学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫と孤毒の魔女、3人の物語 作:ソーナ
~綾斗side~
「はあー・・・・・・やっと戻ってこれた・・・・・・」
「まったく、しつこい以外ないぞ」
「だがまあ、一先ずはこれで準々決勝までコマは進めた。明日は調整日だからゆっくりと休めるはずだ」
「そうだね」
「言っとくが休みだからと言ってはめを外すなよ?」
「分かってるよ」
釘を刺す風に言うユリスに苦笑しながら控え室に向かって歩いていくと、通路の先、控え室の前に誰かが立っているのが見え足を止めた。
「ん?」
歩みを止めた俺に怪訝そうに眉をひそめたユリスは、視線の先を一瞬遅れて気づいた。
「ほう、これは意外な客だな。まさか祝福をくれに来たわけでもあるまい、どのようなご用件かな?」
控え室の前に立っていたのは、つい先ほど戦ったばかりの宋選手と羅選手だったのだ。
「そのまさかだ《
「なに?」
宋さんの言葉にユリスは眉を上げた。
「天霧君。そして《華焔の魔女》。今回の試合、完全に我々の敗けだ」
「ああ。オレも宋も全力で闘って負けた」
「ただ、一つ心残りがあるとすれば、全力の君と戦ってみたかった」
「す、すみません・・・・・・」
「いや、すまない。君を責めているわけではないのだ」
宋さんの言葉に居た堪れなくなり謝罪をしたが、逆に宋さんが謝ってきた。
「《華焔の魔女》、あの作戦を考えたのは君だろう。発想といいタイミングといい、お互いを信頼していなければ出来ない素晴らしいコンビネーションだった」
「それは私も同じだ。私もそちらを甘く見ていた。素晴らしいコンビネーションだったのはそちらもだ」
「ありがとう」
ユリスと宋さんが手を握り、互いを健闘しあうなか俺も羅さんと手を握りあわせていた。
「だが―――気をつけたまえ。あの手の策は、次の相手には通じない」
「・・・・・・どういう意味だ?」
宋さんの言葉にユリスの瞳に剣呑な光が灯った。
「そう警戒しないでもいい。これは純粋な忠告だ。言葉通りに受け取ってくれ」
「そう言われてもな・・・・・・。第一に、何故おまえたちがそんなことを私たちに言う。次の相手はおまえたちの仲間なのだろ?」
俺とユリス、宋さんと羅さんの試合は五回戦の最終試合だったので、すでにつぎの次の対戦相手はわかっている。
次に俺とユリスが戦う相手は宋さんと羅さんと同じ
「同じ学園に所属しているからといって必ずしも仲間というわけでもないだろう」
「ふ、確かにな・・・・・・」
宋さんの言葉にユリスは言葉を濁らせて納得したようにうなずいた。宋さんの言う通り、同じ学園の中でも・・・・・・いや、同じ学園だからこそ、ゴタゴタは確かにある。特にこのゴタゴタで有名なのはオーフェリアのところのレヴォルフ黒学院だ。レヴォルフ内での抗争はよく聞く。アルルカントアカデミーも派閥抗争があると夜吹から聞かされたことがある。現に星導館もこの間サイラスの一件があるのだ。その点についてはどの学園も変わらないのだろう。唯一、ガラードワーズとクインヴェール女学園は分からない。まあ、クインヴェール女学園についてはたまに・・・・・・・というかよくシルヴィアとペトラさんがやつれた表情で愚痴を溢してるが。
「なに、単純な話だ。オレたちはあんたたちの次の対戦相手―――黎沈雲と黎沈華の二人はどうにも反りが合わない。だからと言ってやつらの弱点だのなんだのを教えるつもりはないが―――」
「私たちは君たちに好感を持った。少なくともあの双子よりね。だからエールを送りたくなった。それだけのことだ」
羅さんの言葉を引き継いで言った宋さんは苦笑を浮かべ、肩を竦めていった。どうやら本当にそれが本音らしい。
「わかった。では改めて聞くが・・・・・・策が通じないとはどういう意味だ?」
「そのままの意味だ。彼らは欺き、騙し、不意を打つことにかけては天才的な能力を持っている。君らがどのような策を練ろうと必ずそれを見破り、その上をいってくるだろう」
「だが、連中はおまえたちが今回見せたような戦法は絶対にとらない」
「なに・・・・・・?」
「俺たちがとったような・・・・・・?」
ユリスと俺が素直にそう聞き返すと、宋さんはその実直な瞳を俺に向けた。
「君たちの戦術は自分と相手を対等に考えた上でのものだ。そこには当然リスクが伴い、君たちはそれを受け入れている。つまり戦闘における駆け引きの一貫と言っていい。だからこそ負けた私たちも、こうして納得できる」
「だが連中は違う。同じ土俵に立とうとすらせず、常に相手を見下し、絶対的に有利な条件を構築して自らを決して危険に晒すことがない。そして好き勝手に相手を捻り潰す。そこには相手への敬意は存在せず、駆け引きの余地さえ与えない。それが黎兄妹のやり方だ。オレたちはそれがどうしても気に入らない」
宋さんと羅さんは両拳を血が滲み出るかのような強さで握り締めていた。するとそこに。
「やれやれ。無様に負けたと思ったら・・・・・・」
「その相手に人の悪口を吹き込んでいたとはね~?」
背後から人を馬鹿にするような声と足音が聞こえてきた。
「貴様ら・・・・・・!」
背後の二人を見て宋さんと羅さんは顔をピクピクと震えさせていた。宋さんに限ってはかなり怒りの表情だった。
「初めまして、《華焔の魔女》に《叢雲》。僕は黎沈雲」
「私は黎沈華。以後、お見知りおきを」
薄暗い通路の奥から話に上がっていた二人が薄い笑みを浮かべたまま、そう挨拶してきた。
「・・・・・・一体なんの用かな?」
双子の挨拶にユリスは警戒心を隠すことなく、簡潔に返した。
「いや、一応お詫びをしておこうと思って」
「詫びだと?」
「ええ、そちらにいる僕らの同輩が不甲斐ない試合をしてしまったみたいで」
「同じ師につく者としてお恥ずかしい限り」
一切の淀みもなく、黎沈雲の言葉を黎沈華が受け継ぐようにして喋った。
「(ああ。なるほどね)」
双子の喋りに宋さんと羅さんが怒りを覚えるのも納得できた。現に二人は目の前の双子に今にも掴み掛かりそうだ。俺はそれを手で制して。
「俺は宋さんと羅さんが不甲斐ないとは思わないけど?」
双子に向けてそう言った。
正直、これまでの試合でイレーネと戦ったときくらい宋さんと羅さんの二人との戦いは充実していた。不甲斐ないとはとても言い難い。
「いやいや、《万有天羅》の直弟子があの程度と思われては困るんだよなあ」
「だから、二人が見せられなかった世界を私たちが見せてあげる」
「「―――星仙術の深奥を、ね」」
双子は交互に言葉を紡いで、さも愉快そうに笑って踵を返して去っていった。
「―――どう思う?」
宋さんと羅さんと分かれ部屋に入ったユリスが少し間をおいて聞いてきた。
「かなりの強敵だと言うことは確かだね。宋さんたちが言っていたことも理解できたよ」
「私も同じだ」
あの双子は、宋さんたち二人の忠告通りの人物だと言うことは先程の会合でわかった。
「あの双子の対策は取り敢えず明日にしておこう」
「そうだね」
「話は変わるが、後三回勝ち抜けば晴れて私たちの優勝だが綾斗。おまえの望みはおまえの姉の捜索とオーフェリアの全所有権移譲でいいんだよな?」
「うん。ユリスはお金だっけ?」
「まあな」
それぞれの望みを聞きあっていると、来客を知らせる空間ウインドウが俺とユリスの間の空間に開いた。
『―――やっほー』
『ど、どうもです・・・・・・』
ウインドウに映ったのは紗夜と綺凛ちゃんだった。
二人とも別のステージで五回戦を闘い、無事に準々決勝へと駒を進めていた。
「わざわざこっちまで来てくれたんだ」
『お二人はお疲れでしょうし、せっかくですから早くお祝いを申し上げたくて・・・・・・』
「あ、じゃあ今開けるから」
そう言って空間ウインドウに表示されてるコンソールへ指を伸ばしかけたところに、慌てたように綺凛ちゃんが言ってきた。
『えっと、その前にもう一人お客さんがいらしているのですが・・・・・・ご案内してよろしいでしょうか』
「お客さん?」
綺凛ちゃんの言うお客さんに俺とユリスは首をかしげた。そんな俺らに紗夜が少し悪戯っぽく笑ってユリスに言った。
『そう。リースフェルトに、お客さん』
「私に?」
紗夜の言葉に不思議そうな顔で眉を寄せた。
よく分からないが、取り敢えず空間ウインドウのコンソールを操作して扉を開ける。
すると、入ってきたのは紗夜でも綺凛ちゃんでもない一人の女の子だった。
歳はだいぶ若い・・・・・・というより幼い。十歳前後で恐らく小学校高学年くらいの女の子だ。純朴そうでいかにも愛らしい女の子だが、ただ一点。気になるところがあった。それは、その女の子の格好が何故かメイド服、だったからだ。
その女の子はユリスを見付けるとあっけらかんとした笑顔で言った。
「姫様っ!」
女の子の言葉に一瞬理解できずにいると、ユリスが唖然とした、驚いた表情で言った。
「フ、フローラ・・・・・・!?」
「じゃあ―――キミはリーゼルタニアから一人で?」
「あい!フローラと申します。皆様、よろしくお願いします!」
部屋に入ってきたメイド服の女の子もとい、フローラと名乗った少女は直角になるくらい深々と頭を下げた。
聞くと、フローラちゃんはユリスが救おうとしているリーゼルタニアの孤児院からやって来たそうだ。
「受付で随分と難儀していたようなので話を伺ってみたら、リースフェルト先輩のお知り合いだとおっしゃるものですから・・・・・・」
「・・・・・・すごく目立っていた」
フローラちゃんを連れてきた綺凛ちゃんと紗夜の簡潔な説明に、目立ちながら右往左往戸惑っているフローラちゃんの姿が目に浮かんだ。まあ、メイド服を着た少女がうろついていたら、それだけで人目を引くのは当然だと思うが。
「あい、助かりました!ありがとうございます、沙々宮様、刀藤様」
「ったく、来るなら来るで連絡ぐらいしたらいいものを・・・・・・。それにその格好も兄上の入れ知恵なのだろう?」
「だって陛下が内緒で行ったら姫様が喜ぶって仰ってたので」
「あ、あの兄上め・・・・・・!」
「あはは」
ユリスのこめかみを押さえながら盛大にため息を吐く姿に俺は苦笑が生まれた。
「でもでも、フローラにとってはこれが普段着みたいなものですから」
「普段着って?」
「フローラは王宮付きの侍女として働きに出ているのだ」
ユリスの説明に、フローラちゃんが妙に着こなしてる感があるな、っと思った理由がわかった。
「あ、ねえ、フローラちゃん」
「あい?」
「故郷でのユリスって、どんな感じなのかな?」
つい疑問に思ったユリスのことをフローラちゃんに聞いた。
「・・・・・・なんだ、やぶからぼうに」
「いや、純粋に気になっただけだよ」
「そう言うのはオーフェリア辺りに聞けばいいだろう」
「いや、聞いたことはあるけど、それってオーフェリアがいたまでだからさ」
「・・・・・・それはそうだが」
オーフェリアの小さい頃の、リーゼルタニアの孤児院で過ごしていた頃のユリスとの関わりは何度か聞いたことはあったが、あまり詳しくないからだ。
「んー、どんなと言われましても・・・・・特に今と変わりませんよ?フローラたちと一緒にいるときは優しくて暖かくて、お城にいるときは凛々しくてかっこよくて―――だから今とおんなじです」
「へぇ、そっか」
フローラちゃんの言葉に俺は少しほっとした。恐らく、今のここ―――アスタリスクにいるユリスがユリスらしくいられる場所なのだろう。
「あ、そうだ!なんでしたら写真でも見ますか?」
「写真?」
「あい!フローラのケータイには孤児院で撮った写真がいっぱい入ってますから」
そう言うとフローラちゃんはいそいそとポシェットから携帯端末を取り出して、空間ウインドウに写真を写し出した。
「いや、もうそのくらいでいいだろうに」
「・・・・・・ほほう、それは興味深い」
「わ、わたしもちょっと気になります」
ユリスはあまり気乗りではないようだけど、紗夜と綺凛ちゃんは興味津々だ。
「えーと、これが一昨年の
フローラちゃんがウインドウに写し出す写真は大きな行事の集合写真から日常の一コマまで千差万別だ。だが、どの写真も一つだけ共通していることがあった。それは写真に写っているみんなが笑顔だと言うことだ。
「わぁ・・・・・・いっぱいあるのですね」
「できるだけ思い出を形にして残しておきたいと言うシスターがいてな。その人の影響で子供たちはことあるごとに写真を撮るようになったのだ。日常の写真が多いのもそのせいだ」
「へぇ・・・・・・。これって全部フローラちゃんが撮ったの?」
「あい!あ、でも幾つかはフローラじゃなくてシスターたちが撮ってくれたです!」
「そうなんだ」
「・・・・・・うん?」
「どうしたの紗夜?」
「綾斗、これ」
紗夜が見せてきた写真を見た俺は慌てて視線をそらした。なぜなら。
「ああ、それはフローラが姫様に髪を洗ってもらってるところです」
その写真には浴室において髪を洗っているユリスとフローラちゃん二人が写っていたからだ。・・・・・・しかもバスタオル一枚の姿で。
「―――っ!」
直後に声にならない悲鳴をあげたユリスが、フローラちゃんの手から携帯端末を奪い取って、一瞬ですべての空間ウインドウを閉じた。
「み、みみみみ見たか?見たのか?見たんだな?」
「い、いや、見てない見てない!」
「う、うう嘘だ!オーフェリアに絶対言ってやる!」
「ちょおっ!?ちょっ、ユリス!?」
「綾斗、オーフェリアとシルヴィア以外の裸を見るのはダメ」
「いやいや、今回は紗夜が見せてきたよね!?」
「・・・・・・そんなことない」
「ちょっとおぉぉ?!!」
結局何時もの慌ただしい会話が出来上がり、一悶着あってユリスがフローラちゃんに顔を真っ赤にして言った。
「フローラ、あれほどあの写真は消しておけと言っただろう・・・・・・!」
「うー、でもでも、せっかくの姫様との思い出が・・・・・・」
「う・・・・・・」
しょんぼりと項垂れるフローラちゃんに、ユリスは強く出れないのか、困ったように口を噤んだ。
するそこに。
『・・・・・・ごめん綾斗、ユリス。遅れたわ』
来客を告げる空間ウインドウに変装して黒髪のオーフェリアが写った。
「あ、今開けるよ」
空間ディスプレイを操作して扉を開け、オーフェリアを中にいれる。
「・・・・・・なにがあったの?」
入るなりオーフェリアはユリスとフローラちゃんを見て、俺たちを見て真顔でそう聞いてきた。
「あー。なにがあったというかなんと言うか・・・・・・」
「???」
「あはは・・・・・・」
「やれやれ」
言い淀む俺にオーフェリアは可愛らしく小首をかしげ、綺凛ちゃんと紗夜は苦笑いしていた。そしてその後ろではユリスとフローラちゃんがお話ししていたのだった。
数時間後
「・・・・・・よりにもよってあの双子の悪魔とはね」
ユリスたちと分かれた俺とオーフェリアは自宅で向かい合って話していた。
「宋さんたちの様子とこれまで試合情報を見る限りかなりやりにくい相手みたいだね」
「やりにくいどころじゃないわよ」
「オーフェリアがそこまで言うの?」
「私は
オーフェリアは苦虫を噛み潰したかのように思い出して言った。
「星仙術の最大の特徴は万能よ。《万有天羅》はあの外見に反してかなり強いわ。恐らく私より強いんじゃないかしら」
「オーフェリアよりも・・・・・・!」
「ええ。その《万有天羅》に匹敵するかもしれないのが界龍の序列2位と3位ね。まあ、3位の彼女は王竜星武祭に絞ってるし、2位の彼はよくわからないし。噂では、《万有天羅》の最初の弟子と言われてるわ」
オーフェリアの説明に身震いがするほど寒気が走った。
「今の俺じゃ相手にならない・・・・・・か」
「・・・・・・ええ」
その人たちに対抗するには姉さんの施した禁獄の楔をすべて解放しないといけないはずだ。だが、一向に二つ目が外れる様子がない。恐らく何かしらの条件があるのだと思うが。
「・・・・・・あ、ところで綾斗」
「?」
「綾斗にお願いされたこと、イレーネに頼んどいたわよ」
「あ、ありがとうオーフェリア」
「別にいいのだけど・・・・・・ほんとに会うつもり?」
「うん。会って話を聞きたいし、どういう人柄なのかこの目で確かめたい。それに、姉さんのことを知ってるはずだ」
「・・・・・・そう。とりあえず気を付けてね」
「わかってるよオーフェリア」
俺がオーフェリアに頼んだことは、イレーネを通じてある人物に連絡を取るためだ。
その人物はオーフェリアの所属している学院、レヴォルフ黒学院生徒会長ディルク・エーベルヴァイン。《