学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫と孤毒の魔女、3人の物語 作:ソーナ
開幕前夜
~綾斗side~
「クンクン。はぁ~、綾斗くんの香りだよ~」
「あの~シルヴィ?そろそろ離れてくれると助かるんだけどなあ」
「え~、もう少し~」
「綾斗君、すみません、しばらくシルヴィアの好きにさせてあげてください」
「ですね・・・・・・」
綺凛ちゃんとの決闘に勝利し、綺凛ちゃんの伯父、刀藤鋼一郎と一悶着あってから数日が過ぎたある夜、俺はシルヴィとオーフェリアと自宅にいた。
ちなみにここ最近家にいる間や出掛けている間、ずっとシルヴィとオーフェリアが俺の両腕に抱き付いていたため人の視線がすごかった、別の意味で。
でもってそのあと夜、シルヴィのマネージャーのペトラさんが来てこうなったと言うわけだ。
「ペトラさん、お疲れ様です」
「いえ、これも仕事ですから」
ペトラさんはシルヴィのマネージャーその他、クインヴェールの理事長、統合企業財体の幹部、クインヴェール所属アイドルのプロデューサー等々、しているのだ。
ある意味すごい。よくこれで倒れないなと思ったりする。
「それと綾斗君」
「はい?」
「お姉さんについて少し情報を入手できました」
「!!?」
ペトラさんの言葉に俺は固まった。
よく見ると、抱き付いているシルヴィと、俺の隣に座って紅茶を飲んでいるオーフェリアも動きを止めていた。
「お姉さんは約5年前、アスタリスクに来たそうです。どのような経緯で星導館に所属していたのかは調査中ですが、その時綾斗君が所有している純星煌式武装《
「そうですか・・・・・・」
「はい。ですが、一年と経たずに星導館を中退してますね。理由は不明ですが、こちらも現在調査中です。そして、綾斗君のお姉さん、遥さんを最後に見たのは・・・・・・」
「見たのは」
「―――
「蝕武祭ですって!?」
「・・・・・・蝕武祭!?」
「蝕武祭?」
ペトラさんの言った、蝕武祭と言う単語に俺はわからず首をかしげたが、シルヴィとオーフェリアは驚いた表情をし、驚愕の声をあげた。
「ペトラさん、それ本当なの?」
「ええ、間違いないです」
「・・・・・・よりにもよって蝕武祭なんて」
「あの、蝕武祭ってなに?」
「綾斗くんは知らないんだったっけ。綾斗くん、蝕武祭って言うのは・・・・・・」
「非合法・ルール無用の武闘大会です。ギブアップは不可能で、試合の決着はどちらかが意識を失うか、もしくは・・・・・・命を失うかによって決まるという裏の星武祭です」
俺の疑問にシルヴィとペトラさんが説明してくれた。
「そこに姉さんが・・・・・・・」
「ええ。蝕武祭の資料は星猟警備隊が押さえているので一般閲覧は出来ないんですが、当時それを担当した星猟警備隊から話を聞いたので」
「もしかしてペトラさん、その人って・・・・・・」
「ええ。彼女です」
シルヴィの言葉にペトラさんは額に手を当て言った。
「彼女?」
「―――ヘルガ・リンドヴァル。星猟警備隊の創設者にして、現在も隊長を務める女性です」
「かつて《王竜星武祭》を二連覇した伝説の人物で、学生時代の二つ名は《
「へぇ」
ペトラさんとシルヴィの説明に、俺は関心というより凄さを覚えた。《時律の魔女》ということは時間操作系の《魔女》と言うことなのだろう。
「ところでシルヴィア」
「なにペトラさん?」
「あなたの探している人は見つけたのですか?」
ペトラさんの声にシルヴィは表情を曇らせた。
「シルヴィの探してる人?」
「・・・・・・どういうこと?」
俺とオーフェリアが疑問符を浮かべているなかペトラさんはシルヴィアを見ていた。
「話してなかったんですか?」
「・・・・・・うん。綾斗くん、オーフェリアちゃん、ウルスラお姉ちゃんを覚えてる?」
「ウルスラ姉さん?」
「ウルお姉ちゃん。・・・・・ウルスラ・スヴェント先生のことかしら?」
ウルスラ・スヴェント。彼女はシルヴィの歌の先生にして俺たちに体術やダンス、歌唱などを教えてくれた、俺たちにとって姉さんとは違うがもう一人のお姉さんのような女性だ。
「あれ、でもウルスラ姉さんって確か何年か前に行方不明になったって聞いたけど?」
俺は記憶を頼りにその事を思い出す。
「そのウルスラお姉ちゃんがここ、アスタリスクにいるの」
「「!!」」
俺とオーフェリアはまたしても驚愕した。
「詳しくは紗夜ちゃんも含めて話そうか」
そう言うとシルヴィは携帯端末を取り出して電話を掛けた。
『どうしたシルヴィア?』
シルヴィが電話を掛けた相手は紗夜だった。
空間ウインドウに紗夜の顔が映し出された。
『む?シルヴィアの他に綾斗とオーフェリアもいる。それとペトラさん?』
「お久しぶりですね紗夜さん。相変わらず学校は遅刻してるのでは?」
『うっ・・・・・・。もしかして綾斗から聞いた?』
「いえ、なんとなくですよ」
『さすがペトラさん。恐れ入った』
「それほどでも」
「アハハ。ところで紗夜ちゃん、ウルスラお姉ちゃんを覚えてる?」
『ウルスラお姉ちゃん?ウル姉のこと?』
「うん、そのウル姉のこと」
『覚えてるけどどうかした?確か何年か前に行方不明になったはず』
「そのウルスラお姉ちゃんがここにいるとしたら」
『詳しく聞かせて』
紗夜は眼を険しくしてシルヴィから話を聞いた。
ついでに姉さんのことも話した。
『なるほど~、シルヴィアはウル姉を探してるんだ』
「うん。なんでいきなりいなくなったのか知りたいから」
『わたしもまたウル姉と遊びたい。もちろんハル姉とも』
「それでなんだけど・・・・・・」
『シルヴィア言わずとも分かる、もちろんわたしも探すの手伝う』
「ありがとう紗夜ちゃん」
『別にいい。でも、ペトラさんこれ言っても良かったの?』
「あなたたち四人なら問題ないでしょう。それに私の権限をもってしても調べるのには時間と労力が必要になりますから」
『了解。この事は他言無用にする』
「ええ。お願いします紗夜さん。では私はこのあと予定があるのでこの辺で」
「え?もうそんな時間なの」
「ええ。ではこれで。あ、綾斗君」
「はい?」
「星導館序列一位おめでとうございます。では、これで」
そう言うとペトラさんはタブレット端末を持って出ていった。
相変わらず忙しい人だと思う。
『ところでオーフェリア』
「・・・・・・なに紗夜?」
『オーフェリア煌式武装持ってる?』
「・・・・・・いいえ。持ってないわね。というより私が持つと大抵の煌式武装が壊れてしまうのよ」
『なるほど』
「それがどうかしたの紗夜?」
『どうせなら今度お父さんにオーフェリアの煌式武装を作ってもらおうと思った』
「叔父さんに?」
『・・・・・・そう』
確かに紗夜のお父さん。叔父さんなら作ってくれると思うけど・・・・・・今のままじゃ・・・・・。
「紗夜、煌式武装についてはちょっと待ってて」
『ん、なんで・・・・・・ああ、なるほど。そう言えば綾斗の優勝の願いはハル姉の捜索とオーフェリアの所有権委譲だったっけ?』
「うん」
『でも、そのまえに私と綺凛に勝たなくちゃ優勝はまた夢の中』
「わかってるよ」
紗夜の声に俺は苦笑して返す。
『それじゃあまた明日』
「うん、おやすみ紗夜」
「おやすみ紗夜ちゃん」
「・・・・・・おやすみ」
そう言うと紗夜とのテレビ電話を終了した。
「ウルスラ姉さんか、懐かしいな」
「うん。昔よく一緒に遊んだよね」
「ハルお姉ちゃんと仲が良かったからね」
俺たちはペトラさんが帰り、紗夜と電話し終わるとウルスラ姉さんのことを思い出していた。
ウルスラ姉さんは、元クインヴェール女学園所属で姉さんと年が近いこともあって、俺たちもよく一緒に遊んでもらった。《魔女》としての能力も高く、武術や歌唱力もあり、シルヴィの師匠とも言える人なのだ。
「さてと、そろそろ寝るとするか」
俺はカップとソーサーを流し台に入れ、洗い終え二人のいるリビングに戻って言った。
「そうだね~」
「・・・・・・そうしましょうか」
こうしてまた夜が過ぎていった。
ちなみにシルヴィとオーフェリアの二人は俺を抱き枕のように抱き締めて寝てくるのだが、それにはもう慣れた。
それから数週間後
「綾斗くん、一緒に出ようよ!」
「え?えっと、どういうこと?」
「実は今年は《
「バトル・セレモニア?」
「そう。《鳳凰星武祭》をはじめとした星武祭が25回目を開催を記念して、鳳凰星武祭の運営委員会が直々に開催するんだって。通称B・Cだよ」
鳳凰星武祭を間近に控えたある日の休日、俺はシルヴィ、オーフェリア、紗夜、ユリス、綺凛ちゃんを交えて自宅で昼食を取っていた。
その際、シルヴィが、「綾斗くんと一緒に星武祭出れたらな~」と言ったのが話の始まりだ。
そこからオーフェリアが「・・・・・・今年に限ってはそうはないはず」と言い、俺が「どう言うこと?」と聞いてなった。
「そのバトル・セレモニアってのはどういう大会なんだ?」
ユリスがシルヴィアに疑問符を浮かべて聞いた。
「確か、《鳳凰星武祭》と同じタッグマッチでタッグは《鳳凰星武祭》とは違って、どこの学園の人と組んでもいいフリースタイル。星武祭参加資格回数は減らないから誰でも参加していいみたい。あ、でも《鳳凰星武祭》と違って優勝しても願いとかは出来ないみたいだよ」
「へぇ、面白そうだね」
「うん。実は私に出場依頼が届いているんだけど・・・・・・」
「ハハ。なるほどね。俺はもちろんいいよ、一緒に出てくれるシルヴィ?」
シルヴィの無言の視線に俺は苦笑して了承し返す。
「ホント!もちろんだよ!綾斗くん!」
「じゃあ私はユリスと組もうかしら」
「む?オーフェリア、沙々宮ではなく私でいいのか?」
「ええ、もちろんよ」
「ならばよろしく頼む、オーフェリア」
「ええ。こちらこそよろしくねユリス」
俺とシルヴィのタッグが出来たのと同時に、ユリスとオーフェリアのタッグも出来たみたいだ。
そんな中、紗夜と綺凛ちゃんは悩んでいる表情を浮かべていた。
「むぅ・・・・・・私たちはどうする?」
「そうですね・・・・・・え、え~と、あのシルヴィアさん」
「なにかな綺凛ちゃん」
「その、バトル・セレモニアの申し込み締めきりは何時まででしょうか」
「えっと、確か《鳳凰星武祭》のあとに開催されるから《鳳凰星武祭》終了の一週間後までじゃないかな?」
「そうですか・・・・・・。ありがとうございます」
「もしかして綺凛ちゃんも出るつもり?」
「い、いえ、その、一応、もしかしたら出るかもしれないので・・・・・・」
「へぇ。シルヴィちなみに開催はいつ頃?」
「正式発表はまだだけど、鳳凰星武祭のあとだから秋ぐらいだと思うよ」
「それじゃあそれまでみっちりトレーニング出来るかな」
「う~ん、ペトラさんと相談してみないと分からないかな、スケジュールがまだ分からないから」
「そうなんだ。わかった、シルヴィが出来る日でいいよ」
「ありがとう綾斗くん」
シルヴィは嬉しそうに言った。
言ったのは良いんだけど、抱き付いてくるのはちょっと程々にしてほしいよシルヴィ。オーフェリアまで抱き付いてくるような感じだし、ユリスは呆れているし、紗夜はいつも通りで、綺凛ちゃんは顔が真っ赤だから。
俺は顔を少し赤くしてそう思った。
するとそんな俺の耳に、紗夜とオーフェリアの会話が微弱だが聞こえてきた。
「そう言えばオーフェリア」
「なに紗夜?」
「タッグ、シルヴィアに譲って良かったの?」
「・・・・・・ここ最近私が綾斗のこと独占していたし、たまにはいいかな、って思ったのよ。どうせなら私も綾斗と出たかったけど」
「オーフェリア大人だ~・・・・・・」
「そんなことないわ紗夜」
俺は紗夜とオーフェリアの会話に苦笑いを内心浮かべるのと同時に、今度オーフェリアの好きにさせてあげよう、と思った。
「ところでもう《鳳凰星武祭》だけど準備は大丈夫?」
「問題ない」
「・・・・・・うん、大丈夫」
「い、一応は・・・・・・」
「アハハ、まあまあかな」
シルヴィの声に俺らはそう答える。
「・・・・・・そう言えば彼女たちが今回出るのよね」
《鳳凰星武祭》のトーナメント表を空間ウインドウに展開して言った。
「ん?ああ、レヴォルフの鎌使いか」
ユリスが《鳳凰星武祭》のトーナメント表の一部分を拡大化し言う。
そこに書かれている名前は。
「―――イレーネ・ウルサイスとプリシラ・ウルサイスか」
「ええ」
イレーネ・ウルサイス、オーフェリアの所属するレヴォルフ黒学院の序列三位にして、
プリシラ・ウルサイス、同じくレヴォルフ黒学院所属。イレーネ・ウルサイスの妹で鳳凰星武祭でイレーネのパートナー。星脈世代としての能力は非常に珍しい
「イレーネは強いわよ」
「だろうな・・・・・・まあ、対策は立てるさ」
オーフェリアの声にユリスは口角を上げて言った。
《鳳凰星武祭》開幕まで残り5日。