学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫と孤毒の魔女、3人の物語 作:ソーナ
~綾斗side~
シルヴィのライブ後、俺たちはシルヴィの楽屋にこっそりと案内されシルヴィと合流した。その際、フローラちゃんとプリシラさんが遠慮気味というかなんというかすごく驚いていた。ちなみに、フローラちゃんの故郷、リーゼルタニアでもシルヴィの人気は高く、フローラちゃん自身もシルヴィのファンとのことだ。これを知ったシルヴィはと言うと───。
「───よし!ペトラさん!今度リーゼルタニアでライブするよ!」
と、タブレット端末を操作していたペトラさんにそう言った。
そして、ペトラさんはと言うと。
「・・・・・・はい?」
ペトラさんにしては珍しく表情が固まっていた。その約10秒後。
「シルヴィア、今あなたリーゼルタニアでライブすると言いましたか?」
と、シルヴィに訊ねた。
「うん」
「あ、あのですね。急にライブをするって言われても困るのですが・・・・・・」
「じゃあ、リーゼルタニアでライブをすることにした?」
「全く変わってませんよ!?」
シルヴィとペトラさんの会話に俺たちは呆然とする。というかペトラさんがツッコんでいること自体見るの初めてな・・・・・・いや、思い返してみると何回か見た気がする。
とまあ、そんな世界の歌姫の意外な姿にプリシラさんとフローラちゃんが驚きつつも、俺たちは会場を後にした。
で、自宅に戻ると。
「うぅ~。疲れたぁー」
「お疲れさま、シルヴィ」
シルヴィが制服を着たそのまま姿でソファにダイブした。
とてもじゃないが、今の姿は他人に見せられない。そう思っていると、
「・・・・・・お疲れシルヴィア。制服早く脱いじゃって。そのままいると制服にシワが着くわ」
オーフェリアがシルヴィにそう注意した。
「はぁーい」
オーフェリアの言葉に答えたシルヴィはすぐに起き上がり、制服に手を掛け───って!
「シルヴィ、ストップ!」
「ん~?どうしたの?」
「いや、どうしたの?じゃなくて、俺がいるんだからちょっと待って!」
「別に私は気にしないよ?」
「俺が気にするから!」
突然脱ぎ始めたシルヴィにツッコむ。
慌てて出て行こうとするが。
「・・・・・・綾斗はそこで眼をつぶっていてちょうだい」
オーフェリアに押し留められ・・・・・・というか、半ば強引な留めにより、俺は出て行けずにいた。仕方なく、眼をつぶり見ないようにする。やがて。
「・・・・・・あれ?シルヴィア、もしかして胸、大きくなった?」
「え?そーかなー?」
「・・・・・・ええ」
「うーん、これ以上大きくなったら運動に支障が出るかも」
「・・・・・・それ、紗夜にだけは言わないようにしなさいよ?」
「あははは・・・・・・わかってるよー。にしてもー・・・・・・」
「・・・・・・?何かしら?」
「オーフェリアちゃんも成長してない?」
「・・・・・・そうかしら?」
「そうだよ!」
「・・・・・・言われてみれば、数日前からブラがキツくなったような・・・・・・」
「ほら、やっばり!」
「・・・・・・キャっ!し、シルヴィア!?ちょっと!」
「ふむふむ。うわー、オーフェリアちゃんの胸柔らかい。それにモチモチしてる」
「あん・・・・・・・!し、シルヴィア、そこはダメ」
「ほれほれ」
「・・・・・・そっちがその気なら、私も」
「ひゃん!」
「・・・・・・お返しさせてもらうわよシルヴィア!」
「お、オーフェリアちゃん、手、手つきがいやらし・・・・・・ひゃっ!」
と、そんな会話が耳に入ってきた。
「(二人とも、俺がいること忘れてないかな?!)」
目をつぶりながら俺はシルヴィとオーフェリアに無言でツッコミを入れた。そんな俺の心情虚しくシルヴィとオーフェリアの会話が進んで行き、終わったのは約二十分後のことだった。ちなみのその間、俺はセレスの中に潜って夢想していた。
「───終わった?」
「うん、終わったよー」
「・・・・・・ええ、終わったわよ」
そんな二人の声が聞こえたため、閉じていた眼を開く。
目を開いて最初に見えたのは、それぞれ黒と薄紫と布地の少ない・・・・・・下着姿のオーフェリアとシルヴィの姿だった。
「───!?」
二人のその姿にギョッ!?とした俺は目を丸くし。
「なんで二人とも服きてないのさ!?」
と、ツッコミを入れた。
「着てるよ?」
「・・・・・・着てるわよ?」
「それは着てるって言わないよ!!?」
この時、俺は防音の家でよかったと本心思った。
とまあ、そんなこんなで色々あり、オーフェリアとシルヴィにきちんとした服を着てもらい、夕飯を食べ、お風呂に入って、リビングで休んでいた。話題は、今日一日のことだ。オーフェリアが俺と《
「───て、適合率150%!?!」
適合率を聞いたシルヴィは絶叫を響き渡らせた。
「ほんとなのそれ!?」
「・・・・・・ええ」
「嘘でしょ・・・・・・」
紗夜やオーフェリア、クローディアと同じ反応に首を傾げる。
「じゃ、じゃあ、もうその
「え、あ、うん、そうみたい」
シルヴィの問いに、そう答える。そう答えると、シルヴィはヘナヘナとソファに座り込んだ。
「嘘でしょ・・・・・・。綾斗くんと黒炉の魔剣の適合率が150%だなんて・・・・・・これ、かなり注目されるよ・・・・・・」
「・・・・・・でしょうね」
「そんなになの?」
慌てふためく二人の様子に、俺はあまり実感が湧かないまま聞く。
「だって、純星煌式武装の適合率で100越えなんて聞いたことないもの!」
「・・・・・・私も聞いたことないわ」
二人の驚き声に、凄いことなんだなと実感した。俺自身はあまり実感を感じないけど。更に話を続けていき。
「し、
本日二度目のシルヴィの絶叫が家に響いた。
「なんで
「いや、なんでって言われても・・・・・・」
「・・・・・・文句は星露に言ってほしいわ・・・・・・」
「はぁー。それで、星露はなんて言っていたの?」
「なんて言っていたのって言うか、勧誘された?」
「勧誘ぅ!?」
シルヴィの声は呆れと驚きが入っていた。
「なんでなんでなんでぇぇ!!?!!」
「うわっ!」
肩を掴んで思いっきり顔を近づけてきたシルヴィに、頬を引き攣らせて引いた。
「ま、まさか、その勧誘承諾してないよね綾斗くん!」
「お、落ち着いてシルヴィ!勧誘は断ったから!」
「ホッ。良かったあ」
顔を離して安堵したシルヴィに、俺は引きつり笑いを浮かべた。何故なら、さっきのシルヴィの表情がとても怖かったからだ。
「シ、シルヴィアすごい顔してたわよ・・・・・・」
オーフェリアも若干どころか、かなり引いていた。まあ、オーフェリアが引くのも無理はない。なにせ、シルヴィの顔般若のような表情だったのだから。
「シルヴィも星露のこと知ってるんだ」
「まあ、彼女はなにかと有名だしね」
「・・・・・・序列一位同士の交流もあるのでしょ?」
「それなりにね」
何処か疲れたように言うシルヴィに同情する。昼間に会って、星露は何かと面倒な人物だと本能で分かったからだ。そして、得体の知れない力を持っていることを。正直、あの時もし星露が本気で来ていたら恐らく一合とも持たなかったと思う。いや、それ以前に、まったく相手にならなかったはずだ。例え、今出せる本気を出したとしても。
そう冷や汗を流して考えていると。
「綾斗くん?」
「・・・・・・綾斗?どうしたの?」
俺の様子がおかしいことに気づいたシルヴィとオーフェリアが心配してきた。
「あ、ちょっと考え事してたんだ」
「考え事?」
「・・・・・・?」
「ああ」
「・・・・・・もしかして星露と戦ったときのこと?」
「!」
俺の考えていたことをオーフェリアに見抜かれていたことに、俺は眼を少し大きくして驚く。
「そうなの綾斗くん?」
「・・・・・・うん」
小さく返事をして二人に言う。
「今の俺じゃ、星露にはまったく届いてないんだなって実感した」
「それは仕方ないわよ」
「うん。相手はあの《万有天羅》だもの、仕方ないよ」
「分かってる。分かってるんだけど・・・・・・」
頭では納得しているが、心は納得できない・・・・・・というより、納得できないのだ。例え、今は星露に追い付けないとしても。
「―――絶対乗り越えてやる」
いつか星露と同じところにたどり着いてみせる。手が届くところまでに。
「綾斗くん・・・・・・」
「・・・・・・綾斗・・・・・・」
「そのためにも・・・・・・」
星露までたどり着くにはまず経験が必要だ。経験は最大の力。そして、俺を封じ込める姉さんの禁獄の楔をすべて解除する。
「オーフェリア、シルヴィ、手を貸してほしい。俺は強くならないとならない・・・・・・」
真剣な眼差しで二人にお願いする。オーフェリアとシルヴィは俺よりも強い。はっきり言って、俺はまだ低い。二人よりまだ弱い。
だから、俺は俺より強い二人にお願いした。
その俺のお願いに二人は。
「うん。もちろんだよ綾斗くん!」
「・・・・・・ええ。綾斗がそう言うのなら、私は綾斗に手を貸すわ」
心地よく引き受けてくれた。
「ありがとう、二人とも」
二人にお礼を言い、俺は再度心に誓った。必ず強くなると。オーフェリアやシルヴィ、紗夜、姉さん、ウルスラ姉さんを守るほどの強い力を身に付けると。
翌日 準決勝当日
「・・・・・・・・・」
シルヴィとオーフェリアに、自身の強化に手を貸してもらうことになり、久しぶりに三人で寝た翌日俺は一人で朝の早朝の公園に来ていた。目的は、意識を集中させ今日の準決勝に備えるためだ。
意識を集中させ精神を統一させていると。
「ほっほっ。久しぶりに散歩をしてお主に出くわすとはの」
「星露・・・・・・さん」
「星露で良いぞ《叢雲》」
昨日であった《万有天羅》の星露に出くわした。
「お主、昨日何かあったのか?」
「え・・・・・・」
「主の眼、その眼は決意を固めた眼じゃ。それも、硬い、自身に誓ったほどのな」
「それは・・・・・・」
星露の声になにも言えずにいると。
「まあよい。それよりどうじゃ《叢雲》、少し手合わせをせぬか?」
星露はそう聞いてきた。
「いま?」
「うむ。いまじゃ」
「・・・・・・わかった」
星露の手合わせに承諾した俺は腰のポーチから《
俺は念話でセレスに。
『セレス、出来るだけ星辰力の消費を抑えてくれる?』
『わかったわ。ただ、気を付けなさい。余計な時間は取らないで、気を引き閉めていきなさい』
『了解!』
セレスとの念話を終え、無詠唱で禁獄の縛鎖による封印を解きセレスを解放する。
「この辺りは結界を張っておる。遠慮せずに来るがよい」
「では―――行きます!」
星露が言い終えると同時に地を蹴り、セレスを星露に振りかぶる。
「ほっ!ほっ!」
「ふっ!」
俺の振りに、星露は余裕でかわす。
「はあっ!」
「はッ!」
「っ!?」
『バカな!』
セレスの横薙ぎを受け止めた星露に、俺とセレスは驚愕を隠せずにいた。
『あり得ない!私は万物すべてを切り裂く剣なのに!それを・・・・・・!』
「同種の純星煌式武装じゃなくて、ただの蹴りでセレスの刃を受け止めるなんて・・・・・・!」
「驚いている暇なんてないぞ《叢雲》よ」
「ッ!」
星露は言うや否や、さらに速度を上げて徒手空拳を繰り出してくる。
「くっ!」
『綾斗、右!その次は上段からの左!』
セレスのアシストも受けて反撃するが。
「ほっほっ。どうした?お主の今出せる最高の力を妾に見せてみよ《叢雲》!」
「ちっ!」
星露の打撃を星辰力で防御するが後ろに吹き飛ばされる。
『セレス、どのくらいまで使って良いと思う?!』
『準決勝のことも考えるなら、せいぜい後三割ぐらいよ!』
『三割・・・・・・!』
星露の攻撃を捌きつつ、カウンターを放つが星露はそれすらも避ける。
『くっ!フェイントも紛れ込ませているのに全部見切られている!』
『綾斗、私が綾斗の星辰力を調整するから、一撃・・・・・・一回だけ、あの
『でもあれはかなりの星辰力を消費する!』
『わかってるわ!私が綾斗の星辰力を限界ギリギリまで調整するから!無駄のない、準決勝でも十分戦えるほどの星辰力を!だから―――私を信じて放ちなさい!あなたは、この私・・・・・・《黒炉の魔剣》の過去最高の
『セレス・・・・・・』
セレスの言葉に俺はその場に動きを止めた。俺が動きを止めたのに気づいた星露も興味深そうに距離を取って俺たちを見る。
「ほう」
『綾斗!』
『・・・・・・ああ!任せたよセレス!』
『!ええ!任されたわ!』
セレスに星辰力を流し込んで流星闘技を放つ用意をする。
「ほほう」
『綾斗、何時でも放てるわよ』
『了解!』
「―――来い《叢雲》」
「往くぞ星露!」
両手で握ったセレスの柄を右下に構え、重心を落とす。セレスの刀身が伸び、黒紫の焔が刀身に纏わりつく。
「いくよ、セレス!」
『ええ!』
「『ハアアアアアアアアアアアッ!!』」
右下から振りかぶったセレスを思い切り、右斜め上から切りつける。
「ほう。これはなかなか・・・・・・じゃが!」
対する星露は流星闘技を手刀で対抗した。しばらくそのまま拮抗状態だったがやがて。
「っ!」
『なっ!』
「ほほう!」
俺とセレスの流星闘技が星露に負け、セレスの刀身が元の大きさに戻った。俺とセレスが呆然としているなか、星露は楽しげに笑って。
「ほっほっ!今のはなかなか良い一撃じゃったぞ《叢雲》!ますます、お主がほしくなったのお」
面白かったように言った。
「む、無傷・・・・・・」
「む?いや、無傷ではないぞ《叢雲》。ほれ、ここを見い」
星露の見せた界龍の制服の裾には焦げ付いたような痕が残っていた。
「まさか妾に傷を負わせるとはの。やはり、主はあの二人同様良い原石じゃ。磨けばさらに輝くの。それこそダイヤのようにの」
「星露・・・・・・」
「ほっほっ。どれ、少し動くでない」
そう言って近づいてきた星露は。
「ほれ」
俺の背中を数ヶ所突付くと離れていった。
星露が離れていくと、俺は体が軽い気分になった。
「主に点穴を撃ったのじゃ。今日は準決勝なのじゃろう?妾の都合で主に体力を使わせてしまったからの。そのお詫びじゃ」
「あ、ありがとう」
「構わぬ構わぬ。妾も十分楽しめたしの」
朗らかに笑う星露の表情はとても楽しそうだった。まるで面白いおもちゃを見つけたかのような。
「《叢雲》。お主は強くなりたいのじゃな?」
「っ!ああ」
「なら、週に一度お主に稽古をつけてやろう。もちろん、実践形式での」
「稽古・・・・・・」
「《孤毒の魔女》も連れてくると良い。もっとも、来るかどうかはお主次第じゃ」
「ちょ、ちょっと待って!なんで他学園の俺に稽古を」
「む?なんでかと言われると・・・・・・そうじゃの・・・・・・妾は主のようは強き者がみたいのじゃ。ここには磨けば最高に輝く者が多いからの」
そう言う星露の顔は、ただひたすら強者を求める者の顔だった。その表情に俺はどこか得体の知れない寒気が走った。
「さて、そろそろ妾は失礼するぞ《叢雲》よ。妾になにか用事があるのならここに掛けてくるがよい」
「えっ、て、星露!?」
「ではの」
俺に自分の連絡先を書いた紙を渡して星露は昨日と同じように消えて去っていった。
後に残った俺は家に帰り、準決勝の準備をして会場であるシリウスドームへと向かった。ちなみに、俺が星露と戦っていたことがオーフェリアとシルヴィにバレ・・・・・・・・・まあ、その、色々とあったのだった。