学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫と孤毒の魔女、3人の物語   作:ソーナ

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双子の悪魔と準々決勝

 

~綾斗side~

 

 

鳳凰星武祭(フェニクス)》準々決勝 シリウスドーム控え室

 

 

 

「―――これまでの試合から、この双子は徹底的に相手の弱点だけを攻める。自分たちにとって絶対的に有利な状況を作り、初めて攻勢に出る」

 

「厄介なタイプだね・・・・・・」

 

準々決勝当日、俺とユリスは準々決勝の会場であるお馴染みのシリウスドームの控え室で、対戦相手である黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)ペアの対策について話し合っていた。ユリスの開いてる空間ディスプレイにはこれまでの試合での黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)ペアの行動が映し出されていた。はっきり言ってやりにくい相手だ。

そう思っていると、脳内に声が響いた。

 

『なんて言ったらいいのかしら・・・・・・私ソイツらのことあまり好きになれないわ』

 

脳内に響いた声の主は、俺の所持する純星煌式武装(オーガルクス)、四色の魔剣の一振り、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》の意識体であるセレスだ。

どうやら彼女はあまり黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)のことが好きになれないらしい。まあ、それは俺もなのだけど。

 

『セレスも?』

 

『ええ。一言で今の気持ちを表せと言われたら・・・・・・』

 

『言われたら?』

 

『全部斬ってやりたいぐらいよ!』

 

『そ、そこまでなのね・・・・・・』

 

セレスとの思念通話をしながら、ユリスと話す。

 

「但し、今回に限っては私たちに有利な点がある」

 

「有利な点・・・・・・・あ、そう言うことか」

 

ユリスの言った、有利な点の意味に俺はすぐに気がついた。

なにせ、その有利な点とは。

 

「そうだ。相手の弱点を攻めると言うのなら、今回ほど分かりやすいものはないだろう」

 

「俺の封印、だね」

 

俺自身の、姉さんに施された禁獄の封印だからだ。

 

『なるほど。確かに、綾斗の封印は私たちにとっても有利な点なのかもしれないけれど、それは・・・・・・・』

 

『相手にも同じ』

 

『ええ。これで勝率があるとするなら・・・・・・たぶん、三割ほどかしら』

 

『三割、か・・・・・・』

 

『ええ』

 

『俺の封印をセレスで干渉、もしくは破壊することは』

 

『・・・・・・無理よ、というより、これは干渉したくても出来ないわ』

 

『出来ない?』

 

『ええ。恐らくだけど、これ、遥からの綾斗への試練なんじゃないかしら』

 

『試練?』

 

『ええ。私なりに考えてみたのだけど、何故遥は大切な弟である綾斗にこんなリスキーのある封印をしたのかしから』

 

『・・・・・・確かに』

 

セレスの言葉に俺はずっと抱いていた疑問を浮かばせた。姉さんはどうして俺に、姉さん自身が嫌っていた禁獄の力を行使したのか。どうしてこんな負荷を与えるようなことをしたのか。

 

『そうなると、この封印はなんらかの条件を達したことで解除される、そう考えるのが妥当よ。遥がこれを施した理由はしらないけど』

 

『姉さんからの・・・・・・俺への試練』

 

姉さんがどういうつもりで俺に封印を施したのかは知らないが、もしこれが姉さんから、俺に与えられた試練なら。

 

『やってやる。姉さんの試練を、必ず越えてみせる!』

 

『その意気よ綾斗。私も手伝ってあげる。私と綾斗で遥の試練に打ち勝って見せましょう』

 

『ああ!』

 

セレスとの念話をしながら、ユリスと話す。

 

「ああ。となると双子の取る作戦も自ずと見えてこよう」

 

「時間稼ぎ・・・・・・」

 

「その上でどういった対策を取るか・・・・・・。私にはこの手しか浮かばなかったのだが・・・・・・」

 

そうして双子への作戦と、俺自身の信念を抱いて、俺とユリスは準々決勝のフィールドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあさあ!いよいよ準々決勝最後の試合です!なお、他のステージではすべての試合が終了。ベスト4の内三枠が埋まっております!最後の一枠を勝ち取るのはどちらのペアなのでしょうか?まずは星導館学園から、天霧綾斗とユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトペア!対するは界龍(ジェロン)第七学院の黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)ペア!注目の一戦!今両者がフィールドに出揃いました!』

 

 

 

 

毎度お馴染みの解説者さんの声に、心の中で少しだけ苦笑しつつ、俺は隣に立つユリスとともに、目の前にいる黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)と相対した。

解説者の声を聞いていると、黎沈雲と黎沈華が小馬鹿にするように話してきた。

 

「へぇー、あれだけ大きな弱点がバレていながら逃げないんだ」

 

「肝が据わっているのか、ただのバカなのか。それとも、なにか策でもあるのかしら?」

 

「さあな?」

 

「ただ、君らに負けるつもりはないよ」

 

双子の言葉に、俺とユリスはそう答える。

 

「へぇ。どんな考えがあるのか知らないけど、楽しみにしているよ」

 

「どうせ勝つのはこちらだけどね」

 

そう言うと双子は俺たちに背を向けて距離を取り、間を開ける。

 

「我々は、我々のするべき事をするだけだ」

 

「そうだね」

 

ユリスは自身の煌式武装(ルークス)である細剣型の煌式武装、アスペラ・スピーナを起動させ、俺は目を閉じて意識を集中し、封印を解除するための祝詞を紡ぐ。

 

「うちなる剣を以って星牢を破獄し、我が虎威を解放す!」

 

禁獄の封印から開放させた俺の膨大な星辰力(プラーナ)が溢れ、吹き上がった。そして、《黒炉の魔剣(セレス)》の発動体をポーチから取り出し、束の部分を握り締めてセレスに星辰力を流し込む。セレスに星辰力を流し込むと、紫黒色の刀身が現れる。

 

『いくよ、セレス!』

 

『ええ、往くわよ綾斗!』

 

 

 

 

 

 

 

『ああっと、出ました出ました!天霧選手のパフォーマンス!あ~、いや、パフォーマンスじゃないんでしたっけ?』

 

『制限されている力を解放するのに必要な手順だという見方が多いみたいッスね』

 

『なるほど、なるほど・・・・・・。と、そうこうしている内に試合開始の時間となりました!』

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》準々決勝第四試合、試合開始(バトルスタート)!』

 

 

 

 

試合開始の宣言を告げる声とともに、俺は沈華との距離を一気に詰め、セレスで袈裟懸けに斬り付ける。開始早々の速攻としては申し分ないタイミングだったが、予期していたのか俺の予想通り沈華は後ろに跳んでセレスの斬撃をかわす。

 

「はっ!」

 

「疾い―――けど、分かっていれば躱せない程じゃないわね」

 

イレーネもそうだったが、さすがにここまでのレベルとなると俺の現時点での速度も絶対的なアドバンテージにはならないみたいだ。

 

「咲き誇れ!―――九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

後ろに跳んだ沈華に向けて、すかさずユリスが《魔女(ストレガ)》としての能力を発動させるが、それが放たれる寸前に沈雲が割って入ってくるなり。

 

「急々如律令、(ちょく)!」

 

手で複雑な印を結ぶと周囲の空間がゆらりと揺らめき、次の瞬間にステージのあちこちから、もうもうとした煙が噴き出してきた。

 

「これは!?」

 

噴き出してきた煙は瞬く間にステージ全体を覆い尽くした。さすがのユリスもこの状況下では放てないため九輪の舞焔花を解除した。

 

「ふふふっ」

 

煙に紛れた沈雲の声が何処からか聞こえてきた。

 

 

 

 

『おおーっと!試合開始早々の煙幕、煙に紛れて戦おうという作戦なのでしょうか?』

 

 

 

 

 

「まさか、こんな手で来ようとは」

 

この状況下ではまともに攻撃も当てられないため、俺もユリスの近くに下がった。

そしてすぐにこの煙に違和感を感じた。

 

「(この煙、全然煙くない・・・・・・・っ!)」

 

俺がこの煙の正体に気づくと同時に。

 

『綾斗、この煙偽物よ!』

 

セレスから念話でそう言われた。

それで確信を持ちユリスに。

 

「―――ユリス・・・・・・この煙・・・偽物だ」

 

「ハッ!」

 

ユリスもはっとした表情で周囲を見渡し、煙を振り払うように手を振る。

 

「なるほど、幻影か?」

 

「幻影ならしばらくすれば晴れるか」

 

「だろうな。それに―――」

 

ユリスの視線が観客席に向くのを見て、俺も観客席の方に耳を傾けると、観客席からブーイングが沸き上がっていた。なんというかまあ、幾らこれがエンターテイメントとはいえ、外側から文句を言われるのは少しというか、かなり酷い。

そう思っていると頭の中にセレスの呆れた声が聞こえてきた。

 

『まったく、うるさいったらありゃしないわね』

 

『あはは』

 

『ホント、こう言うブーイングって嫌いね』

 

どうやらセレスはかなりのお冠らしい。

そのまま観客席からのブーイングが次第に大きくなってくると、ステージを覆っていた煙が忽然と消えた。

 

「やれやれ。最近のお客は、辛抱が足りないね」

 

「まあ、でも、こっちとしては十分かな」

 

いつの間にかステージの端まで移動していた沈雲と沈華が、ニヤニヤと笑いながら言った。沈華の十分とは、俺の制限時間を一分近く削れたことだろう。

 

 

 

 

 

『さあ、試合開始から早くも一分経過!』

 

『力を発揮できるのが五分までといわれてる天霧選手にとっては、この一分は大きいですよ』

 

 

 

 

 

解説者の解説を聞きながら、ユリスは忌々しそうに双子を見て吐き捨てる。

 

「ホントに性格の悪いやつらだ」

 

そしてそれと同時に、ユリスは次の技に意識を集中させ、俺も心の中で同意しながら、セレスを構え直してすぐさま間合いを詰める。

 

「ほぉ。おや、こっちもまた、せっかちだね」

 

沈雲がそう言うと、沈雲の両隣からまるで影法師のような朧気な影が現れ、その影は沈雲そっくりになった。その数、四体。その四体すべてが、中央にいる沈雲と同じ不適な笑みを浮かべた。

 

「なっ!?」

 

『これは・・・・・・っ!』

 

俺とセレスが現れた幻影に驚いていると。

 

「それじゃあ、私も、っと・・・・・・!」

 

沈華も印を結び、その姿が溶けるかのように消えていった。

 

『あれは幻影の一つ―――隠形!隠形はただ単に姿を消すだけじゃなくて、気配や物音、自身の星辰力の動きもその幻影に覆い隠すわ!よほど集中しないと関知できないわ!』

 

『わかってる!それに沈雲のは沈華のと同じ性質を持つ幻影の分身・・・・・・。情報では知っていたけど・・・・・・まさかここまでとはね』

 

『まずいわ綾斗。今の綾斗じゃ、あれのどれが本物か分からないわ!』

 

『でも分身の本体は一つだけ。それ以外はすべて斬ってしまえば・・・・・・!』

 

『それはそうだけど!』

 

セレスと念話で問答していると、目の前の五人の沈雲たちがそれぞれ違う言葉をつぐんだ。

 

「さて、これでこちらの支度は整ったわけだが」

 

「このままそちらの出方を待つというのも、少々芸がないかな?」

 

「うん。それに観客の皆様も退屈してしまうだろうしねぇ」

 

「少しは盛り上げないと、またブーイングされかねない」

 

「というわけで・・・・・・」

 

「―――――ここは一つ、派手にいこうかな!」

 

沈雲たち五人が手首をスナップさせると、何処からともなくその指の間に長方形の紙切れが現れた。

 

『綾斗、あれは呪符よ!気を付けて!』

 

『わかった!』

 

「ユリス!」

 

「ああ!援護は任せろ!」

 

ユリスに援護を任せ、俺はセレスを構えて同時に襲い掛かってきた沈雲を迎撃する。襲い掛かってきた一人にセレスを振るうと、その一人はあっさりと両断され、斬られたはずの体は煙のように揺らいだ。まるで手応えがない、つまりこれは。

 

「(幻影か!)」

 

『くっ!厄介な相手ね!』

 

セレスと同意見を持ちながら、もう一人の沈雲を返す刀で斬り伏せる。だが、この沈雲も全く手応えがなく、一体目と同じだった。

 

「残念、ハズレだね」

 

すると、それを潜り抜けた三人目の沈雲が背後に現れ、手に持っていた呪符を俺に向かって突き出してニヤリと笑い。

 

「爆」

 

呪符の起動言葉(ワード)を紡いだ。

その瞬間、呪符ご轟音と共に爆発した。

 

「ぬわっ!」

 

『綾斗!大丈夫?!』

 

『とっさに星辰力を防御に回したからなんとか・・・・・・』

 

セレスの台詞に体勢を整えながら答えるが、さっきの攻撃の衝撃でまだ少し骨が軋んだ。

 

「綾斗、大丈夫か!」

 

残りの沈雲を相手にしていたユリスが慌てて俺の方に駆け寄ってくるが――――。

 

「私を忘れてもらっては・・・・・・困るわね!」

 

「なっ・・・・・・っ!?」

 

突然の沈華の声と共に、ユリスの眼前で俺が受けたのと同じような爆発が巻き起こった。

 

「うわぁっ!!」

 

「ユリス!」

 

爆風にもまれて、宙に舞ったユリスを、反射的に駆け出してその体を抱きとめた。

 

「ぐ・・・・・・だ、大丈夫だ」

 

顔を苦痛に歪めながらも立ち上がったユリスは俺に視線を向ける。

 

「それよりもう時間がない。サポートするから、手はず通りまずは沈雲を落とせ」

 

「わかった」

 

「咲き誇れ―――赤円の灼斬花(リビングストンデイジー)!」

 

ユリスの周囲に現れた、十数個の炎の戦輪が沈雲へ向かって飛びかかる。そしてその戦輪を追随するようにその間を駆け抜けて沈雲に向かう。

 

「ふぅん。やっぱり僕の方に来るか」

 

「はあっ!」

 

沈雲との距離を詰めようと思ったその瞬間。俺と沈雲の間に、なんの前触れもなく突如として巨大な岩壁が現れ俺の行く手を阻んだ。

 

「え・・・・・なっ!?」

 

そして、同じく沈雲に襲いかかろうとした戦輪はすべてその岩壁に阻まれ、火花を散らして小爆発を起こして消えた。

岩壁を見て、とっさの判断で壁を回り込もうと横に移動し、壁の後ろに移動しようとすると、いきなり目の前の空間が爆発した。

 

「ぐううううっ!』

 

『綾斗!』

 

予想外の攻撃に、今度はとっさの星辰力による防御が間に合わず、慌てて後ろに跳んで爆風によるダメージを軽減しようとしたが、遅く。まともに爆風を喰らってしまった。

 

「ああ、気を付けた方がいいよ。沈華の仕掛けた術は見えないから」

 

「(仕掛けた・・・・・・あの煙幕の時か!)」

 

『そう言うことね・・・・・・』

 

岩壁の上に座り、楽しそうに言う沈雲の言葉の意味を瞬時に理解した俺とセレスは周囲を警戒した。

何故なら、見えないということは何処にトラップがあるのかわからないからだ。

 

『これじゃ、安易に動けないわ』

 

『せめて呪符が何処にあるのか分かればいいんだけど・・・・・・』

 

俺とセレスがそう思っていると。

 

「それならば、すべて焼き払ってしまえば良いってこと!」

 

ユリスが炎を撒き散らして言った。

その時。

 

「―――だからさ。私も居るんだってば」

 

いかにも楽しそうな沈華声と同時に、沈華がユリスの真横に現れ。

 

「招雷!」

 

手に持っていた呪符を使ってユリスに攻撃を仕掛けた。

 

「うああああああ!」

 

凄まじい稲光と共に電撃が迸り、ユリスの体を襲った。

 

「ユリス!」

 

「綾斗。私はいいから、おまえは沈雲を倒せ!」

 

「く―――――っ!わかった!」

 

膝をついたユリスに駆け寄ろうとしたが、制するように叫び、沈雲を倒すように言ってきた。

試合開始からすでに三分近くになっている。いくら、明日が休みとはいえ動けなくなるのはキツイ。ユリスの声を聞くや否や、俺は目の前の岩壁をセレスで斬り、近くにいる沈雲に向かって間合いを詰める。

 

『綾斗!現時点で動けるのはあと三分よ!黎沈雲の攻撃でかなり星辰力を消費してる!速攻をし掛けるしかないわ!』

 

『わかった!サポートお願い!』

 

『ええ!』

 

「はあっ!」

 

セレスと念話をしながら沈雲に向かう。

沈雲が眼前に迫ったそのとき。

 

『綾斗、前!』

 

セレスの声と同時に眼前で急ブレーキをかけ、真横に足を向ける。その一瞬遅れて沈雲の前の空間がゆらめき、爆発した。

 

「ふぅん・・・・・・やるなあ」

 

「はっ!」

 

爆発した後ろにいた沈雲を切り裂くが、それは黒ずんで蜃気楼のように消えた。

 

「ちっ!」

 

『残り四人よ!』

 

『ああ!』

 

残り四人の沈雲のうち、近いところにいる沈雲に向かって駆ける。

 

「五人全員斬れば、良いってことだ!」

 

間合いを詰め、沈雲に向かってセレスを横薙ぎを斬り払う。

二人目を斬り払うと、後ろに三人目の沈雲が現れ、攻撃をかわし振り向き様に斬り付ける。だが。

 

「残念、またハズレだね」

 

これもまた、黒ずんで蜃気楼のように消えていった。

 

「残りは二体、どっちだ・・・・・・!」

 

残った二人を視て、片方が呪符を持ったのを視てそれに向かって間合いを詰め寄る。

 

「天霧辰明流剣術初伝―――"貳蛟龍(ふたつみずち)"!」

 

初撃は上薙ぎを上体を反らして避けられたが、二撃目の下からの斬り上げが沈雲に決まった。しかし、これも黒ずんで蜃気楼のように消えいった。

 

「(こいつも!?)」

 

残った一体に向けて構えを取り直したところに。

 

「くっ・・・・・・」

 

急に体に力が入らなくなった。

 

「(まさか、もうリミット・・・・・・!)」

 

ステージ上のモニターに表示されてる時間は、試合開始からすでに五分が経過していた。

 

『くっ!予想以上に星辰力を消費したからリミットが短くなったんだわ!私のミスね!』

 

『そ、そんな・・・・・・』

 

『ゴメン綾斗』

 

『大丈夫、まだ、手はある』

 

セレスと念話をしていると、俺の周囲に紫色の魔方陣が三つ浮かび上がり、そこから姉さんの禁獄の楔が現れ俺を縛り上げた。

 

「ぐぅ・・・・・・」

 

「おやおや、ついにリミットかな?もう少しだったのだけど、惜しかったね」

 

「綾斗!」

 

俺に駆け寄ろうとしたその瞬間、ユリスの体がステージの壁に向かって思いっきり沈華によって吹き飛ばされたのが目に入った。

 

「うぐっ!?」

 

「あはは、いい感触!」

 

うっとりとするように言う沈華を横目に、ユリスを見ようとするが封印の行使で上手く立ち上がれず、その場に倒れ付した。

 

「ぐうぅ・・・・・・」

 

「訳は知らないけれど不便なものだね。それ」

 

そう言うと沈雲は俺の後頭部に足を乗っけてきた。

すると。

 

『その足を綾斗から退けなさい!』

 

セレスが叫ぶように言ってきた。

しかし、セレスの声が聞こえるのは俺だけな為、俺の後頭部を踏みつけてる沈雲には聞こえない。

 

「今どんな気分かな?」

 

「ふふ・・・・・」

 

楽しそうに聞いてくる沈雲に、俺は不適に言う。

 

「うん?何がおかしいのかな?」

 

「いや、なんでもないよ。ただ―――まだ勝負はついてないってことさ」

 

「っ!?」

 

驚く沈雲に向かって、俺は腰から取り出したもう一つの片手剣型の煌式武装を展開して沈雲の校章を真っ二つに斬り裂いた。

 

 

 

 

 

『なんと!力尽きたかと思われた天霧選手の大逆転劇!』

 

『なるほど。相手の時間稼ぎで動けなくなったと見せ掛け、油断を誘う作戦だったようッスね』

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

なんとか立ち上がり、息を整えたその瞬間、たった今校章を斬られた沈雲に変化が訪れた。

沈雲の体が他の分身と同じように黒ずんでいくと、その場に倒れたのだ。

 

「(まさか・・・・・・!)」

 

『そ、そんな、まさか・・・・・!』

 

俺とセレスの嫌な予感を告げるかのように、たった今倒れた沈雲の傍から、もう一人の沈雲が現れた。

 

「おお、危ない危ない。まさしく命を知る者は巌牆の下に立たず、だね」

 

「(まさかあの煙幕のあとから、俺はずっと分身だけを相手にしていたのか?)」

 

『くっ、やられたわ!まさかずっと黎沈華の隠形で本人は隠れていたなんて!』

 

『沈華の術が自身だけじゃなくて他にも掛けられたことに気づいた時点で、この事を考えておくんだった』

 

『分身体の黎沈雲に騙されたわ。ずっと、私たちは分身体を相手にしていたなんて』

 

俺とセレスがたった今、なんの前触れもなく現れた本物の沈雲にそう感じていると。

 

「―――分身を使った程度で君の間合いに飛び込むなんて、そんな馬鹿馬鹿しいことするわけないじゃないか!」

 

そう言うや否や、沈雲は手首をスナップして呪符を取り出した。

取り出された呪符は、俺の周囲を飛び交い檻のように、俺を覆うようにして陣取った。

 

「さて、今の君ならこの程度をかわすのは難しいだろう?」

 

四方すべてを呪符で囲まれた俺は、どうにか突破口はないかと模索する。

 

「くく。さあ、どう躱す?」

 

「くっ・・・・・・。まだだ・・・・・・!」

 

「うん?」

 

「まだ、こんなところで負けるわけにはいかない・・・・・・!」

 

『ええ、私たちはこんなところで負けるわけにはいかないわ!』

 

沈雲の言葉に俺とセレスは確固たる意思をもって告げる。

 

「へぇ、君でもそんな顔をするんだね。うん、中々にそそる。ああ、いいねえ、その無駄な足掻き」

 

「はああっ!」

 

煌式武装を持ち構えて、強引に突破しようと図る。

 

「心が踊るよ!」

 

目の前の呪符の一つを煌式武装が貫くと、呪符がゆらめき爆発した。

 

「ぐああああああっ!!」

 

さらに吹き飛ばされた後ろの呪符に肘が当たり、それも爆発し、連鎖爆裂のように次々と呪符が爆発し、俺の身体は何度も弾き飛ばされた。

 

「ぐ、ぅ・・・・・・・」

 

衝撃と熱に防御も間に合わずただひたすらに蹂躙された俺はなす術もなく地面に伏した。打撲と裂傷、骨にもかなりダメージが行っていると思われる。

 

「・・・・・・さて、名残惜しいがそろそろ終わりにしておこうかな」

 

沈雲がそう言って再び呪符を取り出し、俺に向かって放たれる寸前。

 

「綾斗!手を伸ばせ!」

 

ユリスの声が耳に入った。

とっさにユリスに言われたとおり右手を伸ばすと、炎の翼を羽ばたかせたユリスが低空飛行で飛び込んできた。

 

「ちっ!」

 

俺の手を握りその場を離れるが、一瞬遅れて放たれた沈雲の呪符の爆風でコントロールを失い、地面に投げ出されるかのようにして着地したが、一先ずはあの窮地を逃れた。

 

「あ、ありがとう、ユリス・・・・・・助かったよ」

 

「いや・・・・・・こちらこそすまんな。沈華を振り切るのに手間取った」

 

そう言うとユリスは起き上がり、細剣型の煌式武装アスペラ・スピーナを展開して構えた。

俺もなんとか起き上がろうとするが、ダメージが大きいためか上手く身体が言うことを聞かない。

 

「まったく、あまり無茶をするな!今のおまえでは沈雲に敵わないことくらい分かっているだろう」

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

「私たちはパートナーだ。互いに願いを持ち、互いのために力を尽くそうと思ってる」

 

「ユリス・・・・・・」

 

「だいたい、おまえはなんでもかんでも一人で抱え込みすぎなのだ。いつぞやのおまえの言葉を・・・・・・そっくりそのまま今のおまえに返してやろう」

 

呆れたように言ったユリスは、俺が以前ユリスに向けて言った台詞を一字一句、違わずに返してきた。

 

「『―――だったら、おまえのことは誰が守ってくれるのだ?』」

 

「っ!」

 

ユリスにそう言われた瞬間、俺とセレスはまた深く繋がった。それと同時に、施されたはずの封印に変化を感じた。

 

「今のは・・・・・・」

 

『あれは・・・・・・』

 

セレスと今感じたことを不思議に思っていると。

 

「お話は終わり?だったら」

 

「そろそろ再開といこうか」

 

合流した沈雲と沈華が余裕満々の表情で言ってきた。

 

「恐らく、また見えない呪符を仕込んでいるぞ。あれをどうにかしない限り・・・・・・」

 

「ユリス」

 

俺は策を練っているであろうユリスに声をかけ。

 

「・・・・・・うん?」

 

「―――ありがとう」

 

一言、そう言った。

すると、ユリスは赤面して早口に言った。

 

「な、なんだ突然!別に礼を言われるようなことなど、なにもしてないぞ!」

 

「いや、おかげで目が覚めたよ。今度こそ、ね」

 

少し休んだおかげで身体も動くようになり、息を整えながら両足で立ち上がり、吹っ切れた表情でユリスに言う。

 

「で、俺のパートナーにお願いがあるんだけど、いいかな?」

 

 


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