慈恩公国召喚   作:文月蛇

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第1章 ロデニウス大陸統一戦争
第三話 接触【修正済】


三大文明圏から遠く外れた大東洋

 

そこにはコロニー落しによって大打撃を被り、陸地の一割を喪失したオーストラリア大陸に似た『ロデニウス大陸』と呼ばれる大地には3つの国家が存在する。

 

・肥沃な土地を有し、広大な穀倉地帯を持つ農業立国、クワ・トイネ

 

・砂漠地帯が広がり、作物の育たない貧しい国、クイラ

 

・エルフ、ドワーフ、獣人などを迫害し続け、ロデニウス統一を目論む選民思想を続ける人類国家ロウリア王国

 

クイラ王国とクワ・トイネ公国は、互いに助け合い、補い合い、そしてロウリア王国に対抗してきた。選民思想を掲げたロウリアとの対立は再び大陸戦争に発展しかねない。

 

多くの学者は数年以来に富国強兵を続けるロウリアは大陸統一のため両国に宣戦布告してしまうだろうと考えていた。四大文化圏から離れ、田舎の小競り合いとして見られている現状や亜人という少数民族から、大国からの支援も難しい。友好関係を築こうにもクイラとクワ・トイネの人口の半分近くがエルフやドワーフなどの亜人に占められる。人種が多半数の国家が多いこの世界で、大国の支援を受けるのは難しい。

 

大陸の覇権と選民思想を掲げるロウリアとクイラ・クワ・トイネ連合軍の戦いはすぐそこまで迫っていた。

 

 

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中央暦1639年1月20日午後8時

 

 

クワ・トイネ公国軍第六飛龍隊 

 

その日は年始めの警戒任務であった。ワイバーンと呼ばれる飛龍を操り、竜騎士であるマールパティマは北東地区の警戒任務のため、相棒にまたがり大空を飛翔していた。以前までは暇つぶし同然の哨戒任務であったが、近年の緊張状態からロウリア王国の奇襲攻撃を警戒してか、哨戒回数を増やしている。しかし、公国北東方向には、国は何もない。

 

東に行っても、海が広がるばかりであり、幾多の冒険者が東方向へ新天地を求めて進行していったが、今まで帰ってきた者はいない。伝承ではヤマト民族といった人種が住んでいるとあるが定かでない。

 

海流が乱れ、海洋航行技術が盛んでないクワ・トイネにおいて見つけるのは至難の業だった。逆にワイバーンによって飛行したとしても、同様に陸地が無ければ自殺行為にしかならない。

 

マールパティマは哨戒の合間に夜空を見る。ワイバーン乗りにおいて方位を確認する術は必須であり、天文学の知識もある。だが、このところ夜空に異変が起きていた。酒場で聞くうわさ話によれば、多くの天文学者が異変を察知していた。新たに星々が増えたことや夜空に眩い閃光が確認された事。更には一週間前、流れ星が多数観測された。天文学とは系統が異なるが、星占いに影響を及ぼしているため、市井においては不安が渦巻いている。戦乱が起こりえるのでは?と不安視されているが、竜騎士のマールパティマにおいては命を懸けて戦おうと心に決めていた。

 

「何もなければいいんだがな……」

 

相棒にゆっくり進むよう指示を出し、雲の上を飛行する。生憎と海域は荒れており、ロウリアの上陸艇は木造であるため、荒れた波では僚艦に衝突し分解しかねず、上陸は困難だった。一方、空は雲を抜けると、満点の星空があり、何もなければ夜空を眺めながら、隠し持つ酒でも飲めば完璧だった。

 

 

「―――!」

 

突然、ワイバーンが反応して速度を変え、彼はその異常な行動に驚く。

 

「落ち着け!一体何が?!」

 

ワイバーンが異常な行動をした理由、北東に飛来する隕石とも見て取れない、明らかな人工物がいくつも飛来してくるではないか。

 

「なんだあれ……しかもフォーメーションを組んでいる?」

 

もし、彼が宇宙世紀の兵器に詳しかったならば、あれが地球侵攻作戦に使われるはずだった「HLV」大気圏離脱機と呼ばれる、軌道上の部隊降下に使用されるポッドであった。また、旧世紀の宇宙進出の初期にはSSTO「単段式宇宙輸送機」とも呼べる代物でもある。だが、マールパティマにはそれが、人工物であることしか分らず、また竜騎士が分隊行動中に用いる陣形(フォーメーション)にも似た形で降下しているため、何らかの部隊のように思えたのだ。

 

そして、HLVは適正高度になると、先端から何かを出す。それは彼も見たことが無い、パラシュートと呼ばれる降下速度減速装置であった。

 

近づこうとするも、ワイバーンが恐怖を感じてこれ以上高度は上がらず、更に北東の方角まで直進すれば、相棒のワイバーンも力尽き墜落するかもしれない。

 

ワイバーンは馬以上に賢く、どの程度まで行けば自分の限界なのか、折り返し地点なのか理解している。老練な軍用ワイバーンであれば、新兵訓練の教官としても役立つ存在である。だが、ワイバーンは最高時速は230km前後。大気圏軌道上から降下した存在は音速以上の速度を上げている。音速のため、ワイバーンは近づけず距離を引き離されてしまった。

 

「くっっっ!!なんなんだ、あいつは!!」

 

その後、積乱雲に阻まれて追尾は中止。司令部に報告書を出すが、相手にしてもらえることはなかった。魔法や魔物、魑魅魍魎蔓延る世界であるため、そうした摩訶不思議な事態に遭遇することもあり、旧世界や宇宙世紀においてもX-ファイル(正体不明事件)として扱われる案件も少なくない。マールパティマの報告書もそうした「未解決報告」のファイルに収められ、彼はしばし休養を取ることになる。

 

しかし一週間後、王国近衛師団に呼び出され、異国の将校と出会い、国王と面会することになるとは、マールパティマ騎士は夢にも思わなかった。

 

 

 

 

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クワ・トイネ公国の政治部会は元々エルフの森にあり、多種族用に整備された首都クワ・トイネは古代に来た軍隊に説得されて建設された。見た目、会議場は池に作られた豪勢なテラスに見えなくもないが、伝統的にその場所は公国の執政官や公国軍人、有力貴族などが集まって会議を行う場所である。金のかかったテラスとも思われるが、周囲には精鋭の近衛師団の衛士や魔導士による防諜、遠方からの監視もできない政治中枢として機能する。

 

多仮想敵国であるロウリア王国への対処が議題として挙げられていたが、今回は違った。

 

ほぼすべてが報告を聞き、頭を抱えていたからである。高貴で頭脳明晰なエルフでさえ、眉間に皺をよせ考えあぐね、内務卿のドワーフでさえ、地酒を飲むのを躊躇った。人間の官僚に至っては脂汗を流し、頭を抱えている。

 

最初の一報はロデニウス魔術師連合(ロウリア王国は除く)から天文学から見ても考えられない事態が起きていたとのこと。曰く、星が増えたり、点滅したり……前触れもなく流星群や隕石が墜ちてきたりと明らかにありえないことが起きていた。しかも、いくつかの隕石は人工物らしく、ロデニウス大陸にはほとんど見られない古の魔帝の遺物かと疑ったものの、数少ない学者はそれを否定した。そして、北方哨戒中の第六飛龍隊から挙がった正体不明の飛翔体。明らかに人為的な編隊で降下し、布をキノコ状に広げ、降下速度を和らげていたという。追尾した騎士は休息を取らせたものの、それは明らかに宇宙からの飛来物であることに他ならない。

 

 

首相のカナタは眉間を皺に寄せつつ発言した。

 

「皆のもの、この報告について、どう思う、どう解釈する」

 

軍の情報分析部が手を挙げ、発言した。

 

「情報分析部によれば、古の魔法帝国の兵器とは似て非なる物であることが予測されます。また、憶測ではありますが、現時点から察するに該当する科学技術を持つ国はないとしています」

 

「まさか。神聖ミリシアル・・・・・ムーもか?」

 

「はい、ムーの遙か西、第八帝国が第四文明圏に対して宣戦布告したとの情報が入ってきていますが、諜報員の報告だと、該当する科学技術は両国には存在しません」

 

会議は失笑に包まれるが、仕方がない。列強国の軍事力は強力であり、それらに宣戦布告するなど文明圏外の帝国を自称する俄か国家が太刀打ちできるはずもない。自国が列強として世界に君臨する妄想はだれしもあるかもしれないが、それは妄想であって実際に出来ることではない。

 

「つまり、出処はわからないか……」

 

会議は振り出しに戻る、結局解らないのだ。ただでさえ、ロウリア王国との緊張状態が続き、もはや戦争は避けられない。パーパルティア皇国のバックアップを受けていると噂されるロウリアはかなりの軍備増強を行っていると報告では挙がっていた。

 

戦争が勃発すれば、クイラとクワ・トイネは連合してロウリアと熾烈な総力戦に臨むことになるだろう。国土は焼かれ、都市は壊滅。女子供が凌辱され、多くの若者が死にゆくこととなる。国力は二国合わせてロウリアと拮抗する。どちらかが出し惜しみして被害を拡大すれば、負け戦。国民は殆ど奴隷となり、選民思想と亜人撲滅のため、種の滅亡が組織的に行われる。

 

着々と戦争の準備が定まり、議題が変わろうとしていく中、外務省の若手職員が突如走りこんでくる。

 

「何事か!!!」

 

外務郷が声を張り上げ、二言目には叱咤しようと顔を真っ赤にしていた。

 

「報告します!!」

 

若手幹部が報告を始める。報告によると、北東の方角より未確認飛翔体を観測。全長260m、殆どが金属製であり、周囲に巨大な巨人の姿がある他、小型の飛翔体が複数確認できる。

 

更に海上には、グレーの塗装を施した船にはみえない、全長50mほどの航行物体を発見。

 

先行していた航行物体を海軍陸戦隊が臨検したところ、ジオン公国と名乗る特使が乗っており敵対の意思はなく、国交を求めることを言ってきたのである。また、ジオン公国は宇宙植民地であり、突如として転移してきた国家だという。加えて独立戦争を行い、惑星軌道上の地球連邦軍の艦艇が大気圏を突破している可能性がある。残骸には微量の放射線や毒物が含まれるために手を出さないようにいってきたのである。

 

「冗談でしょ……」

 

 

唯一、女性官僚である賢者卿(所謂魔術師養成機関のトップ)が呆気にとられたように呟いた。

 

既に湾内と上空に停泊しており、あとはこちらの外務省の応対次第だという。

 

現実とも夢とも分らず、いつもの調子でやれば事態は収束する。凡その予想を斜め上に裏切った感じで国が急成長を遂げることになるのだが、首脳陣は知る由もない。

 

 




2019/06/30 文章修正 変な表現を修正

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