慈恩公国召喚   作:文月蛇

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七月中にフェン王国編は終了予定。


第二十九話 フェン王国上陸戦(2)

フェン王国西部、ニシノミヤコに近い浜辺では非常に長い沈黙が続いていた。上陸部隊への誤射を懸念して、軍艦からのロケット攻撃や艦砲射撃は行われていない。また、フェン王国軍からの砲撃もなく、気味の悪い沈黙が支配する。

 

 

「上陸開始!」

 

 

「ちんたらしてると、ぶった切るぞ!」

 

小隊の専任下士官の叫びが響き、皇国大陸軍の将兵は海水でブーツが鉛のように重くなっても、上陸艇に照準を合わせた砲弾が落ちるのではと思い、急いで浜辺へと上陸する。本来ならもっと速やかな上陸が出来ただろう。だが、地竜の上陸を阻むように、巨大な金属製のバリケードが設置され、周囲には木の杭や金属製のコイルのようなものが至る所に張り巡らされていた。

 

既に第一陣の半数以上が大した被害もなく、無傷のまま上陸している。上空を飛行するワイバーンロードの竜騎士でさえ、その様子を見るために高度を下げ、地上の敵陣地を見る。だが、それをよく見れば、人がいるように見せかけた偽陣地。藁の人形を立てて巧妙に偽装した張りぼてだった。

 

 

「なんだこれ、奴ら水際防衛で来ると思ったのに」

 

パーパルディア皇国大陸軍第七歩兵連隊所属のアルマ軍曹は不自然な程沈黙する敵陣地に対して、不安を募らせていた。港町へ上陸を果たした部隊と挟撃し、残存兵力をなぎ倒すという作戦は敵陣地の無反応という出迎えで出鼻を挫かれていた。配下の部下の尻を叩くように、罵声を浴びせて前進させる。国家監査軍よりも戦い慣れしていない分、予想外の行動に関しては柔軟に対応できない。敵は得意の近接戦で打って出るか、散発的な銃撃で足止めを食らわせ、浜辺を砲撃されると思っていた。しかし、アルマを含めた上陸部隊第一陣は勇み足で来た分拍子抜けといったところだった。

 

「軍曹、本隊は集結地点につき次第、敵の最後の砲撃地点へと移動。これを殲滅する。君の分隊が先行しろ」

 

「了解、小隊長・・・・・・・・・くそったれ」

 

小声で聞こえないよう悪態をつく。大陸軍は表向き最精鋭の部隊だが、実情はチンピラと同質と言っていい。最早、皇国の歴史の栄華を飾った大陸軍はほぼなくなり、大半がチンピラまがいの雑兵だった。

 

「ステファン、レミー、ジュノが先頭!あの似非陣地を突破するぞ!」

 

 

先遣隊として向かわされた一行は慎重に前進し、ややせり上がった丘の上に設置された陣地にたどり着く。そこまでの道程に敵の攻撃を全く受けずに到着してからは、既に放棄されたエリアなのかと疑い始めていた。

 

「ここから本隊が良く見える。こりゃ観測陣地だな」

 

高地を取れば、敵を一掃できる。砲撃によって雨のように砲弾を降らせれば、確実に敵は壊滅する。だが、アルマのいる場所はどう見ても観測陣地ではなく、歩兵陣地。しかも、使った形跡が全くなかったのだ。

 

「どういうことだ、壕を掘っておきながら糞すら見当たらねぇ」

 

「適当に服着せた案山子しかないでっせ、軍曹!」

 

塹壕という存在は、大陸軍の作戦として砲撃から身を守るために必要とされる。戦列歩兵を想起させる彼らの装備にはスコップもあり、敵の砲撃の際は穴を掘って身を潜めるという訓練もあった。だが、浜辺からの絶好の観測陣地を誰も使っていない事に驚きを隠せなかった。

 

「ここら辺のフェンの野郎どもはどこに行っちまったんだ?」

 

「砲撃で大方逃げたんじゃ?」

 

アルマの頭の中に、敵が敗走したという情報が頭を過る。だが、浜辺を見ていた時、空に何かが浮いているのをはっきりとらえていた。彼は下士官しか支給されない望遠鏡を覗き、空中に浮く何らかの浮遊物を目撃する。それはまるで空飛ぶ三角形。協会の尖塔ともいうべき代物で、動物でない動きを行っていた。浜辺一帯を旋回しているようで、アルマはその意図に気が付いた。

 

 

「くそ!やつら!あれで観測(・・)してやがった」

 

アルマの気づくのが早ければもっと、少ない犠牲で済んだのかもしれない。彼の見た物体、ジオン公国製コーダ社ZDR-02『サイファー』は浜辺にいた大部隊の様子を事細かに収集すると、フェン王国内陸部へと姿を消す。旧暦に生まれたドローンと呼ばれる小型無人機であり、観測照準射撃とデータリンク可能な高精度なセンサーを搭載する。彼らが見たサイファーと同機種のドローンは他の上陸地点を観測し、虎視眈々と機会をうかがっていたのだ。

 

 

「通信兵!これは敵の作戦だ!急いで、集結地点から・・・・・・・・・」

 

アルマの意思は本隊に届くことは無かった。彼らが捜索していた陣地にあった爆薬が爆発し、彼らは爆風で吹き飛ばされ、運が悪かったものは四肢を吹き飛ばされ、痛みにもがき苦しむ運命となった。

 

だが、彼らを襲った攻撃以上に激しいものが降り注いだ。

 

 

サイファーの観測データは防衛司令部と砲兵司令部へダイレクトに伝わる。砲兵部隊は十キロ近く離れた場所で観測データを受け取り、砲撃の合図を出した。

 

 

「M453対人榴弾装填!」

 

「薬装よし!」

 

「目標、浜辺に展開中の敵部隊」

 

「諸元4563・3379!」

 

「復唱4563・3379!」

 

「発射用意・・・・・・・・・てぇ!」

 

巧妙に隠された砲兵陣地には105㎜榴弾砲が15門設置され、掘り下げられて作られた砲兵陣地は巧妙な偽装を施されており、十五の火砲から発射された砲弾は真っすぐ先遣隊へ進んでいった。

 

そして着弾。

 

頭上めがけて爆発させたそれらの砲弾は、対人榴弾と名付けられた時限信管タイプの特製弾だった。爆煙によって周囲は灰色の煙に包まれ、嗅いだことのない煙に周囲のワイバーンロードは嫌がる素振りを見せる。

 

「敵の砲撃か……やはり待ち伏せ!ムーの奴ら!こんなところに自国の兵器を使うなんて」

 

文明圏外国家という外国に位置するフェン王国。騎士は自領土に土足で踏み込みこんだような、怒りの感情をあらわにする。彼にしてみれば、自分の庭を荒らしているに等しい。パーパルディア皇国が支配しようと動く地域にムーが本格的な介入に乗り出したのだと勘違いした。竜騎士は被害状況を司令部に伝えるべく高度を下げる。だが、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「……魔術師!医療魔術師はいないか!」

 

「腕……俺の腕……」

 

「誰か!目が!前が見えない!」

 

歩兵部隊の半数が砲火に晒され、浜辺は死屍累々の殺戮場となった。あまりにも被害が大きく、竜騎士は目を背けたくなるものの、浜辺一面に見える散らばった何らかの矢らしき物体を捉えた。魔法で自分の視力を強化し、望遠鏡のようにその光景を見る。

 

「小型の矢がばら撒かれている?!」

 

砲弾は着弾すると貫通する徹甲弾。そして着弾と同時に爆発し、周囲に破片を飛び散らせる榴弾に分けられる。他にも様々な物が開発され焼夷榴弾や装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)と言った主力戦車やザクマシンガンに使われる弾もある。だが、竜騎士が見たそれは、フレシェット弾。爆発と共に無数の3㎝程度の矢を一気に発射する、系譜としてはぶどう弾を辿っており、野砲の散弾銃バージョン、ともいえる。もろに直撃を受けた歩兵は体中にフレシェットを浴び、全身に釘を打たれたような、無残な姿を晒していた。

 

「フェンの蛮族共が!皆殺しにしてやる!」

 

だが、その台詞と同時に空中で何かが爆発する。ワイバーンロードはその爆発に驚き、空中で滞空するが、竜騎士は急いで高度を取るよう指示を出す。すると、先程いた場所に黒い爆炎が轟き、危機一髪の状況だったと悟った。

 

 

彼の足元600m下には、巧妙に偽装された対空陣地があり、ドーム状の偽装傘を解除し、Flak88が彼を狙い、2㎝機関砲が断続的な機銃掃射を行う。

 

 

(リュエール2、地上の敵に捕捉された!回避!……あ゛っ……)

 

魔導通信から聞こえる同僚の悲痛な叫びと共に、爆散して墜落していく竜騎士とワイバーンロード。魔導銃でさえ貫けない強固な鱗もひき肉のように引き裂かれ、自由落下を始めていた。

 

その光景を見ていた竜騎士は同僚の復讐を優先したかったが、既に敵の位置情報は掴んでおり、地上の被害を報告すべく、一時退避するほかない。竜騎士は同僚の死を無駄にすることは無く、急旋回して竜母へと帰還した。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

第四歩兵大隊壊滅の連絡はすぐさま、将軍シウスの元へと入ってきた。フェン軍祭事件以降、大陸軍はフェン王国への過小評価を改めた。ムーとジオンの支援により装備や戦術が一新され、大陸軍において、いやパーパルディア皇国史における初の異文明との戦いであることはシウスを含め、彼の部下たちは理解していた。

 

だが、何処かでフェンを簡単に倒せると思っていたのか、やはり参謀は動揺しており、中には広い範囲にわたって砲撃を行い、いったん壊滅した大隊を全て海上に下がらせる案を出した。

 

「それは却下する」

 

「しかし、壊滅したとなれば、士気に影響が」

 

「後退自体が危険だとわからんのか!竜母リュクシオンへ通達。通信装備を充実させた偵察部隊を先行させ、敵砲撃陣地を特定。ロケットは使わず、ある程度精度の見込める砲艦を海岸に近づけよ。敵の砲陣地制圧後は第二上陸地点と第三上陸地点へ分割上陸を行え」

 

 

 

「ワイバーンロードの爆撃隊は?」

 

「第一目標は敵対空陣地!第二目標は敵砲兵陣地とする。竜騎士達にとって悪夢だろうが、ここで兵器評価するのも一興だ」

 

シウスの判断はすぐさま、魔導通信によって竜母の航空戦闘指揮所へと送られる。対地攻撃隊の出撃が始まった。

 

 

「滑走カタパルト準備よし!」

 

「ワイバーンロードの準備よし、こちら発射管制室。発艦後は速やかに第二弾の発艦準備にかかれ。」

 

ワイバーンロードは通常のワイバーンと比べて体格は大きく、更に離陸するための滑走路は従来と比べて長くしなければならない。竜母もそれに合わせるべく巨大化したが、ワイバーンロードの離陸失敗は後を絶たなかった。そのため、嘗てパールネウス共和国が建国当初使用していた投石器やボウガンの要領から、ミスリル銀を編み込んだ弦によってはじき出されるカタパルトを設置。ワイバーンロードはそれによって滑走距離を縮めることに成功した。ワイバーンロードは地上での訓練を重ね、竜母に搭載可能な攻撃機へと進化を遂げた。そのため、艦艇の形は飛行甲板の上に特大のボウガンが設置されているように見える事だろう。

 

「ヴィオニエ1離陸、発射(テイクオフ)!」

 

発射管制官の指示により、発射されるワイバーンロード。スキージャンプ台のような形の飛行甲板から飛び出す姿勢は正にスキージャンパーの如く、前傾姿勢で滑空する。やがて重力に引っ張られ、海面に叩き付けられようとするが、巨大な翼を広げ、羽ばたかせながら大海の空を舞い、ワイバーン種の頂点に立つ竜が咆哮する。

 

「ヴィオニエ1より、スピリチュ3。敵対空陣地の位置を知らせよ」

 

オマールポイント(上陸地点)より南西5㎞に敵対空陣地を捕捉。高度500m下では敵の砲火に晒される!既に分遣隊の半分が殺られた。一時帰艦する!)

 

先行した対空用装備に身を固めたスピリチュ3と呼ばれるワイバーンロードの竜騎士。ムーや魔導銃の銃弾から身を守れるよう、鋼鉄と急所を守る魔導装甲の複合鎧を着た彼は疲労困憊のワイバーンロード攻撃隊を護衛し、帰艦の途につく。

 

 

「ヴァオニエ1了解!ヴァオニエ全騎……奴らに特製の()をお見舞いしてやるぞ」

 

 

対地攻撃装備のヴァオニエと呼ばれる、かつてパールネウス共和国時代の将軍から名を取った飛行隊は、報告を受けた対空陣地を発見。照準を合わせた。

 

「混ぜ酒を飲ませてやれ。攻撃開始!投下!」

 

8機の編隊で飛行するワイバーンロード一頭につき、十数個の瓶が投下される。総数は百以上あろうか。フェン王国軍の兵士はワイバーンロードの糞か竜騎士の落し物かと思っただろう。だが、地面に衝突し、中の液体が漏れ出すと一気に気化。その落着から数秒経った時、魔導式発火装置が起動する。帰化した可燃性ガスは発火装置によって一気に燃焼し、周囲の物を燃やし尽くしていく。それは砲兵陣地の砲兵や対空砲、準備していた弾薬庫に至るまで。熱によって爆発した対空砲弾は周囲の砲兵に直撃し、死という恐怖を感じさせないほど一瞬のうちに木っ端微塵となった。

 

パーパルディア皇国に対抗すべく、各国属領レジスタンスはムーやジオンの諜報員から有効性のある武器を使用した。暴徒がよく用いる火炎瓶といった武器。パーパルディア皇国もその有効性に気が付いてしまった。その名は「火炎瓶(モトロフ・カクテル)」、アルコール度数の高い酒を使うことにより、浴びせた対象を燃やして攻撃する有効性は自分達の血で贖われ、自国の技術を駆使して何倍もの威力を持つ焼夷弾が完成した。

 

アルコール飲料よりも、更に揮発性や燃焼速度の速い可燃性液体を使用することでその効果を高め、落着と同時に作動する着発信管もセットで組み込まれている。ムーでは落着前に点火されるものが開発段階だが、魔導発火装置は不発率が非常に低いため、ここまでの被害は出ないだろう。

 

帝国主義に目覚め、拡大を続けるパーパルディア皇国は遂にムー以上の航空攻撃力を持つことが出来た。

 

「司令部へ連絡!酒屋は大繁盛!至急、地上軍へも酒を送られたし」

 

 

対空陣地を壊滅できたことは皇国大陸軍にとって何よりの朗報だった。ムーの航空機の無い状態では、地上軍は裸に等しい。上空からの火炎瓶を遮る術はなく、唯一の対抗手段も射程外の上空から爆撃を受けて破壊された。

 

 

「全軍所管の奮闘を期待する!竜騎士の爆撃を持って敵の退路を断ち、根絶やしにしろ!」

 

 

後方を炎で遮られた事でフェン王国軍第一防衛線部隊は混乱。この機に乗じて、大陸軍の騎兵部隊が一点突破を仕掛け、防衛線をこじ開けた。戦意が高く、近接戦が得意と知られるフェン王国軍の兵士達は、「最早、生き残る術は無し」と悟り、第一防衛線を任されていた西部方面団の特設砲兵隊並びに歩兵隊およそ、500名が玉砕。

 

半分はジオンとムー、フェンの軍上層の意思が浸透していた事で西部方面団の7割が生き残った。玉砕した部隊はライフル銃に銃剣を取り付け、あたかも大日本帝国陸軍の突撃の如く、名誉の死を誇りとして、我先にと敵陣に殺到した。砲兵隊のフレシェット砲弾の攻撃と500名の玉砕突撃。この攻防戦の勝者であるパーパルディア皇国大陸軍も無傷ではなかった。先遣隊として上陸した大隊の壊滅とワイバーンロードの二個隊の全滅。

 

フェン王国上陸作戦の冒頭は辛勝という結果になった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

海岸防衛戦に敗北したフェン王国軍とムーから派遣された将校、そしてジオン公国の将校は敵の予想外の兵器に驚きを隠せなかった。ジオン公国もムーと同じく、パーパルディア皇国へ水面下の妨害策として、レジスタンスの支援を行っていた。武器装備の供給はもちろんの事、指揮官の訓練や現地部隊の訓練まで。

 

それが凶と出たか、ムーやジオンが提供した火炎瓶の製造技術は皇国側に吸収され、思いもよらぬ形で返されてしまった。しかも、威力は暴徒の攻撃とは比較にならない。ムーの想像を遥か上に行き、ジオン軍将校は公国の魔導技術に驚きを隠せなかった。

 

フェン王国派遣部隊指揮官、ノイエン・ビッター少将はそのこと以上に、フェン王国軍の無能さにあきれ返っていた。寧ろ、あの場であれば逃げてきた方が、逆に手駒として使える。こんなところで名誉の戦死を遂げられても困るのだ。現代戦で『犠牲無くして勝利なし』と言えるのは、極限の状態下で言える事。フェン王国軍の悪い所は後ろで少し爆撃を受けたからと、退路を断たれたと誤認して撤退しなかった事だ。戦線が崩壊したと分かれば、潔く撤退して体制を立て直すよう、フェンとジオン連合軍部隊には徹底して通知していたのだ。

 

だが、結果は玉砕。

 

映画や物語においては、美談として語られるかもしれないが、戦略的には『無駄な死』と言える。更に質が悪いのが、無常観と言った侍的意識を持つフェン王国の戦士達。最早、ビッター少将は彼らを兵士と呼ぼうとは思わなかった。何故なら、兵は国家の命令に従うものであり、指揮官には絶対服従なのだ。だが、戦士は違う。彼らの忠は己自身。現代の軍隊としては機能しない。その思想がフェン王国指揮官たちにも浸透し、諸兵に聞かれないような遮断された会議室でさえ、『名誉の死』『我々も共に逝きたかった』と宣うレベルである。

 

少将からすれば『銃後に控える数十万の国民の事を思えよ、戦バカ』とあきれるほかない。

 

「キクチヨ中尉、現在のニシノミヤコ避難作戦はどうなっているのだ?」

 

「あんたらの観光客が俺たちも戦わせろと騒いでいるし、セツルメントは泣きわめくしで散々なんですわ」

 

その山賊にしか見えないその男。元々、学識がないために戦士から除外され、農民として暮らしていた。剣は振るうが、戦士として与えられたのは古い大太剣。実戦向きでないそれは、明らかに山賊にちかい風貌の彼に相応しいと、侮蔑の意味で戦士団から与えられていた。

 

だが、どうだろう。彼の腕っぷしは非常に強く、それこそ我流で大木をぶった斬る姿は少将でさえ、映画のセットかと疑った程だ。しかも、目の付け所が良く、フェンの中でも貧民層にあった部隊を鍛え上げる程であり、今回彼の部隊は避難民誘導に充てられていた。

 

「ジオンの避難民の中には予備役や退役の兵も交じっているのだろう。中尉、もし手が足りなければ私の名前を出して、君の隊に組み込みたまえ。君の部隊に担当官を付けよう。」

 

別の士官をワンクッションにして情報を共有する。この場合、『こんな者を司令部に』と言っていたフェン将軍たちもいたことから、スパルタのような戦士だけの国家というのはビッター少将から見ると、やはり異なっていた。

 

観光的資源の観点から、マスコミや宇宙航空産業各分野の資本は惑星の旅行ブームを演出するために、動画サイトで有名になったフェン王国を持ち上げた。曰く『古の戦士の国』、『侍の国』『武士道精神』というものだ。確かに、それらはフェン王国の美点であり、無常観を元にした戦士としての思想信条は称賛に値する。

 

だが、一方で『戦士』になり切れない場合はどうなるのか?

 

既にフェンという国家は海洋民族的な側面を持っていながらも、拡大をすることは無く、むしろ鎖国に近い政策を行ってきた。国民統制のために全ての者が剣を持てるよう訓練し、有事には王国が一つになって戦わねばならないと思想教育を受ける。そうした国民皆兵、一億玉砕と表現するように民族主義・社会主義的な側面を持つ国家体制となった。

 

更に、戦士には戦いに優れた肉体や洞察力、戦術的思考と言ったものが求められるが、商人の気質があるものは基本的に、経済を回すための戦士の下の地位に立つ。衣食住は全て戦士の預かりとなり、地位はそこまで高くない。

 

そして、農民と言った『雑兵』の地位に近い者達は王国を統治するための食糧生産者としてこき使われる。

 

士農工商と言った日本の身分制度に近いフェンの身分制度が存在し、全てがすべて戦士であるが、戦士としての質が乏しい者は下層階級として位置づけられる。ビッター少将の目の前にいるキクチヨ中尉は農民の生まれでありながら、ジオン式練兵方と呼ばれる特務機関の小隊長として、カンベ将軍の目に留まり、志願する農民や町民などを組織した「奇兵隊」を組織した。未だに下層階級の人間に対して侮蔑の表情を浮かべる上層階級の戦士達だが、ビッター少将とカンベ将軍はこの混乱の中でもあっけらかんとしているキクチヨを見て笑顔になっていた。

 

「そうだろうな、キクチヨ!ジオンの自動荷車へ順番に乗せるんだぞ。暴れるようなものがいれば、外人であろうとも構わん、拘束しておけ」

 

「合点でさ、大将!」

 

まだ、戦術行動が出来る程の戦闘訓練は受けさせていない。だが、奇兵隊は指揮官の命令に絶対であるという、約束が作られている。単独行動や功を焦った先走り行為は法度と、口を酸っぱくしてカンベ将軍は訓練中に何度も叫んでいた。

 

礼儀を知らないキクチヨは崩れた敬礼をすると、すぐに奇兵隊へと戻っていく。周囲の戦士長から将軍として任命された者や古参の身分に分け隔てなく軍務を行う事から、抵抗を抱いている将軍も多い。空気は自然と悪くなっていたが、意外にもビッター少将とカンベ将軍の表情は明るかった。

 

「面白い部下をお持ちですな」

 

「彼は以前、私が小旅行で国内を巡邏していた時に、ついて回ってきた者なのです」

 

村から抜け出した農民。貧困に耐えられずに街に来ては力仕事や日当をやって生活する傍ら、殆どを博打にあてて、犯罪行為に手を出す。カンベ将軍は一人流浪する戦士「浪人」……『浪士』として各地を転々としている時にであった。途中、何度か顔を突き合わせたものの「弟子にしてください」と言う事が出来ず、危うく斬られるのではと帯刀していたために、柄を取ろうとした瞬間もあったという。

 

「私は様々な貧困に喘いだ村々を見て参りました。そして、戦士をやめて盗賊に成り下がった者たちが略奪や凌辱を繰り返すところに遭遇し、私ともに彼も戦ったのです」

 

「それで彼を部下に……」

 

「まだ、農民癖が抜け切れていないが、奇兵隊を編成する上ではこれでいいのですよ」

 

ただ、戦士が頭ごなしに指示しても、農民や町民はいう事を聞かない。逆に農民上がりのキクチヨが言えば、すんなりと言うことを聞くし、ワンクッション置いた指導は非常に効果を発揮した。

 

「今後は階級社会がなくなり、全ての国民は自分の枷から解放され、自由に職を選ぶことが出来る。フェンの未来は明るいですな」

 

ビッター少将は晴れ晴れとした顔でいうものの、カンベ将軍は表情を曇らせる。

 

「それはどうでしょうな。戦士として生きてきた者達にとって、自由にしろといってもそれ(戦士)しか知り得ないものばかりだ」

 

「ゆっくりと変革が必要なのです」

 

「だが、そのあとは?全ての国民は数多ある仕事を選び、また職が自分に合うかどうかわからないのに決めなければならない。生きにくい時代になるのでしょうな」

 

身分があれば、身分相応の仕事をしなくてはならないし、やりたい仕事も出来ない。身分さえなくなれば、様々な仕事にチャレンジできる、だが、チャレンジしてもそれに適性がなかったら?

 

生まれ持って定められた者であれば家族のサポートや親類の援助、その他の支援によって行うことも可能だろう。だが、数多ある仕事を選んでも、何のサポートも得られず、そのままフラフラと彷徨う者や何もしないような輩が現れる。

 

職業の自由にすることで、国民に対して道を指し示すものがなく、混乱する事になるだろう。これまであった王国軍とされてきたのは、戦士階級でも上位の者が戦士長と名乗り、王に忠誠を誓っていたが、今後は王国軍をジオンやムーの軍制に則って近代化する。この変化を良しとせず、反抗するものも出てくるだろう。

 

そうした反抗心のある者に対して向かわせるのは、嘗て農民や町民だったフェン王国軍の兵士達。今後、身分制度を無くしたことによる弊害が起き、火種となるのは目に見えていた。

 

 

「して、ビッター少将殿、ここを如何様に守られるおつもりか?」

 

「このニシノミヤコは元々城塞都市。ある程度穴をふさげば何とかなりましょう。わが軍のMSも使いますが、敵を蹴散らすには少々・・・・・・・・・」

 

ビッター少将は言いよどむ。何故なら、ビッター少将指揮下のフェン王国救援部隊は軌道上からの連邦軍艦隊の攻撃により、FLV降下艇2基が墜落、もう2基が中破したためにMSの多くを喪失してしまっていた。これはパーパルディア皇国に通じる連邦残党の者が手配したのであろう。

 

ビッター少将の手駒にあるのは、機動軽歩兵2個大隊、マゼラアタック戦車を要する機甲小隊。作業用MSとしてザクⅡJ型とザクI型及びザクⅡF後期型が一機ずつ存在した。MSは合計で3機。あまりにも手駒は少なく、ドムやゲルググと言った次期主力モデルは被弾したFLVの損害をもろに受けたため、整備部隊が昼夜問わず働き尽くめで作業に当たっている。もしかすると、ザクの余剰部品で作られた、両肩にザクの棘やシールドを備え付けたドム改修型(リペア)が出てくるかもしれない。

 

「ほう、あの穴をふさぐと?」

 

「ザクというあの巨人の系譜をたどれば工業機械・・・・・・・・・何と言いますか、鉱山労働のために作られた機械なのですよ」

 

「なるほど、あの腕ならば大岩も持ち上げそうだな」

 

カンベ将軍はひげを撫で上げ、頷いた。それなら確かに敵の攻撃から身を守れる城壁を短期間に修繕することが可能だろう。だが、物量の面から見ると、少々心もとないのは明らかだった。

 

元々、ビッター少将は先遣隊として派遣されたが、第二陣として第21特務隊のシャア・アズナブル中佐が2隻のザンジバルで攻撃する手はずとなっていた。しかし、エンジントラブルの影響と相まって、ビッター少将の元に来るにはあと6日程待たねばならない。ギレン総帥から派遣される部隊も同日中とのことだったため、微妙なタイミングになっていた。

 

 

ニシノミヤコ防衛戦線は海岸を奪取されたことで大分上げられ、ニシノミヤコはまだ射程外だが、やがて届くことになる。小部隊の競り合いがあり、軍勢と軍勢がぶつかり合う場はもうしばらくかかりそうだった。

 

「若しくは、こういうのは?」

 

カンベ将軍の提案はビッター少将の賛成により、敵の進行次第によって決行することが決まった。彼の提案する作戦は犠牲を伴うものの、最終的に必要なことだろうと判断されたのだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

(こちら1-4(ヒトヨン)!キビノ村にまだ生存者がいる!これより救援のため部隊を移動。敵を排除する)

 

(こちら本部、そちらの任務は敵の簒奪状況の偵察と及び敵動向についてである!聞こえるか?・・・・・・・・・糞、聞いちゃいない)

 

 

末端のフェン王国軍は良い意味で軍規を乱していた。理由は偵察地域の救援のため。しかし、それは本当に一部の部隊に限られる。部隊の損害や戦略的思考が出来ず、自分の理性や信念に基づいて行動する。軍隊としては致命的だが、騎士道精神と言った正々堂々としたものや弱き者を守るといった精神は称賛に値する。ただし、軍務や国家戦略など組織としてみれば、常軌を逸しているだろう。

 

組織としての判断は時として非情になりえる。多を救うために、少を犠牲にするのは仕方のない事とされるのが世の常。だが、時に非情の度が過ぎれば、その行動は許容を越えうるものだ。

 

「やはり野戦士の部隊は使えませんな」

 

「普通の鍛錬をしていれば、あんな貧村など捨ておくと判断も出来るだろうに」

 

「いやはや農村の下級戦士など所詮は雑兵に過ぎません」

 

過剰な軍事国家化と優秀な戦士を登用するフェン王国の身分体制。武を強調させ過ぎた事で優秀な戦死は権威に溺れ、美味な果実が時を経て腐っていくように、彼らもまた腐敗した官僚として組織を悪くさせていた。

 

圧倒的な敵戦力を惜しとどめるには、多少の犠牲がつきものであり、末端を捨て駒にする戦術を取らざるを得ない王国の土地状況は、必然的に「戦いは非常である。故に戦士も非情であり、末端は犠牲になるべき」と王国上層部の思考は固定化され、やがて身分的なものへと変質した。

 

「畜生、御上は何も分かってねぇ」

 

「あの周辺は穀倉地帯、もし焦土戦術なんてやられてみろ。もう、俺達には打つ手がない」

 

フェン王国はクワ・トイネ公国のような食料自給率200%越えという異常な環境下ではないため、食糧事情は江戸時代の日本とそう変わらない。産業も農業と僅かばかりの加工業のみ。いわば、国家を支えるのは一次産業の農業と言える。フェン王国西部は穀倉地帯が多く、ワイバーンロードから魔導枯れ葉剤など撒かれれば終わり。最早、為す術はない。食糧事情の悪化に伴い暴動が多発。今後はジオンに食料までも頼ることになり、更に保護国化が進むだろう。

 

他国に干渉された国家など良い試しはない。多くは戦乱や革命が多発し、王家が倒れる可能性すらある。少を犠牲にして、多を生き残らせる。指導者が居れば、フェン王国の再建は可能。大半の国民が飢餓に苦しんでも、逆境を生き抜いた王国民は強靭な者として選抜される。

 

まるで獅子が弱い子供を崖から蹴落とし、逆境を生き抜いたものを後継者とする弱肉強食の世界。それを合理的に追い求めたのがフェン王国と言う社会だった。

 

「・・・・・・・・・この混乱に乗じて上層部を攻撃するか?」

 

「ジオン公国も我々が立ち上がる事を認めるだろう。何てったって彼らも上層部(地球)に搾取されてきたのだから!」

 

フェン王国の社会構造はこの危機的状況に対して、外側にも内側にも変化の兆しを見せ始める。それが何を意味するか。近代化として受け入れるべきか、それとも同盟国の混乱として断固たる意志(政府支持)を示すか。それはギレンの手にかかっていた。

 

ギレン総帥は今回の作戦に対して大きなリソースを割くことが出来なかった。パーパルディア皇国攻略作戦に多くの資源と人員を必要とするため、主力兵器であるMSを多く割かなかった。ただし、今回戦うためにMS以上の数を有する既存兵器を投入した。

 

 

 

「P05の村落が敵の騎馬兵により攻撃を受けていると、フェン王国より報告が下っています!」

 

「フェン上層部は望み薄か?」

 

「やはり、防衛線維持のために兵を割く余裕はないのでしょう」

 

そこは鋼鉄の装甲に守られた居城。複合装甲に守られ、堅牢な合金のそれらは惑星の兵器のほとんどを跳ね返す性能を持つ。MSと比べると狭く、モニター画面が視界の大部分を占める事を考えれば、彼らの居城の空間はやはり狭い。だが、最新式赤外線カメラとサーマルセンサー、光増幅型暗視装置、ミノフスキー粒子状況下で考慮されたレーザー通信リンクシステムと衛星通信式兵器リンクシステム。小隊規模であれば、同一目標群に雨あられと砲弾を降らせることが可能な指揮システムを持ち、優秀なFCS(発射管制システム)を使用する。

 

戦闘機のように、パイロットの力量を重点に置いているMSと違って、彼らの戦術は隠蔽と数によって圧倒する。視界が狭い代わりに隠蔽性に優れ、17m強の巨体と比べれば、その姿は小さい。MSと戦えば、彼らの存在は酷く小さく見える。だが、歩兵にしてみれば、その鋼鉄製の60トンの巨体は地竜の如くインパクトを与えるだろう。

 

「と言うことは俺たち(戦車隊)の出番と言う事か」

 

デメジエール・ソンネン中佐は痙攣発作を止める錠剤を噛み、通信兵の部下へ微笑みかけた。

 

白髪交じりの壮年に入りかけの男が微笑みかけても、その男の妻でなければ気持ち悪がられるだけであろう。だが、会話の相手である部下は満面の笑みで答えた。彼らは互いがそういう関係ではないが、同じ境遇であった部下の男は、同意と言う意味を込めて拳を突き合わせる。

 

通信兵の彼以外にも運転手はもちろん、砲手も同じだろう。

 

 

開戦直前、ソンネン少佐はMS適性試験に落ち、戦争での活躍出来ないことから自堕落な生活を送っていた。しかし、彼はそこから一念発起し、新たな兵器開発計画に身を投じる。地球連邦陸軍最大の陸上戦艦「ビッグトレー級」の排除を考え、大口径陸上艦艇に対抗する兵器を開発。30㎝砲を装備したYMT-05『ヒルドルブ』はMSのようなマニュピレーターシステムとモノアイ、巨大な戦車としてモビルタンクと呼称。ザクとキャタピラーを組み合わせた有り合わせの工作作業機ではない。戦闘を目的とした兵器を開発した。

 

しかし、ヒルドルブ計画は失敗に終わる。鹵獲されたザク六機や61式戦車との戦いはなく、YMT05は後世に名を遺すような、良い評価が挙げられなかった試作機となった。

 

もしかすれば、ヒルドルブの存在があったからこそ、ソンネンは自分の能力を存分に発揮して死ぬことが出来た。彼に機会がなかったら、そのまま酒や薬などに溺れ、軍籍をはく奪され、何処かの貧民街で野垂れ死んでいるかもしれない。

 

だが彼はそこで終わらなかった。歩兵随伴車両として中途半端な運用体制になった戦車を何としても地上軍として復帰させる。半ば、妬けに近い意地だったが、これに賛同する者が多かった。

 

何しろ、MSは宇宙的機動兵器。ミノフスキー粒子下や宇宙と言った距離感のつかめない環境下において、ここまで機動性に長けた兵器はない。地上においても、その機動力と攻撃性は優れているが、歴史は非常に短い。一方、既存兵器の存在がまだ健在であり、ジオン内部でも戦車による攻撃の重要性を説く者はかなりいた。そして、アルタラス王国戦では大陸軍砲兵隊により、関節への一斉砲撃が行われ、MSが中破もしくは大破してしまった。この攻撃において対歩兵戦闘の重要性と随伴車両と戦車に対する有効性を再確認。歩兵支援車両としてしか考えられなかった突撃機動軍は早急な対策が求められた。そのため、戦車部隊を主力として構成された装甲師団の創設。戦える主力戦車開発計画。ソンネン中佐はその中心となった。

 

まだ、ソンネン中佐はまだましな部類なのかもしれない。中には機甲科から歩兵としての道を見いだせずに除隊した者。MS適性試験に合格できずに自決を図った者など多い。こうした戦車兵経験者やMS適性試験に落ちたものの、軍務に支障のない兵士らはこの機甲師団のプロジェクトに参画した。

 

だが、問題があった。

 

その主役たる戦車(マゼラアタック)にあった。

 

「中佐、よくこの戦車が採用されましたね。先祖返りに近いのでは?」

 

「そうでもない。この戦車はミノフスキー粒子下でも正常に作動する。連邦の61式より上手く動くさ」

 

「確かに、奴らの戦車より使えるだろうさ」

 

彼らが戦車兵として指導を受けた戦車は61式戦車。それこそ、ムンゾ自治共和国に採用されたM1戦車と呼ばれる、劣化版に等しいものに乗る前の古参兵は連邦軍採用戦車を使用していた。それだけに、このマゼラアタックⅠ戦車は古参兵から見れば、「お前、何考えてるの?」と言えるものだった。

 

マゼラアタックⅠ戦車は車高が高く、一時的に航空機として使用可能なVTOL戦車という、新たな戦車戦術を導入した兵器である。ジオン公国技術者の多くは噴射推進エンジンの仕組みや整備を理解しており、マゼラアタック戦車は戦場でも使用可能であると「理論上」の観点から採用された。

 

コロニーの荒れた地でも対応できた兵器である。そこで良いデータが出たのだから問題ない。

 

こうした憶測が公国軍内部で考えられ、正式採用にいたり、それまであった120㎜滑腔砲を搭載するM1主力戦車から、MSと歩兵を支援する火力支援を軸にしたマゼラアタック戦車へ置き換わった。パレードでマゼラアタック戦車の行進と合図と同時に、VTOL出発を行い、編隊飛行する砲塔の姿はジオン国民にとって新たな戦車戦闘を匂わせ、最新兵器MSと共にジオンの栄光に喜んだ・・・・・・・・・はずだった。

 

ロウリア王国でのMS運用において、地上戦での不具合の発生。トラブルがたびたび報告され、ロウリア王国を平定したのちに、ジオン総軍司令部技術本部はクワ・トイネ公国の砂漠地帯や岩石地帯、クワ・トイネ公国にあった森林地帯や沼地、ロウリアのジャングル地帯などで実地調査を行った。

 

殆どの歩兵兵器や通信機器、車両は問題なく、MSにおいてはある程度の粉塵防御を行った改修機『J型』『F1』『F2』へ繋がる改修案を提出。そして最後にモビルタンクのヒルドルブについては、30㎝砲による艦砲射撃と中近距離先頭におけるザクマシンガンの掃射など、性能としては非常に良いものの、大型実体滑腔弾による攻撃の必要性やビーム兵器を用いる論調もあることから、採用製造は行われなかった。

 

だが、唯一、多くの部隊に展開されている『マゼラアタック戦車』は想像よりも悪い結果になった。

 

まず粉塵によりジェット推進装置が詰まる。射出後のマゼラベースに着車出来ない。車高が高いがゆえに仮想敵であるムーの野砲に捕捉され、破壊されてしまう。空中機動を行う砲塔は発射すると、射撃装置がいかれてしまう。飛行バランスが取れずに墜落すると言った具合に駄目っ作機の烙印を押されることとなる。

 

開発した技術者を擁護すれば、マゼラアタック戦車は所謂「主力戦車」ではない。戦車と戦車で戦うことを想定しておらず、専らMSや歩兵の火力支援としての役割を与えたのである。そのため、155㎜という大きめの滑腔砲を装備しており、支援車両としては優れているが、砲塔はなぜ飛ぶように作ったのかと指摘されても反論はできそうにない。

 

 

このため、デメジエール・ソンネン中佐は先の戦車の改良版のM3(Ⅲ号)戦車を設計始めていた。そう、前のM1戦車の後継。つまり、マゼラアタック戦車の弟戦車とも呼べるかもしれない。

 

 

砲塔には155㎜滑腔砲が一門あり、戦術によってザクⅡマシンガンと共通の弾薬を使用できるコンバーションキットや、35㎜四連装機関砲など砲撃支援から対MS戦闘、対空攻撃に至るまで仕様変更可能であり、汎用性は非常に優れていた。地球連邦軍の61式戦車と比べれば、対戦車戦闘には劣るが、総合戦闘能力は主力戦車、自走高射砲、自走榴弾砲と変更可能であり、人的資源が限られるジオンには無くてはならない存在。作戦によっては戦場で換装可能であり、切り替え可能な戦力は融通が利き、転換訓練も少ない期間で行える。

 

こうした、何にでもなれる兵器の存在を作り上げた男は部下に告げる。

 

「諸君、この戦車の名前は『Tiger』と名付けられた。残念ながら三番目の戦車なため、Ⅲ号戦車と呼ばれるが、誰も三番手(サード)だとは言わせない。何故ならこの戦車は幾世幾十と作られた戦車の中で最も優秀な兵器だからだ。この戦車はジオンの名と共に永遠に語り継がれることになる!」

 

HT-03A「Tigar(ティガー)

 

訓練用の61式戦車や自治共和国時のM1戦車。そして、新規設計されたマゼラアタック戦車。61式を合わせれば四番目になるが、それは非公式のもの。ムンゾ自治共和国に設置された武装警察装備として非公式に導入された61式戦車は、表向き存在しない。トラクターという暗号名は戦車の隠語としてジオン兵によく使われるほどである。

 

地球上の戦車のどれを集めてみても、この戦車には到底及ばない。正に第二次大戦の伝説的戦車「ティガー重戦車」の名前を貰った風体。亡霊とさえ言ってもいい。状況によっては地球連邦軍最新型戦車『61式5型』と呼ばれた戦車さえも、数値的には上回る。惑星内において、この戦車に正面から挑むことは自殺行為に等しい。

 

陸の王者に天敵は存在しない。

 

しいて言えば、MSすらも圧倒できる代物であった。

 

 

Meine(戦友)Kameraden(諸君)Weiter(前進)marsch!(せよ)

 

ディーゼル八気筒エンジンとリチウムイオン電池を併用したハイブリッド戦車。エレカーが主力であるが、メンテナンス性や馬力を考えれば、エネルギー効率の低い電動自動車を軍用として使うには都合が悪い。巨大エンジンに火が点ると、無限軌道は唸りを挙げて動き出した。

 

支援車両や装甲人員輸送車などを含めれば40両ほどの大部隊は敵の進撃を惜しとどめるべく、その進路上にある貧相な村々を一つずつ開放する。

 

ジエール・ソンネン中佐率いる特務機甲大隊「Erwin(エルヴィン)abt」は快進撃を続けるパーパルディア皇国へ横やりを入れるべく、反撃を開始。地竜やワイバーンロードの攻撃を介さない部隊の登場によって、進軍は一時的に停止する。ニシノミヤコの民間人撤退作戦はこの反撃により、ほぼ完了することになる。

 

パーパルディア戦、見たいエースパイロットは?(選択肢なければ感想でも)

  • シーマ・ガラハウ
  • アナベル・ガトー
  • ケティ・レズナー
  • シャア・アズナブル
  • 黒い三連星

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