鉄血の旧式人形   作:夜刃
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ボロボロの人形

 鈍色の輝きが宙を舞う。金属質な輝きを放つ五本の爪が、銃を持った少女――の形をした戦術人形へと迫る。

 

「きゃっ!?」

 

 見るも無残な姿へと形を変えた銃が落下し、それを掬い上げるように蛇腹状の剣のようなものが伸び、銃であった残骸を回収する。

 

「しまっ」

「回収は諦めて、ここは退くよ!」

 

 発煙手榴弾の煙幕に紛れ、五人の戦術人形が撤退していく。襤褸切れを合わせたようなマントを頭まで纏うナニカは、五人の足音が消えるのを確認し、動き出す。内部骨格剥き出しの腕で少女たちがばら撒いた弾丸――の、薬莢を回収し、同じく襤褸切れを継ぎ接ぎして作られた袋へと放り込む。発煙手榴弾の残骸を回収したソレは、人影のないゴーストタウンの奥へと消えた。

 

 ―――そんなゴーストタウンの半ば程にある、ごく平凡な一軒家の中。四人の少女が息を潜め、棒の先に着いた鏡を使いながら『ソレ』の動向を監視していた。

 

「………やっぱり、不意打ちから体勢を立て直す前に一気にカタをつけるスタイルね」

「単独なら勝ち目はありそうだけど………」

 

 明るい茶髪をツインテールに纏めた少女――UMP9が鏡を傾ける。その先には、厳しい四本足の大型人形――マンティコアと呼ばれる重装甲人形に、アサルトライフルを装備した鉄血人形の上半身が飲み込まれたような歪な機体が映っている。その頭部が動く兆候を見せると同時に、9は鏡を下ろし、四人揃って息を潜めた。

 

「危ない危ない………あと少し引っ込めるのが遅れたら見つかってたかも」

「重装甲相手は想定してなかったから、圧倒的に火力が足りないわね………ダミーリンクはどう?私のは全部丁寧にこの街から放り出されてる。武器も壊されてるから、交戦は無理そう」

「416に同じく………あの鳥っぽいの、すばしっこい上に硬かった」

 

 HK416の報告に続き、G11が自身のダミーリンクが交戦不可能な状態であることと、自身が遭遇した敵人形に関する報告を行う。それらに9と自身の状況を加え、リーダーであるUMP45は素早く決断した。

 

「………流石に四人でこれ以上の探索は無理ね。一旦引き揚げましょう。少なくとも、≪ファントム≫自体はあまり強くなさそうとわかっただけで儲けものよ」

 

 先程の戦い方は、強い人形がするようなものではない。何より、9の持つ鏡越しに動きを見ていた45は、その動きが素人の物であると見抜いていた。

 

「本部に報告ね。各自、ちゃんとダミーリンクは回収しておいてね」

 

 四人は立ち上がり、四方八方と上を警戒しながら一軒家を出て、一目散に街の外へと走る。途中、不運にも歪な鳥のような未知の大型人形に発見されたものの、攻撃には移らず延々警戒されるのみで、四人は無事街の外へと脱出に成功した。

 

「………」

 

 そして、青みがかった銀色の髪を揺らす少女が、とある民家の屋根から双眼鏡でそれを見届けた。屋根の一角から室内へと伸びる梯子を慎重に降りると、静かにその民家を抜け、小さな工場のような建物へと踏み込んだ。

 

「入って来てた人たち、みんな帰ったよ」

「」

 

 鋭利な金属製の爪を取り外していたナニカは、襤褸切れを継ぎ合わせたマントを脱ぎ、少女へと振り返る。その姿は、大抵の人間が見れば悲鳴を上げてしまうであろう程に凄惨だった。

 人形の表面を覆う外皮は殆どが剥がれ、内部の金属質の骨格が剥き出しになっている。それは顔も同じで、右目とその周り、くすんだ黒髪を含めほんの数カ所のみがかつて人間に近い姿をしていた名残を残し、胴体に関しては殆ど生体部品が残っていない有様だ。

 

「」

 

 センサー剥き出しの左目に灯っていた赤い光が弱まる。微笑むように右目を細め、まばらな外皮に覆われた顎を動かす。が、その喉にあるべき発声装置は壊れてしまっており、少女に言葉を伝えることは叶わない。

 

「………私は、大丈夫だから」

 

 少女もまた、『彼』と同じ自律人形だ。違う点があるとすれば、無残な姿を晒す彼以上に凄惨な目に遭っていた、という点か。首に残った痛々しい傷跡のみならず、服の下の数え切れないほどの大小様々な傷跡がその証拠か。

 

「だから、早く喉を直して………また、お話を聞かせて」

 

 静かに微笑む彼女に、彼は何かを伝えようとしても、それは意味のある音になってくれない。

 彼は、自身が稼働するのに必要最低限の物資以外は、殆どを彼女か街の見回りを行う人形へと割り当てている上に、人形の侵入の減少に伴い獲得可能資材も減少。更に、電力を賄っていた自家発電機の故障に伴い、彼本来の装備が機能を停止していて、修繕すら行えないのだ。

 

「」

 

 それを誤魔化すように、彼は彼女の頭を撫でた。柔らかさとは無縁な、所々歪み、錆びかけている掌ではあるが、少女は嬉しそうに目を細め、それを受け入れた。

 

 

 

 それから数週間したある日。一人の女性がデータと睨めっこをしながら、一人唸っていた。

 S09地区のとあるセーフハウスから転送されたデータを解析していると、中から興味深いものを発見したのだ。

 

「≪創造者(クリエイター)≫………数年前に鉄血が開発して、AIが発達し過ぎたせいで脱走した人形………」

 

 カタログ通りであれば、その人形自体のスペックは恐ろしく低い。それこそ、鉄血の量産人形より多少強い程度でしかなく、グリフィンの戦術人形であれば練度次第で容易く勝利も可能だろう。問題は、ソレが持ち出した装備の方にあった。

 

「製造、改造、修繕、何でもござれのミニファクトリー………後方支援型にしたって極端が過ぎるんじゃないの?」

 

 人形の外観は、腰まで届く黒髪に可愛らしい顔立ちの平均的な背丈の青年といった風貌。対して、その装備は鉄血の中でも大型に分類されるマンティコアのような人形にも匹敵するサイズとされている。

 

「改造まで可能………?………まさか、≪ファントム≫は………」

 

 その正体の可能性へと辿り着いた彼女が呟きを漏らしたのと同刻。S09地区での交戦から辛くも逃げ延びたM4A1は、気付けば一つの街を目前にしていた。鉄血人形に酷似した謎の人形たちが住まう街とされるそこに踏み込んだ者は、鉄血だろうとグリフィンだろうと関係なく攻撃される。

 仮に街の外へと叩き出されれば、ただでは済まないだろう。だが運の悪いことに、最寄りの司令部へと向かうにはこの街を通り抜けるのが最短ルートなのだ。どう転んでもハイリスクであると結論付けたM4は、意を決してその街へと踏み込んだ。








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