慈恩公国召喚   作:文月蛇

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第六話 開戦【修正済】

「なぜ、知っているのですか?」

 

あまりにも信じられない相手のセリフにクワ・トイネ公国の外交官は驚きを隠せなかった。近くにいた秘書もジオン公国軍の将官の戦況分析はあまりにも正確であったために、目を白黒させていたのである。

 

クワ・トイネ外交官と会談するマ・クベ中将は友好の品として壺を送る。マ・クベはジオンでも異質な地球好きとして知られる。100年にも満たないジオンの歴史、マ・クベはそこに地球とジオンの差を感じていた。

 

成金国家と言われても否定はできず、思想は先進的であっても、ジオン文化はまだまだである。醸成された文化というものは愛国心以上の力を発揮するため、国家社会主義的なジオンは愛国心や文化の差を埋めるため、扇動的政治手法を持って統治していると言えよう。また、国家の特徴を表す軍服などは、多くが欧州圏の文化が多く取り入れられ、あたかもデザインは近世の衣服にも似ているのだ。

 

マ・クベはそこにスぺースノイド独特のコンプレックスの現れなのだろうと感じていた。

 

転移されてからは、地球の文化を比較しつつも、政府主導の情報収集プロジェクトへ積極的に参画し、キシリアの推薦から「惑星探査派遣団」の司令官として上陸した。その後は地球の日本列島にも似たヤマトと自称する民族とも友好的な関係を結んで、クワ・トイネやクイラとの外交を担当した。

 

ロウリア王国にも使節を送ったが、あまりにも隔絶した科学技術であったために警戒され、クワ・トイネとの国交が成立して以降は「敵性国家」の烙印を押されて門前払いされたのである。

 

情勢に機敏な知識人や軍人を元に情報分析チームを設立。ロウリア王国が侵略戦争を仕掛ける準備をしている事から、消失していた監視衛星を展開。妨害する連邦軍の攻撃をはね返した。

 

国境に近づく軍隊やロウリア王国にある港に集まる軍用艦艇。高精度偵察衛星を見れば、兵士達が何を食べているかも分る。ミノフスキー粒子を散布していない状態ならば、しっかりと観測が可能だった。

 

「これほどの情報をどうやって……」

 

「以前、申しましたが。我々は宇宙に住まう者、惑星軌道上に監視衛星を固定しました。それとこれを……」

 

魔法帝国が実用化した人工衛星「僕の星」、それはロデニウス大陸だと神話レベルの話であったが、目の前の偵察衛星の写真を見る限り、それが事実とわかる。そして、マ・クベは公王府の印が入った高品質な羊皮紙と共に、コピー用紙に記された書類を用意する。

 

外交文書は相手の様子も考え、羊皮紙を使用した物を用意したが、それを見た外交官の顔色は驚愕の色から喜色へと変化する。

 

「ジオン公国総帥、ギレン・ザビ及び公王陛下デギン・ザビの署名の入った外交文書です。内容はクワ・トイネとの安全保障条約。そしてロウリア王国の宣戦布告後に発布される宣戦布告文書の写しです。クワ・トイネとクイラがロウリア王国と戦闘状態に入った場合、わがジオン公国はロウリア王国に宣戦布告・・・・・・・・・あの国を大陸から消し去ります」

 

 

 

 

 

中央暦1639年4月11日午前―――ロウリア・クワトイネ国境 30㎞付近

 

 

ロウリア王国東方討伐軍は近世のレベルで言えば、練度が非常に高く、よく訓練された軍隊である。加えて、ワイバーンの大量投入や魔法通信などの情報通信は地球のそれとは比べ物にならない、システマティックな戦闘行動が可能となる。その効果的な戦闘能力はクワ・トイネやクイラと比べれば歴然としている。だがそれは神聖ミリシアル帝国やパーパルティア製の魔法具。自国生産のものではなく、列強からの輸入品によって成り立っていた。

 

すでに、外交ルートから即時撤退を要求する文書が多く送られ、魔法通信のオープンチャンネルではクワ・トイネとクイラ両国の軍から再度解散要求がされるが、すべて無視。そして、軍用魔導通信は新しい暗号を使い、進軍の準備が進められている。

 

 

「明日、ギムを落とすぞ」

 

軍議のテントに響く将軍パンドールの声に他の騎士や指揮官は緊張した表情を浮かべていた。ギムに攻め込む先遣隊約3万が彼の指揮下にあり、その内訳は歩兵2万、重装歩兵5千、騎兵2千、遊撃兵1000、魔獣使い250、魔導師100、そして、竜騎兵150である。

 

その軍備にパンドールは内心、必ず勝てると考える。しかし、その思いが表情にでることはなった。必勝である状況ではあるが、指揮官がそれを周囲に見られれば、戦いは非常に杜撰でもろいものとなる。

 

だが練度はクワ・トイネと比べて高く、これまでの情報を統合しても、クワ・トイネとクイラの弱兵はロウリアの10分の1以下に等しい戦闘力である。これほどの軍勢で攻撃を仕掛ければ城塞都市であるギムは陥落するであろう。

 

「ギムでの戦利品はいかがしましょうか?」

 

副将のアデムが話しかける。彼の冷酷な性格はパンドールも目に余るものであったが、軍略の才や荒ぶる兵士の抑え方も心得ている。なにより、そうした兵の人望もあつい。

 

「副将アデムよ、お前に任せる。」

「了解いたしました。」

 

進行すれば、国境の町ギムは後方拠点として使われることになる。中途半端に占領しても禍根を残すだけ。それなら、アデムのような冷酷な人物に任せ、恐怖によって街を支配する方が効果的である。

 

パンドールは凌辱と略奪の命令などしたくない。だが、アデムは最適な人材であり、さっさとパンドールは奥へ引っ込んでいく。

 

「ギムでは、略奪を咎めない、好きにしていい。女は嬲ってもいいが、使い終わったらすべて処分するように。一人も生きて町を出すな。全軍に知らせよ」

 

「はっ!!!」

 

 アデムの部下は、すぐさま天幕を出ようとするが、アデムは命令を修正した。

 

「やはり、嬲ってもいいが、100人ばかり、生かして解き放て、恐怖を伝染させるのだ。それと・・・、敵騎士団の家族がギムにいた場合は、なるべく残虐に処分すること」

 

まさに悪魔の所業。選民思想と亜人撲滅を目指す輩の多くは、亜人を物としか見ていない。パンドールは王の命令を重視する軍人であったが、そうした思想は相容れなかった。戦争には華々しい物語や勇ましい話が多くあるし、事実も含まれる。だが、真実としてアデムのような狂人が指揮を執り、まさに地獄が形成されるのである。

 

 

一部の理性ある部下はアデムに対して恐怖を抱いていた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

中央歴1639年4月12日早朝―

 

ロウリア王国軍の魔信封鎖により、異常なほど静かだった魔法通信は、日の上る瞬間に一気に増えた。

 

(こちら第三監視所!ロウリアの部隊が越境!至急応援を!)

 

(こちら空中警戒騎、アクィナ1!東よりロウリアのワイバーン多数がギムに接近中!)

 

 

ギムに駐留する国境警備の任を任されていた西部方面騎士団、団長モイジは司令部の通信魔導士が受信する報告を聞き、苦虫を噛みしめていた。

 

「迎撃騎を挙げろ!ワイバーンの正確な数は!?」

 

「およそ70と監視塔から報告が!」

 

「不味い……」

 

ギム駐留のワイバーンの数は24騎。ロウリアはその約3倍。如何に精鋭の騎士団所属のワイバーンであっても、その兵力の差は覆せない。物語のような竜騎士が一騎当千の活躍をするなど、現実ではありえない話なのだ。

 

戦いの定石はワイバーンの掃討から制空権の確保。そして、歩兵や騎兵による攻撃。城壁の突破が挙げられる。だが、戦場の定石とは覆すべきものである。イモジは他の通信魔導士の報告によって顔色を青くする。

 

 

「敵およそ2万がこちらに接近中!兵種は歩兵に騎兵、攻城兵器を多数保有しています」

 

「くそ!このままでは」

 

ギム駐留の西部方面騎士団の総兵力は約4000.五倍の戦力を持つロウリアに太刀打ちできるはずもない。ギムはロウリアの雑兵に蹂躙され、女子供は陵辱されて殺される。男はそのまま根絶やしにされるだろう。多くの騎士団は町に家族がおり、死守するつもりで戦うだろう。既にイモジは民間人の脱出を優先していたが、機動力のある騎兵やワイバーンによる攻撃から避難がうまくいっていない。

 

包囲されてしまえば、確実に町は地獄となる。

 

歩兵と騎兵、そしてワイバーンによる電撃攻撃はまさに破竹の勢い。クワ・トイネの少数部隊では太刀打ちできず、満足に魔導通信器を持たない部隊は、情報伝達や統合的な部隊運用の出来ないために、蹂躙されていくのだ。

 

その光景を考えたイモジは絶望に飲み込まれそうになるが、通信魔導士の報告を聞き、顔色を変えた。

 

「近くに駐留中のジオン公国軍より通信!クワ・トイネとジオンとの間で結ばれた安保法の適用に伴い、救援に向かうとの事です!」

 

「数は?!」

 

「え~っと、もう一回言ってくれ!……了解、巨人の小隊を送るそうです。また歩兵部隊も複数援護に向かうとの事です」

 

イモジは神の御加護があったことを感謝し、涙腺が崩壊する。民間人を助けられることが分り、通信士に避難民の脱出路を確保するよう要請する。

 

ギムの長い一日は始まったばかりだった。

 

 

一方、クワ・トイネ首都には魔導封鎖やロウリアによる魔導通信施設の集中的な破壊工作によって、侵攻の第一報は昼頃まで連絡されず、緊急の政治部会が開かれたのは夕刻に入ってからだった。

 

情報収集を行い、崩壊した部隊の再編制。偵察隊を送り込み、状況の把握に努め、やっとのことで敵の動きを政治部会が把握するまでに相応の時間が掛かったのだ。

 

「現状を報告せよ」

 

その言葉に冷や汗をかいた軍務卿が答えた。

 

「はっ!現在ギム以西は、ロウリア王国の勢力圏。ギムの攻撃には3万人の兵力を擁しており、現在ジオン軍の航空部隊によって一進一退の攻防戦を強いています。また、総作戦兵力は50万に達する模様。また、第三文明圏、フィルアデス大陸の列強国、パーパルディア皇国が、彼らに軍事支援をしていると分析しています。現に今回500騎のワイバーンを投入。また、4000隻以上の艦隊が港を出て沿岸部に上陸するかと……」

 

 

 会議場は沈黙に包まれた。全官僚がその50万という兵力と自軍の兵力を比べる。クワ・トイネの兵力はその五分の一。単独では確実にクワ・トイネそのものが消え去ることになる。唯一の希望はジオン公国軍部隊が演習としてギムの近くに駐留していたことであろう。宇宙攻撃軍所属のランバ・ラルの特務隊がクワ・トイネ王国軍との合同演習中であった。

 

本来であれば、キシリアなどの突撃機動軍の管轄であったが、歩兵戦術といった技術や教導隊の教官経験を持つランバ・ラルを間借りし、MS数機と歩兵部隊、航空部隊やその他諸々を持ってきていた。中にはギャロップなどの陸上艇などもあり、既にギムの救援に向かっていた。しかし、ランバ・ラルの特務教導隊は少数であり、それこそクワ・トイネ王国軍の特別教導隊に小火器訓練や現代歩兵の戦術を叩きこんでいる真っ最中。共同戦線を張れるものではない。

 

如何に優れた科学技術と兵器を持っていたとしても、武器弾薬や人員にも限りがあるため、ギムは奪われることを前提で行動していた。

 

 

「首相、よろしいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

軍務卿の次に手を挙げたのは外交をメインとする外務卿であった。

 

「ジオン公国軍の申し出によって、今回のギム救援は特別教導隊も含めた部隊が投入されますが、まだ部隊の装備転換は進んでいません。ジオン公国軍はロウリア王国にたいして宣戦布告を決定。準備していた部隊の派兵を決定したとのことです」

 

 会場がざわつく。

 

何故なら、既に派兵準備をしたというのだから。誰との戦を準備していたのかと、政治部会の面々は様々な憶測が飛び交った。ロデニウス大陸を征服するための部隊を既に準備していたのではないか。これまでのインフラ整備は侵略の下準備か。と政治部会の面々が騒ぐ中、首相が「静粛に!」と喝を言い、静かになる。

 

 

「ジオン軍は転移前に地球連邦軍との戦争を準備しており、一月の流星群はその戦いで撃沈した地球連邦やジオンの船だとの事です。彼らは常備軍を多く備えていますが、総力戦のためと聞いています」

 

 

「なんと、あの流星群は彼らがやったのか・・・・!?」

 

ロデニウス大陸でも観測された1月初めに起きた流星群。天文学上ありえないことだったが、ジオンと連邦の戦争であったなら説明がつく。とは言え、彼らの脳内には宇宙という空間がどのようなものか、宇宙戦艦といったものがどのようなものかは想像できていなかった。

 

「だが、派兵するとして……その引き換えは?彼らとて無下に国民を戦地に送ることは避けたいはず。彼らの望みはなんだ?」

 

首相は外務卿に尋ね、外務卿はマ・クベが外交官経由で渡された一つの要望書を読み始める。

 

ジオン公国はクワ・トイネ公国およびクイラ王国への軍事的援助及び、ロウリア王国の撃滅を約束する代わりに次の事を要請する。

 

1、 セツルメント国家連合への加入

2、 ジオン公国との軍事協定

3、 ロウリア王国降伏後はロウリアの全権をジオン公国に委ねる

4、 なお、ロウリアが行った損害についてはジオンが立て替える

5、 戦争終結後は安全保障上、大陸全土に安全保障において万全な状態にするため基地を建設する。

 

「一体なんだこれは!我が国を傀儡にする気か!?」

 

軍務卿は声を荒げる。明らかに国力も技術力も上であることは分っている。しかし、ここまで下に見られた条件はあまりにも酷い。とは言え、国家を廃して、ジオンの属国にするのではない。対等の関係としてセツルメント国家連合という国際組織に加盟するという、比較的に優しい要請でもある。

 

憤慨する軍務卿であったが、首相は「落ち着け」といい、場が静まると共に話し始めた。

 

「皆、これまで彼らのしてきたことは分っているはずだ。彼らの科学技術は我が国のそれを軽く凌駕している。それこそ、一週間で征服してもおかしくない。だが、彼らはそれをせず、三大文明圏の国々のような目下のような扱いをしなかった。」

 

 

「ですが・・・・・・・!」

 

「そうだ、彼らは我々に尋ねている。死を選ぶか我と共に栄華を築くか・・・・・・・。これまで我が国は文明圏の列強とはそこまでかかわらず、独立国を維持してきた。不当に搾取され、虐げられる苦しさは分っているはずだ」

 

大国ロウリアと対立そして大国のパワーゲームに巻き込まれる小国。歴史上、クワ・トイネやクイラもその腰を曲げて、大国に頭を垂れてきた。ジオンも同じく、連邦政府に対して搾取され、中央政府に対して意見を言えず腐敗する官僚政治がコロニーを搾取する体制が出来上がっていた。

 

クワ・トイネとクイラの両国は情報収集のために留学生に紛れて諜報部隊を派遣していた。彼らはジオンの実情とそれまでの苦難を知り、政治部会に提出していた。

 

実はキシリア機関に感づかれているのだが、情報収集はどこの国でも行われるものであり、国力を分らせるために、知ってて放置していたのである。

 

「ジオンは我々を無下にはしないだろう。私はこの要請を受け入れようと思う。どうだろう、皆?私と共についてきてくれるか?」

 

政治部会は全会一致をもって、ジオン公国と密約を結ぶ。そして数日後ジオン公国はギムの奪還とロウリア王国の制圧と解体を目指した『バスティーユ作戦』を発動した。

 

 

 




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