学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫と孤毒の魔女、3人の物語   作:ソーナ

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刺客

~綾斗side~

 

「刀藤さん、おまたせ」

 

「いえ!わたしも今来たところですから」

 

刀藤さんと一緒に早朝トレーニングの約束をして数日、俺と刀藤は星導館学園へと繋がる橋で待ち合わせをしていた。

 

「それじゃあ今日も何時もと同じでいいかな?」

 

「は、はい。あの・・・・・・」

 

「ん?」

 

「いえ、そちらの方は・・・・・・?」

 

刀藤さんは俺の隣にいる女性について聞いた。

 

「あ、彼女は・・・・・・」

 

「・・・・・・貴女が刀藤綺凛?」

 

俺が彼女について説明しようとすると、逆に彼女が話した。

 

「は、はい」

 

「・・・・・・私はオーフェリア・ランドルーフェン。よろしく刀藤さん」

 

「あ、はい・・・・・・・・・・・え、お、オーフェリア・ランドルーフェンさん、ですか?」

 

「ええ」

 

刀藤さんは驚きの表情を出して俺を見た。

 

「アハハハ・・・・・・刀藤さん、彼女はオーフェリアだよ。今はちょっと訳あって髪の色を変えてるけど」

 

「ご、ご本人なんですか」

 

「ええ。これで、いいかしら?」

 

オーフェリアは髪に付けたヘッドホン型の機械を操作して、栗色の髪から白銀髪へと変えた。

 

「は、はい!」

 

「そう怯えなくても大丈夫だよ刀藤さん」

 

俺は若干怯えている刀藤さんに微笑みながら言う。

 

「いえ、天霧先輩がランドルーフェンさんと一緒に生活してるというのは以前聞いていたんですけど、そ、その、当の本人のランドルーフェンさんがいるのに驚いて」

 

「なるほどね・・・・・・」

 

刀藤さんの台詞に俺は若干苦笑をして、相槌を打った。

 

「霧がかなり深いけど。それじゃあ、始めようか」

 

「はいっ」

 

「・・・・・・えぇ」

 

俺たちは早速、走り込みのランニングから始めることにした。

ちなみに俺と刀藤さんは普通にランニング出来るが、オーフェリアも俺たちと同じ速度で走れるのかと言うと、

 

「・・・・・・体力つけといて正解だったわ」

 

問題なく付いてきていた。

オーフェリアはここ最近、シルヴィとよく自主練としてランニングを早朝しているのだ。俺もよくそれに付き合っていたりする。

そして、練習メニューはペトラさんが考案してくれたものが殆どだ。さすがクインヴェールのOGにして元トップアイドルである。

そして走り続けることしばらく。

 

「ふぅ~。大丈夫、二人とも?」

 

「はい」

 

「・・・・・・ええ」

 

俺は速度を落としてオーフェリアにならんで話す。

 

「オーフェリア、平気?」

 

「ええ。平気よ綾斗」

 

「天霧先輩とランドルーフェンさんって仲がいいんですね」

 

「まあ、10年来の幼馴染、だから」

 

刀藤さんの言葉に俺は頬をかきながら、オーフェリアは若干視線をずらして頬を赤くして走る。

そのとき。

 

「綾斗・・・・・・」

 

「天霧先輩、ランドルーフェンさん・・・・・・」

 

「うん。誰かにつけられてるね」

 

俺たちは複数の視線と気配を感じた。

 

「・・・・・・数人いるわね」

 

「はい・・・・・・。でも、何か変です」

 

「うん。この気配、人じゃないね。むしろ―――」

 

俺がそう言ったところで、俺たちの足が同時に止まる。

何故なら、目の前の道路が唐突に封鎖されていたからだ。

 

「・・・・・・工事中?」

 

「みたいですね。あれ?でも、昨日までこんなのありましたっけ・・・・・・?」

 

「いや、俺も無かったと記憶してるけど・・・・・・」

 

「霧が深いせいですぐにはわからなかったけど、この標識歩道まで封鎖されているわ」

 

「う~ん。無視して突っ切ることも出来なくはないけど・・・・・・どうしたものかな?」

 

「罠かもしれないわね」

 

「はい。こうして見通しが悪いと危険かもです」

 

俺たちは工事中の標識を見て、周囲を確認して会話する。

もちろん、背後の気配の存在も忘れない。

 

「向こうに迂回路が用意されているみたいだけど・・・・・・」

 

「罠だよね」

 

「罠ですね」

 

「・・・・・・罠ね」

 

封鎖された道路の右側にある、あからさまに怪しい迂回路を見て、俺たちは同じことを言う。

 

「これって俺たちの誰かが狙われているってことかな?」

 

「・・・・・・でしょうね」

 

「オーフェリア、心当たりある?」

 

「・・・・・・無くもないのだけど、この姿が私だと分かるのは綾斗とシルヴィア、紗夜、ユリス、ペトラさん。後はこの間あったエンフィールドとレスターね。私の学園だと3人だけね」

 

「3人って?」

 

「・・・・・・レヴォルフ序列二位のロドルフォと、同じく序列三位のイレーネとその妹のプリシラさんだけね」

 

「オーフェリア、レヴォルフに友達いたんだ」

 

俺はオーフェリアの言った3人が友達なのかと思い、ちょっと驚いた。

 

「・・・・・・友達・・・・・・と言うより、私がお世話になってるのかしらね?プリシラさんから料理を教わったりしているし、ロドルフォから情報を。イレーネから体術を、ね」

 

「へぇ」

 

「お二人とも・・・・・のんびりとしてますね」

 

俺とオーフェリアの緊張感のない会話に、刀藤さんがいづらそうに声をかけてきた。

 

「あ、ごめん、刀藤さん。刀藤さんは心当たりある?」

 

「えっと、それなりに、まあ・・・・・・」

 

刀藤さんは序列一位なのだからそれも当然だと思うのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・綾斗は?」

 

「ああ・・・・・うん、まあ、それなりにあるかも」

 

俺の脳裏には当然、アルルカントのエルネスタの顔が思い浮かんだのだが、彼女にしてはなんとなくだが、違和感があった。

 

「さて、どうしようか」

 

「・・・・・・方法は3つね」

 

「3つ、ですか?」

 

「ええ。一つは三手に分かれること。二つ目は一緒に行くこと。そして、三つ目は――――」

 

「―――気配の主を倒すこと」

 

「た、倒すことって・・・・・・あの、天霧先輩ってもしかして戦闘狂、とかですか?」

 

「せ、戦闘狂・・・・・・」

 

「フフフフ・・・・・・」

 

刀藤さんの言った戦闘狂という言葉に俺は、若干だが傷ついた。その中、オーフェリアは珍しく笑った。

 

「オーフェリアが笑うなんて・・・・・・珍しいな」

 

「え?そうなんですか?」

 

「うん。オーフェリア、他人にはあまり笑顔を見せないから何時も無表情なんだ」

 

「でも・・・・・・とてもそんな風には見えないです」

 

「ありがとう、刀藤さん」

 

そんな会話をすると。

 

「・・・・・・綾斗」

 

「うん」

 

どうやら痺れを切らしたみたいで、僅かずつだが向こうからこっちににじり寄って来るのが感じられた。

やがて霧深い靄の中からゆっくりと気配の主が姿を現した。

 

「なにあれ?」

 

「・・・・・・生き物だと思うわ。でも・・・・・・」

 

「はい。この子達からは星辰力が僅にですが感じられます」

 

現した気配の主は見たことない生き物だった。

一見するとトラやライオンといった大型のネコ科動物を思わせる体躯だが、その外皮は硬い鱗のようなものでおおわれていた。首はやや長く、顔は爬虫類を思わせる凶悪のもの。そして、口からは鋭い牙が覗かせていた。

 

「翼のない竜・・・・・・?」

 

「さあ・・・・・・?

 

「この子たち・・・・・・何て生き物でしょうか?」

 

「少なくともうちの地元じゃ見たことがなかったなぁ」

 

「・・・・・・私も」

 

「でも、ちょっと可愛いですね」

 

「・・・・・・ええ。可愛いわね」

 

「ああ、うん・・・・・・って、えっ!?二人とも!?」

 

思わず俺はオーフェリアと刀藤さんを驚いた表情で見てしまった。

すると、目の前の竜のような生き物が、隙ありとばかりに飛び掛かってきた。

 

「うわっと!」

 

俺はそれを回し蹴りで受け止める。

竜もどきの鋭い爪を星辰力を一点に凝縮した右足で跳ね返して押し返す。

竜もどきは空中でくるりと回転して優雅に着地した。

 

「天霧先輩、大丈夫ですか?」

 

「ん、平気だよ。たいして強くないから」

 

「そ、そうですか」

 

俺は竜もどきをさばいている刀藤さんと軽く会話しながら腰のホルダーから片手剣型煌式武装を取り出し、起動する。

 

「・・・・・・どうする?私が相手してもいいけど」

 

「いや、止めといた方がいいと思う。多分だけど、監視されてる」

 

「・・・・・・でしょうね」

 

「と言うことはわたしと天霧先輩で相手した方がいいと言うことですね」

 

「だね」

 

「・・・・・・ええ」

 

「それじゃあ相手しますか」

 

「ですね・・・・・・」

 

刀藤さんも腰の刀を取り出して構え、相手する。

 

「ふっ!」

 

素早く近づいた俺は軽く牽制のつもりで横薙ぎに一撃振るった。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

あっさりと2体の竜もどきの前足を断ち切った俺は、あまりの手応えのなさと、断ち切られた前足をみて目を見張った。

 

「これは―――――スライム・・・・・?・・・・・・っ!」

 

断ち切られた前足がスライムのように集まり、欠損部位が元通りになったのを見て俺は唖然する。

そして、いままで攻撃に参加してこなかった一匹を見て驚いた。

その一匹が大きく開けた口の周囲に万応素が急速に集結し、口内から焔が溢れ、渦を巻いて球状になった。

 

「万応素への干渉!?」

 

低い咆哮と共に放たれた火球を、俺は真っ二つに切り裂く。

 

「あんまり無駄な殺生はしたくないんだけど・・・・・・仕方ないかな」

 

俺は煌式武装を霞に構え、静かに息を整えた。

星辰力を整え、高め、一瞬だけ力を解き放つ。

そして二匹の竜もどきが同時に地を蹴り、左右から襲い掛かって来た刹那―――

 

「天霧辰明流剣術初伝――――"肆祁蜂(しきばち)"!」

 

電光石火の速度で大外へ回り込み、手首を捻るようにしながら大きく腕を伸ばした片手突きを繰り出す。

 

「オオオオオォォォォ!」

 

生き物とは思えない不可思議な声をあげて、二匹の竜もどきは同時に俺の突き出した煌式武装に脇腹から串刺しになった。

だが、それも一瞬のことで、竜もどきは先程斬り落とした前足と同じように身体全体がどろりと溶けた。

そして、ものの十秒ほどで元通りの姿に戻っていった。

 

「まさか不死身とかじゃないよなぁ・・・・・・」

 

セレスならば焼き斬るが出来るが、セレスを使うには封印を解かなくてはならない。そうなると、活動限界も出来てしまう。

 

「どうも斬撃刺突の類いはあまり効果がないようですね」

 

「だね。打撃はどうかわからないけど」

 

「・・・・・・やっぱり私が消し飛ばした方がいい?」

 

「それは最後の手段にするよ」

 

俺は隣に立つ刀藤さんと、俺の背後にいるオーフェリアと会話する。

 

「多分あの姿は擬態じゃないかな?実態はスライムみたいな形状の生き物だと思う」

 

「なるほど・・・・・・」

 

このまま走って振り切ってしまうのは雑作もないことなのだが、何せこの深い霧のなかでは迂闊に動くのはあまり好ましくない。

 

「・・・・・・刀藤さん」

 

「はい」

 

「・・・・・・あれを細かく出来るかしら?」

 

「ええ。出来ますが――――――なるほど、そう言うことですか」

 

「ええ、多分だけど」

 

「分かりました」

 

刀藤さんはオーフェリアと軽く会話すると、刀を鞘にしまい抜き身の形をとる。

そして、無造作とも言える足取りで一匹の竜もどきに近づいていく。

竜もどきは警戒するかのように低い唸り声を上げて威嚇していたが、刀藤さんの間合いに入るか入らないかのところで躍りかかった。

 

「・・・・・・ごめんね」

 

刀藤さんは焦ることもなくそう呟いたのが耳に届いた。

刀藤さんは、竜もどきの攻撃を僅かに身体をよじっただけで、次の瞬間には襲い掛かった竜もどきの胴がばっさりと切り裂かれていた。

 

「オオオオオオオオォォォォ!」

 

さっきの個体と同じような悲鳴を上げて、やはり竜もどきはスライム状にとけた。

と、刀藤さんはそれに向かって空中でもう一度鋭い斬撃を放った。

返す刀でもう一撃、さらにもう一撃と、凄まじい速さでそれを切り刻んでいった。その連続攻撃の速度は、まさしく神速と呼ぶにふさわしい。

そこで俺は夜吹に聞いた刀藤さんの二つ名を思い出した。

刀藤さんの二つ名、それは――――――

 

「・・・・・・さすが星導館学園の《疾風刃雷》凄まじい剣速ね」

 

「うん・・・・・・」

 

刀藤さんの二つ名、《疾風刃雷》。それはまさしく《疾風刃雷》の二つ名のとおりだった。

やがて。

 

「―――終わりです」

 

一閃。

刀藤さんの刀が煌めいたかと思うと、スライムの中にあった球状の物体は真っ二つに両断されていた。

それと同時に、今まで地面で蠢いていた斬られた部分のスライムがぴたりと動きを止めた。どうやら今の球がスライム部分を制御していたみたいだ。

 

「なるほどね、核になる部分を破壊すればいいのか」

 

「はい。やっぱり核になる部分があるみたいです。これで退いてくれればいいのですが・・・・・・」

 

刀を鞘に納め、こともなげに言ってのける刀藤さんの表情はどこか悲しそうだった。

 

「でも、よくわかったね二人とも?」

 

「星辰力の流れが妙でしたから。私、昔からそういうのに敏感なんです。後はランドルーフェンさんのお陰です」

 

「・・・・・・私はなんとなくあの生物が異常だったから。それを刀藤さんに教えてだけよ」

 

「さすが・・・・・・。オーフェリアはそうだけど、・・・・・・刀藤さんの強さの一端が分かったような気がするよ」

 

俺は苦笑しながら、両断された球の残骸を拾い上げ確認する。

 

「どう思う?」

 

「・・・・・・具体的な材料はわからないのだけど、これは無機物で構成されているわ。明らかな人工物よ」

 

「となると・・・・・・アルルカントってことか」

 

「アルルカント?」

 

俺とオーフェリアの言葉に、刀藤さんが不思議そうな顔で尋ねてきた。

 

「あー、まあ、説明すると長くなるんだけど、かくかくしかじかで―――――」

 

「はぁ・・・・・・」

 

「というわけで―――――って、わぁっ!」

 

手短に説明しているところへ四匹の竜もどきが連続して、俺に火球を打ち込んできた。

 

「はっ」

 

俺はその内の二つを切り裂き、残りの二つをジャンプで避け、公園の入り口付近へ着地する。

そこへまたしても火球が飛び込んできた。

だが、その照準は俺ではなく、足元へ着弾した。

すると、着弾と同時に、着弾点を中心に石畳に放射状の亀裂が走った。

 

「マズいっ!」

 

俺は反射的に飛び退こうとしたが、

 

「おわぁっ!」

 

一歩遅く、次の瞬間には俺を中心に直径五メートル程の範囲が、陥没するように巨大な穴を穿った。

 

「綾斗っ!」

 

「天霧先輩っ!」

 

とっさにオーフェリアと刀藤さんが飛び込んできて腕を伸ばした。

 

「無事、綾斗?」

 

「あ、うん。なんとか。ありがとうオーフェリア、刀藤さん助かったよ・・・・・・」

 

だが、安堵したのも束の間だった。

ピシリと言う嫌な音がしたかと思うと、二人のいる場所が無情にも崩れ始めた。

 

「――――っ!」

 

声にならない悲鳴を残し、俺たち三人の体は暗い穴の底へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穴へ落ちた俺が最初に感じたのは衝撃だった。それから冷たさと、次いで息苦しさ。

 

「(水中!?)」

 

俺はウエイトを外して、体の力を抜いた。

そして、僅かな光源を頼りに水面を目指す。

 

「ぷはぁっ!」

 

飛沫を上げて水面に顔をだし、大きく息を吸い込んだ。

水中だから湖まで落ちたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

そこへ。

 

「・・・・・・ぷはっ。綾斗、どこ?」

 

オーフェリアの声が聞こえた。

 

「ここだよ」

 

「・・・・・・よかった、綾斗無事?」

 

「まあね。でも・・・・・・」

 

俺は浮きながら周囲を見渡し、上部を見上げた。

そこには、俺たちが落ちてきたものらしい穴があった。

しかも人為的な罠だとわかる。

 

「そうだ!刀藤さんは!?」

 

「・・・・・・!?」

 

「どこ、刀藤さん!」

 

ざっと周囲を見渡しながら呼び掛けると、少し離れた場所でぱしゃぱしゃと弱々しい水飛沫が上がっているのが見えた。

 

「刀藤さん!」

 

必死にもがいている様子から、明らかに溺れているのが見てとれた。

俺とオーフェリアは急いで傍まで泳いでいくと、刀藤さんは半泣きの表情で俺にしがみついてきた。

 

「けほっ!こほっ・・・・・・!あ、ありがとうございます、天霧先輩、ランドルーフェンさん・・・・・・!た、助かりましたぁ・・・・・・!」

 

「・・・・・・大丈夫?ウエイトは?」

 

「もう外してあるんですけど・・・・・・ご、ごめんなさいです・・・・・・わたし、お、泳げなくて・・・・・・」

 

「あぁ・・・・・・そ、そうなんだ」

 

「・・・・・・そ、そうなの」

 

俺とオーフェリアは、まさかあれだけの身体能力の持ち主が金槌だとは思わず、ちょっと驚いてた。

まあ、《星脈世代》とはいえ人間だ。人間だれしも得手不得手くらいある。

 

「ん?」

 

その時、俺たちの下を何か巨大な影が通りすぎていったのが見えた。

 

「綾斗?」

 

「ごめん、二人ともをちょっとだけ息を止めててもらえる・・・・・・!」

 

俺はそう言うと、二人を抱えたまま水中へと潜った。

全力で水を掻き、できるだけ早くその場から離れる。

と、水中で巨大な何かが俺たちを掠めるようにすれ違い、俺たち三人を水流で揉みくちゃにしていった。

なんとか離さないようにし持ちこたえ浮上すると、そこにいたのは――――――

 

「え・・・・・・」

 

「はは、これはまた―――」

 

「・・・・・・これは・・・・・・」

 

俺たちは揃って絶句する。

そこにいたのは、巨大な竜が鎌首をもたげていたからだ。

 

「・・・・・・綾斗、あの竜、上にいた竜もどきと同じ気配がするわ」

 

「ってことは、実態はスライムなのかな?」

 

「・・・・・・でしょうね」

 

「やれやれだな」

 

俺は封印を解除した方がいいと判断し、片手剣型の煌式武装を起動し、それと同時に無詠唱で封印を解除する。

 

「・・・・・・綾斗、やるの?」

 

「うん、この状況じゃ四の五の言ってられないからね」

 

戒めの楔と紫蒼色の魔方陣が弾け跳び、押し込められていた星辰力が立ち上がった。

それを敵対行為と判断したのか、竜は卯なり声をあげながら突進してきた。

 

「くっ!」

 

全力状態とはいえ水中では不利だ。

俺はオーフェリアと刀藤さんを庇い、真っ正面から竜の突撃を煌式武装の腹で受け止める。

衝撃により、竜に押された。

 

「・・・・・・綾斗、無事?」

 

「うん。刀藤さんは?」

 

「・・・・・・無事よ」

 

「・・・・・・こうなったらセレスを使うしかないね」

 

俺は起動中の片手剣型の煌式武装をしまい、新たに、《黒炉の魔剣》=セレスを持ち構え、星辰力を込めた。

 

『これはいったいどういう状況なんです、綾斗?』

 

星辰力を込め、黒い文様が浮かび上がり、白い刀身を黒く染め上げていきながら、セレスが思念で語りかけてきた。

 

『実は、アルルカントの罠に掛かったみたいで・・・・・・オーフェリアと刀藤さんを庇いながらだとちょっと・・・・・・。それに水中でピンチ』

 

セレスの思念での問いに、俺は同じように思念で答える。

 

『なるほど、そうですか』

 

『近くに、足場になるような物って無いかな?』

 

『後方五メートルに分厚い柱がありますね』

 

『了解』

 

俺はセレスの刃を水に付けないようにしながら、後方に軽く振るった。

そして、俺たち三人が立てる空間を確保する。

 

『う~ん、でも、なんか重要施設だと思う場所の建造物を破損させるのはちょっとためらいがあるね』

 

『緊急事態なので仕方ないかと思いますよ?』

 

『それもそうか。向こうから仕掛けてきたんだし』

 

「二人ともここに上がって」

 

セレスと会話しながら、隣で浮く二人にそう言う。

まず最初に刀藤さんを上がらせ、次にオーフェリア、そして最後に俺が上がった。

 

『それで綾斗。あのスライムのような竜、どう始末するつもりです?』

 

『どこかに核があるみたいなんだ。それさえ破壊できれば』

 

『・・・・・・・・・・確かに、あの竜スライムから妙な反応がするわ』

 

『場所はわかる?』

 

『ごめん、さすがにそれまでは・・・・・・』

 

セレスからそう聞いた俺は、後ろのオーフェリアに尋ねる。

 

「オーフェリア、核の場所わかる?」

 

「・・・・・・星辰力の動きを見ればわかるのだけど、どうも身体の中で常に移動してるようね」

 

「・・・・・・そっか、じゃあ仕方ないね」

 

「・・・・・・もしかしてあれを試すつもり?」

 

「あれ・・・・・・?試す・・・・・・?」

 

刀藤さんが訝しそうな表情をするのが見えて、俺はセレスを掲げて見せた。

 

「うん、まあ、苦手って言うかまともに出来たためしがないんだけど・・・・・・いい加減、俺も前に進まなきゃいけないからね」

 

『―――流星闘技・・・・・・いくよ、セレス!』

 

『了解、綾斗。やるわよ!』

 

俺は星辰力をセレスへと注ぎ込んだ。

今まで俺は流星闘技を成功させたことがなかった。星辰力の量が多すぎて並の煌式武装は俺の星辰力に耐えきれず壊れてしまうのだ。うまく調整できればいいのだが、あいにく俺は星辰力の細かな制御が苦手なのだ。

だが、四色の魔剣の一振。《黒炉の魔剣》=セレスなら可能だ。

 

「はぁぁあああああっ!」

 

俺が星辰力をセレスに注ぎ込むと、《黒炉の魔剣》=セレスが唸りをあげた。

オーフェリアには及ばずとも、無尽蔵とも思えるような俺の星辰力の吸い込みながら、セレスは少しずつ形を変え始めた。刀身に纏わり付いていた黒い文様が大きく広がり、それに会わせて刀身自体も長く巨大に伸びていった。

 

「すごい・・・・・・」

 

「・・・・・・これが綾斗の――――流星闘技・・・・・・」

 

刀藤さんとオーフェリアが息を呑むなか、セレスは加速度的に成長していき、見る間に十メートルを越える長さまで成長した。刀身が低い唸りをあげ、黒い文様が躍り狂うように周囲を舞った。

本能的な恐怖を覚えたのか、竜が逃げるように向きを変えたが――――――

 

「遅い!はぁッ!」

 

俺が成長した《黒炉の魔剣(セレス)》を振り下ろすと、竜の身体は刀身が触れた瞬間に蒸発した。そして、それをそのまま水面下にある身体まで一気に振り下ろす。

刀身が水に触れたとたん、水が物凄い勢いで蒸発し、爆風のように吹き荒れた。

水蒸気が立ち込め、嵐のように俺たち三人の髪を弄んだ。

 

「ふぅ・・・・・・まあ、こんなものかな」

 

『そうね』

 

俺はセレスの刀身を元の長さに戻し、竜の姿が跡形も残ってない場所を見る。

 

『でもこれはかなり危険よ、綾斗。綾斗、星辰力をかなり消費したわ。多分、リミットまで後二分半ほどよ』

 

『うわぁ、そんなに・・・・・・?』

 

『ええ。だから脱出するなら早くした方がいいわよ。封印がまた施される前に』

 

『そうだね』

 

セレスとの思念での会話を終わらせた俺はすぐに後ろの二人に向き合った。

 

「二人ともすぐにここを脱出するよ」

 

「え。で、でも、どうやって・・・・・・」

 

「オーフェリア、刀藤さんを運べる?」

 

「・・・・・・ちょっと難しいわね。服が水のせいで張り付いているからか私の瘴気が漏れでそうよ。今はなんとか押さえ込んでいるのだけど」

 

「なら、俺が運ぶか」

 

俺は刀藤さんに近づいて抱き抱えると、

 

「え!?あ、あの、天霧先輩・・・・・・!?」

 

「ごめん、刀藤さん、ちょっとだけ我慢してて。行くよオーフェリア、リミットまであまり時間がない」

 

「了解よ。綾斗、先に行って」

 

「わかった!」

 

俺は刀藤さんをお姫様だっこの形で抱き抱え、足元に星辰力を凝縮させて、宙を跳ぶ。

そして、それを続けてなんとか穴から脱出する事が出来た。

そして、俺の後からユリスと似たような形で空を飛んできたオーフェリアも出てきた。

そしてその数秒後。

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

「綾斗!」

 

俺の周囲に魔方陣が再び現れ、俺の力を戒めていった。

 

「あ、天霧先輩っ!だ、大丈夫ですか、天霧先輩!」

 

「綾斗、しっかりして!」

 

俺は心配してくる刀藤さんとオーフェリアの声を意識の片隅に聞こえて来たが、返事を返すことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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