ひねくれ者の大エース   作:鈴見悠晴

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夏の終わり 2

強まる雨脚、マウンド上の土が水を吸い軟らかくなってくる。

北野が二回の裏を東の一発だけで抑えた後には本降り一歩手前の状態だった。

ボールもぬれてロジンもすぐに流されてしまう。今川の投球の間が大きくなってくる。重心が低いところから投げるアンダースローの投手は足下の変化を受けやすい、そのため足下を踏みしめて少しでも安定させようとしていた。

しかし、そんな状況で抑えられるはずもなくランナーを二塁においてしまう。

 

マウンド上に集まる青道内野陣。

「心配すんなや、何点取られても取り返したるがな」

豪快に笑う上機嫌な東に

「そうだなぁ、おまえがきれいに抑えてくれると思ってるやつなんていないんじゃない。ねぇ亮」

普段道理の姿で笑う長峰

「まぁ、そうかもですね」

苦笑いを浮かべる小湊

「大丈夫です、次こそは打って見せますから」

リベンジを誓う結城に彼らを見て笑みを浮かべるクリス

「失点してもいいんだろ。さっさと帰れよ、おまえら」

マウンド上で騒がしい彼らに眉間にしわを寄せる今川。

 

全員を追い払った今川はその後二人の打者をきれいに抑えたが、稲実の一番打者に技ありのタイムリーヒットを打たれて同点に追いつかれた。

「ほんまにとられるおもわんかったわ」

バシッ

「同感」

バシッ

「うるさいなぁ、ボールが滑ったんだよ。まだ同点だろ、騒ぐなよ」

三年生トリオがしばきあっていた。

その一方で

「さぁ、行きますか」

強くグローブをたたきマウンド上に向かう北野、そしてその後ろから

「北野さん……そんな俺のリードは頼りないですか」

深刻な顔をしたキャッチャー原田が立っていた。原田はこの状況に責任を感じていた。東のホームランも自分が原因だと考えていた。もし自分が間をとっていたら、もし、もし、多くのIFが頭の中をよぎる中これまで踏み出させなかった一歩を踏み出させた。

「…俺は……どうすれば良いんですか」

今の稲実の二年生にとって北野は恐ろしい存在だった。練習中はまるで修羅か何かのように吠えて、怒鳴っているくせに、試合中になると誰よりも静かに感情を見せることすらなく淡々と投球を続ける。本当に同一人物かと思いたくなる光景を前に原田はこれまでコミュニケーションを避けてきていた。

「面白くないかな、せっかくこんな相手と戦えるんだ。もっとわくわくさせてくれよ」

目の前にいる男はこれまでの原田の印象とは大きく違っていた。確かに一年前の敗北よりも前は気迫を全面に押し出す投手だったがこんな雰囲気は放っていなかった。

今目の前にいるこの男はこの大事な試合中に、チームメンバー全員の夏を任されている状況で()()()()()()()()

 

原田の背中を何かが走って行った。きっと目の前の男を俺は生涯理解できないだろう。なんとなくそう思った、それと同時にかっこいいとも、この場面を楽しめることに少しだけ憧れを、それでも言うべきことを……

「俺のリードに従ってください。北野さんの実力を生かしたリードをして見せます」

強く、意思を込めて強く要求する。少しだけ驚いた顔をする北野さんが印象的だった。

「お前そんな顔もできたんだな。いいよ、せいぜいうまく俺を使えよ」

北野さんがグローブを掲げた。何かわからず一瞬固まる。

「早く。ミット」

言われるがままにミットを出せば

トンッ

初めてだった。マウンド上で感情を見せる人ではなかったし、何か言ってくれる人でもなかった。それでもこの人はきっと元々こういう人なんだろう。

この回から北野の投球、リードが変わった。甘いところなんて全く来ない。きわどいコース、きわどいボール自由自在に変化する投球に青道の打者は全く対応できなかった。

青道が抑えられるのに対して稲実は確実に今川を攻略し、何より天候に味方されていた。

『デッドボール!!』

二人連続での死球だった。増やされた球数と雨でのスリップが味方した。

前のイニングから続くいやな流れ、それはとどまることを知らず。

ピカッ

雷が光った。

審判が中断を告げる。

ベンチに選手たちが向かい、球場の環境を守るためにシートなどがかけられていく。

「大丈夫ですか、今川さん」

タオルを用意し真っ先に駆け寄った丹波の顔からは心配の色があふれていた。彼にとってみればこの状況はつらいとしかいえないモノだった。一向に降り止む気配を見せない雨に、ぬかるんだマウンド、確実に粘ってくる打者に、こんな大舞台。こんな状況で自分と似たような乱調癖のある先輩が必死に投げているのは見ていて自分のことのように感じていた。

「駄目だ、あんなマウンドでまともに投げられるか」

今川の左手の甲からは血が流れていた。

「足が滑ってこすっちまった。ちょっと着替えてくるわ」

裏に向かい替えのシャツに着替えに行った今川のズボンには血がついていた。

 

数十分後、雨は上がるがグラウンド状況は最悪の一言だった。そして悲劇が起きる。

復帰初球だった。今川の投げられたボールはインコースに、振り抜かれたバットと衝突し三遊間に飛ぶ。深いところだが長峰の守備範囲、攻めた守備をする長峰はボールをつかみセカンドへ投げようとした。

その送球はあらぬ方向に飛んでいた。

原因は探せばいくらでも出てくるだろう。それでも守備では絶対的な存在だった長峰の守備でのエラー、それも最悪のタイミング。

ファーストの結城がそのボールをつかんだときには打者は二塁を踏み、ファーストにいたランナーはホームに滑り込んでいた。

「あー、焦げ臭くなってきたな」

今川だけが一人冷静に状況を見て、苦笑いを浮かべながらつぶやいた。

 

四回の表、ランナー二塁。三対一で稲実二点リード。

 

 

 

次回予告 

 

開いた点差、最悪の環境、一人冷静なエース。

彼はここから持ち直すことができるのか、青道は勝利をつかむことができるのか、両校のエースのオリキャラを気に入ってしまった作者から主人公は出番をもぎ取れるか

 

「お前らならできるだろ」

 

「あいつ……ドSかよ」

 

「うちの奴らは強いだろ、やっかいだろ、俺の自慢の仲間なんだよ。そいつら相手にしてんだ、疲れも並じゃないだろ、休みたいだろ、楽したいだろ。だったら、ここだよ、ここしかないよなぁ!!!」

 

次回 勝負師と勝負所

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