学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫と孤毒の魔女、3人の物語   作:ソーナ

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覇潰の血鎌

 

 

~綾斗side~

 

 

 

鳳凰星武祭(フェニクス)》四回戦 シリウスドーム

 

 

 

 

『さぁー各会場で白熱の試合が続いております鳳凰星武祭(フェニクス)四回戦!このシリウスドームでのトリを飾るのは星導館学園の天霧・リースフェルトペアとレヴォルフ黒学院のウルサイス姉妹です!ベスト十六に進むのは果たしてどちらのタッグなのか!』

 

『これも楽しみな一戦ッスねー。どちらも予選はほとんど相手を寄せ付けずに勝ち上がってきてるッスから、ここが一つの分水嶺になると思うッス』

 

 

 

お馴染みの解説者二人の言葉をシリウスドームのステージ場で聞いている俺は苦笑し、ユリスは眉を潜めてぼやく。

 

「ふん、相変わらず簡単に言ってくれるものだな」

 

「まあ、それがあの人たちの仕事なんだし」

 

俺はユリスのぼやきにそう返した。

 

 

 

『さてして、ここでチャムさんにはこの一戦の成り行きを予想していただきたいと思います。イレーネ選手の使う《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》は燃費が悪いですから、やはり長期戦になれば有利なのは星導館でしょうか?』

 

『ううーん、一概にそうとも言えないんじゃないッスか。なにしろイレーネ選手にはプリシラ選手という、いわば補給路があるッスから。それに能力自体の比較でいえば・・・・・・』

 

 

 

解説者二人は今回の試合を予測しているみたいだ。

だが、長期戦が不利なのはウルサイス姉妹より俺たちの方だ。ユリスは問題ないが、あるのは俺だ。

いくら完全解放のリミット時間が最大で10分になったとはいえ、ここから先、決勝戦までは間に二日、シルヴィアのライブと、調整日が入るだけで、それ以外に休息日はないのだ。5分程度の解放なら翌日の試合に影響はないが、10分、もしくはそれ以上使用すると翌日の試合が厳しくなるのは目に見えてるうえ《黒炉の魔剣(セレス)》が使えない。

だが、この試合だけは無茶をしてもしなければならないことがある。

 

『セレス、いける?』

 

『問題ないわ。綾斗は?』

 

『俺も大丈夫』

 

セレスと軽く思念通話をして確かめる。

 

「綾斗、無理はするなよ・・・・・・と言ってもお前は無駄なのだろうな」

 

「まあね。無理をしないでどうにかできる相手じゃないし、オーフェリアからの頼みごともある」

 

「《覇潰の血鎌》の破壊か・・・・・・。だがいくら黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)でもウルム=マナダイトを破壊できるのか?」

 

「わからない、やってみないと」

 

「だな。とにかく、最初から全力で行くぞ綾斗!」

 

「もちろん!」

 

ユリスにうなずき返し、呼吸を整えて自身の星辰力(プラーナ)を高める。

周囲に黒紫色の魔方陣が浮かび上がり、万応素(マナ)が輝いて弾け飛ぶ。身体の奥底から本来の力の一部が膨れ上がる。そして。

 

「―――うちなる剣を以って星牢を破獄し、我が虎威を解放す!」

 

すべてを戒める禁獄の縛鎖が粉々に砕け散り、力が漲ってきた。

 

『いくよセレス!』

 

『わかってるわよ綾斗!』

 

ギャラリーと解説者二人が一斉に沸き返り、歓声が乱れ飛ぶ中、俺は腰のポーチからセレスを取り出し起動する。

すでに隣ではユリスが自身の煌式武装アスペラ・スピーナを起動している。

 

「やる気十分だなぁ、天霧」

 

《覇潰の血鎌》を肩に乗せたイレーネが睨みながら薄く笑った。

イレーネ一人が前に出て、プリシラさんはイレーネの後ろに控える形だ。

 

「そんじゃ、こっちも全開でいかせてもらうぜぇ・・・・・・!」

 

《覇潰の血鎌》が不気味な紫色の光を放ち、万応素が光と同様に不気味に蠢いた。

緊張感が張り詰め、そして――――――

 

 

 

鳳凰星武祭(フェニクス)四回戦第十一試合、試合開始(バトルスタート)!』

 

 

 

機械音声が試合開始の合図を告げた。

 

「咲き誇れ―――赤円の灼斬花(リビングストンデイジー)!」

 

合図と共に、即座にユリスが能力を発動させイレーネに攻撃を仕掛ける。

 

「いけ!」

 

ユリスの放った赤円の灼斬花は上下左右からイレーネに襲い掛かる。

 

「ははっ!小賢しいな!」

 

だが、十数個におよぶ赤円の灼斬花を、イレーネは

《覇潰の血鎌》で容易くすべてをなぎ払った。

そしてその間に、俺はセレスを構え赤円の灼斬花の戦輪の間をギリギリのところで駆け抜け、距離を詰める。距離を詰め、間合いに踏み込むとセレスを下段から上へと斬り上げる。

 

「おおっと!」

 

イレーネはその攻撃の一撃を《覇潰の血鎌》の刃で受け止めた。俺の《黒炉の魔剣》と、イレーネの《覇潰の血鎌》の刃同士が干渉しあって火花が舞い散る。

 

 

 

『受け止めたあ!あらゆるものを焼き斬る《黒炉の魔剣》とはいえ、相手が同格の純星煌式武装(オーガルクス)となると話が違う!』

 

 

 

解説者の一人が今の鍔迫り合いを見てそう実況した。

 

『くっ!やはり同格の純星煌式武装相手だと簡単にはいかないか』

 

『私をあんな純星煌式武装と一緒にしないでちょうだい綾斗』

 

イレーネと鍔迫り合いから、身体を巻き込むように回転させて胴を薙ぎながらセレスと思念会話をする。

 

『そこまで言うの?』

 

『ええ。あんな人の身体を弄くり回して作り替えるような純星煌式武装と、私のような純粋な意思を持った純星煌式武装と一緒にしないで!』

 

『わ、わかった』

 

薙ぎ払いをイレーネは《覇潰の血鎌》で弾き上げ、そのまま上段から切り下ろしてくるが遅い。すでにこっちの切り返しが早い。イレーネはとっさに身体を入れ替えるようにして袈裟懸けの一撃をかわす。だが、そこに間髪入れず追撃の突きを見舞う。

イレーネはその突きに対して《覇潰の血鎌》をくるりと回して、刃を盾のようにして防ぐ。再度、火花が舞い散るが、俺は剣先を一度引いてから手首を返して、《覇潰の血鎌》を弾き退ける。

 

「なっ!?」

 

空いた胴。校章を斬りつけようとするがそれは後ろに下がったイレーネのマフラーの端を軽く焼き斬るだけだった。

 

「さすがに斬り合いじゃ分が悪いか!」

 

悪態を吐くイレーネに、タイミングを見計らったかのようにユリスの赤円の灼斬花の戦輪が次々と飛び掛かる。

 

「―――十重壊(ディエス・ファネガ)!」

 

しかしイレーネが《覇潰の血鎌》を一振りするとその身体の回りに黒い重力球が現れ、ユリスの戦輪とぶつかり合い、互いに対消滅した。

 

「ふん、組んで一、二ヶ月の急造タッグにしちゃあ、それなりにやるじゃねぇか」

 

「そっちこそ、たった一人でよくもかわすものだ」

 

「ははっ!一人じゃねえよ、こっちだってちゃんと二人さ」

 

そう言うイレーネの瞳に狂暴な光が灯り、ニヤリと笑った口元から鋭い牙が覗く。その牙はまるで吸血鬼のようだった。

 

「こいつはあたしとプリシラ、二人の力だ!」

 

イレーネがそう言うと《覇潰の血鎌》がカタカタと、まるで笑っているように震え、紫色の光が包み込んだ。

イレーネが《覇潰の血鎌》の切っ先を地面に当てると、紫色の光が地面を伝った。

 

「よけろ、綾斗!」

 

『綾斗!』

 

ユリスとセレスが叫ぶより前に、すでに俺はその場から離れていた。先ほどまでいた位置を見ると、周囲の空気がビリビリと震え、紫色のドームのようなものができていた。

 

『あの周囲一帯の重力を操作したみたいね』

 

セレスが今のを見て冷静に分析した。

 

「ほぅ、さすがにいい反応するじゃねぇか」

 

「ユリス!」

 

「わかっている!―――鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!」

 

俺は瞬時にユリスに声を掛け、ユリスは周囲に炎の槍を顕現させ、イレーネに向かって飛ばす。

空気を切り裂いて空を駆ける炎の槍に少し遅れて俺も駆け出す。

しかし、ユリスの鋭槍の白炎花がイレーネに当たるその目の前で。

 

「―――重獄葦(オレアガ・ペサード)!」

 

突如、地面から障壁のように現れた紫の壁に阻まれた。

 

「なっ!」

 

「設置型の防御能力・・・・・・!」

 

「ははっ。こいつはあたしじゃなくてプリシラを狙おうっていう不届き者が出たときに、用心のため仕込んでおいた隠し玉だ。ちょっとやそっとじゃ壊せねぇよ」

 

障壁の向こうでそう言うイレーネは薄く笑い、プリシラさんの首に牙を突き立て、プリシラさんの血を飲み始めた。その姿はまさに吸血鬼だ。

 

「・・・・・・これで仕切り直し、か」

 

ため息を吐いて、上の電光掲示板の時間を見る。そこには試合が始まってからすでに2分10秒が経過していた。

 

『セレス、あとどのくらい?』

 

『今のペースだとあと6分は問題ないわ。けど、それ以上は限界よ。さらに星辰力を多量に注ぎ込んだらその分時間は減るわ』

 

『つまり早めに決着をつけないと、ってことか』

 

セレスにリミットを確認する。

 

「綾斗。こちらの仕込みは完了だ。おまえもあれを破壊するのなら早くしろ」

 

「・・・・・・了解」

 

隣に立つユリスから小声で聞き、うなずき返してセレスをグッと握りしめる。

ユリスが仕込んだのは、現段階でのユリスの取って置きだ。この攻撃が勝敗を分ける鍵となるだろう。

 

「・・・・・・よぉ、待たせたな。そんじゃ第二ラウンドといこうか」

 

紫の、重力の障壁が溶けるように掻き消え中から出てきたイレーネは口元を拭いながら前に出てきて言った。

その後ろではプリシラさんが、荒い息を吐いてぐったりと横たわっている。

 

「こんなやり方が本当に正しいと思ってるのかい?」

 

「・・・・・・黙れよ、天霧。そんなこたぁ、今更あんたに言われるまでもねぇ」

 

「だったら―――」

 

「黙れっつってんだ!」

 

イレーネが《覇潰の血鎌》を振りかざすと同時に、紫色の輝きがさっきと同じように地面を走った。

俺とユリスはその場からすぐさま離れ左右に展開する。

 

『範囲は広かったけど、綾斗なら簡単に避けられるわね』

 

『あはは。過剰評価だよセレス』

 

セレスと軽く念話をしてイレーネに左から迫る。

 

「ちょこまかと・・・・・・!」

 

「咲き誇れ―――九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

そこへユリスからのサポートが入りイレーネの動きを阻害する。

 

「うざってぇんだよ!百葬重列(シェン・グェスティア)!」

 

だがそれはイレーネが《覇潰の血鎌》を一閃させると、紫色のオーロラのような波動が障壁のように展開され、可憐に舞うユリスの九輪の舞焔花をすべて防いだ。

だが、それは全方位ではなく一正面だけらしく、俺が迫る場所はがら空きだった。

 

「天霧辰明流剣術初伝―――"貳蛟龍(ふたつみずち)"!」

 

イレーネの懐へ飛び込み、セレスを薙ぎ、薙いだ一撃から腕を返して、さらに踏み込んで下段からの斬り上げへと繋げる。

 

「ちぃっ!」

 

一撃目は《覇潰の血鎌》と刃とぶつかり、二撃目は《覇潰の血鎌》の柄に当たりイレーネを後ろに吹き飛ばせ、体勢を崩す。

 

「なっ!?しまっ!」

 

「はあっ!」

 

そこに俺は《覇潰の血鎌》のコア目掛けてセレスを振り下ろす。

ウルム=マナダイトが埋め込まれた機関部へ叩き込んだ一撃に《覇潰の血鎌》は悲鳴のような甲高い音を発し、俺を突然見えない力で弾き飛ばした。

 

「うぐっ!」

 

壁際にまで吹き飛ばされ、背中を思いっきり壁にぶつけた俺は肺の中の息を一気に吐き出した。

 

『大丈夫綾斗!』

 

『だ、大丈夫。セレスは』

 

『私も平気よ。けど・・・・・・』

 

セレスの言葉を聞きながらイレーネを見る。視線の先のイレーネは怒りに満ちた瞳で俺を睨んでいた。

 

「・・・・・・なるほどなぁ。まさか《覇潰の血鎌》を狙ってくるとは思わなかったぜ・・・・・・!」

 

『どうするの、彼女に私たちの狙いがバレたみたいだけど』

 

『さっきの一撃で決められたら良かったんだけどね・・・・・・』

 

『確かにさっきの攻撃、手応えはあったけど、刃が当たるその直前で《覇潰の血鎌》の重力の障壁みたいなので幾分か防がれたわ』

 

『セレスから見て《覇潰の血鎌》は破壊できる?』

 

『当然よ。と、言いたいけどさすがに今の現状じゃ・・・・・・・ね。けどここで止めるつもりは満更ないわ。私をなんだと思ってるのよ。綾斗だって一度防がれてだけで諦める訳じゃないでしよ?』

 

『はは。当然だね』

 

セレスと念話をしながらユリスと合流する。

 

「惜しかったが時間切れだ、綾斗」

 

「・・・・・・わかってる」

 

ユリスと合流すると、ユリスが真剣な表情で声を掛けてきた。俺はユリスの声掛けにうなずいて答える。

電光掲示板の試合開始してからの時間はすでに5分を過ぎていた。

 

「さあて・・・・・・こっちもお返しをしねえとなぁ・・・・・・!―――万重壊(ディエス・ミル・ファネガ)!」

 

イレーネが《覇潰の血鎌》を振ると、虚空から小さな重力球が現れた。今までのものより小さいが数が尋常でないほど多い。

 

「生憎、あたしはあまりコントロールがよくなくてなぁ。けどまあ、これなら外さねぇ・・・・・・!」

 

「ユリス!防御に専念して!」

 

「ああ、わかってる!」

 

「潰れて消えろ!」

 

イレーネが《覇潰の血鎌》を振ると、重力球の全体の1割ほどがユリスに、残り9割ほどがすべて俺に向かって飛んできた。

 

「ふぅー・・・・・・・」

 

セレスを正眼に構えて息を整える。

息を深く吸い込み、精神を集中させる。描くのは自分の周囲一メートル圏内の円。そしてその円に意識を張り詰める。この半径一メートルの円が俺の絶対防御圏だ。

 

「天霧辰明流中伝―――"八汰烏(やたがらす)"」

 

猛然と襲い掛かってくる重力球は、俺の絶対防御圏の領域に侵入した瞬間に、すべて俺の振るうセレスによって両断された。

四方八方から次々と迫り来る重力球の群れを、俺は閃光のような剣速の剣撃によって一つも残らず撃退して消し去る。イレーネやギャラリーにはその剣速により剣閃すら見えないだろう。

 

「マジかよ・・・・・・」

 

すべての重力球を切り裂いた俺は、今度は自分から打って出る。イレーネの間合いへと一気に飛び込む。

 

「ちっ!」

 

イレーネも即座に対応すると、下段から上へと斬り上げるセレスを《覇潰の血鎌》の刃で受け止める。だが、イレーネは剣圧に弾き飛ばされるように大きく後ろに吹き飛んだ。

 

「ユリス!」

 

「まかせろ!」

 

重力球をアスペラ・ピアーナで上手く弾き飛ばし、着地したイレーネの足元に魔方陣を浮かび上がらせる。

 

「綻べ―――栄裂の炎爪華(グロリオーサ)!」

 

ユリスの設置型能力により現れた赤い魔方陣は、イレーネを握り潰すように、巨大な炎の爪を地面から吹き上がらせた。

 

「はっ!誘導が見え見えだぜ!」

 

イレーネが《覇潰の血鎌》を地面に突き立てると、ユリスの魔方陣はあっさりと砕け地り、陽炎のように消える。

だが、ユリスの表情は焦りはない。なぜなら―――

 

「そいつは囮だ」

 

「なんだと・・・・・・っ!?」

 

イレーネの顔に驚愕の色が浮かぶと、その足元に再び魔方陣が浮かび上がった。

いや、足元というよりイレーネを中心とした範囲二十メートル超えの魔方陣だ。

 

「私の設置型能力では最高火力の技だ、存分に味わうがいい!」

 

ユリスから膨大な量の万応素が溢れ出て、魔方陣に流し込まれているのがわかる。

 

「ちっ!」

 

イレーネは慌てて逃げ出そうと魔方陣の外へと走り出すが時すでに遅く。

 

「綻べ―――大輪の爆耀華(ラフレシア)!」

 

ユリスの技名を言い終えると同時に、魔方陣の周囲からは炎の壁が立ち上ぼり、中心点で重なるように集まりイレーネを閉じ込める。上空の中心点では途方もない大きさの炎の花が膨れ上がり、イレーネに向かって落下した。イレーネに当たると、耳をつんざくような轟音がステージを包み込んだ。嵐のような爆風が俺やユリス、プリシラさんにまで届く。

 

「お、お姉ちゃん!」

 

プリシラさんが青ざめた顔でイレーネに近寄ろうとするが、まだ爆煙が晴れてないためその様子は窺えない。

やがて爆煙が収まり、ユリスの大輪の爆耀華の惨状が露になった。魔方陣のあった場所、イレーネのいた場所はクレーター状にへこんでいた。そしてその中心には、俯いたままだらりと《覇潰の血鎌》を携えてたつイレーネの姿があった。イレーネの周囲にはイレーネを守るように小さな重力球が幾つも浮いていた。

 

「っ!馬鹿な・・・・・・!《覇潰の血鎌》の能力で爆風を押さえ込んだのか・・・・・・!?」

 

ユリスが愕然とした顔で呟いた。

だが俺もユリスと同じだ。これで《覇潰の血鎌》が破壊できているとは思えてなかったが、《覇潰の血鎌》を使って防がれるとは思わなかったのだ。

 

「良かった!お姉ちゃん!」

 

イレーネの姿を見たプリシラさんがぱあっと顔を輝かせて駆け寄る。

 

「(―――っ!)」

 

『―――っ!』

 

その瞬間、俺とセレスに不吉な予感がよぎった。

 

『ねえ、セレス。イレーネの様子おかしくない?』

 

『え、ええ。プリシラが声を掛けているのに返事をしないなんて。いつものイレーネならすぐに返事を返してるはずよ』

 

『まさか・・・・・・』

 

『綾斗も私と同じこと・・・・・・思った・・・・・・?』

 

俺とセレスは同時にイレーネの様子に違和感を覚え念話で会話する。その間にもプリシラさんは恐る恐るイレーネに近寄る。

 

「お姉ちゃん・・・・・・?」

 

プリシラさんも違和感を覚えたのか、イレーネまであと数歩のところで足を止めた。

そこで初めて、イレーネが動いた。

ふらふらと定まらない足取りで、ゆっくりとプリシラさんの方へ向かう。プリシラさんはわずかに後ずさりして、少し下がってつまずいて、転んだ。

 

「おねえ、ちゃん・・・・・・?」

 

「まずいっ!」

 

イレーネが顔をあげ、その瞳を見た瞬間俺はとっさに駆け出そうとした。しかし、その瞬間凄まじい今までに非にならない程の重圧が俺たちを襲った。

 

「うぐっ・・・・・・!」

 

「な、なんだ、これは・・・・・・!」

 

俺とユリスは、凄まじい重圧に成すすべもなく地面に押し付けられた。圧力でステージの床にひびが入り、気抜けばすぐさま意識を失うほどの痛みと圧迫間が全身を襲う。

 

『これは・・・!《覇潰の血鎌》の重力操作・・・・・・!』

 

『どうなってるかわかるセレス』

 

『わからないわ!けど、これはどう考えても・・・・・・!』

 

セレスとなんとか念話で会話し、身体の上に山が乗っているような感覚になんとか首を動かして視線をイレーネとプリシラさんに向ける。

イレーネとプリシラさんに視線を向けると、プリシラさんはイレーネに左手で抱き抱えられるようにしてぐったりとしていた。どう見ても意識がないように見える。そしてその首筋には、イレーネの牙が突き刺さっていた。

 

「くっ・・・・・・一体、なにがどうなっている・・・・・・!」

 

絞り出すような声でユリスがうめく。

 

「たぶん・・・・・・あれは、イレーネじゃない」

 

『ええ。あれはイレーネじゃないわ』

 

「《覇潰の血鎌》だ・・・・・・!」

 

『《覇潰の血鎌》よ・・・・・・!』

 

「な、んだと・・・・・・?」

 

驚くユリスとは対照的に、俺とセレスはその直感が正しいと言う確信があった。

 

『どうみてもあれは、イレーネの身体を《覇潰の血鎌》が乗っ取ってるわ!』

 

「とにかく、このままじゃプリシラさんが危ない・・・・・・!」

 

プリシラさんはさっきからずっとイレーネに血を吸われ続けていた。いかにプリシラさんが再生能力者(リジェネレイティブ)とはいえども、能力の代償を払い続けるとなるとそれこそ命の危険がある。場合によっては死に至る危険性もあるのだ。

 

『セレス、あとどのくらい持つ』

 

『よくてあと3分・・・・・・いえ、2分よ』

 

『了解』

 

力を振り絞って身体を起こし、イレーネに・・・・・・・《覇潰の血鎌》に向かって少しずつ歩きながらセレスに確認をとる。

 

「綾斗!」

 

後ろからユリスの声が聞こえてくる。俺はユリスに返事は返さずただ、《覇潰の血鎌》に向かって歩く。

 

「イレーネ・・・・・・!」

 

残り十メートルを切ったところでイレーネに声をかける。だが、返ってきたのはイレーネが持つ《覇潰の血鎌》の不気味な嗤いだ。

 

「目を覚ませ、イレーネ!力と大切なものとを混同しちゃダメだ!イレーネ!本当に大切なものなら両手でつかめ!今、君が望むのはどちらの手だ!」

 

俺の叫びに一瞬、ほんの刹那の一瞬だけ、イレーネの瞳に光が戻る。

 

「あ・・・・・・」

 

異常な重力が掻き消え、紫色の光が陰り、世界が切り替わったかのような静寂が訪れる。

イレーネはプリシラさんの首もとから牙を外し、プリシラさんはイレーネの足元の地面へとゆっくりと落ちていった。

 

「イレーネ・・・・・・」

 

俺は再度イレーネに声をかける。

―――しかし、返ってきたのは。

 

「うあああああああああああああああああああああ!」

 

イレーネの絶叫と、先程以上の重圧だった。

 

 

 

『ものすごい衝撃波!まだ勝負はついていない!』

 

『校章による意識消失が宣告されてないッスからね』

 

 

 

解説者二人のそんな声が耳に入る。

イレーネはぐったりとうなだれ、その身体からは見る見るうちに生気が失われていく。が、それでもその右手は《覇潰の血鎌》を離さない。いや、離れないのだ。

 

『今のイレーネは《覇潰の血鎌》にとって使い手ではなく、ただの燃料供給機にすぎないわ!このまま、あの《覇潰の血鎌》に使われると、最悪精神が壊れるわ!』

 

『くっ!止める手は!』

 

セレスからの念話での会話に俺は解決策を聞く。

 

『《覇潰の血鎌》をイレーネの手から離すのよ!そして、《覇潰の血鎌》のコアを破壊する!』

 

『了解!』

 

その瞬間、俺はセレスと深く繋がった。

 

『『っ?!』』

 

俺の脳裏にある一つの映像が流れた。そこに写っているのは姉の遥だ。そしてその手にはセレスが・・・・・・《黒炉の魔剣》が握られていた。

 

『今のは・・・・・・・』

 

『まさか、遥と私の戦闘記録データ・・・・・・?けど、そんなことより・・・・・・・!』

 

『ああ・・・!やるよ!そしてイレーネを助ける!』

 

『もちろんよ綾斗!』

 

紫色の輝きに染められた世界の中で《黒炉の魔剣(セレス)》のウルム=マナダイトが赤色の光を放ち輝く。その光は徐々に輝きの強さを増し、じりじりと紙が焼けるかのように紫の輝きに染められた世界を侵食していく。

 

『《黒炉の魔剣()》は万物を焼き斬る魔剣!この世界に、私に斬れないものはないわ!』

 

セレスの確固たる意思の声を聞きながら、俺は星辰力をセレスに注ぎ込む。

 

「はああああっ!」

 

セレスは万物を焼き斬る防御不可能の魔剣だ。それなら、この世にセレスが斬れないものはない。

俺は渾身の力を込めてセレスで虚空を薙ぐ。

その途端、俺たちのいたステージ上の世界を覆い尽くしていた紫色の輝きが両断された。

俺とセレスが斬ったのは重力の根源そのものだ。

しかし、今の俺では力が断ち切れたのはほんの一瞬。だが、その刹那の時間で十分だ。

一瞬で間合いを詰め、下段から《覇潰の血鎌》を斬りつけ、イレーネの右手から離す。離れた《覇潰の血鎌》はくるくると回転しながら宙を舞い、

 

「天霧辰明流剣術中伝―――」

 

重力に従って墜ちてくる。俺は墜ちてくる《覇潰の血鎌》をすれ違い様に斬り落とし、地面に落ちた《覇潰の血鎌》のコアへと。

 

「―――"刳裡殻(くりから)"」

 

地面へ縫い止めるように刺し貫いた。

一拍置いて、硝子をこすり合わせたような不協和音がステージに響き渡る。

 

『はああああっ!』

 

「うおおおおっ!」

 

俺はセレスとともに全力でウルム=マナダイトを刺し突く。

 

『くっ!セレス!まだ行けるよね!』

 

『当然よ!』

 

セレスのその声を聞き、さらにセレスに星辰力を注ぐ。

やがて、セレスの刀身の先が《覇潰の血鎌》のコアを完全に貫き、そこから生じたひびにより、《覇潰の血鎌》は粉々に砕け散った。

地面へと膝から降りたイレーネはそのまま意識を失い、前に倒れた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

 

『《覇潰の血鎌》完全破壊、完了よ、綾斗』

 

『そう・・・・・・・』

 

セレスと息を整えながら念話していると。

 

 

 

『試合終了!Cブロック四回戦!激闘を制したのは天霧綾斗&ユリス=アレスクシア・フォン・リースフェルト!』

 

 

 

試合終了のアナウンスが聞こえると、今まで張り詰めていた身を解き、地面へと背中から倒れた。

 

『大丈夫、綾斗?』

 

『はは・・・・・・。しばらくは動けそうにないかも』

 

セレスと念話で話していたその時。

 

「うっ・・・・・・!」

 

『綾斗!』

 

俺の周囲に姉さんの禁獄の鎖が黒紫色の魔方陣とともに現れ、俺を縛り上げた。

 

「綾斗!しっかりしろ綾斗!」

 

『綾斗!しっかりして綾斗!』

 

ユリスとセレスの声が聞こえてくるなか、俺はあまりの激痛に意識を失った。

 

 

 

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