慈恩公国召喚   作:文月蛇

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第四話 戦の足音 【修正済】

 

中央暦1639年3月22日

 

 

ジオン公国が出現してから二か月。

 

 

クワ・トイネ公国は、今までの歴史上最も変化した2ヶ月であった。もしくは『最も成長した二か月』『神も驚く二か月』『心臓発作で多くが倒れた二か月』とも言われ、クワ・トイネとクイラの歴史書やのちのテレビ番組では『この時歴史が動いた』なんて言われる日が来るだろうし、そう遅くもない未来かもしれない。

 

2ヶ月前、ジオン公国は、クワ・トイネ公国と、クイラ王国両方に同時に接触し、双方と国交を結んだ。

 

工業立国であったジオンはクイラ王国の鉱物資源の多さに驚愕した。その多さはジオンの学者が『地球の総資源の数倍』と言い、あまりの量に老官僚数人が緊急搬送されたとかしないとか。一方、クワ・トイネ公国も海洋天然資源や高級食材と言った物を輸出。加えて生物のDNA情報と言った亜人のDNAの提供を求められた。近世に近い文明を持っていても、血液を採って何が分るのか、と半信半疑であったが、ゲノム情報解読、遺伝子操作技術がかなりの進歩を遂げており、これらはクワ・トイネ公国の科学技術、生体医療に関して大きな躍進があった。一方、ジオンは産業と内需の転換を図るためにインフラを輸出してきた。クワ・トイネ公国当局が聞けば、ジオン公国は地球連邦という、国力50倍以上の敵と戦う準備をしていたという。そのため、多くの人材が軍事に注ぎ込まれていたため、軍需を潤すために戦争を行わねばならない経済の形になっていたと危惧していたと聞く。それを聞き、政府首脳は顔色を白くさせ、女性官僚は貧血で倒れたという。

 

もし、ザンジバル級巡洋艦が攻め込み、緑の巨人が街を蹂躙したとすれば。確実に二国は一週間のうちに……いや、三日間のうちに征服されるだろう。クワ・トイネ公国当局は矛先が自分たちに向かないことを感謝した。

 

ジオンは多くの技術者や労働者などを輸出。セツルメント国家連合経由によって他コロニーの企業も誘致され、二国の科学技術は大きく進んだ。大都市間を結ぶ、石畳の進化したような継ぎ目の無い道路は勿論のこと。鉄道といった大規模流通システムを構築。コロニーとの交易向けの宇宙港を建設している。各種技術交流も両国から要請されたが、ジオン本国や他のコロニー大学の一部の知識人から猛反対を受け、一部の技術のみに抑えられた。

 

近世の科学技術はそこまで発展してはおらず、あまりにも躍進しすぎた科学技術は倫理観の欠如や破壊兵器による民間人の殺戮も考えられる。というものの、転移さえなければギレンの指導の元に全人口の半分を死に至らしめていたであろうジオンがそれを言うのも、なんとも皮肉であった。だが、ジオンの知識人がそういうのも無理はない。つい先ほどまで弓と剣、槍で戦争をしていた人々が自動小銃と戦車を乗り回し、MSまで戦場に暴れるようになるのだ。否応なく、敵をせん滅できるからとバカスカと戦略核弾頭を持ち出されては困る。

 

 

「すごいものだな、ジオンという国は・・・。明らかに3大文明圏を超えている。というか、一体どうやったらここまで進むんだ?」

 

―我が国だけなら、5世紀近くかかるのでは?

 

クワ・トイネ公国首相カナタは、秘書に語りかける。

 

「はっ。しかし、彼らが平和主義で助かりました」

 

「そんなことはない、君は内務担当秘書官だよな?いい物をみせてやる」

 

カナタは机から「極秘」と書かれたファイルを出す。「口外するなよ」といい、秘書はファイルに目を通す。内容はジオンの国内情勢についてだった。ムンゾ自治共和国の建国、独立宣言からジオン・ズム・ダイクンの死とジオン公国の建国。連邦による経済制裁とハイパーインフレの発生。その後の地球連邦との独立戦争に挑む体制。総力戦体制とギレン総帥による親衛隊やそれにかかわる政治的粛清。そして転移、ルウム会戦と残存連邦宇宙軍の敗退。

 

秘書はその経緯と宇宙にあるコロニーの数とスぺースノイド80億近い国民がいることに驚きを隠せなかった。秘書は北東のヤマト諸島の人々だと信じていたのだ。

 

「信じられません……でも、ここに来る労働者や企業の人間は元々ジオン軍人だったと……」

 

「総力戦体制のままの経済だと、やがては軍需を潤すために戦争しかねなかった。それに彼らの兵力は我々の数十倍。しかも、総動員すれば、三大文明圏のほとんどを制圧できるだろうな」

 

「では、なぜ彼らは戦争を選ばなかったんでしょう?」

 

秘書の疑問に対し、カナタは椅子に座って鼻先に手を組んだ。

 

「さてな……そもそも、戦争そのものに意味があるのかな?」

 

戦争は外交における最終手段の一つとされる。だが、文明すら滅ぼしてしまう力を手に入れた政府はその手段に躊躇する。その選択を取る指導者は死にたがりの自殺願望者か、死なない可能性に掛けて戦争という手段に頼った、愚かな政治家なのかもしれない。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

大陸の西部に位置するロウリア王国の首都、ジン・ハーク。その都市は地球上の都市と比べれば見劣りはするものの、その城塞と建築様式は中世か近世初期の様である。

 

 

更に夜空も微妙に今の月と以前の月とは異なる。何故なら月の都市グラナダとフォン・ブラウンが転移しており、模様も若干異なる。

 

「ロウリア王、大陸統一軍準備完了致しました。あとはご命令のままに」

 

白銀の鎧に身を包み、指揮官としてはまだ若いが実績と能力の高い将軍パタジン。その彼の言葉を聞いた国王は二か国の同時征伐を出来るかどうか問うた。

 

「2国を同時に敵に回して、勝てるか?」

 

34代ロウリア王、ハーク・ロウリア34世は将軍の他集まる御前会議の面々の顔ぶれをじっくり見ていった。ほぼすべての人間が自信に満ちた表情を浮かべており、全く不安を見せていない。家臣たちの優秀さに頬を綻ばせないようにしつつも、その会議で発する声は若干喜色が混じっていた。

 

「一国は、農奴。もう一国は野蛮な不毛の地に住まう者、どちらも亜人比率が多い国。数年以内に亜人共は撲滅いたします」

 

「宰相よ、1ヶ月ほど前に国交を結ぼうとしていたジオン公国という輩、それからどうだ?」

 

  ジオン公国は亜人ではなく、多種多様な人種の国家であると、ジオン公国使節団の口から聞かされていたが、国交を結ぶ前にクイラとクワ・トイネの間に友好条約などが結ばれたため、国交は断絶した状況となる。宰相も自身の目で確かめてはいないものの、奇妙な成りをした肌の白い人々であったと記録にはあった。

 

「ロデニウス大陸のクワ・トイネ公国に公使館を設置しています。なぜか彼らは自らを『スぺースノイド』と自称しており……失礼、流石の私もその報告に耳を疑いました」

 

宰相は記録を見て笑ってしまっていた。大道芸人の噺家でさえ、面白い冗談を思いつくが、自らを宇宙人と呼ぶのは新しい。王もその報告を聞き、笑みを浮かべていたが、王が聞きたいのは国力であって見栄を張った使節の嘘ではない。

 

「国力は語りませんでしたが、明らかに誇張でしょう。北東の海域は伝承でもあまり人は住んでおらず、野蛮人の住む国です。ワイバーンですら見たことがないと驚いていましたので、軍事にも疎い田舎者でしょう」

 

 ワイバーンの無い軍隊は、ワイバーンの火力支援が受けられない分、弱い。

 

それは世界の常識であり、空からの偵察で敵の位置や場所を特定する。戦争の常道としてワイバーンを用いた空戦によって、制空権を制したものが戦争の勝者である。如何なる軍事力を持っていても、補給線や陣地編成などの情報を知られれば、陸戦はたちまち崩壊する。

 

そのワイバーンを使用しないのは神聖ミリシアル帝国の飛行船かムーの飛行機械であろう。彼らは自走する鉄製荷車に乗ってきたと記されていたが、臆病者なのか鎧のような荷馬車でないと旅行が出来ないらしい。と報告書にはまるで嘲笑が聞こえてきそうなほど馬鹿にしたものであった。

 

「そうか・・・。しかし、ついにロデニウス大陸が統一され、わが王国の旗が翻り、亜人共がこの大地から消えるのはありがたいことだ」

 

国王は機嫌の良さそうなこえを出し、皆の士気も高まったのだが、不気味な笑い声が木霊する。

 

「大王様、統一の暁にはあの約束もお忘れ無く」

 

真っ黒なローブにかすれた声。まるで、絞殺した家畜の声のように気味の悪い声を出すのは、ロウリア王国の特別顧問である魔術師だった。後ろには別の国の軍服に身を包んだ将校達。彼らはロウリアの民ではなく、所謂お雇い外国人に近い。

 

「解っておるわ!!」

 

王は喜色から一変して、怒気のこもった声を発する。ただでさえ、不敬にも等しい振る舞いに近衛師団の衛士もピリピリし、家臣たちも嫌そうな表情を浮かべる。国策会議であるのにも関わらず国外の人間がいるのを不審がる。しかし、その男には手を出せない。何故なら、その男はロウリア王国の富国強兵政策についての一番の功労者であり、彼がいなければこのような大陸の覇者になれる作戦などできなかったであろう。

 

「将軍、今回の概要を説明せよ」

 

「はっ、統一作戦用総兵力は50万人、クワ・トイネ公国への兵力は40万、残りは本土防衛用兵力になるかと。クイラによる奇襲攻撃や防諜による破壊工作もあることから各都市へと配置、テロ攻撃を予防します。

 

手始めにクワ・トイネの人口2万人都市、ギムを強襲制圧。兵站については、現地にて執り行い、最低限の補給のみにて行います。ギム制圧後、その東方250kmの位置にある首都クワ・トイネをワイバーンによる制空権の制圧後、陸軍が進軍。敵の各都市の防衛体制は脆弱。城壁は各行政府のみで都市攻略には何の障害もありません。またクワ・トイネの航空戦力はわが軍のワイバーンのみで圧倒が可能。制空権確保には後れを取りません。それと平行して、海軍艦船4400隻のにて、北方向を迂回しつつ、敵艦隊を掃討。マイハーク北岸に上陸し、経済都市を制圧します。クイラの野蛮人はこのマイハークから食料を輸入しているため、干上がることでしょう。そのため、首都よりもこちらが重要となります。クイラは野蛮人でも、精強な兵です。マイハークは激戦地となることが予想されます。とは言っても、数の暴力はさすがに彼らも手が出せないでしょう」

 

御前会議は滞りなく終了する。大王もその結果に満足していたが、何かが引っ掛かる。宰相や外務卿の言っていた『ジオン公国』の存在。彼らの話が頭から離れなかったのである。

 

 

 

 

 

 




2019/06/30修正済
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