学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫と孤毒の魔女、3人の物語   作:ソーナ

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ウルサイス姉妹

 

 

~綾斗side~

 

 

 

鳳凰星武祭(フェニクス)》五日目 シリウスドーム

 

 

 

 

『さぁー、鳳凰星武祭五日目!本日より2回戦に突入です!』

 

 

 

 

鳳凰星武祭2回戦の会場のシリウスドームのステージに立つと、1回戦と同じアナウンサーのアナウンスで観客席が盛り上がった。

 

「さて、と―――」

 

ユリスがステージ上で体を軽く伸ばすと、俺のほうを振り返って薄く笑った。

 

「1回戦ではお前に任せきりだったからな。今度は私の番だ」

 

「了解」

 

隣に立つユリスに当初の予定通りのことを聞くと、俺たちの立つ場所の反対側から、元気な声が聞こえてきた。

 

「「こんにちはー」」

 

「ん?」

 

「?」

 

視線を向けると、そこには俺たちの対戦相手の女子二人がいた。

 

「(確か彼女たちって・・・・・・)」

 

対戦相手の女子生徒二人を見ていると。

 

「私たちは女神の学園、クインヴェールの・・・」

 

「序列、37位と54位」

 

「「ノンシュガーです♪」」

 

「みんなー、あっりがとー!」

 

「がんばりまーす!」

 

双剣型の煌式武装と槍型の煌式武装を展開させて、アイドルのように観客席に挨拶をした。

まあ、実際アイドルなんだと思うけど・・・・・・。

 

「(シルヴィと同じクインヴェール女学院か・・・・・・)」

 

クインヴェール女学院はアスタリスクにある六学園の中でも規模は最小で、女学園の名の通り、女子だけの学園だ。現に、クインヴェールが《星武祭(フェスタ)》で総合優勝を果たしたことは、アスタリスクの歴史上たった一度だけだ。しかし、最小、最弱とは言え必ずしも人気がないと言うわけではない。単純なファン数ならクインヴェールは他五学園を圧倒し、常にトップを維持し続けてる。クインヴェールは《星武祭》の総合成績を考慮せず、逆に《星武祭》は学生の魅力を引き立たせるステージとしてみている。それが人気に繋がっているのだが・・・・・・。

 

「(そう言えばペトラさんが前になにか愚痴っていたってシルヴィから聞いたような・・・・・・)」

 

前にペトラさんがなにか愚痴っていたってのをシルヴィから聞いた覚えがある俺は目の前の女子を見て思い出した。

クインヴェール女学院は入学条件に独自の基準を設けて、成績の他容姿も項目に入れている。そのため、六学園中最も入るのが難しいとされている学園なのだ。そして、クインヴェールは別名、女神の学園と呼ばれている。美と強さを通して理想を見出だそうとする。それがクインヴェール女学院。

そんなことを思い出していると。

 

 

 

 

『それではバトル、スタートです!』

 

 

 

 

アナウンスと同時に胸の校章が光り、試合開始の合図を告げた。

 

「いっくよー」

 

試合開始の合図と同時に双剣型の煌式武装を握るツインテールの女生徒が先行してくる。

 

「えーいっ!」

 

そしてその後ろから槍型の煌式武装を構えたポニーテールの女生徒が、ユリスに攻撃を仕掛ける。

その攻撃をユリスは危なげなく避け、

 

「はあっ!」

 

上から振り下ろしてきた双剣の攻撃を右手に持ち、展開している細剣型煌式武装《アスペラ・スピーナ》で受け止め、跳ね返して大きく後ろに跳ぶ。

 

「・・・・・・トロキアの炎よ 城壁を越え 九つの災禍を焼き払え―――!」

 

後ろに着地するのと同時にユリスから万応素ががざわめき、そこから吹き上がる炎が渦を巻き、ユリスの周囲に可憐な桜草のような火球が九つ現れる。

 

「咲き誇れ―――九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

九つの火球はユリスの掛け声と共に相手タッグへと襲いかかる。

槍型の煌式武装を持ったポニーテールの女生徒はギリギリのところで多方向からくる立体攻撃を避けていたが、

 

「あっ!」

 

やがて避けきれなくなり、脚を挫き、

 

「きゃっ!」

 

倒れたところに九輪の舞焔花が襲い、女生徒の校章を砕いた。

 

 

 

 

校章破壊(バッジブロークン)

 

 

 

 

相方の敗北を告げるなか、もう片方のツインテールの女生徒は九輪の舞焔花の火球をかわしながら、一つずつ双剣の煌式武装で切り払って数を減らしていく。

 

「ふふーんだ!このくらい、あたしだって・・・・・・うぇ!?」

 

全てを切り落とした女生徒が得意そうに胸を張るその瞬間、女生徒の足元に赤い魔方陣が浮かび上がった。あれ、ユリスが仕掛けていた設置型の魔法。つまり、罠だ。

 

「綻べ―――溶空の落紅花(セミセラータ)

 

「えええええええっ!?」

 

立ち止まり、呆然と見上げた女生徒の頭上に、巨大な焔が椿が花開くように開花し、焔の花がそのまま上を見上げる女生徒に命中する。

 

 

 

 

『試合終了!リースフェルト選手、堅実な試合運びで勝利を物としましたー!』

 

『攻撃を仕掛けながら、見事相手を設置型の罠に誘導したっすねー』

 

 

 

 

ユリスの溶空の落紅花が命中し、ツインテールの女生徒の校章が破壊されると、すぐさま試合終了のアナウンスがなり、決着宣言をした。

 

「ふぅ・・・・・・まあ、こんなところか」

 

「お疲れ様、ユリス」

 

「まあ、お疲れと言うほど戦ってないがな」

 

笑みを浮かべるユリスと右手を合わせ、小気味よい音を立ててハイタッチを交わしてステージを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後

 

 

《鳳凰星武祭》七日目、シリウスドーム

 

 

 

 

 

『試合終了!勝者、天霧綾斗&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト!』

 

 

 

 

 

 

ユリスの細剣型煌式武装《アスペラ・スピーナ》と俺の純星煌式武装《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》、セレスを収めると、大歓声がステージを包み込んだ。

 

 

 

 

『いやー、さすがにこの二人は強い!1回戦、2回戦共に圧倒的な実力で勝ち進んできた天霧・リースフェルトペア、見事Cブロックから本戦進出を決めました!』

 

『いやー、今回も圧倒的だったスねー。本戦ではどのような闘いを見せてくれるのか楽しみッス』

 

 

 

 

クインヴェール女学院の二人との闘いから二日過ぎた今日、俺とユリスは《鳳凰星武祭》3回戦をし、見事対戦相手の界龍(ジェロン)のタッグを撃破し、本戦へと駒を進めた。

 

「取りあえずは予選突破ってことでいいのかな」

 

「うむ、ここまでは予定通り順調だな。とはいえ本番は本戦からだ」

 

「そうだね」

 

《星武祭》の予選では有力選同士がぶつからないように各ブロック毎に振り分けられているため、予選ではそう苦労することないが、本戦からはそれが一気に変わる。

次の4回戦―――本戦からは有力選手ばかりがしのぎを削ることになるため、苛烈な争いになる。

 

「今回は番狂わせもなさそうだし、各学園予想通りの面子が本戦に勝ち上がってるだろう。後は明日の組み合わせ次第だな」

 

「そう言えば明日発表なんだよね。紗夜と綺凛ちゃんと当たることがないといいんだけどなあ」

 

4回戦からは完全なランダム抽選だ。

そして、明日は試合のない一日フリーの休養日となっており、各学園の代表によって組み合わせの抽選が行われるだけだ。

 

「沙々宮たちもそうだが、私としてはアルルカントの人形たちとは早々と当たりたくないものだな」

 

「確かに」

 

アルルカントアカデミーからカミラ・パレードとエルネスタ・キューネの代理出場として出場している、アルディとリムシィのタッグはすでに本戦出場を決めている。

 

「他に有力タッグだとするならば界龍の双子とガラードワーズの聖騎士コンビか・・・・・・だが、正直、界龍の双子とはやりあいたくないな」

 

「え?なんで?」

 

ユリスの苦虫を噛み潰してような表情に俺は疑問を抱いて聞いた。

 

「あの双子の戦闘スタイルは搦め手なのだ」

 

「へー」

 

搦め手。つまり、少々卑怯な手を使うと言うことなのだろう。まあ、さすがに《星武祭》外で実力行使でくるとは思えないが。

そんなことを考えていると。

 

『面白そうね、その双子』

 

ポーチに収納しているセレスが思念通話で話し掛けてきた。

 

『面白そうってセレス・・・・・・』

 

『だって気になるじゃない、どんな手段を使うのか』

 

『・・・・・・ホントにセレスって変わってるよ』

 

『綾斗にだけは言われたくないわね』

 

『えーー・・・・・・・』

 

セレスと思念通話しながらユリスと話す俺はもう一組のペアに視線を向ける。

 

「あとはやはり《吸血暴姫(ラミレクシア)》か」

 

イレーネたちは二日前の3回戦でレスターとランディのタッグを打ち負かしたのだ。しかも、ランディは意識消失(アンコンシャネス)で、レスターはリザインを認めて勝ち上がったのだ。レスターの一撃での攻撃力は星導館学園でもトップクラスの威力だ。そして、レスターの流星闘技《ブラストネメア》を食らってもイレーネは起き上がったのだ。自分で後方にとんで衝撃を流したとはいえ少なくはないダメージを与えたはずなのに起き上がった。その試合を見ていた俺とユリスは予想外の戦闘力の高さに作戦を練り直すことにしたのだ。

 

『私と同じ純星煌式武装《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》ね・・・・・・綾斗ならなんとかなるんじゃないかしら?』

 

『う~ん。どうかな、やるだけのことはやるけど』

 

『随分と弱気ね』

 

『ちょっと・・・ね』

 

『そんなんじゃ、オーフェリアを助けることも遥を探すことも、ウルスラを見付け出すことも、何もできないわよ』

 

『わかってるよセレス』

 

俺はセレスに励まされながらユリスとともにシリウスドームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

 

『いいな~、二人とも』

 

「後で合流できるから、それが終わったら三人で回ろうよシルヴィ」

 

本戦へと駒を進めた翌日、俺はオーフェリアと街に出ていた。もちろん、オーフェリアはヘッドホン型のデバイスで髪の色を変えて栗色にしている。ちなみにシルヴィはクインヴェールの生徒会長なので、今日のシリウスドームで行われている抽選会に出席している。もちろん、そこには星導館学園の生徒会長であるクローディアもいる。

 

『う~ん・・・・・・ペトラさん、今日このあとなにか予定あったかな?』

 

『今日明日明後日は特にありませんね。まあ、来週辺りからライブが少し在りますけど』

 

『そう言えばそうだったぁ~』

 

「ライブ?」

 

「・・・・・・シルヴィア、ライブあるの?」

 

『え?あ、うん。ツアーライブじゃないんだけどね、確かここでもライブなかったかな?』

 

『ありますよ。1週間後に』

 

『ペトラさん、綾斗くんたち呼べないかな?』

 

「いやいや、さすがに無理じゃないかな?チケットが無いだろうし」

 

シルヴィのペトラさんへの声に、若干苦笑を含めていった。何せシルヴィのライブチケットは即完売するほどの人気なのだ。さすがに、今からは無理だと思う・・・・・・

 

『ありますよ』

 

「え?」

 

だが、それはペトラさんの一言によって変わった。

間の抜けた声で空間ウインドウに映るペトラさんを見る。

 

『シルヴィアが言うと思って綾斗君たちの分のチケットは確保してあります』

 

『さっすがペトラさん』

 

『そういうシルヴィアはもう少し前もって言ってくれますか?』

 

『うっ・・・・・・』

 

「え~と・・・あるんですか?」

 

『はい。綾斗君たち3人を入れてリースフェルトさん、刀藤さんの分が』

 

どうやら俺たちの分だけじゃなくてユリスと綺凛ちゃんの分もあるみたいだ。さすがペトラさんと言うかなんと言うか、ある意味すごい。

 

『あ、そろそろ始まるみたいだからまた後でね綾斗くん、オーフェリアちゃん』

 

「あ、うん」

 

「・・・・・・終わったら連絡して」

 

『了解♪それじゃまた後でね』

 

シルヴィのその声を最後に開いていた空間ウインドウが閉じた。

 

「どうするの綾斗?」

 

「どうするって?」

 

「シルヴィアのライブよ。行くの?」

 

「まあ、俺としては行きたいかな。せっかくペトラさんがチケット用意してくれたから」

 

「なら決まりね。紗夜たちには後で・・・・・・ってあら?」

 

オーフェリアの声を遮り突如目の前に開いた空間ウインドウに映ったのは綺凛ちゃんだった。

 

『あ、すみません綾斗先輩。ちょっと助けてほしいことが・・・・・』

 

畏まった感じの綺凛ちゃんに眉を潜めて訪ねた。

 

「どうしての綺凛ちゃん?今日は確か紗夜と一緒に出掛けるって言ってなかった?」

 

『そ、その、紗夜さんが迷子に・・・・・・ではなく、紗夜さんとはぐれてしまって』

 

その一言で俺とオーフェリアは理解した。

 

「あー・・・。了解、俺たちも外にいるから綺凛ちゃん今どこにいる?」

 

『あ、今メインストリートの広場にいます』

 

「わかった。すぐ行くから待ってて」

 

『わかりました。ご迷惑お掛けしてすみません』

 

綺凛ちゃんとのやり取りを終えた俺は隣に立つオーフェリアを見る。

オーフェリアは呆れた表情を浮かべていた。

 

「てことみたいだから紗夜を見つけに行こう」

 

「・・・・・・そうね。それにしても紗夜の方向音痴は治らないのかしら?」

 

「あはは・・・・・・」

 

俺とオーフェリアは急いで綺凛ちゃんのいるメインストリートの広場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

商業エリア外

 

 

 

「・・・・・・たぶん、この辺りだと思うのだけど」

 

「これ以上は足で探すしかないね」

 

「そうですね・・・・・・」

 

綺凛ちゃんと合流した俺たちは、綺凛ちゃんが紗夜の携帯端末から連絡を取り、そこから得た情報をもとにこの付近までは絞り込めた。

すでに紗夜にはその場を動かないでって言ってあるからこれ以上悪化することないと思うが。

 

「取り敢えず手分けして探そう。暗くなる前に見つけ出さないと」

 

「それもそうね」

 

「はい。あ、それじゃわたしは向こうを見てきますね」

 

「お願いするわ綺凛」

 

「はいっ。オーフェリアさんもすみません」

 

「気にしないで。紗夜の方向音痴は今に始まったことじゃないから」

 

「あはは・・・」

 

オーフェリアの言葉に引きつった笑いを浮かべた綺凛ちゃんは、丁寧にお辞儀をすると、小走りで通りの向こうへと去っていった。

 

「・・・・・・早く紗夜を見つけ出さないと」

 

「そうだね。それにしても・・・・・・」

 

再開発エリアが近いからかこの辺りは観光客の姿はあまりなく、逆に柄の悪い連中の姿が目立った。

 

「レヴォルフの生徒が多いね」

 

「・・・・・・この辺りは再開発エリアが近いから」

 

「紗夜が巻き込まれてないといいんだけど」

 

「・・・・・・そうなると心配ね」

 

「うん」

 

「「―――相手が」」

 

紗夜は根本的に手加減というものを知らないので、もし因縁でもつけられていたら大変だ。

紗夜の煌式武装で吹き飛ばされることまず間違いない。

特に《鳳凰星武祭》の1回戦で界龍のタッグの片方をアークヴァンデルス改で吹き飛ばしたときはつい相手を心配してしまった。それがまた起きるとなったらそれこそ頭痛がする。

 

「シルヴィがいたらもっと良かったんだけど・・・」

 

「・・・・・・ごめん。私が探索系を使えたら良かったんだけど・・・」

 

「あ、オーフェリアを責めてる訳じゃないよ」

 

シルヴィの《魔女》として能力は万能。歌を媒介にして能力を行使することができる。だが、シルヴィにも出来ないことがある。それが治療系だ。一応、歌と声を媒介にして痛みを和らいだりすることができるように特訓はしているみたいだ。そして、オーフェリアの《魔女》としての能力は瘴気操作、つまり毒。星辰力を毒として操り、無味無臭の毒や相手を意識消失にしたりさせたりできる。つまりオーフェリアの能力はほぼ戦闘系なのだ。理由は無尽蔵に溢れ出る星辰力を抑えるのに必死で他のことに回せないから。現に今もオーフェリアは星辰力を抑え込んでる。

 

「オーフェリア、大丈夫?」

 

「・・・・・・ええ。大丈夫よ。ここ最近は上手く抑え込めてるから」

 

「そう・・・・・・ん?」

 

オーフェリアと一緒に路地へと入り紗夜を探していると、路地の先、影になっている部分から女の子の声が聞こえた。

 

「やめて・・・・・・さい・・・・・・!放し・・・・・・!」

 

その声は聞き覚えのある声だった。

 

「・・・・・・この声は」

 

声を聞いたオーフェリアはすぐさま声のした方へ歩いていった。

オーフェリアの後をついていくと、建物の陰で女の子が一人と、複数の男たちに取り囲まれていた。

 

「あれは・・・」

 

「・・・・・・やっぱり、プリシラ」

 

「うん。・・・ん?あの男の人たち・・・・・・前にイレーネさんと乱闘していた連中だ」

 

「それってこの間の?」

 

「うん」

 

静かに様子を見ながら話していると。

 

「おいおい、あんまりわめいてくれんなよ。面倒くせーのは嫌いなんだ」

 

「そうそう。まあ、恨むんならおまえのねーちゃんを恨むんだな」

 

「んー!んんんー!」

 

プリシラさんは男に口と手を押さえられて身動きがとれない状態になっていた。

 

「ユリスからは面倒事は起こすなって言われてるんだけど・・・・・・さすがにあれは見て見ぬ振りはできないかな」

 

「・・・・・・そうね」

 

オーフェリアと軽く視線で会話し同時にうなずき、俺はわざと物音を立てて物陰から姿を現した。

 

「な、なんだてめぇら!」

 

五人いた男の一人が俺たちに気づき、短刀型の煌式武装を起動させた。

 

「・・・・・・彼女は私の友達なの、放してもらえないかしら?」

 

「あぁん!?」

 

隣に立つオーフェリアの言葉に男たちの目が据わる。

オーフェリアとしてもあまり荒事にしたくないのか星辰力を抑えて会話していた。

 

「突然割り込んできて、ふざけたことぬかしてくれるじゃねぇかあんたら」

 

男たちは俺とオーフェリアを睨み付けながら、次々と煌式武装を起動させる。

 

「よく見たら、女。結構良い身体してんじゃねえか」

 

「お、ホントだな」

 

男たちはオーフェリアの身体を舐め回すような視線で見る。

俺はオーフェリアを隠すようにオーフェリアを俺の影に隠し男たちを睨み付ける。

 

『綾斗、あの人たち斬って良いかしら?』

 

『ごめん、セレス。斬りたいのは山々なんだけどちょっとだけ我慢して』

 

『わかったわ。まあ、綾斗が1番怒ってるしね』

 

セレスから怒気の入った声で聞かれるが、俺はそれをなんとか我慢して落ち着かせる。

というかセレスに言われるまでもなく今すぐあの男たちを斬りたいのは俺もだ。なにせ、オーフェリアを汚らわしい眼で見ているから。しかも、舐め回すように見ているのだ、さすがに人の彼女を。大切な人をそんな眼で見られたら誰でも怒る。

そう思っていると、男たちの一人が突然俺を指差して叫んできた。

 

「ああっ!こ、こいつ《叢雲》じゃねえか!」

 

「《叢雲》って・・・・・・星導館の序列一位か!?」

 

「こんなとぼけた野郎が?ホントかよ?」

 

男たちの間に戸惑いが走るなか、俺は後ろにいるオーフェリアから寒気を感じた。

 

「・・・・・・綾斗のことバカにして・・・息の根止めてあげようかしら・・・・・・?」

 

耳を済ませて聞こえてきたオーフェリアの声に俺は冷や汗を掻いた。実際、オーフェリアの毒なら一瞬であの五人を永遠の眠りにつかせることも容易なはずだからだ。

俺は後ろのオーフェリアの手を握り落ち着かせる。

そして、軽くうなずき未だに戸惑っている男たちの間をすり抜け、壁に押し付けられていたプリシラさんの手を取り路地の奥へと全力で駆ける。

 

「あっ!こ、こいつら・・・・・・!」

 

プリシラさんを押さえ付けていた男が手を伸ばすがそれを俺はプリシラさんを先に走るオーフェリアに任せ、伸ばしてきた手首を掴み軽く捻り上げて、男の仲間たちの方へ突き飛ばしてオーフェリアとプリシラさんを追いかける。

 

「・・・・・・恐らく彼らはこの辺りの地理に詳しい」

 

「ってことはいずれは袋小路になる?」

 

「ええ」

 

「あの、上に逃げたら・・・・・・」

 

「なるほど、その手があった。オーフェリア」

 

「ええ」

 

俺たちは次の曲がり角を右に曲がると俺はプリシラさんを抱き抱えて、オーフェリアとビルの屋上へと跳んだ。

屋上へと辿り着いて下を見ると、さっきの男たちが俺たちを探しているのが見えた。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

「・・・・・・なんとか撒いたわね」

 

「だね」

 

「ところで綾斗」

 

「なに?」

 

「何時までプリシラを抱いているの?」

 

「あ、あの・・・・・・」

 

「あっ・・・・・・ご、ごめん!」

 

オーフェリアとどこか良い辛そうな様子で口を開いたプリシラさんに俺は自分がまだプリシラさんを抱き抱えていると言うことに気づいた。

 

「いえ、とんでもないです!危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました!」

 

「・・・・・・ところでプリシラ。イレーネに連絡入れなくて良いの?」

 

「あ!そうですね、ちょっと失礼します」

 

オーフェリアの言葉に、プリシラさんは少し離れて姉のイレーネさんに連絡を取った。

その間、俺とオーフェリアはここ付近の気配を探っていた。何故なら、遠くからはまだ騒々しい声が聞こえるが、この付近は静かだからだ。それも不自然なほどに。

しばらくすると。

 

「・・・・・・イレーネには繋がった?」

 

「はいっ。すぐに迎えに来てくれるそうです」

 

「そっか。じゃあ一安心だね」

 

「・・・・・・ところでプリシラ。あの連中はイレーネが歓楽街(ロートリヒト)のカジノで暴れた報復に来たのかしら?」

 

「どうやらそうみたいです」

 

「オーフェリア、歓楽街って?」

 

「再開発エリアの一部にある、非合法のお店が集まっている場所の通称よ」

 

「へー」

 

再開発エリアにそんなところがあるとは知らなかったため俺は感嘆の声を漏らした。

するとそこへ。

 

「プリシラ!」

 

プリシラさんの名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「あ、お姉ちゃん!」

 

声のした方を見ると、そこには純正煌式武装《覇潰の血鎌》を持ったイレーネ・ウルサイスがいた。

イレーネさんはプリシラさんの姿を見ると一瞬のうちにプリシラさんに近寄り、プリシラさんを見る。

 

「無事かプリシラ?!怪我してないか?!なにもされてないよな!」

 

「お、お姉ちゃん!?天霧さんとオーフェリアさんの前だよ!?」

 

「・・・・・・相変わらずねイレーネ」

 

オーフェリアはやや呆れた声でイレーネに声を掛ける。

 

「天霧綾斗、オーフェリア。プリシラが世話になったな」

 

「いいよ。俺も、オーフェリアの友達を助けたかったから」

 

「そうか・・・。ところで聞きたいことがあるんだが」

 

「ん?」

 

「この下の連中。・・・やったのはあんたらか?」

 

「え?」

 

「・・・・・・私たちじゃないわよ?」

 

「そうか・・・・・・。ところでなんで二人はこんなところ通り掛かったんだ?見る限り、あんたら今日出掛けてたんじゃねえのか?」

 

「あー、実は・・・・・・」

 

イレーネさんに説明しようとするそのタイミングで、空間ウインドウが開いた。

そこに映っていたのは紗夜と綺凛ちゃんだった。どうやら綺凛ちゃんが紗夜を見つけたみたいだ。

 

『あ、綾斗先輩、オーフェリアさん。今ちょうど紗夜さんと合流しました』

 

「よかった。ありがとう綺凛ちゃん」

 

『そういう綾斗とオーフェリアは今どこに?』

 

「・・・・・・そう遠くはないと思うわ。綺凛、メインストリートの広場で待ち合わせで良いかしら?」

 

『わかりました』

 

「じゃあお願いね」

 

空間ウインドウが閉じ、イレーネさんとプリシラさん姉妹を見ると、二人はなんとも言えない顔をしていた。

 

「なんつーか、あんたらも苦労してんだな」

 

「あはは・・・まあね」

 

「にしてもオーフェリアはともかく、天霧には借りができちまったな」

 

「別に良いよ。困ったときはお互い様だし」

 

「そういうわけにもいかねぇんだよ。・・・・・・さっさと借りの清算しとかねぇとやり辛くってしょうがねぇ」

 

「・・・・・・どういうことかしらイレーネ?」

 

「あ?もしかして知らねぇのか?次の対戦相手」

 

「次の対戦相手・・・・・・ああ、そっか。もう本戦の組み合わせが発表されたんだ」

 

表示した空間ウインドウの《鳳凰星武祭》本戦4回戦の自分とユリスの名前を探し対戦相手を確認した。

その対戦相手を見て俺はあんぐりと口を開けた。それは横から見ているプリシラさんもだった。

目の前の空間ウインドウに表示される4回戦の対戦相手欄にはこう表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《鳳凰星武祭》4回戦

 

 

 

 

 

天霧綾斗、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト

 

VS

 

イレーネ・ウルサイス、プリシラ・ウルサイス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と。


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