ひねくれ者の大エース   作:鈴見悠晴

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第一話 プロローグ

ある日、ある少年はテレビで偶然見た青いユニフォームの鉄壁の内野の守備に衝撃を受けた。数年後には世代交代に失敗し厳しい時代に突入するチームだが、それはさておき黄金期の輝きに彼は魅入られたのだ。

その子供は青いユニフォームに身を包んだ鉄壁の内野陣のそれも二遊間にあこがれて近くの野球チームに入った。

名前は水木雄大のちにミスターゼロの異名をとる投手の初期衝動は実は投手ではなかったのだ。

彼には幸運にも内野でもある程度の才能はあったらしく、4年生の時にはショートのレギュラーを任されていた。そして自分がショートとしてプレイし始めてあこがれた選手がどれほどすごいのかが分かった。

それでも変わらずその背中を追いかけていると中学では1年生からレギュラーを任された。それと同時にライバルを得た。それが岩崎実という男だった。未来のメジャーの三冠王にしてヤンキースの主砲となるこの男は守備の人だった自分にバッティングというものを教え、競いながら成長していった。

そんな彼らの転機は中二の秋、新チームのキャプテンと副キャプテンになった時の顧問の一言だった。

「あなた達はポジションを変更して、二人でバッテリーを組んでもらいます」

後のミスターゼロはこうして投手になったのです。

 

最初に感じたのは右肘の痛み、いや、痛みというほどのモノでもなかった。ただの違和感、なんとなく何かがいつもと違う感覚を嫌い、それをかばい、上がる調子に任せ、投げ抜き、勝ち続けた結果気づけばいつの間にか全中の決勝が目前まで来ていた。

肘の痛みを隠し、肩にまで来た痛みを隠し、試合当日の朝には直ることを祈る前夜。布団の中で思考は眠気とともに自然と意識の外に飛んでいく。

中学3年の夏は野球人にとって痛みを抱えて投げるほどのモノかどうか。ほとんどの連中にとっては大事をとって休むんだろう、俺もそうするつもり満々だった、ついさっきまでは。

 

「優大、頑張ってね。応援してるから」

 

初恋の相手にそんなことをいわれて頑張らない男がいるだろうか。まぁ、彼氏がいるから望みはないんだが……それでも全力を尽くす理由には十分だろう。

ちなみにその彼氏さんの言葉は

「おまえが投げて、後は俺が打つそれで俺たちが日本一だ」

うちの4番、関西ナンバーワンの呼び声も高いバッターでライバルで、親友だ。今ややこしい関係だって思っただろ、そんなどっかで聞いたことのあるような三角関係興味ないって思ったろ。俺も人ごとだったらそう言うよ。でも本人はそんなこと言ってられない、それに幼なじみとしての中学最後の思い出に全国制覇、上出来だろ。

 

 

なんて昨日の夜は思ってたが、そんな冗談言ってられそうな余裕ないな。

炎天下の夏、グラウンドで一番高い場所、これまで感じたことがないレベルの痛み。

「厳しい試合になりそうだな」

痛みを感じ始めた頃からの癖、右肩をグラブでなでるように、押さえつけるようにそっと触る。

「調子悪いのか」

からかうような表情を浮かべながらキャッチャーとしてマウンドに打ち合わせをしに来たライバルに悟られぬよう帽子を深くかぶる。

「いや、史上最高のできだね……キャッチャーとして最後の試合だろ、後逸するなよ」

そうこのライバル高校ではサードに戻るのだ。まぁキャッチングもリードも微妙、しかしバッティングは超一流。これをそのままキャッチャーなんて本人の願望でもない限りないだろう。

いつものように余裕一杯の言葉に安心したのか笑みを深くした岩崎はボロボロになったキャッチャーミットで肩を軽くたいた。

「それも記念、だろ」

笑いながら軽口をたたく岩崎を見送る水木の顔は痛みに歪んでいた。

(痛えな、それでもやるしかないか)

 

深く沈み込み、腕を真上からたたきつけるようなフォーム、きれいなスピンがかかったストレートが糸を引くようにキャッチャーミットに吸い込まれていく。

痛みの割に調子がいいのが腹が立つぜ。……ほんと打たれる気がしねえよ、ほんとこれまでで一番調子がいいんだ。

 

キャッチャーミットから出る主張の強い破裂音が九度響く、一回を三者三球三振。バットにかすらせることすらなく攻守が変わる。

この投球答えるようにに目の前で一番と二番がチャンスを作ってくれていた。しかし、激化する痛みに耐えているこの状況ではバッティングはできず、三番バッターとして、野球人生で初めて打つ気なくバッターボックスに入り、一度もバットを振ることなくアウトになる。

「どうした、一回もバット振らないって」

「俺らしくないか、おまえが打って俺が抑えるそれで優勝だろ……ピッチングに集中させてくれ今日だけは」

「ほんとにおまえらしくないな」

「……おまえとバッテリー組むのは最後だからな、最高のピッチングするって決めてんだよ。援護は任せた」

ベンチの監督に頭を下げ、入ろうとしたとき背後から金属音がした。

白球は簡単に柵を超え相棒はゆっくりとダイヤモンドを回っていた。

「女房役として、おまえに援護をやれるのが最後ならいらないっていうまでくれてやる」

「できすぎだよ、俺の女房役には」

喜びを示すハイタッチにすら痛みを感じていた。

 

さて、援護が聞いたのか、感覚がなくなってきたのか、脳内麻薬が出てきたのか痛みが引いていく。

親父の本棚の真ん中にあったスラムダンクのキャラみたいにキャッチャーミットから聞こえる破裂音で蘇り調子を上げ続けていた。色のないスイング音と、鳴り響く破裂音、まばゆい光を放ち、輝きを増すエースは限界なんて感じさせずに、尻上がりに上がっていく調子に身を任せ、感じなくなった痛みで抑えられると確信していたのだが、

9回ツーアウトツーストライクワンボールからのこの試合最後の一球。突然戻ってきた肘の痛みからカーブがすっぽ抜け、ただの高めの抜け球になった。

あまりの抜け球に意表を突かれたバッターが手を出せず見逃し三振。意表を突いたボールで最後の三振を奪いノーヒットノーランを決めるもその代償は大きかった。

何かが崩れていく音が聞こえた気がした。

駆け寄ってくるチームメイトに反応する気力もわかない、痛みを表に出さないようにするので精一杯。そんな中走り寄ってくる連中が満面の笑みを浮かべているのだけはよく覚えている、もうろうとした意識の中感じる激しい痛みに少しだけ意識を手放した。

 

気づけばベッドの中、右手にはギブスがまかれていた。

「全くいい根性してますよ。結局誰にも気づかせなかったんですから。全治三ヶ月の絶対安静、もちろんピッチングも禁止ですよ」

きつく香る消毒液の匂いの中、病室の角でベンチと同じように監督が立っていた。

「監督、何してるんですかそんなとこで」

「逃げてきたんですよ、君が無茶をするモノですから、方々からお怒りの電話が一杯、君の推薦もなくなるかもしれませんよ」

怒っているのかと思いきや意外と落ち着いた表情、しかしその眼には激しい自責の念がこもっていた。この怪我に最後まで気づけなかった自分を責めているのだろう。

ただその感情にあえて気づかないふりをしながら話を続ける。

「かまいませんよ、桐生に行くつもりはありませんから。……そうですね、関東の方に行こうかなと思ってます」

監督は後ろで組んでいた手を前で組み直し、少し考えてから

「なるほど、それなら知り合いがいますからそこに紹介しておきましょう。しかし本当にいいんですね岩崎君たちと別の高校で」

「別がいいんです」

監督は一度も目線を外さなかった

「なるほど、なるほど。一人知り合いに東京で監督をしている人がいますからその人に紹介しておきましょう。彼も女房役の頼みぐらい聞いてくれるでしょう。……しかし三ヶ月、意外と長いですよ」

 

「たった三か月ですよ」

そう三ヶ月、しかし、リハビリを考えると約半年彼はボールを投げられなかった。その時間は人が変わるには十分な時間だった。

 

全中決勝でノーヒットノーランを成し遂げたバカなピッチャーの名前は忘れ去られ、同じチームで関西ナンバーワンと呼ばれていたバッターは国際大会決勝で三打席連続ホームランを成し遂げ日本の怪物という異名を手にし甲子園常連校大阪桐生の四番バッターの座を確約されていた。

 

 




読んでいただきありがとうございます。
頑張って週一を目指すので感想お待ちしています。


中日、松坂なかなかよかったですね。
今年は若手が頑張り切れなかった感じでもうひと伸びしてほしいところですね。
来年以降はベテランの多くが引退して浅尾や岩瀬、荒木もいないのでなかなか苦しい戦いになりそうですね……
ちなみに軽くネタバレすると浅尾からの岩瀬の投手交代に涙腺崩壊した作者はあのシーンにインスピレーションを受けたシーンを描きます。(確信)
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