慈恩公国召喚   作:文月蛇

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第五話 遥か彼方の空【修正済】

スペースコロニーとは人口増加に伴って建設された新たな植民地の形である。棄民政策とも見てとれるそれは、歯止めの効かない人口増加と地球環境の度重なる激変に対応できず、食糧不足に陥るための対応策だ。地球環境のような天候に左右されないコロニーの徹底管理された農園は、食糧生産能力を飛躍的に向上させたことで、人類の食糧問題は一気に解決された。懸念されていた建設資材のは、小惑星や暗礁宙域にある鉱物を使用したため、地球上から輸出する必要はなかった。

 

既に数百基以上のスペースコロニーが地球の周りを廻り、半世紀以上が経過していた。そこに住む人々は二世代以上にわたって住み、地球圏ではありえなかった文化や思想が発達した。

 

「地球連邦万歳!ジオンの鬼畜は出ていけ!」

 

「圧政者に死を!裏切り者共は皆殺しだ!」

 

互いの意見が反目すれば、言葉ではなく暴力によってことを為そうとするのは、宇宙世紀になっても変わらない。地球連邦支持者は徒党を組んでデモを展開し、カウンターデモのジオン支持派閥に取り囲まれ死闘を展開する。これはジオンやサイド7、サイド6を除いたジオン軍占領地によく見られる事だった。

 

地球連邦軍との軍事衝突。ルウム会戦以降、

 

ティアンム中将の艦隊をハッテのコロニーを餌に出し抜き、ルウムの本拠地にいるレビルの司令部を攻撃。艦艇の半数以上を撃破するに至る。残存連邦軍はサイド7やルナⅡに退却。サイド7を除くコロニーはジオンの勢力下におかれた。コロニーのジオン感情は良くも悪くも、解放者として歓迎された。自治政府首脳陣は苦虫を噛み潰したような感じであったが、それはこれまで連邦寄りだったことに帰来する。

 

コロニーと月面がこの世界に転移したことで、拠り所である地球を失い、完全に統制の取れなくなった連邦軍の末端部隊は反乱若しくは暴徒紛いの戦闘を各地で繰り広げたため、完全に連邦軍の株は落ちたといえよう。一方でジオンは情報戦を展開し、各コロニーのマスコミを通して、プロパガンダを発信。中には連邦の経済制裁によってジオンから世界規模の不況に発展した経済不況や連邦の不祥事を連日報道したことによって、民衆はジオンに傾いたのである。

 

 

「テキサスは廃棄が決定したか?」

 

「はい、テキサスとニューヨコスカのコロニーは完全に破壊。放射能汚染も酷く、使用は無理です」

 

そこはサイド5ルウムの首相官邸であった。あたかも、嘗ての日本国の総理大臣が住む首相官邸に似ており、石造りの建物になっている。コロニーでは地震がないために、耐震強度を気にする必要はない。比較的最近になって建設されたルウムはまだ世代的にも地球生まれが多く、地球連邦支持者が多い。首相として行政を監督するイヌカイは窓から見えるジオンのザクⅡを見つつ、溜息を吐いた。

 

イヌカイは元々、地球連邦官僚の一人であり、サイド5に移住して植民地政府植民地政府首相に選挙で就任した。そして、対立を明確にしたザビ家率いるジオン公国へ経済制裁と称して、他のコロニーと共に地球連邦に与する形で協力した。

 

だが、スぺースノイドとして生きる者として考えてみれば、圧政者に与することは裏切りに等しく、官邸の外ではデモ隊が即時退陣と政権を求め、議会のジオン寄り政党に政権を引き渡すよう求めていた。しかし、民主主義を守り、自身もそのシステムに身を投じたことで、それに反する動きであるジオンの国家社会主義に近い動きには反感を強めていた。ギレンやデギンを中心とする独裁に近いジオンの動きは民主主義を信じる彼にとって、ザビ家一党は旧時代の民族を消し去ろうとした指導者や政治的に対立する者の多くを粛清した指導者に似ており、イヌカイ自身はジオンのことを良く思っていない。

 

そして自身も彼らのように粛清されるのではと恐れたが、敗戦後も混乱を抑えるために内政を担い、罰もなく過ごしている。最悪の事態を想定していたイヌカイは呆気に取られていたのである。

 

「……はぁ…最悪の結果にならなくて済んだが、禍根も残ったな……」

 

最悪の結果、というか開戦時に可能性が一番高い攻撃は核攻撃。選民思想を以前から主張していたギレンが、粛清の名のもとに核を使用したコロニーの一斉破壊するのではと予想していた。そして地球へ質量弾の投下、地球連邦の継戦能力を失わせるために核以上の破壊力を持つ兵器。スペースコロニーを使用した連邦軍総司令部「ジャブロー」への攻撃。コロニー落としによって人類の半数余りが死に絶えるのではと予測していた。だが、元地球連邦官僚という立場をもってしても、現ルウム首相として対策を講じることは出来なかった。何故なら如何に情報収集や分析能力の優れた機関を有していても、彼のいるコロニー自治政府はその名の通り、制限された自治権しか保有していない。独立国の権利を持っていないに等しい。地球連邦政府と連邦軍が身近にいる現状、首輪とリードを付けられた犬のように飼い主の命令がなければ、動くことも出来なかったのだ。

 

仮に自分自身にギレンのようなカリスマ性や政治的才覚があればルウムはどれほど変わっていただろうか?

 

無論、その思考自体は無意味に等しい。しかし、一波乱が過ぎた今だからこそ振り返ることが出来た。

 

地球連邦政府の消滅、ルウム会戦や残存連邦軍の壊滅によって、必要以上の殺戮をする必要がなくなった現在。各地で両陣営の支持者がデモや暴動を引き起こしてしまい、ジオンへ援軍要請を行うことになった。一番暴動が多いムーアでは、戒厳令が引かれ、ザクによる掃討作戦など、市街地戦が行われていた。

 

もし、ルウム会戦でテキサスコロニーにG3ガスを注入し、住民を皆殺しにしていたら?

もし、連邦政府寄りのコロニーに戦略核弾頭をもって粛清していれば?

 

イヌカイの脳裏に浮かぶ「IF」の可能性。ジオン軍はテキサスコロニーの住民を退去させ、他のコロニー制圧にはある程度出血を強いたものの、大きな抵抗は無かった。だが、体制が変わったことによる不満は必ずある。それがデモや暴動、テロ攻撃と言ったものに発展するかもしれない。火種は完全に消えておらず、そこら中に燻っていた。

 

イヌカイ自身、首相としての立場は無くなったが、政界から干される訳ではない。未だに中道派は多く存在し、ルウム独自の外交政策を求める声があった。ジオンを支持する政治屋上がりの活動家に国家運営を預けるわけにもいかず、連邦系列の企業はジオンへイヌカイの続投を嘆願している。確実にジオン支持派の政党はジオン系の企業を優遇し、連邦が憎くて感情を優先する帰来があるためか、確実に制裁じみた処罰を求めるだろう。戦犯ステッカーや売国奴企業と言われれば、大多数の企業体や労働者は軒並み反対する。ルウムにも内乱が起こりえる可能性もあった。

 

 

「まだ戦いが続くかもしれない…」

 

未だに地球連邦軍残党が存在し、散発的な攻撃を仕掛けていたが、いずれはジオンの名の元に統一されるだろう。その時までにイヌカイが生きているかは分らなかった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

ジオン公国 宇宙攻撃軍 パプア級輸送艦 『オボロ』

 

「第一、第二搬出口オープン!作業班は直ちに展開作業にかかれ」

 

ジオン公国で建造されたパプア級輸送艦。それに様々な改造を施し、いくつかの搭載量を犠牲にしつつも、工作艦としての能力も兼ね備えていた。そして、搭載していた物はジオン公国で建造されたものや連邦製の人工衛星の姿があった。

 

コロニー公社から買い上げた作業用ポットを使用し、ゆっくりと惑星軌道上へと設置する。

 

「重力の坩堝に引き込まれるなよ、この老朽艦はすぐに燃え尽きるからな」

 

士官服を着て、パプア級輸送艦の艦長を務めるガデムは新米工兵の危なっかしい動きに叱咤の内容を考えつつも、周囲に展開するザクやムサイの護衛を見ながら、連邦軍の残党部隊について警戒していた。

 

第一線を引いて後方からの補給任務を行っているガデムであったが、その眼光は鋭く、老練の戦士の能力は衰えていない。

 

「特務隊より報告、ルナⅡの方角から連邦軍艦艇を発見。急ぎ作業を完了されたしとの事!」

 

「でてきたか…第一種戦闘配備!護衛MSはパプアを守れ!工兵は急ぎ作業を終えて帰還しろ、ポッドの装甲は紙だぞ!急げ!」

 

(了解、こちらBug1すぐに帰還する)

 

「観測班より報告!方位103、上10度!距離20000!敵艦隊急速に近づく!」

 

 

「敵の艦種は?」

 

「マゼラン級1、サラミス3を認む……ちょっと待ってください!数体の人型を確認!」

 

「人型?」

 

ガデムは部下の報告にオウム返しに聞いてしまう。何故なら、連邦軍はMS開発が暗礁に乗り上げたという報告を受けていたからである。開戦前の月面スミス海の戦いにおいて、先行配備されたRX-77-1ガンキャノン試作型を投入。結果はMSもどきのガンキャノンは全滅し、連邦軍のMS開発の遅れが露呈した。開戦時には、先行配備されたガンキャノンは宇宙軍に大量配備されたわけではなく、ルナⅡに保管されていたと噂される。ガデムは倉庫で埃をかぶるMSもどきを引っ張り出したのかと考えた。

 

「連邦の旧型か?」

 

ザクよりも後に開発された機体であるが、設計思想上「旧式」と呼んでも、問題はない。しかし、ガデムの予想は裏切られることになる。

 

「データベース照合中!……敵のMSは新型と思われます!」

 

「スクリーンにだせ!」

 

 

パプアの艦橋にあるスクリーンに写された観測カメラで撮影した接近中のMS。その姿はガデムの見たことがない新型MSであり、コピー品のザニーや鹵獲品でもない。スリムなボディーにカーキ色をメインにした塗装。見たこともない機体にガデムは恐怖ではなく、戦士として手ごたえのある敵に出会ったことを喜びに感じていた。

 

「ほう、こいつは骨がありそうな機体だな」

 

「ファルメルより連絡!『これより敵を駆逐する!後方に下がられたし』とのこと」

 

 

「ふむ、こちらは輸送艦。仕方あるまい」

 

ガデムは悔しい表情を浮かべていたが、仕方がない。こちらは輸送艦であり、敵は戦艦や巡洋艦などである。戦闘には不適格なのだ。

 

「『赤い彗星』の実力を特等席で見せてもらうとしよう」

 

そして、ガデムの乗るパプアからそう遠くないドズル麾下の特務隊所属の巡洋艦『ファルメル』そして、そこから現れたのはエース級パイロットに配備されるカスタム機のMS-06SザクⅡS型。バーニアや機動性を向上させたそれは、真っ赤な塗装と共に伝説として語り継がれる男の乗機だった。

 

「見せてもらおうか、連邦軍のMSの性能とやらを!」

 

ハッテ救援に向かうティアンム中将の艦隊を撃滅させた特別機動大隊に属し、単機で戦艦を数隻沈めた「赤い彗星」と呼ばれるシャア・アズナブル少佐。

 

未知の惑星軌道上の地球連邦軍残存兵力を殲滅すべく、赤い彗星は宇宙(そら)を舞った。

 

 

 

 




2019/07/01修正・文章のおかしい所を修正
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