慈恩公国召喚   作:文月蛇

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昨日投稿できなかったのを投下します。今日中にはロウリア王国は斃れます


第八話 ロデニウス沖海戦【修正済】

 

 

ズムシティにある一角。そこにはジオン公国の他、各サイドにある企業体の技術者や責任者が集められていた。ジオニック社などのジオン軍需産業の面々がいたが、彼らは主役ではない。主役は連邦軍向けの軍需を展開する企業の面々だ。中には両者に武器を提供するアナハイム社の存在もあり、その集まりの内容を知らなければ、ジオンの有識者会議か経団連を設立するのではと勘ぐってしまいそうだ。

 

しかし、その会議はそんなに単純な話ではない。

 

 

「ジオン公国軍はあの惑星での軍事行動……防衛のための兵器を模索中だ。今後の調査や現地の友好国のために兵器などを製造してもらいたい」

 

今回の議長を務めるのは、政財界にも明るいギニアス・サハリン技術少将だった。サハリン家はムンゾ自治共和国時代からジオニック社などの大企業と親しい間柄であり、ギニアスとアイナが両親と離別して以降は、ザビ家や他の両家からバックアップを受けていた。ギニアスは元々、メガ粒子砲や火器管制システムなどの研究者であるが、こうした良家のパイプがあるために、今回の会議の音頭を取ってもらっている。

 

ギニアスはサハリン家の復興を目論んでいるが、実のところ自身の病気に関する治療に光明を見出したからでもある。ギニアスは開発途上段階であった「アプサラス」を実用段階にして、連邦を打倒。その功績をもってサハリン家を復興する計画だった。しかし、転移後は、連邦が駆逐され、アプサラス計画も凍結された。

 

失意のどん底だったが、新たな惑星に魔法を用いた治癒技術があると聞き、ギニアスはそれに飛びついた。ザビ家との取引の後に、地上兵器のノウハウを持つ連邦系企業との連携を行えれば、優先的に治療技術を渡すということで、ギニアスはそれを引き受けたのである。放射線病を患い、幾ばくかの人生しか残されておらず、ただ一人の肉親であるアイナを残していくことを危惧していた彼は持病を押して、この会議に参加していた。

 

「アナハイム社のスタークです。以前、連邦からミノフスキー粒子を利用した大気圏上でも使用できるミノフスキー・クラフト。所謂、熱核エンジンを使用せずとも、ミノフスキー粒子を利用した浮遊動力機関を開発しています。そちらをザンジバル級巡洋艦に搭載するのはいかがでしょう?」

 

アナハイム・エレクトロニクス社は連邦など軍民の様々なものを手掛ける大企業の一つである。「スプーンから戦艦まで」製造するのがアナハイム社であり、ホワイトベースや強襲揚陸艦の設計、建設なども行っている企業である。

 

「ハービック、ルウム支社のタナカです。大気圏や重力は地球と同じであると資料にありましたが、それはお間違いはないでしょうか?でしたら、連邦系兵器をジオン公国軍に納入しますか?」

 

「新規設計も後々考えていますが、直ぐに投入できるのであればしていただきたいところです」

 

ハービックは地球連邦軍に多くの武器兵器を製造する企業であり、本社はワシントンD.C.に置かれている。しかし、本社との通信途絶。コロニーの支社や工場などは、ジオン支持派のデモにより被害を受けていた。今後は肩身が狭くなり、ジオン・ラインメタル社による買収や吸収合併もあり得る。そうなれば、ハービックそのものが無くなりかねず、彼らの家族は路頭に迷うことになるかもしれない。後ろ盾の欲しいハービックはジオン政府への協力を惜しまない方針だった。

 

「ヤシマ工業のヤシマです。一つお聞きしたい……ジオンが行うのは侵略戦争ですかな?」

 

発言したのは、この中でも支社長といった役職ではなく、会社に名前を付けた会社の顔とされる人物。シュウ・ヤシマ会長であった。ヤシマ重工は一応、本社を東京に置いていたものの、製造拠点はコロニーなどに移転しており、既に本社機能の殆どがルウムに移転していた。ただ、戦争勃発前にはサイド7に移住していたが、ルウム会戦において連邦軍が敗退。サイド7やルナ2に残存兵力を移す時に戦禍を逃れて、再びルウムへと戻ってきていた。

 

彼は地球連邦の体制や腐敗に対してよく思わず、サイド7に移住したのだが、ジオンの提唱する選民思想やギレンの一党独裁においては断固とした態度を取っており、一切ジオンとの取引をしていない人物でもあった。

 

そんな人物が何故ここにいるのか。

 

ジオンの国内情勢が変わりつつあり、ギレン総帥は選民思想を掲げる団体をテロ準備組織として壊滅させ、自身も選民思想に対して一言も話さないようになってしまったからである。選民思想は民衆を纏める手段と割り切っていたのかもしれない。地球連邦政府や軍は『有り得ない』と高を括っていたが、多くがコロニー落としを予測していた。コロニーの殆どを核で焼き尽くさず、他の連邦系コロニーへ恭順の機会を与えたのがきっかけだった。

 

そんな彼を企業から出向した人々は息を飲み、ギニアスの答えを注視した。

 

「ギレン総帥は嘗ての人類が行った地球の環境汚染や温暖化を現地種族がするのではと危惧されておられる。聞いているかと思うが、友好国のクワ・トイネとクイラに対して攻撃を仕掛けたロウリア王国にジオンは宣戦布告を行った。非道な命令と種族の撲滅を目指す彼らに対して、鉄槌を下すのがジオンの意思である」

 

ギニアスの後ろのスクリーンには、ロデニウス大陸の地図が表示される。某社員は「オーストラリア大陸に似ているな」と呟き、ロウリア王国から出る矢印がクワ・トイネの領土を侵略している様子を表していた。

 

「ここにはかつて連邦政府を支持していた者もいると思う。そして、ジオンを疑う者もいよう。民間人への殺戮は……このサハリン家の名に懸けてありえないことを誓おう。」

 

ギニアスの言葉を聞き、多くの人々は顔を見合わせる。ムンゾからあるサイド3の名家、サハリンの当主が頭を下げることなど普通はない。そのギニアスの言葉を受けて、ヤシマ重工のシュウ・ヤシマは立ち上がった。

 

 

「ギニアスさん、頭をお上げください。私やここに居る連邦に連なる企業はジオンの掲げる選民思想や独裁には反対です」

 

ヤシマはそこで言葉を区切り、メガネを拭く。

 

「私自身、アースノイドです。ですが、ギレン総帥が唱える地球連邦の腐敗については私も胸を痛めています。今後、ジオン公国は人類を率い、二度と選民思想や独裁に手を伸ばさないのであれば、協力は惜しみません」

 

「なんと……」

 

会議室は騒然となり、多くの企業の人間は耳打ちする。ヤシマを中心に対ジオン企業体を形成しようという企みを持っていた連邦よりの企業は、彼の発言に頭を抱えていた。

 

「この前、ギレン総帥が自分の後援団体をテロ準備組織として壊滅させたことは存じています。ただ、まだ私を含めてジオン公国が選民思想や独裁と言った旧世紀の指導者にならないか心配なのです。ギレン総帥が今後、ジオン公国の民主化と独裁について改善していくと約束していただき、言論の自由や三権分立の確立、不当逮捕や秘密警察の解散など『正常な国家運営』を実施。選民思想という悪しき独裁者の戯言を二度と言わないことを約束してください」

 

ヤシマ重工の賛同により、ジオン系企業も含め、ヴィックウエリントンやサムソニー、トヨタ、タキム、ノーフォークなどの企業が参入。

 

後のセツルメント国家連合の経済団体連合会が発足した瞬間だった。

 

だが、セツルメント国家連合と経済団体連合会はジオン公国の独裁体制やギレン総帥の全権委任に基づく集権化に反対していた。選民思想はやめたギレンだったが、今後セツルメントという国家形態がどのようにして、ジオンを阻んでいくのか、ギレンを含めたジオンの人間には予想できなかった。

 

 

 

「やはりジオンはレビルを締め上げる気だろう。我々はどうする?」

 

「表立って対立しても、あとでザビ家が潰しに来るはずだ。アナハイム社のようにうまく立ち回らねば」

 

「キシリアの子飼いの奴らにバレぬように。既に月面に輸送部隊が控えている。さっさと物資を運んでやらねば、レビルも餓死しかねんからな」

 

ジオンよりのセツルメント国家連合、経済団体連合会。それに連なっている連邦資本の企業連合。水面下での諜報戦が開始されようとしていた。

 

 

 

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中央歴1639年4月20日 マイハーク港

 

ジオン公国の人工衛星によって、ロウリア王国の軍港などから4000隻以上の大艦隊が出発したと伝えられ、マイハーク港を本拠地とするクワトイネ公国海軍第2艦隊は臨戦態勢を敷いていた。

 

水上戦闘用の弓矢やバリスタ、木盾。加えて乗組員の食糧を積み込んでいた。未だロデニウス大陸には火砲はなく、魔術師がその代わりを務める。しかし、魔術師の数は限られ、一人当たりの魔素も限られる。大陸では標準的な水軍であるが、海上戦闘の主力は海兵隊。つまり、船から船へ飛び移る海賊映画で見られがちな戦いを行うのだ。

 

そして、クワ・トイネ海軍の船舶の数は50隻。これでもかなり多い方であり、いくつかの支援船舶や商船を徴発してもロウリアの大艦隊には手が届かないだろう。

 

 

「壮観な風景だな」

 

 

提督パンカーレは海を眺めながらささやく。提督の任についてから観艦式をしてもそこまで集めることが出来ず、30隻が関の山だった。近年の緊張状態から、20隻を建造して配備していた。ここまで多い艦隊は見たことがないが、敵はその100倍以上。想像できない数であり、ある程度敵を押しとどめた後に、ゲリラ戦。戦力温存のために十数隻程は他の無事な港へ退避させるつもりだった。

 

「……敵は4000隻を超える大艦隊・・・・・・・・海岸の街は殆ど壊滅する」

 

側近に本音を漏らす。圧倒的な物量の前にどうしようもない気持ちがこみ上げる。多くの部下は町を何としても守り抜く決意で作業していたが、敵艦隊と会戦しても一度撤退を余儀なくされる。その後は一撃離脱を繰り返すゲリラ戦を展開しなければならない。たとえ、本拠地であるマイハークが火の海に包まれていても、温存のために無謀な戦いは避けねばならないのだ。

 

だが、マイハークを抑えられれば、クイラへの食糧供給が出来なくなる。半年もしないうちにクイラは飢餓に襲われるだろう。既に海岸線の要所にはクワ・トイネの他、クイラ王国軍の部隊が多数配備されている。敵を撃退したとしても、マイハークなどの主要交易路の麻痺により、餓死者が出ることは避けられそうにない。

 

「提督、海軍本部から、魔伝が届いています」

 

側近であり、優秀な士官であるブルーアイは海軍本部より暗号魔伝の封を渡す。

 

 

「読め」

 

 

「はっ!本日夕刻、ジオン公国の・・・・・・・・・」

 

「どうした?続きを」

 

言いよどむブルーアイに驚く提督であったが、怪訝な表情を浮かべながら彼は文を読み上げる。

 

 

「はっ、軌道上より降下する宇宙攻撃軍所属、コンスコン少将指揮する4隻の降下部隊が到着する。我が軍より先にロウリア艦隊に攻撃を行うため、観戦武官1名を彼らの旗艦に搭乗させるように指令する」

 

「何!?たったの4隻!!??400隻か40隻の間違いでは?」

 

「間違いではありません」

 

4000隻の敵艦隊に対して50隻のクワ・トイネ艦隊。そして、先制攻撃を加えるのはジオン公国軍の宇宙攻撃軍のコンスコン隊。艦隊とも呼べないたった四隻に何が出来うるのかと、失望のあまり椅子に寄りかかってしまう。

 

「やる気はあるのか、わが国が存亡の危機に直面しているというのに!それになんだ宇宙攻撃軍って!馬鹿にしているのか!しかも観戦武官だと?4隻しか来ないなら、観戦武官に死ねと言っているようなものではないか!!」

 

いつも温厚であり、部下からも人気のある提督であったが、流石の提督にも怒り位はある。デスクに拳を叩き付け、怒り心頭であった。しかし、いくら命令書を読んでも、4隻の文字は変わることなく、宇宙攻撃軍とは一体何かと説明書きすら見当たらない。

 

「・・・私が行きます」

 

執務室に沈黙と失望が充満する中、ブルーアイが発言する。

 

 

「しかし・・・。」

 

「閣下、私ならば問題ありません。ジオン公国は我が国の数百年以上文明が進んでいます。彼らも無下に4隻の軍艦を死地に送り出しはしないでしょう」

 

「・・・・・・・・・すまない・・・。たのんだ」

 

「はっっっ!」

 

とは言っても、ブルーアイも4隻という数の少なさに驚いていた。もしかすれば悪い夢なのではと思うぐらいである。

 

そして、その日の夕刻。

 

マイハークにあるワイバーン飛行場に来たブルーアイは、目を疑っていた。何せ海軍の将校である彼はどう考えても、港に来るはずだと思っていたのに、飛行場に来るよう言われ、何が何だか分らなかった。

 

その船は彼の常識からかけ離れていた。ジオンとの接触の時、海軍が海上を浮く黄色い金属製の箱を目撃し、外務省は空飛ぶ箱舟のようなものから人がおりてきたと言っていた。あまりにも現実味のないため、酒場で誇張して作り話をしたのではないかと思っていた。

 

しかし、どうだろう。今彼が見ている船は空を飛んでいる。全長250m近い鉄の箱舟が空を飛び、地上に着陸している一隻を除けば、3隻の巨体が宙に浮いているのだ。周囲を見ればブルーアイの他にも、ワイバーンを世話する作業員はポカンと宙を見上げており、竜騎士ですらその有様である。

 

すると、モスグリーン色の鉄の箱の一部が開かれ、15m弱の巨人が姿を現す。周囲にいた作業兵は悲鳴にも似た声を挙げ、ワイバーンですらその巨体に対し恐怖したように吠え出す。

 

ブルーアイには見えなかったが、MS-06J ZAKUⅡの文字が胸に刻まれている。そして、その胸が開くとともに、人間と思われる搭乗者が見えていた。

 

「きょ、巨人に人が?!」

 

「驚きましたかね?」

 

「!?」

 

ブルーアイが視線を近づいてきた人たちへ向ける。そこには見慣れない軍服を身にまとう老練の指揮官らしき姿と秘書らしき女性がいた。もう一人は軽装備であるものの、武装していることが分り、護衛なのだろう。先頭の人物が右手を差し出し、握手を求めた。

 

 

「ジオン公国宇宙攻撃軍所属、コンスコン機動特務隊 コンスコン少将です。ブルーアイ少佐でよろしかったかな?」

 

「はっ、そうであります!出迎えしていただきありがとうございます。」

 

少将は少佐のブルーアイからしてみれば、殿上人である。少佐と言う階級もジオンの階級をモデルに作った階級であり、ブルーアイの以前の肩書は海軍男爵だ。そんなコンスコンが観戦武官を呼びに来るなど、彼からしてみれば驚愕であった。

 

「硬くならなくともよい!ワシもコイツに乗ってそこまで時間は経ってないが、なかなか楽しい乗り物だ。会戦まで客船のつもりで楽にしてくれ」

 

気さくなおじさんと言ってもいいだろう。威圧的な軍服な割には、紳士的な対応に驚きつつも、そのまま艦内にエスコートされる。ブルーアイの知る客船はもっと貨物船の様相であったが、船の内装は非常に洗練されていた。

 

「おじさま!」

 

「こら、軍では少将か閣下と呼びなさい!・・・・・・・・・失礼した、わしの援助する孤児院の生まれでな。」

 

「は、はぁ」

 

―いや、どこのキャバクラだよ・・・・・・・・・。

 

と喉まで出そうになったブルーアイである。壮年の高級将官が若い女性を侍らせているようにしか見えない。彼は本心は「いいなー」と思っていた。かわいい女の子に抱きつかれたらそれはもう天国である。悔しいような、自分が少将と同じ年になったら犯罪的な絵づらになることは確定だろう。会戦までブルーアイは冷めた面持ちでザンジバル級巡洋艦の中を案内されるのであった。

 

 

 

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中央歴1639年4月20日 夜

 

ロウリア王国東方討伐海軍の海将、シャークンは蓄えたひげをなでつけ、潮風を浴びていた。

 

「いい景色だ。美しい」

 

大海原を美しい帆船が風をいっぱいに受けて進む。その数は4400隻。大量の水夫と水上戦闘に備えて海兵隊を待機させ、クワトイネ公国経済都市マイハークを蹂躙せんとしていた。その圧倒的物量は地球の歴史を紐解いても、ここまでの艦隊がそろえられたことはなかった。そのすべてが戦闘用。上陸作戦のために発進しているのは前例がない。

 

前時代の世界大戦、ノルマンディー上陸作戦において同規模の艦隊が投入されたが、中世の文明を持つロデニウス大陸を地球の歴史に当てはめて考えれば、その当時の地球の歴史で運用された事実はない。

 

海が見えず、夜のために松明によって照らされたそれはまるで真昼間のようであった。密集した船舶はまさに海上都市と見間違えても不思議ではない。6年の歳月をかけて、パーパルディア皇国の軍事援助を経て、ようやく完成した大艦隊。

 

―これだけの大艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウス大陸には無い。いや、もしかしたら、パーパルディア皇国でさえ制圧できそうな気がする。シャークンは野心的な考えを思い浮かべたが、直ぐにやめてしまった。もちろん、政府首脳陣は取引に何らかの譲歩をしたはず。そして、パーパルティアはそこまでお人好しではない。

 

だが、この光景を見れば、ロウリア人であれば歴史の一ページを飾る。見たことを子孫に語り継ぐことだろうと思う。そこまでその光景は記憶に残るものであった。

 

しかし、彼や艦隊の皆は気づいていなかった。彼らははるか上空を飛行する衛星によって捉えられ、監視されていることに。

 

そして、彼らの近くを鉄製の巨人が泳いでいることなど知る由もなかった。

 

「海将!北の方角から何かが接近してきます!」

 

「ワイバーンか?」

 

と言っても、まだ陸地まで距離がある。以前までは海岸線ぞいに進むことも考えていた。しかし、それでは時間も敵の準備も進んでしまう。海上の風によって迂回してマイハークへ上陸する方が効果的だと考えていた。クワ・トイネのワイバーンは航続距離が短く、ここまでは飛んでこれない。

 

「違います、大きさは……大きいです。全長250m?!距離は10000!」

 

「お前、酔っ払っているのか?」

 

流石のシャークンもそこまでの深酒を許可したわけではない。多少の宴は許可しているが、酔っ払った状態で監視任務についているなど、言語道断だった。シャークンは腰にあったサーベルの柄を掴むが、監視員は驚いた様子で弁解する。

 

「酔っ払ってはおりません!母に誓ってそのようなことは!ご確認を!」

 

シャークンは監視員から単眼鏡を奪い取り、監視員の見ていたものを見る。そこにあったのは三つの浮遊する何か。シャークンは一体何なのかと思うが、その物体はやがて大きくなり、その大きさは自身の知るジン・ハークの海軍司令部より大きいことを知る。

 

「な、なんなのだ!これはぁ!!!!」

 

夜空を飛ぶ三つの黒い影。彼らは知る由もない。ジオン公国が建造したザンジバル級巡洋艦、木造船など紙のように吹き飛ばし、神々の怒りに触れたのかと船員は恐怖する。そして神々の雷が落された。黄色い光線が最もマイハークに近い船舶が攻撃を受けて撃沈する。周りの船も巻き込まれ、一瞬で数隻が跡形もなくなっていた。

 

(こちらはジオン公国軍である。貴官らは我が国の同盟国へ宣戦布告した。わが友邦を助けるため助太刀する。しかし、わが方に手加減はできない。もし、退却すれば追撃しないことを約束しよう)

 

「くそ!馬鹿にしやがって!!」

 

シャークンは自分たちが人と戦っていることを知り、憤慨する。神であれば納得できよう。だが、同じ人間である。ならば、己の剣も通じるはずであろうし、バリスタや攻撃魔法も当たれば倒せるはずと考えたのである。

 

「全軍、あの空飛ぶデカブツに攻撃を加えろ!」

 

「全艦隊攻撃を開始!目標、上空の巨大飛翔体!」

 

魔導通信という情報伝達がリアルタイムで出来ることで、すぐさま艦隊は戦闘が開始された。バリスタによる攻撃が行われ、脂を染み込ませた火矢を放つ。しかし、それらは運よく当たっても大したダメージは与えられず、逆に味方に当ってしまう。

 

「ぐぇ!」

 

「ばか!味方を射ってどうする?!」

 

艦隊は混乱し、ザンジバル三隻は「警告はした」と放送すると同時に、ミサイルが放たれた。オーバーキルであろう多目的ミサイルの飽和攻撃。一瞬で前方数百隻が木端微塵に吹き飛び、木片の他、肉片が宙を舞う。まさに地獄と化し、既に前方船団は崩壊寸前であった。そして、二射三射とメガ粒子砲によって砲撃され、海水面は沸騰する。

 

「船はもうだめだ!うわ!熱い!」

 

「なんてことだ!海が熱湯になってるぞ!」

 

船が炎上してしまえば、海に飛び込むのが普通である。だが、海も灼熱となり、だれも逃げる場所無く遂に船団の殆どが混乱していった。

 

「なんということだ……」

 

 

もはや、指揮する気力も消え失せ、愕然と膝をつく。しかし、まだ終わらない。艦隊の中央に位置する彼の乗船の隣の船に突然、()()()()()

 

船体の竜骨を突き破り、マストをぶち破ったそれはまるで船底から突き刺したようになっていた。それは一気に引き抜かれ、隣の船は海底へ没した。

 

「な、なんだいまのは!?」

 

「海将、海中に何かが!」

 

「何かとはなんだ!?」

 

シャークンは先程の若い監視員へ叫ぶが、既にその姿はない。彼がいたところには巨大な爪が刺さり、茶色く塗られた金属とピンク色に光る一つ目を目撃し意識を失ったのであった。

 

同時刻、コンスコン少将と共にザンジバル級巡洋艦『エムデン』に乗るクワ・トイネ公国の観戦武官ブルーアイは目の前で起こることが現実か分らなかった。まるで神話における神々の戦いの様だった。神々の雷は海を割り、下々の者は海に飲み込まれる。そして、海から出てくるリヴァイアサンがその魂を海底に縛り付ける。それは今まさにブルーアイの目の前で起こっていた。

「ザンジバル級に搭載されるメガ粒子砲による一斉射撃は海面を沸騰させます。先程の放送の意味がお判りでしょう。これらは我が艦と同様の船へ攻撃するために作られたものなのです」

 

コンスコンの説明は若輩者であるブルーアイに分かりやすく、しかしそれでも分らない。理屈で理解できようとも、目の前の戦いは戦いでなく、虐殺である。しかし、彼らは我々に弓を引き、クワ・トイネを蹂躙しようとしていたのだから、大義名分はこちらにある。しかし、だからといって、目の前の地獄を正当化できなかった。

 

「・・・・・・むごいです」

 

「確かに……ですが、それによってマイハークは守られた」

 

コンスコンとて軍人である。そして、相手も軍人である。それなら容赦することは彼らの名誉を汚すことになる。

 

「あれは一体・・・・・・」

 

ブルーアイの指さす先には水陸両用MS、先行配備されたMSM-03ゴッグであった。

 

「先行配備された水陸両用MSです。我々はゴッグと呼んでいます」

 

「ゴッグ…ですか」

 

「ええ、もし普通にやっていれば六月にロールアウトでしたが、サイド6とサイド5の海洋コロニーで試験運用ができたため、助かりましたよ」

 

話は少しさかのぼる。ギニアス主導のセツルメント経済団体連合会を発足し、サイド7を除いてコロニーの経済や企業体はジオンを中心に動き始めた。

 

他のコロニーの水産プラントや海流プラントなどに入れて試験運用をおこない、完全に投入可能であることが分ったので、そのままザンジバル級の四番艦にそれらは搭載していたのである。そのため、水陸両用MS開発計画は数か月早く進むことになり、一足早くコンスコン少将の元に届けられたのだ。ゴッグが暴れる様子はまるで海神の怒りとも呼べるような有様であり、振り下ろされたゴッグのアイアンネイルは木造船を叩き潰していく。

 

「そうですか」

 

もし、ロウリア王国にジオン公国軍が着いたらどうだっただろうか。軍人として「もし」という事はあまり考えないようにしている。もし、命令をしなかったら、部下の命を救えたのに、と自問自答をくりかえすことになる。それは次から次へと戦場を渡る軍人にとって鬼門である。

 

ブルーアイは考える。もし、ジオン公国がロウリア王国に味方し、亜人せん滅せんとMSを使ったら?

 

クワ・トイネとクイラは間違いなく滅ぶだろう。

 

 

 

 

その時、パーパルディア皇国の観戦武官ヴァルハルは震えていた。艦隊後方にて物見遊山のつもりで来ていたが、艦隊の後ろにいたために運よく撃沈されなかった。ロウリアの4400隻の艦隊がどのようにクワトイネ公国を消滅させるか、記録することが彼の任務。パーパルティアの支援によって、ロデニウス大陸では強大な軍事力をロウリア王国は手に入れていた。蛮族にふさわしいバリスタと、切り込みといった原始的戦法という事であり、今後はロウリア王国を属国にするつもりである。

 

だが、箱を開けてみればどうだろう?あるのは神々の怒りに触れた人間が神の雷を落とされ、地獄と化す惨状だった。黄色い閃光が海に落ち、海が沸騰する。そこに落ちた者も多く、耳にはまだ水兵の絶叫が木霊する。一体、どのようにすればあんなものが作れるのか。そもそも、あれはジオン公国という国家がつくりだしたものなのか。

ヴァルハルはそのままの状況と証拠写真を提出。パーパルティア皇国の外務省などに警告を発信したが、信じてもらえず左遷され、「ヴァルハルファイル」と呼ばれた報告書は闇に埋もれることになった。

 

 

 

 

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中央歴1639年4月23日 クワトイネ公国 政治部会 

 

 

「以上が、ロデニウス大陸沖大海戦の、戦果報告になります」

 

参考人招致された観戦武官ブルーアイが、政治部会において報告する。政治部会の各々の手元には、戦果の記載された印刷物が配布。そのほか、ジオン公国が提供した映像をスクリーンに出しており、部会構成員の多くは絶句し、唖然となっていた。

 

 

「では、なにか!?ジオンは4隻で、ロウリア艦隊4400隻に挑み、ほぼ全てを海の藻屑!挙句の果てにこんな巨人を使って暴れた?!これらの技術は凄まじいが・・・・・・これは作りものじゃないのか?」

 

「そんな御伽噺でも出来すぎた話、政治部会で、観戦武官の君がわざわざ嘘をつくとも思えないが、この映像見てもどうにも分らない」

 

誰もが同じ思いだった。観戦武官の彼でさえ、信じられない戦果。信じられない光景である。未だに事実であることが受け止めきれない。

 

「外務卿!大体、彼らは温厚な国民であったと言っていたじゃないか?」

 

野次が飛ぶ。

 

彼らの表情は国難を脱した歓喜の表情ではない。まさに未知なる敵を相手にしている恐怖。ジオン公国に対する恐怖はザンジバルが使節をつれてやってきた時から潜在的にあった。だが、海戦の報告を聞いた政治部会は最初は疑いの目でブルーアイを見たが、ジオン軍に提供された戦闘映像は彼らを恐怖させる共に、ジオンに対して疑いの目を向け始めた。

 

「いずれにせよ、今回の海からの侵攻は防げた。まだ陸軍戦力が残っているが、これからはそちらの対処が必要となる。陸軍卿、状況説明を」

 

首相のカナタは話題を強引に変え、陸軍司令官の陸軍卿に問うた。

 

「現在ロウリア王国は、ギムの周辺陣地の構築を行っております。海からの進撃が失敗に終わったため、ギムの守りを固めてから再度進出してくるものと思われます。」

 

 

軍務卿はギム周辺地図を机に広げ、敵の配置状況を詳細伝えている。

 

「敵部隊はギムの街を中心に陣地を形成しています。兵力は本国から1万増員され、総戦力は二万。ジオン教導隊の決死の防衛によって、敵陣は…塹壕と呼ばれる穴を掘って防衛陣地を作っています」ランバ・ラルやザクⅡの攻撃によって大被害を受けた征伐軍は戦術を転換せねばならず、ジオンの銃撃やザクマシンガンによる砲撃から身を守るために、遮蔽物のない場所には塹壕を掘り、その場に待機するようになった。

 

ともあれ、クワ・トイネからすれば、身動きのできない部隊は格好の標的であるとして、騎馬隊を主力とした戦力を投入した作戦を提案するが、外務卿が挙手する。

 

「ジオン公国が今回のギム奪回に対して、ギムの半径10キロに近づかないよう求めています」

 

「何だと!一体何のために……」

 

「ギムへの強襲奪還作戦を計画中です。」

 

「まさか・・・・・・いやいい」

 

もはや、怒る気にもなれず、ブルーアイの報告ではジオン公国の兵器は威力が大きく、非常に扱いにくいということが分っていた。既に近くに配備していた部隊へ待機するよう命じ、ジオン公国の戦いによってロウリア王国が斃れていく様を目のあたりにしていくのだった。

 

 

 

 

同時刻、ロウリア王国の王都ジン・ハーク。初代王の名前から取った首都と王位継承者に与えられる名前、そしてその名のついたハーク城。その34代と続く王家は紆余曲折しながらも、血筋は絶えずに生きながらえてきた。歴史書の多くは、没落した王族などにフォーカスが当てられもするが、大王、ハーク・ロウリア34世は、稀に見る先見の明があると自他共に認めていた。

 

ロデニウス大陸外の大国、三大文明圏のパーパルティアへ使節を派遣し、属国の扱いになろうとも、ロウリア王国を栄えさせようとしていたのだ。独立国に拘るあまり、国際社会から取り残されないようにと、王権を駆使してここまでやってきていたのである。ロウリア王国以外にもそうした国家は多々あり、其れこそ多くの国が三大文明圏国家に擦り寄り、その文化に影響されて成長している。

 

そう考えれば、現国王は開明的ともいえるだろう。

 

そんな国王は確実に勝てるはずの戦いに敗北した。ギムの前哨戦では、派遣した二万の兵力のうち、おおよそ半分が喪失。辛うじて占領したがギムの街はものけの殻。そして現地指揮官もジオンの攻撃を恐れて進軍できずにいたのだ。

 

そして、最大の目玉である海軍4000隻余りの上陸部隊をクワ・トイネの経済都市マイハークへ差し向けた。だが、その結果はジオンの空飛ぶ箱舟と巨大な鉄の蟹のような化け物が大艦隊を襲い、生き残った船舶はわずか400隻程度。

 

 

後世ではロデニウス沖大海戦と呼ぶだろうが、虐殺と呼ぶにふさわしい。確実に勝てるはずの戦いが負け、ロウリアに莫大な借金が嵩むこととなる。国王はヤケ酒を飲み、泥酔していた。

 

 

ーパーパルティアから軍事的援助をもらい、半ば属国のような国家になっても、国民と王家を守るために何でもやっていた。それなのにこの有様。一体私が何をしたというのか!

 

国王は荒れ狂い、再びアルコール度数の高い酒をがぶ飲みし、内臓が焼けるように感じていた。生きているという感覚、陸軍がギムからクワ・トイネの首都まで進軍すれば、勝機はあるだろう。だが、それまで予想以上の出費が予想される。もし、大陸の覇者になっても、子孫に借金が残り、自分はその栄光を垣間見ることは不可能だと国王は悟っていた。

 

 

「ワシは無理でも、これからの息子達がなんとか……大陸統一を……」

 

国王は意識を失い、そのままベッドへダイブする。国王の祈りは全く届かぬまま、ロウリア王国の夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 


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