ひねくれ者の大エース   作:鈴見悠晴

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覇権をかけた戦い3

高校生活というのは三年間という限られた期間しかない。高校野球の世界で三年間という限られた時間で一からチームを作り上げ全国レベルまで引き上げるのは簡単ではない。

世代交代に失敗し、圧倒的な力で甲子園を制覇した高校が翌年甲子園の予選であっけなく敗れることも珍しくない。

そうならないために多くの高校が良い選手を連れてくることに全力を尽くす。

そこで重要になってくるのはスカウトの一貫性である。

とある強豪高校では一番良い投手と、ショートを合計10人スカウトするというマニュアルがあるように漠然と良い選手、というのではなく。今の一年を見て彼らが三年になったとき、どんな選手が必要なのかを想定してスカウトを行う、投手陣に不安があるから良さそうな投手に声をかける。チームの先導となる監督のオーダーに答える選手を探し出すことを求められる。

 

しかし稲代実業では監督の交代があった。そのあおりを受けたのが今の稲実の主力であり、北野もその世代だった。

監督と一緒に入ってきた選手たちは明らかに頭一つ抜けていて、来年には彼らが主力のチームになることが容易く想像できた。自分たちの世代が外れ、不作の世代とささやかれ来年以降のことを考えて彼らを軸にしたチームで今年は経験を積ませるべきだという声も聞いた。

それでも監督は三年生主体のチームを作り、全員を前にしてこう言った。

「私は敗北を前提でチームを率いるつもりはない。おまえたちがどういう風に思っていて、どういう風に言われているのかも知っている。私は甲子園を目指す、おまえたちが甲子園を本気で目指すなら明日からも練習に出てこい。諦めているなら出てこなくて良い」

挑発的に言い放たれたその言葉は傷ついたプライドを刺激した。

名将国友のモチベーターとしての側面。その厳しい言葉で数名の選手が次の日から練習に来なくなった。

それでもその言葉への反発心から練習により一層励む選手もいた。今そんな彼らがレギュラーとして戦っている。彼らの先頭に立って全員を引っ張っていったのが北野だった。

そんな彼らにとってポーカーフェイスで戦う姿は違和感を感じさせ、今投げていた闘志あふれる姿は練習中に見せる普段道理の姿だった。苦しむ姿を見てきた、一緒に努力してきた、そんな彼がからを破り戦う姿は彼らを波に乗せて、そして自信満々に投げる市大の天久は昔の北野を思い出させた。

自信満々にマウンドの上に立ち、不敵な笑みを浮かべて投げ込む姿は折れる前の彼そっくりだった。

 

そんな天才、天久光聖にとって今この試合の行方など、どうでもよかった。自分の投球に強豪校の打者がついてこれていない、この現実が与える快感。アウト一つとるごとに上がる歓声。全てが彼の背中を押していた。

 

ベンチに座り込み、天久の投球をただ見つめることしかできなかった真中は知らずのうちにこうつぶやいた。

「これはかなわない」

見て悟ってしまった、モノが違うと。

俺が一年間必死に練習してきて、高校野球に対応し、その中で戦い自分の武器を必死に磨いてきたつもりだった。その一年間を上書きされていくのをただ見守ることしかできない。自分に猛烈に腹が立った。彼の心の中に何か黒いモノがまとわりついていた。

 

稲実の仲間たちは相手の一年生投手を、まるで昔のおまえのようだと言った。あの自信も、不敵な笑みもおまえがしてたモノそっくりだと。しかし、北野にとってそんなことはどうでもよかった。彼にとっての過去の自分とは、先輩たちの夢を終わらせた大馬鹿者で、何度殺してやりたいと思ったかわからない相手だ。この試合が始まる前までは、味方が何とかして点をとってくれるまで、彼にとってこの試合は去年の贖罪だったのだから。

それでも今は違う。今の彼は仲間を連れて行きたい。仲間を甲子園に連れて行きたい。罪悪感から逃れるためにしていた練習ではなく、甲子園に行くために練習し、その背中で仲間を引っ張りたいと、その自分勝手なエゴイズムが彼をエースにしていた。

 

この試合はすさまじい投手戦を繰り広げ、最終的にスコアが動くことはなかった。

最終スコア二対一稲代実業が次に駒を進めた。

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