手を駆使して、より大きな戦争を行わせようとするだろう。
ジオンが何であれ、それが自分達の兵器を壊し、国が補填するために兵器を買う。その流れが出来ていれば、相手が誰であろうと知った事ではない。
「大陸軍は陛下の意思以外にも何らかの形で介入されている事を知っているのでしょうか?」
「知っていても、自分達の財布が重くなることに比べたら、手駒の一つや二つ減ったとしても、屁とも思わん。それよりも、陛下のお気に入りが気がかりだ」
「レミール一局補佐のことですか」
彼女の美貌や先見の明は良く知られている。ルディアス帝のお気に入りとされ、美男美女の二人である事は周知の事実。レミール自身皇族の一人であるが、近親者との婚姻は政治的にも普通であるため、わざわざリスクを冒してまで他国の血を入れる必要はない。
「彼女がどのような判断でフェンを強襲する算段をしたのか。誰の意図で何のためにやったのかは分からない」
「あれがルディアス帝に対してのものだけであるならば……彼女の質だとジオンとの関係を悪くしますね。それが何であれ、ジオン公国は我が国にとって、いやこの世界の脅威になりかねません」
「かの国が古の魔法帝国との噂もあるぞ」
カイオスの台詞にマシュルペは固まるが、直ぐに表情を変えた。
「いやいや、それは……」
「以前、大陸軍時代に知り合った神聖ミリシアル帝国の外交官に知り合いがいてな、その手紙だ。読んでみてくれ」
それは丁寧に最先端の魔導呪文によって宛先の本人以外が読むと、盗み読んだ人物の周囲10mが爆散するという、かなり危険な物であったが、宛先の本人によって無力化されたそれは丁寧な書式と外交文書のような細工がなされた高級品の手紙だった。マシュルペはどんな知り合いだよとツッコみを入れたいのだが、文面を読んでいくうちにやや恋文に近いことが明らかになってきた。
―あれ、このひと妻帯者じゃなかったっけ?
二十過ぎの若い監査軍士官の女と30年差の結婚し、子供二人いたよね。というか離婚前にも成人男子二人の息子いたはず。恋文……うん?
マシュルペはカイオスの私生活に踏み込んでしまったが、二ページ目に入ると更に目を白黒させる。そこには神聖ミリシアル帝国の魔導研究員の記すレポートの写しが入っており、ジオンの分析評価が記されていた。そこにあった技術・文化面に関する分析、そこには『古の魔法帝国に似た文化形式と技術面がある』と記載があった。
「どういうことです。もしかして、本当に古の魔法帝国ですか?」
「いや、言語や人種の可能性からしてまずないとある。それはないだろうし、彼らは我々のような人種だ。」
この世界にいる様々な種族。人以外にも亜人と区別するエルフやホビット、オークなど無数にある。獣人族もあることからその種類は様々だ。だが、人種とは特性のない種族であり、その繁殖能力の高さ故に数を倍増させた。ほぼすべての国家で共通する人種の国家。一部エルフ族やホビット、ドワーフと言った種が国家運営に携わるが、列強の多くは数で物を言い、民族を併合。文化を奪い、長所となる物は全て収奪した。現在、皇国内にいる少数民族は全て皇国に併合された時、皇国側に付いた者達。エルフに至ってはパールネウス共和国時代に皇族側についたエルフ王家である。そうしたことから人族の皇帝を頂点とするパーパルディア皇国が誕生した。
「古の魔法帝国は有翼人……彼らは進化の途上で翼を自らの手で無くしたが、語り継がれる容姿とは異なる。」
「……そういえば閣下、古の魔法帝国についての昔話を覚えておいでですか?」
「儂はそこまで衰えたつもりはないぞ」
「いえいえ、そういう訳ではなく」
カイオスは顎髭を摩りながら、嘗て子供の頃の思い出や子育ての頃に乳母の真似事で昔話を息子に話したこともあって、ぽつぽつと題名を話す。
「そうだな『クワイネ戦記』『竜戦争』……あとは『月の光』だったか」
最初の一つは第三文明圏でも遠い大陸、ロデニウス大陸での話であるが、魔王率いる軍隊が攻め入った時に太陽神の使いが古の魔法帝国が裏で操る魔王を撃退。彼らの亡骸がクワイネに眠るという内容。そして、次の竜戦争は嘗てのインフィドラグーン。現エモール王国と古の魔法帝国の全面戦争。そして最後が月に残された古の魔法帝国残党の創作小説。パーパルディア皇国以外にも多くの文化圏で月の話がある事から、何らかの影響で物語が分散した可能性があるとして知られる最古の創作物語だった。
マシュルペは持ってきていた革製の書類鞄から、皇国魔導研究所の天文研究会が発行する書類を取り出した。
「ジオンが星間国家であることはお伝えしましたよね」
「ああ、奴らの放送でも、天文観測でもあり得ない天体軌道を描くものがあったと聞いたが、それがどうした?」
「月で何らかの爆発と幾つかの閃光を観測したと報告がありました。彼らの話ではジオンが先の連邦軍と戦闘を行ったとのこと……しかし、地形が変わる程の攻撃と、月から離脱した物体が西方のブランシェル大陸に落ちたと聞きます。」
惑星の周回軌道上には二つの月が存在する。名称は双子月や姉妹月など、文化や種族によってその名称は異なる。そして多くの天文学者達は月が何故、衝突しないのか議論が盛んに行われた。惑星との微妙な天体力学によって程よく離れていた。
その片方の月から出た物体は隕石となって大地に降り注いだ。いや、
「落ちたのではなく、大陸に
「ブランシェルはジオンの勢力圏の外……向こうにジオンと国交を結んでいる国家はいない。不時着?」
「だとすれば、観測された情報を考えると、大幅な減速と上空で滞空していたとの報告は間違っているな」
マシュルペの書類の上に重ねておいたカイオスは冷めきった紅茶を飲み、しかめっ面をする。その書類は大陸軍航空隊の報告や諜報の報告書であり、落下物が何らかの形で速度を落としたと記され、マシュルペの表情は困惑していた。
「これはジオンが不時着したか、地球連邦の仕業……?」
「若しくは第三国の存在かもしれんぞ?」
冗談じみたカイオスの台詞にマシュルペは笑う。この時はまだ二人とも世界大戦の前哨戦が宇宙で行われていた事など知る由もなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ミーシャ、また飲んでるな」
「大尉殿、あれを見て飲まずにはいられないですよ」
ムーンⅡに建設されたジオン軍仮設駐屯地。敵の施設に隣接したそれは、モジュラー化された小惑星や暗礁地帯に前哨基地を設けるべく設計された組み立て式宿舎が立ち並ぶ。仮設拠点の数十キロ先には、宇宙攻撃軍の基地が建設され、『ガガーリン基地』という名前が付けられ、モビルワーカーや工兵隊が建設を行っていた。ムーンⅡの重力は0.8Gとコロニーの重力と比べると、やや軽い。月生まれ(ルナリアン)からすれば重いが、重い分運動による筋肉量の維持をしなくても済む。
また、艦隊には鉱物資源調査のための地質学者、生物学の権威を載せており、何らかの形で未知の生物に関わった場合、病原菌や未知のウイルスに晒され、人類滅亡の危機が起こり得るかもしれない。接触した兵士や何らかの形で彼らの施設の空気を吸った兵員は72時間の待機と全身のスキャンが行われる。その対象は上陸尖兵として投入された特殊部隊、「サイクロプス隊」も含まれ、空気を吸ったバーニィ―やシュタイナー、そして人型機動兵器によって負傷したアンディー少尉などで、その他未知の生命体に遭遇し、空気接触した人員は隔離され、非常に徹底した防疫体制が築かれていた。某日系科学者は未知の病原体に関して異常なまでの警戒心を持っており、それは熟練の兵士までも辟易させた。
その人物曰く「褐色のエンジニアのイケメンには要注意」とか意味が分からない。
しかし、ミーシャと愛称で呼ばれるミハイル・カミンスキー中尉は宇宙空間や特殊な環境下での戦闘など手慣れた物。頻繁に飲む割には酒に溺れることもなく、シュタイナー以外の士官に見られないようアルコールを煽る事にしていた。この光景ならば煽るのも仕方がない。ミーシャの親指で指さすそれを見たシュタイナーは溜息をついた。
其処は所謂、尋問部屋。
作られたばかりの真新しい白い尋問部屋だったが、尋問官と捕虜の様子は全くもって緊張感がない。
「だ!か!ら!何度も言わせんな!あれはザクⅡっていう、
「いいえ!あれは貴方達が我が皇国のテクノロジーを盗んだコピー品でしょ!第一、カッコ悪……失礼、あまりにも不格好で醜い一つ目巨人なんて」
「あの無骨なカッコいいデザインが分からないとは!」
「なんで言葉通じてるんでしょうな」
「……はぁ……」
―やっぱり、人選を間違えたか……。
シュタイナーは数十分前に決定を下した自分を恨みたくなった。それはバーニィが拘束した女兵士についての尋問を誰に任せるかであった。ミーシャは酒を飲み過ぎているため、匂いで尋問官がアルコールを摂取している事がバレてしまう。部隊の特殊任務上、多少の便宜や融通が利くが、公的記録映像に隊員がウォッカを飲んでいることを捕虜に告発されれば問題になるだろう。バーニィに任せてしまえば、それなりの経験になるだろうと思ったが、痴話喧嘩に見えるそれには後悔しか感じない。
ミーシャの疑問に反してシュタイナーは自分の決断を呪いたかったが、仕方がない。尋問部屋の窓を叩き、自身が怒っている事を伝えると、吠えていた犬が怒る飼い主を見てしぼんでいくように、バーニィはおびえた様子で尋問を続ける。頬にシュタイナーの鉄拳を受けたためだろうか。頬の傷を覆っている絆創膏が目立つ彼は頭を掻きむしる。
攻撃時に待っているように言ったにも関わらず、突出してしまった。あれだけ彼らの空気を吸うなと警告していたにも関わらず、ヘルメットを脱いだことなどがシュタイナーの逆鱗に触れた。
怒りの鉄拳を受けた後、捕虜を憲兵隊に引き渡さなければならなかったが、細菌やウィルス汚染を懸念した憲兵はサイクロプス隊に尋問を任せることにした。
「はぁ……確認するぞ。あんたはアニュンリール皇国月面派遣部隊、『ルナディアン』月面駐屯地所属の空間騎兵団所属のパイロット……いや搭乗兵だな」
「……いえ、私は違うわ」
「いや、あんたの所属は空間騎兵団所属の騎士だ。その搭乗服は空間騎兵の所属を表す、月面鳥っていう神話に出てくる鳥をモチーフとしているんだろ。それに月面市民ではなく、ブランシェル大陸民……それもエリートだ」
「なんでそれを?!」
「既に口を割った貴族がいたんだ。ペラペラと喋ってくれたよ。そろそろ名前が聞きたいんだけど」
「……アレッタ・ザグルル」
「バーニィ、一点先制ですな」
「いや、まだだな」
やっとバーニィが尋問相手の名前を聞きだした。だが、まだまだ尋問としては最初の段階。この後は任務内容や彼らが使用する二足歩行兵器の戦術運用を把握する必要があった。ジオンはMSが戦場の主役と考え、戦略運用や戦術に組み込んでいるものの、未だ黎明期。言わば、戦場の主役が主力戦車や航空母艦へと変わり、レーダー誘導の火器管制、戦闘指揮所によるシステマティックな戦闘統制技術が磨かれるWWⅡと同様に、まだまだ発展途上の段階にある。
既にアニュンリール皇国はMS相当の人型機動兵器の配備を完了している。今回の戦いでは、全くの損害もなく倒すことが出来たが、戦いの最中に多くの皇国艦艇が月面を脱出し、戦闘データが彼らの本国へ伝わった可能性もある。技術の根幹が魔術と言う全く未知の科学技術で為すために、未だに解明されていない謎もある事から、早急に対応策を練らねばならない。今後は国家間の対立を生まないように外交による解決が為されるだろうが、国家間での決着がつく前に、最悪の事態「全面戦争」を想定して、捕虜となった人物に聴取しなければならなかった。
「ザクルル、君の軍の階級は?」
「軍の階級は海軍少尉、一応貴中二位の貴族章がある。」
「き……貴族章?」
「お前はさっき他の捕虜と話したと言ったじゃないか。我が皇国軍では軍の階級の他に貴族だと貴族章の装着が義務付けられてる。あなたは兵卒?」
「俺の事はいい……ザクルル少尉、君の任務は何?」
「私の任務は月面航空部隊の後援部隊として配備している、ケライノンDeを運用して、航空部隊でも落としきれなかった隕石の破壊。若しくは阻止限界を超えた敵性勢力の制圧。」
「つまりはスクランブル発進要員の搭乗員というわけか……」
領空侵犯時に置ける航空隊の緊急発進と、続いて動き出す基地の防空火器。彼女の任務は航空隊が阻止できなかった敵の阻止任務だった。今回は敵の展開が早すぎたためにこんなことになったが、本来ならば圧倒的軍事力を持つアニュンリール皇国は他を退け、惑星全体を制圧することも出来よう。だが、本土である古の魔法帝国の転移はアンニュンリールを孤立させ、ある一定の技術力を大幅に衰退させた。
それは空間転移能力を研究する機関や研究所、その他の者達は本国と共に消え去り、後に残った飛び地のアンニュンリールは限られた技術力を持って勢力を伸ばしていたようだ。だが彼らにも事情があった。古の魔法帝国の遺された政府要人や軍人はこの困難をどうするか考えた。兵力や武器は周辺の野蛮な国家よりも格段に進んでいる。敵を石器時代に戻しながら制圧したとしても、歴史が物語るように反乱や抵抗運動が活発化する。アンニュンリールに残された当時の帝国民は限られた人材を浪費することなく、裏で政治操作や暗躍をするようになった。
だがジオンが真に知りたい情報はそれではない。自分たちが知り得ない別世界へ行く方法である。
「君達にはああした宇宙空間における兵器を保有してるが……ええっと……なんだこれ……空間飛翔……じゃない……」
「空間飛翔?ああ、テレーザ・スペル(テレポーテーション)の事?」
「なんでマザー・テレサが出てくるの?」
「う~ん、新米にはまだ早いのでは?」
「・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・」
その後、バーニィの台詞はその尋問映像を見る高官たちの目にも留まる。「だれがこれをやらせた!」「惜しい、もう一押し」など評論家紛いの感想を話し出す。機密映像ではあるものの、その映像は突撃機動軍だけでなく、宇宙攻撃軍や親衛隊機関へ流れていた。他にも別の貴族将校らしき人物に尋問している映像や情報分析官らしき者が含まれる。サイクロプス隊の他にも様々な特殊部隊やMS部隊が投入し、空気感染を恐れて隔離していた。
既にクワ・トイネやロウリア王国に存在していたと思われる病原体、チフスやコレラ・エボラ出血熱に類似したものがジオン本国の検疫チームによって水際で食い止められていた。だが、研究機関曰く兵士の持ち込む戦利品がブラックマーケットに流れていると推測。そこから漏れ出た疫病が蔓延し、貧困層の間で広まることを考え、ジオン軍疾病対策部隊が蔓延する菌に対して治療法を研究していた。
だが、考えるのは、総帥府やジオン本国の疾病対策センターと言った研究対策機関の役目。
尋問映像を流していた宇宙要塞ソロモンの中枢にある重要区画ブロック、A1区画と呼ばれる指揮官クラスの集まる区域の会議室に宇宙攻撃軍の要職が勢揃いしていた。
会議室の中心にいる人物、宇宙攻撃軍司令官、ドズル・ザビ中将は視線を会議室にいる腹心の部下に向けた。
「さて、諸君の意見をきこう」
一部の戦闘では宇宙攻撃軍も参加しており、それなりの情報が集まっていたが、ドズルの欲しい情報は無かった。これまでは宇宙攻撃軍は宇宙という、ジオン優勢の立場から、いかに連邦軍やティターンズと呼ばれる選抜された特殊部隊に対処するかと、議論がされていた。一方、ムーンⅡのような惑星の延長線上に位置するような、敵の勢力に関して言えば、宇宙攻撃軍の専門外。いかに連邦を叩きのめすか考える彼らの立場からすると、「なんか面倒な勢力が現れたな」という感想を抱く。
だが、MSに酷似する兵器があると聞けば、黙ってはいられない。
ドズルの台詞に反応した情報将校の一人が立ち上がり、説明を始めた。
「地上に降下した連絡将校によると、分析ではあの兵器の性能から、惑星内の文明技術では難しく、惑星内でも覇権国家である神聖ミリシアル帝国の技術力を凌駕。彼の国ではまだ難しく、一方名の上がっているアンニュンリール皇国の国際的地位は低く、突撃機動軍の担当部署からは要分析待ちとのことです」
「技術部からの報告ではMSに酷似していますが、シュミレーションによると旧ザクでも十分に対処が可能であり、数値的に言えば、連邦軍の旧タイプのMSよりも統合戦闘能力は低いと見積もられています」
「やはりな」
「あの惑星の文明はそこまでか」
「警戒するほどのものではありますまい」
会議に出席する将校の台詞はやはり侮るものばかり。これに関してはドズルも思うところがあり、突撃機動軍が出した報告書を読めば、惑星の文明レベルがジオンを下回ることがよくわかる。ドズル自身、敵ながら天晴れと言えるような強敵の方がましだったと思っている。
このところ、連邦との戦いも落ち着き、参謀本部では既にルナⅡ攻略のための作戦立案が為されている。連戦連勝を重ねるジオン軍は敵を過小評価し、自軍に関して過大評価している傾向にある。「MS万能論」まで出ているほど、その慢心ぶりは日増しに高まっていた。
これなら今ムーンⅡで被害が大きい方が、自軍の気を引き締め、過去に惨敗した軍隊の過ちである「慢心」を修正する事が出来よう。だが、事が上手く行きすぎ、歯止めがきいていない。
ドズルは子供なら逃げだしそうな険しい顔をしつつも、その場にいないがテレビ会議のように小さい画面に映し出された人物は慢心する将校たちに対して声を上げていた。
「いえ、待っていただきたい。確かに彼らの文明は我々よりも下回る。だが、この基地は我々の技術力を凌駕している部分も確かにあります」
そう答えたのは、今回ムーンⅡに上陸し、前線基地構築し、一段階着いた人物。
突撃機動軍所属、フォン・ヘルシング准将。
ムーンⅡ派遣艦隊司令官として采配を振るい、人類外の生命体とコンタクトを取る時に必要な政治判断が取れる人物。既にムーンⅡを占領した功績から少将の席が用意されていると噂されていた。
「彼らの歩兵ライフルは我が軍では使用していない光線兵器を使用しており、これらの技術体系は我が方とは一線を画します。加えてMSに似た兵器や戦車・航空機に至るまで、我々のテクノロジーに酷似していても、内部システムは異なるのです」
「准将、よくわからないがわが方と敵方のテクノロジーの差は如何程のものなのか聞きたい」
会議室の椅子に腰かけていたコンスコン少将はひげを摩りながら、彼の台詞に疑問符を浮かべるように彼の移る画面を注視する。
「私も惑星に降りていないのですべて理解したとは言えません。ですが、私の理解できる範囲でお答えしましょう」
ヘルシング准将は画面越しながらも非常に苦悶の表情を浮かべていた。それは過労のせいではない。むしろ、どのようにして話すのか悩んでいるかのようだった。
「我々は火を使うとき、マッチやライター、時には火打ち石を使います。若しくは電気的なものもあり得るでしょう。一方で大量の電気を使用したい場合は神々の
ホモ・サピエンスが火を用い、文明を作り、様々なものに代用。そして、原子力のような神々の火と揶揄されるテクノロジーにまで発展してきた人類。だが、ヘルシング准将の言いたいのは別の文明。つまり惑星の文明についてである。
「彼らの文明は違います。自分たちの魔力を用いてエネルギー供給を行い、火を使います。エネルギー物質を直接供給元にした機械や我々が想像しえないものを作り出すことができるのです。それこそ、紙に魔方陣を書き、何もない所から魔物を召喚するようにです。」
「それで、魔物は見たのかね?」
「いいえ、ですが彼らの話では紙に書いた魔方陣で人工の太陽を生成できると言っていました」
太陽。
それは人類においては非常に有用なエネルギー供給元である。ヘリウムによる核反応や核融合実験炉といった人類が太陽を真似る上で、様々な施設を運用しなければ作ることは不可能である。だが、彼らはそれを紙に魔方陣を描き、類似するものを作り上げることが可能と言っていた。
「ヘルシング准将、さすがに太陽は無理でしょう。放射線遮蔽能力や核物理学の研究はあの惑星ではされていないと、既に報告が上がっている。それに偵察衛星からも同様に核の熱は確認できなかった。彼らの欺瞞情報ではないのかね?」
「ファルケン大佐の言う通り。だが、准将の話が本当であれば、歩兵携帯核兵器なんてものが簡単にできることを意味する。……しかし、私の目の前にある惑星は荒廃していないように見えるが……」
ヘルシング准将は報告書に在った懸念事項の一つ「魔方陣による核分裂反応の有無」について書かれたものが、敵方につかまされた欺瞞情報だということは、指摘されていなくともわかっていた。
「確かに、大佐の言う通りです。現時点でその可能性は否定してよろしいかと……ただ……」
ヘルシング准将の映像が切り替わり、画面に映し出されたのは巨大な円筒の水槽に浮かぶ人影だった。
「これは……まさか……」
「……
宇宙世紀0079において、
技術的に言えば、複製やDNA配列を組み替えた強化人間は製造可能である。それこそ有精卵を移し替えて代理出産を行うことも、複製した人工子宮やそれらの環境に合わせた羊水を用意することで生命を誕生させることも難しくはない。
だが、地球連邦が誕生してから70年余りが過ぎても地球圏ではタブーとされ、忌避されてきた行為。だが、その価値観を持つスペースノイドの中にも、こうしたタブーを無視して複製しようとする者たちが存在した。非難を口にしている宇宙攻撃軍の将官たちは知る由もない。身内が圧倒的な連邦を打ち倒すべく、非人道的な行いを政府中枢が命令しているなど知るはずもない。
ただ一人知っているのはドズルであるが、既に凍結に近い扱いを受けているのは知っていた。嘘をつくのが苦手なことを理解するドズルはその水槽に浮かぶ人影を注視する。それは人の他にも、エルフやドワーフ、ホビット、獣人が浮かんでいる。その光景は正に悪魔の所業であったが、彼らを管理する研究者と同じ有翼人。エルフの耳を持ち、羽をもつ人種がないことは理解できた。
「我々の技術でも生体工学、複製技術は可能です。ですが、彼らは既に行っている。やるとやらないでは明らかに差がある!閣下、今のところ突撃機動軍は惑星の重力戦線で手が離せません。キシリア閣下はドズル中将閣下にムーンⅡの全権を譲る方向で動いておいでです」
「……そうか……だが裏があるのだろう?」
ザビ家において謀略をめぐらす者がいるとすれば、長男ギレンと長女キシリアの両名だ。家族間での駆け引きはなく、家族間は非常に良好だ。だが、国政にかかわるものとなると少々異なる。様々な派閥争いによってザビ家内であろうとも、不利益を被る策を取らねばならないことも多少ある。
今回のムーンⅡの一件をドズルに譲るということは裏があることは間違いなかった。
「ええ、今回の転移において重要参考人である『ウォルター・ビショップ博士』の行方を調査。願わくば、博士を生きたまま連行してほしいという要請です。」
地球連邦の歴史は長く、それこそアメリカ合衆国やソヴィエト連邦。果てはロマノフ王朝ロシア帝国まで遡る。シベリア・ツングースカの謎の大爆発や地球の各地に点在していたこの惑星の異物。
それを調査し、連邦軍主導の元調査していた博士は今回の転移事件の有力な手掛かりであり、容疑者にも匹敵する。アルタラス王国攻撃の際に地球連邦軍特殊部隊「ティターンズ」の強襲によって奪われたが、転移技術の他にも、様々なテクノロジー開発に関わった研究者の一人である。転移技術による兵器や今までに見たこともない新技術の兵器使用が行われる恐れもある。
「果たして……彼の身柄を取り戻すことが我々にとって良いのか、疑問ですな」
コンスコン少将は手元のファイルを一瞥し、私物である新聞に手を置く。ジオニックポストや公国親衛隊機関紙「ダス・シュヴァルツェ・ゼィオン」もある。それらの社説の題は「ここに居るべきか帰るべきか」「住めば都」「新世界へ」等など。その内容は元の地球圏に戻ることを考えず、この星系に留まることを考え、帝国主義にも等しい覇権国家を形成すべきという論調が芽生えつつあった。
一方、左派系新聞やマスコミは帝国主義の発露と地球連邦と同じような経済的搾取、内政干渉、軍事的圧力を批判していた。また、地球への郷愁を語る社説はいたるところに存在する。
「愛憎」という、相反する言葉が正にジオンやスペースノイドに相応しい。長年搾取され続けた彼らは地球という存在を憎みながら、同時に故郷として愛している。最も憎いが同時に望郷の思いが残っているジオンは振り下ろす拳の先をどこに定めているか決めかねている癇癪持ちの子供にも等しい。
その愛国心を持つ愚人はマスコミに翻弄され、大衆意識が形成される。最早、ジオンが求めていた独立戦争は過ぎ去り、携えた軍事力を背景に覇権国家としての道のりを歩むのだろう。ドズルは小国から一気に大国に邁進してしまった事に戸惑いを覚えるが、自分の表情に表さないよう、慎重に会議を進めようと席を立つ。
「いいか、転移技術は我々の持たないテクノロジーの一つだ。もし、連邦が手にすれば、一瞬でズムシティの裏側に艦隊を配置させることが可能だ。そのことを忘れるな。」
近くの秘書へ合図し、映されたのはムーンⅡの衛星写真を元にマッピングした地図だった。
「現在、突撃機動軍はガガーリン基地を建設中だ。彼らはサイドⅡの守備艦隊と合流する戦隊、その他の部隊はロウリア駐屯軍部隊へ合流するため、基地にてザンジバル級巡洋艦を受領後惑星に降下。我々は数個艦隊と調査チーム、及び難民保護NGO団体とともに捕虜収容と難民のサポート。……実質的な月面都市の建設に着手する」
ドズルは背後のスクリーンに映された軌道上の地図に表示される突撃機動軍の部隊が二手に分かれる図を説明し、補佐官が派遣される艦名リストと兵員、民間事業団体、そしてコロニー公社を挙げていく。本来ならば、連邦に近いコロニー公社の人間を派遣するのは憚られるが、コロニーの建設と維持を長年していた彼らのノウハウは防諜上のリスクを上回る程、その存在は大きい。
そして難民保護のNGO団体。それは地球連邦以前の「国際連合」であったころから存在する、非政府の民間援助団体を指す。ガガーリン基地近くのアンニュンリール皇国の民間施設や民間人居住区も多数存在する。惑星よりもコロニーよりな、しかもアクセスのしやすい場所に異星人がいるとなれば、NGO団体は軍の制止を振り切ってでも行くだろう。
それに、難民保護のノウハウは民間組織に委ねる方が、世論的にも都合がよかった。
「都市の名前は『ライカ』とする。今後、連邦の動きも活発化する。諸君らには給料分きっちり働いてもらう」
それはソヴィエトが地球軌道上に人類史上初めて打ち上げた生命体の名前である。「Лайка(ライカ)」、その犬は地球軌道上に置いてかれた、人類の科学の進歩に犠牲になった。それは皮肉にもムーンⅡの初めての月面都市の名前とは何とも皮肉が聞いていた。
今後、連邦の諜報活動も激しくなり、近々連邦軍の攻撃も活発化。精鋭部隊の「ティターンズ」も投入され、宇宙攻撃軍も安穏とした時間を過ごしてはいられない。そこにいた将官達はこれから起こる戦いを各々想像しつつ、持ち場へと戻るのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
勾玉の形をした国土を持つ国家、「フェン王国」。そこはセツルメント国家連合の構成国の観光スポットとして、経済成長を遂げていた。地理的にはパーパルディア皇国のあるフィルアデス大陸から東へ210kmの位置にフェン王国はある。
外交的にも、またホットゾーンの一つとしてジオンの観光庁でさえ、渡航は控えてほしいと通達を出す場所である。地球でいう紛争が起こるかもしれない国家。武力衝突が起きるかもしれない危険なエリアと考えていた。
だが、一人の旅行者がエクストラネット。所謂、前世紀の「インターネット」にある映像をアップしたことによって「フェン王国」が世界中に知れ渡った。
それは4分に渡る決闘の様子である。
その様子はある旅行者が偶然撮影したもので、人垣を掻き分けて廃屋前の広い草場で行われていた。双方抜身の刃を構え、僅かな筋肉の動きを見て判断する。それはまるで日本の巨匠とまで言われた名監督が収めた映画にも似ているが全く異なる。
人を殺めるための剣術。
人を魅了するための美しい剣捌きや撮影のために寸前で止めるようなものではない。フェンは国民が剣を持つ、まるでスパルタの文化を持ち、武士道のような無常観を併せ持つ。その場にいたのは、先の軍祭事変で活躍できず、政治紛争によって改易した豪族に使える戦士だったのだろう。
何故、殺し合いに発展したのか分らない。だが、これだけは言えた。
二人とも相手を殺す気であった。
お互いの挙動を見、そして見定めながらじりじりと動き、隙のある場所。相手の不得手とする場所へと誘導する。お互いに見つめあい、射貫くその間は一瞬か、それとも数分なのか。時間の感覚を失いそうになったその時、双方の剣が舞うようにして襲い掛かる。
昔のビデオカメラやフィルムでは見ることなどできはしないだろう。この剣捌きはスペースノイドにできる芸当ではない。名誉と魂、戦士としての命を乗せた一振りだった。剣は互いに交差する。互いに隙が無いことを確認し、後退り、そしてさらに攻める。片方は剣を掲げ、もう片方は剣を下に構える。
そして、その一瞬が双方の業の差が分かる瞬間だった。
下に構えていた戦士は振り下ろされた剣を自身の剣で受け止めようとした動作をし、現に剣を受け止めていた。だが、その剣は受け止めた彼の剣とは違う、いや全く異なる武器であった。
それが彼の剣を両断し、正中線を一気に斬る。それは人の業とは思えぬ剣捌き。
「あれは日本の……刀?!」
撮影者の口からでた言葉はある意味的を得ていた。ジオンの輸入品として贈られた逸品の中には、日系コロニーの鍛冶屋も存在し、宇宙にあるアステロイドベルトにある鉱物で刀を作りたいという方が打ったアストロ産の刀だった。
その刀をベースに作り上げたのは、フェン刀。アステロイド製刀の刀身はそのままに、鍔の部分がなめした革で包まれているところを見るに、日本刀とは違うが、それでもテクノロジーは宇宙世紀の鉄鋼技術が含まれ、より高純度の鋼を何千回も打った名刀。模倣された刀擬きも多数あったが、カメラのデータには『MADE IN ZEON ASOU』という名前が刻まれているのがはっきりとらえられていた。
斬られた男は血飛沫を飛ばして倒れていく。一方、勝利した戦士は喜んだ様子も見せず。刀を振って血を飛ばし、持っていたフェン紙と呼ばれる和紙に近い紙で拭き、一歩下がって鞘に納めた。そして、ゆっくりと頭を下げてお辞儀をする。
死者への礼を忘れず、また死んだ戦士を尊ぶ精神。正に侍スピリットとコロニーの住民は狂喜乱舞していた。
「
ジオニズムやシオニズム・エレニズムといったものとは全く異なる。政治的な信念ではなく、地球崇拝者や地球優越主義とは違い、文化的側面を中心として、故郷の念を忘れないスペースノイドによる地球文化への懐古感情として名前が付けられた。何せ、地球産の嗜好品は失われ、輸入業界は大打撃。軍需産業の伸びは目まぐるしいが、地球に依存していた高級嗜好品などの業界は軒並み閉店状態。ブラックマーケットでは金以上の値打ちになっており、マ・クベの副官がブラックマーケットにうろついているとかいないとか、正にひそかな地球ブームがあった矢先のフェンの決闘映像。人々は「Oh!ジャパニーズ!」と騒ぎ、「クロサワ!」と叫ぶ者も少なくない。
残酷な映像であるものの、優れた剣術使いの死闘はやはり目を見張るものであり、配信が停止されても何度もアップロードされ、ジオン当局やコロニー政府がいくら規制を掛けたところで止まるところは知らない。宣伝省の圧力で「フェンの文化を知らないと、無礼者と言われて斬られるぞ!」と警告したが、既に非公式でフェン王国観光パンフレットが配られ、その内容はジオン軍派遣部隊に配られたフェン文化の詳細な報告書がそのまま掲載された。
マスコミまでもフェンへの渡航制限をやめよと叫んでいたところで、とうとうセツルメントは折れた。観光経済資源の重要性を理解していたセツルメントは直ちにロウリア宇宙港を拡張。ロウリアへの船旅や水面効果機といった前時代の航空機を使用した航路で到着した旅行者は我先にとフェンへと向かう。
そして、多くの文化やジオニズム系列の企業が参入するかと思ったがやはり状況は異なった。工場は基本的に国営であり、商人に関しては厳しい関税と王国管理官の立ち合いの元、商品を陳列する必要があった。例えば、腕時計やボールペンは売れたが、コロニーのブティック社の服はあまり売れることはなく、そのコロニーで生産される蚕から出される絹も王国市場に混乱をもたらすものとして没収されていく。
九月に作成され、十月に施工された府慈相互国土防衛条約は相互とは名ばかりの、ジオンによるフェンの保護国化に等しい条約。国土防衛にジオンが血を流す代わりに、軍の指揮系統をジオンに譲り渡せという一連の条約はフェン王国内部に軋轢を生じさせ、「攘夷派」が生まれたこともまた事実だった。
しかし、フェン元国王シハンは退位を挙行。『三十条の御誓文』を元に一大近代化を実施。大国、パーパルディア皇国に抵抗していたが、結局のところジオンという大国に吸収された形となる。
こうした剣王シハンの腹切りに対してジオン国内は同情的だった。徹底した情報統制の元、ジオンは『フェン王国は皇国によって攻撃を受けた被害者。そしてその被害を受け止め、近代化のため自ら王位を退位する』と報道され、セツルメント国家連合の構成コロニーも同様の感情を持った。
しかし、事実は異なる。剣王はジオンが皇国より優れたテクノロジーを有していることを事前に知っており、互いにぶつかり合うように仕向けた戦犯である。例えるならば、第一次大戦の発端、「サラエボ事件」。オーストリア=ハンガリー帝国大公を暗殺したガヴリロ・プリンツィプは、一千万人が戦争で死傷した第一次世界大戦を引き起こした張本人である。本人もあれ程の大戦争を望んでいたわけではない。自国の独立、支配の根絶を胸に引き金を引いた。だが、一発の銃弾がヨーロッパ中を塹壕で埋め尽くし、汚泥と死体に埋もれた総力戦へと引きずり込んだのだ。
もし、これがジオンでなければ、もしムーであったならば。もしかすればこの惑星内で『世界大戦』が勃発し、パーパルディア皇国と神聖ミリシアル帝国の同盟国とムーなどの機械化文明国による熾烈な大戦になった可能性もある。
ジオンはフェン王国を存続させ、発展させる条件として「剣王シハン」の身柄を拘束。サイド3に幽閉するという人質的なものとなる。
「府慈通商条約」「貿易推進協定」「進歩兵器配備条約」レンドリースによる武器の提供はフェンからすれば、喉から出るほど欲しく、国力を蓄え、独立国としての基盤を作れるよう支援する。いわば、シハンの身柄は人身御供ともいうべきだろう。
彼のお陰で、国定を守ることがどんなに重要か知らしめた剣王シハンにより、攘夷派は衰退。賢王シショウに国は委ねられた。これからは様々な文化や兵器が集まるものとなる。彼らからすれば、『文明開化』等しく、剣の道だけでなく、ほかの道も考えることができた。
『三十条の御誓文』の内容は三権分立する政府の樹立。「司法府」・「立法府」・「行政府」この政府の柱であり、国のシステムが記され、さらには身分制度や職業選択の自由も得られた。
これは剣を捨てても良いよいということを指し、剣術に秀でていない者にとっては都合がよく、そもそも剣の時代が早々と終りかけている今。崩壊しかけたこの国をまとめ上げる賢王シショウはアマノキ城の父から譲られた執務室で胡坐をかき、書状に目を通していた。
そこにあるのは、政権の代替わりと十数年単位で組まれた王国政治体制の再編。一番手っ取り早いのは、何処かの活動家に任せて革命を起こせばよい。そうすれば、数年単位の再編が可能になるかもしれない。しかし、そうなれば王族は城下で晒し首か幽閉。国民の多くが不幸に遭い、国力は半減するやもしれない。国家を守る以前に自分の命を犠牲にすることは若きシショウには無理なこと。
各藩の陳情書を読みつつも、秘書官が口頭で今日の予定を伝えていく。政治家よりも武官よりな思考の持ち主なためか、ややオーバーワーク気味だった。
凛々しい王子の顔はどこへ行ったのか。ジオニック社製のデスクトップ端末に映る彼の表情はやつれており、よく見ればクマが見えた。
「仮初の平和に仮初の経済成長……もう少しゆっくりでいいのに……」
秘書官が所用で退出し、数少ない一人の時間にぼやく彼は緑茶を飲みながら一息つく。アマノキやニシノミヤコ等の都市ではジオンやセツルメントからくる観光客により、多くの外貨を稼いでいた。その外貨からジオンの兵器や工場そのものを購入し、独立国としての体裁を整えていく。だが、外交手段がジオンに握られている以上、独立国ではないのではないか?
シショウは過去にムーへと留学し、かの国の王政から民主主義化。そして続く彼らの歴史。フェン出身の彼からすれば、信じられないことばかり。もし、自分たちが大国から支配を受けないようにするには、彼らをモデルにすればいいと考えていた。だが、ジオンの
順調に経済成長を続けているが、パーパルディアからの支配を脱する戦いが終われば、今の状況も変わるだろう。その時、今の状態がどうなるか分らない。
以前まで彼が考えたことのない、パーパルディア皇国のない世界。その世界ではジオン公国の意のままに進むのだろう。彼の父である先王シハンはジオンに対して大きな恩があり、彼らから見捨てられれば国際的に孤立する。如何に自国に何の資源がないのは理解している。
もし、ここでフェン王国がジオンやセツルメントの民に危害が及ぶような事があれば?
自分が国内を平定できない場合はどうなるのか?
シショウは今後のフェン王国の将来が決まるニシノミヤコでの戦いについて、軍の防衛計画と防諜作戦に対して裁定していく。
シショウはこの時、フェンの行く末がどうなるのか知ることはなかった。
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ヴァルター・ヘーヴル親衛隊名誉少将はこれまでに無いほど、酷くイラついていた。パーパルディア皇国に来てからというもの美しい彫刻の数々やローマ文化に近い美術品の数々はキシリア派のマ・クベが羨ましがる芸術品の数々。彼なら「地球産ではないものに興味はない」と言いながらも、横目でチラチラと見ながら欲しがる姿が目に浮かぶ。
だが、そんな優越感はその国民の態度によって酷く打ちのめされた。
中産階級以上の国民は酷いプライド意識があり、それは地球連邦のプライドやエリート意識を上回る。常に世界第三位として君臨しながらも、海洋国家として成り立たない大陸国家という、巨大化したことで混とんとしたローマ帝国。若しくはモンゴル帝国に近いジレンマに置かれている。
そんな劣等感が彼らの肥大化したプライドとエリート意識を過大し、正に国を蝕む病原体となってると彼は考えていた。
彼自身はムンゾ自治共和国から政治家として生きてきていた。ギレンの派閥に与し、国策に与するプライドや自尊心もそれなりにある。だからこそ、それは見ていて見苦しい。やれ自国の素晴らしさを説き、他国を貶し続ける。これほどまでに嫌悪感を抱くのは他にないだろう。それだけに目の前にいる圧迫面接官のような外交官らはヴァルターの神経を逆なでする。
窓口の不愛想な若い職員がイライラしながら対応し、すぐに顔を青くしながら戻ってきて第三外務局長に面会するというのだ。とは言え、ジオン公国議会でも上席に位置する議員を待たせて未だに外務局長というのも変だと考えたが、秘書官が事前に説明していた独自の外務省庁のクラスからして、最上位に位置し、皇帝と直接謁見して助言できる立場にあることから、外務大臣や長官クラスだろうと考えていたのだ。
会議室らしき部屋に入ると一言
「ここで自己紹介をして下さい」
「あぁ゛?」
政治家の発した言葉とは思えないほど、不良のような声を出したとは、国の誰にも信じてはもらえないだろう。ムンゾ自治共和国から公国議会に大きいパイプを持ち、ギレンの派閥として親衛隊の一員として名誉少将の地位まで頂く人間である。そんな人間を捕まえて自己紹介しろという。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
文明国との外交。そのベースとなっているのは対等な関係であり、国家間に上下関係は存在しない。ウエストパリア体制以降から続く国際的な習わし。建前としてありつつも、相手に対しては相応の礼儀というものが必要なのだ。如何に格下の相手でさえも、ヴァルター・ヘーヴルは対等の関係を築く。相手を尊敬し合い、信頼した関係を築かねばならないのにこの有様である。
もはや、彼の我慢の限界だった。
「私の名前はヴァルター・ヘーヴル!ジオン公国親衛隊名誉少将及び派遣外交団長を務めている。公国議会議員でもあるのだ!一国の外交官をこうした対応は如何なものか?貴国は常に国家を蔑み、相手国と対等な関係すら持とうともしない。貴国の外交態度は国際的に問題があるぞ!」
神聖ミリシアル帝国やムーと異なり、第三文明や第四文明圏は文明として未発達の段階。パーパルディア皇国やレイフォルは帝国主義的な覇権国家として成長を遂げていた。文化圏の形成は神聖ミリシアル帝国やムーとは異なる。失われたテクノロジーを追い求めて成長したのではなく、殆どが自前での国家成長。第三・第四文明はとりわけ自尊心が高いのはそのためであり、ミリシアルやムーが一位・二位の列強であるにも関わらず、腰が二国と比べて低いのにはリバースエンジニアリングによる成果が大きいためだ。列強のプライドがあるものの、それは先人による財産からくるものであり、自分たちの手柄ではない。そのことから彼らは謙遜するのである。
ヴァルターの沸点はかなり高かったが、意外にも第三外務局長以外の部長クラスや課長クラス、係長などのお歴々の面々はまるでごみを見るかのような目線をしてくるではないか。
「文明圏外の雑魚が東洋艦隊を倒しただけでこの振る舞い……失礼、余りにも田舎者ですので口元が」
「やはり、文明圏外は野蛮ですな。これは如何に文明圏外の諸国が野蛮で知能指数の低いか物語りますな。どうでしょう、東部諸国の野蛮な蛮族共の一つや二つを諸侯の方々に分けて統治した方がずっとコストパフォーマンスも良いのでは?」
「確かに……ジオン公国の支配権ではやはり、東部セクター長の管轄ですか?ですが、国家監査軍の艦隊をほぼ仕留めたのですから、皇帝直轄でも良いのかと」
「貴様、またカードで負けた腹いせか?それとも出世を先んじられて嫉妬か?媚びを売るならもう少しましな方法があるだろう」
立腹した国家代表を前にした蚊帳の外に置かれた状況。如何にその傲慢さが鼻につくか自分たちの感覚では測りようもない。ヴァルター他、ジオン公国使節団のメンバーは怒りを通り越して唯、哀れに思うしかない。
幾分かは反面教師の面があるが、ただただ目の前にいる者たちが哀れに見え、腐敗しきった地球連邦の官僚と同じく、排除しなければならない敵であると認識していた。
あまりにも無礼な態度だったために、護身用の拳銃を抜いてしまいたくなったヴァルターであったが、思いとどまって殺意を頭の隅に追いやり、もっとも平和的な方法を選択する。つまり、席を立って帰ろうとした。
「我が国と貴国では相容れないということでしょう。……我が国の使節団は引き揚げさせていただきます。貴国での滞在は余りに危険。ムー国に連絡窓口を設置していただきました。今後はそちらで交渉を致します。我々にご連絡の際はムー大使館に連絡を。もっとも、我々はもう本国ですが」
ヴァルターは席を立ち上がり、腐った官僚を横目に見つつ背を向ける。サイド3に帰って数か月もすれば、彼らは軌道上からの隕石攻撃か戦術核で塵と灰になって消え去る。精々、軌道上から見るのが楽しみになった彼であったがふと中央の人物、第三外務局長カイオスが声をかける。
「待っていただきたい!貴方たちがジオン公国の使節団ならば何故フェン王国に肩入れする?貴国が放送する内容を考えてみても、資源の乏しいあの国を支配下に置いても意味はありますまい。何用でかの国を保護国化したのか?我が国の鼻先で堂々と!貴国は対等な関係とおっしゃるが、貴国はこの文明圏の国際関係を理解していない。フェンとは長い間、国境紛争を繰り返していた。あの国は堂々と海賊行為を行い、我が国の商船は苦しめられてきた。貴国のいう大義は海賊にあるのですかな?」
フェン王国とパーパルディア皇国の関係は昔から悪い。対岸のガハラ神国とフェン王国の結びつきが強いため、皇国の戦略的に進出できないことをいいことに海賊行為を働いていた事実がある。それも水面下での低程度紛争であったが、無関係な商船の多くを沈められ、『自分たちの思想に合わないから』と労働資源の略奪に努めていた。この皇国の労働資源は所謂『奴隷』であるが、宇宙世紀に入るまで、西暦の殆どで奴隷は合法であり、現在の奴隷制度廃止の価値観は長い目で見れば最近である。
パーパルディア皇国にはフェン王国に敵対する明確な大義があり、そもそもジオン公国に仇なすつもりはない。カイオスはそう考え行動していた。とは言え、既にアルタラス王国でのジオン軍の損失や連邦との間で秘密協定らしきものをしていたことは分り切っている。今後敵対する関係ではあるが、フェン王国に関してはジオンが大義を持っているとはカイオスは思っておらず、当のジオン公国もそうは思っていない。
「確かに貴国がフェン王国との間に様々な問題を共有していることは存じ上げています。しかし、国際イベントにて多くの軍関係者や各国外交官がいる場で貴国が軍事行動を行ったことは正気を疑いますな」
カイオスの横にいた西部セクター課長は肥えた腹を震わせながら豚のような叫び声とともに叫びだす。
「正気だと?列強を敵に回して唯で済むと思っているのか!?フェン王国がやったことは蛆虫のような野蛮国家を集めて寺小屋の遊戯をやった程度だ。事前にムーや関係諸外国には通達している。」
「フェン王国と懇意の間柄の友好国の出した報告書にはムー以外の諸外国には連絡しておりませんが?」
図星を突かれたのか、真っ赤な顔は青になり、やがては黄色になるという信号機にも似た顔色をしながら、すぐに官僚としての意地を見せた。
「彼らの通信機器は二線級だ!かれらのようなコピー商品しか変えぬ貧乏人には、我々の使う魔導通信と周波数帯が違っていた。現にミリシアル帝国が主催した『魔導通信会議』の周波数を使用したと書かれる報告書が挙がっている。あちらの過失だろうが!」
ヴァルターは不敵な笑みを浮かべながら、さも冷静に的確な返しをする。
「おや、おかしいですな?我が国のレンドリースや資金援助でほとんどの国が貴国と同規格かそれ以上のミリシアル帝国規格の魔導通信機を使っておられますが?こちらも国際周波数を使用した報告が挙がっていますよね?おやおや、そういう事はどちらがおかしいのかわかりませんね。そうなると貴国の通信機器の方が不調を起こしている可能性もありますがね。」
「我が国が二線級に劣る通信機器を使うものか!」
「違います。すべて新式の貴国かミリシアル帝国製です。もしかすると、貴国の通信機器が不良品だったのかもしれません。しっかりとアフターサービスしなければ信用にかかわりますよ?」
「なん…だと……」
既に軍配はヴァルターに上がっている。そもそも謀略術数に優れた政治家相手の勝負なのだ。言い負かすなら断然、彼に軍配が挙がる。相手は文明圏外の落ち目の第三外務局。これが第一や第二外務局なら変わっていたかもしれないが、彼が相手にしているのは、いつも相手にいびり散らす豚のような木端官僚なのだから。負けて当然なのだろう。
そろそろ、ヴァルターは相手の脳が出血して倒れるのではと、怒れる豚官僚に心配してしまうのだが「いいぞ、もっとやれ」「豚を殺せ」と小声でヤジを入れる部下や自身と一緒に来た親衛隊将校がいるため、ほっとく訳にもいかない。彼らの耳は直接上司のギレンとつながっている。
『ここは養豚場ですかな?目の前でピーピー泣きわめく豚がおりますが?』
と彼の頭には相手を殺しかねない台詞が浮かんでおり、そもそも戦争の準備のあるジオンには何の遠慮も必要ないと考えるのをやめ、喉までその声が出かかった。
「双方、言葉遊びはやめて本題に入りましょう。全員退席したまえ」
カイオスは両手を机に乗せて某ロボットアニメの司令のような立ち振る舞いでそうつぶやく。しかし、西部セクター課長はそれすらも食いつく。
「しかし、局長!」
「これは命令だ……それとも、私に言いたいことがあるのか?」
まるでここで屠殺せんばかりの殺意の籠った視線。それはヴァルターでさえも手札のないものだ。彼は政治家であり、軍人ではない。軍の階級をもらっているが『名誉少将』であり、軍務では何の役にも立たない行政職に等しい階級だ。
幾多の戦場を経た強者の視線。西部セクター課長はみるみるうちに再び青ざめた表情となり、彼を筆頭に離席して部屋を出る。
「使節団の方もヘーヴル名誉少将と情報を許された者のみ退席為されてください。それとも全員情報共有する将校ですかな?」
「いえ、私と秘書官。あと護衛のみ残します。」
使節団と呼ばれた外務省と親衛隊の将校達は会議室を後にする。本当は使節団の護衛の特務MSや護衛の海兵隊含めて数百人にも上るが、MSまで持ち込む程のスペースはない。だがパーパルディア皇国のあまりにも無礼な態度は兵の士気を逆に高め、ヴァルターを守らなければと、上官や彼自身に志願してきた者は多かった。
名残惜しそうに退出する他の者達。
残ったのはカイオス含め、秘書官と国家監査軍警備部の精鋭。つまりSPにも似たカイオスの私兵。一方ジオン側もヴァルターと秘書官。そして親衛隊の精鋭部隊から引き抜いたSP達。ここに居るものは全て一級線に値する。
「さて、ヘーヴル親衛隊少将……でよろしかったでしょうか。軍務経験はないように思われるが?」
「ええ、カイオス局長殿。私は根っからの政治家でして、軍務についたことはありません。この階級は軍の指揮系統は一切関わりません。形だけのものになります」
「なるほど、合点がいきました。さて少し一息つきましょう。貴方も大変ですな。上官思いの部下を持つと手綱を保つのは相当でしょう」
「ええ、血気盛んな優秀な若者です。そちらも優秀な護衛の方がいらっしゃる。カイオス殿は元々軍関係者でしたね。大陸軍にお勤めでしたとか。護衛の方々も一緒に?」
「ええ、彼らはずっと共に戦ってきました。頼りになる者達です。」
互いに認め合う。これが一番有効な外交手段なのだろう。互いを知ることは難しくない。だが理解し合い、認め合うことは容易ではない。だが、カイオスとヴァルターの間には共通点があったことで、両国との間が非常に狭まった瞬間だった。
「さて、本題に入りましょう。我が国と貴国の間は非常に危うい。出来る事ならば争いなく国交を結ばせていただきたい。」
それはジオン公国指導部とギレン総帥の考えだった。出来る事であれば、連邦と今後の仮想敵国である神聖ミリシアル帝国との戦争に備えたいのが彼らの考えであり、自分たちの文化レベルが最も近いのが古の魔法帝国のテクノロジー。だが、彼らの存在が脅威になることは数値上、低いのが公国見解だった。
ヴァルターの言葉に頷きながら、秘書官から渡された紅茶を飲む。だが彼の口から発せられたのはヴァルターからしてみれば意外で、この世界共通のことだった。
「……それは無理でしょう。如何にあなた方が神に近い存在だとしても、我々は勇み足で突撃する」
カイオスは秘書官に頼み、極秘文書のファイルからジオン公国の国力分析書類を広げる。本来ならば、相手の政府要人に見せる代物ではない。だが、その内容は皇帝直轄の第一外務局の発行した報告書類だった。
そこに書かれていたのは正にジオン公国を中傷しているに等しい欺瞞に満ちた書類。至る所にジオンによる情報操作と情報戦に優れたところを強調しつつも、国力の精査はおろか敵兵器や国民の情報は一切触れずに文章にしていることだ。一番ありえないのはズムシティクロニクルの発行する新聞の記載が丸ごと入ったものであり、何者かの意図が分からないようでは外交官としての真意を疑う。
そもそも、ジオン公国の国土を見たことがあっても、直にではない。遥か彼方の大気圏よりも遠く。月の軌道上よりも向こうにあるその場所に行ったことはないにもかかわらず、明らかに辞書サイズの報告書を書き記されている。しかもこの形式で皇帝に提出される有様。如何に第一外務局のエルトが真実を伝えようとも、事実を伝える外務局発行文書が力を発揮する。
カイオスの第三外務局の方がまだましだった。
「これは……すごく大きいです」
どっかの漫画に出てきそうなセリフだったが、ありのままの気持ちを口に出したヴァルターだった。
「カイオス殿はどう考えているのです?」
「それはこっちが聞きたい…」
カイオスは敬語を忘れて、外交の場の形式的な言葉遣いを忘れて、思いのたけをぶつけていった。
「貴方達ジオン公国とは余りにも国力の差がある。テクノロジーの差も凄まじいし、何より戦いの歴史は明らかに貴国が上だ。一体、文明を築くのにどれほどの人間が死んだと思う?」
カイオスは大陸を統一するという、パールネウス共和国時代から大陸軍で人生の大半を過ごした。正に彼の人生は戦場に有ったといってもいい。汚泥に塗れ、剣を振るい、死屍累々の血反吐に塗れた大地を進軍する。普通の人間ならば死んでもおかしくない年月を大陸軍に費やしてきた。そう、彼は人種であるが、同時にエルフ種。ハーフエルフという長命の性を持つ。
そんな人生の大半を戦場で過ごし、泣き叫ぶ虜兵や現地住民の殺戮など日常茶飯事のように見る。大陸を統一するために莫大な人員を減らし、一体他国をいくつ減らせばいいのか。カイオスは実体験で知っていた。それこそ大陸を統一し、海洋国家に戦争を挑むなど何世代必要なのだろう。確実にカイオスは死に絶え、数百年かかっても達成できない大事業だ。
現在のパーパルディア皇国のテクノロジーなどジオン公国と比べれば子供の遊びに等しい。海洋は月が二つあるお陰で、長距離航海はおろか近海すらままならない。大洋は荒れて大航海時代を迎えることなど出来はしない。空中に大質量を運ぶことなど基本的に動物兵器に頼る皇国には土台無理な話。
圧倒的な戦闘能力やその効率的な殺しの仕方。
15m以上の巨体を自由に動かし、星間国家であること。
そんな国家になるために、どれだけの人命が犠牲となって文明が築かれたのか。考えるだけでも恐ろしい。
「貴国が数多の戦いを経てその文明をどう築いてきたのか、知りたいとは申しません。ですが、貴国ほどの国家がなぜここに来たか考えるべきです」
「考えるとは?」
ヴァルターは思わず、訊ねてしまう。あまりにも外交の場では話されない話。そもそも普通の人間はそこを思考しない。歴史を学ぶ上でどれほどの人間が犠牲になって、文明が築かれたのか。思いのほか、カイオスは軍人らしからぬ、哲学者思考の持ち主だった。
「貴国がその軍事力で何をしてきたか知りません。ですが、今後何が起こるのか私のような軍人上がりの者でも理解できる。大いなる破壊、ジオンと対なる大国が戦う。預言者でなくともあなた方が転移国家として自分の力で来たのなら私と話す必要はないはず。既に終末戦争として私は沢山の屍を越えていたでしょう」
もし、転移が自発的に可能なテクノロジー開発が出来ていれば、カイオスが想像する古の魔法帝国のように強大であれば列強など瞬殺なのかもしれない。だがそうはならなかった。ジオン公国は転移技術を持たないし、列強のテクノロジーは彼らの残骸から十分な情報を収集していない。
「貴国は今後、格上の相手と戦うことになるでしょう。その時は私の言葉を思い出していただきたい」
カイオスは一息開けて、まるでその時を楽しむような笑みを浮かべながら語る。
「貴国はなぜここに来たのか。そして何を為すべきかよろしいかと。もし、相手を読み間違え、敵を見誤るようであったなら……」
「この世界は滅ぶことになる」