慈恩公国召喚   作:文月蛇

8 / 30
第七話 ギム後退戦【修正済】

「逃げろ!逃げろ!一つ目の巨人が来るぞ!」

 

「なんであいつ、死なねぇんだ!化け物かよ!」

 

「死にたくない!死にたくない!」

 

兵士達の狼狽えた叫び声が戦場に響き、狂乱する若い兵士の姿。古参兵も死にたくないと甲冑を脱ぎ捨て脱走する。兵士達は皆、ロウリア王国の兵士達だった。国境線の街、ギムは半日で落とせると思われていた。だが、どうだろう?二万の兵力を投入し、クワ・トイネ公国の西部方面騎士団のワイバーンをすべて撃墜、脱出しようとする避難民を追い詰めてから風向きが変わり始めた。

 

最初は変な音と共に現れたムーの飛行機械にも似た鉄の塊。3機と少なく、その20倍の数のワイバーンが手ぐすね引いて待っていた。だが、圧勝であるはずの遭遇戦はワイバーンがバーベキューになってしまった。ジオン公国のズム工廠で製造された大気圏内用戦闘機「ドップ」が横隊陣形のまま迫ると、ミサイルポッドに装填されたミサイルを発射。近接信管を用いたそれは密集するワイバーンを纏めて黒焦げにして、搭載された30㎜機関砲をぶっ放す。ワイバーンの火炎弾を放つものの全く当らず、音速で飛行するそれに横切られたワイバーンは何故か吹き飛ばされ、地上に叩き落された。そしてすべてのワイバーンが蹂躙されると、次は避難民を脱出させないようにしていた騎兵隊や軽歩兵に対して攻撃を行った。ワイバーンが行う火炎弾以上に的確な攻撃が行われ、一時間近く蹂躙すると姿を消した。

 

だが、それで終わりではなかった。西の谷から緑色の巨人が出てくると、三大文明圏で使われる魔導砲クラスの砲撃が降り注ぎ、歩兵他、魔獣の肉片が飛散し、中世的な密集陣営は瞬く間に精肉工場と化した。発砲音が響き渡るたびに大地が抉れ、味方が空を舞う。ある兵士はがむしゃらに突撃し、肉片となって帰ってくるか、またある者は百人隊長の命令のないまま撤退を行う。ギム包囲は瓦解し、ギムに残っていた民間人は急いで脱出を始めていた。

 

その時のギム包囲から亜人殲滅の任を受けたアデムはその凶悪な顔を歪め、撤退を進言する兵を斬り殺し、進軍を指示したという。その後、緑色の巨人の攻撃は砲撃からその巨体の足で踏みつぶす戦略がとられたものの、数時間で撤退した。しかし、ギムの市街戦は混沌としていた。民間人は未だに街の中におり、略奪を行おうとした部隊が街の中に進軍。しかし、金属製の荷車から攻撃を受け、バタバタと兵たちは死んでいく。また、歪な地竜のような金属製の変な動く荷車が接近し、発砲と同時に兵士たちが吹き飛ばされる。また破裂音と共に味方の兵が血を流して倒れていく。

 

圧倒的な兵力を持っていたギム攻略のため編成した部隊は壊滅。予備部隊の殆どが戦闘不能になっていた。3日間の戦闘の末にギムの街を占領した時には、本国で編成された本隊が支援し、ジオン軍は這う体で後退していったと末端の兵士に向けて布告が為された。しかし、噂話は想像以上に広まりを見せるもの。ギムを攻め落とせずに攻撃部隊が壊滅したという知らせはほとんどの兵が知ることになり、ロウリア王国軍部はそのことを徹底して隠そうとする。だが、失った兵員は隠すことは出来ず、行軍進路上にあり、要衝の一つだったためにその惨状は既に一般民衆にも広がっていることだろう。

 

 

「なんてことだここまで被害がでるとは・・・・・・・」

 

 

将軍パンドールは副将アデムの報告に落胆する。ジオン公国という国は中々侮れないと考えていたが、鉄の巨人やムーの飛行機械、そしてパーパルディアの鉄砲にも似た武器。しかも、パーパルディアのそれより数段に高性能であった。

 

 

一体、何と戦っていたのかと疑問に思う。そして、この度の戦争に対して不安を覚えた。

 

 

彼の不安は一週間もしないうちに現実になるなど、思いもよらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「フフ、この風……この肌触りこそ、戦争よ!」

 

 

ジオン公国軍の野戦服に身を包み、ギムの前線にいるのは嘗てジオンの名家として知られるラル家の当主、ランバ・ラルだった。戦場の匂いを嗅ぎ、戦士の魂を呼び起こす。持っていたスマルツァMP-71 短機関銃の引き金を引き、迫りくるロウリア歩兵達をバタバタと薙ぎ倒す。

 

「大尉ぃ!準備完了です!」

 

「よくやったクランプ!アコーズとコズンのザクの弾薬補給は?!」

 

「持ってきた弾薬は全て使い切りました!流石に踏みつぶすのはもう無理ですよ」

 

 

軍人とは言え、理性を持った人間である。生身の人間をMSの足で踏みつぶす行為はあまり教本には載っていない。そもそも、非人道的行為であり、パイロットの精神的観点から勧められていない。それでも行ったのは、略奪と陵辱目的から街への侵入を目論む蛮族であったからだ。しかし、ザクを操縦するアコーズ、コズンの両名は民間人を守るために非道に墜ちようとした。ランバ・ラルとてその決断は難しく、二人を労わねばと考えていた。

 

 

「クランプ、民間人の誘導は?」

 

「クワ・トイネの教導隊が誘導してます!奴ら張り切ってます」

 

クランプは持っていたStG78 ライフルを腰だめ撃ちし、バリケードを壊して現れた重装歩兵をハチの巣にする。

 

教導隊やゲリラ戦のプロフェッショナルであるランバ・ラル率いる特務隊。彼らの任務はクワ・トイネで新たに結成された教導隊の指導である。宇宙世紀における標準的な兵士を育てるため、ギムの街のおよそ40㎞の地点で演習を行っていた。しかし、まだ訓練はまだ始まったばかりであり、ランバ・ラルの背中を守らせるには心もとなく、今回は避難民誘導や伝令として軍務についていた。

 

「そうか。……よし、第二防衛線まで後退する。騎士団の奴らにも伝えろ!」

 

「了解!野郎ども!後退だ!」

 

クランプの合図と共にジオン軍兵士は後退し、あるものは手りゅう弾や榴弾発射機を使用して、後退を援護した。その後退に気づいたロウリア兵は一矢報いるつもりで騎馬兵が束になって吶喊する。だが、それはランバ・ラルの常套手段であった。

 

 

「よし、クランプ!爆破しろ!」

 

「了解!エデン特製カクテルを食らえ!」

 

 

 

クランプは手元にある有線起爆装置を起動する。数百のボールベアリングが飛散し、突貫する騎士と軍馬は共々ミンチになり、クレイモア地雷の威力は騎馬を狂乱させ、歩兵部隊が躊躇するに十分だった。そして、クランプはもう一度他のスイッチを押す。

 

次の瞬間、通路に立ち止まる兵士に倒れるように、三階建ての家々が崩れていく。ギムは比較的小さい町であったが、城塞都市であるために建造物は比較的高い。細い道であったために敵兵が集中しているため、タイミングよく建物を破壊できれば瓦礫で敵を倒せるのだ。

 

「ルッグンが偵察中。敵の歩兵部隊は迂回路を探すとの事!」

 

「そうか、避難はもう終わりそうか?」

 

「ちょっと待ってください……もう撤退しても大丈夫そうです。西部方面騎士団の残存兵力も撤退始めました」

 

 

―頃合いだな。

 

 

ランバ・ラルはクランプへ撤退命令の無線をするように言うと、腰のベルトに入れていた信号銃を空へと放つ。もともと、ミノフスキー粒子影響化での任務を想定して訓練してきた部隊である。無線が使えない状況では信号弾を撃つ決まりとなっている。

 

信号弾はザクの全長を軽く越し、赤い炎が空に滞空する。

 

 

その赤い信号弾の意味は撤退信号。

 

 

だが、これは負けではない。民間人をすべて脱出させ、敵をギムの城壁に釘付けにしていた。この撤退は勝戦。多大な犠牲を払ってロウリア王国はギムを制圧するが、あるのは廃墟と略奪予定だった食料の残骸、焼夷手榴弾によって燃えたごみかすになっている。休息を取ることもできず、亜人の女を慰み者にしようとしていても、どこにもいやしない。

 

 

「この戦いは我々の勝ちだ」

 

 

「ギム包囲脱出戦」歴史書に語り継がれるランバ・ラルによる脱出劇。これはジオンやセツルメント国家連合のコロニーにおいても、悪逆非道のロウリア王国軍からクワ・トイネの民間人を救助するということで、英雄として深く評価されるに至った。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。